JP3949870B2 - 等速自在継手 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車や各種産業機械等の動力伝達装置に使用される等速自在継手に関し、特にトリポード型等速自在継手に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
例えば、自動車のエンジンから車輪に回転動力を伝達する動力伝達装置の一要素として(ドライブシャフトやプロペラシャフトの連結用継手として)、トリポード型等速自在継手が用いられている。
【0003】
トリポード型等速自在継手は、一般に、内周部に3つのトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外側継手部材と、半径方向に突出した3つの脚軸を有し、各脚軸にそれぞれローラを回転自在に配設したトリポード部材とを主体として構成される。トリポード部材の脚軸と外側継手部材のローラ案内面とがローラを介して回転方向に係合することにより、駆動側から従動側に回転トルクが等速で伝達される。また、各ローラが脚軸に対して回転しながらローラ案内面上を転動することにより、外側継手部材とトリポード部材との間の相対的な軸方向変位や角度変位が吸収されると同時に、外側継手部材とトリポード部材とが作動角を取りつつ回転トルクを伝達する際の、回転方向位相の変化に伴う、各脚軸のローラ案内面に対する軸方向変位が吸収される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
この種の等速自在継手の振動特性に関係する因子として誘起スラスト力とスライド抵抗力がある。誘起スラスト力は、等速自在継手が作動角を取りつつ回転トルクを伝達する際に、内部部品相互間の摩擦によって発生する周期的な変動力である。すなわち、回転動作に伴って、トリポード部材の各脚軸およびローラは必然的にローラ案内面に対する相対的な軸方向往復移動を繰り返し、その際に、ローラとローラ案内面との間、ローラと脚軸との間などに摩擦が発生し、この摩擦が誘起スラスト力の発生原因になる。このように、誘起スラスト力は等速自在継手の内部構造と回転動作に関係して不可避的に発生する継手固有の変動力で、トリポード型等速自在継手の場合、脚軸およびローラの数が3つであることに起因して、3次の変動成分(回転3次成分)が主体となる。一方、スライド抵抗力は、等速自在継手にトルクが負荷された状態で外部振動が入力された時に、内部部品相互間の摩擦によって発生する周期的な変動力であり、言い換えれば、等速自在継手の振動伝達特性を表すものである。
【0005】
自動車の動力伝達装置において、等速自在継手の誘起スラスト力やスライド抵抗力を要因として発生する振動は、エンジンの振動等に比較してレベル的にはかなり小さく、それ自体では特に問題になるものではない。しかしながら、それらの周波数がエンジンの振動等の周波数と接近してくると、共鳴現象が起こり、誘起スラスト力の場合では発進時や加速時の車体横揺れ、こもり音やビート音などの発生原因となり、スライド抵抗力の場合ではアイドリング振動などの増大原因となる(特にDレンジアイドル振動に影響する)。従って、等速自在継手の誘起スラスト力やスライド抵抗力は自動車のNVH特性に大きく影響し、特に誘起スラスト力は近時の継手常用角(車両搭載角)の高角化、高トルク化に伴って、NVH特性に対する影響度合いが益々高くなる傾向にある。そして、このことを車両設計の面から見れば、等速自在継手の誘起スラスト力やスライド抵抗力の値が、動力伝達系のレイアウト設計に対してより大きな制約条件になってくる。
【0006】
そこで、本発明は、等速自在継手の誘起スラスト力やスライド抵抗力を規制することにより、動力伝達系のレイアウト設計に対する制約条件を緩和すると共に、低振動でかつ品質面での信頼性の高い等速自在継手を提供しようとするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明は、内周部に3つのトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外側継手部材と、半径方向に突出した3つの脚軸を有するトリポード部材と、トリポード部材の各脚軸にそれぞれ配設され、ローラ案内面に案内されるローラと、ローラを脚軸に対して首振り揺動自在とするローラ機構とを備えた等速自在継手において、ローラ機構が、上記ローラと、脚軸の外周面に外嵌されて上記ローラを回転自在に支持する支持リングとを有し、支持リングの内周面は円弧状凸断面であり、脚軸の外周面は縦断面においてはストレート形状で、横断面においては継手の軸線と直交する方向で支持リングの内周面と接触し、かつ、継手の軸線方向で支持リングの内周面との間にすきまを形成するようになっており、誘起スラスト力およびスライド抵抗力のうち少なくとも一方が規定値内に規制されている構成を提供する。これにより、等速自在継手の誘起スラスト力および(又は)スライド抵抗力に関する信頼性が高まるので、動力伝達系のレイアウト設計に対する制約条件が緩和され、設計自由度が向上する。また、等速自在継手の車両搭載性も向上する。さらに、等速自在継手の振動特性に関する信頼性が高まるので、自動車のNVH特性の安定化に寄与する。
【0008】
具体的には、回転数R=100〜500(rpm)、作動角θ=0〜14(deg)を共通条件として、負荷トルクT=0.1×Ts(N・m){条件(X1)}での誘起スラスト力の回転3次成分を30N(RMS)以下、好ましくは20N(RMS)以下に規制し、負荷トルクT=0.2×Ts(N・m){条件(X2)}での誘起スラスト力の回転3次成分を55N(RMS)以下、好ましくは35N(RMS)以下に規制し、負荷トルクT=0.3×Ts(N・m){条件(X3)}での誘起スラスト力の回転3次成分を80N(RMS)以下、好ましくは55N(RMS)以下に規制することができる。これにより、上記効果に加え、低振動でかつ品質面での信頼性の高い等速自在継手を提供することが可能となる。また、自動車のNVH特性の向上に寄与する。
【0009】
また、回転数R=0(rpm)、作動角θ=0〜10(deg)、負荷トルクT=98〜196(N・m)、加振周波数f=15〜40(Hz)を共通条件として、加振振幅=±0.01〜±0.03(mm){条件(Y1)}でのスライド抵抗力を40N(peak to peak)以下に規制し、加振振幅=±0.05〜±0.08(mm){条件(Y2)}でのスライド抵抗力を60N(peak to peak)以下に規制し、加振振幅=±0.10〜±0.25(mm){条件(Y3)}でのスライド抵抗力を80N(peak to peak)以下に規制することができる。これにより、上記効果に加え、低振動でかつ品質面での信頼性の高い等速自在継手を提供することが可能となる。また、自動車のNVH特性の向上に寄与する。
【0010】
また、ローラ及び支持リングを含むローラアッセンブリが、脚軸に対して、ユニットとして首振り揺動する。ここで、首振揺動とは、脚軸の軸線を含む平面内で、脚軸の軸線に対して支持リングおよびローラの軸線が傾くことをいう。
【0011】
脚軸の横断面形状について、継手の軸線と直交する方向で支持リングの内周面と接触するとともに継手の軸線方向で支持リングの内周面との間にすきまを形成するような形状とは、言い換えれば、トリポード部材の軸方向で互いに向き合った面部分が相互方向に、つまり、仮想円筒面よりも小径側に退避している形状を意味する。その一つの具体例として略楕円形が挙げられる。「略楕円形」には、字義どおりの楕円形の他、一般に卵形、小判形等と称される形状も含まれる。
【0012】
従来円形であった脚軸の断面形状を上記の形状としたことにより、継手が作動角をとったとき、ローラアセンブリの姿勢を変えることなく、脚軸が外側継手部材に対して傾くことができる。しかも、脚軸の外周面と支持リングとの接触楕円が従来の横長から点に近づくため(図1(C)参照)、ローラアセンブリを傾けようとする摩擦モーメントが低減する。従って、ローラアセンブリの姿勢が常に安定し、ローラがローラ案内面と平行に保持されるため円滑に転動することができる。これにより、誘起スラスト力およびスライド抵抗力が低減し、かつ、それらの値のバラツキ範囲も小さくなる。そのため、この構成の等速自在継手では、誘起スラスト力やスライド抵抗力の規定値を上述のように小さく設定することができ、しかも、規定値内に精度良く規制することが可能である。その結果、低振動特性を有する等速自在継手として、高い信頼性が得られる。
【0013】
なお、ローラアセンブリは脚軸と外側継手部材との間に介在してトルクを伝達する役割を果たすものであるが、この種の等速自在継手におけるトルクの伝達方向は常に継手の軸線に直交する方向であるため、当該トルクの伝達方向において脚軸と支持リングとが接していることでトルクの伝達は可能であり、継手の軸線方向において両者間にすきまがあってもトルク伝達に支障を来すことはない。
【0014】
上記構成において、支持リングの内周面の母線を、中央部の円弧部と両端部の逃げ部とで構成することができる。円弧部の曲率半径は、2〜3°程度の脚軸の傾きを許容できる大きさとするのが好ましい。また、支持リングとローラの間に複数の転動体を配置して支持リングとローラを相対回転自在とすることができ、その転動体として、ニードルローラを用いることができる。さらに、ローラの外周面を球状(真球面又はトーラス面)に形成し、このローラの球状外周面を外側継手部材のローラ案内面とアンギュラコンタクトさせた構成とすることができる。ローラとローラ案内面とをアンギュラコンタクトさせることにより、ローラが振れにくくなってその姿勢が一層安定するため、ローラが外側継手部材の軸方向に移動する際にローラ案内面上をより少ない抵抗で円滑に転動する。かかるアンギュラコンタクトを実現するための具体的な構成として、ローラ案内面の断面形状をテーパ形状またはゴシックアーチ形状とすることが挙げられる。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0017】
図1および図2は、本発明の第1の実施の形態を示している。図1(A)は継手の横断面を示し、図1(B)は脚軸に垂直な断面を示し、図1(C)は支持リングの断面を示し、図2は作動角(θ)をとった状態の継手の縦断面を示している。
【0018】
図1に示すように、等速自在継手は外側継手部材10とトリポード部材20とを主体として構成され、連結すべき2軸の一方が外側継手部材10と連結され、他方がトリポード部材20と連結される。
【0019】
外側継手部材10は内周部に軸方向に延びる3つのトラック溝12を有する。各トラック溝12の円周方向で向かい合った側壁にそれぞれローラ案内面14が形成されている。トリポード部材20は半径方向に突設した3つの脚軸22を有し、各脚軸22にはローラ34が取り付けてあり、このローラ34が外側継手部材10のトラック溝12内に収容される。ローラ34の外周面34aはローラ案内面14に適合する凸曲面である。
【0020】
ここでは、ローラ34の外周面34aは脚軸22の軸線から半径方向に離れた位置に曲率中心を有する円弧を母線とする凸曲面であり、ローラ案内面14の断面形状はゴシックアーチ形状であって、これにより、ローラ34の外周面34aとローラ案内面14とがアンギュラコンタクトをなす。図1(A)に、2つの当たり位置を一点鎖線で示してある。球状のローラ外周面に対してローラ案内面14の断面形状をテーパ形状としても両者のアンギュラコンタクトが実現する。このようにローラ34の外周面34aとローラ案内面14とがアンギュラコンタクトをなす構成を採用することによって、ローラが振れにくくなるため姿勢が安定する。なお、アンギュラコンタクトを採用しない場合には、たとえば、ローラ案内面14を軸線が外側継手部材10の軸線と平行な円筒面の一部で構成し、その断面形状をローラ34の外周面34aの母線に対応する円弧とすることもできる。
【0021】
脚軸22の外周面22aに支持リング32が外嵌している。この支持リング32とローラ34とは複数のニードルローラ36を介してアッセンブリ(ユニット化)され、相対回転可能なローラアセンブリを構成している。すなわち、支持リング32の円筒形外周面を内側軌道面とし、ローラ34の円筒形内周面を外側軌道面として、これらの内外軌道面間にニードルローラ36が転動自在に介在する。図1(B)に示されるように、ニードルローラ36は、できるだけ多くのころを入れた、保持器のない、いわゆる総ころ状態で組み込まれている。符号33,35で示してあるのは、ニードルローラ36の抜け落ち止めのためにローラ34の内周面に形成した環状溝に装着した一対のワッシャである。
【0022】
脚軸22の外周面22aは、縦断面{図1(A)}で見ると脚軸22の軸線と平行なストレート形状であり、横断面{図1(B)}で見ると、長軸が継手の軸線に直交する楕円形状である。脚軸の断面形状は、トリポード部材20の軸方向で見た肉厚を減少させて略楕円状としてある。言い換えれば、脚軸の断面形状は、トリポード部材の軸方向で互いに向き合った面が相互方向に、つまり、仮想円筒面よりも小径側に退避している。
【0023】
支持リング32の内周面32cは円弧状凸断面を有する。すなわち、内周面32cの母線が半径rの凸円弧である{図1(C)}。このことと、脚軸22の断面形状が上述のように略楕円形状であり、脚軸22と支持リング32との間には所定のすきまが設けてあることから、支持リング32は脚軸22の軸方向での移動が可能であるばかりでなく、脚軸22に対して首振り揺動自在である。また、上述のとおり支持リング32とローラ34はニードルローラ36を介して相対回転自在にアッセンブリ(ユニット化)されているため、脚軸22に対し、支持リング32とローラ34がユニットとして首振り揺動可能な関係にある。ここで、首振りとは、脚軸22の軸線を含む平面内で、脚軸22の軸線に対して支持リング32およびローラ34の軸線が傾くことをいう(図2参照)。
【0024】
図1に示した実施の形態では、脚軸22の横断面が略楕円状で、支持リング32の内周面32cの横断面が円弧状凸断面であることから、図1(C)に破線で示すように、両者の接触楕円は点に近いものとなり、同時に面積も小さくなる。したがって、ローラアセンブリ(32、34、36)を傾かせようとする力が従来のものに比べると非常に低減し、ローラ34の姿勢の安定性が一層向上する。これにより、誘起スラスト力、さらにはスライド抵抗力が低減し、かつ、それらの値のバラツキ範囲も小さくなる。そのため、この実施形態の等速自在継手は、誘起スラスト力やスライド抵抗力の規定値を小さく設定することができ、しかも、規定値内に精度良く規制することが可能である。
【0025】
この実施形態では、条件(X1){回転数R=100〜500(rpm)、作動角θ=0〜14(deg)、負荷トルクT=0.1×Ts(N・m)}での誘起スラスト力の回転3次成分を20N(RMS)以下に規制している。これにより、この実施形態の等速自在継手は、誘起スラスト力が低くかつ安定し、優れた低振動特性と高い信頼性を備えたものとなる。図8は、後述する試験機(図7)により、この実施形態の等速自在継手の誘起スラスト力(回転3次成分)を測定した結果を示している。
【0026】
尚、この実施形態では、誘起スラスト力の回転3次成分を、条件(X1)で20N(RMS)以下に規制しているが、30N(RMS)以下に規制すれば良く、また、条件(X2){回転数R=100〜500(rpm)、作動角θ=0〜14(deg)、負荷トルクT=0.2×Ts(N・m)}で55N(RMS)以下、好ましくは35N(RMS)以下、条件(X3){回転数R=100〜500(rpm)、作動角θ=0〜14(deg)、負荷トルクT=0.3×Ts(N・m)}で80N(RMS)以下、好ましくは55N(RMS)以下に規制しても良い。さらに、条件(X1)、条件(X2)、条件(X3)での規制は重畳的に行っても良いし、上記何れか1つの条件での規制のみとしても良い。
【0027】
また、この実施形態では、上記の誘起スラスト力の規制に加え、条件(Y3){回転数R=0(rpm)、作動角θ=0〜10(deg)、負荷トルクT=98〜196(N・m)、加振周波数f=15〜40(Hz)、加振振幅=±0.10〜±0.25(mm)}でのスライド抵抗力を80N(peak to peak)以下に規制している。これにより、この実施形態の等速自在継手は、誘起スラスト力およびスライド抵抗力が低くかつ安定し、優れた低振動特性と高い信頼性を備えたものとなる。図9は、後述する試験機(図7)により、この実施形態の等速自在継手のスライド抵抗力を測定した結果を示している。
【0028】
ただし、スライド抵抗力は、条件(Y1){回転数R=0(rpm)、作動角θ=0〜10(deg)、負荷トルクT=98〜196(N・m)、加振周波数f=15〜40(Hz)、加振振幅=±0.01〜±0.03(mm)}で40N(peak to peak)以下、条件(Y2){回転数R=0(rpm)、作動角θ=0〜10(deg)、負荷トルクT=98〜196(N・m)、加振周波数f=15〜40(Hz)、加振振幅=±0.05〜±0.08(mm)}で60N(peak to peak)以下に規制しても良い。尚、加振振幅は、等速自在継手に入力される外部振動、例えばアイドリング振動等の振幅値を基準にして上記3つの条件の中から適切な条件を選択する。場合によっては、加振振幅の値として、上記3つの条件以外の値を採用することもあり得る。また、この実施形態では、誘起スラスト力とスライド抵抗力の双方を規制しているが、いずれか一方のみの規制としても良い。
【0029】
誘起スラスト力やスライド抵抗力の規制は、例えば、全数管理を行うことによって、あるいは、完成品ロットの中から所定数を所定頻度でサンプリングし、そのサンプリング品の誘起スラスト力やスライド抵抗力を測定し、その測定結果に基づいて、そのサンプリング品が属するロットを管理することによって行うことができる。
【0030】
図7は、誘起スラスト力やスライド抵抗力の測定に用いる動力循環式試験機の一部分を示している。同図において、上述した実施形態のトリポード型等速自在継手はA側に配置され(以下、「A側継手」という。)、これと対をなす固定型等速自在継手(例えばツェッパー型等速自在継手)がB側に配置される(以下、「B側継手」という。)。A側継手のトリポード部材とB側継手の内側継手部材とは中間軸を介して連結され、両継手に所定の作動角θが付与される。また、A側継手の外側継手部材はロードセルに接続され、B側継手の外側継手部材は油圧サーボに接続される。
【0031】
誘起スラスト力の測定時は、B側継手に所定の回転数Rおよび大きさをもった負荷トルクTを入力する。この負荷トルクTはB側継手から中間軸を介してA側継手に伝達され、これによりA側継手が入力回転数と等しい回転数で回転する。この時、A側継手の内部には誘起スラスト力が発生し、この誘起スラスト力がA側継手の外側継手部材を介してロードセルによって検出される。尚、誘起スラストの測定時、油圧サーボは作動しない。
【0032】
誘起スラスト力の測定は、例えば、所定の回転数R(=100〜500rpm)、負荷トルクT(=0.1×TsN・m、0.2×TsN・m、0.3×TsN・m)に対して、作動角θを4、6、8、10、12、14degと変え、各作動角毎に5分間測定することによって行う。そして、各測定条件における測定データを周波数分析し、得られた回転3次成分を誘起スラスト力の規制管理に用いる。
【0033】
一方、スライド抵抗力の測定時は、試験機の回転を止め、B側継手およびA側継手に所定の負荷トルクTをかけた状態で、油圧サーボを作動させて、B側継手に所定振幅の軸方向加振力を入力する。この軸方向加振力はB側継手から中間軸を介してA側継手のトリポード部材に伝達され、さらに内部のスライド抵抗力によってA側継手の外側継手部材に伝達される。従って、A側継手の外側継手部材はスライド抵抗力を起振力として振動し、この起振力(スライド抵抗力)がロードセルによって検出される。
【0034】
スライド抵抗力の測定は、例えば、所定の負荷トルクT(=98〜196N・m)、加振周波数f(=15〜40Hz)、加振振幅(±0.01〜±0.03mm、±0.05〜±0.08mm、±0.10〜±0.25mm)に対して、作動角θを6、8、10と変え、各作動角毎に1〜5分間測定することによって行う。そして、各測定条件における測定データ(波形)の正負ピーク値の絶対値を合計し(peak to peak)、得られた値をスライド抵抗力の規制管理に用いる。
【0035】
上記のサンプリング測定による規制管理に加え、誘起スラスト力やスライド抵抗力に関係する各部品の寸法・形状を個別的に規制管理する手段(例えば、トリポード部材の脚軸の外周面、ローラの接触面、支持リングの接触面、ニードルローラの接触面、外側継手部材のローラ案内面等の寸法・形状を個別的に管理する。)、さらにローラアッセンブリ状態でのローラの転動安定性に関係する要因を個別的に規制管理する手段(例えば、部品間のラジアル隙間、アキシャル隙間、接触面の表面性状、潤滑条件等を個別的に管理する。)を付加しても良い。
【0036】
図3および図4は、本発明の第2の実施の形態を示している。この第2の実施の形態は、支持リング32の内周面32cの母線が、上述の第1の実施の形態では単一の円弧で形成されているのに対して、中央の円弧部32aとその両側の逃げ部32bとの組合せで形成されている点で相違する。逃げ部32bは、図3(C)のように作動角(θ)をとったときの脚軸22との干渉を避けるための部分であり、円弧部32aの端から支持リング32の端部に向かって徐々に拡径した直線または曲線で構成する。ここでは、逃げ部32bを円錐角α=50°の円錐面の一部とした場合を例示してある。円弧部32aは、支持リング32に対する脚軸22の2〜3°程度の傾きを許容するため、たとえば30mm程度の大きな曲率半径(r)とする。トリポード型等速自在継手では、機構上、外側継手部材10が1回転するときトリポード部材20は外側継手部材10の中心に対して3回振れ回る。このとき符号e{図2(A)}で表わされる偏心量は作動角(θ)に比例して増加する。そして、3つの脚軸22は120°ずつ離間しているが、作動角(θ)をとると、図2(B)に示すように、図の上側に表われている垂直な脚軸22を基本として考えると、他の2本の脚軸22は、一点鎖線で示す作動角0の時のそれらの軸線からわずかに傾く。その傾きは作動角(θ)がたとえば約23°のとき2〜3°程度となる。この傾きが支持リング32の内周面32cの円弧部32aの曲率によって無理なく許容されるため、脚軸22と支持リング32との接触部における面圧が過度に高くなるのを防止することができる。なお、図2(B)は、図2(A)の左側面から見たトリポード部材20の3つの脚軸22を模式的に図示したもので、実線が脚軸を表わしている。また、この第2の実施形態では、外側継手部材10のトラック溝12に鍔が設けられていない。上述のように、ローラアッセンブリを傾けようとする力が非常に低減されていることにより、トラック溝12の鍔をなくすことができる。
【0037】
この第2の実施形態も、第1の実施形態と同様に、誘起スラスト力の回転3次成分を条件(X1)で20N(RMS)以下に規制し、スライド抵抗力を条件(Y3)で80N(peak to peak)以下に規制している。尚、測定結果は、第1の実施形態と同様の傾向を示したので記載を省略する。その他、誘起スラスト力やスライド抵抗力の規制条件、及びそれによる効果については上述した第1の実施の形態に準じるので、重複する説明を省略する。
【0038】
図5および図6は、参考例を示している。尚、図5は、継手の作動角が0°で、かつ、継手に回転トルクが負荷されていない時の状態を示している。
【0039】
この参考例のトリポード型等速自在継手は、連結すべき二軸の一方に結合される外側継手部材1と、他方に結合されるトリポード部材2とを備えている。
【0040】
外側継手部材1は概ねカップ状の外観をなし、軸方向に延びる3つのトラック溝1aが内周部の円周等配位置に形成されている。各トラック溝1aの両側には、それぞれローラ案内面1a1が設けられている。
【0041】
トリポード部材2は半径方向に突出した3つの脚軸2aを円周等配位置に有する。各脚軸2aの外周面2a1は凸球状に形成され、その外周面2a1に、支持リング3、複数のニードルローラ4、およびローラ5をアッセンブリしたローラアッセンブリAが装着されている。
【0042】
図5(B)に拡大して示すように、ローラアッセンブリAは、支持リング3の円筒状の外周面3aとローラ5の円筒状の内周面5aとの間に複数のニードルローラ4を転動自在に介装し、ローラ5の内周面5aに嵌着した一対のスナップリング6によって、支持リング3およびニードルローラ4の両端を係止して、ローラ5に対する支持リング3およびニードルローラ4の軸方向移動(脚軸2aの軸線Z方向への移動)を規制したものである。支持リング3の両端面およびニードルローラ4の両端面と、一対のスナップ支持リング6との間には僅かなアキシャル隙間δがある。図面では、アキシャル隙間δの大きさを実際よりもかなり誇張して示している。また、支持リング3の端面とスナップ支持リング6との間のアキシャル隙間と、ニードルローラ4の端面とスナップ支持リング6との間のアキシャル隙間とは、設計上、同じ値に設定する場合もあるし、異なる値に設定する場合もあるが、図面では両者の場合を区別することなくアキシャル隙間δとして示している。さらに、支持リング3の外周面3aおよびローラ5の内周面5aとニードルローラ4の転動面との間には僅かなラジアル隙間がある。
【0043】
支持リング3の内周面3bは、脚軸2aの球状の外周面2a1に嵌合される。この参考例において、支持リング3の内周面3bは脚軸2aの先端側に向かって漸次縮径した円錐状で、脚軸2aの外周面2a1と線接触する。これにより、ローラアッセンブリAの脚軸2aに対する首振り揺動が許容される。支持リング3の内周面3bの傾斜角αは、例えば0.1°〜3°、好ましくは0.1°〜1°と僅かなものであり、この参考例ではα=0.5°に設定している。図面では、内周面3bの傾斜の度合をかなり誇張して示している。
【0044】
ローラ5の外周面5bの母線は、脚軸2aの中心から外側にオフセットされた点を中心とする円弧である。
【0045】
この参考例において、外側継手部材1のローラ案内面1a1の断面形状は、2円弧状(ゴシックアーチ状)になっている。そのため、ローラ案内面1a1とローラ5の外周面5bとは2点p、qでアンギュラコンタクトする。アンギュラコンタクト点p、qは、ローラ5の外周面5bの中心を含み、脚軸2aの軸線Zと直交する中心線に対して、軸線Z方向に等距離だけ反対側に離れた位置にある。尚、ローラ案内面1a1の断面形状は、V字状または放物線状等でも良い。また、この参考例において、トラック溝1aに、ローラ案内面1a1と近接して肩面1a2が設けられ、この肩面1a2によってローラ5の脚軸先端側の端面5cが案内される。
【0046】
支持リング3の内周面3bが脚軸先端側に向かって漸次縮径した円錐状になっているため、この継手に回転トルクが負荷されると、図6に示すように(内周面3bの傾斜の度合いを図5よりもさらに誇張して示している。)、支持リング3の内周面3bと脚軸2aの外周面2a1との接触位置Sに脚軸先端側に向いた負荷分力Fが発生する。この負荷分力Fは、支持リング3およびニードルローラ4を脚軸先端側に押し上げるように作用して、支持リング3およびニードルローラ4を、脚軸先端側のワッシャ6に押し付けた状態にする。そのため、支持リング3の内周面3bと脚軸2aの外周面2a1との接触位置Sが安定する。また、この負荷分力Fは、支持リング3およびニードルローラ4を介して、ローラ5を脚軸先端側に押し上げるように作用して、ローラ案内面1a1に対するローラ5の姿勢を安定させる。このような接触位置Sの安定化とローラ5の姿勢安定化とが相俟って、誘起スラスト力、さらにはスライド抵抗力が低減し、かつ、それらの値のバラツキ範囲も小さくなる。そのため、この参考例の等速自在継手は、誘起スラスト力やスライド抵抗力の規定値を小さく設定することができ、しかも、規定値内に精度良く規制することが可能である。尚、支持リング3の内周面3bは円筒状にしても良い。
【0047】
誘起スラスト力やスライド抵抗力の規制、及びそれによる効果については上述した第1の実施の形態に準じるので、重複する説明を省略する。
尚、本発明は、以上に説明した構成の等速自在継手に限らず、その他構成の等速自在継手にも適用可能である。
【0048】
【発明の効果】
本発明は以下に示す効果を有する。
【0049】
(1)誘起スラスト力およびスライド抵抗力のうち少なくとも一方が規定値内に規制されており、これらの特性に関する信頼性が高いので、動力伝達系のレイアウト設計に対する制約条件が緩和され、設計自由度が向上する。また、等速自在継手の車両搭載性も向上する。さらに、等速自在継手の振動特性に関する信頼性が高まるので、自動車のNVH特性の安定化に寄与する。
【0050】
(2)誘起スラスト力の回転3次成分を条件(X1)で30N(RMS)以下、条件(X2)で55N(RMS)以下、条件(X3)で80N(RMS)以下に規制することによって、上記(1)の効果に加え、誘起スラスト力が低くかつ安定し、優れた低振動特性と高い信頼性を備えた等速自在継手を提供することができる。これにより、自動車のNVH特性の向上に寄与する。また、これまで困難であった、高角度での常用が可能となり、等速自在継手の車両搭載性が一層向上する。
【0051】
(3)さらに、スライド抵抗力を条件(Y1)で40N(peak to peak)以下、条件(Y2)で60N(peak to peak)以下、条件(Y3)で80N(peak
to peak)以下に規制することによって、上記(1)(2)の効果に加え、スライド抵抗力が低くかつ安定し、優れた低振動特性と高い信頼性を備えた等速自在継手を提供することができる。これにより、自動車のNVH特性の向上に寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の第1の実施の形態を示し、図1(A)は一部を断面にした端面図、図1(B)は図1(A)における脚軸に垂直な断面図、図1(C)は接触楕円を説明するための支持リングの断面図である。
【図2】 図2(A)は図1の等速自在継手の縦断面図であって作動角をとった状態を示し、図2(B)は図2(A)におけるトリポード部材の模式的側面図である。
【図3】 本発明の第2の実施の形態を示し、図3(A)は一部を断面にした端面図、図3(B)は図3(A)における脚軸に垂直な断面図、図3(C)は作動角をとった状態を示す縦断面図である。
【図4】 図3における支持リングの拡大断面図である。
【図5】 参考例を示し、図5(A)は一部を断面にした端面図、図5(B)は図5(A)の要部拡大横断面図である。
【図6】 図5における支持リングと脚軸との接触位置に発生する負荷分力Fを説明するための図である。
【図7】誘起スラスト力やスライド抵抗力の測定に用いた動力循環式試験機の一部分を示す概念図である。
【図8】 図1の等速自在継手の誘起スラスト力を測定した結果を示す図である。
【図9】 図1の等速自在継手のスライド抵抗力を測定した結果を示す図である。

Claims (10)

  1. 内周部に3つのトラック溝が形成され、各トラック溝の両側にそれぞれ軸方向のローラ案内面を有する外側継手部材と、半径方向に突出した3つの脚軸を有するトリポード部材と、前記トリポード部材の各脚軸にそれぞれ配設され、前記ローラ案内面に案内されるローラと、該ローラを前記脚軸に対して首振り揺動自在とするローラ機構とを備えた等速自在継手において、
    前記ローラ機構が、前記ローラと、前記脚軸の外周面に外嵌されて前記ローラを回転自在に支持する支持リングとを有し、前記支持リングの内周面は円弧状凸断面であり、前記脚軸の外周面は縦断面においてはストレート形状で、横断面においては継手の軸線と直交する方向で前記支持リングの内周面と接触し、かつ、継手の軸線方向で前記支持リングの内周面との間にすきまを形成するようになっており、
    誘起スラスト力およびスライド抵抗力のうち少なくとも一方が規定値内に規制されていることを特徴とする等速自在継手。
  2. 下記の条件(X1)における誘起スラスト力の回転3次成分が30N(RMS)以下に規制されている請求項1記載の等速自在継手。
    条件(X1):回転数R=100〜500(rpm)
    作動角θ=0〜14(deg)
    負荷トルクT=0.1×Ts(N・m)
    ここで、「RMS」は自乗平均平方根(Root Mean Square)を表し、「Ts」は前記トリポード部材に連結される軸が捩り破断を起こす最小の静的捩りトルクを表す。
  3. 下記の条件(X2)における誘起スラスト力の回転3次成分が55N(RMS)以下に規制されている請求項1記載の等速自在継手。
    条件(X2):回転数R=100〜500(rpm)
    作動角θ=0〜14(deg)
    負荷トルクT=0.2×Ts(N・m)
    ここで、「RMS」は自乗平均平方根(Root Mean Square)を表し、「Ts」は前記トリポード部材に連結される軸が捩り破断を起こす最小の静的捩りトルクを表す。
  4. 下記の条件(X3)における誘起スラスト力の回転3次成分が80N(RMS)以下に規制されている請求項1記載の等速自在継手。
    条件(X3):回転数R=100〜500(rpm)
    作動角θ=0〜14(deg)
    負荷トルクT=0.3×Ts(N・m)
    ここで、「RMS」は自乗平均平方根(Root Mean Square)を表し、「Ts」は前記トリポード部材に連結される軸が捩り破断を起こす最小の静的捩りトルクを表す。
  5. 下記の条件(Y1)におけるスライド抵抗力が40N(peak to peak)以下に規制されている請求項1から4の何れかに記載の等速自在継手。
    条件(Y1):回転数R=0(rpm)
    作動角θ=0〜10(deg)
    負荷トルクT=98〜196(N・m)
    加振周波数f=15〜40(Hz)
    加振振幅=±0.01〜±0.03(mm)
    ここで、「peak to peak」は正負ピーク値の絶対値の合計を表す。
  6. 下記の条件(Y2)におけるスライド抵抗力が60N(peak to peak)以下に規制されている請求項1から4の何れかに記載の等速自在継手。
    条件(Y2):回転数R=0(rpm)
    作動角θ=0〜10(deg)
    負荷トルクT=98〜196(N・m)
    加振周波数f=15〜40(Hz)
    加振振幅=±0.05〜±0.08(mm)
    ここで、「peak to peak」は正負ピーク値の絶対値の合計を表す。
  7. 下記の条件(Y3)におけるスライド抵抗力が80N(peak to peak)以下に規制されている請求項1から4の何れかに記載の等速自在継手。
    条件(Y3):回転数R=0(rpm)
    作動角θ=0〜10(deg)
    負荷トルクT=98〜196(N・m)
    加振周波数f=15〜40(Hz)
    加振振幅=±0.10〜±0.25(mm)
    ここで、「peak to peak」は正負ピーク値の絶対値の合計を表す。
  8. 前記脚軸の横断面が、継手の軸線と直交する長軸をもった略楕円形である請求項記載の等速自在継手。
  9. 前記支持リングと前記ローラとの間に複数の転動体が転動自在に配されている請求項に記載の等速自在継手。
  10. 前記転動体がニードルローラである請求項記載の等速自在継手。
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