JP3948588B2 - 皮膚バリアー機能回復促進剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は皮膚バリアー機能回復促進剤に関する。さらに詳しくは、皮膚バリアー機能の回復を促進して、皮膚の表皮機能の低下による表皮増殖性異常等を防止するために有用な皮膚バリアー機能回復促進剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
種々の皮膚疾患、例えば、アトピー性皮膚炎、乾癬、接触性皮膚炎等に見られる肌荒れ症状においては、皮膚からの水分の消失が、健常な皮膚に比べて盛んであることが知られている。このいわゆる経皮水分蒸散量(TEWL)の増加には、表皮内において水分の保持やバリアーとしての機能を担っていると考えられる成分の減少が関与しているものと考えられてきた。
【0003】
したがって、従来より、皮膚疾患や肌荒れに対して改善・予防効果を有する有効成分として、水分保持機能や皮膚バリアー機能を担う表皮内成分を皮膚に補充するという観点から、NMF(Natural Moisturizing Factor)としてのアミノ酸や、角質細胞間脂質としての脂質類、その他ヒアルロン酸等のムコ多糖あるいはこれらの類似物質が、安全性も高いことから、化粧料や皮膚外用剤に配合されている。
【0004】
また、最近では、皮膚バリアー機能を担う表皮内成分の生合成を活性化させるような特定の物質が、肌荒れに対して改善効果を有するという報告がなされている(特開平9−2952号公報)。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、肌荒れ改善・予防効果を有する物質については多くの研究がなされてきたが、皮膚バリアー機能の改善若しくは回復効果を有する物質についての研究は十分ではなく、皮膚バリアー機能に対する改善効果と肌荒れ改善・予防効果との関係は明らかになっていないため、肌荒れ改善・予防効果がある物質が必ずしも皮膚バリアー機能に対する改善効果があるとは限らない。
【0006】
一方、皮膚バリアー機能が低下すると、皮膚の表皮機能が低下し、表皮増殖性異常等が起こることが報告されている。特に、高齢者の場合は、低下した皮膚バリアー機能の回復には長い時間がかかり、加齢に伴う皮膚の表皮機能の低下による表皮増殖性異常等を防止するために有効な新規の皮膚バリアー機能回復促進剤に開発が要望されていた。
【0007】
本発明者らは、上記事情に鑑み、皮膚バリアー機能の低下、すなわち、TEWLの変化に対して敏速に作用する物質について広く研究した結果、マグネシウム塩である塩化マグネシウムに、皮膚バリアー回復促進効果を有しないカルシウム塩である塩化カルシウムまたはパントテン酸カルシウムを組み合わせると、マグネシウム塩である塩化マグネシウムの皮膚バリアー機能を極めて短時間のうちに回復させるという効果が増大するという新たな知見を見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明は低下した皮膚バリアー機能を極めて短時間のうちに回復させることができる新規な皮膚バリアー機能回復促進剤を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、マグネシウム塩とカルシウム塩とからなることを特徴とする皮膚バリアー機能回復促進剤であって、前記マグネシウム塩とカルシウム塩とのMg/Caのモル比が1/1以上であり、前記マグネシウム塩が塩化マグネシウムであり、前記カルシウム塩が、塩化カルシウムまたはパントテン酸カルシウムである皮膚バリアー機能回復促進剤を提供するものである。
【0013】
さらに、本発明は、上記の皮膚バリアー機能回復促進剤を基剤全量に対して0.005〜20.0重量%(但し0.02〜1.0重量%を除く)配合したことを特徴とする皮膚外用剤を提供するものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の構成について詳述する。
【0018】
本発明に用いるマグネシウム塩は、皮膚外用剤あるいは化粧料の配合成分として従来公知の物質であるが、マグネシウム塩に、皮膚バリアー回復促進効果を有しないカルシウム塩を組み合わせると、マグネシウム塩の皮膚バリアー機能を極めて短時間のうちに回復させるという効果が増大するという報告はこれまでになく、本発明者らによって初めて見出された効果である。
【0020】
本発明において、皮膚バリアー機能の回復を促進するとは、皮膚をテープストリッピング1時間後の経皮水分蒸散量(TEWL)の値を0%、テープストリッピング前の値を100%として、各測定時間におけるTEWLの値が、何も塗布しない状態と比較した場合に明らかに有意差が認められ、TEWL回復率を促進させる効果を有することを意味し、Andrewらの方法(J Invest Dermatol,86;598,1986)に従って、4%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)水溶液をしみ込ませたCotton ballにより皮膚を処理して判定を行ういわゆる肌荒れ改善防止効果とは異なる。
【0021】
上記物質が皮膚バリアー機能の回復を促進するメカニズム及び作用機序については現在のところ不明であり、例えば、L−アルギニン、塩化亜鉛、塩化マグネシウム、フルクトース等には皮膚バリアー機能回復促進効果を有することが見出されたが、類似物質のD−アルギニン、塩化カルシウム、グルコース、リボース、スクロース等には皮膚バリアー機能回復促進効果は認められない。
【0022】
また、カルシウム拮抗作用のあるマンガン塩、ストロンチウム塩、ランタン塩、コバルト塩、亜鉛塩、マグネシウム塩、鉄塩、バリウム塩、ジルチアゼム及びその塩、ベラパミル及びその塩、ニフェジピン及びその塩、例えば、塩化マンガン、塩化ストロンチウム、塩化ランタン、塩化コバルト、塩化亜鉛、塩化マグネシウム、塩化第二鉄、塩化バリウム、ジルチアゼム塩酸塩、ベラパミル塩酸塩、ニフェジピン等には、皮膚バリアー機能回復促進効果を有することが見出されたが、金属塩であっても、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化ルビジウム等には皮膚バリアー機能回復促進効果は認められない。
【0023】
さらに、上記マグネシウム塩に、皮膚バリアー機能回復促進効果を有しないカルシウム塩を組み合わせると、皮膚バリアー機能回復促進効果が増大することが認められた。マグネシウム塩と組み合わせるカルシウム塩としては、例えば、塩化カルシウム、パントテン酸カルシウム等が挙げられる。また、前記マグネシウム塩とカルシウム塩におけるMg/Caのモル比が1/1以上、すなわちMgがCaの等モル以上であることが好ましく、より大きい皮膚バリアー機能回復促進効果が得られる。
【0024】
本発明の皮膚バリアー機能回復促進剤は、例えば、軟膏、クリーム、乳液、ローション、パック、浴用剤等の化粧料、医薬品、医薬部外品に配合されて、皮膚に適用することが出来る。配合量は特に制限がないがこれらの基剤全量に対して0.005〜20.0重量%程度である。
【0025】
【実施例】
次に、本発明を実施例を挙げてさらに詳細に説明するが、本発明の技術的範囲がこれらの実施例に限定されるものではない。配合量は重量%である。
【0026】
皮膚バリアー機能の回復促進効果を以下の方法で評価し、その結果を各図に示した。
【0027】
「皮膚バリアー機能回復促進効果試験」
皮膚をテープストリッピングすることによって破壊された皮膚バリアー機能が、もとの状態へ回復していく過程における各試料の影響を、TEWLを指標として以下の方法で評価した。
すなわち、10名の男性パネルの前腕内側部を用い、テープストリッピングした1時間後に各試料を塗布し、その後、経時的に、TEWLをTEWAMETER TM-200(COURAGE+KHAZAKA)にて測定した。PEG300:エタノール:蒸留水=1:3:1を基剤とし、評価物質の5重量%の溶液ないし懸濁液を試料とした。なお、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化マンガン、塩化ストロンチウム、塩化ランタン、塩化コバルト、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化ルビジウム、塩化第二鉄、塩化バリウムは10mM水溶液を試料とし、ジルチアゼム塩酸塩、ベラパミル塩酸塩、ニフェジピンは1mM水溶液を試料とした。尿素は10重量%水溶液を試料とした。コントロールとしては水を使用した。
テープストリッピング1時間後のTEWLの値を0%、テープストリッピング前のTEWLの値を100%として、各測定時間におけるTEWLの値から回復率を算出し、コントロールと比較して試料ごとのTEWLの回復促進効果を評価した。その結果を各図に示す。各図のグラフにおいて、白丸は評価試料、黒丸はコントロールを示し、縦軸はTEWL回復率(%)、横軸はテープストリッピング後の時間(hr)を表わす。
【0028】
各図のグラフから分かるように、L−アルギニン、トラネキサム酸メチルアミド塩酸塩、塩化亜鉛、塩化マグネシウム、フルクトース、グリセリン及びカテキン並びに尿素は、TEWLの回復を短時間から有意に促進しているが、D−アルギニン、グルコース、リボ−ス、スクロースは、コントロールとの有意差が認められず、TEWLの回復促進効果がない。
【0029】
また、塩化マンガン、塩化ストロンチウム、塩化ランタン、塩化コバルト、塩化亜鉛、塩化マグネシウム、塩化第二鉄、塩化バリウム、ジルチアゼム塩酸塩、ベラパミル塩酸塩、ニフェジピン等のカルシウム拮抗剤は、TEWLの回復を短時間から有意に促進しているが、金属塩であっても、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化ナトリウム、塩化ルビジウムは、コントロールとの有意差が認められず、TEWLの回復促進効果がない。
【0030】
また、図26及び図27は、カルシウム塩によるマグネシウム塩の皮膚バリアー機能回復促進効果の増大を示すものである。塩化マグネシウムを、TEWLの回復促進効果がない塩化カルシウム(図26)又はパントテン酸カルシウム(図27)と組み合わせることにより、塩化マグネシウムのTEWLの回復促進効果が増大していることが分かる。
【0031】
図28、図29、図30は、塩化マグネシウムと塩化カルシウムのトータルを10mMとし、マグネシウムとカルシウムとのモル比を変化させた場合の3時間、6時間、9時間後のTEWL回復率をプロットしたグラフである。これらのグラフより、マグネシウム塩とカルシウム塩におけるMg/Caのモル比は1/1以上、すなわちMgがCaの等モル以上である場合に、より大きい皮膚バリアー機能回復促進効果が得られることが分かる。
【0032】
以下に、本発明の皮膚バリアー機能回復促進剤の配合例を挙げる。
【0055】
「クリーム」
(処方) 重量%
ステアリン酸 5.0
ステアリルアルコール 4.0
イソプロピルミリステート 18.0
グリセリンモノステアリン酸エステル 3.0
プロピレングリコール 10.0
塩化マグネシウム 0.1
パントテン酸カルシウム 0.05
苛性カリ 0.2
亜硫酸水素ナトリウム 0.01
防腐剤 適量
香料 適量
イオン交換水 残余
(製法)
イオン交換水にプロピレングリコールと塩化マグネシウム、パントテン酸カルシウムと苛性カリを加え溶解し、加熱して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を徐々に加え、全部加え終わってからしばらくその温度に保ち反応を起こさせる。その後、ホモミキサーで均一に乳化し、よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【0056】
「クリーム」
(製法)
ナチュラル・ミネラル・ウォーターに塩化マグネシウム、塩化カルシウム、トラネキサム酸メチルアミド塩酸塩、プロピレングリコールを加え、加熱して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相を加え予備乳化を行い、ホモミキサーで均一に乳化した後、よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【0057】
「クリーム」
(製法)
イオン交換水に塩化マグネシウム、パントテン酸カルシウム、ナチュラル・ミネラル・ウォーター、石けん粉末、硼砂を加え、加熱して70℃に保つ(水相)。他の成分を混合し加熱融解して70℃に保つ(油相)。水相に油相をかきまぜながら徐々に加え反応を行なう。その後、ホモミキサーで均一に乳化し、よくかきまぜながら30℃まで冷却する。
【0058】
【発明の効果】
本発明によれば、皮膚のバリアー機能の回復を促進出来る優れた皮膚バリアー機能回復促進剤を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】L−アルギニンの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図2】トラネキサム酸メチルアミド塩酸塩の皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図3】塩化亜鉛の皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図4】塩化マグネシウムの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図5】フルクトースの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図6】グリセロールの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図7】カテキンの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図8】D−アルギニンの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図9】グルコースの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図10】リボースの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図11】スクロースの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図12】塩化マンガンの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図13】塩化ストロンチウムの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図14】塩化ランタンの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図15】塩化コバルトの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図16】ジルチアゼム塩酸塩の皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図17】塩化カリウムの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図18】塩化カルシウムの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図19】塩化ナトリウムの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図20】塩化ルビジウムの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図21】塩化第二鉄の皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図22】塩化バリウムの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図23】ベラパミル塩酸塩の皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図24】ニフェジピンの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図25】尿素の皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図26】塩化マグネシウムと塩化カルシウムとの組み合わせの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図27】塩化マグネシウムとパントテン酸カルシウムとの組み合わせの皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図28】塩化マグネシウムと塩化カルシウムとの組み合わせの3時間後の皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図29】塩化マグネシウムと塩化カルシウムとの組み合わせの6時間後の皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
【図30】塩化マグネシウムと塩化カルシウムとの組み合わせの9時間後の皮膚バリアー機能回復促進効果をTEWLを指標として評価したグラフである。
Claims (2)
- マグネシウム塩とカルシウム塩とからなることを特徴とする皮膚バリアー機能回復促進剤であって、前記マグネシウム塩とカルシウム塩とのMg/Caのモル比が1/1以上であり、前記マグネシウム塩が塩化マグネシウムであり、前記カルシウム塩が、塩化カルシウムまたはパントテン酸カルシウムである皮膚バリアー機能回復促進剤。
- 請求項1記載の皮膚バリアー機能回復促進剤を基剤全量に対して0.005〜20.0重量%(但し0.02〜1.0重量%を除く)配合したことを特徴とする皮膚外用剤。
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