JP3947370B2 - 無線通信システム - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、移動局を含む複数の局により構成され、局間の直接無線接続又はその連鎖であるところの通信経路を介し、任意の局間で又は局とシステム外部との間で通信を行う無線通信システムに関する。本発明は、特に、各局が、自局が使用しうる通信経路に関する経路情報として、隣接局情報及び2hop局情報を自動取得して蓄え随時自動更新する無線通信システムに関する。
【0002】
なお、本願では、任意の局が直接無線通信可能なエリアのことをその局にとっての「1hop圏」、任意の局の1hop圏内にある他の局のことをその任意の局にとっての「隣接局」、任意の局の隣接局にとっての1hop圏を当該任意の局の隣接局に当たる全ての局について合成したものを当該任意の局にとっての「2hop圏」、任意の局の2hop圏内にある他の局であって当該任意の局にとっての隣接局でない局を「2hop局」、とそれぞれ称することとしている。また、任意の局に隣接局として登録されていない局を当該任意の局の1hop圏内で当該任意の局が検出することを当該任意の局によるその局の「参入」の検出、参入が検出された局を「参入局」、それまでは隣接局であった局を1hop圏内で検出できなくなることを「退出」、退出した局を「退出局」、とそれぞれ称することとしている。
【0003】
【従来の技術】
移動局を含む無線通信システムでは、局の移動に伴い局と局との相対的な位置関係が変化する。これに伴い、任意の局から他の任意の局への接続に使用できる経路も変化しうる。
【0004】
例えば、第1〜第3の局により構成される無線通信システムを考える。また、簡単化のため、第1及び第2の局が固定局で第3の局が移動局であるとし、第1の局と第2の局は互いに他の隣接局であるものとする。第1の局の1hop圏と第2の局の1hop圏の重複エリアに第3の局が存在しているときには、第1の局と第3の局との間で直接無線通信することができる。しかし、第1の局の1hop圏に属していないが第2の局の1hop圏に属しているエリアに第3の局が存在しているときには、第1の局と第2の局との間及び第2の局と第3の局との間ならば直接無線通信することができるが、第1の局と第3の局との間で直接無線通信することはできない。第1の局と第3の局との間で通信を行うには、第1の局と第2の局との間及び第2の局と第3の局との間をそれぞれ無線接続する経路即ち第2の局を間に挟んだ経路を使用して、第1の局と第3の局とを接続する。このように、移動局の所在如何により、隣接局同士の直接無線接続区間(又はその連鎖)を含む局間の又は局とシステム外部との最適な通信経路が変わる。
【0005】
従って、移動局を含む無線通信システムを構築する際には、どのようにして局間の通信経路を決定するか、即ち現時点における各局の所在から見て最適な通信経路をどのようにして決定するかに関して、工夫するのが望ましい。従来から用いられている通信経路決定方法は、大きく分けて、オンデマンド型経路制御、テーブルドリブン型経路制御及びハイブリッド型経路制御に分類できる。これらのうちオンデマンド型経路制御は、ある局(送主局)から他の局(目的局)に至る通信経路を決定するため、経路決定要求信号例えばリクエストパケットを送主局からその1hop圏内に無差別送信(Flooding)し、それを受け取った局も同様に経路決定要求信号を無差別送信し、という手順を、経路決定要求信号が目的局に届くまで続け、経路決定要求信号が目的局に届いたら逆の道筋で経路決定応答信号例えばリプライパケットを送主局に返送する、という手法である。従って、局の移動に伴い経路変更が発生したときには、リクエストパケットの伝送に通信容量が費やされてしまい、実効的な伝送速度が低下してしまう、という問題が生じる。この問題、即ち局の移動に伴う伝送帯域圧迫という問題は、ハイブリッド型経路制御でも、同様に生じうる。なお、ハイブリッド型経路制御は、オンデマンド型経路制御と、次に述べるテーブルドリブン型経路制御とを組み合わせた形態の制御であり、従って、オンデマンド型経路制御と共通する性質を一部有している。
【0006】
テーブルドリブン型経路制御は、自局から他の局に至る通信経路に関する情報のうち少なくとも一部を保持することができるよう、各局が自局内にデータベース(テーブル)を備え、経路情報を取得するための制御信号の無線送受信を通じてこのデータベース上に情報を自動取得しまたそれを随時自動更新する、という制御である。制御信号の無線送受信を通じた経路情報の取得更新の形態としては、第1に、各局が、制御信号として自局を示すビーコン信号を1hop圏内に無線送信する一方、他局からビーコン信号を受信収集することによって自局にとっての隣接局に関する情報即ち隣接局情報を収集する、という形態がある。第2に、各局が、自局にて保持している全経路情報又はそれらのうち現時点でも有効と認めうるものを制御信号に載せて無線送信する一方、他局からこの制御信号を受信して全経路情報を収集する、という形態がある。第3に、各局が、送信元を示す自局情報及び自局にとっての隣接局情報を制御信号に載せて無線送信する一方、他局からこの制御信号を受信して自局にとっての隣接局情報及び自局にとっての2hop局に関する情報である2hop局情報を収集する、という形態がある。
【0007】
ここに、第1の形態には、高々隣接局情報しか得られないという問題があるため、2hop以上の範囲について経路に関連する情報を得るには第2又は第3の形態によらねばならない。また、第2の形態には、局の移動に伴う最適通信経路の変更が迅速に各局に伝わらないことがある等の問題があるため、各局の記憶容量を節約したい用途や、局の移動ひいてはそれによるネットワーク構造の変化が頻繁に生じ得るような用途には、第3の形態が適している。即ち、第3の形態では、経路決定のために各局が保持すべき情報が隣接局情報及び2hop局情報のみであるから記憶容量を節約できる。第3の形態では、更に、各局で保持される情報が隣接局情報及び2hop局情報のみでありかつ局間で伝送される情報が自局情報及び隣接局情報のみであるため、局の移動が発生したときにそれに伴う経路変更が迅速に行われうる。特に、任意の局の2hop圏内に全ての局が含まれるような用途、或いは局の移動が2hop圏内でとどまるような用途であれば、各局が自局の2hop圏内に存在する全ての局について情報を保持している第3の形態によるテーブルドリブン型経路制御が、最適である。
【0008】
第3の形態によるテーブルドリブン型経路制御の例としてはOLSR(Optimized Link State Routing)がある。OLSRでは、各局が他局に対し自局情報及び隣接局情報を与えまた他局から自局にとっての隣接局情報及び2hop局情報を取得するための制御信号として、ハローパケット(以下「Hello packet」とも表記)を用いる。
【0009】
OLSRにおけるハローパケットには、図5にその一例を示すように、メッセージ毎の番号(Message sequence NO.)や、そのハローパケットを送信した局を示す番号(MPR sequence No.(MPR:Multi Point Relay))が、付されている。また、ハローパケットは、その送信元の局にとっての「隣接局情報」、例えばその隣接局を特定するアドレス等の情報を、当該隣接局の個数に応じた個数だけ含んでいる。隣接局情報は、送信元の局とその隣接局との隣接関係が双方向的か一方向的か等、リンク状態に応じて分けられたグループ毎に、ハローパケット内にセットされている。ここでいう「双方向的」とは、隣接局側でも送信元の局を自局の隣接局として認めていること、即ち両局が互いに隣接局と認めていることである。「一方向的」とは、隣接局側が送信元の局を自局の隣接局として認めているかどうか定かでないことである。電波伝搬の状況によりこのような非対称性が生じうる。また、各グループには、そのグループに対応したリンク状態を示す情報(Link Type)や、そのグループに属する隣接局の個数又は隣接局情報の合計長を示す情報(Link Message Size)が、付されている。
【0010】
OLSRを用いたシステムを構成する局は、図6にその一例を示すように、他局からハローパケットを受信する機能100や、受信したハローパケットからその送信元を示す情報やその送信元にとっての隣接局情報を取得する機能102を、有している。ハローパケットを受信した局にとって、受信したハローパケットの送信元を示す情報は自局の隣接局のうち一つを示す情報であるし、また、受信したハローパケット中の隣接局情報は、自局、自局にとっての隣接局、自局にとっての2hop局等に関する情報である。この図の局は、更に、先の説明ではテーブルとも称していたデータベース104を有している。データベース104上には、受信したハローパケットに含まれている情報に基づき、自局にとっての隣接局情報や自局にとっての2hop局情報(それらの局とのリンク状態に関する情報等も含む。以下同様)が自動登録され、又は既にデータベース104上にあるその種の情報が自動更新又は削除される。更に、この図の局は、周期的にハローパケットの送信を行わせるための周期タイマ106、周期タイマ106から周期的に与えられるタイミングにてかつデータベース104上の隣接局情報に基づきハローパケットを生成する機能108、並びに生成されたハローパケットを1hop圏内に対し無差別的に即ち特定の局を宛先としないで無線送信する機能110を有している。この図の局から1hop圏内にある局は、この図の局から送信されたハローパケットを受信する。
【0011】
このように、OLSR等の経路制御手法を採用した無線通信システムは、局間の相対移動に伴うネットワーク構造の変化に対して迅速に対応でき、自律分散的なネットワークの構築に適している。即ち、拡張性・対故障性に優れたネットワークを容易にまた低コストかつ短時間で構築・拡張する上で、有意義なシステムである。例えば、オフィス・工場・店舗・会議場等、限定されたスペースに配置されているデータ端末間で或いは同様のスペースにて活動している人間同士で通信を行う際に、この種のシステムを構築及び利用することにより、データ端末・座席・人間の移動・増減にも容易に対処することが可能になる。また、市町村等のように比較的小規模な自治体・コミュニティの各機関・構成員にデータを配信するデータ配信ネットワーク、屋内外で活動している人間や車両等から特定の局へとデータを集約するデータ収集ネットワーク、救難活動時に一時的に構成される無線局間のネットワーク等を構築する際にも、上掲の通り各局が自動的に経路情報を取得・蓄積・更新することができまた拡張性や対故障性に優れたシステムが有用である。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、各局が隣接局情報を周期的に無線送信し、受信側ではこれを利用して自局のデータベース上の隣接局情報及び2hop局情報を自動的に最適化する、という上述のシステム構成では、そのシステムを構成する局の個数が多い用途や、比較的狭い領域内に比較的多数の局が密集することがある用途では、ハローパケット等の制御信号に載せて送信する隣接局情報の量が多くなり、またシステム全体での制御信号の送信頻度が高くなるため、制御信号以外の伝送、特にシステムの本来目的であるデータ伝送等に使用できる帯域(伝送速度)が、当該制御信号により圧迫されてしまうことがあり得る。また、OLSRでは、ハローパケットに載せるべき情報量が多い場合は複数回に分けてハローパケットを送信する。この場合、複数個に分割されたハローパケットを受信し終えないと自局から2hop圏内にある局に関する情報が集まらないため、局の移動に対して、俊敏に対処できているとはいえない。また、帯域圧迫も著しい。
【0013】
本発明は、このような問題点を解決することを課題としてなされたものであり、オンデマンド型経路制御を実施した場合や局間での全経路情報の無線伝送を伴う形態でテーブルドリブン型経路制御を実施した場合には得られないが局間での隣接局情報の無線伝送を伴う形態でテーブルドリブン型経路制御を実施した場合には得られる効果(局の移動への迅速対応等)を、局間での隣接局情報の無線伝送による顕著な伝送帯域圧迫を引き起こさずに、得られるようにすることを、その目的としている。
【0014】
【課題を解決するための手段】
このような目的を達成するために、本発明においては、次のような手法を採用する。
【0015】
まず、本発明においては、経路決定に必要な情報を各局が通知し合う/取得するための制御信号としては、原則として、自局情報のみを送信する。自局情報はその送信元の局を示す情報例えば送信元の局のアドレスであるから、隣接局情報に比べてその情報量が少なく、帯域圧迫を引き起こしにくい。そのため、本発明によれば、制御信号による帯域圧迫を回避又は抑制することができる。
【0016】
また、本発明においては、前回自局情報(及び隣接局情報)を送信した後に自局の1hop圏内への参入又は1hop圏内からの退出を検出した場合に限り、隣接局情報も送信する。隣接局情報は、その送信元の局にとっての隣接局に関連する情報、例えばその局のアドレスやその局とのリンク状態等を示す情報である。そのため、受信側の局では、他局から隣接局情報(及び自局情報)を受信することによって、自局にとっての隣接局や2hop局に関する情報を得ることができる。また、この情報は、受信した局内のデータベースに蓄えることができ、その局において通信経路を決定する際だけでなく、その局から隣接局情報を送信する際にも利用することができる。これによって、本発明によれば、隣接局情報の無線伝送を伴う形態でのテーブルドリブン型経路制御の利点を、引き続き得ることができる。
【0017】
1hop圏内への参入又は1hop圏内からの退出を検出した場合に送信する隣接局情報は、例えば、その送信元の局のデータベースに登録してある隣接局全てについての情報、即ちその局にとっての全ての隣接局に関する情報を含む全隣接局情報とすればよい。しかし、帯域圧迫を回避するという観点からは、全隣接局情報ではなく、より情報量が少なく帯域圧迫を引き起こしにくい性質の情報を送信するようにしたい。より情報量が少ない情報の送信を以て全隣接局情報の送信に代える方法としては、情報圧縮された隣接局情報を送信するという方法や、最近受信した全隣接局情報に対する差分情報を送信するという方法がある。
【0018】
本発明の好適な実施形態においては、自局情報だけでなく隣接局情報をも送信すべきケースで、全隣接局情報を送信すべきかそれとも差分情報を送信すべきかを、所定条件に従い切り換えるようにしている。例えば、自局が前回制御信号(自局情報又は自局情報+隣接局情報)を送信してから現在までの間に、自局が検出した参入局又は退出局全てに関する情報を含む情報が、他局から隣接局情報として既に送信されている状況を考える。即ち、当該他局から当該他局の1hop圏内に対しネットワーク構造の変化を示す情報が隣接局情報の一部等として先んじて提供されており、かつ、当該他局が検出したネットワーク構造の変化(参入又は退出)に関わる局が自局にて検出した参入局又は退出局と一致している状況を考える。この状況では、ネットワーク構造の変化を反映した全隣接局情報が自局にとっての隣接局の大部分に伝わっている、といえるため、隣接局情報を送信するに当たっては、当該他局から受信した全隣接局情報に対する自局内のデータベース上の隣接局情報の差分、即ち差分情報を、隣接局情報として送信する。これによって、上掲の帯域圧迫を更に緩和できる。なお、自局が前回制御信号を送信してから現在までの間に複数個の他局から全隣接局情報を受信しており、かつ、自局が検出した参入局又は退出局全てに関する情報がそれらの全隣接局情報の何れにも含まれている、という状況では、それら複数個の他局のうち自局のデータベース上の隣接局情報ともっとも近い隣接局情報を提供しているもの即ちその局と自局の1hop圏同士の重複が大きいものを選び、選んだ局から受信した全隣接局情報に対する差分情報を生成して送信する。これによって、帯域圧迫を更に緩和できる。
【0019】
まとめると、本発明は、次のような発明として表現できる。まず、本発明に係る無線通信システムは、(1)移動局を含む複数の局により構成され、局間の直接無線接続又はその連鎖であるところの通信経路を介し任意の局間で又は局とシステム外部との間で通信を行う移動無線通信システムであって、(2)各局が、自局が使用しうる通信経路に関する情報として、自局にとっての隣接局に関する隣接局情報並びに自局にとっての2hop局に関する2hop局情報を自動取得して蓄え随時自動更新する無線通信システムにおいて、(3)各局が、(4)隣接局情報及び2hop局情報を、それらの局の種別及び無線通信状態に関する情報と共に、経路情報又はその一部として蓄えるためのデータベースと、(5)その送信元を示す自局情報を周期的に無線送信することによって自局から1hop圏内に対し自局の存在を通知する自局情報提供手段であって、自局情報の前回の無線送信から今回の無線送信までに下記他局情報取得手段により参入局又は退出局が検出されている場合に限り、上記データベース上の隣接局情報を付してこの自局情報の無線送信を実行する自局情報提供手段と、(6)他局から自局情報及び隣接局情報を無線受信し受信した自局情報及び隣接局情報に基づき上記データベース上の隣接局情報及び2hop局情報を自動更新する他局情報取得手段であって、自局の1hop圏内に新規参入した参入局及び自局の1hop圏内から退出した退出局を、他局から受信した自局情報、他局からの自局情報の受信状況及び上記データベース上の情報に基づき検出する他局情報取得手段と、を備えることを特徴とする。より好ましくは、自局情報提供手段が、自局情報の前回の無線送信から今回の無線送信までに、他局情報取得手段により参入局又は退出局が検出されており、かつ、他局情報取得手段が参入局又は退出局として検出した全ての局に関する情報が任意の局から自局情報又は隣接局情報として受信されている場合には、当該任意の局から受信した情報に対する自局の上記データベース上の隣接局情報の差分を示す差分情報を、当該任意の局により送信された情報に対する差分であることを示す情報と共に、隣接局情報として付して自局情報の無線送信を実行する。更に好ましくは、自局情報提供手段が、自局情報の前回の無線送信から今回の無線送信までに、他局情報取得手段により参入局又は退出局が検出されており、かつ、他局情報取得手段が参入局又は退出局として検出した全ての局に関する情報が複数個の任意の局から共に自局情報又は隣接局情報として受信されている場合には、当該複数個の任意の局のうち、自局の上記データベース上の隣接局情報に近い内容を有する情報の送信元を選び、選んだ局から受信した情報に対する自局の上記データベース上の隣接局情報の差分を示す差分情報を、当該任意の局により送信された情報に対する差分であることを示す情報と共に、隣接局情報として付して自局情報の無線送信を実行する。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施形態に関し図面に基づき説明する。
【0021】
図1に、本発明の一実施形態に係る無線通信システムを構成する局、特にその局におけるハローパケットの送受信に関する機能部分の構成を示す。局のハードウエア構成例えば回路配置については従来技術と変わりのないもの或いは当業界の技術者に既に知られているものを用いることができるため、ここではハードウエア構成に関しては図示及び説明を省略し、専ら、局の機能構成に着目して図示及び説明を行うこととしている。
【0022】
なお、図示した機能のうち一部はソフトウエア的に実現するのに適した機能であるが、同時に、図示した機能全てを実現するにはその局の無線送受信回路やメモリ等を含め多数のハードウエア資源を利用する必要がある。また、本実施形態の動作は、後の説明からも明らかになるように、局と局との相対的な位置関係、各局が置かれている無線環境、並びにそれらの時間的変化に深く関連している。これらのことからも理解できるように、本発明は、単なる情報操作にとどまるものではなく、局のハードウエア資源の利用、置局環境及びその変化への対処等の性質を有するものである。
【0023】
図1に示すように、本実施形態に係るシステムを構成する各局は、周期タイマ200から周期的に与えられるタイミングにてハローパケットを無線送信する機能206を有している。本実施形態におけるハローパケットは、各種のヘッダ類に加え、図2に示す構成のデータ領域を有している。図示されているデータ領域の冒頭には、そのハローパケットの送信元を特定する「Hello packet送信局アドレス」、より広義に表現すれば送信元に関する自局情報がセットされる。本実施形態では、ハローパケット送信タイミングが到来した時点で、原則として、そのデータ領域に「Hello packet送信局アドレス」のみがセットされているハローパケット、即ち実質的なデータとしては自局情報のみを含むハローパケットを生成し、それを送信することとしている。図中、204は自局情報のみのハローパケットを生成する機能であり、202は参入局フラグ(図ではflg)に関する判定機能である。
【0024】
各局は、更に、機能202により「参入局フラグ=ON」と判定された場合は、自局情報だけでなく隣接局情報をも含むハローパケットを送信する。参入局フラグがどのようなときにONとなっているかについては後に説明する。また、送信される隣接局情報には、「全隣接局情報」(図2では「全局情報」)と「差分情報」とがあり、機能208により、いずれを送信するかを切り換える。図中、208は、データベース212上に未送信の有効な差分情報があるか否かを判定する機能であり、この機能によって「あり」と判定された場合は機能210が、「なし」と判定された場合は機能214が、それぞれ働く。210は自局内のデータベース212から差分情報を読み出し差分情報を含むハローパケットを作成する機能であり、214は自局内のデータベース212から隣接局情報を読み出し全隣接局情報を含むハローパケットを作成する機能である。データベース212には後述のように隣接局情報、2hop局情報、差分情報等が格納されているため、それらの情報特に隣接局情報や差分情報に基づき、隣接局情報を含むハローパケットを生成することができる。作成されたハローパケットは機能206により送信される。送信に当たっては、機能216により参入局フラグがOFFされる。
【0025】
機能210又は214により生成されるハローパケットは、図2のデータ領域中に、少なくとも、前述の「Hello packet送信局アドレス」に加え、「隣接局情報数」、「差分情報フラグ」、更には当該n個の隣接局それぞれについての「アドレス」、「シーケンス番号」及び「局状態フラグ」をセットしたハローパケットである。「隣接局情報数」は、そのハローパケットに何個の隣接局に関する情報が含まれているのかを示す数値nである。隣接局の「アドレス」はその隣接局を特定する情報例えばMAC(媒体アクセス制御)アドレスであり、「シーケンス番号」は情報の新しさを示す情報であり、「局状態フラグ」はその隣接局が参入局・既存局・削除局の何れに当たるかを示す情報である。なお、「参入局」とは前述の通り1hop圏内に新規参入したことが検出された局を、「既存局」とは引き続き1hop圏内に存在している局を、「削除局」とは1hop圏内から去ったことが検出された局即ち退出局を、それぞれ示している。
【0026】
また、機能210又は214は、ハローパケットのデータ領域中に、図2に示すように、そのハローパケットが隣接局情報として全隣接局情報を含むのかそれとも差分情報を含むのかを示す「差分情報フラグ」をセットする。機能214は、ハローパケットのデータ領域中に、更に、「差分局のアドレス」もセットする。「差分局のアドレス」は、そのハローパケットにより送信する隣接局情報(差分情報)が、どの局からの全隣接局情報に対する自局のデータベース212上の隣接局情報の差分であるのかを、示す情報である。即ち、その差分対象となった全隣接局情報の送信元を特定するアドレスである。なお、差分局のアドレスについては、機能232により、差分情報と関連づけてデータベース212上に書き込まれているものとする。
【0027】
機能210及び214におけるハローパケット作成に使用される情報を提供するデータベース212は、「hop数」、「安定度」、「リンク状態」、「局状態フラグ」等の情報が登録され、適宜自動更新されるデータベース乃至テーブルである。これらの情報は、いずれも、過去におけるハローパケットの受信等を通じ自局にてその存在を検知している局毎に、データベース212上に登録されている。
【0028】
これらの情報のうち「hop数」はその局が自局の隣接局であれば1、2hop局であれば2等の値をとる情報であり、無線伝搬上のその局と自局との位置関係を示している情報である。「安定度」は、その局と自局との通信状態がどの程度安定しているかを示す情報であり、例えば、最近何周期に亘り連続してその局からハローパケットを受信するのに成功したかを示している。「リンク状態」は、その局と自局との関係が双方向リンクかそれとも片方向リンクかを示す情報である。双方向リンクとは、相手から送信されたハローパケットを受信できており、かつ、相手から受信したハローパケット中の隣接局情報からみて自局から送信したハローパケットが相手により受信されていると判断できる状態をいう。片方向リンクとは、相手から送信されたハローパケットを受信できているものの、相手から受信したハローパケット中の隣接局情報からみて自局から送信したハローパケットが相手により受信されていないと判断できる状態をいう。そして、「局状態フラグ」は図2のハローパケット中の「局状態フラグ」と本質的に同じ内容の情報である。
【0029】
機能234は、これらの情報に関し、データベース212への登録やその更新を行う機能である。但し、「局状態フラグ」等については機能224でも「参入局」への修正登録等を行い、また、差分情報は機能232によりデータベース212に書き込まれる(これらについては後述)。機能234によるデータベース212への情報登録及びその更新は、機能218により他局から受信したハローパケット中の情報に基づき、或いは他局からのハローパケットの受信状況に応じて、行う。例えば、少なくともハローパケットの送信周期より長い期間に亘りハローパケットを受信できない局に関しては、安定度が極端に低下している状態、即ち直接無線通信できないリンク断の状態に至っていると見なすことができる。同様に、ハローパケットの送信周期に比して十分長い期間に亘り片方向リンクの状態が続いている局についても、リンク断として扱って差し支えない。機能234は、それまで双方向又は片方向リンクであったが新たにリンク断の状態になった局がないかどうか、過去所定期間における他局からのハローパケットの受信状況に基づき調べることによって、退出局を検出する。その他、データ送信に対する受信側(中継局含む)の応答が所定時間経過しても到来しない場合も、退出局として扱う。その種の局が検出された場合は、データベース212上のその局に関する情報のうち、「リンク状態」に関する情報を削除し、「局状態フラグ」を「削除局」を示す値にする等の処理を実行する。また、自局によるハローパケットの作成が機能210又は214により行われるよう、参入局フラグをONさせる。
【0030】
各局は、他局からハローパケットが無線送信されているか否か、またどのような内容のハローパケットが無線送信されているのかを、監視している。図中の機能218は、他局により無線送信されたハローパケットを受信する機能である。受信したハローパケットの送信元は(逆方向の信号が受信されない片方向リンクかもしれないが)受信側が隣接局として扱うべき局であることから、受信した局は、受信したハローパケットに含まれる自局情報に基づきデータベース212上に情報を登録し又は更新する。また、受信したハローパケットに隣接局情報が含まれている場合、その隣接局情報に係る局即ちハローパケットの送信元にとっての隣接局は、受信側の局にとっては、自局、自局にとっての隣接局、自局にとっての2hop局等に該当する。そこで、受信したハローパケットに含まれている情報に基づき、またハローパケットの受信状況に基づき、データベース212上に隣接局情報や2hop情報を登録し、またデータベース212上の隣接局情報や2hop情報を更新する。機能234は、このように、受信したハローパケットに含まれている情報に基づき自動的に、データベース212に関し登録や更新を行う。
【0031】
但し、他局からハローパケットを受信したら直ちに機能234によるデータベース212の登録・更新に移行するわけではなく、本実施形態では、まず機能220による参入局検出を行う。即ち、他局から受信したハローパケットには、「Hello packet送信局アドレス」等の自局情報が含まれているため、それを自局のデータベース212上の情報と照合することにより、そのハローパケットの送信元の局が自局にとって参入局に該当するか否かを判断することができる。参入局であれば、機能222により参入局フラグがONされ、その局が参入局であることを示す情報が機能224によりデータベース212に登録される。即ち、「hop数」=1、「局状態フラグ」=参入局等の情報が、受信したハローパケット中の「Hello packet送信局アドレス」により特定される局に関する最新の情報として、データベース212に格納される。それ以前からその局に関する情報がデータベース212上にあった場合は、「hop数」や「局状態フラグ」の変更等、従前の情報が最新の情報で更新される。また、機能220にて送信元の局が参入局でない、即ち既存局であると判別された場合は、機能234にて「安定度」等の情報を更新する。
【0032】
更に、受信したハローパケットの送信元が参入局としてデータベース212に登録されたとき(データベース212上におけるその局に関する情報中に「参入局」なる「局状態フラグ」がセットされたとき)や、受信したハローパケットの送信元が参入局でないため機能222及び224による処理がスキップされたときには、機能226〜232による条件付きの処理が実行される。
【0033】
機能226は、受信したハローパケットにおける隣接局情報の有無及び隣接局情報の種類に関する判断機能である。先にも述べたように、各局により送信されるハローパケットには、実質的な情報としては自局情報のみを含むもの(機能204によるもの)、自局情報に加え隣接局情報として差分情報を含むもの(機能210によるもの)、並びに、自局情報に加え隣接局情報として全隣接局情報を含むもの(機能214によるもの)、の三種類がある。機能226では、受信したハローパケットが、自局情報のみを含むもの又は自局情報と差分情報を含むものであるのか、それとも自局情報と全隣接局情報を含むものであるのかを、判断する。自局情報のみを含むもの又は自局情報と差分情報を含むものであると判断された場合は、機能234による処理に移る。即ち、データベース212に関し、受信したハローパケット中に含まれている自局情報に基づく隣接局情報の登録・更新を行う一方、受信したハローパケットに差分情報が含まれているのであればその差分情報に基づく隣接局情報・2hop局情報の登録・更新を行う。
【0034】
機能226にて自局情報と全隣接局情報を含むものであると判断された場合は、機能228による参入局フラグの判別が行われる。参入局フラグは参入局が検出されたとき(機能220,222)や退出局が検出されたとき(機能234)にONされ、隣接局情報を含むハローパケットが送信されたとき(機能216)OFFされるので、機能228にて参入局フラグ=ONと判別される場合とは、自局が前回ハローパケットを送信してから現時点までに参入局又は退出局に該当する局を少なくとも1個は検出している場合である。そこで、この場合は、続いて機能230による差分情報生成要否判別が実行される。逆に、機能228にて参入局フラグ=OFFと判別された場合即ち前回のハローパケット送信から現時点までに参入局も退出局も検出していない場合や、機能230にて差分情報生成不要と判別された場合は、機能234による処理に移行する。即ち、後二者の場合は、データベース212に関し、受信したハローパケット中に含まれている自局情報に基づく隣接局情報の登録・更新を行う一方、受信したハローパケットに含まれている全隣接局情報に基づく隣接局情報・2hop局情報の登録・更新を行う。
【0035】
機能230にて差分情報生成不要と判別されるのは、受信したハローパケットに含まれている全隣接局情報(及び自局情報)が、前回自局がハローパケットを送信してから現時点までに自局が検出した参入局及び退出局のうち少なくとも何れかに関する情報を含んでいない場合である。例えば、第0の局のデータベース212に第1、第2及び第3の局が「既存局」として、第4及び第5の局が新規の「参入局」として登録されている状態で、第0及び第2の局を「既存局」、第3の局を「削除局」、第4の局を新規の「参入局」とする全隣接局情報を含むハローパケットを、第1の局から第0の局が受信したとする。この場合は、第0の局により検出された参入局である第4及び第5の局に関する情報のうち、第5の局に関する情報が第1の局からのハローパケットに含まれていないので、第0の局では差分情報は作成されない。
【0036】
逆に、前回自局がハローパケットを送信してから現時点までに自局が検出した参入局及び退出局全てに関する情報を全隣接局情報(及び自局情報)中に含むハローパケットを受信した場合は、機能230により、差分情報を生成すべきであると判断され、機能232により差分情報作成が実行される。機能232は、受信したハローパケットに含まれている全隣接局情報に対して、自局のデータベース212上の隣接局情報が有している相違部分、即ち差分を導出し、当該差分を示す差分情報をデータベース212に書き込む。
【0037】
例えば、第0の局のデータベース212に第1、第2及び第3の局が「既存局」として、第4及び第5の局が新規の「参入局」として登録されている状態で、第0及び第2の局を「既存局」、第3及び第4の局を「削除局」、第5の局を新規の「参入局」とする全隣接局情報を含むハローパケットを、第0の局が第1の局から受信したとする。この場合は、前回のハローパケット送信以後に第0の局が検出した参入局である第4及び第5の局に関する情報がいずれも第1の局からのハローパケットに含まれているので、第0の局は、第1の局からの全隣接局情報に基づき差分情報を作成する。第1の局からの全隣接局情報と第0の局のデータベース212上の情報によれば、第0及び第1の局の何れにとっても第2の局は「既存局」であり第5の局は「参入局」であるが、第3の局は第0の局にとっては「既存局」であるのに第1の局にとっては「削除局」であり、第4の局は第0の局にとっては「参入局」であるのに第1の局にとっては「削除局」であることから、この場合には、差分情報としては、第3の局が「既存局」であり第4の局が「参入局」であることを示す差分情報であって第1の局を差分局とする差分情報が作成され、データベース212に書き込まれる。より近い内容の全隣接局情報を含むハローパケットが他局から到来しない限りは、この差分情報が機能210にて使用される。
【0038】
データベース212に書き込まれた差分情報は、既に述べたように、機能210にてハローパケットの生成に用いられる。但し、作成された差分情報全てが使用される訳ではない。即ち、一旦ある局からの全隣接局情報に基づき差分情報を作成してデータベース212に書き込んだが、その後自局からのハローパケットの送信前に、より差分の小さい全隣接局情報を受信しそれを利用して差分情報を作成してデータベース212に書き込むことができた場合、後で作成された差分情報を使用してハローパケットの作成及び送信が行われるため、先に作成された差分情報はハローパケットの作成及び送信には使用されない。
【0039】
例えば、第1の局からの全隣接局情報に基づき差分情報を作成しデータベース212に書き込んだとする。また、その後、第2の局から全隣接局情報を含むハローパケットを受信し、そのハローパケットには、自局によるハローパケットの前回送信以後に自局が検出した参入局全てに関する情報が含まれていたとする。更に、自局のデータベース212上の情報に対する差分を比較すると、第2の局からの全隣接局情報の方が第1の局からの全隣接局情報に比べ情報量が少ない(差分情報を構成する局数が少ない)ものとする。この場合には、機能232では、第2の局からの全隣接局情報に関して差分情報を作成し、データベース212に書き込む。先に書き込んである差分情報即ち第1の局からの全隣接局情報に基づき作成した差分情報をこの段階で削除してもよいし、機能210にてより新しい(小さい)差分情報を選択できるように情報を付してデータベース212への差分情報書込を行うようにしてもよい。
【0040】
このように、本実施形態に係るシステムを構成する各局においては、自局が前回ハローパケットを送信してから現時点までに参入局も退出局も検出していない場合には、自局情報を含むが隣接局情報を含まないハローパケットの送信を行う。参入局も退出局も検出されない状況とは、少なくとも自局の1hop圏内における自局に対する他局の相対移動がさほど大規模でなくまた各局の置かれている無線環境が安定している状況、即ち近隣におけるネットワーク構造が安定している状況である。本実施形態では、このような基本的状況では隣接局情報を含まないハローパケット、即ち全隣接局情報又は差分情報を含むハローパケットや従来のOLSRにおけるハローパケットに比べ情報量が少ないハローパケットを、送信するようにしているため、ハローパケットによる帯域圧迫(ハローパケットによる帯域占有率の一時的な高まり又は恒常的に高い帯域占有率)を、回避又は緩和することができる。また、自局情報のみとはいえ、ハローパケットの送受信を行っているため、各局が自局の1hop圏内にいる他局に対して自局の存在を知らしめることができる。そのため、ハローパケットの受信状況や受信したハローパケット中の自局情報に基づき、参入局や退出局を各局が検出することができる。
【0041】
また、本実施形態に係るシステムを構成する各局においては、自局が前回ハローパケットを送信してから現時点までに参入局か退出局を検出した場合に、隣接局情報を含むハローパケットを送信するようにしているため、各局が自局の2hop圏内に存する他局に関する最新の情報を取得及び保持することができる。従って、自局から2hop圏内に対しては、最新の経路情報がデータベース212に蓄えられることとなるため、データ通信に当たって経路を迅速に決定できる。自局から2hop圏内の各局に至る通信経路は局毎にそれぞれ複数あるのが一般的であるが、自局情報の送受信を通じて各局がそのデータベース212に「安定度」等の情報を蓄えているため、MPR方式による中継局選択により経路選択を好適に実行できる。なお、従来のOLSRに関するものであるが、MPRについてはURL=http://www.ietf.org/等に所載の文献を参照されたい。また、自局から2hop圏外の局との通信のための経路は、その種の局との通信の頻度が少ないことから、オンデマンド型経路制御方式に従い決定すればよい。
【0042】
更に、自局が前回ハローパケットを送信してから現時点までに検出した全ての参入局及び退出局に関する情報を含む全隣接局情報を載せたハローパケットを他局から受信した場合、即ちネットワーク構造の変化に関する情報が自局に先んじて他局から送信されている場合に、全隣接局情報ではなく、当該他局からの全隣接局情報に対する差分情報、即ちより情報量の少ない情報を載せてハローパケットを送信するようにしているため、ハローパケットによる帯域圧迫を更に緩和することができる。また、自局が前回ハローパケットを送信してから現時点までに検出した全ての参入局及び退出局に関する情報を含む全隣接局情報を載せたハローパケットを複数の局から受信した場合は、その中で差分情報の情報量がもっとも小さくなるであろう局、即ちシステムを構成する他局に対するその局の相対的な位置関係が、システムを構成する他局に対する自局の相対的な位置関係にもっとも近いと推定できる局を、選ぶようにしている。即ち、差分情報の情報量がもっとも少なくなる局からの全隣接局情報に対する差分情報を載せてハローパケットを送信することとしているため、ハローパケットによる帯域圧迫を更に緩和することができる。
【0043】
本実施形態の動作及び効果をより具体的に説明するため、次に、図3に例示する置局状況にてどのような内容のハローパケットが送受信されるかを述べる。この図に示されるシステムは、局1〜5及びAのみにより構成され局間の無線通信を電波により行うシステム、例えば無線LANであるとする。また、図中の「電波伝搬エリア」との説明が付されている円は、局1及び3の1hop圏を概念的に示したものである。説明の簡単化のため、全局とも、1hop圏の大きさ及び形状は同じであるとする(例えば片方向リンクは生じない)。また、局1及び3は、例えば無線LANのアクセスポイント(固定局)、他の局はステーション(移動局)である。更に、ハローパケットの送信タイミングは、局毎に独立して決めるものの、局A→1→2→3→4→5→A→…というように巡ってくるものとする。なお、以上の想定は一例に過ぎず、本発明は無線LAN以外のシステムでも、固定局を含まないシステムでも、また電波以外の無線媒体でも実施できる。
【0044】
ここでは、まず、局Aが、局1〜5の何れの1hop圏にも入っていない位置にしばらく存在していたが(状態1)、このたび局1〜4の1hop圏に入ったとする(状態2)。但し、状態2でも、局5の1hop圏には入っていないものとする。状態1にある間、局Aは、前回のハローパケットの送信から現時点までの間に参入局も退出局も検出していないため、状態2に移った後他局からハローパケットを受信しないままハローパケット送信タイミングを迎えた場合は、自局情報を含むが隣接局情報を含まないハローパケットを送信する。このハローパケットは、局1〜4により受信されるが局5は受信できない。局1〜4は、このハローパケットの受信を通じて、局Aを自局にとっての参入局として検出する。
【0045】
次にハローパケット送信タイミングが巡ってくる局1は、局Aに関する情報を含む全隣接局情報を載せたハローパケットを何れの局からも受信しないまま、ハローパケット送信タイミングを迎える。加えて、局Aを参入局として検出済であるので、局1は、自局情報及び全隣接局情報を含むハローパケットを送信する。局1の1hop圏内に以前から局2及び局4が存在しておりそれらが局1内に既存局としてデータベース登録されていたとすると、このとき局1から送信される全隣接局情報は、局2及び局4が既存局であることを示す情報と、局Aが参入局であることを示す情報を含む情報となる。この全隣接局情報を含むハローパケットは、局1の1hop圏内に存在する局A、局2、局4により受信される。局2及び局4にとっては局1は自局の1hop圏内に以前から存在していた既存局であり、また局2及び局4も局Aを参入局として検出しているので、局2及び局4は、局1に関する「安定度」等の情報の更新や差分情報の作成を実行する。なお、後述のように、局1からのハローパケットに基づき局4が作成した差分情報は、結果としては送信されない。また、局1は、局Aにとっては自局の1hop圏内に新規に参入した参入局である。局Aは、局1からのハローパケットの受信を通じて、局1を参入局として検出しデータベース登録する。また、局Aは、局1からのハローパケットに含まれる隣接局情報に基づき、局2、局4を自局の2hop局としてデータベース登録する。
【0046】
次にハローパケット送信タイミングが巡ってくる局2は、局A及び局1からハローパケットを受信した後に、ハローパケット送信タイミングを迎える。即ち、局Aからのハローパケットの受信により局Aを自局の1hop圏内への参入局として検出した後、自局が検出した全ての参入局である局Aに関する情報を含む全隣接局情報を局1から入手した上で、ハローパケット送信タイミングを迎える。従って、このとき局2から送信されるハローパケットは、自局情報及び差分情報を含むパケットとなり、その差分情報は局1からの全隣接局情報に対する差分情報となる。局2の1hop圏内に従来から局1、局3、局4が存在しておりそれらが既存局としてデータベース登録されていたとすると、局1からのハローパケットには局3に関する情報が含まれていないため、局2により送信されるハローパケットは、自局情報に加えて、局3が既存局であることを示す差分情報及び局1が差分局であることを示す情報を含むパケットとなる。このハローパケットは、局2の1hop圏内に存在する局1、局3、局4、局Aにより受信される。局1、局3、局4にとって局2は既存局でありまた受信したのが差分情報であるため、局1、局3、局4は局2に関する「安定度」等の情報を更新する。差分情報は生成しない。また、局2は、局Aにとっては参入局である。局Aは、局2からのハローパケットの受信を通じて、局2を参入局として検出してデータベース登録し、また、局3を自局の2hop局としてデータベース登録する。
【0047】
次にハローパケット送信タイミングが巡ってくる局3は、局1の1hop圏外に存在する局であるため局1からのハローパケットは受信できない。従って、局A及び局2からハローパケットを受信した状態で、ハローパケット送信タイミングを迎える。即ち、局Aを参入局として検出及びデータベース登録した後、局Aに関する情報を含む全隣接局情報を受信しないまま、ハローパケット送信タイミングを迎える。そのため、局3により送信されるハローパケットは、自局情報及び全隣接局情報を含むハローパケットとなる。以前から局3の1hop圏内に局2、局4、局5が存在しておりそれらの局がデータベース登録されていたとすると、このとき局3が送信する全隣接局情報には、局2、局4、局5、局Aに関する情報が含まれることとなる。局3の1hop圏内に存在する局2、局4、局5、局Aは、この全隣接局情報を含むハローパケットを受信する。それらのうち局2、局4は局Aからのハローパケットの受信により局Aを参入局として検出しているが、局2では参入局検出後ハローパケットを送信するとき参入局フラグをOFFしているので差分情報は作成されず、これに対して局4では作成される。また、局Aはこの受信を通じて局3を参入局として検出及びデータベース登録し、局5を自局の2hop局に追加するデータベース登録を行う。
【0048】
次にハローパケット送信タイミングが巡ってくる局4は、局1、局2、局3、局Aの1hop圏内であって局5の1hop圏外である位置に存在する局であるため、局A、局1、局2、局3それぞれによって送信されたハローパケットを受信した上で、ハローパケット送信タイミングを迎える。即ち、局Aを参入局として検出及びデータベース登録した後、検出した全ての参入局である局Aに関する情報を含む全隣接局情報を局1及び局3から受信した上で、ハローパケット送信タイミングを迎える。従って、局4は、自局情報及び差分情報を含むハローパケットを送信する。また、局1からの全隣接局情報は局2、局4、局Aに関する情報を含む情報であるのに対し局3からの全隣接局情報は局2、局4、局5、局Aに関する情報を含む情報であり、局4は局1、局2、局3、局Aを隣接局として(また局5を2hop局として)データベース登録している局であるから、局3からの全隣接局情報をもとに差分情報を作成した方が差分情報の情報量が少なくなる。従って、局4により送信される差分情報は、局3からの全隣接局情報をもとに作成された差分情報、即ち、局3を差分局とし、局1を既存局とする情報となる。
【0049】
次にハローパケット送信タイミングが巡ってくる局5は、局Aの1hop圏外に存在しているため、局Aからのハローパケットを受信できない。即ち、参入局も退出局も検出しないままハローパケット送信タイミングを迎えるため、自局情報を含むが隣接局情報を含まないハローパケットを送信する。このハローパケットは局3により受信されるが、局3にとって局5は既存局であるので、局3では安定度に関する情報の更新等が行われるにとどまる。
【0050】
ハローパケット送信タイミングが一巡して局Aに巡ってきた時点では、局Aは局1、局2、局3、局4からのハローパケットの受信を通じてそれらの局を参入局として検出している。しかし、それらのハローパケットの中には、前回のハローパケット送信以降に局Aが検出した参入局である局1、局2、局3、局4の全てに関する情報を含むハローパケットはない。従って、局Aは、自局情報及び全隣接局情報を含むハローパケットを送信する。この後、各局が移動せずまた電波環境等に有意な変化がない限りは、システムの状態は、各局がハローパケットとして自局情報を含むが隣接局情報は含まないパケットを送信する安定した状態を維持する。
【0051】
図4に、本実施形態による帯域圧迫回避抑制効果、特に差分情報の送信による効果を調べるためのシミュレーションの結果を示す。このシミュレーションは、250m×250mのエリア内に、それぞれ半径250mの1hop圏を有する200個の局を、乱数的に即ち一様に配置し、ハローパケットにより占有される伝送帯域幅を調べるシミュレーションである。また、各局の移動速度は最大10m/secの範囲で乱数的に設定しまた変化させている。各局の移動方向も乱数的に設定しまた変化させている。更に、この図の横軸は秒単位、縦軸はMbps単位である。表示されているシミュレーション結果は、ハローパケットにより占有される帯域幅を1秒ごとに累積計数した数値を、Mbps単位で表したものである。また、図中のスミヌリのバーは、本実施形態のように、自局情報のみ、自局情報+差分情報、自局情報+全隣接局情報の3通りのハローパケットを参入・退出の検知及び他局からの受信内容に応じて選択的に送信した場合を、白抜きのバーは、自局情報のみ、自局情報+全隣接局情報という2通りのハローパケットを参入・退出の検知に応じて選択的に送信した場合を、それぞれ示している。
【0052】
システム一斉稼働開始から数秒という期間は、全ての局にとって他の局全てが参入局である、という特殊な期間である。従って、図示されている期間は、隣接局情報を含むハローパケットによる帯域圧迫が生じやすい期間である。この図から明らかなように、差分情報の送信を行わないシステムでは1.6Mbpsもの帯域がハローパケットにより占有される状況でも、本実施形態においては差分情報の送信による帯域削減効果が生じ、ハローパケットによる帯域占有幅は0.8Mbpsに満たない帯域幅に抑えられる。より長い時間が経過すれば、ハローパケットによる帯域占有幅は更に抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の一実施形態に係る無線通信システムを構成する局の機能構成、特にハローパケットの送受信に関連する機能の構成を示す図である。
【図2】 本実施形態におけるハローパケットの構成、特にそのデータ領域のフォーマットを示す図である。
【図3】 本実施形態におけるハローパケット送受信形態を例示説明するための局配置変化図である。
【図4】 本実施形態の利点、特に差分情報によりもたらされる効果を示すシミュレーション結果図である。
【図5】 従来のOLSRにおけるハローパケットの構成、特にそのデータ領域のフォーマットを示す図である。
【図6】 従来技術に係る無線通信システムを構成する局の機能構成、特にハローパケットの送受信に関連する機能の構成を示す図である。
【符号の説明】
204,210,214 ハローパケット生成機能、206 ハローパケット送信機能、212 データベース、218 ハローパケット受信機能、220 参入局検出機能、232 差分情報生成機能、234 データベース登録更新機能。

Claims (3)

  1. 移動局を含む複数の局により構成され、局間の直接無線接続又はその連鎖であるところの通信経路を介し任意の局間で又は局とシステム外部との間で通信を行う移動無線通信システムであって、各局が、自局が使用しうる通信経路に関する情報として、自局にとって隣接局に関する隣接局情報並びに自局にとっての2hop局に関する2hop局情報を自動取得して蓄え随時自動更新する無線通信システムにおいて、
    各局が、
    隣接局情報及び2hop局情報を、それらの局の種別及び無線通信状態に関する情報と共に、経路情報又はその一部として蓄えるためのデータベースと、
    その送信元を示す自局情報を周期的に無線送信することによって自局から1hop圏内に対し自局の存在を通知する自局情報提供手段であって、自局情報の前回の無線送信から今回の無線送信までに下記他局情報取得手段により参入局又は退出局が検出されている場合に限り、上記データベース上の隣接局情報を付してこの自局情報の無線送信を実行する自局情報提供手段と、
    他局から自局情報及び隣接局情報を無線受信し受信した自局情報及び隣接局情報に基づき上記データベース上の隣接局情報及び2hop局情報を自動更新する他局情報取得手段であって、自局の1hop圏内に新規参入した参入局及び自局の1hop圏内から退出した退出局を、他局から受信した自局情報、他局からの自局情報の受信状況及び上記データベース上の情報に基づき検出する他局情報取得手段と、
    を備えることを特徴とする無線通信システム。
  2. 請求項1記載の無線通信システムにおいて、
    自局情報提供手段が、自局情報の前回の無線送信から今回の無線送信までに、
    他局情報取得手段により参入局又は退出局が検出されており、かつ、他局情報取得手段が参入局又は退出局として検出した全ての局に関する情報が任意の局から自局情報又は隣接局情報として受信されている場合には、当該任意の局から受信した情報に対する自局の上記データベース上の隣接局情報の差分を示す差分情報を、当該任意の局により送信された情報に対する差分であることを示す情報と共に、隣接局情報として付して自局情報の無線送信を実行することを特徴とする無線通信システム。
  3. 請求項2記載の無線通信システムにおいて、
    自局情報提供手段が、自局情報の前回の無線送信から今回の無線送信までに、
    他局情報取得手段により参入局又は退出局が検出されており、かつ、他局情報取得手段が参入局又は退出局として検出した全ての局に関する情報が複数個の任意の局から共に自局情報又は隣接局情報として受信されている場合には、当該複数個の任意の局のうち、自局の上記データベース上の隣接局情報に近い内容を有する情報の送信元を選び、選んだ局から受信した情報に対する自局の上記データベース上の隣接局情報の差分を示す差分情報を、当該任意の局により送信された情報に対する差分であることを示す情報と共に、隣接局情報として付して自局情報の無線送信を実行することを特徴とする無線通信システム。
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