JP3942963B2 - 2次構造体として板状のオキシ水酸化鉄、酸化鉄、マグネタイトおよびその製造方法 - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、不要高周波輻射の吸収に有効とされる板状フェライト粒子の原料並びに高透磁率複合磁性成型物の構成物である板状フェライト磁性体の原料としての板状の鉄酸化物、優れた防錆効果を示すとされる天然MIO(雲母状酸化鉄)顔料に替わりうる板状酸化鉄、さらに生体に安全な光沢顔料、黒色顔料としての板状酸化鉄、板状マグネタイトおよびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年の目覚ましい電子部品、電子機器の小型化、高速化に伴って不要輻射ノイズの低減は大きな課題となっている。このための研究が種々なされた結果、高周波帯域での不要輻射は、吸収素子を構成するフェライト磁性体の形状が扁平(板状と同義)であるとき、優れた吸収特性を示すことがわかってきた。例えば、特開2001−210924号公報では、扁平状フェライト粒子を有機絶縁樹脂内に同一方向に配向させることによって、1GHz以上の高周波帯域において優れたノイズ吸収特性を示す回路基板および電子部品について開示している。
【0003】
しかし、ここで用いた扁平状フェライト粒子は、特開2001−284118号公報で開示されているように、粒状酸化鉄を原料として製造した通常のフェライト粒子をシート状に成型したのち焼成、粉砕して見かけ上扁平にしたものである。この方法では製造工程が複雑であるばかりでなく、扁平粒子の厚みを薄くすることに限界があり扁平形状に由来する反磁界係数の低下が十分でないため、所望の磁気特性が得られないとされる。また、等方性粒子を扁平状に焼結させたものであるから、扁平面内の強度が特に大きいわけではなく、樹脂との混練などの後工程で扁平性の維持が困難である。
【0004】
また、特開2000−252113号公報では、オートクレーブを用いて水熱合成した板状α−Fe2 O3 を原料として、組成や焼成温度を工夫して板状フェライト粒子を製造し、これを用いた低周波帯での比透磁率が高く、高周波帯での電磁波吸収特性に優れたフェライト粒子複合体が開示されている。しかし、ここでは水熱合成反応を用いるため、まず製造コストが高い。次に水熱合成品は粒子が緻密なのでフェライト化には高温が必要で、高温では板状が壊れ易いという難点があり、実用化には至っていない。
【0005】
さらに、高密度焼結フェライトの原料として板状フェライトを利用する提案が、特開昭62−3021号公報、特許第3242744号にあるが、前者はオートクレーブを用いて盤状ゲーサイトを製造し盤状酸化物を得る方法、後者は粒状微粉末フェライトをシート状に乾燥して見掛け上の板状フェライトを製造するもので、前述と同じ難点を有している。また、フラックス法を用いて板状フェライト粒子粉末を製造する方法が、特開平5−45527号公報に示されているが、フラックス法利用は高温での煩雑な作業でコスト高になるうえに、板状粒子としては小さいものしか得られず、あまり実用的ではない。
【0006】
次に、板状酸化鉄(α−Fe2 O3 )は塗膜中で層状に配向するため、塗膜表面からの水分、ガスなどの侵入を防ぎ、仮に表面のビヒクル(展色材:塗料の中の顔料以外の成分)が劣化しても板状多層面が風化と腐食に耐え下層の塗膜を保護するという仕組みで耐候性に優れていることが知られている。しかしながら、これまで実用に供された板状酸化鉄は天然MIO(雲母状酸化鉄)のみで、これも不純物含有量の少ない良質品の埋蔵量が少なく、現在では殆ど流通していないと言われる。
【0007】
一方、天然MIOの特性を持つ板状酸化鉄の合成が試みられ、特公昭49−44878号公報、特公昭55−16978号公報にその製法が開示されているが、これらも水熱合成反応を利用しているため製造コストが嵩む上に大きい粒子を得難いという欠点があり、実用化には至っていない。
さらに、無機顔料は有機顔料に比べ、生体や環境への安全性が高いことが知られているが、着色性や発色性に劣ることから、化粧品や身の回り品の着色材としての利用はそれほど多くはない。光沢性・装飾性の高い安価で安全な無機顔料が望まれている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、フェライト磁性体、防錆塗料および顔料等の分野においては、酸化鉄の形状を板状にすれば多くの利点があることは分かっているが、これまでは粒子そのものが板状である酸化鉄を安価で安定的に製造することが出来なかった。さらに、最近の高周波用フェライト磁性体の分野では、板状のアスペクト比(d/t)を大きくすることが求められるようになってきたが、従来の技術ではやはり安価に安定的に製造できないばかりでなく十分な磁気特性が得られていない。本発明は、アスペクト比(d/t)の大きさを用途に応じて自由に調整した粒子そのものが板状である酸化鉄を安価に安定的に提供することを目的とする。また、板状の酸化鉄が得られればその形状を維持したマグネタイト、マグヘマイトは通常の方法で製造することが出来る。本発明はそのような板状のオキシ水酸化鉄、酸化鉄の製造方法を提供することも目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上述したように、水熱合成反応やフラックス法によって製造される板状酸化鉄は、粒子そのものが板状の単結晶体であるがいくつかの欠点がある。上記の課題を解決するには、粒子そのものが板状で、かつアスペクト比(d/t)を大きくできれば、酸化鉄粒子は必ずしも単結晶体である必要はなく、多結晶体でも良い。本発明はこの点に着目して見出したもので、常圧で室温〜70℃の比較的低い温度の溶液から、2次構造体として結晶性のオキシ水酸化鉄膜を析出させることによって、2次構造体として板状の酸化鉄多結晶体を得るものである。
【0010】
その発明の要旨とするところは、
(1)第1および第2鉄イオンを含む水溶液から常圧で析出させるオキシ水酸化鉄であって、針状または柱状の1次粒子が、2次構造体として結晶性の膜として析出し、剥離して2次構造体として板状である多結晶オキシ水酸化鉄。
(2)前記(1)に記載の2次構造体として板状である多結晶オキシ水酸化鉄を加熱・脱水してなる2次構造体として板状であるα型酸化鉄。
(3)前記(2)に記載の2次構造体として板状であるα型酸化鉄を還元してなる2次構造体として板状であるマグネタイト。
(4)前記(3)に記載の2次構造体として板状であるマグネタイトを酸化してなる2次構造体として板状であるγ型酸化鉄。
【0011】
(5)前記(1)に記載の2次構造体として板状であるオキシ水酸化鉄の剥離面が緻密で光沢性を示すこと、および/またはX線回折図形において通常とは異なる結晶面が発達していることを特徴とする2次構造体として板状であるオキシ水酸化鉄。
(6)前記(2)に記載の2次構造体として板状であるα型酸化鉄の剥離面が緻密で光沢性を示すこと、および/またはX線回折図形において通常とは異なる結晶面が発達していることを特徴とする2次構造体として板状であるα型酸化鉄。
【0012】
(7)前記(1)に記載の2次構造体として板状のオキシ水酸化鉄を製造するに際し、pH=−1.0〜2.0、Fe2+/Fe3+=0.2〜20に設定し、常圧で室温〜70℃に保つことによって、2次構造体として結晶性のオキシ水酸化鉄膜を析出させ、これを剥離して2次構造体として板状である粒子となすことを特徴とするオキシ水酸化鉄の製造方法。
(8)前記(2)に記載の2次構造体として板状のα型酸化鉄の製造方法であって、請求項1に記載の2次構造体として板状のオキシ水酸化鉄を加熱・脱水するに際し、脱離したH2 O等加熱時発生成分を直ちに排出させることによってオキシ水酸化鉄の2次構造体としての板状性を保持することを特徴とする2次構造体として板状のα型酸化鉄の製造方法である。なお、加熱時発生成分とは、H2 Oは勿論、Cl分、SO2 、NO2 等を意味する。
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。
鉄塩溶液から沈澱・析出する化合物はその種類が非常に多く、反応系は複雑である。Feイオンの種類と濃度、反応系の温度、pH、共存する陰イオンの種類、酸化剤の有無によって、多様な沈澱が生成する。その代表的なものは、オキシ水酸化鉄(FeOOH、α、β、γ、δの構造異性体がある)で、このうちα型オキシ水酸化鉄は、磁気記録材料の中心をなすγ−Fe2 O3 の原料として知られている。これらを含め、これまで知られている鉄塩溶液からの沈澱・析出物は無定形あるいは結晶性に拘わらず細かい粒子として母液から分離され、乾燥すると粉末状態になる。
【0014】
ところが、本発明では、系の条件を選ぶことによって、溶液内の固体表面にオキシ水酸化鉄の粒子が固体表面に直角に方位を揃えて析出、結晶化し、2次元の広がりを持った結晶性の膜を形成することを見出した。この膜は時間と共に厚くなり、一定の厚み(約3μm)以上になると剥離して見かけ上板状の粒子になる。このように成長した板状粒子は、剥離面が緻密で光沢を示し、緻密度が増すとX線回折で特異成長した結晶面が認められる単結晶性を示すが多結晶体であって、板状性は極めて安定である。なお、固体表面への結晶性膜の析出と同時に液表面に結晶性膜が少量析出することもある。この膜は固体表面に析出したものより緻密度が高いが、板状性、結晶性は同じである。
【0015】
図1は粒子の形状を示すSEM像(走査型電子顕微鏡写真)である。図1(a)はFeOOHのSEMによる50倍の顕微鏡写真であり、図1(b)はα−Fe2 O3 のSEMによる50倍の顕微鏡写真であり、いずれもオキシ水酸化鉄およびα型酸化鉄の全体像を示すSEM像である。また、図1(c)はα−Fe2 O3 断面のSEMによる500倍の顕微鏡写真である。図1(c)に示すように、板状断面のSEM観察によると、針状または柱状の1次粒子が固体表面に対して直角方向に、互いに平行または放射状に整列して成長し、これが結晶化した2次粒子が基本単位となっていることが分かる。常圧でかつ室温〜中温度の溶液からの析出物としては、従来知られていない結晶性の2次および3次構造体を形成していると考えられ、その結果、単なる1次粒子の集合体にはない機械的強度を発現し、板状形状が安定になると考えられる。
【0016】
板状面の形は不定形であるが、軽く粉砕することによって任意の板面径に調節することができ、5μmから最大数mmの大きさまでが可能である。大きさの調整にはメッシュ篩を使用することができる。厚みは反応時間に比例し、剥離が容易になる3μm以上であれば任意に調整できるので、アスペクト比を自由に調整できる。最大長径dと厚みtとのアスペクト比(d/t)は2以上であれば形状異方性の効果が現われ、この値が大きい程その効果も大きくなる。析出させる固体の材質は特に選ばない。ガラス、磁器、プラスティック、金属など何でもよい。
【0017】
この板状オキシ水酸化鉄を、2次構造体が壊れない条件で加熱・脱水すると2次構造体として板状のα型酸化鉄が得られる。加熱することによって結晶性が向上し、より強固な2次構造体としての板状晶になる。これを、前述のフェライト用原料や塗料用顔料に利用する。なお、フェライト用には、脱水前のオキシ水酸化鉄のままでも十分利用できる。オキシ水酸化鉄からの方が低温でフェライト化し易いという利点があるが、組成合わせなどの作業性はα−Fe2 O3 にしてからの方が良い。
【0018】
本発明による板状酸化鉄が2次構造体の多結晶体であることは、フェライト磁性体の原料として有利である。天然MIO並びにオートクレーブを用いた水熱合成反応で得た単結晶体の板状酸化鉄は、粒子の緻密度が高いためにフェライト化には高温反応を必要とする上に、フェライト化反応と共に起こる結晶構造の組替えが形状にまで反映して板状が壊れ易い。本発明による板状酸化鉄は緻密度がほどほどであるから、フェライト化のような他成分との固相反応は低温で進み、かつ結晶構造の組替えが起こっても多結晶体なので形状の変化までは影響が及ばないので、コストおよび形状の維持の両面で優位である。2次構造体として板状のマグネタイト(Fe3 O4 )およびマグヘマイト(γ−Fe2 O3 )は、上記の板状酸化鉄を還元・酸化して得られる。マグネタイトおよびマグヘマイトはヘマタイトとともに磁性材料としての用途の他に、光沢性を利用した装飾顔料として、さらにマグネタイトはカーボンに替わり得る生体安全性の高い黒色顔料としての利用が考えられる。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明に係る結晶性オキシ水酸化鉄膜の析出は以下のように実施できる。
水溶液中でのFe2+、Fe3+イオンは、通常正八面体の6つの頂点に水分子を配位した中心にあって、水和イオンになっているといわれる。このうちFe3+イオンが他の水分子と反応してH+ (H3 O+ )を放出する反応が加水分解反応で、プロトリシス(protolysis)と呼ばれ下記にように進み、溶液の酸性度を増す。
Fe(H2 O)6 3+ +H2 O ←→ Fe(OH)(H2 O)5 2+ +H3 O+ … (1)
Fe(OH)(H2 O)5 2+ +H2 O ←→ Fe(OH)2 (H2 O)4 + +H3 O+ … (2)
【0020】
なお、Fe3+イオンの加水分解は、配位したH2 O分子6ケが一つずつOH基に置き換わっていく。上記にその内の初めの2つを、下記に最後の式を示し、中間の式3つは省略した。
Fe(OH)5 (H2 O)2-+H2 O ←→ Fe(OH)6 3- +H3 O+ … (3)
プロトリシスで生成した錯イオンは互いに重合反応を起こし、最終的にはオキシ水酸化鉄などとして沈澱・析出する。
【0021】
2Fe(H2 O)5 (OH)2+ ←→ [(H2 O)5 Fe−O−Fe(H2 O)5 ]4++H2 O … (4)
[Fe(H2 O)5 −O−Fe(H2 O)5 ]4++H3 O+ ←→ [(H2 O)5 Fe−OH−Fe(H2 O)5 ]5++H2 O … (5)
重合反応は、−O−または−OH−による架橋反応で、(4)式の反応はoxolation、(5)式の反応はolationと呼ばれる。通常はまず正八面体が2個つながった2核錯体ができ、それが基本となって重合が進むが、重合ポリマーが無定形になるか、結晶性の粒子に成長するかは、Feイオンの種類と濃度、反応系の温度、pH、共存する陰イオンの種類と濃度、溶存酸素量または酸化剤の有無等によって異なり大変複雑であることが知られている。
【0022】
重合の模型を以下に示す。
【0023】
【化1】
【0024】
鉄塩溶液からオキシ水酸化鉄の多結晶体を膜状に析出させるためには、加水分解反応と重合反応の速度を適度に抑制してやれば良い。加水分解が急速に進んで価数の低い錯イオンが増えると、重合も急速に進み生成ポリマーは不規則になりやすく、析出するオキシ水酸化鉄は無定形になり易い。本発明は上記の知見に基づいているものである。つまり、加水分解速度をできるだけ遅くするために、系のpHを加水分解が始まるとされる下限域(−1.0〜2.0)に設定し、全Fe濃度を1.5〜5.0mol/lとやや高めにして、アルカリや酸化剤は用いずに溶液に接する気相から溶解してくる酸素のみを酸化に用い、温度は室温〜70℃の比較的低温で行う。すなわち、pH:−1.0〜2.0とした理由は、pH−1.0未満では加水分解に先立つFe2+イオンのFe3+イオンへの酸化が殆ど進まず、また、pH2.0を超えるとFe3+イオンの加水分解速度が大きすぎて生成物は膜を形成しない。従って、その範囲を−1.0〜2.0とした。
【0025】
Fe3+イオンを含む溶液に、Fe2+イオンを適当量(Fe2+/Fe3+=0.2〜20)添加して静置すると、50℃の場合は3日〜4日で剥離可能な厚さに成長する。Fe2+/Fe3+が0.2未満では膜の成長は極めて遅く、20を超えると加水分解速度が大きすぎて微細粒子となり膜は成長しない。膜の析出に伴い系のpHは上昇してくる。これは良く知られているFeイオンの加水分解並びに酸化反応とは異なる。通常のFeイオンの加水分解、酸化反応ではpHは必ず低下する。本発明の系でも条件を所定の範囲からずらすと、つまり加水分解、酸化反応速度を大きくし過ぎるとpHは低下し、一般的に知られている細かい粒子のオキシ水酸化鉄沈澱が得られ膜は生成しない。
【0026】
また、系に接する気相は、空気または空気と酸素の混合ガスで常圧である。酸素分圧が大きいほど析出速度は大きくなる。反応温度が高いほど、Fe2+イオン濃度が大きいほど、析出速度は大きくなるが、速度を大きくし過ぎると生成した膜内の1次粒子の配向性が低下し、板状粒子の緻密度が低下する。
【0027】
α−Fe2 O3 はFeOOHを加熱・脱水して得るが、2次構造体としての板状形態を維持するには、脱離するH2 OやCl成分等を速やかに排出させる条件で行うことが必要である。H2 OやCl成分等の分圧が上がると、2次構造体としての板状は壊れて普通の粉末になる。加熱は、400〜800℃で30分〜1時間で十分で、加熱炉内に空気を送るか、または十分に内容積の大きい密閉ではない加熱炉を用いれば良い。加熱温度が高いと結晶性がより良好なα−Fe2 O3 を得るが、その後フェライト化などの固相反応を行う場合には、あまり結晶性を上げて緻密にしない方が良い。
【0028】
図2はα−Fe2 O3 のX線回折パターンを示す図である。図2(a)は本発明による2次構造体として板状である酸化鉄のX線回折パターンを示す図であり、図2(b)は通常のα型酸化鉄のX線回折図で、フェライト原料として通常利用されている塩化鉄水溶液の高温熱分解で生成した酸化鉄のX線回折パターンを示す図である。本発明による板状酸化鉄では通常酸化鉄で2番目の強度を示す(110)回折線が(104)回折線強度より大きくなり、(110)面が特異成長していることが分かる。1次または2次粒子の整列度合いは反応速度によって左右され、反応速度を小さくすると配向性は向上し、板状粒子としての機械的強度も向上する。配向性の高い試料では、膜の厚みが薄くても容易に剥離して2次構造体としての板状形状の安定な粒子となる。
【0029】
一方、配向度が低くても剥離するものは結晶性粒子であることに変わりはなく2次構造体としての板状面の強度は十分にある。むしろ、フェライト化のように他成分との固相反応をする場合は、配向性はほどほどの方が有利である。剥離させずに反応を続行すれば厚みは任意の厚さまで成長する。本発明の方法によれば、板状粒子の緻密さ(配向性)と厚さは目的に応じて任意に調整できる。従って、不要高周波輻射の吸収や高透磁率用の板状フェライトの原料として必要な高アスペクト比(d/t)をもつ板状粒子を任意に製造できる。
【0030】
【実施例】
以下、本発明について実施例および比較例によって具体的にせつめいする。
Fe2+/Fe3+=1.3、全Fe濃度=2.5mol/lのFeCl2 +FeCl3 水溶液の初期pHを0.3に調整し、液の厚みが5mm〜1cmになるようにポリエチレン製のバットに注ぐ。水分の蒸発によるFe濃度の変化を防ぐため、ラップ類で覆ったのち、50℃に設定されている恒温槽に入れて4日間保定した。ここで接する気相は空気であった。液量に対して接する気相の量を十分にするためバットの深さは液相厚みの10倍以上になるようにした。保定後の上澄み溶液のpHは約1.0であった。上澄み溶液を分離した後バットを水洗すると、底から赤褐色の薄いフィルムが剥離してきた。これをX線回折で調べたところβ型オキシ水酸化鉄のパターンを示し、SEM観察で図1のような板状粒子を示した。
【0031】
上述した板状粒子を平たい蒸発皿に厚さ約5mm以下に載せて空気流通下で600℃、1時間加熱したところ、黒褐色の光沢面と深紅色の裏面を持った板状粒子が得られた。これをX線回折で調べたところ図2(a)のように(110)面が特異成長したα−Fe2 O3 のパターンを示した。また、SEM観察で図1(b)(c)のような板状粒子を示し、図1(a)の形状がそのまま継承されていることが分かった。なお、管球はFeである。この板状α型酸化鉄を平底蒸発皿に載せて、CO気流中、600℃、1時間加熱したら板状マグネタイトになった。さらに、この板状マグネタイトを平底蒸発皿に載せて空気中、400℃、1時間加熱したら板状マグヘマイトになった。
【0032】
(比較例)
Fe2+/Fe3+=1.3、全Fe濃度=2.5mol/lのFeCl2 +FeCl3 水溶液の初期pHを2.3に調整し、液の厚みが5mm〜1cmになるようにポリエチレン製のバットに注ぐ。水分の蒸発によるFe濃度の変化を防ぐため、ラップ類で覆ったのち、70℃に設定されている恒温槽に入れて4日間保定した。ここで接する気相は空気であった。液量に対して接する気相の量を十分にするためバットの深さは液相厚みの10倍以上になるようにした。保定後の上澄み溶液のpHは約0.3であった。上澄み溶液を分離した後バットを水洗すると、底に黄土色の粒子が付着していた。これを薬さじで剥がして乾燥したら微細な粉末になった。X線回折で調べたところβ型オキシ水酸化鉄のパターンを示し、SEM観察で短冊状粒子であることが分かった。これを平たい蒸発皿に厚さ約5mm以下に載せて空気流通下で600℃、1時間加熱したところ、赤色の粉末が得られ、X線回折で調べたところ図2(b)と同じ通常のα−Fe2 O3 のパターンを示した。また、SEM観察では短冊状粒子であることが確認された。
【0033】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明によれば、2次構造が板状で大面積の結晶性板状のオキシ水酸化鉄が常圧の水溶液から簡単に得られ、これを原料として2次構造体として板状である結晶性の酸化鉄が容易に得られる。同様に板状のマグネタイト、マグヘマイトも容易に得られ、フェライト原料のような電子材料としてだけでなく、塗料、顔料の分野でも特性および経済性の両面で大いに役立つ工業的に極めて優れた材料を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 粒子の形状を示すSEM像(走査型電子顕微鏡写真)である。
【図2】 α−Fe2 O3 のX線回折パターンを示す図である。
Claims (8)
- 第1および第2鉄イオンを含む水溶液から常圧で析出させるオキシ水酸化鉄であって、針状または柱状の1次粒子が、2次構造体として結晶性の膜として析出し、剥離して2次構造体として板状である多結晶オキシ水酸化鉄。
- 請求項1に記載の2次構造体として板状である多結晶オキシ水酸化鉄を加熱・脱水してなる2次構造体として板状であるα型酸化鉄。
- 請求項2に記載の2次構造体として板状であるα型酸化鉄を還元してなる2次構造体として板状であるマグネタイト。
- 請求項3に記載の2次構造体として板状であるマグネタイトを酸化してなる2次構造体として板状であるγ型酸化鉄。
- 請求項1に記載の2次構造体として板状であるオキシ水酸化鉄の剥離面が緻密で光沢性を示すこと、および/またはX線回折図形において通常とは異なる結晶面が発達していることを特徴とする2次構造体として板状であるオキシ水酸化鉄。
- 請求項2に記載の2次構造体として板状であるα型酸化鉄の剥離面が緻密で光沢性を示すこと、および/またはX線回折図形において通常とは異なる結晶面が発達していることを特徴とする2次構造体として板状であるα型酸化鉄。
- 請求項1に記載の2次構造体として板状のオキシ水酸化鉄を製造するに際し、pH=−1.0〜2.0、Fe2+/Fe3+=0.2〜20に設定し、常圧で室温〜70℃に保つことによって、2次構造体として結晶性のオキシ水酸化鉄膜を析出させ、これを剥離して2次構造体として板状である粒子となすことを特徴とするオキシ水酸化鉄の製造方法。
- 請求項2に記載の2次構造体として板状のα型酸化鉄の製造方法であって、請求項1に記載の2次構造体として板状のオキシ水酸化鉄を加熱・脱水するに際し、脱離したH2 O等加熱時発生成分を直ちに排出させることによってオキシ水酸化鉄の2次構造体としての板状性を保持することを特徴とする2次構造体として板状のα型酸化鉄の製造方法。
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KR101701447B1 (ko) * | 2015-08-13 | 2017-02-02 | 한국세라믹기술원 | 판상 자성 산화철의 제조방법 및 이에 의해 제조된 판상 자성 산화철 |
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JP2004026621A (ja) | 2004-01-29 |
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