JP3942515B2 - 溶融紡糸用口金パック - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどの熱可塑性ポリマーからなる合成繊維を溶融紡糸するための溶融紡糸用口金パックに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
一般に、ポリエステル、ポリアミド、ポリオレフィンなどの熱可塑性ポリマーからなる合成繊維の溶融紡糸において、溶融ポリマー(以下、“紡糸融液”と称する)中の異物を除去して良好に紡糸口金から紡糸融液を吐出させ、繊維を形成するための紡糸口金パック(以下、単にパックとも称する)が用いられている。このようなパックは、図3に示すように、パックケース1’の内部に紡糸口金2’、分配板(ブリッジプレート)3’、紡糸フィルター4a’、濾過層(メタルサンドなどの濾材)5’、紡糸融液の導入部材6’、シール部材7’、口金直上フィルター4b’などの部品を組み込んで構成されている。
【0003】
ところで、このような従来のパックにおいては、熱劣化しやすい紡糸融液に対して、その熱劣化を抑制するためのパック構造が要求され、従来、種々の提案がなされている。何故ならば、パック内にわずかなデッドスペースが発生しても、このデッドスペースに紡糸融液が流入し、そこで劣化した紡糸融液が徐々に紡糸口金から紡出されることによって、マルチフィラメントを形成する際、糸切れや毛羽の発生の他、節糸、色相異常等のトラブルを引き起こすという問題を抱えているからである。
【0004】
このデッドスペースに起因する問題は、紡糸融液中の異物を除去するために設けられた紡糸フィルター4a’とこの紡糸フィルター4a’を紡糸融液が通過する際に発生する濾過圧力によって紡糸フィルター4a’が変形しないように支持するブリッジプレート3’との間に発生することが多い。なお、このようなブリッジプレート3’は、その直上に設けられた前記紡糸フィルター4a’によって濾過された紡糸融液を紡糸口金2’などに分配する役割も果たしており、分配板とも呼ばれている。そこで、以下の本発明の説明においては、この“ブリッジプレート”を“分配板”と称することにする。
【0005】
このような分配板に関しては、特開平11−810310号公報において、濾過層濾過層5’下の分配板3’に対して、紡糸融液の流動方向に沿った複数個の溝を設け、互いに隣接する溝の山部分からなる接触部がパックケース1’と面接触して、その面接触部に紡糸融液が入り込まないように、前記山部分に稜線部を形成させて、線接触させることが提案されている。しかしながら、この従来技術でも、前述のようにパックケース1’と分配板3’とが線接触することに変わりなく、紡糸融液がこの線接触部に入り込んで熱劣化するという問題は依然として未解決のまま残されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、以上に述べたような従来技術の現状に鑑みなされたものであり、パック内に組み込まれる分配板に係るデッドスペースを極力少なくして、従来技術が有する前記諸問題を解決できるパックを提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
ここに、以上に述べた課題を解決するための本発明として、「少なくともその内部に濾材、紡糸フィルター、前記紡糸フィルターを支持する分配板、口金直上フィルター、及び紡糸口金を順次組み込んでなる溶融紡糸用口金パックにおいて、前記分配板の外周面に沿って環状側面溝を形成し、かつ前記分配板の上面及び下面の外周側の位置に同心円上に等間隔で前記側面溝の上側端及び下側端へ向かってそれぞれ上面及び下面から穿設されたバイパス孔群を備えたことを特徴とする溶融紡糸用口金パック」が提供される。
【0008】
その際、本発明としては、前記側面溝の溝深さD(mm)が0.2mm以上かつ5.0mm以下であって、前記側面溝の溝幅W(mm)としては上側面及び下側面がそれぞれ前記分配板の上面及び下面から0.5mm以上かつ3mm以下の間隔を置いて形成されていることが、紡糸融液が長時間滞留するデッドスペースを無くす上で好ましい。
【0009】
また、以上に述べたような本発明において、前記バイパス孔が前記分配板の上下面の外周側から前記側面溝31の上下側端へそれぞれ向かって同心円上に等間隔に穿設することが、紡糸融液の熱劣化を防ぐ上で好ましい。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図1は、本発明の溶融紡糸用口金パックの実施形態を説明するために、模式的に例示した説明図(正断面図)である。また、図2は、本発明の分配板を模式的に例示した説明図であって、図(a)は模式平面図、図(b)は図(a)におけるX−X矢視断面図である。
【0011】
ここで、前記図1における各参照符号について説明すると、1はパックケース、2は紡糸口金、3は分配板、4はフィルター(4aは紡糸フィルターであり、4bは口金直上フィルターである。)、5は濾過層(メタルサンドなどからなる濾材)、6は紡糸融液の導入部材、7はシール部材、8はフィルター締付部材、そして、9はシール材をそれぞれ示している。なお、前記紡糸融液の導入部材7は締結部材をも兼ねており、パックケース1の上部内周面に螺設された雌ネジ部と導入部材6の外側面に螺設された雄ネジ部とが互いに螺合して、シール部材7を締め付けることによって紡糸融液がパックから漏れ出すのを防止している。このように、この本発明のパックの実施形態は、その基本構造としては、図3に例示した前述の従来のパックと同じであり、その分配板3の構造だけが変わっている。
【0012】
以上のように構成されたパックにおいて、紡糸融液の導入部材6に設けられた導入孔6aから流入する紡糸融液が濾過層5、紡糸フィルター4aを順次通過していく中で、異物の補集、紡糸融液流の細分化が行われる。このとき、紡糸フィルター4aを支持する分配板3に穿設された分配孔群を介して紡糸融液は下流側へ均一に分配されながら口金直上フィルター4bへ供給され、最終的に口金2に穿設された吐出孔群から紡出される。なお、分配板3上で支持される紡糸フィルター4aあるいは口金直上フィルター4bとしては、その外周部にシール材としてのアルミニウム合金などからなるリムが設けられたリム付きフィルターが使用されている。
【0013】
その際、紡糸フィルター4aと口金直上フィルター4bは、パックを組み立る時に、トルクレンチなどの締付具を使用して一定値以上の締付圧力がリム部に作用するようにシールされているものの、パック組み立て時のわずかなズレ等により、シール力が僅かに弱い部分が残ったりする。そうすると、このシール力が僅かに弱い部分から紡糸融液が漏れ出してくるような事態が発生する。
【0014】
このような場合において、図3及び4に例示した従来のパックでは、この紡糸フィルター4aと口金直上フィルター4bのリム部でのシールが不十分であると、分配板3’とパックケース1’との間に紡糸融液が入り込み、このようにして入り込んだ紡糸融液が再び口金2’から出てくるような事態が発生する。しかしながら、このような場所に入り込んだ紡糸融液は長時間滞留して熱劣化を起こしているため、熱劣化していない正常な紡糸融液に混入して口金2’から徐々に紡出されることにより、マルチフィラメントを形成する際、糸切れや毛羽の発生の他、節糸、色相異常等のトラブルを引き起こす。
【0015】
しかしながら、図1及び2に例示した実施態様のように本発明のパックは、前述の従来のパックのように、紡糸融液が漏洩しないように如何にシール性を確保するかといった観点からではなく、パックケース1の内周面と分配板3の外周面とが形成する僅かな隙間へ紡糸融液が例え洩れたとしても問題とならないパック構造、特に分配板3の構造を提供したことに大きな特徴がある。
【0016】
そこで、前述のように大きな特徴を有する本発明の分配板の実施形態について、図2を参照しながら以下に詳細に説明する。この図2に示した例において、本発明の特徴とする構成は、パックケース1の内周面と接触する分配板3の外周面(外側面)に沿って幅W(mm)、深さD(mm)の環状の側面溝31を形成し、かつ分配板3の上面及び下面から前記環状側面溝31にそれぞれ開口するバイパス孔32及び33を形成したことにある。そして、このような構成を採ることによって、従来のパックではデッドスペースとなっていた部分に対しても、図1で示したように、本例によれば、紡糸融液を積極的に流動させ、デッドスペースを減少させる。このようにして、デッドスペースを減少させることによって、紡糸融液の劣化を抑制できるため、上述のような従来のパックが有していたトラブルを大幅に無くすことができる。
【0017】
以上に述べたように、本発明では、分配板3に形成される側面溝31が重要な役割を果たす。したがって、前記側面溝31の形状と穿孔位置が重要である。そこで、これらについて好ましい形状を具体的に以下に述べると、まず前記側面溝の溝深さD(mm)については、0.2mm以上かつ5.0mm以下(すなわち、0.2mm≦D≦5.0mm)であることが好ましい。何故ならば、紡糸融液の滞留量を熱劣化しない範囲に抑えるという点で、その範囲には当然のことながら適正値が存在するからである。
【0018】
また、前記環状側面溝31の溝幅W(mm)については、溝の両側面を形成する上側面及び下側面の位置が重要となる。本発明においては、この側面溝31の上側面及び下側面の位置としては、これら上側面及び下側面にそれぞれ対応して前記分配板の上面及び下面からそれぞれ測定して0.5mm以上かつ3mm以下の間隔を置いてこれらの上側面及び下側面が形成されていることが必要である。つまり、前記分配板3の上面から前記側面溝31の上側面までの間隔が0.5mm以上かつ3mm以下であって、同様に前記分配板3の下面から前記側面溝31の下側面までの間隔も0.5mm以上かつ3mm以下であることが必要であって、前記側面溝31はこの間に形成されることになる。このとき、側面溝31の幅Wが短いと側面溝を形成した効果が少なくなって、デッドスペースを減少させる効果が不十分となる。逆に、溝幅Wが長くなると、紡糸融液の滞留時間が長くなり、紡糸融液の熱劣化が心配されるために余り好ましいことではない。
【0019】
次に、分配板3の上面及び下面からそれぞれ穿設されて側面溝31にそれぞれ開口するバイパス孔32と33について説明すると、これらのバイパス孔32と33については、分配板3の上下面から側面溝31の上端と下端とにそれぞれ向かって斜め方向に少なくとも等間隔で複数個穿設されている。したがって、図1に例示したように、紡糸フィルター4aを通過した紡糸融液の一部はバイパス孔32を通過した後、側面溝31へ到達し、側面溝31とパックケース1との間に形成された流路を通過し、再びバイパス孔33を通過して紡糸口金2に到達する。このように、従来のパックではデッドスペースが形成されやすい部分が、本発明の実施態様では、デッドスペースとならず積極的に紡糸融液が流れる流路となるため、紡糸融液がこの部分に長時間滞在して熱劣化を起こすことがない。
【0020】
なお、バイパス孔32と33は、紡糸融液の流路長を可及的に短くすることが好ましい。このために、分配板3の上下面の外周側から側面溝31の上下側端へそれぞれ向かって同心円上に等間隔に穿設することが好ましい。この場合、隣接するバイパス孔32間、あるいは隣接するバイパス孔33間の間隔としては、紡糸融液の熱劣化が問題とならないように、側面溝31を流れる紡糸融液の滞留時間を制御できる間隔とすることが好ましく、通常は4個以上設けられる。なお、図2の実施態様例においては、バイパス孔32と33とはそれぞれ22個ずつ同心円上に等間隔で穿設されている。
【0021】
【発明の効果】
以上に述べた本発明によれば、パック内に組み込まれる分配板に係るデッドスペースを極力少なくすることができ、デッドスペースに紡糸融液が流入し、そこで劣化した紡糸融液が徐々に紡糸口金から紡出されることとなる。そして、これによって、マルチフィラメントを形成する際に、糸切れや毛羽の発生の他、節糸、色相異常等のトラブルがない優れた品質を持った糸を紡糸することができ、溶融紡糸工程における工程調子も安定したパックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のパックの実施形態を模式的に例示した説明図(正断面図)である。
【図2】本発明の分配板の実施形態を模式的に例示した説明図であって、図(a)は模式平面図、図(b)は図(a)におけるX−X矢視断面図である。
【図3】従来のパックの実施形態を模式的に例示した説明図(正断面図)である。
【図4】従来の分配板の実施形態を模式的に例示した説明図であって、図(a)は模式平面図、図(b)は図(a)におけるX’−X’矢視断面図である。
【符号の説明】
1 : パックケース
2 : 紡糸口金
3 : 分配板
4 : フィルター
5 : 濾材
6 : 紡糸融液の流入口
7 : シール部材
8 : フィルター締付部材
9 : シール材

Claims (2)

  1. 少なくともその内部に濾材、紡糸フィルター、前記紡糸フィルターを支持する分配板、口金直上フィルター、及び紡糸口金を順次組み込んでなる溶融紡糸用口金パックにおいて、
    前記分配板の外周面に沿って環状側面溝を形成し、かつ前記分配板の上面及び下面の外周側の位置に同心円上に等間隔で前記側面溝の上側端及び下側端へ向かってそれぞれ上面及び下面から穿設されたバイパス孔群を備えたことを特徴とする溶融紡糸用口金パック。
  2. 前記側面溝の溝深さD(mm)が0.2mm以上かつ5.0mm以下であって、前記側面溝の溝幅W(mm)としては上側面及び下側面がそれぞれ前記分配板の上面及び下面から0.5mm以上かつ3mm以下の間隔を置いて形成されている請求項1記載の溶融紡糸用口金パック。
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