JP3942422B2 - 抗腫瘍・抗炎症作用を有する新規物質 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、抗腫瘍剤・抗炎症剤などの医薬の有効成分として有用な新規化合物に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
現在臨床的に用いられている抗癌剤の多くがかかえる問題点としては、いったん効いた抗癌剤が効かなくなるという獲得耐性癌細胞の出現や固形癌に効きにくいことなどがある。抗癌剤が固形癌に効きにくくなるのは、固形癌がある一定以上大きくなるとその内部が低酸素状態となり[Cancer, Res. 58, 1408 (1998)]、Hypoxia Inducible Factor-1 (HIF-1) や核因子κB(NF-κB)などの転写因子が活性化して、過度の生存シグナルの増強が起こることなどが原因と考えられるが[Trends Mol. Med., 7, 345 (2001), Cell, 87, 13 (1996), Cell, 95, 729 (1998), Toxicology, 155, 27 (2000)]、その機構の詳細は不明である。
【0003】
ハイポキシア(酸素圧低下)では、種々の遺伝子、例えば赤血球の産生を促進し、全身に酸素の供給量を増加させるエリスロポエチン、血管新生を促し、局所的な酸素供給を増加させるVEGFとその受容体、無酸素状態でATPを合成し、細胞に耐性を与える解糖系の諸酵素の遺伝子などが活性化され、酸素の恒常性の維持に働いている。Hypoxia Inducible Factor-1 (HIF-1)は、これらの遺伝子の転写活性化を行う中心的な転写因子である。腫瘍組織では血行が不十分なため低酸素状態にあるが、この低酸素状態は血管新生を促進することが知られており、HIF-1の血管新生への深い関与が示唆される。
一方、腫瘍壊死因子α(TNF−α)は、炎症部位に存在し、アポトーシスを通じて細胞死を誘発させる主用なサイトカインである。TNF−αは核因子κB(NF−κB)の産生を刺激する結果、ある種の細胞はアポトーシスのシグナルに対してより強い抵抗力を持っている。例えば、前立腺癌や膀胱癌ではNF−κBが活性化しているため、癌細胞が死滅しにくくなっている。
従って、低酸素状態や炎症部位において過度に活性化されたHIF-1やNF−κBを不活性化できる物質があれば、固形腫瘍や慢性炎症、異常血管新生に起因する各種疾患の予防及び/又は治療に有効であるといえる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の課題は、低酸素状態においても抗腫瘍活性を発揮する新規化合物を提供することにある。
また、本発明の別の課題は、上記特徴を有する新規化合物の製造方法、及び該化合物を有効成分として含む医薬を提供することにある。
【0005】
【問題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、真菌に属するBAUA3564株の醗酵液から単離した新規化合物及び該化合物から化学合成(合成法)によって製造した類縁体が、低酸素状態においても抗腫瘍活性を有していることを見出し、この化合物又は類似体を有効成分とする医薬として提供し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の式(I):
【化4】
[式中、R1は水素原子、アルキル基、アルケニル基、又は-CO-R3(式中R3はアルキル基、アリール基、又はアルキルアミノ基を示す)を示し、R2はホルミル基、カルボキシル基、-CH2-OCOR4(式中R4はアルキル基、アリール基、又はアルキルアミノ基を示す)、-CH2-O-R5(式中R5は水素原子、アルキル基、又はアルケニル基を示す)、-CH2=N-O-R6(式中R6は水素原子又はアルキル基を示す)、又はCH2=CH-R7(式中R7はアルキル基、アルキルオキシカルボニル基、ホルミル基、又はアルキルオキシカルボニルアルケニル基を示す)で表される化合物を提供するものである。
【0007】
この発明の好ましい態様によれば、下記の式(II):
【化5】
で表される化合物、及び下記の式(III):
【化6】
で表される化合物が提供される。
【0008】
本発明の別の観点からは、上記の式(I)ないし(III)で表される化合物生産菌である糸状菌を培養し、得られた培養物から該化合物を分離・採取する工程を含む、上記の式(I)ないし(III)で表される化合物の製造方法が提供される。
【0009】
さらに別の観点からは、本発明により、上記の式(I)ないし (III)で表される化合物を有効成分として含む医薬が提供される。
この医薬は抗腫瘍剤、抗炎症剤、免疫抑制剤などとして用いることができるほか、低酸素状態によって引き起こされる各種疾患、例えば低酸素状態によって促進される異常血管新生に起因する各種疾患の予防及び/又は治療のための医薬、腫瘍における血管新生の阻害剤として用いることができる。
【0010】
さらに別の観点からは、上記の医薬の製造ための上記の式(I)ないし(III)で表される化合物の使用;悪性腫瘍及び炎症の予防及び/又は治療方法ならびに阻害方法であって、上記の式(I)ないし(III)で表される化合物の有効量をヒトを含む哺乳類動物に投与する工程を含む方法が提供される。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0011】
【発明の実施の形態】
本明細書において、「アルキル基」は直鎖状、分枝鎖状、環状、又はそれらの組み合わせのいずれでもよい。アルキル基としては、例えば炭素数1ないし6個のアルキル基、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状の炭素数1ないし6個のアルキル基を用いることができる。より具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基などを用いることができる。アルキル部分を有する他の置換基(例えばアルキルオキシカルボニル基、アルキルアミノ基など)のアルキル部分についても同様である。
【0012】
アリール基は単環又は縮合環のいずれでもよく、例えばフェニル基、ナフチル基などを挙げることができる。アルケニル基に含まれる二重結合の数は特に限定されないが、例えば1ないし3個程度であり、好ましくは1個又は2個である。アルケニル部分を含むアルキルオキシカルボニルアルケニル基のアルケニル部分についても同様である。アルキルアミノ基はモノアルキルアミノ基又はジアルキルアミノ基のいずれでもよく、ジアルキルアミノ基に存在する2つのアルキル基は同一でも異なっていてもよい。
【0013】
アルキル基、アリール基、アルキルアミノ基、-CH2-O-R5で表される基、-CH2=N-O-R6で表される基、又はCH2=CH-R7で表される基は1個又は2個以上の置換基を有していてもよい。これらの基に存在する置換基の個数、存在位置、種類は特に限定されない。置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アミノ基、ヒドロキシ基、オキソ基などを例示することができる。
【0014】
式(I)の置換基R1, R2の種類により不斉炭素などに基づく光学異性体又はジアステレオマーなどの立体異性体が存在するが、本発明の範囲には純粋な立体異性体のほか、任意の立体異性体の混合物又はラセミ体などが包含される。さらにオレフィン性二重結合の幾何異性に基づく幾何異性体が存在するが、純粋な形態の幾何異性体のほか、任意の幾何異性体の混合物も本発明の範囲に包含される。
【0015】
本発明の範囲には、遊離形態の本発明の化合物のほか、上記化合物の塩、好ましくは生理学的に許容される塩が包含される。塩の形態は特に限定されないが、分子内の水酸基とナトリウム塩などを形成する場合がある。さらに本発明の範囲には、上記化合物又はその塩の水和物又は溶媒和物が包含される
【0016】
式(I)で表される化合物のうち、好ましい化合物は上記の式(II)及び(III)で示される化合物である。本明細書において、式(II)で表される化合物をRKB-3564S、式(III)で表される化合物をRKB-3564SACと呼ぶ場合がある。
【0017】
本発明の式(I)ないし(III)で表される化合物は、微生物の培養物から分離・採取することができ、あるいは微生物の培養液から分離・採取された本発明の化合物を出発原料として化学的修飾を施す方法により製造することができる。本発明の化合物を産生しうる微生物としては糸状菌に属するBAUA3564株を例示することができる。この微生物を通常用いられる培地組成及び培養条件で培養し、培養物に含まれる本発明の化合物を分離・採取することができる。本菌株は、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1丁目1番1号中央第6)に受託番号「P-18284」として寄託されている。
【0018】
本発明の化合物の生産培地としては、炭素源、窒素源及び無機塩を適当に含有するものであれば合成培地又は天然培地のいずれでも好適に用いることができる。必要に応じて、ビタミン類又はその他栄養物質を適宜加えてもよい。
炭素源としては例えば、グルコース、マルトース、フラクトース、シュークロース、デンプン等の糖類、グリセロール、マンニトール等のアルコール類、グリシン、アラニン、アスパラギン等のアミノ酸類、大豆油、オリーブ油等の油脂類等の一般的な炭素源より微生物の資化性を考慮して1種又は2種以上を適宜選択して用いればよい。窒素源としては、大豆粉、コーンスチープリカー、ビーフエキス、ペプトン、酵母エキス、アミノ酸混合物、魚粉等の有機含窒素化合物又はアンモニウム塩、硝酸塩等の無機窒素化合物が挙げられ、微生物の資化性を考慮して1種又は2種以上を適宜選択して用いればよい。無機塩としては、例えば炭酸カルシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸マグネシウム、硫酸銅、塩化マンガン、硫酸亜鉛、塩化コバルト、各種リン酸塩を必要に応じて添加すればよい。また、消泡剤、例えば植物脂、ポリプロピレンアルコール等は必要に応じて添加することができる。
【0019】
培養温度は、微生物が成育し、かつ本発明の化合物が効率的に産生される範囲で適宜変更できるが、好ましくは10ないし32℃であり、さらに好ましくは20ないし25℃である。培養開始時のpHは6ないし8付近が望ましく、培養時間は通常日〜数週間程度である。一般的には、本発明の化合物の生産量が採取可能な量に達したとき、好ましくは最高に達したときに培養を終了すればよい。培養法は、固層培養、通常攪拌培養等の通常用いられる方法であればいずれも好適に用いうる。
【0020】
培養液から本発明の化合物を分離・採取するには、一般に微生物代謝産物を採取するのに通常用いられる手段を適宜利用して行うことができる。例えば、各種イオン交換樹脂、非イオン性吸着樹脂、ゲル濾過クロマトグラフィー、活性炭、アルミナ若しくはシリカゲル等の吸着剤によるクロマトグラフィー、又は高速液体クロマトグラフィーを用いた分離方法、あるいは結晶化、減圧濃縮、又は凍結乾燥の手段を単独で又は適宜組み合わせて、あるいは反復して用いることが可能である。
【0021】
培養物から分離・採取された本発明の化合物(例えば、RKB-3564Sなど)を出発原料として用い、当業者に周知の官能基変換を施すことによって、R1はアルキル基、又はアルケニル基、-CO-R3(式中R3は上記の通りである)、R2はホルミル基、カルボキシル基、-CH2-OCOR4(式中R4は上記の通りである)、-CH2-O-R5(式中R5は上記の通りである)、-CH2=N-O-R6(式中R6は上記の通りである)、又はCH2=CH-R7(式中R7は上記の通りである)である化合物を製造することができる。
【0022】
例えば、R1が-CO-R3である化合物は、R1が水素原子である化合物からアシル化剤(例えばアセチルクロリドなど)などを用いた通常のエステル化反応を行うことにより製造できる。R1がアルキル基、アルケニル基である化合物は、R1が水素原子の化合物からハロゲン化アルキル(例えばヨウ化メチルなど)又はハロゲン化アリール(例えば臭化プロパルギルなど)などを用いた通常のアルキル化、アルケニル化反応を行うことにより製造できる。R2が、ホルミル基、カルボキシル基の化合物は通常の酸化反応を行うことにより製造できる。R2が-CH2-OCOR4(式中R4は上記の通りである)である化合物は、R2がヒドロキシメチルである化合物を通常のエステル化反応を行うことにより製造できる。-R2がCH2-O-R5(式中R5は上記の通りである)である化合物は、R2がヒドロキシメチルである化合物を通常のアルキル化反応を行うことにより製造できる。R2が-CH2=N-O-R6(式中R6は上記の通りである)である化合物は、R2がヒドロキシメチルである化合物をR2がホルミル基へと変換した後、ヒドロキシアミンなどを反応させることにより製造できる。また、R2が-CH2=CH-R7(式中R7は上記の通りである)である化合物は、R2がヒドロキシメチルである化合物をR2がホルミル基へと変換した後、通常のWittig反応に付することにより製造することができる。上記の反応において、反応条件、反応試薬などは当業者が適宜選択可能である。
【0023】
本発明の化合物は、後述する実験例の記載の通り、低酸素状態において優れた抗腫瘍活性を示す。従って、本発明の化合物は抗腫瘍剤のほか、抗炎症剤、免疫抑制剤、低酸素状態に起因する各種疾患の予防及び/又は治療のため医薬として有用である。低酸素状態に起因する疾患としては、例えば、低酸素状態によって促進される異常血管新生がその病態に深く関与している、いわゆる「血管新生病」が挙げられ、具体的には、乾癬症、慢性関節リウマチ、リウマチ様関節炎、糖尿病、心筋梗塞、潰瘍性大腸炎、血管新生緑内障などの眼疾病、動脈硬化症、糖尿病血管合併症、糖尿病網膜症などがある。また、本発明の医薬は、腫瘍における血管新生の抑制剤として用いることもできる。
【0024】
本発明の医薬は、使用目的に応じて投与方法、剤型、又は投与量を適宜決定することが可能である。本発明の医薬の投与形態は、経口投与でも非経口投与でもよい。本発明の医薬の形態は特に限定されないが、例えば、粉剤、散剤、顆粒剤、錠剤、カプセル剤、丸剤、溶剤等の経口投与剤、又は注射剤、坐剤、経皮吸収剤、吸入剤等の非経口投与剤等を挙げることができる。これらの製剤は、その剤型に適した賦形剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、滑沢剤等の医薬用添加剤を必要に応じて混合し、既知の方法で医薬組成物として調製することができる。注射剤の場合には、適当な担体とともに滅菌処理を行って製剤とする。投与量は疾患の状態、投与ルート、患者の年齢、又は体重によっても異なり、最終的には医師の判断に委ねられるが、成人に経口で投与する場合、通常、0.1〜100mg/kg/日、好ましくは、1〜20mg/kg/日、非経口で投与する場合、通常、0.01〜10mg/kg/日、好ましくは、0.1〜2mg/kg/日を投与する。これを1回あるいは数回に分割して投与すればよい。
【0025】
また、本発明の化合物を試薬として使用する場合には、有機溶剤又は含水有機溶剤に溶解して用いることができる。例えば、低酸素条件下、各種培養癌細胞系へ直接投与すると細胞成長を抑制することができる。使用可能な有機溶剤としては、例えばメタノールやジメチルスルホキシド等を挙げることができる。剤型としては、例えば、粉末などの固形剤、又は有機溶剤若しくは含水有機溶剤に溶解した液体剤などを挙げることができる。通常、上記の化合物を試薬として用いて低酸素条件下、癌細胞成長抑制作用を発揮させるための効果的な使用量は、0.1〜100 μg/mlであるが、適切な使用量は培養細胞系の種類や使用目的により異なり、適宜選択可能である。また、必要により上記範囲外の量を用いることができる。
【0026】
【実施例】
以下に実施例及び実験例をあげて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
グルコース 1.0%、可溶性デンプン 2.0%、大豆粉 1.5%、麦芽抽出液 0.5%、野菜抽出液 10%、リン酸第2カリウム 0.05%、ポテトデキストロース 2.6%、硫酸マグネシウム 0.05%からなる組成の培地に糸状菌BAUA3564株を接種して28℃で72時間振盪培養を行った。この培養液210 mlを同組成の培地15リットルに接種し、28℃で96時間振盪培養を行った。
【0027】
上記培養液を遠心分離器で菌体と上清に分離し、上清をpH7.0に調整し、15リットルの酢酸エチルで抽出した。抽出後、すべての酢酸エチルを合わせて減圧濃縮し、褐色のシロップ5.3 gを得た。このシロップをクロロホルム10 mlに溶解し、クロロホルムで充填したシリカゲルカラム(直径4 cm、長さ60 cm)に浸潤させた。最初に、クロロホルム600mlで溶出した後、割合配合を順次変えたクロロホルム-メタノール溶液(100:1, 50:1, 20:1, 10:1, 5:1, 1:1)各600 mlずつで溶出した。
【0028】
本発明の化合物RKB-3564Sは、クロロホルム-メタノール溶液(50:1)の画分に溶出した。この画分を減圧濃縮することにより、1.1 gの褐色シロップを得た。次に、この褐色シロップ1.1 gをメタノール11 mlに溶解し、数回に分けて逆相ODSカラム(直径2 cm、長さ 25 cm、PEGASIL ODS、センシュー科学社製)を用いて、高速液体クロマトグラフィーによる分取(アセトニトリル:水=2:8→アセトニトリル:水=6:4;直線的グラジエント、流速9.0 ml/分)を行い、活性画分を得た。さらに、薄層シリカゲルカラムクロマトグラフィー(クロロホルム:メタノール=20:1)により無色粉末結晶物質RKB-3564S(45 mg)を得た。
【0029】
以下にRKB-3564Sの物理化学的性質を示す。
性状:無色粉末結晶
融点:71.5-72℃
分子式:C10H12O2
高分解能質量分析 (HR-FABMS) : (M+H)+
実験値 (m/z):165.0868
理論値 (m/z):165.0916
UV λmax nm (メタノール) (ε):218 (45570), 250 (18030), 295 (4475)
IR νmax (neat) cm-1:3220, 2910, 1580, 1465, 1255, 970
Rf値(シリカゲル60 F254、メルク社製):0.34 (solvent; CHCl3:メタノール=20:1)
呈色反応(陽性):10%硫酸
溶解性:メタノール、ジメチルスルホキシドに易溶。n-ヘキサンに不溶。
【化7】
【0030】
RKB-3564SのNMRデータを表1に示す(溶媒:重アセトン、δppm、内部標準: TMS、13C:125 MHz、1H:500 MHz)。
【表1】
【0031】
(実施例2)
RKB-3564S(1.8 mg, 0.011mmol)のジクロロメタン溶液(1 ml)にピリジン(4μl)及び無水酢酸(10μl)を添加し、室温で1時間攪拌した。その後、反応液にクロロホルムを注ぎ希釈した後、クロロホルム層を1N塩酸、蒸留水、飽和食塩水で順次洗浄した。無水硫酸ナトリウムで脱水後、減圧下、濃縮乾固し、得られた油状物質を薄層クロマトグライーで精製し無色油状物質RKB-3564SAC(2.3 mg)を得た。
【0032】
以下にRKB-3564SACの物理化学的性質を示す。
FAB-MS(positive):m/z 249 (M+H)+
1HNMR: δ(acetone-d6, ppm)
IR νmax (neat) cm-1:1.88 (1H, dd, 1.5, 6.7), 1.95 (3H, s), 2.26 (3H, s), 5.12 (2H, br s), 6.22 (1H, dq, 6.7, 15.6), 6.76 (1H, dd, 1.5, 15.6),
7.00 (1H, d, 7.7), 7.33 (1H, dd, 7.7, 7.7), 7.39 (1H, d, 7.7)
IR νmax (neat) cm-1:2910, 1735, 1545, 1360, 1185, 1020
Rf値(シリカゲル60 F254、メルク社製):0.69 (solvent; CHCl3:メタノール=50:1)
【化8】
【0033】
(試験例1) RKB-3564S及びRKB-3564SACによる腫瘍細胞の増殖抑制効果
ヒト乳癌由来MCF-7細胞をRPMI培地(5%牛胎仔血清を含む)で培養した。これに一連の希釈系列のRKB-3564S及びRKB-3564SACを添加し、48時間、1% 酸素濃度条件下又は20%酸素濃度条件下で培養した後、MTT(3-(4,5-ジメチル-チアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)試薬を加えさらに2〜4時間培養後、570nmの吸光度を測定し生存率を算出した。その結果、RKB-3564S及びRKB-3564SACは、10-100μg/mlの濃度で1%酸素濃度条件下での細胞増殖を20%酸素濃度条件下に比べて優位に抑制した。
この結果は、本発明のRKB-3564S及びRKB-3564SACが腫瘍細胞の低酸素条件培養下において顕著な殺細胞効果を示し、抗腫瘍剤として有効であることを示している。
【0034】
(試験例2) RKB-3564S及びRKB-3564SACによるNF-κB活性化の抑制効果
DMEM培地(5%牛胎仔血清を含む)で培養維持したCOS-7細胞に、ルシフェラーゼ遺伝子の上流に5xNF-κB結合配列(5'-AGTTGAGGGGACTTTCCCAGGC-3')を含んだプラスミド(pGL3-NF1)をトランスフェクションし、これにTPA(50ng/ml)と一連の希釈系列のRKB-3564S及びRKB-3564SACを添加し24時間培養した後、産生されるルシフェラーゼ活性を測定し、TPAによるNF-κB活性化に対する抑制効果を算出した。その結果、RKB-3564S及びRKB-3564SACは、10-100μg/mlの濃度でNF-κBの転写活性化を抑制した。
この結果は、本発明のRKB-3564S及びRKB-3564SACが抗炎症剤、抗腫瘍剤、免疫抑制剤などとして有効であることを示している。
【0035】
(製剤例1) 注射・点滴剤
RKB-3564S又はRKB-3564SAC 10 mgを含有するように、粉末ブドウ糖5 gを加えてバイアルに無菌的に分配して密封し、窒素、ヘリウムなどの不活性ガスを封入して冷暗所に保存した。使用前にエタノールに溶解し、0.85%生理的食塩水100 mlを添加して静脈内注射剤とし、一日あたり10〜100 mlを症状に応じて静脈内注射又は点滴で投与する。
【0036】
(製剤例2) 顆粒剤
RKB-3564S又はRKB-3564SAC 1 g、乳糖98 g、及びヒドロキシプロピルセルロース1 gをそれぞれ取り、よく混和した後、定法にしたがって粒状に成形し、それをよく乾燥して、瓶やヒートシール包装などに適した顆粒剤を製造した。一日あたり100 mg〜10gを症状に応じて経口投与できる。
【0037】
【発明の効果】
本発明の化合物は、低酸素状態において優れた抗腫瘍活性を有している。従って本発明の化合物は、抗腫瘍剤、特に内部が低酸素状態にあって抗腫瘍剤が効きにくいとされている固形癌に対する抗腫瘍剤のほか、抗炎症剤、免疫抑制剤、低酸素状態に起因する各種疾患の予防及び/又は治療のための医薬、腫瘍における血管新生の阻害剤の有効成分として有用である。
Claims (8)
- 請求項1ないし3のいずれか1項に記載の化合物生産菌である糸状菌を培養し、得られた培養物から該化合物を分離・採取する工程を含む、請求項1ないし3のいずれか1項に記載の化合物の製造方法。
- 請求項1から3のいずれか1項に記載の化合物を有効成分として含有する医薬。
- 抗腫瘍剤である請求項5に記載の医薬。
- 抗炎症剤である請求項5に記載の医薬。
- 異常血管新生に起因する疾患の予防及び/又は治療のための請求項5に記載の医薬。
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