JP3941937B2 - エポキシ樹脂組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、反応性液状ポリブテンを使用したエポキシ樹脂組成物の耐衝撃特性改良に関するものであり、特に、半導体などの封止材として使用される、耐衝撃特性、サーマルクラックテストにおける耐クラック性、耐酸化劣化、耐熱劣化が改良されたエポキシ樹脂組成物を提供するものである。
【0002】
【従来の技術】
エポキシのような熱硬化性樹脂は単独で、或いは、他樹脂との組み合わせで、多くの用途に使用されているが、特に、電気絶縁性が良好である、十分な機械強度がある、耐熱性がよい、熱膨張係数が低い、更に、安価である等の利点から、電気部品あるいは機械部品に多く用いられている。その反面で、熱硬化性樹脂に共通する最大の欠点として靭性の低さがあり、その改良について種々の検討がなされてきた。
【0003】
熱硬化性樹脂の1つに挙げられるエポキシ樹脂組成物の耐衝撃特性改良において、エポキシ樹脂への可撓成分の導入が提案されてきた。たとえば、コアシェル構造ゴム粒子の使用(例えば特許文献1および2参照)、そして、反応性液状ゴムの導入(例えば特許文献3〜5参照)、反応性液状ポリブテンの導入(例えば特許文献6参照)などが効果的であることは広く認められているが、同時にその問題点も明らかとなっている。
例えば、可撓性のエポキシ樹脂を特許文献1〜6に記載されているように反応性材料と反応させる方法は耐熱性や曲げ強さなどの機械的強度が低下し、コアシェル構造ゴム粒子、例えば、MBS粉末(メチルメタクリレート・スチレン・ブタジエンのコアシェル樹脂粒子)やエポキシ基含有複合アクリルゴム粒子や架橋アクリルゴム微粒子等のゴム微粒子を添加する方法は粘度上昇が大きく、また、貯蔵安定性に問題がある。
【0004】
反応性液状ゴム、例えば末端カルボキシル変性アクリロニトリル・ブタジエンゴム(CTBN)を添加する方法は、上記問題の発生が小さい。なお、CTBNを含むエポキシ樹脂組成物では、硬化反応の進行により、当初エポキシ樹脂に相溶していたCTBNがエポキシ樹脂中から相分離して、エポキシ樹脂からなる連続相とCTBNからなる分散相を形成(海島構造)して、その相構造特性に依存して耐衝撃特性が改良される。一方、相分離せず、エポキシ樹脂連続相に取り込まれたCTBNは、エポキシ樹脂の熱変形温度(HDT)に代表される耐熱性を劣化させる。すなわち、CTBNにおいては、その構造に依存する反応性、親和性に関する制御が十分でなく、硬化剤の種類や硬化条件により、CTBN分散相の大きさや分布が変化し、エポキシ樹脂組成物の特性が大きく変化してしまう問題が指摘されていた。加えて、CTBNは主鎖中に不飽和結合部を有するため、酸化劣化、熱劣化等を生じ易い等、長期信頼性に関して本質的な問題があることも知られていた。
また、近年提案されたCTBNでエポキシ樹脂を変性した液状ゴム変性エポキシ樹脂(例えば特許文献7参照)においても、これらの問題の解決は充分ではない。
【0005】
一方、フェノール樹脂についても改良検討が成されてきた。例えば、芳香族ポリエステルによる特定のフェノール樹脂の耐衝撃性改良(特許文献8参照)、特定のポリエチレンテレフタレート、ポリウレタン、メチルメタクリレート系共重合体等によるフェノール樹脂の強靭化(特許文献9参照)が検討されているが、これらの物は強靭化の改良が不十分であり、流動性が低下する等極めて不満足な物であった。
【0006】
フェノール樹脂においても、反応性液状ゴムを使用した耐衝撃性の改良は、広範に検討されている手法である。例えば、エポキシ基、水酸基、カルボキシル基、アミノ基の官能基を有する官能性ゴムの乳化重合ラテックスをフェノール樹脂に練り込む方法(特許文献10参照)や、相溶性の良いNBR等の共役ジエン系ゴムラテックスをアニオン系界面活性剤に含有させたうえでフェノールレジンの脱水工程前にレジン中に分散させる方法(特許文献11参照)、エポキシ化ポリブタジエンとラジカル重合開始剤を成形材料の混練時に配合する方法(特許文献12参照)は、フェノール樹脂の強靭化に効果がでる程度までゴムを添加すると流動性が極端に低下することが不可避である。したがって、実用の成形性を損なうという問題や、強靱化に伴いフェノール樹脂の優れた耐熱性が低下するという問題があった。
【0007】
【特許文献1】
特公昭61−42941号公報
【特許文献2】
特開平2−117948号公報
【特許文献3】
特公昭58−25391号公報
【特許文献4】
特開平10−182937号公報
【特許文献5】
特許3036657号公報
【特許文献6】
欧州特許公開EP045749号公報
【特許文献7】
特開2001−089638公報
【特許文献8】
特開昭61−168652号公報
【特許文献9】
特開昭62−209158号公報
【特許文献10】
特開昭62−59660号公報
【特許文献11】
特開平3−17149号公報
【特許文献12】
特開平3−221555号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、HDTに代表される耐熱性を損なうことなく、耐衝撃特性、耐サーマルクラック性、耐酸化劣化、耐熱劣化を向上させた半導体などの封止に好適なエポキシ樹脂組成物を提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、鋭意研究の結果、特定構造を有するアルデヒド基含有液状ポリブテンを使用することにより、上記の目的を達成できることを見いだし、本発明を完成したものである。
【0010】
本発明の第1は、(A)エポキシ樹脂5〜100重量部、(C)硬化剤0〜95重量部(両者合わせて100重量部とする。)、(B)少なくとも一つのアルデヒド基を含有する液状ポリブテン(以下、「アルデヒド基含有液状ポリブテン」という。)1〜200重量部を含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物に関するものである。
【0011】
本発明の第2は、本発明の第1において、「アルデヒド基含有液状ポリブテン」が、液状ポリブテンの末端炭素上に形成されているアルデヒド基を有する構造であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物に関するものである。
【0012】
本発明の第3は、本発明の第1または第2のいずれかにおいて、「アルデヒド基含有液状ポリブテン」が、主鎖構造中の繰り返し単位の80%以上が式(I)の構造であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物に関するものである。
【化3】
Figure 0003941937
【0013】
本発明の第4は、本発明の第1〜第3のいずれかにおいて、「アルデヒド基含有液状ポリブテン」の数平均分子量が300〜6,000の範囲内にあることを特徴とするエポキシ樹脂組成物に関するものである。
【0014】
本発明の第5は、(A)エポキシ樹脂5〜100重量部、(D)硬化剤0〜95重量部((A)と(D)合わせて100重量部とする。)、(B)「アルデヒド基含有液状ポリブテン」および(C)エポキシ構造が実質的に末端炭素上にのみ形成されているエポキシ基含有液状ポリブテン(以下、「エポキシ基含有液状ポリブテン」という。)を1〜200重量部を含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物に関するものである。
【0015】
本発明の第6は、本発明の第5において、「エポキシ基含有液状ポリブテン」が、主鎖構造中の繰り返し単位の80%以上が式(I)の構造であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物に関するものである。
【化4】
Figure 0003941937
【0016】
本発明の第7は、本発明の第5または第6のいずれかにおいて、「エポキシ基含有液状ポリブテン」の数平均分子量が300〜6,000の範囲内にあることを特徴とするエポキシ樹脂組成物に関するものである。
【0017】
本発明の第8は、本発明の第1〜第7のいずれかにおいて、染色法を用いて透過型電子顕微鏡で観察される組成物中の樹脂相の相構造が、連続相と100ミクロン以下の円状または楕円状の分散相からなる海島構造であり、かつ、当該分散相の外周部全域に界面相が存在する相構造であることを特徴とするエポキシ樹脂組成物に関するものである。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る熱硬化性樹脂は、最初は通常液状の低分子化合物(プレポリマーと呼ばれることがある。)であるが、熱または触媒あるいは紫外線等の作用によって、化学変化を起こしてプレポリマーの成長高分子化と三次元網目構造化を生ずる性質を有するものをさす。従って、必ずしも、加熱を必要としない。具体的には、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ケイ素樹脂、アルキド樹脂、アリル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ジアリルフタレート樹脂、フラン樹脂、イミド樹脂等が代表的なものとして挙げられる。
【0019】
本発明に用いるエポキシ樹脂としては、性状、エポキシ当量、分子量、分子構造などに制限がなく、1分子中に2個以上のオキシラン環を有する化合物が適用でき、公知の種々のエポキシ樹脂を使用することができる。
例えば、ビスフェノールA系、ビスフェノールF系、ブロム化ビスフェノールA系、あるいはノボラックグリシジルエーテル系等のクリシジルエーテル型エポキシ樹脂、ヘキサヒドロフタル酸グリシジルエステルあるいはダイマー酸グリシジルエステル等のクリシジルエステル型エポキシ樹脂、トリグリシジルイソシアヌレートあるいはテトラグリシジルジアミノジフェニルメタン等のグリシジルアミン型エポキシ樹脂、エポキシ化ポリブタジエンあるいはエポキシ大豆油等の線状脂肪族型エポキシ樹脂、更には3、4エポキシ6メチルシクロヘキシルメチルカルボキシレートあるいは3、4エポキシシクロヘキシルメチルカルボキシレート等の脂環族型エポキシ樹脂などが挙げられ、これらを1種あるいは2種以上使用することが可能である。
【0020】
好ましいエポキシ樹脂としては、常温で液状を呈するものが挙げられ、例えば、アルカリ反応条件下でエピクロロヒドリンと1個以上の水酸基を有する芳香族化合物との間で製造されるグリシジルエーテル型エポキシ樹脂が挙げられ、具体的には、ビスフェノールA系エポキシ樹脂、市販品にはエピコート#828(ジャパンエポキシレジン(株)製)が挙げられる。
【0021】
本発明に用いる「アルデヒド基含有液状ポリブテン」は、公知の方法でポリブテン中の炭素・炭素不飽和結合の化学修飾によりアルデヒド基を導入することにより得ることができる。
なお、本発明では、化学修飾が可能な液状ポリブテンならば特に制限なく使用できる。しかし、末端炭素上に形成されているアルデヒド基を有する「アルデヒド基含有液状ポリブテン」が反応性に優れる点で、および/または、主鎖構造中の繰り返し単位の80%以上が式(I)の構造を有する「アルデヒド基含有液状ポリブテン」が、熱硬化性樹脂組成物製造工程における、および、得られる熱硬化性樹脂組成物中に取り込まれた「アルデヒド基含有液状ポリブテン」の耐熱性、耐酸化劣化の安定性の点で好ましい。したがって、このような「アルデヒド基含有液状ポリブテン」を生成する構造を有する特定の液状ポリブテンを使用することで、さらに、本発明の効果を発揮させることができる。
【0022】
本発明に係る「アルデヒド基含有液状ポリブテン」は、例えば、以下のようにして製造することができる。
まず、特開平10−306128号公報に記載された方法にしたがって末端ビニリデン構造を有するポリブテンを多量に含むポリブテンを製造する。当該方法では、イソブテン単独、または、イソブテンと適宜にブテン−1、ブテン−2で構成するオレフィン原料を使用して、これらを三弗化ホウ素系触媒で重合させると、n−ブテンがイソブテンと殆ど共重合しないため、容易に末端ビニリデン構造を60モル%以上含み、かつ、主鎖構造中の繰り返し単位の80%以上が式(I)の構造を有する液状ポリブテンを得ることができる。
【0023】
つづいて、当該末端位の炭素・炭素不飽和結合を過酸化物等でエポキシ化反応(米国特許:US3,382,255)を行う。なお、当該エポキシ化生成物は、エポキシ構造が実質的に末端炭素上にのみ形成されているエポキシ基含有液状ポリブテン(以下、「エポキシ基含有液状ポリブテン」という。)であり、「アルデヒド基含有液状ポリブテン」製造の中間体であると同時に、「アルデヒド基含有液状ポリブテン」と併用することが可能である。
つづいて、「エポキシ基含有液状ポリブテン」に、例えば、特許2908557号、特表平3−503783号に記載の公知の異性化反応を行うことにより、「アルデヒド基含有液状ポリブテン」を得る(以下、「アルデヒド基含有液状ポリブテン」および「アルデヒド基含有液状ポリブテン」と「エポキシ基含有液状ポリブテン」の混合物を総称して「反応性液状ポリブテン類」ということがある。)。
【0024】
上記製造方法によって得られた「反応性液状ポリブテン類」は、単離により高純度品とするか、未反応のポリブテン類を含んだままか、あるいは、ポリブテンをさらに添加した混合物で使用することができる。このように、C4オレフィン原料を重合反応して所定モル%以上の末端ビニリデン構造を含有するポリブテンを生成させ、「エポキシ基含有液状ポリブテン」を中間体として「アルデヒド基含有液状ポリブテン」を製造する方法は、各工程における未反応物そのまま使用できる点で好ましいものである。
【0025】
さらに好ましい本発明に係る「反応性液状ポリブテン類」は、数平均分子量が300〜6,000の範囲となったものである。
6,000より大きな場合は、耐衝撃性等の効果が向上するが、粘度上昇により、成形性に問題が生じることがある。300より小さな場合は、欧州特許公開公報EP045749のエポキシ基含有液状ポリブテンで示すように、「反応性液状ポリブテン類」に結合したポリブテン鎖が短いものとなるから、エポキシ樹脂中へ可溶化することによる耐衝撃性等の改良効果が支配的となり、HDTに代表される耐熱性が劣るものとなる。
【0026】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物の製造にあたっては、エポキシ樹脂100重量部またはエポキシ樹脂と硬化剤との合計100重量部に対して、「アルデヒド基含有液状ポリブテン」または「アルデヒド基含有液状ポリブテン」と「エポキシ基含有液状ポリブテン」からなる「反応性液状ポリブテン類」は1〜200重量部、好ましくは、5〜100重量部加えることができる。さらに好ましくは、10〜50重量部で、この範囲でエポキシ樹脂の耐熱性、剛性と耐衝撃性等のバランスが最も優れる。「反応性液状ポリブテン類」においては、「アルデヒド基含有液状ポリブテン」の割合が多いほど後述する海島構造における分散相の粒径が小さく、あるいは、後述する界面相が増加するし、かつ、均一になる。これは、「アルデヒド基含有液状ポリブテン」、「エポキシ基含有液状ポリブテン」と「エポキシ樹脂」、「硬化剤」、「硬化促進剤」等との間の反応性の差に依存していると推測される。一般に、粒径を最小にしたい場合、あるいは、後述する界面相を増加させたい場合は「反応性液状ポリブテン類」の全量を「アルデヒド基含有液状ポリブテン」とすればよいが、粒径と界面相の調整と最適化を行うためには、「エポキシ基含有液状ポリブテン」の割合を調整する。
【0027】
本発明に係る必要に応じて添加される硬化剤としては、前記したエポキシ樹脂あるいは反応性液状ポリブテン類と反応し、硬化可能なものであれば、いかなるものでも使用でき、例えば、脂肪族ポリアミン、脂環族ポリアミン、芳香族ポリアミン、酸無水物系(例えば、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、無水フタル酸誘導体等)、フェノールノボラック樹脂、ポリメルカプタン等の重付加型硬化剤、および芳香族第3アミン、イミダゾール化合物、ルイス酸錯体等の触媒型硬化剤などが挙げられる。また、ここに列記した硬化剤は、単独で使用しても併用配合してもよい。エポキシ樹脂と硬化剤を使用するときは、エポキシ樹脂と硬化剤との官能基のモル当量に基づき、通常の範囲で配合する。
【0028】
本発明に用いるエポキシ樹脂、硬化剤、「反応性液状ポリブテン類」以外の成分としては、例えば、硬化促進剤がある。具体例としては、ベンジルジメチルアミン(BDMA)、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニル−4,5−ジヒドロキシイミダゾール、2−フェニル−4−メチル−5−ヒドロキシメチルイミダゾール、2,4−ジアミノ−6−[2−メチルイミダゾリル−(1)]−エチル−s−トリアジン、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1,8−ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデセン−7等のアミン系化合物およびその塩化合物、トリフェニルホスフィン、トリス−(2,6−ジメトキシフェニル)ホスフィン等のホスフィン系化合物およびその塩化合物、あるいはオクチル酸スズ等の有機金属塩が挙げられる。
本発明に係るエポキシ樹脂組成物の製造にあたっては、エポキシ樹脂硬化剤との合計100重量部に対して、硬化促進剤を0〜20重量部加えることができる
【0029】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物において、本発明の効果のうち、HDTに代表される耐熱性の低下を抑制し、耐衝撃特性、耐サーマルクラック性の改良を最も効果的に行うためには、染色法を用いて透過型電子顕微鏡で観察される組成物中の樹脂相の相構造が、連続相と100ミクロン以下の円状または楕円状の分散相からなる海島構造とする相構造であることが好ましい(以下「相構造A」という。)。なお、連続相の主成分はエポキシ樹脂(硬化剤を使用した場合はこれを含む)からなる硬化物(以下、硬化物と略記する)であり、分散相の主成分は反応性液状ポリブテン類である。
【0030】
さらに、好ましくは、染色法を用いて透過型電子顕微鏡で観察される組成物中の樹脂相の相構造が、連続相と100ミクロン以下の円状または楕円状の分散相からなる海島構造であり、かつ、当該分散相の外周部全域に界面相が存在する相構造であることが好ましい(以下「相構造B」という。)。なお、連続相の主成分はエポキシ樹脂(硬化剤を使用した場合はこれを含む)からなる硬化物(以下、硬化物と略記する)であり、分散相の主成分は「反応性液状ポリブテン類」、界面相の主成分は「反応性液状ポリブテン類」とエポキシ樹脂およびまたは硬化剤との反応物である。
なお、「相構造A」、「相構造B」のいずれも欧州特許公開公報EP045749では報告されていない。
【0031】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物がHDT代表される耐熱性、耐衝撃特性、耐サーマルクラック性に優れる要因は明らかではないが、本発明者らは、「反応性液状ポリブテン」とエポキシ樹脂との親和性、および、透過型電子顕微鏡で観察される独特の相構造に起因していると考えている。図1に代表的な相構造の概要図を示す。
【0032】
すなわち、「相構造A」は、弾性率が高く脆性材料である硬化物を主成分とする連続相内に、弾性率が低く弾性・靭性材料である「反応性液状ポリブテン」に係る成分を主成分とするμm単位の分散相が存在する相構造である。「相構造A」において、応力により変形が生じると、連続相の構成材と分散相の構成材とのポアソン比の差により、界面を剥離させる力が生じ、剥離が生じる。特に、本発明に係る「相構造A」では、連続相と分散相の親和力が化学構造の類似性によって増加しているから、当該剥離によって消費されるエネルギーは大きいものである。応力(歪み)は、当該界面の剥離によって消費(解放)されるから、エポキシ樹脂連続相に材料の致命的な破壊の原因となるクラック等が発生せず、耐衝撃特性、サーマルクラック特性が改良される。
【0033】
また、「相構造B」は、弾性率が高く脆性材料である硬化物を主成分とする連続相内に、弾性率が低く弾性・靭性材料である「反応性液状ポリブテン」に係る成分を主成分とするμm単位の分散相が存在する相構造で、さらに、その外周部全域に弾性率が低く弾性・靭性材料であるエポキシ樹脂、硬化剤および「反応性液状ポリブテン」の重合物を主成分とするμm単位の界面相が存在する相構造である。当該構造は、耐衝撃ポリプロピレン樹脂(ブロック型ポリプロピレン)の相構造で確認される構造で、多層構造と呼ばれるものである。
すなわち、耐衝撃ポリプロピレン樹脂においては、ポリプロピレンからなる連続相中にポリエチレンからなる分散相が存在し、ポリエチレン分散相外周をエチレン−プロピレン共重合体ゴムからなる界面相が存在する。「相構造B」において、応力により変形が生じると、「相構造A」で生じる応力(歪み)の消費(解放)に加えて、界面相でも界面剥離によって同様の応力(歪み)の消費(解放)されるから、単位体積当たりで生じる界面剥離エネルギーが「相構造A」に比べて大きい。したがって、硬化物連続相に材料の致命的な破壊の原因となるクラック等が発生せず、耐衝撃特性、サーマルクラック特性をより効果的に改良する。
【0034】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物の相構造を「相構造A」、「相構造B」にするためには、
(A)エポキシ樹脂
(B)「反応性液状ポリブテン」
(C)硬化剤
(D)硬化促進剤
を含むものとし、かつ、これらの配合物から最終的な硬化組成物を得る前に、当該「反応性液状ポリブテン」を、(A)、(C)、(D)から選ばれる成分の一部とからなる縣濁した液状混合物とする工程を含ませることが好ましい。
【0035】
すなわち、当該「反応性液状ポリブテン」と、(A)、(C)、(D)から選ばれる成分の一部とを混合し液状混合物とし、当該液状混合物中に「反応性液状ポリブテン」を主成分として含む微細分散相を形成させる工程である。
なお、この懸濁状態とは、混合終了後、1日以上室温で放置しても実質的に変化しないものを指す。特に、好ましい懸濁状態は、1ヶ月以上室温で放置しても実質的に変化しないものである。(以下、当該液状混合物を「懸濁液状混合物」という。)
なお、顕微鏡で「懸濁液状混合物」中の当該分散相を観察すると、その構造が、その分散相の外周部全域に界面相を少なくとも1層有するものが主体であることが確認できる。
【0036】
当該工程は、最終的に得られるエポキシ樹脂組成中の耐衝撃特性等に好ましい相構造の形成に寄与する条件を、硬化反応前に確立するものであるから、要求される特性に従って実施すればよく、直接所定の全成分を混合して、そのまま、硬化反応を行ってもよい。
当該懸濁状態が安定的に形成される理由は明らかではないが、溶解した「反応性液状ポリブテン」とエポキシ樹脂、および/あるいは、溶解した「反応性液状ポリブテン」と硬化剤との化学反応生成物が、混合物中において界面活性剤的な機能を果たしているものと考えられる。
【0037】
この「懸濁液状混合物」を生成するには、各成分の配合割合は、各成分中に含有する官能基当量(g/eq)の関係を特定範囲に保つことによって、該「懸濁液状混合物」を容易に生成させることができる。なお、ここで示す官能基当量(g/eq)とは、エポキシ樹脂の場合にはエポキシ当量(g/eq)であることを意味する。同様に、硬化剤が酸無水物系硬化剤の場合には酸無水物基当量(g/eq)であり、アミン系硬化剤の場合にはアミノ基当量(g/eq)であることを意味する。また、種々の官能基が混在する場合には、トータルの反応性官能基当量(g/eq)として示すことが可能である。
【0038】
つまり(A)エポキシ樹脂と(C)硬化剤の含有官能基当量(g/eq)で表示する配合比において、(A)/(C)>5、あるいは、(C)/(A)>5のように、(A)あるいは(C)のどちらかの一方の成分を過剰状態にした混合物を調合し、当該混合物100重量部に対して、「反応性液状ポリブテン」1〜100重量部を配合することで、本発明の「懸濁液状混合物」を生成させることができる。
ここで、(A)/(C)あるいは(C)/(A)が5以下になってくると、最終的な樹脂組成物においては前記記載の相構造を発現させることは可能であるが、該「懸濁液状混合物」自体の粘度上昇が著しく、実用に適さなくなる。また、該「懸濁液状混合物」100重量部に対して、「反応性液状ポリブテン」を100重量部以上使用した場合も、前述と同様に、該「懸濁液状混合物」自体の粘度上昇が著しくなる。
【0039】
別の好ましい例として、「懸濁液状混合物」がエポキシ樹脂と「反応性液状ポリブテン」とを含む混合物において、その配合比においてエポキシ樹脂100重量部に対して「反応性液状ポリブテン」が1〜200重量部の関係にあることに保つことが挙げられる。
ここで、該エポキシ樹脂100重量部に対して、「反応性液状ポリブテン」を200重量部以上使用した場合も、前述と同様に、該「懸濁液状混合物」自体の粘度上昇が著しくなり、実用性が無くなってくる。
【0040】
「懸濁液状混合物」を生成するときの温度、時間、あるいは各成分の添加方法については特に制限がなく、各成分を攪拌する形式においても特に制限は無いが、均一に分散できる形式であればよい。また、使用する用途に応じて粒子系のサイズが要求される場合には、ホモジナイザー等の強制攪拌機等を使用して、制御することが好ましい。
【0041】
ここまで説明した「懸濁液状混合物」は、最終的なエポキシ樹脂組成物を得る工程で、耐衝撃特性等に好ましい相構造の形成に寄与することができる。この最終工程で、該樹脂組成物を得る場合に、その配合は、最終的にエポキシ樹脂と硬化剤との官能基当量比率が0.2〜5の範囲、好ましくは0.5〜1.5の範囲となるように、該「懸濁液状混合物」に対して不足するエポキシ樹脂および/あるいは硬化剤を適宜充当する。
この適正範囲になった、配合物を所定の加熱硬化することによって、本発明のエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0042】
その得られる組成物を各種用途に適用していく場合には、上記以外の成分として、本発明の効果を損なわない範囲で公知の液状反応性ゴム、液状α−オレフィン重合体等の液体ゴム、エラストマー、コア−シェル構造エラストマー等の耐衝撃改良剤、難燃剤、カップリング剤、消泡剤、顔料、染料、酸化防止剤、耐候剤、滑剤、離型剤等の充填材を適宜添加配合することができる。さらに、他の基本構造および/または化学修飾構造を有する液状ポリブテン類を使用してもよい。
【0043】
さらに、充填材には、溶融シリカ、粉砕シリカ、タルク、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等も挙げることができるが、近年の半導体封止用途に適用させる場合には、平均粒径20μm以下の溶融シリカが望ましく、これらを単独又は2種以上混合して任意の量を組み合わせて使用することができる。
【0044】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
【0045】
[参考製造例]
<「反応性液状ポリブテン」の製造>
表1に示す液状ポリブテン1〜6を原料として、「反応性液状ポリブテン」1ab〜6abを製造した。添え字「a」はこれらを原料とする「エポキシ基含有液状ポリブテン」、添え字「b」は「アルデヒド基含有液状ポリブテン」に対応する。1〜6のうち、1と2は、それぞれ、市場から入手した新日本石油化学(株)製のLV50とHV−100であり、参考製造例3〜6あるいは本発明者らが開示した特開平10−306128号公報の製造方法によって得た末端ビニリデン構造に富む液状ポリブテン(通称、「高反応性ポリブテン」)である。
「エポキシ基含有液状ポリブテン」(参考製造例1a〜6a)は、上述の米国特許第3382255号公報の方法を参考にして上記液状ポリブテン1〜6に過酸を反応させることによって製造し、「アルデヒド基含有液状ポリブテン」(参考製造例1b〜6b)は、上述の日本国特許第2908557号公報の方法を参考にして上記「エポキシ基含有液状ポリブテン」(参考製造例1a〜6a)を原料として、これに98重量%硫酸を作用させて異性化により製造した。
それぞれの化学修飾は、それぞれの原料中の末端ビニリデン構造、エポキシ基構造が実質的に検出されなくなるまで行った。
【0046】
【表1】
Figure 0003941937
【0047】
[実施例1〜7、比較例1]
<硬化反応前の混合物の製造>
製造装置として、可変式の攪拌機、反応温度指示計、反応滴下口を備えたフラスコを恒温調節が可能な熱媒浴内に設置した。そのフラスコ内に、参考製造例2aの「エポキシ基含有液状ポリブテン」の所定量、参考製造例1b〜6bの「アルデヒド基含有液状ポリブテン」の所定量(表2)を取り、そこへ、エポキシ樹脂としてエピコート#828、硬化剤としてMH−700および硬化促進剤としてBDMAとを其々の所定量(表2)を一括して仕込んだ。その後に、その混合物を攪拌しながら、反応温度を室温から100℃まで上昇させ、100℃を維持した状態で2時間反応を実施した。
その結果、実施例1〜14のいずれの条件においても、懸濁状の液状溶液が得られ、1ヶ月間放置後にも相分離することは無かった。また、当該溶液を光学顕微鏡測定により撮影したところ、本発明の相構造が形成していることが確認できた。
なお、同時に比較例1に示す組成においても実施し、後述の比較例に使用することとした。
(商品説明)
エピコート#828(ジャパンエポキシレジン油化シェル(株)製):
ビスフェノールA型ジグリシジルエーテルを主成分とするエポキシ樹脂である。官能基(エポキシ基)当量は、約190g/eqである。
MH−700(新日本理化(株)製):
メチルヘキサヒドロ無水フタル酸を主成分とする酸無水物系硬化剤である。官能基(酸無水物基)当量は、約168g/eqである。
BDMA(東京化成工業(株)試薬):ベンジルジメチルアミン
【0048】
【表2】
Figure 0003941937
【0049】
[実施例8〜14、比較例2〜4]
<エポキシ樹脂硬化反応の実施例と最終組成物の物性評価>
本実施例では、エポキシ樹脂組成物、以下の手順で作成した。まずは、表3に示した最終組成物の配合割合になるように、実施例1〜7あるいは比較例1の分散液に対して必要量のMH−700を配合し、一様になるまで室温下で混合させた。その混合物に対して、硬化促進剤としてBDMAを1phr量を添加した後に、(1)100℃×2時間、(2)120℃×2時間および(3)140℃×2時間の3段階の加熱履歴を与えて、其々のエポキシ樹脂組成物を得た。
また、比較例3は本発明の微粒子の替りに、既存材料のCTBN1300×8(宇部興産(株)製)を同一量添加させた場合であり、比較例4は緩和応力材料を全く添加させない場合である。
この両方の場合においても、エポキシ樹脂と硬化物の当量比率、硬化促進剤量、加熱履歴等は、前記実施例8〜14あるいは比較例2の条件と同一条件とした。
【0050】
エポキシ樹脂組成物の物性評価は、可撓性、耐湿性、耐クラック性、耐薬品性および耐熱性の5項目で行った。これらの物性評価のために、各実施例あるいは各比較例から得られた組成物について、各測定に適合する試験片を作製した。
【0051】
<物性評価方法>
其々の物性評価方法について説明する。
可撓性:日本工業規格(JIS)―K―6901の方法に準拠し、(1)バーコール硬度、(2)曲げ降伏強度、及び、(3)曲げ弾性率試験の3項目について測定を行い、その測定値から硬化物の可撓性を評価した。試験は、バーコール硬度及び曲げ降伏強度については5回、曲げ弾性率試験については10回実施し、その平均値を求めた。
耐湿性:硬化物試験片を煮沸水中に10時間浸せきし、その前後の重量変化により硬化物の耐湿性を評価した。試験は2回実施し、その平均値を求めた。
耐クラック性:日本工業規格(JIS)―C―2105(電気絶縁用無溶剤レジン試験方法)を応用し、熱伝導率の異なる金属ワッシャーを封入した硬化物試験片を5個作成し、其々の試験片が150℃から0℃まで冷却する際に発生してくるクラックを観察し、その平均クラック数を算出した。
耐薬品性:硬化物試験片を10%水酸化ナトリウムあるいはn−ヘプタン溶液中に3日間浸せきし、その前後の重量変化により硬化物の耐薬品性を評価した。試験はそれぞれ2回実施し、その平均値を求めた。
耐熱性:日本工業規格(JIS)―K―6901の方法に準拠し、熱変形温度(HDT)ついて測定を行い、その測定値から硬化物の耐熱性を評価した。測定は5回実施し、その平均値を求めた。
【0052】
表3に、一連のエポキシ樹脂組成物の配合条件とその物性評価結果を示す。
【表3】
Figure 0003941937
【0053】
<相構造観察>
日本電子(株)製の透過型顕微鏡(TEM)「装置名JEM−1010」を用い、実施例と比較例の相構造を観察した。加速電圧は100kVであり、染色には酸化ルテニウムを使用した。したがって、染色相はポリブテン系材料を主成分とする相であると判断した。
【0054】
【発明の効果】
本発明によって、エポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤、および「アルデヒド基含有液状ポリブテン」の配合による組成物を硬化反応してなるエポキシ樹脂組成物によって、従来の物性面での問題点を解決できることが判明した。このように問題解決できるのは、エポキシ樹脂および必要により添加される硬化剤からなる硬化物が主成分である連続相と当該エポキシ樹脂および必要により添加される硬化剤と「アルデヒド基含有液状ポリブテン」が主成分である分散相からなる海島構造の相構造を発現させ、更には、その分散相構造を当該分散相の外周部全域に界面相を少なくとも1相有することに起因する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 代表的な相構造の概要図。

Claims (8)

  1. (A)エポキシ樹脂5〜100重量部、(C)硬化剤0〜95重量部(両者合わせて100重量部とする。)、(B)少なくとも一つのアルデヒド基を含有する液状ポリブテン(以下、「アルデヒド基含有液状ポリブテン」という。)1〜200重量部を含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
  2. 「アルデヒド基含有液状ポリブテン」が、液状ポリブテンの末端炭素上に形成されているアルデヒド基を有する構造であることを特徴とする請求項1記載のエポキシ樹脂組成物。
  3. 「アルデヒド基含有液状ポリブテン」が、主鎖構造中の繰り返し単位の80%以上が式(I)の構造であることを特徴とする請求項1〜2のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
    Figure 0003941937
  4. 「アルデヒド基含有液状ポリブテン」の数平均分子量が300〜6、000の範囲内にあることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
  5. (A)エポキシ樹脂5〜100重量部、(D)硬化剤0〜95重量部((A)と(D)合わせて100重量部とする。)、(B)「アルデヒド基含有液状ポリブテン」および(C)エポキシ構造が実質的に末端炭素上にのみ形成されているエポキシ基含有液状ポリブテン(以下、「エポキシ基含有液状ポリブテン」という。)を1〜200重量部を含むことを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
  6. 「エポキシ基含有液状ポリブテン」が、主鎖構造中の繰り返し単位の80%以上が式(I)の構造であることを特徴とする請求項5記載のエポキシ樹脂組成物。
    Figure 0003941937
  7. 「エポキシ基含有液状ポリブテン」の数平均分子量が300〜6,000の範囲内にあることを特徴とする請求項5〜6のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
  8. 染色法を用いて透過型電子顕微鏡で観察される組成物中の樹脂相の相構造が、連続相と100ミクロン以下の円状または楕円状の分散相からなる海島構造であり、かつ、当該分散相の外周部全域に界面相が存在する相構造であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載のエポキシ樹脂組成物。
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