JP3938451B2 - エネルギー吸収部材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エネルギー吸収部材に関し、例えば自動車のバンパー補強材として用いられるエネルギー吸収部材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、自動車、船舶、電車などの輸送機の外板や構造材あるいは部品用として、または家電製品の構造材あるいは部品用として、さらには屋根材などの建築構造物の部材用として、軽量化の観点からアルミニウム(Al)合金の使用が期待されている。
【0003】
アルミニウム合金の用途の一つとして、自動車のバンパー補強(リインフォースメント)材などのエネルギー吸収部材がある。エネルギー吸収部材には断面矩形の中空形材として成形されるものがある。エネルギー吸収部材には、様々なタイプのものが存在するが、バンパー補強材などとして使われるエネルギー吸収部材は、自動車の衝突などにより外部からエネルギーが与えられたときに、その衝撃エネルギーを形材の塑性変形により吸収する。これにより、他の部材が極力破損しないようにすることが可能となる。
【0004】
このようなエネルギー吸収部材については、それが使用される構造物の種類や使用部位によって、他の部材が極力破損しないようにするのに必要な吸収すべきエネルギーの大きさが決まってくる。一方で、吸収可能なエネルギーの大きさがあまりに大きいと、過剰設計となって重量が過大となってしまう。従って、エネルギー吸収部材は、必要最小限のエネルギーを吸収することができるように、しかも、過剰設計となって重量が過大とならないように設計される。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、このような中空構造を有するエネルギー吸収部材を例えば自動車のバンパー補強材として用いた場合、自動車の高速衝突時のエネルギー吸収性能が低くなるという問題がある。この点について、図9に基づいて説明する。図9(a)は、いわゆるバリア試験といわれる自動車の高速衝突時におけるエネルギー吸収部材のエネルギー吸収性能を測定する試験の様子を示す概略図である。また、図9(b)〜(d)は、図9(a)のA−A線における断面を衝突過程に従って経時的に表した断面図である。
【0006】
図9(a)、(b)において、長尺部材として成形されたエネルギー吸収部材101は上壁部111、底壁部112、ウェブ(側壁部)113、114からなる略矩形断面を有しており、その端部近傍には、2本のステイ(支持部材)102、103がボルト105によって取り付けられている。このような状態で、エネルギー吸収部材101と壁104とが高速衝突して、上壁部111および底壁部112に荷重が加えられると、エネルギー吸収は行われるものの、衝突力ないしは衝撃力が大きいため、図9(c)に示すように、ウェブ113、114が外側に変形するとともに、ウェブ113、114と底壁部112との接続個所116やウェブ113、114の曲げ変形個所117で割れが生じる。
【0007】
この結果、さらに変形が進行すると、図9(d)に示すように、エネルギー吸収部材101を支えるステイ102、103が底壁部112を突き抜けてエネルギー吸収部材101の中空部分の内部に侵入する、いわゆるステイ102、103による打ち抜き現象が発生する。そのため、図9(d)のような打ち抜きが生じた後はエネルギー吸収部材101によるエネルギー吸収が行われないことになり、エネルギー吸収部材101の高速衝突時におけるエネルギー吸収性能は不十分なものであった。
【0008】
これに対し、エネルギー吸収部材を構成するAl合金材料を高強度化することが試みられてきた。しかしながら、強度の高い材料は、その一方で比較的割れやすいという特性を有しており、かえってステイによる打ち抜きを助長することになる。そのため、材料強度を高くしても、高速衝突時のエネルギー吸収量を向上させることができない。
【0009】
一方、最近では、エネルギー吸収部材などの補強部材には、衝突の際のエネルギー吸収量だけではなく、軽量かつ省スペースな構造であることも要求されるようになっている。この軽量化と省スペースの要求を満足するためには、第1にエネルギー吸収部材の材料である鋼なり、Al合金なりの材料強度を高くする必要がある。しかし、材料を高強度化した場合には材料は割れやすくなり、割れが生じたときにはエネルギー吸収量は逆に低下する。つまり、エネルギー吸収量の向上と軽量化および省スペースのための高強度化は相矛盾する課題であって、材料側での成分、組織などの変更による冶金的な解決もさることながら、構造的な工夫も強く求められている。
【0010】
そこで、本発明の目的は、軽量化および省スペースを実現しつつ、高速衝突時におけるエネルギー吸収量の大きいエネルギー吸収部材を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1のエネルギー吸収部材は、上壁部と、前記上壁部と対向する底壁部と、前記上壁部および底壁部の間に設けられた一対の側壁部とからなる断面が略矩形の中空構造を有しており、前記上壁部から前記底壁部へと向かう方向の外部からの荷重によるエネルギーを中空部分の変形により吸収するエネルギー吸収部材において、前記一対の側壁部のそれぞれが、前記底壁部と前記一対の側壁部との接続個所どうしを結ぶ平面に対して前記中空構造の内角が鋭角となるように接続された第1平面部と、前記上壁部と前記一対の側壁部との接続個所どうしを結ぶ平面に対して前記中空構造の内角が鋭角となるように接続された第2平面部と、前記第1平面部と前記第2平面部との間にあって前記第1平面部及び前記第2平面部のいずれとも直交する方向に延在した第3平面部とから構成されており、前記上壁部および底壁部に対して加えられた外部からの荷重によるエネルギーを吸収する過程で、前記側壁部の少なくとも一部が中空内側に曲がるように構成されていることを特徴とするものである。
【0012】
請求項1のエネルギー吸収部材は、一対の側壁部のそれぞれが、底壁部と一対の側壁部との接続個所どうしを結ぶ平面に対して中空構造の内角が鋭角となるように接続された第1平面部と、上壁部と一対の側壁部との接続個所どうしを結ぶ平面に対して中空構造の内角が鋭角となるように接続された第2平面部と、第1平面部と第2平面部との間にあって第1平面部及び第2平面部のいずれとも直交する方向に延在した第3平面部とから構成されており、上壁部および底壁部に対して加えられた外部からの荷重によるエネルギーを吸収する過程で、側壁部の少なくとも一部が中空内側に曲がるように構成されているために、例えばステイのようなエネルギー吸収部材を支持する支持部材が高速衝突時に中空内側に侵入するのを中空内側に曲がった側壁部が抑制するので、支持部材による底壁部の打ち抜きを防止することができる。そのため、支持部材による打ち抜きが生じる場合と比較してエネルギー吸収量が大幅に増加する。
【0013】
また、側壁部が中空内側に曲がることにより側壁部と底壁部とが干渉するので、エネルギー吸収部材により大きな荷重が加えられることになってエネルギー吸収量が増加する。
【0014】
さらに、側壁部が中空内側に曲がることにより、たとえ側壁部に割れが生じたとしても、割れた部分が上壁部および底壁部の幅内に収まっていることが多いと考えられ、そのため、側壁部には上壁部および底壁部を介して荷重がかけられることが多くなり、割れた部分を有する側壁部によってもエネルギーを吸収することができるようになる。従って、側壁部に割れの生じた場合であっても予定された大きさまたはそれに近いエネルギーを吸収することが可能となる。
【0015】
なお、請求項1のエネルギー吸収部材は、任意の断面形状を有していてよく、略矩形の断面形状を有するものに限られるものではない。また、上壁部および底壁部は、必ずしも互いに平行に対向している必要はない。また、上壁部、底壁部および側壁部は、それぞれ必ずしも1つの面で構成されている必要はなく、複数の面(平面および曲面の両方を含む)で構成されていてよい。また、「少なくとも一部が中空内側に曲がる」としたのは、側壁部を構成する各部分のすべてが中空内側に曲がらなくとも、側壁部の一部が中空内側に曲がることにより、支持部材による打ち抜きを防止する作用が働くことが考えられるからである。
【0016】
請求項1において、上壁部および底壁部に対して加えられた外部からの荷重によるエネルギーを吸収する過程で側壁部の少なくとも一部が中空内側に曲がるようにするための具体的な手段について説明する。上述したように、断面が完全に矩形で4つの面が直交している場合には、外部からの荷重が加えられた上壁部および底壁部が中空内側に向けて曲がるとともに、側壁部としてのウェブが中空外側に向けて曲がる。従って、側壁部の少なくとも一部が中空内側に曲がるように構成するには、上壁部および底壁部と平行な面に対して中空構造の内角が鋭角となるように接続された部分が側壁部にあることが少なくとも必要である。また、上壁部(または底壁部)が曲面である場合には、底壁部と一対の側壁部との接続個所どうしを結ぶ平面に対してそれぞれ中空構造の内角が鋭角となるように接続された部分を側壁部がそれぞれ有していることが必要である。
【0017】
また、ある面はその両端の角部での曲率半径が大きくなるほど中空外側に曲がりやすくなる傾向がある。従って、側壁部の少なくとも一部を中空内側に曲がりやすくするには、曲率半径が比較的小さい角部を有する部分が側壁部にあることが好ましい。また、ある面はその両端の角部が肉盛などで補強されていても中空内側に曲がりやすくなる。従って、側壁部の少なくとも一部を中空内側に曲がりやすくするには、肉盛などで補強された角部を有する部分が側壁部にあることが好ましい。
【0018】
すなわち、側壁部の少なくとも一部が中空内側に曲がるように構成するためには、底壁部と一対の側壁部との接続個所どうしを結ぶ平面に対してそれぞれ中空構造の内角が鋭角となるように接続された部分が側壁部にあることが必要であり、その「鋭角」の角度範囲は、曲率半径の大小や肉盛などでの補強程度に依存して変化する。なお、ここでは、側壁部の少なくとも一部が中空内側に曲がるように構成するための好適な条件として曲率半径の大小や肉盛などでの補強程度を挙げたが、これら以外に好適な条件があれば、その条件を満たすようにすることが好ましい。
【0019】
また、請求項2のエネルギー吸収部材は、前記上壁部および底壁部に対して加えられた外部からの荷重によるエネルギーを吸収する過程で、前記側壁部が前記上壁部の幅よりも突出することなく曲がるように構成されていることを特徴とするものである。
【0020】
請求項2のエネルギー吸収部材は、上壁部および底壁部に対して加えられた外部からの荷重によるエネルギーを吸収する過程で側壁部が上壁部の幅よりも突出することなく曲がるように構成されているために、高速衝突時における支持部材による底壁部の打ち抜きをより効果的に防止することができるとともに側壁部と底壁部との干渉作用が大きくなるので、エネルギー吸収量が増大する。また、たとえ側壁部に割れが生じたとしても、側壁部には上壁部および底壁部を介して荷重がかけられることとなって、割れた部分を有する側壁部によってもエネルギーを吸収することができるようになる。従って、側壁部に割れの生じた場合であっても予定された大きさまたはそれに近いエネルギーを吸収することが可能となる。
【0021】
なお、請求項2のエネルギー吸収部材において、「側壁部が上壁部の幅よりも突出することなく曲がる」としたのは、側壁部が上壁部の幅よりも突出すると、その部分で支持部材による打ち抜きを防止することができなくなるとともに、その突出部において側壁部に割れが生じると、その部分で荷重によるエネルギー吸収を行うことができなくなるからである。また、ここでいう「上壁部の幅」は、荷重がかけられた方向に垂直な方向に関する上壁部の断面寸法を意味するものとする。
【0022】
請求項2において、上壁部および底壁部に対して加えられた外部からの荷重によるエネルギーを吸収する過程で上壁部および底壁部に挟まれた側壁部が上壁部の幅よりも突出することなく曲がるようにするための具体的な手段は、請求項1の場合とほぼ同様である。すなわち、底壁部と一対の側壁部との接続個所どうしを結ぶ平面に対してそれぞれ中空構造の内角が鋭角となるように接続された部分を側壁部がそれぞれ有していることが必要であり、その「鋭角」の角度範囲は、曲率半径の大小や肉盛などでの補強程度に依存して変化する。また、上壁部の幅よりも突出しない範囲において、側壁部の一部が中空外側に曲がってもよい。
【0023】
また、請求項3のエネルギー吸収部材は、前記上壁部および底壁部に対して加えられた外部からの荷重によるエネルギーを吸収する過程で、前記第3平面部が、前記上壁部および底壁部の少なくともいずれか一方と実質的に垂直に近接することを特徴とするものである。
【0024】
請求項3のエネルギー吸収部材は、上壁部および底壁部に対して加えられた外部からの荷重によるエネルギーを吸収する過程で第3平面部が上壁部および底壁部の少なくともいずれか一方と実質的に垂直に近接するために、中空部分の変形途中において第3平面部が上壁部および底壁部を垂直に支えることになる。そのため、第3平面部を曲げて中空部分を変形させるには比較的大きな荷重が必要となることから、中空部分の変形をより効果的に抑制することができる。従って、部材の板厚を変えないという条件ではより大きなエネルギーを吸収することが可能となり、同じ大きさのエネルギーを吸収するという条件では板厚を薄くして部材の軽量化を図ることができる。
【0025】
また、請求項3のエネルギー吸収部材を輸送機用として用いた場合、中空部分の変形当初は比較的小さな荷重で中空部分が変形するため、エネルギー吸収部材を支持する部材に大きな荷重が加えられることがなく、破壊が予定されているエネルギー吸収部材だけを壊すことができる。
【0026】
また、請求項4のエネルギー吸収部材は、上述したエネルギー吸収部材において、前記第3平面部の板厚がそれ以外の部分の板厚よりも大きいことを特徴とするものである。
【0027】
請求項4のエネルギー吸収部材によると、第3平面部の板厚がそれ以外の部分の板厚よりも大きいことにより、所定の大きさのエネルギー吸収を実現しつつ、第3平面部の強度だけを補強し且つ全体の軽量化を図ることが可能である。
【0028】
また、請求項5のエネルギー吸収部材は、上壁部と、前記上壁部と対向する底壁部と、前記上壁部および底壁部の間に設けられた一対の側壁部とからなる中空構造を有しており、前記上壁部から前記底壁部へと向かう方向の外部からの荷重によるエネルギーを中空部分の変形により吸収するエネルギー吸収部材において、前記一対の側壁部のそれぞれが、前記底壁部と前記一対の側壁部との接続個所どうしを結ぶ平面に対して前記中空構造の内角が鋭角となるように接続された第1平面部と、前記上壁部と前記一対の側壁部との接続個所どうしを結ぶ平面に対して前記中空構造の内角が鋭角となるように接続された第2平面部と、前記第1平面部と前記第2平面部との間にあって前記第1平面部及び前記第2平面部のいずれとも直交する方向に延在した第3平面部とから構成されているとともに、前記一対の側壁部に少なくとも1個所の中空内側に向いた折り曲げ個所がそれぞれ設けられていることを特徴とするものである。
【0029】
請求項5によると、一対の側壁部のそれぞれが底壁部と一対の側壁部との接続個所どうしを結ぶ平面に対して中空構造の内角が鋭角となるように接続された第1平面部と、上壁部と一対の側壁部との接続個所どうしを結ぶ平面に対して中空構造の内角が鋭角となるように接続された第2平面部と、第1平面部と第2平面部との間にあって第1平面部及び第2平面部のいずれとも直交する方向に延在した第3平面部とから構成されているために、一対の側壁部に荷重がかけられた場合に側壁部が中空内側に曲げられやすくなっており、しかも一対の側壁部に少なくとも1個所の中空内側に向いた折り曲げ個所がそれぞれ設けられていることにより、一対の側壁部に荷重がかけられた場合に側壁部を非常に高い割合で中空内側に曲げることができる。従って、請求項1と同様に、高速衝突時における支持部材による底壁部の打ち抜きを防止することができるとともに側壁部と底壁部との干渉作用が生じるために、エネルギー吸収量を増大させることができる。また、側壁部に割れが生じたとしても、予定された大きさまたはそれに近いエネルギーを吸収することが可能となる。
【0030】
また、請求項5では、一対の側壁部が底壁部と一対の側壁部との接続個所どうしを結ぶ平面に対してそれぞれ中空構造の内角が鋭角となるように接続されているために、側壁部に設けられる折り曲げ個所のうち最も底壁部に近い折り曲げ個所(以下、本明細書において「第1折り曲げ部」という)は非常に高い割合で中空内側に向いた折り曲げ個所となる。そして、中空内側に向いた第1折り曲げ部を設けるようにした場合には、後述の実施例で詳述するように、中空内側に向いた第1折り曲げ部と底壁との距離、および、第1折り曲げ部と底壁端との距離を適宜設定することによって、用途に応じてエネルギー吸収部材として好適な特性を実現することができるという利点がある。
【0031】
また、請求項5のエネルギー吸収部材は、任意の断面形状を有していてよく、略矩形の断面形状を有するものに限られるものではない。また、上壁部と底壁部は、必ずしも互いに平行に対向している必要はない。また、上壁部および底壁部は、それぞれ必ずしも1つの面で構成されている必要はなく、複数の面(平面および曲面の両方を含む)で構成されていてよい。
【0032】
また、請求項6のエネルギー吸収部材は、前記上壁部が中空外側に膨らむように湾曲している部分を有することを特徴とするものである。
【0033】
請求項6によると、上壁部が中空外側に膨らむように湾曲している部分を有するために、上壁部の曲げ剛性が向上して上壁部に大きな荷重が与えられた場合であっても衝突面となる上壁部が中空内側に座屈しづらく、エネルギー吸収部材におけるエネルギー吸収量が増加する。また、請求項6によると、低速衝突時のエネルギー吸収部材の変形量を小さく抑制できるという利点がある。
【0034】
また、請求項7のエネルギー吸収部材は、前記上壁部が、前記上壁部と前記一対の側壁部との接続個所を越えて外側に伸延して設けられていることを特徴とするものである。
【0035】
請求項7によると、上壁部と一対の側壁部との接続個所を越えて上壁部が外側に伸延しているために、上壁部がその端点において側壁部と接続されている場合と比較して上壁部の曲げ剛性が向上し、衝突時に上壁部が座屈しにくく、エネルギー吸収量が増加する。
【0036】
また、請求項8のエネルギー吸収部材は、前記底壁部が、前記底壁部と前記一対の側壁部との接続個所を越えて外側に伸延して設けられていることを特徴とするものである。
【0037】
請求項8によると、底壁部と一対の側壁部との接続個所を越えて底壁部が外側に伸延しているために、請求項7と同様に底壁部の曲げ剛性が向上してエネルギー吸収量を増加させることができる。また、このようにいわゆるフランジとなる部分を底壁部に設けることによって、底壁部と側壁部との接続個所近傍に割れが発生した場合に、その割れが反対側の接続個所に伝播していくのを防止することができる。また、底壁部と一対の側壁部との接続個所を越えて底壁部が外側に伸延しているので、底壁部に大きな荷重が与えられた場合であっても底壁部が中空内側方向に打ち抜かれるのを確実に抑制することができる。
【0038】
また、請求項9のエネルギー吸収部材は、前記中空構造の内部にはリブが形成されていないことを特徴とするものである。また、請求項10のエネルギー吸収部材は、上述したようなエネルギー吸収部材がアルミニウム合金製の押出形材であることを特徴とするものである。
【0039】
請求項10のように、エネルギー吸収部材がアルミニウム合金製の押出形材であることにより、部材の重量を軽量化することができるとともに、部材を比較的容易に製造することが可能となる。
【0040】
また、本発明で用いられる材料は、鋼としては低炭素鋼や炭素鋼或いはハイテン(高強度)鋼が、アルミニウム合金としては、要求特性に応じて、AAないしJIS規格による1000系、3000系、5000系、6000系または7000系などのアルミニウム合金が適宜選択されて用いられる。前記したとおり、本発明では、材料の高強度化とエネルギー吸収量低下との矛盾を構造的に解決しているので、より高強度な材料が使用できるという利点もある。この点、前記曲げ剛性を向上させるためにはハイテン鋼、また、軽量化のためにはAAないしJIS規格による7000系アルミニウム合金板(以下、単に「7000系Al合金板」という)であることが好ましい。また、これら高強度材料を用いることにより、バンパーなどをより薄肉化できるという効果がある。
【0041】
7000系アルミニウム合金の一例としての7003アルミニウム合金は、Al−Zn−Mg−Cu系合金であって、基本的にZnを5.0〜6.5重量%、Mgを0.5〜1.0重量%、Feを0.35重量%、Mnを0.3重量%、Siを0.3重量%、Cuを0.2重量%、Crを0.2重量%、Tiを0.2重量%、残部Alおよび不可避的不純物を含有している。しかし、必ずしも各成分が規格通りにならずとも、適宜成分組成の変更は許容される。すなわち、上記元素の成分範囲の変更や、より具体的な用途および要求特性に応じて、他の元素を適宜含むことは許容される。
【0042】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態について、図面を参照して説明する。
【0043】
図1は、本発明の参考例に係る自動車のバンパー補強材として用いられるエネルギー吸収部材の断面図である。本参考例のエネルギー吸収部材1は、7000系Al合金からなる押出形材であって、4つの部位に囲まれた略矩形の中空構造を有している。すなわち、エネルギー吸収部材1は、互いに平行に対向する上壁部11および底壁部12と、上壁部11および底壁部12の間に設けられてこれら2つの部位を連結する一対のウェブ(側壁部)13、14とを具備している。
【0044】
ウェブ13、14は、やや中空内側に湾曲した1つの曲面で構成されており、上壁部11および底壁部12と70°程度の角度でそれぞれ接続されている。また、ウェブ13、14と上壁部11および底壁部12との連結個所近傍のウェブ13、14内外には、ウェブ13、14を補強するための肉盛15が施されている。
【0045】
エネルギー吸収部材1が自動車のバンパー補強材として用いられる場合、例えば図9(a)、(b)に示したように、長尺部材として成形されたエネルギー吸収部材1の底壁部12に2本のステイ(支持部材)が取り付けられる。このような状態で、エネルギー吸収部材1と壁とが高速衝突して、上壁部11および底壁部12にエネルギー吸収部材1を押しつぶす方向の荷重が加えられると、主にウェブ13、14がステイとの接続個所を中心として変形する。
【0046】
図2は、高速衝突時のステイとの接続部分でのエネルギー吸収部材1の変形過程での一状態を示す断面図である。本参考例では、上壁部11および底壁部12とウェブ13、14とが70°程度の角度をなして接続されているとともにウェブ13、14の両端部近傍に肉盛15が施されているために、図2に示すように、ウェブ13、14は、上壁部11および底壁部12に対して加えられた荷重によるエネルギーにより中空内側に曲げられる。
【0047】
従って、さらに変形が進んでウェブ13、14のいずれかの個所に割れが発生したとしても、変形の最終段階、つまり上壁部11と底壁部12とが実質的に接触する程度に近接するまでの間にウェブ13、14の割れた部分が上壁部11または底壁部12と当接することになる。そのため、たとえウェブ13、14に割れが生じたとしても、割れた部分には上壁部11および底壁部12から荷重が加えられることになり、割れが生じた以降その部分でのエネルギー吸収が行われないということがなくなる。つまり、割れが生じたウェブ13、14にもある程度の荷重が加えられ、荷重によるウェブ13、14の変形によってエネルギーの吸収が行われることになる。
【0048】
また、ウェブ13、14が中空内側に曲げられるので、内側に倒れたウェブ13、14がステイの侵入を食い止めることになって、図9(d)に示したようなステイによる打ち抜き現象を防止することができる(この点については、後の第3の実施の形態において図7を参照にして詳述する)。このように、本参考例によると、ステイによる底壁部12の打ち抜きを極力防止することができるため、打ち抜き現象が生じる場合と比較してエネルギー吸収量が大幅に増大する。また、ステイの幅を小さくしても打ち抜きが生じにくくなるので、ステイの幅を可能な限り小さくすることができ、ステイの小型化によって車両の軽量化を図ることができる。
【0049】
また、本参考例によると、ウェブ13、14が中空内側に曲げられるので、エネルギー吸収が進むと内側に倒れたウェブ13、14が底壁部12と接触してエネルギー吸収部材1に加えられる荷重が大きくなり、この点からもエネルギー吸収部材1によるエネルギー吸収量を増大させることができる。
【0050】
次に、本発明の第1の実施の形態について説明する。図3は、本発明の第1の実施の形態に係る自動車のバンパー補強材として用いられるエネルギー吸収部材の断面図である。本実施の形態のエネルギー吸収部材2は、7000系Al合金からなる押出形材であって、4つの部位に囲まれた略矩形の中空構造を有している。すなわち、エネルギー吸収部材2は、互いに平行に対向する上壁部21および底壁部22と、上壁部21および底壁部22の間に設けられてこれら2つの部位を連結する一対のウェブ(側壁部)23、24とを具備している。
【0051】
ウェブ23は、上部23aと中央部(垂直面部)23bと下部23cとの3つの平面部分から構成されている。上部23aは上壁部21と80°程度の角度で接続されており、下部23cは底壁部22と80°程度の角度で接続されている。また、上壁部21および底壁部22と垂直である中央部23bは、上部23aおよび下部23cとそれぞれ160°程度の角度で接続されている。つまり、ウェブ23は、上壁部21および底壁部22の端部からやや中空内側に凹んだ形状に形成されている。そして、ウェブ23と上壁部21および底壁部22との連結角部は、非常に小さな曲率半径を有している。
【0052】
また、ウェブ24についても、ウェブ23と同様に、上部24aと中央部(垂直面部)24bと下部24cという3つの平面部分から構成されており、これら各部分の接続角度などはウェブ23の上部23aと中央部23bと下部23cと同じである。また、ウェブ24と上壁部21および底壁部22との連結角部の曲率半径が非常に小さい点もウェブ23同様である。
【0053】
また、本実施の形態のエネルギー吸収部材2において、ウェブ23、24の中央部23b、24bの板厚は、エネルギー吸収部材2の他の部分の板厚よりも若干大きく形成されている。
【0054】
このように構成されたエネルギー吸収部材2が自動車のバンパー補強材として用いられる場合、例えば図9(a)、(b)に示したのと同様に、長尺部材として成形されたエネルギー吸収部材2の底壁部22に2本のステイが取り付けられる。このような状態で、エネルギー吸収部材2と壁とが高速衝突して、上壁部21および底壁部22にエネルギー吸収部材2を押しつぶす方向の荷重が加えられると、主にウェブ23、24がステイとの接続部分を中心として変形する。
【0055】
図4は、ステイとの接続部分でのエネルギー吸収部材2の変形過程での一状態を示す断面図である。本実施の形態では、上壁部21および底壁部22とウェブ23、24とが80°程度の角度をなして接続されているとともにウェブ23、24と上壁部21および底壁部22との連結角部の曲率半径が非常に小さいために、図4に示すように、ウェブ23、24は、上壁部21および底壁部22に対して加えられた荷重によるエネルギーにより中空内側に曲げられる。このとき、ウェブ23、24の中央部23b、24bには、上部23a、24aおよび下部23c、24cからほぼ同等の荷重がそれぞれ加えられるので、中央部23b、24bは上壁部21および底壁部22に対して垂直な状態を保ったままである。つまり、ウェブ23、24は、その凹みの程度が大きくなるように変形していく。
【0056】
図5は、図4よりもさらに変形が進んだ状態でのエネルギー吸収部材2の断面図である。ウェブ23、24の中央部23b、24bは上壁部21および底壁部22の対して垂直な状態を保ったまま、上壁部21および底壁部22に接近していき、最終的にはこれらに接触する。
【0057】
従って、ここまでの過程でウェブ23、24に割れが発生したとしても(本実施の形態では特に上部23a、24aと中央部23b、24bとの境界付近などで割れが発生しやすいと考えられる)、中央部23b、24bが上壁部21および底壁部22と当接することになるため、中央部23b、24bには上壁部21および底壁部22から荷重が加えられることになり、割れが生じた以降中央部23b、24bでのエネルギー吸収が行われないということがない。つまり、割れが生じたウェブ23、24にもある程度の荷重が加えられ、荷重によるウェブ23、24の変形によってエネルギーの吸収が行われることになる。
【0058】
また、本実施の形態では、中央部23b、24bが上壁部21および底壁部22と実質的に垂直に近接するので、上壁部21および底壁部22が中央部23b、24bと接触した以降において中央部23b、24bを変形させるには比較的大きな荷重が必要となる。従って、エネルギー吸収部材2の中空部分の変形が抑制され、これを変形させるには大きなエネルギーが必要となる。つまり、中央部23b、24bの板厚が一定という条件ではより大きなエネルギーを吸収することが可能であり、同じ大きさのエネルギーを吸収するという条件では中央部23b、24bの板厚を薄くしてエネルギー吸収部材2の軽量化を図ることが可能となる。
【0059】
また、本実施の形態のエネルギー吸収部材2を自動車などの輸送機用とした用いた場合、上記のようにエネルギー吸収部材2の軽量化を図ることができると同時に、変形当初は比較的小さな荷重により中空部分が変形するため、エネルギー吸収部材2を支持する部材に大きな荷重が加えられることがなく、破壊が予定されているエネルギー吸収部材2だけを壊すことができる。
【0060】
さらに、本実施の形態のエネルギー吸収部材2では、中央部23b、24bの板厚が他の部分の板厚よりも大きいために、所定の大きさのエネルギー吸収を実現しつつ、中央部23b、24bの強度だけを補強し且つエネルギー吸収部材2全体の軽量化を図ることができる。
【0061】
図5に示した状態からさらに変形が進むと、中央部23b、24bが中空内側または外側に曲がることによるエネルギー吸収が行われる。中央部23b、24bが中空内側に曲がるか外側に曲がるかは、中央部23b、24bと上壁部21および底壁部22との接触角度やウェブ23、24における割れの有無などの条件に依存する。中央部23b、24bが中空外側に曲がる場合には、中央部23b、24bは、上壁部21および底壁部22の幅よりも突出しないことが好ましい。なぜなら、このようなときに突出部で割れが発生すると、そこでのエネルギー吸収が行われなくなるおそれがあるからである。
【0062】
また、本実施の形態においても、参考例と同様に、内側に倒れたウェブ23、24によって高速衝突時の底壁部22の打ち抜き現象を防止することができるとともに、内側に倒れたウェブ23、24が底壁部22と接触することによってエネルギー吸収量を増大させることができる。
【0063】
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。図6は、本発明の第2の実施の形態に係る自動車のバンパー補強材として用いられるエネルギー吸収部材の断面図である。本実施の形態のエネルギー吸収部材3は、7000系Al合金からなる押出形材であって、4つの部位に囲まれた略矩形の中空構造を有している。すなわち、エネルギー吸収部材3は、若干中空外側(すなわち上向き)に膨らむように湾曲した上壁部31と、上壁部31と対向する平板として形成された底壁部32と、上壁部31および底壁部32の間に設けられてこれら2つの部位を連結する一対のウェブ(側壁部)33、34とを具備している。
【0064】
上壁部31は、左端部31a、中央部31b、右端部31cの3つの部分から構成されている。左端部31aと中央部31bとの境界部にはウェブ33が接続されており、中央部31bと右端部31cとの境界部にはウェブ34が接続されている。つまり、上壁部31の左端部31aは、上壁部31とウェブ33との接続個所を越えて左外側に伸延しており、上壁部31の右端部31cは、上壁部31とウェブ34との接続個所を越えて右外側に伸延している。同様に、底壁部32は、左端部32a、中央部32b、右端部32cの3つの部分から構成されており、左端部32aと中央部32bとの境界部にはウェブ33が接続されており、中央部32bと右端部32cとの境界部にはウェブ34が接続されている。また、上壁部31の場合に比べて伸延長さは短いものの、底壁部32の左端部32aは、底壁部32とウェブ33との接続個所を越えて左外側に伸延しており、底壁部32の右端部32cは、底壁部32とウェブ34との接続個所を越えて右外側に伸延している。
【0065】
また、ウェブ33は、上部33aと中央部(垂直面部)33bと下部33cとの3つの平面部分から構成されている。上部33aは上壁部31と80°程度の角度で接続されており、下部33cは底壁部32と60°程度の角度で接続されている。また、上壁部31の中央部31bおよび底壁部32の中央部32bと垂直である中央部33bは、中空内側に向いた折り曲げ個所36aにおいて上部33aと160°程度の角度で接続されているとともに、中空内側に向いた折り曲げ個所37aにおいて下部33cと120°程度の角度で接続されている。つまり、ウェブ33は、やや中空内側に凹んだ形状に形成されている。
【0066】
また、ウェブ34についても、ウェブ33と同様に、上部34aと中央部(垂直面部)34bと下部34cという3つの平面部分から構成されており、中空内側に向いた折り曲げ個所36b、37bにおける接続角度などはウェブ33の場合と同じである。
【0067】
なお、本実施の形態では底壁部32が平面であるが、これが中空外側または内側に膨らむように湾曲していてもよい。この場合には、ウェブ33、34は底壁部32とウェブ33、34との接続個所どうしを結ぶ平面に対してそれぞれ鋭角をなして接続されていればよい。
【0068】
また、本実施の形態のエネルギー吸収部材3において、ウェブ33、34の中央部33b、34bの板厚は、エネルギー吸収部材3の他の部分の板厚よりも若干大きく形成されている。
【0069】
このように構成されたエネルギー吸収部材3が自動車のバンパー補強材として用いられる場合、例えば図7(a)に示すように、長尺部材として成形されたエネルギー吸収部材3の底壁部32の両端部近傍に2本のステイ(図7(a)には1つのステイ72だけが示されている)がボルト73によって取り付けられる。このような状態で、エネルギー吸収部材3と壁とが高速衝突して、上壁部31および底壁部32にエネルギー吸収部材3を押しつぶす方向の荷重が加えられると、主にウェブ33、34がステイとの接続部分を中心として変形する。
【0070】
このとき、ウェブ33、34の下部33c、34cと底壁部32とが鋭角をなして接続されており、ウェブ33、34の折り曲げ個所36a、36b、37a、37bがすべて中空内側に向いているために、ウェブ33、34は上壁部31および底壁部32に加えられたエネルギーによって中空内側に曲げられ、図7(b)に示すように、ウェブ33、34の下部33c、34cが底壁部32と接触する。また、さらに変形が進むと、図7(c)に示すように、ウェブ33、34の中央部33b、34bにも曲げ個所が生じてボルト73の頂部が上壁部31の内側と接するようになる。
【0071】
このように、ウェブ33、34が中空内側に曲がると、ウェブ33、34のいずれかの個所に割れが発生したとしても割れた部分にも上壁部31および底壁部32からの荷重が加えられることになり、エネルギー吸収部材3は予定していたエネルギー量またはそれに近いエネルギー量を吸収することになる。
【0072】
また、本実施の形態では、ウェブ33、34が中空内側に曲げられるので、内側に倒れたウェブ33、34の下部33c、34cがステイ72の侵入を食い止めることになって、図9(d)に示したようなステイによる底壁部32の打ち抜き現象を防止することができて、エネルギー吸収部材3によるエネルギー吸収量が大幅に増加する。
【0073】
また、本実施の形態によると、ウェブ33、34が中空内側に曲げられるので、エネルギー吸収が進むと内側に倒れたウェブ33、34が底壁部32と接触してエネルギー吸収部材3に加えられる荷重が大きくなり、この点からもエネルギー吸収部材3によるエネルギー吸収量を増大させることができる。なお、図7(c)に示されているようなボルト73と上壁部31との接触によっても、エネルギー吸収部材3によるエネルギー吸収量が増大する。
【0074】
また、本実施の形態のエネルギー吸収部材3においては、上壁部31が中空外側に膨らむように湾曲していること、および、上壁部31がウェブ33、34との接続個所を越えて外側に伸延した左端部31a、右端部31cを有していることにより、上壁部31の曲げ剛性が通常の断面矩形のエネルギー吸収部材のものよりも大きい。そのため、上壁部31が座屈しづらく、エネルギー吸収部材3によるエネルギー吸収量が大きくなっている。
【0075】
さらに、上壁部31が中空外側に膨らむように湾曲しているために、高速衝突でのエネルギー吸収量が増大することに加えて、低速衝突時においてエネルギー吸収部材3の変形量を小さく抑制することができるという利点がある。
【0076】
また、本実施の形態のエネルギー吸収部材3においては、底壁部32とウェブ33、34との接続個所を越えて底壁部32が外側に伸延しているために、底壁部32の曲げ剛性が通常の断面矩形のエネルギー吸収部材のものよりも大きい。そのため、底壁部32が座屈しづらく、エネルギー吸収部材3によるエネルギー吸収量が大きい。
【0077】
また、本実施の形態のエネルギー吸収部材3には、底壁部32にウェブ33、34との接続個所を越えて外側に伸延した左端部32a、右端部32cのようないわゆるフランジとなる部分が設けられているために、底壁部32とウェブ33、34との接続個所近傍に割れが発生した場合であっても、その割れが反対側の接続個所に伝播しづらい。この点からも、エネルギー吸収部材3のエネルギー吸収量を増加させることができる。また、本実施の形態のエネルギー吸収部材3によると、左端部32a、右端部32cが設けられているために、高速衝突によって底壁部32に大きな荷重が与えられた場合であっても底壁部32がステイによって中空内側方向に打ち抜かれるのを抑制することができる。従って、この点からも、エネルギー吸収部材3のエネルギー吸収量を増加させることができる。また、底壁部32に左端部32a、右端部32cを設けることでステイによる打ち抜き防止効果があるので、ステイの幅をより小さくしても打ち抜きが発生しづらく、ステイ幅の減少分だけ車両の軽量化を図ることができる。
【0078】
次に、本発明の別の参考例について説明する。図8は、本参考例に係る自動車のバンパー補強材として用いられるエネルギー吸収部材の断面図である。本参考例のエネルギー吸収部材4は、7000系Al合金からなる押出形材であって、4つの部位に囲まれた略矩形の中空構造を有している。すなわち、エネルギー吸収部材4は、若干中空外側(すなわち上向き)に膨らむように湾曲した上壁部41と、上壁部41と対向する平板として形成された底壁部42と、上壁部41および底壁部42の間に設けられてこれら2つの部位を連結する一対のウェブ(側壁部)43、44とを具備している。
【0079】
本参考例のエネルギー吸収部材4が第2の実施の形態のエネルギー吸収部材3と異なるのは、ウェブ43、44の構造に関する点だけであり、上壁部41および底壁部42の構造は第2の実施の形態の上壁部31および底壁部32と実質的に同じである。すなわち、第2の実施の形態のエネルギー吸収部材3ではウェブ33、34がそれぞれ3つの部分から構成されていたが、本参考例ではウェブ43、44が2つの部分から構成されている。具体的には、ウェブ43は、上部43aと下部43bとの2つの平面部分から構成されており、上部43aは上壁部41と80°程度の角度で接続されており、下部43bは底壁部42と60°程度の角度で接続されている。また、ウェブ43の上部43aと下部43bは中空内側に向いた折り曲げ個所46aにおいて120°程度の角度で接続されており、ウェブ43は、やや中空内側に凹んだ形状に形成されている。
【0080】
また、ウェブ44についても、ウェブ43と同様に、上部44aと下部44bという2つの平面部分から構成されており、中空内側に向いた折り曲げ個所46bにおける接続角度などはウェブ43の場合と同じである。
【0081】
このように構成されたエネルギー吸収部材4が自動車のバンパー補強材として用いられると、図7(a)で説明したのと同様に底壁部42にステイが取り付けられる。そして、高速衝突によって上壁部41および底壁部42にエネルギー吸収部材4を押しつぶす方向の荷重が加えられると、主にウェブ43、44がステイとの接続部分を中心として変形する。このとき、ウェブ43、44の下部43b、44bと底壁部42とが鋭角をなして接続されており、ウェブ43、44の折り曲げ個所46a、46bがすべて中空内側に向いているために、ウェブ43、44は上壁部41および底壁部42に加えられたエネルギーによって中空内側に曲げられる。従って、ウェブ43、44のいずれかの個所に割れが発生したとしても割れた部分にも上壁部41および底壁部42からの荷重が加えられることになり、エネルギー吸収部材4は予定していたエネルギー量またはそれに近いエネルギー量を吸収することになる。
【0082】
また、本参考例では、ウェブ43、44が中空内側に曲げられるので、内側に倒れたウェブ43、44の下部43b、44bがステイの侵入を食い止めることになって、図9(d)に示したようなステイによる底壁部42の打ち抜き現象を防止することができる。このように、本参考例によると、ステイによる打ち抜きを極力防止することができるため、ステイの幅を可能な限り小さくすることができ、この点から車両の軽量化を図ることができる。
【0083】
また、本参考例によると、ウェブ43、44が中空内側に曲げられるので、エネルギー吸収が進むと内側に倒れたウェブ43、44が底壁部42と接触してエネルギー吸収部材4に加えられる荷重が大きくなり、この点からもエネルギー吸収部材4によるエネルギー吸収量を増大させることができる。
【0084】
また、本参考例のエネルギー吸収部材4においては、上壁部41が中空外側に膨らむように湾曲していること、および、上壁部41がウェブ43、44との接続個所を越えて外側に伸延した左端部41a、右端部41cを有していることにより、上壁部41が座屈しづらく、エネルギー吸収部材3によるエネルギー吸収量が大きくなっている。さらに、上壁部31が中空外側に膨らむように湾曲しているために、低速衝突時においてエネルギー吸収部材3の変形量を小さく抑制することができる。
【0085】
また、本参考例のエネルギー吸収部材4においては、底壁部42とウェブ43、44との接続個所を越えて底壁部42が外側に伸延しているために、底壁部42が座屈しづらく、エネルギー吸収部材4によるエネルギー吸収量が大きい。また、本参考例のエネルギー吸収部材4には、底壁部42にウェブ43、44との接続個所を越えて外側に伸延した左端部42a、右端部42cが設けられているために、底壁部42とウェブ43、44との接続個所近傍に割れが発生した場合であっても、その割れが反対側の接続個所に伝播しづらく、また、底壁部42に大きな荷重が与えられた場合であっても底壁部42が中空内側方向に打ち抜かれるのを抑制することができ、これらの点からもエネルギー吸収部材4のエネルギー吸収量を増加させることができる。
【0086】
以上、本発明の好適な実施の形態及び参考例について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な設計変更が可能である。例えば、上述の実施の形態では断面が略矩形のエネルギー吸収部材について説明したが、本発明はこれに限られるものではなく、例えば断面が略5角形であってもよい。また、上述の実施の形態では、ウェブ全体が中空内側に曲がる場合を説明したが、ウェブは少なくともその一部が中空内側に曲がればよく、必ずしもウェブ全体が中空内側に曲がる必要はない。
【0087】
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
【0092】
【0093】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1のエネルギー吸収部材によると、例えばステイのようなエネルギー吸収部材を支持する支持部材が高速衝突時に中空内側に侵入するのを中空内側に曲がった側壁部が抑制するので、支持部材による底壁部の打ち抜きを防止することができて、支持部材による打ち抜きが生じる場合と比較してエネルギー吸収量が大幅に増加する。また、側壁部が中空内側に曲がることにより側壁部と底壁部とが干渉するので、エネルギー吸収部材により大きな荷重が加えられることになってエネルギー吸収量が増加する。
【0094】
さらに、側壁部が中空内側に曲がることにより、たとえ側壁部に割れが生じたとしても、割れた部分が上壁部および底壁部の幅内に収まっていることが多いと考えられ、そのため、側壁部には上壁部および底壁部を介して荷重がかけられることが多くなり、割れた部分を有する側壁部によってもエネルギーを吸収することができるようになる。従って、側壁部に割れの生じた場合であっても予定された大きさまたはそれに近いエネルギーを吸収することが可能となる。
【0095】
請求項2のエネルギー吸収部材によると、高速衝突時における支持部材による底壁部の打ち抜きをより効果的に防止することができるとともに側壁部と底壁部との干渉作用が大きくなるので、エネルギー吸収量が増大する。また、たとえ側壁部に割れが生じたとしても、側壁部には上壁部および底壁部を介して荷重がかけられることとなって、割れた部分を有する側壁部によってもエネルギーを吸収することができるようになる。従って、側壁部に割れの生じた場合であっても予定された大きさまたはそれに近いエネルギーを吸収することが可能となる。
【0096】
請求項3のエネルギー吸収部材によると、中空部分の変形途中において垂直面部が上壁部および底壁部を垂直に支えることになるので、中空部分の変形をより効果的に抑制することができる。従って、部材の板厚を変えないという条件ではより大きなエネルギーを吸収することが可能となる。
【0097】
請求項4のエネルギー吸収部材によると、垂直面部の板厚がそれ以外の部分の板厚よりも大きいことにより、所定の大きさのエネルギー吸収を実現しつつ、垂直面部の強度だけを補強し且つ全体の軽量化を図ることが可能である。
【0098】
請求項5のエネルギー吸収部材によると、一対の側壁部に荷重がかけられた場合に側壁部を非常に高い割合で中空内側に曲げることができるので、請求項1と同様に、高速衝突時における支持部材による底壁部の打ち抜きを防止することができるとともに側壁部と底壁部との干渉作用が生じるために、エネルギー吸収量を増大させることができる。また、側壁部に割れが生じたとしても、予定された大きさまたはそれに近いエネルギーを吸収することが可能となる。
【0099】
また、請求項5によると、中空内側に向いた第1折り曲げ部が設けられるために、第1折り曲げ部と底壁との距離、および、第1折り曲げ部と底壁端との距離を適宜設定することによって、用途に応じてエネルギー吸収部材として好適な特性を実現することができる。
【0100】
請求項6のエネルギー吸収部材によると、上壁部が中空外側に膨らむように湾曲している部分を有するために、上壁部の曲げ剛性が向上して上壁部に大きな荷重が与えられた場合であっても衝突面となる上壁部が中空内側に座屈しづらく、エネルギー吸収部材におけるエネルギー吸収量が増加する。また、低速衝突時のエネルギー吸収部材の変形量を小さく抑制できる。
【0101】
請求項7のエネルギー吸収部材によると、上壁部と一対の側壁部との接続個所を越えて上壁部が外側に伸延しているために、上壁部がその端点において側壁部と接続されている場合と比較して上壁部の曲げ剛性が向上し、衝突時に上壁部が座屈しにくく、エネルギー吸収量が増加する。
【0102】
請求項8のエネルギー吸収部材によると、底壁部と一対の側壁部との接続個所を越えて底壁部が外側に伸延しているために、底壁部の曲げ剛性が向上してエネルギー吸収量を増加させることができる。また、底壁部と側壁部との接続個所近傍に割れが発生した場合に、その割れが反対側の接続個所に伝播していくのを防止することができる。また、底壁部に大きな荷重が与えられた場合であっても底壁部が中空内側方向に打ち抜かれるのを確実に抑制することができる。
【0103】
請求項10のエネルギー吸収部材によると、部材の重量を軽量化することができるとともに、部材を比較的容易に製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の参考例に係る自動車のバンパー補強材として用いられるエネルギー吸収部材の断面図である。
【図2】図1に示したエネルギー吸収部材の変形過程での一状態を示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る自動車のバンパー補強材として用いられるエネルギー吸収部材の断面図である。
【図4】図3に示したエネルギー吸収部材の変形過程での一状態を示す断面図である。
【図5】図4よりもさらに変形が進んだ状態でのエネルギー吸収部材の断面図である。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係るエネルギー吸収部材の断面図である。
【図7】図6のエネルギー吸収部材の変形過程を経時的に示した断面図である。
【図8】本発明の別の参考例に係るエネルギー吸収部材の断面図である。
【図9】エネルギー吸収部材の使用状態の一例を示す概略図である。
【符号の説明】
1、2エネルギー吸収部材
11、21上壁部
12、22底壁部
13、14、23、24ウェブ
Claims (10)
- 上壁部と、前記上壁部と対向する底壁部と、前記上壁部および底壁部の間に設けられた一対の側壁部とからなる中空構造を有しており、前記上壁部から前記底壁部へと向かう方向の外部からの荷重によるエネルギーを中空部分の変形により吸収するエネルギー吸収部材において、
前記一対の側壁部のそれぞれが、前記底壁部と前記一対の側壁部との接続個所どうしを結ぶ平面に対して前記中空構造の内角が鋭角となるように接続された第1平面部と、前記上壁部と前記一対の側壁部との接続個所どうしを結ぶ平面に対して前記中空構造の内角が鋭角となるように接続された第2平面部と、前記第1平面部と前記第2平面部との間にあって前記第1平面部及び前記第2平面部のいずれとも直交する方向に延在した第3平面部とから構成されており、
前記上壁部および底壁部に対して加えられた外部からの荷重によるエネルギーを吸収する過程で、前記側壁部の少なくとも一部が中空内側に曲がるように構成されていることを特徴とするエネルギー吸収部材。 - 前記上壁部および底壁部に対して加えられた外部からの荷重によるエネルギーを吸収する過程で、前記側壁部が前記上壁部の幅よりも突出することなく曲がるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載のエネルギー吸収部材。
- 前記上壁部および底壁部に対して加えられた外部からの荷重によるエネルギーを吸収する過程で、前記第3平面部が、前記上壁部および底壁部の少なくともいずれか一方と実質的に垂直に近接することを特徴とする請求項1または2に記載のエネルギー吸収部材。
- 前記第3平面部の板厚がそれ以外の部分の板厚よりも大きいことを特徴とする請求項3に記載のエネルギー吸収部材。
- 上壁部と、前記上壁部と対向する底壁部と、前記上壁部および底壁部の間に設けられた一対の側壁部とからなる中空構造を有しており、前記上壁部から前記底壁部へと向かう方向の外部からの荷重によるエネルギーを中空部分の変形により吸収するエネルギー吸収部材において、
前記一対の側壁部のそれぞれが、前記底壁部と前記一対の側壁部との接続個所どうしを結ぶ平面に対して前記中空構造の内角が鋭角となるように接続された第1平面部と、前記上壁部と前記一対の側壁部との接続個所どうしを結ぶ平面に対して前記中空構造の内角が鋭角となるように接続された第2平面部と、前記第1平面部と前記第2平面部との間にあって前記第1平面部及び前記第2平面部のいずれとも直交する方向に延在した第3平面部とから構成されているとともに、前記一対の側壁部に少なくとも1個所の中空内側に向いた折り曲げ個所がそれぞれ設けられていることを特徴とするエネルギー吸収部材。 - 前記上壁部が中空外側に膨らむように湾曲している部分を有していることを特徴とする請求項5に記載のエネルギー吸収部材。
- 前記上壁部が、前記上壁部と前記一対の側壁部との接続個所を越えて外側に伸延して設けられていることを特徴とする請求項5または6に記載のエネルギー吸収部材。
- 前記底壁部が、前記底壁部と前記一対の側壁部との接続個所を越えて外側に伸延して設けられていることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載のエネルギー吸収部材。
- 前記中空構造の内部にはリブが形成されていないことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載のエネルギー吸収部材。
- アルミニウム合金製の押出形材であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載のエネルギー吸収部材。
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