JP3934857B2 - アンチスキッド制御装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、制動時に車輪がロックするのを防止するべくブレーキ液圧を制御するいわゆるABS制御を実行するアンチスキッド制御装置に関し、特に、2輪駆動状態か4輪駆動状態かの判定、ならびに車輪速センサの出力にノイズが重畳されたり取付不良などによる外乱が生じたりするなどの異常が発生したときの処理技術に関する。
【0002】
【従来の技術】
ABS制御を実行するブレーキ制御装置にあっては、各輪の車輪速から疑似車体速を推定し、この疑似車体速と各輪の車輪速とに基づいて、ブレーキ液圧の減圧・保持・増圧を行って、制動時に車輪がロックするのを防いで、操舵性および走行安定性の確保と、制動距離の短縮との両立を図るようにしている。
【0003】
このようなブレーキ制御装置にあっては、上述のABS制御を実行する上で車輪速の検出精度が重要であり、車輪速センサに異常が発生すると正常なABS制御を実行するのが難しくなる。そこで、車輪速センサに異常が発生した場合、その異常を検出して異常に対応した制御を実行する装置が提案されている。
【0004】
このような従来のブレーキ制御装置として、例えば、特開平10−147232号公報に記載されているものが知られている。
この従来技術は、各輪の異常検出を行って、異常検出時に推定車体速算出手段に対して、異常が検出された車輪の車輪速を除く他の車輪の各車輪速から推定車体速を算出させる異常検出手段を備え、この異常検出手段は、同一車輪において今回の制御サイクルで算出された車輪速が、前回の制御サイクルで算出された車輪速よりも設定値αを越えて大きくなり、かつ推定車体速(疑似車体速)よりも設定値βを越えて大きくなると、この車輪における今回の制御サイクルで算出された車輪速を異常と判定するよう構成され、さらに、異常判定時には、異常判定輪を除いた車輪速から推定車体速を算出するよう構成されている。
【0005】
したがって、この従来技術にあっては、車輪速センサの出力にノイズが重畳されてその出力が大きくなった場合、その車輪速が前回値よりもα以上大きく、かつ、推定車体速よりもβ以上大きい場合には、異常と判定して、この車輪速を車体速の推定に用いないものであり、推定車体速が実際の車体速よりも大きくなることがなく、これにより不要なABS制御が実行されて不要な減圧が成される不具合や、大きなスキッドから車輪速が急激に復帰するときに異常と誤判断するのを防止でき、不要なABS制御による減圧が成されることを防止できる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように従来技術にあっては、車輪速センサにノイズが重畳されるなどの異常が発生した場合には、その異常発生輪を除いて車体速を推定し、これにより制御精度の向上を図ることができるものではあったが、車輪速センサの異常判定を、車輪速センサの出力値と疑似車体速との比較、および前回の出力値との比較で行っていたため、以下に述べるような問題が生じるおそれがあった。
すなわち、疑似車体速を形成するにあたって、ABS制御を開始した制御1サイクル目にあっては、各車輪がロック傾向にあり正確な車輪速を得ることができない。このため、前後加速度センサを有した高価な装置は別として、前後加速度センサを有しない安価な装置では、前回の疑似車体速から固定値を差し引いて算出している。
よって、特に低摩擦係数路(以下、低μ路という)にあっては、車体速の減速度が低く、このように固定値を差し引いて求めた疑似車体速VIが、実際の車体速よりも低くなる場合がある。それに対して、車輪のロックを回避するABS制御を実行した場合には、車輪速は、減圧処理が成されることにより一旦実際の車体速とほぼ同じ値まで増速される結果、車輪速が疑似車体速よりも高くなるものであり、これが、上記βを上回った場合には、異常と誤判定が成されるおそれがあった。
あるいは、駆動輪がスリップして駆動輪の車輪速が疑似車体速よりも高くなった場合にも、同様に異常と誤判定されるおそれがあった。
【0007】
本発明は、このような従来の問題点に着目し、車輪速センサの出力にノイズが重畳されるなどの異常発生時にはその異常発生輪を除く車輪速で疑似車体速を形成する、ABS制御を実行可能なブレーキ制御装置において、上述のような低μ路における誤判定や駆動輪スリップによる誤判定を防止して、異常判定精度を向上させて制御品質の向上を図ることを目的としている。
【0008】
本願出願人は、研究の結果、上記目的を、ABS制御の実行時に、疑似車体速が上昇したのに伴って減圧が実行されたときの減圧時間を計測し、この減圧時間が所定の時間を経過したときに異常があると判定する技術により達成できることを知見した。しかしながら、本願出願人によるさらなる研究により、この新たな技術にあっも下記のような新たな解決すべき課題を有していることを知見した。すなわち、いわゆるパートタイム式の四輪駆動車のように2輪駆動状態と4輪駆動状態に切り替わる四輪駆動車では、4輪駆動状態では、左右不均一路面摩擦係数路(以下、摩擦係数をμと称し、また、このような路面をスプリットμ路と称することにする)における制動時に、前後輪のそれぞれがディファレンシャルギヤによる影響を受けるとともに前後直結による拘束力の影響で、低μ路側の車輪が前後ともスリップしやすく、複数輪において連続減圧が発生して、減圧時間が長くなる。この場合、上述の新たな技術にあっては車輪速異常と誤検出するおそれがある。すなわち、図7は、上述の新たな技術である先行技術によりスプリットμ路においてリジッド4駆状態で制動を行った場合の一例を示しており、この図に示すように、低μ路側では、前輪・後輪ともに車輪速VwF,VwRが減圧閾値λ1未満となり、この状態が例えば異常判断値である500secを超えて、減圧され続けることがある。このような場合には、車輪速センサが正常であるのに異常と判定することになる。さらに、このような誤判定が成されたときには、値が高い正常輪を異常値とみなして低い方の値により疑似車体速を形成してしまい、この場合、疑似車体速と車輪速との差が、実際よりも低く判定されて増圧制御が行われる傾向が強くなり、これにより車輪のロック傾向が強くなって、安定性が劣化するという問題が生じる。
【0009】
そこで、2輪駆動状態と4輪駆動状態に切り替わる車両において、4輪駆動状態を検出することが必要になる。
従来、このように2輪駆動状態と4輪駆動状態に切り替えることのできる車両にあっては、2駆状態と4駆状態とで何らかの制御を変更する場合、駆動状態を切り替える手段にスイッチを設け、このスイッチから信号を入力するのが一般的である。しかしながら、このような構成にすると、コントロールユニットに信号の入力端子やこの信号をAD変換するインタフェースなどが必要となり、それだけコスト高を招く。
【0010】
本発明は、上述の問題点に着目して成されたもので、第1には、2駆状態と4駆状態に切り替わる車両に搭載したアンチスキッド制御装置において、4駆状態を安価に検出可能とすることを目的とする。さらに、本発明は、車輪速センサの出力異常を検出して異常発生時にはその異常発生輪を除く車輪速で疑似車体速を形成する、ABS制御を実行可能なアンチスキッド制御装置において、低μ路における誤判定や駆動輪スリップによる誤判定を防止して異常判定精度を向上させて制御品質の向上を図ることを、4駆状態であることを原因とした誤検出が生じることなく達成できるようにして、いっそうの制御品質の向上を図ることを目的としている。
【0011】
【課題を解決するための手段】
上述の目的を達成するために本発明は、車両の各輪を制動するホイールシリンダからブレーキ液を排出させる減圧状態と、前記ホイールシリンダへブレーキ液を供給させる増圧状態とを形成可能に構成されたブレーキユニットと、各輪の回転速度である車輪速を検出する車輪速センサと、これら車輪速センサの出力に基づいて、必要に応じてブレーキユニットを減圧状態および増圧状態に切り替えて制動時に車輪がロックするのを防止しつつ制動距離の短縮を図るABS制御を実行するABS制御手段と、を備えたアンチスキッド制御装置において、前記ABS制御時に、左右前輪の車輪速の平均値である前輪車輪速平均値と左右後輪の車輪速の平均値である後輪車輪速平均値とを比較し、両者の差が予め設定された4駆判定値未満であるときに前後拘束力の強い4駆状態であると判定する4駆判定手段と、前記車輪速に基づいて疑似車体速を形成する疑似車体速形成手段と、が設けられ、前記ABS制御手段は、疑似車体速と車輪速とに基づいて前記ABS制御を実行する構成であり、前記ABS制御の実行時に、各輪について減圧が実行されている時間である減圧時間を減圧カウンタにより計測し、この減圧時間が予め設定された異常判定値を超えたときに該当輪の車輪速センサに異常があると判定する異常判定手段が設けられ、前記疑似車体速形成手段は、前記異常判定手段が異常判定を行ったときには、この異常判定輪を除いた車輪速センサの出力に基づいて疑似車体速を形成させるよう構成され、前記異常判定手段は、前記4駆判定手段が4駆状態と判定している時には、車輪速センサ異常判定を中止するよう構成され、前記4駆判定手段が4駆状態と判定した後に、両車輪速平均値のいずれかが疑似車体速以上の所定値を上回ったときに、4駆状態との判定ならびに異常判定手段の異常判定中止を解除することを特徴とする技術とした。
なお、請求項に記載の発明のように、請求項に記載のアンチスキッド制御装置において、前記異常判定手段は、4駆状態と判定しているときに車輪速センサ異常判定を中止するにあたり、減圧カウンタが計測している減圧時間を0にクリアすることとしてもよい
また、請求項に記載の発明のように、請求項1または2に記載のアンチスキッド制御装置において、前記4駆判定手段が4駆状態と判定した後に、前記前輪車輪速平均値と後輪車輪速平均値との差が前記4駆判定値以上となり、かつ、ABS制御開始後の疑似車体速の最低値である最低メモリ値を、両車輪速平均値のいずれかが上回ったとき解除条件の成立として4駆状態との判定ならびに異常判定手段の異常判定中止を解除することとしてもよい。
また、請求項に記載の発明のように、請求項に記載のアンチスキッド制御装置において、前記解除条件の成立が、前記前輪車輪速平均値と後輪車輪速平均値との差が前記4駆判定値以上となり、かつ、両車輪速平均値のいずれかが前記最低メモリ値を上回った状態が所定時間を超えたときであることとしてもよい。
また、請求項に記載の発明のように、請求項1ないし4に記載のアンチスキッド制御装置において、前記異常判定手段は、2輪以上において減圧時間が異常判定値を超えたときに車輪速センサ異常と判定し、前記疑似車体速形成手段は、車輪速センサ非異常判定時は、4輪の車輪速のうちで最も高い値であるセレクトハイ値を疑似車体速とし、一方、車輪速センサ異常判定時には、4輪の車輪速のうちで高い方から3番目の車輪速を疑似車体速とすることとしてもよい。
【0012】
【発明の作用および効果】
4駆状態では、2駆状態に比べて前後車軸の拘束力が高くなり、前輪と後輪との車輪速の差が小さくなる。
そこで、本発明では、ABS制御時に、4駆判定手段は、左右前輪の車輪速の平均値である前輪車輪速平均値と、左右後輪の車輪速の平均値である後輪車輪速平均値とを比較し、両者の差が予め設定された4駆判定値未満であるときに前後拘束力の強い4駆状態であると判定する。
【0013】
このようにアンチスキッド制御装置において、もともと入力手段として有している車輪速センサからの入力に基づいて4駆判定を行うから、2駆と4駆との切り替え装置から信号を入力して判定するのに比べ、安価に判定を行うことができるという効果が得られる。
【0014】
また、車輪速センサにノイズが重畳するなどの異常が発生してその出力値が高くなった場合、ABS制御が実行されたときには、車輪速センサの出力値が高くなることで疑似車体速も高くなり、その結果、減圧を実行しても正常輪における車輪速が疑似車体速に復帰することが無く、減圧時間が長くなる。よって、減圧カウンタが計測する減圧時間が異常判定値を超えて、異常判定手段が車輪速センサに異常があると判定することになり、この場合、疑似車体速形成手段は、異常判定輪を除いた車輪速センサの出力に基づいて疑似車体速を形成する。
【0015】
このように、本発明では、減圧時間に基づいて異常を判定するため、低μ路における制動時に、制御の1サイクル目において推定した疑似車体速に対して正常な車輪速の値が上回っていても、それだけでは減圧を行わないため、異常と判定されることはない。よって、異常判定精度を向上させて制御品質の向上を図ることができる。
【0016】
また、4駆状態でかつスプリットμ路にて制動を行った場合、ディファレンシャルの拘束力により低μ路側の車輪速が低下して、減圧閾値を下回り続けるというように疑似車体速に対して低い値をとり続け、この減圧状態が異常判定値を超えて続くことがある。しかし、本発明では、4駆状態でABS制御を実行した時点で、4駆判定手段が4駆状態と判定するのを受けて、異常判定手段が、車輪速センサ異常判定を中止するため、減圧制御を実行する状態が異常判定値を超えても、車輪速センサが異常と誤判定することがなく、いっそうの制御品質の向上を図ることができる。
一方、4駆判定手段が4駆状態と判定した後に、制動状態から加速状態に切り替わると、前輪車輪速平均値と後輪車輪速平均値とのいずれかが疑似車体速度以上の所定値を上回ることになり、4駆状態との判定ならびに異常判定手段の異常判定中止を解除する。
なお、請求項に記載の発明では、4駆判定手段が4駆状態と判定している間は、減圧カウンタが計測している減圧時間を0にクリアする。したがって、減圧時間が異常判定値を超えることが無く、異常判定手段による車輪速センサ異常判定が中止されることになる。
【0018】
請求項に記載の発明では、4駆判定手段が4駆状態と判定した後に、4駆状態から2駆状態に切り替わったり、制動状態から加速状態に切り替わったり、車輪速センサに異常が発生して出力値が急増したりした場合には、前輪車輪速平均値と後輪車輪速平均値との差が4駆判定値以上となり、かつ、両車輪速平均値のいずれかがABS制御開始後の疑似車体速の最低値である最低メモリ値を上回ることになり、解除条件が成立する。そこで、4駆状態との判定ならびに異常判定手段の異常判定中止を解除する。なお、請求項に記載の発明では、前記解除条件が成立する状態が所定時間を超えた時点で、解除条件の成立とする。これにより、判定結果が切り替わるチャタリングの発生を防止して制御の安定化を図ることができる。
【0019】
請求項に記載の発明では、2輪以上で異常が生じたときに車輪速センサ異常を判定し、この異常判定時は、4輪の車輪速のうちで高い方から3番目の車輪速を疑似車体速とし、一方、非異常判定時には、セレクトハイ値を疑似車体速とする。したがって、車輪速センサに異常が発生したり、あるいは前輪のみ後輪のみの2輪がロックしたりしているときでも、できる限り高い精度で疑似車体速を得ることができ、これにより制御品質の向上を図ることができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図2は実施の形態のアンチスキッド制御装置の要部を示す構成図であって、図中1はマスタシリンダである。このマスタシリンダ1は、運転者が図外のブレーキペダルを操作することにより液圧を発生するよう構成されている。
【0021】
前記マスタシリンダ1は、ブレーキ配管2を介してホイールシリンダ3に接続されている。そして、ブレーキ配管2の途中には、ブレーキ配管2の上流(マスタシリンダ1側)と下流(ホイールシリンダ3側)とを連通させる増圧状態と、ホイールシリンダ3のブレーキ液をドレン回路4に逃がす減圧状態と、ブレーキ配管2を遮断してホイールシリンダ3のブレーキ液圧を保持する保持状態とに切替可能な制御弁5が設けられている。したがって、ホイールシリンダの液圧は、制御弁5の切り替えに基づいて任意に制御可能である。なお、この制御弁5は、ブレーキ配管2を連通状態と遮断状態に切り替える増圧弁と、ドレン回路4を連通状態と遮断状態とに切り替える減圧弁との2つの電磁弁で構成することもできる。
【0022】
また、前記ドレン回路4には、ブレーキ液を貯留可能なリザーバ6が設けられている。そして、前記リザーバ6とブレーキ配管2の前記制御弁5よりも上流位置とを接続する還流回路8が設けられ、この還流回路8には、前記リザーバ6に貯留されているブレーキ液をブレーキ配管2に還流させるポンプ7が設けられている。
【0023】
上述した図2において一点鎖線で囲まれた範囲の構成は、ブレーキユニット11として1つにまとめられている。図2では1つの車輪について構成を説明しているが全体としては図1に示すように構成され、前記ブレーキユニット11は、4つの車輪FR,FL,RR,RLの各ホイールシリンダ3(図1においては図示省略)のブレーキ液圧をそれぞれ制御することができるよう構成されている。ちなみに、実施の形態のアンチスキッド制御装置を適用した車両は、前輪FR,FLと後輪RR,RLとのいずれかを駆動させる2駆状態と、全輪FR,FL,RR,RLを駆動させる4駆状態とに切替可能な、いわゆるパートタイム式四輪駆動車であって、この2駆状態と4駆状態との切替は、運転席に設けられている図外の切替スイッチを操作することで行うことができる他、例えば、2駆状態のときの駆動輪のスリップ状態に応じて自動的に切り替えることも可能である。
【0024】
前記ブレーキユニット11の制御弁5およびポンプ7の作動は、コントロールユニット12により制御される。このコントロールユニット12は、特許請求の範囲のABS制御手段に相当するもので、入力手段として、各車輪FR,FL,RR,RLの回転速度を検出す車輪速センサ13,13,13,13が設けられている。
【0025】
次に、本実施の形態のブレーキ制御について説明する。
本実施の形態のブレーキ制御は、制動時の車輪ロックを防止すべく各輪に対してブレーキ液圧を制御するいわゆるABS制御を実行するもので、図3にその全体の流れを示している。
【0026】
本ブレーキ制御は、10msec周期で行うものであり、まず、ステップS1では、10msecに発生する各車輪速センサ13のセンサパルス数と周期とからセンサ周波数を求め、車輪速Vwならびに車輪加速度△Vwを演算する。なお、以下の説明において、符号Vwの後に、FR,FL,RR,RL の符号を付けた場合は、その車輪の車輪速を示すものである。ステップS2では、車輪速Vwに基づいて疑似車体速VIを計算する。この疑似車体速VIの計算については、後で詳細に説明する。ステップS3では、疑似車体速VIの変化率に基づき車体加減速度△Vを計算する。
【0027】
ステップS4では、減圧閾値λ1を求める演算を行う。この減圧閾値λ1は、車輪速Vwがこの値λ1を下回ったら減圧を実行する値であって、例えば、疑似車体速VIに基づいて下記式により求める。
λ1=A・VI−B
なお、上記式において、A,Bは任意の係数であり、減圧閾値λ1が、疑似車体速VIよりもある程度低い値であって、制動力を得るのに好適なスリップ率となるような値に設定されているもので、具体的には、例えば、A=0.95,B=8km/hである。
【0028】
ステップS5では、車輪速Vwが減圧閾値λ1よりも低いか否かを判定し、減圧閾値λ1よりも低い場合には、ステップS7に進んで、制御弁5を減圧状態に切り替えてホイールシリンダ圧を減圧する減圧制御を実行する。この場合、さらにステップS12に進んで、ABS制御を実行中であることを示すタイマASの出力を150にセットする。
【0029】
また、ステップS5においてNOと判定された場合(Vw>λ1の場合)、ステップS6に進んで車輪加速度△Vwが予め設定された保持閾値未満であるか否かを判定し、保持閾値よりも大きい場合には車輪速が復帰したとしてステップS8に進んで増圧制御(制御弁5を増圧状態に切り替える)を行い、一方、保持閾値未満の場合はステップS9に進んで保持制御(制御弁5を保持状態に切り替える)を行う。これらのステップS8,S9の増圧制御および保持制御における制御弁5への出力もステップS10において成される。なお、ステップS7〜S9の各制御においては、各制御の指令時間、すなわち減圧の場合減圧制御指令カウンタGCNT,増圧の場合増圧制御指令カウンタZCNT,保持の場合保持制御指令カウンタHCNTが設定され、これらの制御カウント値に応じてステップS10のバルブ出力処理において制御弁5に向けて制御信号が出力される。ステップS11では、10msが経過したか否かを判定し、10msが経過したら、ステップS13においてABS制御中信号のタイマASのカウントを1だけデクリメントする。また、ステップS8の増圧制御を実行した後に進む、ステップS14では、減圧制御指令カウンタGCNTを0にリセットする。
【0030】
次に、ステップS7の減圧制御における具体的な処理の流れを図4のフローチャートにより説明する。
最初のステップ101では、減圧時間AWをAW=−K×△Vw/VIKの計算式により求める。
続くステップ102では、後述するリジッド4駆状態であることを示す4駆フラグ4WDFが1にセットされているか否か判定し、セットされている場合、すなわちリジッド4駆状態である場合はステップ103に進んで、後述する減圧カウンタKDECTを0とする。一方、ステップ102において4WDF≠1の場合は、ステップ104に進んで、減圧カウンタKDECTを、KDECT=KDECT+AWの計算式により求める。
【0031】
続くステップ105では、減圧制御指令カウンタGCNTが、減圧時間AWに達したか否か判定し、減圧時間AWに達した場合はステップ106に進んで保持出力を行い、減圧時間AWに達するまではステップ107に進んで減圧制御指令カウンタGCNTをインクリメントするとともに減圧出力を行う。
【0032】
次に、ステップS2の疑似車体速計算における具体的処理の流れを、図5のフローチャートにより説明する。
ステップ201では、左右前輪の車輪速の平均値である前輪車輪速平均値(VwFR+VwFL)/2と左右後輪の車輪速の平均値である後輪車輪速平均値(VwRR+VwRL)/2との差の絶対値が、予め設定された4駆判定値xkm/h未満であるか否か判定し、4駆判定値xkm/h未満であれば4駆状態と判定してステップ202に進み、4駆判定値xkm/h以上であれば2駆状態と判定してステップ206に進む。このステップ201は、駆動状態が2駆状態か4駆状態か判定するステップであり、前記4駆判定値xkm/hは、例えば5km/hぐらいの低い値に設定されており、要は、2駆状態では生じ得る前後輪速に生じる差であり、4駆状態では生じ得ない差に設定されている。この値は、適用する車両の諸元に応じて適宜設定するものであり、車両諸元が異なればこの値も多少変化することもある。
【0033】
4駆状態と判定したときに進むステップ202では、前輪車輪速平均値(VwFR+VwFL)/2が減圧閾値λ1未満であるか否かを判定し、さらにステップ203では、後輪車輪速平均値(VwRR+VwRL)/2が減圧閾値λ1未満であるか否か判定し、両ステップ202,203のいずれかで各平均値が減圧閾値λ1以上であればそのままステップ205に進むが、両ステップ202,203で平均値が減圧閾値λ1未満であればステップ204に進んで、4駆フラグ4WDF=1にセットする。すなわち、4駆状態と判定する。ステップ205では、アベレージカウンタAVECNTを0にセットする。
【0034】
一方、ステップ201において前後車輪速の差が4駆判定値xkm/h以上であり2駆状態と判定したときに進むステップ206では、前輪車輪速平均値(VwFR+VwFL)/2が疑似車体速VIの最低メモリ値VIMよりも大きいか否かを判定し、さらにステップ207では、後輪車輪速平均値(VwRR+VwRL)/2が前記最低メモリ値VIMよりも大きいか否か判定し、両ステップ206,207のいずれかで平均値が最低メモリ値VIMよりも大きい場合にはステップ208に進むが、両ステップ206,207のいずれでも平均値が最低メモリ値VIM以下であればステップ205に進む。
【0035】
ステップ208では、アベレージカウンタAVECNTが予め設定された値であるy(ms)を越えた(所定時間を超えた)か否か判定し、超えた場合にはステップ209に進んで4駆フラグ4WDFを0にリセットし、所定値yを超えない場合はアベレージカウンタAVECNTをインクリメントする。なお、上述したステップ201〜204が、4駆状態であるか否かを判定し、206〜210が4駆判定を解除するか否かを判定する部分であり、特許請求の範囲の4駆判定手段に相当する部分である。
【0036】
ステップ205,209,210のいずれかの処理を終えて進むステップ211では、タイマASがセットされているか(0以外であるか)否かによりABS制御中であるか否かを判定し、ABS制御中である場合はステップ212に進み、非ABS制御中はステップ213に進む。ステップ212では、疑似車体速VIが最低メモリ値VIM未満であるか否か判定し、VI<VIMの場合は、ステップ213に進んで、現在の疑似車体速VIを最低メモリ値VIMとする。この処理により、ABS制御の開始後の疑似車体速VIの最低値が常にストックされる。
【0037】
ステップ214では、2輪以上について、減圧カウンタKDECTが予め設定した時間である異常判定値x(ms)を超えた否か判定し、すなわち減圧時間がx(ms)を超えた場合には、ステップ215に進んで車輪速センサ13の出力が異常であるとして異常フラグSVW_ABをセットし、KDECT≦x(ms)の場合は、そのままステップ216に進んで、異常フラグSVW_ABがセットされているか否か判定し、セットされている場合にはステップ217に進んで、4輪の車輪速Vwのうち高い方から三番目の値Vw3rdに基づいて疑似車体速VIを形成し、一方、異常フラグSVW_ABがセットされていない正常時には、ステップ218に進んで、4輪の車輪速Vwのうちで最も高い値であるセレクトハイ車輪速に基づいて疑似車体速VIを演算する。なお、ステップ214および215が異常判定を行う部分であり、このステップを実行する部分ならびにステップ102〜104の減圧カウンタKDECTをカウントする部分が、特許請求の範囲の異常判定手段に相当する。
このように、本実施の形態では、車輪速センサ13が正常と判定している間は、4輪の車輪速Vwのセレクトハイ値を疑似車体速とし、車輪速センサ13が異常と判定すると、4輪の車輪速Vwのうち高い方から三番目の値Vw3rdに基づいて疑似車体速VIを形成する。
【0038】
次に、実施の形態の作動を説明する。
イ)2駆状態時2駆状態で走行していて、ABS制御を実行した場合、車輪速センサ13に異常がないときには前後の車輪速平均値の差の絶対値が4駆判定値xkm/hを超え、さらに、前後車輪速平均値が疑似車体速の最低メモリ値VIMを超えた状態が所定時間y(ms)を超えると、4駆フラグ4WDFが0にリセットされる(ステップ201→206→208→209の流れ)。この状態では、ABS制御に基づいて減圧を行った場合、その減圧時間は正常な範囲であり、減圧カウンタKDECTが異常判定値x(ms)を超えることはない。そこで、ステップ214→216→218の流れに基づいて4輪の車輪速Vwのセレクトハイ値に基づいて疑似車体速VIが形成される。
【0039】
一方、或る車輪速センサ13にノイズが重畳されるなどの異常が発生し、その出力値が実際よりも高い出力になった場合、異常と判定するまでは、上述のように、セレクトハイ値に基づいて疑似車体速VIを演算するため、この異常が発生した車輪速センサ13の出力値に基づいて疑似車体速VIを形成し、この場合、疑似車体速VIは、実際の車体速に比べて高い値となる。
よって、各輪の車輪速Vwは、ロックしておらず正常なスリップ率の範囲であっても、上記高く形成された疑似車体速VIにより減圧閾値λ1が適正値よりも高く形成される結果、減圧閾値λ1を下回る状態が続き、減圧制御が連続して実行されることになる。
そして、このように減圧制御が連続して実行されると、ステップ102→104の処理を繰り返し成されることになり、複数輪の減圧カウンタKDECTが異常判定値x(ms)を超え、ステップ214→215の流れにより異常フラグSVW_ABがセットされ、ステップ216→217の流れにより車輪速Vwの高い方から3番目の値に基づいて疑似車体速VIが形成される。この場合、異常輪が3輪を超えるまでは、この疑似車体速VIを形成する車輪速Vwが正常であるから、疑似車体速VIは、信頼度の高い値となり、以後、この疑似車体速VIに基づいて制御されることにより、減圧制御がこれ以上持続されることが無くなり、制動距離が長くなることを防止できる。
また、上記のように車輪速センサ13に異常が生じたことを検出して疑似車体速VIの作成方法を切り替えるにあたり、前後Gセンサなどが不要であり、低コストの手段により上記車輪速センサ13の異常に対応した制御を実行して制動距離が長くなる不具合を防止できる。
【0040】
ロ)リジッド4駆状態次に、リジッド4駆状態で、左輪が低μ路、右輪が高μ路となったスプリットμ路を走行中に制動を行ってABS制御を実行した場合の作動を、図6のタイムチャートに基づいて説明する。この場合、まず、4輪とも車輪速Vwが低下するが、低μ路側の左前輪の車輪速VwFLならびに左後輪の車輪速VwRLは、センタデフによる拘束力により図示のように減圧閾値λ1よりも低い速度のまま留まることがある。このようなときには、最初は、減圧カウンタKDECTが積算されるが、左右前輪と左右後輪との車輪速平均値の差が小さくなった時点で、ステップ201→202→203→204の流れにより4駆フラグ4WDFがセットされ、これによりステップ102→103の流れ基づいて減圧カウンタKDECT=0に設定され、左側の前後輪の車輪速VwFLおよびVwRLが減圧閾値λ1よりも低い値となっていても、減圧カウンタKDECTがカウントされず、この値が異常判定値x(ms)を超えることが無く、よって、車輪速センサ13が異常であると誤判断することはない。
【0041】
また、その後、2駆状態に戻ると4駆フラグ4WDFがリセットされることになり、減圧カウンタKDECTがカウントされ、車輪速センサ13の異常判定が再されることになる。なお、本実施の形態では、この4駆フラグ4WDFのリセットは、前輪車輪速平均値と後輪車輪速平均値との差が4駆判定値以上となって、かつ、両車輪速平均値のいずれかが疑似車体速VIの最低メモリ値VIMを上回り、さらに、この状態が所定時間y(ms)を超えた場合に成される。
【0042】
以上、図面により実施の形態について説明してきたが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
例えば、実施の形態では、4駆状態と判定して4駆フラグ4WDFがセットされたときに減圧カウンタKDECTのカウント値をクリアするようにしたが、これに加えて、車輪速センサ13の出力値が所定の低速以下となったときにもクリアするようにしても良い。この場合、高μ路から低μ路に路面μが変化したときに低速域で比較的長時間の減圧が成されることがあり、このような正常な作動を異常と判断することを排除して、制御品質の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施の形態の全体図である。
【図2】実施の形態の要部を示す油圧回路図である。
【図3】実施の形態におけるABS制御の流れを示すフローチャートである。
【図4】実施の形態における減圧制御の流れを示すフローチャートである。
【図5】実施の形態における疑似車体速計算の流れを示すフローチャートである。
【図6】実施の形態の作動例を示すタイムチャートである。
【図7】先行技術の作動例を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
1 マスタシリンダ
2 ブレーキ配管
3 ホイールシリンダ
4 ドレン回路
5 切替弁
6 リザーバ
7 ポンプ
8 還流回路
11 ブレーキユニット
12 コントロールユニット
13 車輪速センサ

Claims (5)

  1. 車両の各輪を制動するホイールシリンダからブレーキ液を排出させる減圧状態と、前記ホイールシリンダへブレーキ液を供給させる増圧状態とを形成可能に構成されたブレーキユニットと、
    各輪の回転速度である車輪速を検出する車輪速センサと、
    これら車輪速センサの出力に基づいて、必要に応じてブレーキユニットを減圧状態および増圧状態に切り替えて制動時に車輪がロックするのを防止しつつ制動距離の短縮を図るABS制御を実行するABS制御手段と、
    を備えたアンチスキッド制御装置において、
    前記ABS制御時に、左右前輪の車輪速の平均値である前輪車輪速平均値と左右後輪の車輪速の平均値である後輪車輪速平均値とを比較し、両者の差が予め設定された4駆判定値未満であるときに前後拘束力の強い4駆状態であると判定する4駆判定手段と、
    前記車輪速に基づいて疑似車体速を形成する疑似車体速形成手段と、が設けられ、
    前記ABS制御手段は、疑似車体速と車輪速とに基づいて前記ABS制御を実行する構成であり、
    前記ABS制御の実行時に、各輪について減圧が実行されている時間である減圧時間を減圧カウンタにより計測し、この減圧時間が予め設定された異常判定値を超えたときに該当輪の車輪速センサに異常があると判定する異常判定手段が設けられ、
    前記疑似車体速形成手段は、前記異常判定手段が異常判定を行ったときには、この異常判定輪を除いた車輪速センサの出力に基づいて疑似車体速を形成させるよう構成され、
    前記異常判定手段は、前記4駆判定手段が4駆状態と判定している時には、車輪速センサ異常判定を中止するよう構成され、
    前記4駆判定手段が4駆状態と判定した後に、両車輪速平均値のいずれかが疑似車体速以上の所定値を上回ったときに、4駆状態との判定ならびに異常判定手段の異常判定中止を解除することを特徴とするアンチスキッド制御装置。
  2. 前記異常判定手段は、4駆状態と判定しているときに車輪速センサ異常判定を中止するにあたり、減圧カウンタが計測している減圧時間を0にクリアすることを特徴とする請求項に記載のアンチスキッド制御装置。
  3. 前記4駆判定手段が4駆状態と判定した後に、前記前輪車輪速平均値と後輪車輪速平均値との差が前記4駆判定値以上となり、かつ、ABS制御開始後の疑似車体速の最低値である最低メモリ値を、両車輪速平均値のいずれかが上回ったとき解除条件の成立として4駆状態との判定ならびに異常判定手段の異常判定中止を解除することを特徴とする請求項1または2に記載のアンチスキッド制御装置。
  4. 前記解除条件の成立が、前記前輪車輪速平均値と後輪車輪速平均値との差が前記4駆判定値以上となり、かつ、両車輪速平均値のいずれかが前記最低メモリ値を上回った状態が所定時間を超えたときであることを特徴とする請求項に記載のアンチスキッド制御装置。
  5. 前記異常判定手段は、2輪以上において減圧時間が異常判定値を超えたときに車輪速センサ異常と判定し、前記疑似車体速形成手段は、車輪速センサ非異常判定時は、4輪の車輪速のうちで最も高い値であるセレクトハイ値を疑似車体速とし、一方、車輪速センサ異常判定時には、4輪の車輪速のうちで高い方から3番目の車輪速を疑似車体速とすることを特徴とする請求項1ないし4に記載のアンチスキッド制御装置。
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