JP3932944B2 - 光学素子およびそれを用いた光ヘッド - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学素子並びにこれを用いた光ヘッドに関し、特に、導電性フィルム内の波長以下の大きさの開口を介する表面プラズモン増幅光透過(surface−plasmon−enhanced optical transmission)を利用した、非常に高いスループットと分解能を有する光学素子ならびにこれを用いた光記憶媒体用ヘッドに関する。
【0002】
【従来の技術】
CD(コンパクトディスク)及びDVD(デジタルビデオディスク)のような光記憶ディスクは、その高いデータ記録密度、コンパクトな設計、ポータビリティ及び頑強性(ロバスト性)により、また特に媒体及び書き込み装置の両方が低価格になりつつあるために、ますます魅力的なデータ記憶媒体になりつつある。しかし、光ディスクにより提供される比較的高いデータ密度にもかかわらず、さらに高い記録密度が望ましいと考えられている。より小さいスポットは、光記憶媒体上のより高いデータ記憶密度をもたらし、媒体の与えられた回転速度に対してより高いデータ読み出し速度をもたらす。しかし、記録密度は、媒体上での光スポットの回折限界によって制限される。光ビームの焦点を記録媒体上に合わせるためにレンズあるいは他の遠視野収束デバイスを使用するとき、焦点における収束光の「スポット」の寸法は、回折により直径はλ/2(λは光の波長である)に制限される。これは、回折限界として公知の現象である。
現在の値を超えて記録密度を増加するためには、データを書き込みあるいは読み取る光ビームのサイズを小さくすることが必要である。さらに、このような光ディスクは、一般に読み出し速度(光ディスクから読み出すことができるデータの速度)が比較的低い点でも、著しい欠点を通常示す。
【0003】
回折限界を打破する技術として、エバネッセント波の低位相速度の特徴を使った近接場光学技術が注目されている。金属膜に明けられた波長以下の径の開口を透過する波長の短いエバネッセント波を光記録/読み出しに利用しようとするものである。
自らの光学的浸透厚(入射光による電磁界が、電界強度が1/eに低下するまで材料中に浸入する深さ、金属に対しては一般的に20nmから30nm)より厚い平滑な金属フィルムは、バルクプラズマ振動数ωより低い振動数の光に対して不透明である。バルクプラズマ振動数ωはω=(4πne)/mで与えられ、ここにnは電子密度、eは電荷、mは有効質量である。このような金属フィルム内の単一開口を通ずる光の伝送効率は開口の直径に依存する。もし開口直径が開口を通過する光の波長より小さければ、透過率は(d/λ)に比例する。
【0004】
また、このような小さい開口を使用すると、先細の光ファイバ先端部のような従来の近接場を利用した光学素子における、開口を介した伝送は厳しい減衰を受け、その結果は、読み出し用には低すぎる信号対雑音比と、書き込みに必要な充分な光強度が得られないという問題がある。結果として、近接場光学系を使用する実用的な光データ記憶読み出し/書き込みヘッドは、今までに得られていない。
【0005】
最近、光の波長未満の径を有する開口列を持った金属フィルムを使用して、開口列を透過する光の透過率が著しく高められた光伝送技術が開示されている。(参照:T.W.Ebbesen他、“波長未満口径の孔列による驚くべき光伝送(Extraordinary optical transmission through sub−wavelength hole arrays)”、Nature、巻391、頁667−669、(2月12日1998年)、米国特許出願番号 08/979、432、T.W.Ebbesen他、提出11月26日、1997年および米国特許仮出願、出願番号 60/051、904、T.W.Ebbesen他、提出7月8日、1997年)
開口列を透過する光の透過率の強化は、金属フィルムに入射する光が表面プラズモンモードと共振的に相互作用する時に生ずる。表面プラズモンモード(以下単にプラズモンと称する)は金属と隣接する誘電性媒体との界面に存在する集合的な電子の励起状態である。開口列が周期的に配置された構造は表面プラズモンモードと入射光線の結合(共振的相互作用)を可能とする。
【0006】
従来の開口列付き光学素子においては、開口配列は光を伝送する開口としてのみ特徴付けられていた。しかし光ディスクの記録/再生のような用途においては、開口列に示されるような高次伝送を、単一の開口、または、小さなセットの開口により実現することが望まれる。また、開口列の伝送をさらに増加することも望ましいことである。しかし今日まで充分な伝送効率を示す波長未満径の開口デバイスは実現されなかった。また、Ebbesenらの示す表面プラズモンを利用した高効率光透過においても、従来の作製法においては充分な光透過効率は得られていない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上述の如く、近接場光学系を用いた光学素子による光データ記憶媒体のための読み出し/書き込みヘッドは実用性に乏しい。また、これを解決するためプラズモン効果で増幅された透過光を利用することが提案されているが、得られる透過光の入射光に対する利用効率が充分ではないという問題があった。
本発明の目的は、プラズモン効果で効率よく増幅された高効率で高解像の光学素子と、これを利用した光ディスク上の波長以下のスケールでの読み出し及び書き込みを可能にする光読み出し/書き込みヘッドを提供することにあり、その結果、回折限界により可能とされる線データ密度よりはるかに高い線データ密度(したがって読み出し/書き込み速度)を可能にする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
このような光透過率の減少を改善するためには、導電性フィルム表面における表面プラズモンの伝播損失を小さくすることが重要である。伝播損失の主たる要因としては、ランダムに存在する表面凹凸により表面プラズモンが散乱されることが考えられ、周期的な表面特殊形状以外の表面部位の表面凹凸を小さくすることは、光の利用効率を改善する上で最も効果的であると考えられる。
このような表面プラズモンの散乱を引き起こす表面凹凸が、入射する所定波長の1/10を越える時、散乱による光パワーの損失が顕著となる。すなわち、光透過率を改善するためには、周期的な表面特殊形状を除いた部位の表面凹凸を、入射する所定波長の1/10以下とすることが必要である。また、さらにこのような周期的な表面特殊形状を除いた部位の表面凹凸を入射する所定波長の1/300以下とすることにより、顕著な光透過率の増加が見込まれる。
【0009】
周期的な表面特殊形状以外の表面部位の表面凹凸を小さくするためには、第1および第2の表面を形成する導電性フィルムの間に、積層して成膜した時、表面凹凸を改善する効果のある、少なくとも一層からなる導電性材料あるいは絶縁性材料あるいは半導体材料を中間層として挿入することが有効である。
【0010】
具体的には、積層した時にアモルファスあるいは微結晶となり易い材料である、CoZr系合金、Ta、Cr、Ti、Zr、Nb、C、Si、SiO、Al、Ta、NiO、TiO、ZrO、NbO、Si、Geなどであることを特徴とする。
【0011】
このような中間層材料を挿入することにより、第1および第2の表面を形成する導電性フィルムの膜厚は実質的に小さく設計することが可能となる。すなわち、本発明における光透過の原理が、導電性フィルム表面に発生する表面プラズモンモードと入射光との相互作用によるものであり、第1および第2の表面に、表面プラズモンが伝播する際の光学的損失の比較的少ない導電性材料が存在すれば、その中間に挿入する材料は光学的損失の比較的大きい材料であっても問題はないからである。この時、導電性フィルムの膜厚を小さくすることにより、導電性フィルム内の結晶粒径が小さくなり、結果的に表面凹凸が改善されることとなる。さらに、このような中間層材料として、導電性フィルムの濡れ性を改善するような材料を適用することにより、導電性フィルムの表面凹凸だけではなく、光学的な特性(光学的な損失)をさらに改善することも可能となる。
【0012】
また、導電性フィルムの表面凹凸は、成膜方法、成膜条件を最適化することによっても改善することが可能である。具体的には、蒸着法による成膜では、導電性フィルムの結晶粒が大きくなりやすく、表面凹凸は大きくなる傾向にある。一方、スパッタリング法、特にイオンビームスパッタリング法を用いた場合、基板と導電性フィルムの濡れ性の影響が小さくなり、表面凹凸は小さくなる。
【0013】
本発明の光学素子は、少なくとも一つの表面に周期的な表面特殊形状を有し、第1の表面と第2の表面の間に中間層を備えた導電性フィルムを有している。周期的な表面特殊形状は、導電性フィルム表面に周期的に配置された突起またはくぼみ等の表面特殊形状を含んでいる。周期的な表面特殊形状により導電性表面プラズモンモードが入射光と強烈に結合できる。それにより導電性フィルムの開口は、周期的な表面特殊形状の周期に依存した波数保存則に従って光波長の強力伝送を行う。周期的表面特殊形状がない場合の同じ大きさ、数の開口を通じる伝送に比べて、強力光伝送の度合いが遥かに大きい。これらは導電性フィルムの表面プラズモンの顕著な寄与によるものであり、さらに本発明の中間層材料の導入により、伝送効率は顕著に高められることとなる。
【0014】
もし光波長未満の口径の開口が単なる幾何学的な開口であったら、伝送効率(伝送された強度(エネルギーの強さ)を開口に入る光強度で除したものと定義する)は非常に小さい(例えば、開口直径と波長の比が0.1であれば約2×10−3)。しかし本発明においては、下記のように伝送効率が大きく増大されその結果得られる装置は、周期的な表面形状からなる表面特殊形状の周期性と規則性を調整することにより、光の伝送性質を制御することが可能である。
【0015】
さらに、本発明により、光記憶媒体用の光ヘッドが提供される。本発明の光ヘッドは、光源からの光によって光記憶媒体に情報を少なくとも記録する光記憶媒体用ヘッドであって、前述の光学素子と、前述の光源の出力光を導波する導波手段と、前記導波手段の出力光を前記光学素子に集光する手段を備え、前記光学素子の開口を前記光記憶媒体に近接して配設することを特徴とする光記憶媒体用ヘッドである。
さらに、この光ヘッドは、前記光記憶媒体の回転により前記光記憶媒体表面から所定の高さに浮上させるためのスライダー形状が形成されており、導波手段が、光ファイバであり、集光手段が、光ファイバの出射光をコリメートするレンズとコリメート光の光軸を直角に偏向する直角プリズムとコリメート光を光学素子に集光するレンズを備え、導電性フィルムの第2の表面が、スライダー形状の浮上面とほぼ同一面を成すことを特徴とする。
さらに、別なる光ヘッドは、光学素子の開口付近に前記光記憶媒体からの反射光を受光する受光素子を備え、光学素子の開口を光記憶媒体に近接して配設することを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
次に、本発明の好ましい実施の形態について、図面を参照して説明する。
本発明の特定の実施例を説明する前に本発明を理解するため重要ないくつかの条件について記述する。
導電性フィルムの第1の表面を有する層と第2の表面を有する層を構成する材料は、すべての金属またはドープ処理をした半導体のように導電性材料で、アルミニウム、銀、金、あるいはクローム等が望ましい。導電性フィルムは、中間層を有する。
表面とは、ほぼ平滑な表面と、それとは異なり周期的に隆起した、および、若しくは、沈下した領域を示す表面形状を含むすべての表面で、表面形状の領域は周期性または規則的反復パターン(例えば規則的な二次元格子)で配列されている。
導電性フィルムおよび中間層の全厚みを貫通する開口と、それが無ければ導電性フィルムが開口を除いて名目上平滑となる。突起や窪みを識別するため、導電性フィルムの全厚みを貫通せず、それゆえ開口ではない表面の突起、または、窪みを述べるのに表面特殊形状なる用語を使用する。表面特殊形状は如何なる希望の形にも形成できる。尚、本発明の意図は表面特殊形状の如何なる特定寸法によっても限定されないが、然し表面特殊形状の幅、すなわち、周期性方向における表面特殊形状の寸法dSFは、表面特殊形状の周期Pより小さく作られるのが好ましい。さらに、表面特殊形状の周期Pに導電性フィルムに隣接する媒体の屈折率nを乗じた値もまた、導電性フィルムを通じて伝送する光の最大波長λより小さく(最適にはほんの僅か小さく)作られるのが望ましい。すなわち、dSF、P、n、λ間の好ましい関係は、dSF<P、および、nP<λである。但し、上記の関係は本発明を制限するものではない。ここで、二つの異なる媒体が導電性フィルムの二つの表面に隣接している場合、nが二つの媒体における屈折率の小さい方に等しいことが好ましい。
【0017】
図面を参照すると、図1から図3は、本発明による光学素子10の実施例を示す図である。
図1を参照するに、基本的に、本発明の光学素子10は、第1の表面20aと第2の表面20bを含む薄い導電性フィルム20のみならず、中間層21として、表面凹凸を改善する効果のある導電性材料或いは絶縁性材料或いは、半導体材料を挿入した多層構造とすることを特徴とする。導電性フィルム20は少なくとも一つの孔、すなわち、開口30を有し、導電性フィルム20の表面20a、20bの少なくとも一つが下記のように周期的な表面特殊形状を含んでいる。また、開口30は、積層した三層膜すなわち、第1および第2の表面と、中間層21を貫通して設けられている。
【0018】
第1の表面20aを図2(A)に、第2の表面20bを図2(B)に示す。図2(A)に示すように、第1の表面20aは開口30と窪み42からなる同心円状の表面特殊形状40をそれぞれ含み、輪状溝48は周期Pを有する。
図2(B)に第2の表面20bを示すように、本実施例においては、周期的な表面特殊形状は、第1あるいは第2の表面の少なくとも一方に形成されており、周期的な表面特殊形状を形成していない側の表面である第2の表面20bは、単一の開口30のみが形成されている。一方、第1および第2の表面の両方に周期的な表面特殊形状が形成されている場合には、第1および第2の表面において表面プラズモンモードが形成され、開口30から出射される光強度はより顕著に増加することとなる。また、開口は複数であってもよい。
【0019】
図1の上部に矢印で記号表示されたIincidentの強度を有する入射光は、導電性フィルム20の第1表面20aに向かい、導電性フィルム20の第2の表面20b内の開口30から増大された強度Ioutputを有する図1の下部に矢印で記号表示された出力光として伝送される。
光がこの構造を通って反対方向に移動した場合、すなわち、もし光が第2の表面20bに入射し周期的な表面形状を有する第1表面から出力光として伝送された場合にも伝送強度の増大が起こることに注目すべきである。本発明では周期的な表面形状による強力伝送が、上記のような中間層を挿入した構造とすることにより、より顕著に増大される。
図1に示されるように、開口30の直径はdで表される。伝送強度を最大限増強して最高解像度を得るために開口30の直径は、開口30上に入射する入射光の波長より小さいことが望ましい。すなわち、開口は波長未満の直径を持つことが好ましい。
導電性フィルム20の厚みはtで表示され、導電性フィルムは光学的に不透明であるように十分厚くなければならない。すなわち、入射光の浸透厚より大きくなくてはならない。
【0020】
図1ないし図2に示した実施例には、支持されていない薄い導電性フィルム20が示されている。すなわち、導電性フィルム20は支持構造(基板)に隣接または固着されていない。しかし本発明では、導電性フィルムをガラスまたは石英上に堆積させ、薄い導電性フィルム20を基板に固定してもよい。例えば、厚さ200nmの銀フィルムと中間層としてCoZrTaフィルムと更にその上に銀フィルムをスパッタリング法により、溶融石英、または、ガラス基板上に堆積させることが可能である。
基板を使用する時には、露出(空気)表面か導電性フィルム−基板の界面にある表面上のいずれかに周期的表面を設けることができる。導電性フィルム−基板の界面にある導電性表面上に周期的な表面形状を設ける場合には、例えばパターンの陰画を基板表面上に作り、陰画パターンを形成した基板上に導電性フィルムを堆積させることにより、導電性フィルム上に表面特殊形状を設けることができる。
【0021】
さらに、図1ないし図2に示した実施例の開口30は、円形または円筒形であるが、本発明の範囲から逸脱することなく、これらの特異形状を他の形、例えば楕円形、長方形、またはスリット型にすることができる。
表面特殊形状40は、実際には上記のように、表面特殊形状の幅dSFが表面特殊形状の周期Pより小さい限り、相応する表面内に如何なる寸法、または、形の窪みおよび若しくは突起を含むことができる。
図3に、表面特殊形状が窪みの周期配列の場合の実施例を、図4に表面特殊形状が溝の一次元周期配列の場合の実施例を、図5に表面特殊形状が溝の二次元周期配列の場合の実施例を、それぞれ示す。
【0022】
図6は本発明による光学素子の、導電性フィルム内におけ表面特殊形状が窪みの同心状周期配列場合の実施例における、入射および出力光線の関連配置とその表面プラズモンとの結合状態を示す図である。本発明に準拠して作られた光学素子10を入射光線波長ベクトルkincおよび出射光線波長ベクトルkoutと共に示す。波長ベクトルkincは光学素子10の表面への垂線Nに対しθの角度で光学素子10に入射する。波長ベクトルkoutは入射光線波長ベクトルkincに平行である。波長ベクトルkは光学素子10の表面の平面内にある波長ベクトルkincのx方向成分である。
【0023】
入射光がp偏光、すなわち、入射電界がx軸に平行で孔開き導電性フィルムユニットがy軸の周りに角度θだけ回転している場合には、周期的な表面形状、または、開口の周期的配列、または、両者が結合した形状等周期的構造を持つ導電性フィルム上の表面プラズモンと入射光との結合は以下に示す運動量保存則に従う。
sp = k + iG (1)
ここに、kspは表面プラズモンベクトル、k=x(2π/λ)sinθは、図6に示す導電性フィルムの平面内にある入射光線kincの波長ベクトルの成分、Gは表面構造の周期格子の、逆格子ベクトルG=(2π/P)である。ここにPは表面特殊形状の周期であり、θは図に示すような入射波長ベクトルkinc導電性フィルムの表面垂線N間の角度である。ベクトルkspの大きさは下記プラズモンの分散関係式から得られる。
|ksp|=(ω/c)(εε/(ε+ε))1/2 (2)
ここにωは入射光線の角振動数、εとεはそれぞれ導電性フィルムと誘電媒体の誘電率である。今ε<0、および|ε|>εと仮定する。これはバルクプラズモンエネルギー以下の金属とドープ処理をした半導体に対する場合である。
導電性フィルムに対して光線が垂直に入射(すなわち、q =0)すると、ピーク波長は式(1)と(2)を組み合わせた以下の(3)式により得られる。
λ=P(εε/(ε+ε))1/2 (3)
本発明の光学素子の動作を解析するため、下記のように0次(透過)の伝送スペクトルを記録した。また遠視野顕微鏡を使用して単一のスペクトルを得た。スペクトルは、液体窒素あるいはペルチェ素子により冷却されたCCD(電荷結合素子)カメラあるいは光電子増倍管(フォトマル)により検出した。
図7に本発明の典型的な0次伝送スペクトルを示す。この時、周期的な表面特殊形状の凹凸周期を600nmとし、開口径を150nmとした場合のデータである。また、導電性フィルムは、中間層としてCoZrTaを挿入した構成(Ag(50nm)/CoZrTa(200nm)/Ag(50nm))である。また、参考として、周期的な表面形状がない場合の光透過スペクトルも示している。この構成において、表面プラズモンによる光透過効率の増大に起因する波長位置である620nm付近に透過ピークが観察され、著しく透過効率が上昇していることが分かる。この時、透過効率の増幅率は30倍から50倍程度であった。
上記のように、周期的な表面凹凸と開口を有する導電性フィルムは、明瞭なピークを有する強く増大された伝送効率を示す。これらの伝送スペクトルのピークは入射光線と導電性フィルムの両表面20aと20b上の表面プラズモンとの共振相互作用の結果生ずる。
【0024】
次に、本発明による試料の作製方法を示す。試料は下記のような手順により、石英基板上に形成した。
まず、基板を収束イオンビーム(FIB)装置の中に入れ、1×10−7Torr以下まで真空引きを行う。その後、FIBのビームアパーチャー径を最小として、基板に500nmから600nm周期の同心円状の溝構造を形成する。溝の深さは、およそ150nmから300nmとした。その後、基板をFIB装置から取り出し、成膜装置にセットする。10−7Torr以下まで真空引きを行った後、基板温度を室温から液体窒素温度に保ち、導電性材料、中間層材料、導電性材料を積層して成膜する。この時、導電性材料の上に積層して、適当な保護膜が成膜される場合もある。この後、成膜装置から試料を取り出し、FIB装置の中に入れる。その後、FIBのビームアパーチャー径を最小として、周期的な同心円形状の中心部に50−200nmの開口径を有する微小孔を形成した。
【0025】
以下に作製したa〜rの試料の構成を示す。比較として、導電性フィルムがAg単層からなる試料を作製した。
この時、周期的表面特殊形状として同心円状の溝を作製し、その周期を600nm、溝深さを200nm、溝幅を300nmとし、その中心部に50nmの開口径を有する開口を作製した。
a. 石英基板/Ag(100nm)/CoZrX(100nm)/Ag(100nm)
(X=Nb、 Ta、 Cr、 Moなど)
b. 石英基板/Ag(100nm)/Ta(100nm)/Ag(100nm)
c. 石英基板/Ag(100nm)/Cr(100nm)/Ag(100nm)
d. 石英基板/Ag(100nm)/Ti(100nm)/Ag(100nm)
e. 石英基板/Ag(100nm)/Zr(100nm)/Ag(100nm)
f. 石英基板/Ag(100nm)/Nb(100nm)/Ag(100nm)
g. 石英基板/Ag(100nm)/C(100nm)/Ag(100nm)h. 石英基板/Ag(100nm)/Si(100nm)/Ag(100nm)
i. 石英基板/Ag(100nm)/SiO(100nm)/Ag(100nm)
j. 石英基板/Ag(100nm)/Al(100nm)/Ag(100nm)
k. 石英基板/Ag(100nm)/Ta(100nm)/Ag(100nm)
l. 石英基板/Ag(100nm)/NiO(100nm)/Ag(100nm)
m. 石英基板/Ag(100nm)/TiO(100nm)/Ag(100nm)
n. 石英基板/Ag(100nm)/ZrO(100nm)/Ag(100nm)
o. 石英基板/Ag(100nm)/NbO(100nm)/Ag(100nm)
p. 石英基板/Ag(100nm)/Si(100nm)/Ag(100nm)
q. 石英基板/Ag(100nm)/Ge(100nm)/Ag(100nm)
r. 石英基板/Ag(300nm)
表1は、それぞれの層構成における、周期的な表面形状以外の表面部位の表面凹凸の大きさを平均値で表した値と、この時の光透過効率の増幅率を示したものである。
【0026】
【表1】
Figure 0003932944
【0027】
光透過効率の増幅率は以下の式により算出した。
光透過効率の増幅率=(周期的表面形状を有する試料の開口から出射される光強度)/(周期的な表面形状がない試料の開口から出射される光強度)
周期的な表面特殊形状以外の表面部位の凹凸は、第1および第2の表面を形成する導電性フィルムの間に挿入する中間層材料を選択することにより、小さくすることが可能である。これは導電性フィルムと中間層とを積層する際の濡れ性に大きく依存する。すなわち、構成する材料の表面エネルギー値などを考慮して材料を選択することが好ましく、上にあげた中間層材料を積層あるいは合金化して使用しても同様の効果が得られる。
【0028】
このような積層構成を使用する場合、入射する所定の波長の光に対する、光学的浸透厚(skin depth)に注意して、膜厚構成を決定する必要がある。表面プラズモンのエネルギー領域は、この光学的浸透厚を基準にして見積ることが可能であり、この長さよりも小さい膜厚の導電性フィルムを使用した場合、開口以外の部位において光の透過が生じてしまい、結果的に本発明の目的である波長以下の大きさの出射光が得られなくなってしまう。
また、周期的な表面特殊形状以外の表面部位の凹凸を2.2nm以下とすることにより、3桁以上の光の利用効率向上が実現できている。すなわち、本実施例において、620nm付近に透過効率が最大であり、この波長のおよそ1/300以下の値に表面凹凸を小さくすることにより、透過効率の飛躍的な増加が観察されることが分かる。
本実施例においては、導電性フィルムとしてAgを用いたが、AlあるいはAuを用いた場合においても、同様の光透過効率の増大が観察された。
【0029】
図8に各サンプルの周期的な表面特殊形状以外の表面部位の表面凹凸(平均値)を横軸とし、光透過パワーの増幅率を縦軸とした時の相関を示す。光透過効率の増幅率と周期的な表面特殊形状以外の表面部位の凹凸には明確な相関があり、表面凹凸が小さくなるに従って光透過効率の増幅率は顕著に増加することが分かる。これは、導電性フィルム表面を伝播する表面プラズモンが、周期的な表面特殊形状以外のランダムな表面凹凸により散乱されることにより、光パワーの損失が生じるためであり、表面凹凸を小さくすることにより光パワーの損失は改善される。
【0030】
次に本発明の光学素子を用い、回転する光記憶媒体上を浮上して、高密度に情報を書き込み/読み出す光ヘッドの実施の形態について説明する。
本実施形態の説明において使用される「光記憶媒体」は、光を使用してデータが書き込まれ及び/または読み取られる任意の媒体を意味し、DVD及びCD−ROMのような光ディスクならびに光テープあるいは光磁気材料のような他の形式の光媒体で使用されるような相変化媒体を含むが、相変化媒体に制限されるものではない(光磁気材料の場合には、書き込みのみが光学的に行われ、読み出しは磁気的に行われる)。
さらに、本実施形態の説明において使用される「光ヘッド」は、光記憶媒体にデータを蓄積する(「書き込み」)及び/または光記憶媒体に蓄積されたデータを取り出す(「読み出し」)デバイスを意味する。本発明における光ヘッドは、読み出しのみ、書き込みのみ、あるいは読み出し及び書き込みの両方を行うことができるものが含まれる。
【0031】
図9に、本発明の光学素子を用いて作製した光ヘッドの概略図を示す。光ヘッド200は、光記憶媒体150の回転により光ヘッドを所定の高さに浮上させるためのスライダー形状の上に形成されている。レーザ80を出射するレーザ光は光ファイバ100を介して導入され、マイクロレンズからなるコリメータレンズ60を配置することによりコリメートした。さらに、コリメートされた光は全反射ミラー70により直角方向に光路を変え、さらにその下に置かれたフォーカスレンズ50により、本発明に記載の光学素子10に導かれる。この時、光学素子上の開口を中心とした光の照射範囲は、周期的表面特殊形状における周期として3個から10個分の領域となっており、光の利用効率を考慮して設計されることが望ましい。この時、光学素子における開口径は20nmから200nmとした。
【0032】
光記憶媒体に記録された情報を再生するためには、図9の光ヘッドにおいて、光学素子10の第2の表面の開口付近にフォトディテクタを形成することによって、媒体からの反射光を読み出すことができる。
また、光記憶媒体として光磁気記録媒体を用い、媒体からの漏れ磁束を磁気抵抗効果を用いたヘッドで再生することもできる。
この光ヘッドより、開口径と同程度の大きさの記録パターンが光記憶媒体上に形成され、読み取りは光の反射あるいは磁気再生いずれも良好なSN比の再生波形を得ることが可能であった。
【0033】
また、本発明の光学素子を利用することによって、集光器や走査型近接場顕微鏡装置を構成することができる。
また、上記の光学素子の実施例では、光ディスクへの記録/再生への利用を目的としているため、開口が一つの場合を説明したが、開口を複数周期配列させると、波長選択光学フィルター(特に紫外線、可視光線、近赤外波長用)、およびフォトリソグラフィーマスクなどの他の光学部品を構成することもできる。
【0034】
【発明の効果】
以上説明したように本発明は、波長以下の開口と周期的な表面トポグラフィーとを有する導電性フィルムを有する光学素子を使用し、表面プラズモンとの相互作用により開口を通る透過光が増幅されるようにする時、表面凹凸を改善する効果のある中間層を挿入することにより、周期的な表面特殊形状以外の表面部位の凹凸が改善され、高い光伝送効率を得ることが可能となる。また、この時短いピット長寸法を備え、高データ密度と高速の読み出し/書き込み速度をもたらし、厳しい減衰を受けず、相変化媒体のような光記憶媒体上のデータの書き込み及び読み出しをともに可能にする、近接場光学系を用いる読み出し/書き込みヘッドが得られる、という効果がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による光学素子の典型的実施例の斜視図である。
【図2】図1に示す光学素子における導電性フィルムの第1の表面図2(A)及び第2の表面図2(B)の平面図である。
【図3】本発明の別なる光学素子における導電性フィルムの第1の表面図3(A)及び第2の表面図3(B)の平面図である。
【図4】本発明の別なる光学素子における導電性フィルムの第1の表面図4(A)及び第2の表面図4(B)の平面図である。
【図5】本発明の別なる光学素子における導電性フィルムの第1の表面図5(A)及び第2の表面図5(B)の平面図である。
【図6】本発明による光学素子に関する入射および出射光の幾何学的配置を示す概略斜視図である。
【図7】本発明による光学素子の0次伝送スペクトルを示すグラフである。
【図8】本発明による光学素子の、周期的な表面特殊形状以外の表面部位の凹凸と、光透過効率の増幅率の相関を示すグラフである。
【図9】本発明により作製した光ヘッドの実施例の概略図である。
【符号の説明】
10 光学素子
20 導電性フィルム
20a 第1の表面
20b 第2の表面
21 中間層
30 開口
40 表面特殊形状
50 フォーカスレンズ
60 コリメータレンズ
70 全反射ミラー
80 レーザ
100 光ファイバ
150 光記憶媒体
200 光ヘッド

Claims (25)

  1. 第1および第2の表面を有し、前記第1の表面から前記第2の表面に連通する少なくとも一つの開口と、前記第1および前記第2の表面の少なくとも一つの表面に周期的に設けられた表面特殊形状を有する導電性フィルムの前記一つの表面に入射する光が、前記開口を通じて伝送される強度を増強する光学素子であって、前記導電性フィルムは、前記第1および第2の表面の間に前記表面の平坦性を高める中間層を有する多層構造であることを特徴とする光学素子。
  2. 第1および第2の表面を有し、前記第1の表面から前記第2の表面に連通する少なくとも一つの開口と、前記第1および前記第2の表面の少なくとも一つの表面に周期的に設けられた表面特殊形状を有する導電性フィルムの前記一つの表面に入射する光が、前記導電性フィルムの少なくとも一つの表面上の表面プラズモンモードと相互作用し、その結果、前記開口を通じての光伝送を増強する光学素子であって、前記導電性フィルムは、前記第1および第2の表面の間に前記表面の平坦性を高める中間層を有する多層構造であることを特徴とする光学素子。
  3. 前記周期的に設けられた表面特殊形状以外の前記表面部位の表面凹凸が、前記入射光の波長の1/10以下であることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
  4. 前記周期的に設けられた表面特殊形状以外の前記表面部位の表面凹凸が、前記入射光の波長の1/10以下であることを特徴とする請求項2記載の光学素子。
  5. 前記周期的に設けられた表面特殊形状以外の前記表面部位の表面凹凸が、前記入射光の波長の1/300以下であることを特徴とする請求項1記載の光学素子。
  6. 前記周期的に設けられた表面特殊形状以外の前記表面部位の表面凹凸が、前記入射光の波長の1/300以下であることを特徴とする請求項2記載の光学素子。
  7. 前記周期長を定める表面特殊形状は、前記第1及び第2の表面の両方に形成されており、それぞれの周期長は異なることを特徴とする前記請求項1乃至6記載の光学素子。
  8. 前記開口の径は前記入射光の波長より小さいことを特徴とする前記請求項1乃至4記載の光学素子。
  9. 前記中間層は、少なくとも一層からなる導電性材料であることを特徴とする前記請求項1乃至6記載の光学素子。
  10. 前記中間層は、少なくとも一層からなる絶縁性材料であることを特徴とする前記請求項1乃至6記載の光学素子。
  11. 前記中間層は、少なくとも一層からなる半導体材料であることを特徴とする前記請求項1乃至6記載の光学素子。
  12. 前記導電性材料が、CoZr系合金、Ta、Cr、Ti、Zr、Nb、Cのいずれかであることを特徴とする前記請求項9記載の光学素子。
  13. 前記絶縁性材料が、Si、SiO、Al、Ta、NiO、TiO、ZrO、NbOのいずれかであることを特徴とする前記請求項10記載の光学素子。
  14. 前記半導体材料が、Ge、Siのいずれかであることを特徴とする前記請求項11記載の光学素子。
  15. 前記多層構造の導電性フィルムの前記第1の表面を有する層と前記第2の表面を有する層が、金属であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の光学素子。
  16. 前記導電性フィルムの前記第1の表面を有する層及び前記第2の表面を有する層の厚さが、前記入射光の前記層への表皮深さ(スキン デプス)より厚いことを特徴とする請求項1乃至6記載の光学素子。
  17. 前記導電性フィルムが、基板に固定されていることを特徴とする請求項1乃至6記載の光学素子。
  18. 前記表面特殊形状の周期に前記導電性フィルムに隣接する媒体の屈折率を乗じた値が、前記導電性フィルムを通じて伝送する光の波長より小さいことを特徴とする請求項1乃至6記載の光学素子。
  19. 前記開口が円形であることを特徴とする請求項1から18のいずれかに記載の光学素子。
  20. 前記開口がスリット状であることを特徴とする請求項1から18のいずれかに記載の光学素子。
  21. 前記開口が長方形であることを特徴とする請求項1から18のいずれか記載の光学素子。
  22. 光源からの光によって光記憶媒体に情報を少なくとも記録する光記憶媒体用ヘッドであって、前記請求項1乃至21記載の光学素子と、前記光源の出力光を導波する導波手段と、前記導波手段の出力光を前記光学素子に集光する手段を備え、前記光学素子の開口を前記光記憶媒体に近接して配設することを特徴とする光記憶媒体用ヘッド。
  23. 光源からの光によって光記憶媒体に情報を少なくとも記録し、前記光記憶媒体の回転により前記光記憶媒体表面から所定の高さに浮上させるためのスライダー形状が形成されている請求項22記載の光記憶媒体用ヘッドであって、前記導波手段が、光ファイバであり、前記集光手段が、前記光ファイバの出射光をコリメートするレンズと前記コリメート光の光軸を直角に偏向する直角プリズムと前記コリメート光を前記光学素子に集光するレンズを備え、前記導電性フィルムの前記第2の表面が、前記スライダー形状の浮上面とほぼ同一面を成す、ことを特徴とする光記憶媒体用ヘッド。
  24. 光源からの光によって光記憶媒体に情報を記録再生する光記憶媒体用ヘッドであって、前記請求項1乃至21記載の光学素子と、前記光源の出力光を導波する導波手段と、前記導波手段の出力光を前記光学素子に集光する手段と、前記光学素子の前記開口付近に前記光記憶媒体からの反射光を受光する受光素子を備え、前記光学素子の開口を前記光記憶媒体に近接して配設することを特徴とする光記憶媒体用ヘッド。
  25. 光源からの光によって光記憶媒体に情報を記録再生し、前記光記憶媒体の回転により前記光記憶媒体表面から所定の高さに浮上させるためのスライダー形状が形成されている請求項24記載の光記憶媒体用ヘッドであって、前記導波手段が、光ファイバであり、前記集光手段が、前記光ファイバの出射光をコリメートするレンズと前記コリメート光の光軸を直角に偏向する直角プリズムと前記コリメート光を前記光学素子に集光するレンズを有し、前記導電性フィルムの前記第2の表面が、前記スライダー形状の浮上面とほぼ同一面を成す、ことを特徴とする光記憶媒体用ヘッド。
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