JP3932323B2 - 発光強度を改善された有機基修飾ケイ酸塩複合体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、発光強度を改善された有機基修飾ケイ酸塩(ORMOSIL: Organically Modified Silicates)複合体に関する。
詳しくは、湿式ゾル−ゲル法により誘導される希土類錯体、有機色素の有機成分と無機成分とがハイブリッド化した複合光学材料を中心に適用される。特に、優れた発光特性を有する希土類錯体または有機色素を導入した発光材料の発光効率、安定性および溶媒に対する耐久性の向上に効果があり、高輝度蛍光体、レーザ発振用ロッドもしくは微小球、蛍光を利用した太陽光の集光板、光ファイバ用増幅器、などに主として適用できる。
また、湿式ゾル−ゲル法により誘導される有機−無機複合体は、シラノールと有機シラノールから誘導される通常のORMOSIL(Organically Modified Silicates)を中心にこれまで盛んに研究がなされると共に、その良好な透明性から新しいガラス材料として注目され、酸素透過能を有するコンタクトレンズなどとして既に一部のものは実用化されている。また、未だ開発段階ではあるが、これらに優れた発光特性を有する希土類錯体および有機色素分子を導入した複合体は、良好な機械的強度を兼ね備えることから新規な光学材料、例えば蛍光体、レーザ材料として注目されている。
【0002】
【従来の技術】
しかしながら、ゾル−ゲル法を用いて作製されるシリカ系ガラスは、内部にシラノール基が残存するため、水などを吸収し易く、マトリックスとしての安定性や透光性の低下、および内部に導入した希土類錯体や有機色素分子などの発光効率の低下原因となっていた。
また、これらの複合体は湿式ゾルーゲル法により誘導されることに加え、系内に希土類錯体や有機色素分子などの有機化合物を含むことから加熱処理を施すことができず、多数のシラノール基が脱水縮重合されることなく依然として内部に残存する。このため既存の方法で得られた複合体は、このシラノール基のためにその安定性は、温度、湿度、薬品などにより左右され易く、本来の優れた光学的機能を十分に発揮するまでには至っていなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、湿式ゾル−ゲル法により誘導される通常のORMOSIL等のシリカ系固体マトリックスに、優れた発光特性を有する希土類錯体または有機色素分子を分散、導入した複合体を中心に、発光輝度の低下ならびに水、溶媒に対する耐久性の低下の原因となる複合体内部に存在するシラノール基を、ヘキサメチルジシラザン等を用いて、液相もしくは気相で処理することで[化1]に示す反応を誘発せしめ、該複合体の内外表面の効果的な撥水化により、所望の発光性能、安定性、耐久性の向上を実現しようとするものである。
【0004】
【化1】
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明の有機基修飾ケイ酸塩複合体は、シリカ系ガラスよりなるマトリックスに、ユウロピウムフェナントロリン錯体を分散してなる有機基修飾ケイ酸塩複合体であって、ヘキサメチルジシラザンを用いた複合体の処理により、該複合体を撥水化せしめ、発光強度を改善された有機基修飾ケイ酸塩複合体である。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明は、湿式ゾル−ゲル法により誘導されるシリカ系固体マトリックスに、優れた発光特性を有する希土類錯体または有機色素分子を導入した複合体内部に残存するシラノール基を、ヘキサメチルジシラザンを用いて液相もしくは気相で処理することで[化1]に示す反応を誘発せしめ、複合体内外表面の効果的な撥水化を促し、所望の発光性能と耐久性を実現する。
【0007】
本発明は、π電子共役部位を有するビピリジル(bpy) 、フェナントロリン(phen)およびこれらの誘導体、または、β−ジケトン系化合物を配位子とするテルビウム(Tb)、ユウロピウム(Eu)などの希土類錯体、または、ローダミンなどの有機色素を、湿式ゾル−ゲル法により誘導され、優れた透光性と多様な屈折率を発現する通常のORMOSIL に代表されるシリカまたは有機シロキサンを主要成分とした有機−無機ハイブリッドマトリックスに分散、導入した複合体に残存するシラノール基を、ヘキサメチルジシラザンに代表される撥水化剤で希土類錯体および有機色素の本来の光学機能を損なうことなく処理し、トリメチルシロキサン基に変換することで、それら複合体の熱、水蒸気もしくは溶媒に対する耐久性を飛躍的に向上させるものであり、上記に関連した撥水化処理を、ヘキサメチルジシラザンの液相または気相で行うことができる。
【0008】
また、ヘキサメチルジシラザンなどの撥水化剤を用いた処理の際発生するアンモニアあるいは付加的に加えたアンモニアにより、希土類錯体配位子または有機色素分子のπ電子共役部位を安定化することで、希土類錯体あるいは有機色素の発光性能を改善することができる。
【0009】
本発明では、湿式ゾル−ゲル法により希土類錯体または有機色素を通常のORMOSIL などのシリカ系固体マトリックス内に分散した複合体を、ヘキサメチルジシラザンのアルコール溶液中あるいは同蒸気中で[化1]の反応を進行させることにより、複合体の外あるいは内表面のシラノール基を効果的にトリメチルシロキサン基に変換し、水、水蒸気あるいは溶媒に対する複合体の安定性を飛躍的に向上させることができる。また、この撥水化処理によりシラノール基濃度が減少し、希土類錯体および有機色素分子の消光の原因となっていた、O−H基の伸縮振動に基づく無輻射遷移の割合を効果的に低減することができ、複合体の発光強度の大幅な増大をはかることが可能となる。さらに、撥水化処理の際に発生するアンモニアにより、希土類錯体の配位子および有機色素分子のπ電子共役部位が安定化され、同様に複合体の発光強度を大幅に増大させることができる。
【0010】
【実施例】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1は、π電子共役部位を有するビピリジル、フェナントロリンおよびこれらの誘導体、または、β−ジケトン系化合物を配位子とするテルビウム、ユウロピウムなどの希土類錯体、または、ローダミンなどの有機色素を、湿式ゾル−ゲル法により通常のORMOSIL に代表されるシリカまたは有機シロキサンを主要成分としたシリカ系固体マトリックスに分散、導入した複合体を、ヘキサメチルジシラザンのアルコール溶液を乾燥雰囲気中、室温から60℃で数日間処理する(湿式法)、または、乾燥雰囲気あるいは真空封管中、室温から120℃で数日間処理する(乾式法)ことで、[化1]に示す反応に従い、シラノール基を希土類錯体または有機色素分子の本来の光学機能を損なうことなくトリチメルシロキサン基に変換し、複合体に撥水性を付与する工程図を示したものである。
ここで、湿式法はマトリックス内に分散、導入した希土類錯体または有機色素分子が、ヘキサメチルジシラザン溶液の作製に使用するアルコールなどの溶媒に可溶でない場合に有効であり、簡便で温和な条件で[化1]に示す反応を進行させることができる。一方、希土類錯体または有機色素が溶媒に可溶な場合は乾式法が有効であり、複合体の乾燥と[化1]に示す反応を同時に行うことができる。
【0011】
図2は、ゾル−ゲル法によりテトラエトキシシランとジフェニルジエトキシシランから作製した通常のORMOSIL マトリックス中に、塩化ユウロピウム(III)フェナントロリン錯体(Eu(phen)2Cl3)を分散、導入した複合体粉末を、ヘキサメチルジシラザンのエタノール溶液中、室温で3日間処理した後、その蛍光スペクトル強度の初期値に対する経時変化を、同処理前の試料のそれと併せて示したものである。
撥水化処理した複合体粉末は、同処理前のものに比べ大気中での発光強度の低下が著しく抑制された。これは、該複合体粉末の表面または内部に残存していたシラノール基が[化1]に示す反応に従い、トリメチルシロキサン基に変換されることにより、該複合体が効果的に撥水化され、外部から錯体の無輻射遷移を誘発する水等の侵入が効果的に抑制されたためと考えられる。
【0012】
さらに、ユウロピウムフェナントロリン錯体 (Eu(phen)2Cl3)を分散したORMOSIL複合体をヘキサメチルジシラザンで、エタノール溶液中、60℃で 1日間処理し、室温で、大気中に放置した場合にも、同様の結果が得られた。
【0014】
図3は、ゾル−ゲル法によりテトラエトキシシランとジフェニルジエトキシシランから作製した通常のORMOSIL マトリックス中に、ユウロピウム(III)トリテノイルトリフルオロアセトンモノフェナントロリン錯体(Eu(TTA)3phen)([化2]参照)を分散、導入した複合体粉末を、ヘキサメチルジシラザンのエタノール溶液中、室温で3日間処理後、空気中、50℃で5時間乾燥して得られた試料の蛍光スペクトルを、同処理前のものと併せて示したものである。
【0015】
【化2】
【0016】
励起スペクトルに見られる幅広いピークは錯体の配位子によるものであり、配位子からユウロピウムイオンへの効率的なエネルギー移動により、複合体は良好な赤色の発光を示した。特に、ヘキサメチルジシラザンで撥水化処理した複合体は、同処理前のものと比べ発光強度がおよそ50%近くも増大した。これは、撥水化効果に加え、酸を触媒として得られたシリカ系固体マトリックス中でケト型に異性化した希土類錯体の配位子が、撥水化処理の際発生するアンモニアのために当初のエノール型([化2]参照)に戻り、これにより励起エネルギーの吸収、伝達に有利なπ電子共役部位が効果的に安定化されたためと考えられる。
【0017】
図4は、図3で示した複合体粉末を大気中、5時間乾燥あるいは加熱処理した試料の、市販のランプ用蛍光体Y(P,V)O4:Euに対する相対発光強度を、同処理温度に対して図示したものである。
【0018】
この図より、ヘキサメチルジシラザンにより撥水化処理された複合体は、同処理前のものと比べ熱安定性も向上した。特に、150℃での加熱処理でも相対発光強度はおよそ60%の高い値を維持していた。これより、得られた複合体の可視光域における高い透光性と良好な成型加工性は、これら複合体本来の優れた発光特性に基づく新規な光学材料を提供することができる。
【0019】
さらに、希土類β−ジケトン錯体含有複合体を調製して、その発光特性を調べた。ユウロピウム(III)β−ジケトン錯体を導入した透明な複合体バルク材料を調製し、それらの蛍光特性を調べた結果、適当な条件下でアンモニウム水溶液を用いた処理により複合体粉末を表面処理した場合、同様に高い相対発光強度をもつ蛍光体が得られた。
具体的に、実験では、テトラエトキシシラン(TEOS) 、トリエトキシフェニルシラン(TEPS)、THF 、エタノール、および水を、1−x:x:4:2:4(x=0.3−0.8)のモル比で混合したものに、触媒として希塩酸を加え、1時間還流し、DMF 中に溶解したユウロピウム(III)β−ジケトン錯体を種々の量で、得られた均一なゾル溶液に添加した。その後、錯体ドープゾル溶液を50℃で数日間放置し、固体化した通常のORMOSILを固体マトリックスとした複合体材料を得、その蛍光体の発光特性を調べた。
その結果、UV光照射によりシャープな赤色発光を示す透明な有機−無機ハイブリッド複合体バルク材料を、最適な調製条件下に得た。図5に、種々の量のEu(TTA)3phenを導入した複合体材料の相対発光強度に及ぼすORMOSIL マトリックスのTEOSとTEPSの前駆体組成依存性を示す。複合体材料の発光強度はマトリックスを構成するために原料として用いた有機シランの量に応じて変化し、TEOS/(TEOS+TEPS) が0.4のとき最大となり、相対発光強度はおよそ50%に達した。図中、Eu(TTA)3phenの量をymol%とし、aはy=1mol%、bはy=2mol%、cはy=3mol%の場合を示す。
熱処理した試料の発光強度は250℃までの温度の上昇につれて徐々に減少した。しかし、ORMOSIL :Eu(TTA)3phen複合体材料をアンモニウム水溶液で処理すると、同様に相対発光強度が従来のランプ用蛍光体Y(P,V)O4:Euに対して70%まで増大した。
【0020】
【発明の効果】
本発明によると、複合体内部に残存していたシラノール基を撥水化し、外部から錯体の無輻射遷移を誘発する水等の侵入を効果的に抑制すると共に、マトリックス内に残存する水が除去される結果、同処理前のものに比べ、大気中での発光強度の低下が著しく抑制され、かつ発光強度がさらに増大することが明らかとなった。
【図面の簡単な説明】
【図1】 希土類錯体または有機色素分子を分散、導入した有機−無機複合体の粉末あるいは成形体を撥水化処理する工程を示す図である。
【図2】 ヘキサメチルジシラザンで撥水化処理した複合体粉末について、蛍光スペクトル強度の初期値に対する経時変化を、同処理前の試料のそれと併せて示した図である。
【図3】 ヘキサメチルジシラザンで撥水化処理した複合体の蛍光スペクトル(b)を、同処理前のもの(a)と併せて示した図である。
【図4】 図3で示した複合体粉末について、市販のランプ用蛍光体Y(P,V)O4:Euに対する相対発光強度を、加熱処理温度に対して示した図である。
【図5】 TEOS/(TEOS+TEPS) および錯体量に対するORMOSIL 複合体の相対発光強度依存性を示す。
Claims (1)
- シリカ系ガラスよりなるマトリックスに、ユウロピウムフェナントロリン錯体を分散してなる有機基修飾ケイ酸塩複合体であって、ヘキサメチルジシラザンを用いた処理により、該複合体を撥水化せしめ、発光強度を改善された有機基修飾ケイ酸塩複合体。
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