JP3932308B2 - マイトジェン活性化蛋白キナーゼの活性化剤とその利用法 - Google Patents

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本発明はリゾホスファチジルエタノールアミンを含有することを特徴とするマイトジェン活性化蛋白キナーゼ(以下MAPキナーゼ)の活性化(以下MAPキナーゼ活性化剤)とその利用法に関する。また、本発明のMAPキナーゼ活性化は神経細胞の分化誘導作用、神経細胞の神経突起伸長作用を有し、さらに脳神経細胞の外傷性障害、代謝性要因による障害、β−アミロイド蛋白質による障害または脳虚血性障害を予防あるいは治癒する作用を有する。さらに、本発明のMAPキナーゼ活性化を有効成分とする医薬組成物や食用組成物を調製することができる。
これまで、MAPキナーゼを制御する方法として、4−イミダゾリン−2−オン化合物(特許文献1)、アゾール化合物(特許文献2)、1,3−チアゾール化合物(特許文献3)、5−メチル−1−フェニル−2−(1H)−ピリドン(特許文献4)等の化合物を用いる方法や、ローヤルゼリー中の57kDの糖タンパク質を用いる方法(特許文献5)、さらには、MAPキナーゼ活性制御遺伝子が挿入された組み替え発現ベクターを用いる方法(特許文献6)が知られている。また、抗腫瘍作用を示す微小管作用剤とERK、MAPキナーゼカスケード阻害剤を併用することにより抗腫瘍剤としての効果を改善する技術(特許文献7)が知られている。一方、MAPキナーゼを活性化すると肝細胞が保護されるという知見がある(特許文献5)。
特開2004−339210号公報 特開2002−302445号公報 特開2001−114690号公報 WO01/058448号公報 特開2003−61649号公報 特開2003−219889号公報 WO00/40268号公報
一方、リゾホスファチジルエタノールアミンのMAPキナーゼ活性化作用に関する先行技術は知られていない。
上記のMAPキナーゼの制御方法は、毒性やコスト、実際に人に投与した際に効果が十分でなかった等の理由で、実用化が遅れている。また、リゾホスファチジルエタノールアミンを、MAPキナーゼ活性化剤として利用する先行技術は知られていない。
そこで、本発明は、NGFと同様なMAPキナーゼ活性化作用を有し、神経細胞の分化誘導作用、神経細胞の神経突起伸長作用、脳神経細胞の外傷性障害、代謝性要因による障害、β−アミロイド蛋白質による障害または脳虚血性障害に対して予防あるいは治癒する作用を持つ素材を提供する。
本発明者等は、リゾホスファチジルエタノールアミンを含む抽出物がMAPキナーゼを活性化することを見いだし、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は次の[1]〜[]である。
[1]リゾホスファチジルエタノールアミンを含有することを特徴とするマイトジェン活 性化蛋白キナーゼ活性化
[2]神経細胞死抑制作用、神経細胞の分化誘導作用、神経細胞の神経突起伸長作用、さらには脳神経細胞の外傷性障害、代謝性要因による障害、β−アミロイド蛋白質による障害または脳虚血性障害を予防あるいは治癒する作用を有する[1]に記載のマイトジェン 活性化蛋白キナーゼ活性化
[3]シグナル伝達系タンパク質であるAktのリン酸化を促進する作用を有する[1]、[2]に記載のマイトジェン活性化蛋白キナーゼ活性化
[4]シグナル伝達系タンパク質であるマイトジェン活性化蛋白キナーゼのリン酸化を促進する作用を有する[1]、[2]に記載のマイトジェン活性化蛋白キナーゼ活性化。[5]リゾホスファチジルエタノールアミンを有効成分とするマイトジェン活性化蛋白キ ナーゼ活性化用薬組成物。
すなわち、本発明は、リゾホスファチジルエタノールアミンを含有することを特徴とするMAPキナーゼ活性化とその利用法に関する。
本発明によれば、リゾホスファチジルエタノールアミンを含有することを特徴とする、MAPキナーゼ活性化作用、神経細胞の分化誘導作用、神経細胞の神経突起伸長作用、さらには脳神経細胞の外傷性障害、代謝性要因による障害、β−アミロイド蛋白質による障害または脳虚血性障害を予防あるいは治癒する作用のあるMAPキナーゼ活性化を提供できる。
発明の実施の形態
以下、本発明について詳細に説明する。本発明で使用するリゾホスファチジルエタノールアミン(lysophosphatidylethanolamine)は、動植物の細胞中に存在し、特に卵黄や脳細胞に多く含有されている。リゾホスファチジルエタノールアミンは、細胞膜に存在するリン脂質の一種であるホスファチジルエタノールアミンから生合成される。ホスファチジルエタノールアミンは、卵黄や大豆レシチンに含まれるリン脂質の一種で、2つの脂肪酸を分子内に含有している。生体内では、ホスファチジルエタノールアミンがリン脂質加水分解酵素であるホスホリパーゼ(Phospholipase)A2作用を受けて、sn−2位置にある1つの脂肪酸が除去されることによって、リゾホスファチジルエタノールアミンに変換される。
また、動植物中にもっとも多く見いだされるホスファチジルコリンを出発物質としてホスフォリパーゼDを用いた塩基交換反応でホスファチジルエタノールアミンとし、次にホスフォリパーゼA2によりリゾホスファチジルエタノールアミンを調製することができる。本発明に用いるリゾホスファチジルエタノールアミンは上記の天然物中に含まれるものやホスフォリパーゼA2を使用して調製したものを単独または適宜組み合わせたものである。
本発明では、リゾホスファチジルエタノールアミンの含有量を上げる目的で、クロマト処理を行うことができる。また、得られた分画物は、そのまま、あるいは凍結乾燥法、スプレードライなどの方法を用いて、固体化、粉末化して用いることが出来る。
本発明のMAPキナーゼ活性化の作用は、リゾホスファチジルエタノールアミンが細胞膜のレセプターを活性化し、次いで、例えば、MAPキナーゼキナーゼキナーゼ(MAPKKK)であるRaf、MAPキナーゼキナーゼ(MAPKK)であるMEK1/2、MAPキナーゼであるERK1/2を活性化する。
本発明のMAPキナーゼ活性化は、リゾホスファチジルエタノールアミンを0.01から50%、好ましくは0.1から30%、より好ましくは1から10%含有する。リゾホスファチジルエタノールアミンの含有量が0.01%未満ではMAPキナーゼ活性化作用が認められない。また。リゾホスファチジルエタノールアミン含有量が50%より多くしても、活性の顕著な増加は認められない。
次に、本発明のMAPキナーゼ活性化を配合してなる医薬組物について説明する。本発明のMAPキナーゼ活性化を配合してなる製剤は、これをそのまま、あるいは慣用の医薬製剤担体とともに医薬用組成物となし、動物およびヒトに投与することができる。医薬用組成物の剤形としては特に制限されるものではなく、必要に応じて適宜に選択すればよいが、例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の経口剤、注射剤、坐剤等の非経口剤があげられる。
本発明において錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤としての経口剤は、例えば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を用いて常法に従って製造される。これらの製剤中の本発明のMAPキナーゼ活性化剤の配合量は0.01から50%、好ましくは0.1から30%、より好ましくは1から10%含有する。MAPキナーゼ活性化剤の含有量が0.01%未満ではMAPキナーゼ活性化作用が認められない。また。MAPキナーゼ活性化剤の含有量が50%より多くしても、活性の顕著な増加は認められない。この種の製剤には本発明のMAPキナーゼ活性化の他に、結合剤、崩壊剤、界面活性剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料等を適宜に使用することができる。
上記のMAPキナーゼ活性化を含有する医薬組成物は懸濁液、エマルション剤、シロップ剤、エリキシル剤としても投与することができ、これらの各種剤形には、矯味矯臭剤、着色剤を含有させてもよい。
本発明のMAPキナーゼ活性化は食用組成物としても利用可能である。すなわち、前述のようにして得られるリゾホスファチジルエタノールアミンを有効成分としてなるMAPキナーゼ活性化は、これをそのまま液状、ゲル状あるいは固形状の食品、例えばジュース、清涼飲料、茶、スープ、豆乳、サラダ油、ドレッシング、ヨーグルト、ゼリー、プリン、ふりかけ、育児用粉乳、ケーキミックス、粉末状または液状の乳製品、パン、クッキー等に添加したり、必要に応じてデキストリン、乳糖、澱粉等の賦形剤や香料、色素等とともにペレット、錠剤、顆粒等に加工したり、またゼラチン等で被覆してカプセルに成形加工して健康食品や栄養補助食品等として利用できる。
これらの食品類あるいは食用組成物における本発明のMAPキナーゼ活性化の配合量は、当該食品や組成物の種類や状態等により一律に規定しがたいが、約0.01〜50重量%、より好ましくは0.1〜30重量%である。配合量が0.01重量%未満では経口摂取による所望の効果が小さく、50重量%を超えると食品の種類によっては風味を損なったり当該食品を調製できなくなる場合がある。なお、本発明のMAPキナーゼ活性化は、原料が食品であれば、これをそのまま食用に供してもさしつかえない。
本発明の医薬組物は、MAPキナーゼ活性化をねらいとして利用するものであれば、それを使用する上で何ら制限を受けることなく適用される。
以下、本発明を実施例を用いて具体的に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
実験例1 加水分解反応によるリゾホスファチジルエタノールアミンの製造例
大豆リン脂質(ツルーレシチン製、ホスファチジルコリン75%、ホスファチジルエタノールアミン14%、その他11%)80gを80mLのアセトンに溶かした。シリカゲル(Merck、70−230mesh)450gを1,000mLのアセトンに加えた後、70mm×700mmのガラスカラムに充填した。このカラムに、上記で溶解したリン脂質溶液を投入した後、アセトン500mL、アセトン:エタノール混合溶液(95:5)1000mL、アセトン:エタノール混合溶液(90:10)1,500mL、アセトン:エタノール混合溶液(85:15)2,000mLで溶出しながら、溶出されるリゾホスファチジルエタノールアミンを薄層クロマトグラフィーで調べた。ホスファチジルエタノールアミンが溶出される分画だけを集めて、ロータリーエバポレータで濃縮した。得られたホスファチジルエタノールアミンをHPLC(カラム:シリカゲル60 野村化学製、溶離液 クロロホルム:メタノール=90:10)で分析した結果、純度60%のホスファチジルエタノールアミン(ホスファチジルコリン22%含有)20gが得られた。
得られた純度60%のホスファチジルエタノールアミン(ホスファチジルコリン22%含有)15gを150mLのジエルエーテルに溶かした後、ここにCaCl2が100mM含有された酢酸ナトリウム緩衝液(pH5.6、100mM)20mLを添加した。この溶液に5mLのレシターゼ(10,000IU/mL、Novo
Nordisk社)を添加し、30℃で13時間激しく攪拌しながら反応した。溶液を静置させた後、上澄み液を除去した。すなわち、溶媒及び生成された脂肪酸を除去した。沈殿部分を常温で200mLのヘキサン:エタノール:水(1:1:0.3)の混合溶液で抽出した。下部の水層を除去し、ここに50mLのエタノールを添加して、常温でろ過した。ろ過物にさらにヘキサン:エタノール(1:1)溶液を100mL処理し、ろ過し、乾燥した。得られた乾燥物について液体クロマトグラフィーでリゾホスファチジルエタノールアミンを定量した結果、純度は90%、収量は5gであった。
実験例2 粗抽出物の調製例
乾燥全卵(キューピー製)1kgを攪拌槽に仕込み、そこにエタノール2Lと水0.4Lを加え、常温で5時間撹拌した。その後、濾過により抽出液と残渣を分離した。抽出液をエバポレーターにより濃縮し、茶褐色の粗抽出物250gを得た。粗抽出物中のリゾホスファチジルエタノールアミン含量は11%であった。
実験例3 MAPキナーゼ活性化の調製例
上記の粗抽出物10gを、分取用高速液体クロマトグラフィー(ギルソン社製、モデル303)で分画した。カラムとしてデベロシル60−10 φ50mm×500mm(野村化学製)を用い、検出波長は210nm、溶媒はクロロホルム:メタノール=90:10、溶媒流量を50mL/分とした。分画に際し、5分ごとに溶離液を分取し、分取物に含まれる溶媒をロータリーエバポレーターで乾燥して、乾固した分画物を得た。画分各物中のリゾホスファチジルエタノールアミン含量を上記の方法で測定し、最も含量が高かった分画物すなわち90%品をMAPキナーゼ活性化とした。
馬血清10容量%、牛胎児血清5容量%を含むDMEM培地(日水製薬)にPC12細胞(岐阜薬科大学から分与)を5万個/mL濃度で培養し、24時間後に無血清のDMEM培地に交換した。さらに24時間後に本発明の実験例1のMAPキナーゼ活性化を100または500μg/mL添加し、10分後にPC12細胞の細胞質のタンパク質をリシスバッファーで採取した。採取したタンパク質を、SDS−PAGEで分離後、タンパク質をナイロンメンブレンにブロットした。ブロッキング後に抗MAPキナーゼラビットIgG抗体で反応後、アビジンービオチン化ホースラディッシュペルオキシダーゼコンプレックスで処理した。ペルオキシダーゼ活性をジアミノベンジディン−H2O2を用いて活性化されたMAPキナーゼを可視化することにより、MAPキナーゼの活性化を測定した。陽性対象として、NGFβ(シグマ製)を25ng/mL添加し同じ操作を行った。結果を表2に示した。同表中の記号は、MAPキナーゼの活性化について−:なし、+:あり、++および+++:顕著にありを意味する。
既往の方法で、18日齢のラット胎児から大脳ニューロンを採取し、馬血清10容量%、牛胎児血清5容量%を含むDMEM培地(日水製薬)で24時間培養した。24時間後に無血清のDMEM培地に交換し、さらに24時間後に実験例3のMAPキナーゼ活性化を100または500μg/mL添加した。30秒後に大脳ニューロンの細胞質のタンパク質をリシスバッファーで採取した。採取したタンパク質を、SDS−PAGEで分離後、タンパク質をナイロンメンブレンにブロットした。ブロッキング後に抗リン酸化AktラビットIgG抗体で反応後、アビジンービオチン化ホースラディッシュペルオキシダーゼコンプレックスで処理した。ペルオキシダーゼ活性をジアミノベンジディン−H2O2を用いてリン酸化Aktを可視化することにより、Aktのリン酸を測定した。陽性対象として、NGFβ(シグマ製)を25ng/mL添加し同じ操作を行った。結果を表2に示した。同表中の記号は、Aktのリン酸化について−:なし、+:あり、++および+++:顕著にありを意味する。
比較例1
1-フェニル-2-(3-ピリジル)エタノン(特許文献2の参考例2の方法で合成)、2-ブロモ-1-フェニル-2-(3-ピリジル)エタノン臭化水素酸塩(特許文献3の参考例6の方法で合成)、1−(4−フルオロフェニル)−5−(ピリジン−4−イル)−4−イミダゾリン−2−オン(特許文献1の実施例1の方法で合成)に関して実施例1の方法でMAPキナーゼ活性化作用を測定した。結果を表1に示した。
比較例2

1-フェニル-2-(3-ピリジル)エタノン(特許文献2の参考例2の方法で合成)、2-ブロモ-1-フェニル-2-(3-ピリジル)エタノン臭化水素酸塩(特許文献3の参考例6の方法で合成)、1−(4−フルオロフェニル)−5−(ピリジン−4−イル)−4−イミダゾリン−2−オン(特許文献1の実施例1の方法で合成)に関して実施例2の方法でMAPキナーゼ活性化を測定した。結果を表2に示した。
Figure 0003932308
Figure 0003932308
表1、2、に示されるように、本発明のMAPキナーゼ活性化は、従来MAPキナーゼ活性化作用があると言われていた、1-フェニル-2-(3-ピリジル)エタノン、2-ブロモ-1-フェニル-2-(3-ピリジル)エタノン臭化水素酸塩、1−(4−フルオロフェニル)−5−(ピリジン−4−イル)−4−イミダゾリン−2−オンよりも格段に優れたMAPキナーゼ活性化作用が認められる。また、陽性対象としたNGFと同等のMAPキナーゼ活性化作用を有していた。

Claims (5)

  1. リゾホスファチジルエタノールアミンを含有することを特徴とするマイトジェン活性化蛋 キナーゼ活性化
  2. 神経細胞死抑制作用、神経細胞の分化誘導作用、神経細胞の神経突起伸長作用、さらには脳神経細胞の外傷性障害、代謝性要因による障害、β−アミロイド蛋白質による障害または脳虚血性障害を予防あるいは治癒する作用を有する請求項1に記載のマイトジェン活性 化蛋白キナーゼ活性化
  3. シグナル伝達系タンパク質であるAktのリン酸化を促進する作用を有する請求項1〜2に記載のマイトジェン活性化蛋白キナーゼ活性化
  4. シグナル伝達系タンパク質であるマイトジェン活性化蛋白キナーゼのリン酸化を促進する作用を有する請求項1〜2に記載のマイトジェン活性化蛋白キナーゼ活性化
  5. リゾホスファチジルエタノールアミンを有効成分とするマイトジェン活性化蛋白キナーゼ 活性化用薬組成物。
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