JP3929104B2 - 熱に対して安定化されたフッ化ビニリデンポリマーを含有する組成物 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、改善された熱安定性を示す、フッ化ビニリデンポリマーを含有する組成物に関するものである。
更に詳細には、本発明は、熱安定剤としてビスマスカルボキシレートを含有するこのような組成物に関連する。
【0002】
【従来技術】
熱可塑性ホモポリマーおよびコポリマーであるフッ化ビニリデンポリマーは、多数の有利な特性、および特に化学的に著しく不活性で、かつ紫外輻射に対する高い耐性並びに優れた機械的強度を示す周知のポリマーを構成する。従って、これらポリマーは、種々の分野、例えば特に耐腐食性に関する要求がある化学工業における多数の用途が知られている。更に、これらのポリマーは優れた固有の熱安定性を示し、極めて高頻度で、結果としてこれらは如何なる熱安定剤も存在しない状態で使用される。
それにも拘らず、これらポリマーを非常に厚い層、例えば数十mm程度の層として使用する用途においては、厚い部材の成形中に該部材に及ぼされる苛酷な熱的条件の結果として、熱的劣化が該材料のコア部分に見られる可能性がある。同様に、熱安定性の問題は、極めて高分子量のフッ化ビニリデンポリマーを溶融成形(例えば、極めて高い機械的強度を必要とする物品の成形のために)する場合、および/またはフッ化ビニリデンホモポリマーよりも低い固有熱安定性を有するフッ化ビニリデンコポリマーを溶融成形する場合にも見られる。従って、フッ化ビニリデンポリマーに対して有効な熱安定剤が利用可能であることが、一般的に望ましいことは明らかである。
【0003】
極めて広範囲に及ぶ熱安定剤が、既に塩素化ポリマー、例えば塩化ビニルポリマーの(本質的な)熱的安定化のために提案されている。実際には、これらは最も頻繁には鉛、カルシウムおよび/または亜鉛、バリウムおよび/またはカドミウム或いはまた有機錫並びにチオ錫の塩である。
しかしながら、1948年4月20日付けの特許CH-A-275,161号には、広範囲に渡る有機酸のビスマス塩、例えばビスマスのホルメート、マレエート、ラウレートおよびステアレート、好ましくは少なくとも12個の炭素原子をもつ脂肪酸のビスマス塩を含めることにより、塩化ビニルおよび塩化ビニリデンポリマーが熱的に安定化することを記載している。
C6〜C22 モノカルボン酸のビスマス塩、例えば特にビスマスステアレートおよびサリチレートを含めることによる、ポリ(塩化ビニル)ポリマーの熱的安定化が、1963年8月30日付けの特許出願JP-A-66/19821 において推奨されている。これらのビスマス塩は、有利には熱安定剤、例えばカドミウム、バリウム、亜鉛または鉛の塩との組み合わせで使用される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、フッ化ビニリデンポリマーに対して有効な熱安定剤を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明は、有効量のビスマスカルボキシレートを含めることにより、熱に対して安定化されたフッ化ビニリデンポリマーを含有する組成物に関わり、該組成物は、該ビスマスカルボキシレートがビスマスサクシネート、アクリレートおよびテレフタレート並びにその混合物から選択されることにより特徴付けられる。
優れた結果は、ビスマスのサクシネートおよびアクリレート並びにこれらの混合物によって得られる。極めて好ましいビスマスカルボキシレートは、ビスマスのサクシネートである。
本発明の驚くべき局面は、塩素化ポリマーの熱的安定化に効果的に寄与し得るものとして記載され、かつ更に本発明の組成物において使用するビスマスカルボキシレートと類似する、ビスマスカルボキシレートが、フッ化ビニリデンポリマーの安定化においては、効果がないという事実である。更に、本発明の熱安定剤の有効性は、熱的に分解された廃棄フッ化ビニリデンポリマーの安定化/脱色さえも可能とすることである。
【0006】
【発明の実施の形態】
ビスマスカルボキシレートの有効量とは、本発明の目的にとって、熱安定性を改善するのに、即ち本発明の組成物の着色を防止するのに、あるいは情況に応じて、該組成物が該フッ化ビニリデンポリマーの融点よりも高く、かつ該組成物を成形された物品に転化するのに十分な温度に暴露された場合には、該組成物の着色の程度を減じる(既に分解されている廃棄ポリマーを安定化する場合には)のに十分な量を表すものと理解すべきである。この量は特別に臨界的なものではなく、特に安定化することが望まれる該フッ化ビニリデンポリマーの性質、分子量および適当な場合には該ポリマーの熱分解の程度に依存する。一見解としては、該ビスマスカルボキシレートは、一般的にフッ化ビニリデンポリマー100 重量部当たり少なくとも0.05重量部、最も頻繁には少なくとも0.1 重量部、およびより一層特定的には少なくとも0.3 重量部の割合で使用される。一般に、該ビスマスカルボキシレート含量は、フッ化ビニリデンポリマー100 重量部当たり5重量部を越えず、最も高頻度には該含量は3重量部を越えず、かつより一層特定的には1.5 重量部を越えない。
本発明の組成物中で使用する該ビスマスカルボキシレートの製造は、特別重要という訳ではない。該カルボキシレートは、従って任意の適当な方法で製造できる。例えば、湿式法によって、室温にて水中で、化学量論的量の水酸化ビスマスとカルボン酸(琥珀酸、アクリル酸またはテレフタル酸もしくはその混合物)とを反応させ、次いで生成するビスマス塩を濾過することにより、これらカルボキシレートを製造することができる。また、乾式法によって、例えば数分間、適当な量の三酸化ビスマスと該カルボン酸とを乾式混合/粉砕し(メカノケミカル反応)、次いで該反応混合物を再加熱して、該反応を完了させることにより、該カルボキシレートを製造することもできる。
【0007】
該ビスマスカルボキシレートは、任意の形状、例えば粉末または水性分散体で使用できる。しかしながら、便宜的理由から、これを粉末形状で使用することが好ましい。この場合、粒子が約100 μm未満の平均径を示す粉末を使用することが有利である。該ビスマスカルボキシレート粒子の平均径は、好ましくは約0.1 〜30μmの範囲にある。
該ビスマスカルボキシレート以外に、本発明の組成物は、通常のフッ化ビニリデンポリマー用の添加剤、例えば潤滑剤、顔料、燃焼中の煙の放出量を減ずる添加剤(発煙−抑制剤(smoke-suppressants)) 等を含むことができる。一般に、本発明の組成物は該ビスマスカルボキシレート以外の熱安定剤を含まない。
フッ化ビニリデンポリマーは、本発明の目的にとって、フッ化ビニリデンホモポリマーおよびフッ化ビニリデンと、有利にはフッ素化されているエチレン性不飽和コモノマーとの熱可塑性コポリマーであって、少なくとも約75重量%の、フッ化ビニリデン由来のモノマー単位を含むもの両者を表すものと理解すべきである。該熱可塑性コポリマーは、有利には少なくとも130 ℃に等しい、好ましくは少なくとも150 ℃に等しい、およびより一層特定的には少なくとも165 ℃の融点を示す。使用可能なフッ素化コモノマーの例としては、ヘキサフルオロプロピレンおよびクロロトリフルオロエチレンを挙げることができる。
【0008】
本発明の組成物のフッ化ビニリデンポリマーは、有利にはフッ化ビニリデンホモポリマーおよびフッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンまたはクロロトリフルオロエチレン、特にクロロトリフルオロエチレンとの熱可塑性コポリマーから選択される。フッ化ビニリデンとヘキサフルオロプロピレンとの熱可塑性コポリマーは、有利には約5〜20重量%、より一層特定的には約8〜15重量%のヘキサフルオロプロピレンを含む。後者の特に好ましいコポリマーは、約160 〜約135 ℃の融点を示す。
上記のフッ化ビニリデンとクロロトリフルオロエチレンとの熱可塑性コポリマーは、有利には約10〜25重量%、より一層特定的には約12〜22重量%のクロロトリフルオロエチレンを含む。後者の特に好ましいコポリマーは、約170 〜約165 ℃の融点を示す。
本発明の組成物に関与する該フッ化ビニリデンポリマーは、バージンポリマーまたは廃棄ポリマー(あるいはまたこれらポリマーの混合物)を、区別することなく含むことができる。
【0009】
バージンポリマーが関与する場合、これらポリマーは最も高頻度では粉末形状で与えられ、その構成粒子は約50〜200 μmおよび最も高頻度では約100 〜140 μmの範囲の平均径を示す。廃棄ポリマーが関与する場合、勿論のこととして推奨できるのは、該ビスマスカルボキシレートの配合前に、廃棄フッ化ビニリデンポリマー製の成形された物品を粉砕しおよび/または微粉化して、該物品を小さくされたサイズの粉砕粒子(粉砕物質)にすることである。この廃棄ポリマーの粉砕物質は、5mmを越えない、より一層特定的には2mmを越えない平均径をもつことが好ましい。
同様に、熱的に分解された廃棄ポリマーを熱安定化する場合には、必須ではないが、該粉砕物質を過酸化水素による予備処理に付すことが有利であり得る。この場合、ビスマスカルボキシレートの配合は、過酸化水素による該粉砕物質の処理後に行われる。この処理は、有利には水性過酸化水素溶液、例えば35% 溶液中で、数十分乃至数時間、有利には約2時間、約80〜100 ℃の範囲の温度にて攪拌することにより行う。この過酸化水素による処理後、該フッ化ビニリデンポリマーを濾過し、水洗し、次いで乾燥する。
【0010】
本発明の組成物の調製は、何等特定の問題を示さない。熱可塑性ポリマー中に加工助剤を配合して、粉末または顆粒状で存在する混合物を形成することを可能とするあらゆる公知の技術を利用できる。かくして、該ビスマスカルボキシレートと、重合段階からの該フッ化ビニリデンポリマーとの混合は、該重合の終点において、該重合混合物中に直接配合するか、あるいはまた重合により生成された水性分散体の排液または濾過により得た湿潤ケーキに添加することにより実施できる。この配合方法は、バージンフッ化ビニリデンポリマーを含む本発明の組成物に対してのみ適している。全ての場合において利用できる有利な手順は、本発明の組成物に関与する他の添加物と同時に、プレミックスの製造中に、粉末形状にある(あるいは粉砕された物質としての)該ポリマーに、該ビスマスカルボキシレートを添加する工程を含む。該ビスマスカルボキシレートは、また該フッ化ビニリデンポリマーを溶融する装置、例えばスクリュー押出機に直接導入することもできる。この場合、該安定化された組成物は顆粒の状態で存在するであろう(配合物)。
本発明の組成物において使用する該ビスマスカルボキシレートは、極めて厚い配合物、例えばスラブまたはロッド等の製造並びに極めて高分子量のフッ化ビニリデンポリマーの使用および/または該ホモポリマーよりも低い熱安定性をもつフッ化ビニリデンコポリマーの使用に適しているばかりか、廃棄物品由来の粉砕材料の再利用を可能とする、熱的に分解された廃棄フッ化ビニリデンポリマーの安定化/脱色にも適している。
本発明の組成物は、溶融熱可塑性樹脂の転化用の全ての公知の技術、例えば押出および成形技術の利用を可能とする。
【0011】
【実施例】
以下の実施例は、本発明を例示するものである。
実施例1〜4は、フッ化ビニリデンポリマーを含有するバージン組成物に関連する。
実施例5〜11は、フッ化ビニリデンポリマーを含有する熱的に分解された廃棄組成物に関連する。
これら組成物中で使用する該ビスマスカルボキシレートは、平均径<30μmをもつ粒子として存在する。
実施例1〜4
実施例1(比較のために与えられる)および実施例2(本発明による例)においては、クロロトリフルオロエチレン15重量%を含有するフッ化ビニリデン/クロロトリフルオロエチレンコポリマー組成物(VF2-CTFE)の調製を行った。該組成物は融点169 ℃、負荷5 kgの下で230 ℃にて測定したメルトインデックス(MI)15g/10分(ASTM D 1238) を有する。これらの組成物は以下の成分を含む。全ての部は重量部である。
実施例2の組成物は、更に1重量部のビスマスサクシネートを含む。
【0012】
これらの組成物はブラベンダー型ミキサー中で、270 ℃にて、シャフト速度50r/分を使用して混合し、クレープを5分毎に取り出して、その着色の程度を評価した。
5分間混合した後、実施例1および2の組成物は依然として白色である。
25分間の混合後、実施例1の組成物(ビスマスサクシネートを含まない)は褐色となり、30分後には黒色となる。
25分間の混合後、実施例2の組成物は依然として白色であり、30分後に僅かにベージュ色となり、また50分後にも依然ベージュ色である。
実施例1および2の結果の比較により、ビスマスサクシネートが例外的に高い熱安定化効果をもつことが示される。
実施例3(比較例)および実施例4(本発明)においては、高分子量(MI: 0.2g/10分)を有するフッ化ビニリデンホモポリマー(PVDF)および実施例1および2で使用したものと同一のVF2-CTFEコポリマーを含む組成物の調製を実施した。これらの組成物は以下の成分を含む。全ての部は重量部を表す。
実施例4の組成物は、更に1重量部のビスマスサクシネートを含む。
これらの組成物は、270 ℃にて、実施例1および2と同じ条件下で混合し、また着色の程度を評価するために、クレープを取り出した。
10分後、実施例3の組成物は褐色となり、20分後には黒色となる。
実施例4の組成物は15分後に依然としてオフホワイトであり、20分後には極僅かに着色し(極めて微かなベージュ色)を呈し、かつ50分後には褐色になる(10分後に実施例3の組成物により達成されるものと見掛け上同等の色合い)。
実施例3および4の結果の比較は、ビスマスサクシネートの有効性を十分に示している。
【0013】
実施例5〜 11
実施例5〜11においては、ケミカルエンジニアリングパイプ(数年間に渡り、毎日使用したもの)由来の熱的に劣化された廃棄PVDFホモポリマーから、組成物の調製を行った。回収した該パイプを粉砕して粉砕材料を得た。その構成粒子は平均径<2mmを示す。
比較のために与えた実施例5を除く、これら実施例の全てにおいて、1重量部のビスマスカルボキシレートを配合した(該カルボキシレートの性質は添付した表1に特定されている)。
第一の段階においては、該粉砕PVDF材料およびビスマスカルボキシレートを、攪拌しつつ15分間に渡り混合した(遊星攪拌機を20r/分で回転)。次いで、これらのプレミックスを、32r/分で回転するブレードを備えたミキサー(ブラベンダー型)中で、180 ℃にて3分間混合した。最後に、かくして得たクレープを、50バールの圧力下に維持された金型内で、210 ℃にて5分間加圧成形した。次に、この加圧成形したスラブを検査した。観測された着色の程度を、以下の表1に示す。
以下の表1に見られる結果の比較から、ビスマスサクシネート、アクリレートおよびテレフタレートが、熱的に劣化されたPVDFに対する極めて顕著な着色防止に寄与することはあきらかであり(比較例として与えられた実施例5を参照)、このことは該材料の熱安定性における大幅な改善を反映している。
比較例(実施例9、10および11)で使用したビスマスカルボキシレートは、著しく効果が低い。この点に関連して、ビスマスマレエート(不飽和C4ジカルボキシレート)あるいはまたビスマスオキサレート(飽和C2ジカルボキシレート)の結果と、そのサクシネート(飽和C2ジカルボキシレート)の結果とを比較することは興味がある。
【0014】
【表1】
Claims (8)
- 有効量のビスマスカルボキシレートを含めることにより、熱に対して安定化された、フッ化ビニリデンポリマーを含有する組成物であって、該ビスマスカルボキシレートがビスマスサクシネート、アクリレートおよびテレフタレート並びにその混合物から選択され、及び該ビスマスカルボキシレートがフッ化ビニリデンポリマー100重量部当たり、少なくとも0.05重量部で5重量部までの割合で存在することを特徴とする、上記組成物。
- 該ビスマスカルボキシレートがビスマスサクシネート、アクリレートおよびその混合物から選択される請求項1記載のフッ化ビニリデンポリマー含有組成物。
- 該ビスマスカルボキシレートがビスマスサクシネートである請求項2記載のフッ化ビニリデンポリマー含有組成物。
- 該ビスマスカルボキシレートが、粉末状態で存在し、その粒子が0.1 〜30μmの範囲の平均径を示す、請求項1〜3の何れか1項に記載のフッ化ビニリデンポリマー含有組成物。
- 該フッ化ビニリデンポリマーが、フッ化ビニリデンのホモポリマーおよびそのヘキサフルオロプロピレンまたはクロロトリフルオロエチレンとの熱可塑性コポリマーから選択される、請求項1〜4の何れか1項に記載のフッ化ビニリデンポリマー含有組成物。
- 該フッ化ビニリデンポリマーが、バージンポリマーによって構成される、請求項1〜5の何れか1項に記載のフッ化ビニリデンポリマー含有組成物。
- 該フッ化ビニリデンポリマーが、成形された物品由来の粉砕材料として提供された廃棄ポリマーで構成される、請求項1〜6の何れか1項に記載のフッ化ビニリデンポリマー含有組成物。
- 該粉砕材料が、過酸化水素による予備処理に付されている、請求項7記載のフッ化ビニリデンポリマー含有組成物。
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