JP3927901B2 - 饋電電圧補償装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、饋電回路の電圧変動を抑制する饋電電圧補償装置に係り、特に、列車の回生制動を安定して動作させることが出来るものである。
【0002】
【従来の技術】
図24は、従来からの直流饋電回路の概略構成を示す。饋電変電所3、4では、交流電力系統1、2からの三相交流電圧を降圧し、更に整流器5、6で直流に変換し、高速度遮断器7〜10を介して饋電線16に供給する。饋電回路15は饋電線16と帰線17とからなり、列車14にはこの饋電回路15から電力が供給される。
そして、饋電区分所に饋電電圧補償装置11が設けられ、饋電電圧補償装置11は、キャパシタ18とこのキャパシタ18と高速度遮断器12、13を介した饋電線16との間に挿入され両者の間で双方向の電圧変換を行う可逆コンバータであるDC/DCコンバータ19とから構成される(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
以上のように、キャパシタ18をDC/DCコンバータ19を介して饋電線16に接続する構成を採用しているので、例えば、キャパシタ18に電気二重層キャパシタを適用する場合、キャパシタ18としての定格電圧を高く設定することが一般に困難であるが、DC/DCコンバータ19が饋電線16の電圧との間で適当に電圧変換を行うことで、その適用が容易となる利点がある。
また、DC/DCコンバータ19の電圧変換比を調整可能なものとし、饋電区間や時間帯により、列車の力行負荷が多いと予想されるときは、DC/DCコンバータ19の電圧変換比を高くし、逆に回生負荷が多いと予想されるときは、電圧変換比を低くすることで、回生電力の有効利用と饋電電圧の補償とを共に達成できるという利点がある。
【0004】
【特許文献1】
特開平11−334420号公報(第5、6頁、図9、11)
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来の饋電電圧補償装置は以上のように構成され、DC/DCコンバータを設けることで特にその電圧定格の面からキャパシタの適用が容易になるという利点はあるが、負荷条件によってはキャパシタが饋電変電所からの電流で充電され、その電圧が一定高くなった状態で列車が回生動作に入ってキャパシタが過電圧に至り饋電電圧補償装置が停止して列車が回生失効することがあった。
また、列車ダイヤ等を参考にした力行または回生負荷予想に基づきDC/DCコンバータによる饋電電圧補償装置の電圧調整を行うので、現実に走行する列車の回生失効を確実に防止するという点では十分とは言えなかった。
【0006】
この発明は、以上のような問題点を解消するためになされたもので、列車の回生失効をより確実に防止し、列車の回生制動を安定して動作させることが出来る饋電電圧補償装置を得ることを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
この発明に係る饋電電圧補償装置は、饋電変電所から饋電線を介して、力行・回生を行う列車に給電する饋電回路に接続され、キャパシタおよびこのキャパシタと上記饋電線との間に挿入され両者の間で双方向の電圧変換を行う可逆コンバータからなる饋電電圧補償装置において、
上記可逆コンバータの饋電線側電圧が、上記饋電変電所の無負荷時電圧以上で選定された所定の設定値となるよう上記可逆コンバータを制御するものである。
【0008】
【発明の実施の形態】
実施の形態1.
図1は、この実施の形態1で想定する饋電回路のモデルを示す。ここでは、左端に交流電源系統20からの交流電圧を直流電圧に変換して饋電回路22に出力する饋電変電所21が設けられ、右端にキャパシタ23とDC/DCコンバータ24とからなる饋電電圧補償装置25が設けられている。列車26はこの饋電回路22を矢印の方向に走行し、特にその回生制動時は定電流源として作用するものとする。RSは饋電変電所21の内部抵抗、RL1、RL2は饋電線27の抵抗である。
饋電電圧補償装置25について更に詳しく説明する。キャパシタ23には大容量化が容易な電気二重層キャパシタを採用する。DC/DCコンバータ24はキャパシタ23と饋電線27との間に挿入され両者の間で双方向の電圧変換を行う可逆コンバータで、コンバータ制御装置29からの信号に基づき、DC/DCコンバータ24の饋電線側電圧V2が所定の設定値となるよう制御される。
【0009】
図2、図3は、DC/DCコンバータ24の回路構成および動作の一例を示す図である。図2において、DC/DCコンバータは、平滑フィルタを構成するリアクトルL1、キャパシタC1、IGBTや電界効果形パワートランジスタとからなる第1および第2のスイッチング素子Tr1、Tr2、これらスイッチング素子Tr1、Tr2に逆並列接続されたダイオードDd1、Dd2、およびリアクトルL2から構成され、バッテリBtとキャパシタC2との間で電圧変換を行う。図1に対応させると、バッテリBtは饋電電圧補償装置25の饋電線端に相当し、キャパシタC2はキャパシタ23に相当する。
そして、Tr1、L2、C2、Dd2により、BtからC2に充電するチョッパー回路を形成し、Tr2、L2、C2、Dd1により、C2からBtに逆充電するチョッパー回路を形成している。
【0010】
次にDC/DCコンバータ24の動作について説明する。コンバータ制御装置29は饋電電圧補償装置25の饋電線側電圧V2を検出し、これが設定値より高いとスイッチング素子Tr1をオンオフして図3(a)に示すように、定電流(電流幅Iu〜Id)でBtからC2に充電して電圧を下げ、電圧検出値が設定値より低いとスイッチング素子Tr2をオンオフして図3(b)に示すように、C2からBtに放電して電圧を上げることにより、電圧V2を指令された設定値に制御する。
【0011】
ここで、図4により、我が国の直流饋電回路で一般的に設定されている饋電電圧の変動範囲について説明する。先ず、(b)饋電変電所無負荷時電圧は、無負荷時の饋電変電所からの送り出し電圧でDC1600Vとされている。(c)標準電圧は、列車の設計標準となる電圧で、無負荷時電圧から100V低いDC1500Vに設定されている。(d)最低電圧は、最大負荷時でも必要な列車性能を維持するため饋電回路に要請される電圧最低値でDC1100Vに設定されている。(a)最高電圧は、列車の回生制動動作時に許容される電圧最高値でDC1700Vに設定されている。
従って、列車の電圧は、力行時はDC1600〜1100Vの範囲、回生制動時はDC1700〜1100Vの範囲で変動することになる。
【0012】
以上で説明した饋電電圧補償装置25の主回路構成および制御構成、更には饋電電圧変動範囲を前提にして、以下、この発明の実施の形態1における饋電電圧補償装置25の制御方式を、当該制御方式に基づき実施したシミュレーション結果を踏まえて説明する。
ここでは、コンバータ制御装置29は、DC/DCコンバータ24の饋電線側電圧が饋電変電所21の無負荷時電圧V0=DC1600V(図4参照)となるようDC/DCコンバータ24を制御する。これにより、キャパシタ23が饋電変電所21から充電されることが防止され、その分、列車からの回生電流を吸収する、即ち、キャパシタ23の蓄電能力が有効に活かされ回生失効が防止されるという効果が期待される。
【0013】
以下、この様子を、図5〜8のシミュレーション結果を参照して説明する。このシミュレーションは、列車が饋電変電所21位置から出発し、力行ー惰行ー回生制動ー惰行ー再力行ー惰行ー回生制動で饋電電圧補償装置25位置に停止する、典型的な単位走行パターン(ランカーブ)で運転した場合を想定している。
図5は、この場合の列車電流(列車の電動機電流)I4、列車速度Veを示す。即ち、初め、一定加速度で加速し電動機には一定の電流が流れ、やがて電動機の定格容量領域まで加速するにつれて減衰して列車は最高速度に達した後、力行オフして惰行運転している。その後、抑速運転で回生制動を作用させて減速し、再度惰行運転している。再加速で電動機が一定電流になった後、定格容量域にて電流が減少し、惰行運転後回生制動を作用させて停止する。
【0014】
図6は、饋電変電所21の電圧(図では変電所電圧と略記)V1、DC/DCコンバータ24の饋電線側電圧(図ではコンバータ電圧と略記)V2、列車電圧V3を示し、図7は、変電所電流I1(正極性は流出方向)、コンバータ電流I2(正極性は流入方向)、列車電流I3(正極性は流入方向)を示し、図8は、キャパシタ電圧Vcを示す。
【0015】
ここで、キャパシタ23の設定要領について説明する。キャパシタ23の必要容量は、列車が最高速度から停止するまでの制動エネルギーWb[Kw・秒]の吸収能力から定まり、以下の関係式から求められる。
Wb=0.5・Cb・(VH2−VL2) (1)式
但し、Cb:キャパシタ容量[F]
VH:キャパシタ上限電圧[V]
VL:キャパシタ下限電圧[V]
今回の具体例では、キャパシタ23は、電気二重層キャパシタDC54Vモジュールを16個直列接続したものを想定し、上限電圧はDC820V、下限電圧はDC/DCコンバータ24の変換能力(電流耐量)から決まるDC400Vとしている。そして、定位置停止をするときの列車最高速度を100Km/hとして上式から求まる値に多少の余裕をみて、Cb=200[F]としている。
【0016】
図5〜8に戻り、コンバータ電圧V2は、饋電変電所21の無負荷時電圧DC1600V一定に制御されるので、最初の力行加速期間においては、低下した変電所電圧V1に対してコンバータ電圧V2が高くなり(図6参照)、饋電電圧補償装置25からも電流が列車に供給される(図7参照)。この結果、キャパシタ電圧Vcが大幅に低下し、この例ではほぼ加速終了時点でその下限電圧DC400V近くまで低下している(図8参照)。更に、再力行時は、その途中で、キャパシタ電圧Vcが下限電圧DC400Vに至り、饋電電圧補償装置25は一旦動作を停止している。
従って、回生制動停止の動作は、キャパシタ23がその下限電圧に近いレベルからスタートしており、キャパシタの電圧はその上限値に達することなく、回生エネルギーを確実に吸収して列車の回生失効は防止され安定した回生動作を補償している。
コンバータ電圧V2を変電所無負荷時電圧V0より高い値に設定すると、以上で説明した傾向、即ち、キャパシタ電圧Vcが下限値に至る傾向がより顕著になりキャパシタの蓄電余裕が増大して列車の回生失効は確実に防止される。
【0017】
図9、図10は、比較例として、コンバータ電圧V2をあえて饋電変電所21の無負荷時電圧V0=DC1600Vより低い電圧、ここではDC1500Vに制御した場合のシミュレーション結果を示す。この場合、最初の力行時も途中までは変電所電圧V1がコンバータ電圧V2より高いので、饋電電圧補償装置25は饋電変電所21から充電されキャパシタ電圧Vcは一旦上昇している。その後、変電所電圧V1の低下に従い饋電電圧補償装置25から列車への供給電流が増え、キャパシタ電圧Vcは一旦低下するが、列車が惰行に入ると、変電所電圧V1が上昇するので充電動作が再開してキャパシタ電圧Vcは上昇する。更に列車が惰行から抑速回生制動に入ると、キャパシタ電圧Vcは更に急上昇し、この回生動作の途中で上限電圧DC820Vに達し、饋電電圧補償装置25は動作を停止している。
図10から判るように、再力行後の惰行時にも同様の条件で饋電変電所21から充電されてキャパシタ電圧Vcが大幅に上昇する結果、列車が最終の回生制動停止の動作に入った直後に、再び上限電圧DC820Vに達して饋電電圧補償装置25の動作が停止、列車は回生失効して発電ブレーキや空気ブレーキに切り替えざるを得ず、饋電電圧補償装置25が有効に機能しないことになる。
【0018】
以上の比較結果からも判るように、この発明の実施の形態1では、DC/DCコンバータ24の饋電線側電圧が、饋電変電所21の無負荷時電圧以上で選定された所定の設定値となるようDC/DCコンバータ24を制御するようにしたので、列車の回生動作時に饋電電圧補償装置25が有効に機能し、回生失効が確実に防止され安定した回生動作が実現する。
【0019】
実施の形態2.
先の実施の形態1では、コンバータ電圧V2を饋電変電所の無負荷時電圧以上に制御するようにしたので、回生失効が確実に防止されるとしたが、現実の饋電変電所の状況を考えた場合、以下のような問題がある。即ち、饋電変電所は電力会社の電力系統から給電されるが、この電力系統の電圧変動の影響で饋電変電所の無負荷時電圧が変動する可能性がある。この場合、この無負荷時電圧が通常値より上昇すると相対的にコンバータ電圧が無負荷時電圧より低くなる結果、図9、10で説明したような不具合が生じ得ることになる。
この実施の形態2は、この点を解決するため創案されたものである。
【0020】
図11は、この発明の実施の形態2における饋電電圧補償装置を示す構成図である。先の実施の形態1と異なるのは、電圧検出器30を設けて饋電変電所21の電圧V1を検出し、コンバータ制御装置29AはDC/DCコンバータ24の饋電線側電圧V2がこの検出電圧V1と一致するようDC/DCコンバータ24を制御するようにした点である。
図12、13はこの場合のシミュレーション結果を示す。なお、列車電流I4、列車速度Veは、先に説明した図5と同様であるのでここでは省略している。図12は、変電所電圧V1、コンバータ電圧V2、列車電圧V3およびキャパシタ電圧Vcを示し、図13は、変電所電流I1、コンバータ電流I2、列車電流I3およびキャパシタ電流Icを示す。
【0021】
図から判るように、コンバータ電圧V2は変電所電圧V1に追随し、饋電変電所21から饋電電圧補償装置25への不要な充電が防止され、列車の回生時に饋電電圧補償装置25が有効に機能して安定した回生制動動作が実現する。
但し、回生動作時、列車電圧V3が上昇し、これに伴って変電所電圧V1が上昇するので、コンバータ電圧V2をそのまま変電所電圧V1に追随させると、列車電圧V3が更に上昇することになって好ましくないので、上限値(この例では、変電所無負荷時電圧DC1600Vを採用している)を設け、コンバータ電圧V2をこの上限値でリミットするようにしている。図12において、V2※とし記している部分が該当する。
【0022】
以上のように、この発明の実施の形態2では、饋電変電所21の電圧を検出し、DC/DCコンバータ24の饋電線側電圧を上記変電所電圧検出値になるよう制御するようにしたので、列車の回生動作時に饋電電圧補償装置25が有効に機能し、回生失効が確実に防止され安定した回生動作が実現する。
また、DC/DCコンバータ24の饋電線側電圧の制御において、所定の上限値でリミットするようにしたので、不要な電圧上昇が無くなり回生動作が支障無くなされる。
【0023】
実施の形態3.
先の実施の形態2の説明では言及しなかったが、図12のキャパシタ電圧Vcに着目すると、次のことが判る。即ち、キャパシタ電圧Vcは、当初、DC700Vに充電されているが、一連の単位走行パターンが終了した時点では、DC819Vとなり、DC119V上昇している。従って、この単位走行パターンを繰り返すと仮定すると、キャパシタ電圧V2がいずれ上限電圧(DC820V)に達し、回生失効が生じ得ることになる。
そこで、この実施の形態3では、変電所電圧検出値V1に所定電圧ΔEを加算し、コンバータ電圧V2をこの加算した電圧値に追随させるように制御する。
【0024】
図14、15は、その一例によるシミュレーション結果を示す図で、ここでは加算電圧ΔEとしてDC100Vとしている。そして、図14は各電圧値V1、V2、V3、図15はキャパシタ電圧Vcを示す。コンバータ電圧V2を上げた関係で、図14にV2※で示すように、実施の形態2で説明した電圧リミット動作が頻繁に成されることになるが、V2を上げた分饋電電圧補償装置25から列車への電力供給、従って、キャパシタ23の放電量が増加し、図15に示すように、キャパシタ電圧Vcは、初期値DC700Vから最終値DC682VになりDC18V低下している。
【0025】
以上のように、加算電圧ΔEの値を適当に設定することで、単位走行パターンを繰り返したときの、キャパシタ電圧Vcの累積上昇を抑制することが出来、回生失効をより確実に防止することが出来る。
なお、個々の説明は省略するが、先の実施の形態1を適用した場合にも、コンバータ電圧V2を変電所無負荷時電圧V0より所定電圧ΔE高めるようにし、この電圧ΔEの値を、図14、15で説明したキャパシタ電圧Vcの累積増大を抑制する目的で設定するようにしてもよい。
【0026】
実施の形態4.
図16は、この発明の実施の形態4における饋電電圧補償装置を示す構成図である。ここでは、饋電変電所21は回生機能がないものとしており、列車の回生時は、もっぱら饋電電圧補償装置25がその回生電流を吸収するものとする。そして、電流検出器31により饋電電圧補償装置25の饋電線側電流を検出し、コンバータ制御装置29Bは、その電流値および極性から力行状態か、回生状態か、更には惰行状態かを判別し、この判別結果に基づき、DC/DCコンバータ24の饋電線側電圧V2を制御する。
これにより、力行時にはこのコンバータ電圧V2を高く設定して列車への給電量(キャパシタ23の放電量)を増やし、回生時にはコンバータ電圧V2を低く設定して列車電圧V3の上昇を抑制するという饋電電圧補償装置25の合理的な運転が期待される。
【0027】
先ず、電流検出器31による電流検出値から力行、回生、惰行を判別する要領について図17を参照して説明する。図は、流出する方向(力行状態)の電流極性をプラス、流入する方向(回生状態)の電流極性をマイナスとして図示している。そして、電流の絶対値が惰行判定基準値ΔI(例えば、10A程度)より大きく、かつ極性がプラス、即ち向きが流出方向のときは力行と判定する。また、電流の絶対値が惰行判定基準値ΔIより大きく、かつ極性がマイナス、即ち向きが流入方向のときは回生と判定する。更に、電流の絶対値が惰行判定基準値ΔI以下のときは惰行と判定する。
そして、力行と判定したときは、コンバータ電圧V2を第1の設定値E1に制御し、回生と判定したときは、第1の設定値より低い第2の設定値E2に制御する。
なお、惰行と判定したときは、ハンチング動作等を防止して安定した制御動作を確保するため、直前の判定結果に基づく設定値E1またはE2を採用する。従って、例えば、図17の下段に▲1▼→▲8▼で示すように電流が変化した場合は、各電流履歴点に対応して同図上段に示すように、▲3▼→▲4▼の惰行判定範囲では第1の設定値E1を採用し、▲6▼→▲7▼の惰行判定範囲では第2の設定値E2を採用することになる。
【0028】
次に、実施の形態4での電圧E1、E2の設定要領およびその場合のシミュレーション結果につき図18、19を参照して説明する。
ここでは、力行判定時の第1の設定値E1として、饋電変電所21の無負荷時電圧V0=DC1600Vを採用している。そして、回生判定時の第2の設定値E2としては、回生動作時の列車電圧V3を許容最高電圧DC1700V(図4参照)以下に収めるために設定された電圧、ここではDC1500Vを採用している。
図18は、各電圧V1、V2、V3を、図19は、キャパシタ電圧Vcを示す。図から判るように、力行判定時には、コンバータ電圧V2は変電所無負荷時電圧DC1600Vに制御されるので、列車へは饋電電圧補償装置25からも電流が供給されキャパシタ23は放電して電圧Vcは急減している。回生判定時は、低いDC1500Vに制御されるので、列車電圧V3は、高々DC1610V程度に止まっている。この計算例では、列車の再力行期間の途中で、キャパシタ電圧Vcがその下限値DC400Vまで下がって饋電電圧補償装置25が一旦停止しているが、その後の回生制動停止動作では補償装置として完全に機能している。
【0029】
以上のように、この発明の実施の形態4では、饋電電圧補償装置25の電流から力行、回生、惰行状態を判定し、DC/DCコンバータ24の饋電線側電圧を、力行およびそれに続く惰行時には変電所無負荷時電圧に制御し、回生およびそれに続く惰行時には列車電圧がその許容最高電圧以下となる電圧に制御するようにしたので、回生動作時、饋電電圧補償装置25が有効に機能して列車電圧が安全な範囲に抑えられるとともに、回生失効が確実に防止され安定した回生動作が実現する。
【0030】
実施の形態5.
次に、実施の形態5での電圧E1、E2の設定要領およびその場合のシミュレーション結果につき図20、21を参照して説明する。
先ず、力行時の第1の設定値E1は、以下のように、DC1650Vとしている。即ち、饋電電圧補償装置25から力行する列車に給電する場合を想定し、これを平均定格的な電圧の関係で捉え、コンバータ電圧としては、列車の平均定格的電圧に饋電線での最大電圧降下分を加えたものと考える。具体的に、列車の平均定格的な電圧として、図4の標準電圧DC1500Vを採用し、饋電線の最大電圧降下分としては、今回のシミュレーションでの下記データを算出根拠にDC150Vとしている。
饋電変電所21と饋電電圧補償装置25との距離:5Km
饋電線抵抗:0.04Ω/Km
饋電線最大電流:1000A
以上の条件で、饋電線全長での電圧降下分200Vと饋電線1/2長での電圧降下分100Vとの平均値としてDC150Vとした。
【0031】
また、回生時の第2の設定値E2は、以下のように、DC1550Vとしている。即ち、列車からの回生電流を饋電電圧補償装置25で吸収する場合を想定し、列車の許容最高電圧DC1700V(図4参照)から上記饋電線最大電圧降下分DC150Vを減算してDC1550Vとする。
【0032】
図20は、各電圧V1、V2、V3を、図21は、キャパシタ電圧Vcを示す。図から判るように、力行判定時には、コンバータ電圧V2は饋電線の標準電圧DC1500Vに饋電線最大電圧降下分DC150Vを加算したDC1650Vに制御されるので、列車へは饋電電圧補償装置25からも十分な電流が供給されキャパシタ23は放電して電圧Vcは急減している。回生判定時は、列車の許容最高電圧DC1700Vから饋電線最大電圧降下分DC150Vを減算したDC1550Vに制御されるので、列車電圧V3は、DC1600V程度に抑えられている。この計算例では、列車の最初の加速期間および再力行期間の途中で、キャパシタ電圧Vcがその下限値DC400Vまで下がって饋電電圧補償装置25が一旦停止しているが、その後の回生制動動作ではいずれも補償装置として完全に機能している。
【0033】
以上のように、この発明の実施の形態5では、饋電電圧補償装置25の電流から力行、回生、惰行状態を判定し、DC/DCコンバータ24の饋電線側電圧を、力行およびそれに続く惰行時には饋電線の標準電圧に饋電線最大電圧降下を加算した値に制御し、回生およびそれに続く惰行時には列車の許容最高電圧から饋電線最大電圧降下を減算した値に制御するようにしたので、回生動作時、饋電電圧補償装置25が有効に機能して列車電圧が安全な範囲に抑えられるとともに、回生失効が確実に防止され安定した回生動作が実現する。
【0034】
実施の形態6.
饋電線電流検出値から力行、回生を判定し、その判定結果に基づきコンバータ電圧V2の設定値を切り替えるという点では、先の実施の形態4、5と同様であるが、この実施の形態6では、饋電電圧補償装置25のキャパシタ23として、最小限の容量で列車の回生動作を補償するという点に着目した、上記コンバータ電圧V2の設定方式について説明する。
即ち、ここでは、力行およびそれに続く惰行時に採用する第1の設定値E1としては、饋電変電所21の無負荷時電圧V0=DC1600VにΔEを加算した値とし、回生およびそれに続く惰行時に採用する第2の設定値E2としては、回生動作時の列車電圧を許容最高電圧(DC1700V)以下に収める条件からDC1550Vとする。そして、キャパシタ容量Cbとしては、列車の制動エネルギーWbから求まる最小限の値としておき、上記加算値ΔEをパラメータにしてシミュレーションを行い、列車が最高速度から回生動作で停止する期間でキャパシタ電圧が、丁度、その最低許容電圧から始まり最高許容電圧で終了するような結果が得られるときの加算値ΔEを求める。
このため、既述した(1)式では、キャパシタ容量Cb=200[F]としたが、ここでは、同式による計算結果に余裕を持たせることなく、Cb=165[F]としてシミュレーションしている。
なお、Cbを決定するための条件は、先の計算例の場合と同一である。即ち、
列車最高速度:100[Km/h]
キャパシタ上限電圧VH:820[V]
キャパシタ下限電圧VL:400[V]
としている。
【0035】
図22、23は、ほぼ所望の結果が得られたときのシミュレーション結果で、加算値ΔEとしてDC50V、従って、第1の設定値E1=DC1650Vとした場合の計算結果である。図22は、各電圧V1、V2、V3を、図23は、キャパシタ電圧Vcを示す。
特に図23から判るように、列車が最終の回生制動で停止する期間において、キャパシタ電圧Vcは、最低許容電圧の400Vから最高許容電圧の820Vまで上昇している。即ち、補償装置としてのキャパシタ23がその容量計算通りの回生補償能力を発揮している。
換言すれば、この電圧設定方式は、列車の運転特性、特にその回生動作特性からの要請を満足させる饋電電圧補償装置25としてそのキャパシタ23の容量を最小限のもので実現できるという経済設計を可能とするものと言える。
更に、列車の始動時におけるキャパシタ電圧Vcもその最高許容電圧DC820Vに近い値になっており、列車がこの単位走行パターンの運行を継続するものとすると、上述した効率的な回生補償能力が繰り返し実現されることになる。
【0036】
以上のように、この発明の実施の形態6では、キャパシタ容量を列車の制動エネルギーから求まる最小限の値としておき、力行判定時のコンバータ電圧の設定値を決める加算値ΔEを、列車が実際に最高速度から回生制動で停止する期間でキャパシタ電圧がその最低許容電圧から最高許容電圧まで上昇するように設定するので、結果として、饋電電圧補償装置のキャパシタの容量を無駄のない最小限の値に留めて経済性を高めることが出来る。
【0037】
なお、以上の、コンバータ電圧の第1および第2の設定値E1、E2の設定方式としては、実施の形態4〜6で説明したものに限られるわけではなく、E1>E2の条件を前提に、個々のケースにおける饋電電圧範囲等を考慮に入れて種々変形しうるものである。
また、以上の説明では、キャパシタ23として電気二重層キャパシタを例示したが、この発明の適用上、それに限定されるわけではないことは勿論である。
【0038】
【発明の効果】
以上のように、この発明に係る饋電電圧補償装置は、饋電変電所から饋電線を介して、力行・回生を行う列車に給電する饋電回路に接続され、キャパシタおよびこのキャパシタと上記饋電線との間に挿入され両者の間で双方向の電圧変換を行う可逆コンバータからなる饋電電圧補償装置において、
上記可逆コンバータの饋電線側電圧が、上記饋電変電所の無負荷時電圧以上で選定された所定の設定値となるよう上記可逆コンバータを制御するので、列車の回生動作時に饋電電圧補償装置が有効に機能し、回生失効が確実に防止され安定した回生動作が実現する。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施の形態1における饋電電圧補償装置を示す構成図である。
【図2】 図1のDC/DCコンバータ24の回路構成を示す図である。
【図3】 図2のDC/DCコンバータ24の動作を説明する図である。
【図4】 饋電電圧の変動範囲を示す図である。
【図5】 この発明の実施の形態1におけるシミュレーション結果(列車電流、速度)を示す図である。
【図6】 この発明の実施の形態1におけるシミュレーション結果(各点の電圧)を示す図である。
【図7】 この発明の実施の形態1におけるシミュレーション結果(各点の電流)を示す図である。
【図8】 この発明の実施の形態1におけるシミュレーション結果(キャパシタ電圧)を示す図である。
【図9】 比較例として実施したシミュレーション結果(各点の電圧)を示す図である。
【図10】 比較例として実施したシミュレーション結果(キャパシタ電圧)を示す図である。
【図11】 この発明の実施の形態2における饋電電圧補償装置を示す構成図である。
【図12】 この発明の実施の形態2におけるシミュレーション結果(各点の電圧)を示す図である。
【図13】 この発明の実施の形態2におけるシミュレーション結果(各点の電流)を示す図である。
【図14】 この発明の実施の形態3におけるシミュレーション結果(各点の電圧)を示す図である。
【図15】 この発明の実施の形態3におけるシミュレーション結果(キャパシタ電圧)を示す図である。
【図16】 この発明の実施の形態4における饋電電圧補償装置を示す構成図である。
【図17】 力行、回生、惰行を判定する要領を示す図である。
【図18】 この発明の実施の形態4におけるシミュレーション結果(各点の電圧)を示す図である。
【図19】 この発明の実施の形態4におけるシミュレーション結果(キャパシタ電圧)を示す図である。
【図20】 この発明の実施の形態5におけるシミュレーション結果(各点の電圧)を示す図である。
【図21】 この発明の実施の形態5におけるシミュレーション結果(キャパシタ電圧)を示す図である。
【図22】 この発明の実施の形態6におけるシミュレーション結果(各点の電圧)を示す図である。
【図23】 この発明の実施の形態6におけるシミュレーション結果(キャパシタ電圧)を示す図である。
【図24】 従来の饋電電圧補償装置を示す構成図である。
【符号の説明】
21 饋電変電所、22 饋電回路、23 キャパシタ、
24 DC/DCコンバータ、25 饋電電圧補償装置、26 列車、
27 饋電線、29,29A,29B コンバータ制御装置、
30 電圧検出器、31 電流検出器。
Claims (10)
- 饋電変電所から饋電線を介して、力行・回生を行う列車に給電する饋電回路に接続され、キャパシタおよびこのキャパシタと上記饋電線との間に挿入され両者の間で双方向の電圧変換を行う可逆コンバータからなる饋電電圧補償装置において、
上記可逆コンバータの饋電線側電圧が、上記饋電変電所の無負荷時電圧以上で選定された所定の設定値となるよう上記可逆コンバータを制御することを特徴とする饋電電圧補償装置。 - 饋電変電所から饋電線を介して、力行・回生を行う列車に給電する饋電回路に接続され、キャパシタおよびこのキャパシタと上記饋電線との間に挿入され両者の間で双方向の電圧変換を行う可逆コンバータからなる饋電電圧補償装置において、
上記饋電変電所の出力電圧を検出し、
上記可逆コンバータの饋電線側電圧が、上記饋電変電所の出力電圧検出値以上であって上記出力電圧検出値に追随するように上記可逆コンバータを制御することを特徴とする饋電電圧補償装置。 - 上記可逆コンバータの饋電線側電圧の上限を上記饋電変電所の無負荷時電圧に制限するリミッタを備えたことを特徴とする請求項2記載の饋電電圧補償装置。
- 上記列車の走行状態が、力行、惰行、回生動作を含む所定の単位走行パターンの繰り返しとみなせる場合であって、上記列車が上記単位走行パターンを走行したときその前後で上記キャパシタの電圧が上昇した場合、
上記可逆コンバータの饋電線側電圧を、上記饋電変電所の無負荷時電圧より所定量高くすることにより、上記キャパシタの上記単位走行パターン前後における電圧上昇を抑制するようにしたことを特徴とする請求項1記載の饋電電圧補償装置。 - 饋電変電所から饋電線を介して、力行・回生を行う列車に給電する饋電回路に接続され、キャパシタおよびこのキャパシタと上記饋電線との間に挿入され両者の間で双方向の電圧変換を行う可逆コンバータからなる饋電電圧補償装置において、
上記饋電変電所に回生機能が無い場合、
上記可逆コンバータの饋電線側電流を検出し、当該電流が流出方向のときは力行状態、流入方向のときは回生状態と判定する力行回生判定手段を備え、
上記可逆コンバータの饋電線側電圧が、上記力行状態と判定したときは第1の設定値に、上記回生状態と判定したときは上記第1の設定値より低い第2の設定値になるよう上記可逆コンバータを制御することを特徴とする饋電電圧補償装置。 - 上記第1の設定値は上記饋電変電所の無負荷時電圧とし、上記第2の設定値は、回生動作時の列車電圧を許容最大値以下に収める条件で定まる電圧とすることを特徴とする請求項5記載の饋電電圧補償装置。
- 上記列車の設計基準となる電圧を標準電圧、上記列車の回生動作時に許容される電圧最高値を最高電圧、上記列車と饋電電圧補償装置との間の饋電線に想定される最大電圧降下分を饋電線電圧降下としたとき、
上記第1の設定値は、上記標準電圧に上記饋電線電圧降下を加算した値とし、上記第2の設定値は、上記最高電圧から上記饋電線電圧降下を減算した値とすることを特徴とする請求項5記載の饋電電圧補償装置。 - 上記列車の走行状態が、力行、惰行、回生抑速、回生停止動作を含む所定の単位走行パターンの繰り返しとみなせる場合、
上記第1の設定値は、上記饋電変電所の無負荷時電圧にΔEを加算した値とし、第2の設定値は、回生動作時の列車電圧を許容最大値以下に収める条件で定まる電圧とし、
上記キャパシタの容量Cb[F]を、下式で算出したものとし、
Cb=2・Wb/(VH2−VL2)
但し、Wb:列車が最高速度から停止するまでの制動エネルギー[Kw・秒]
VH:キャパシタ最高許容電圧[V]
VL:上記キャパシタ最高許容電圧VHと上記可逆コンバータの変換能 力とで定まるキャパシタ最低許容電圧[V]
上記単位走行パターンにおいて、上記列車が最高速度から回生動作で停止する期間で上記キャパシタの電圧が上記最低許容電圧VLから最高許容電圧VHまで上昇するよう、上記ΔEの値を設定することを特徴とする請求項5記載の饋電電圧補償装置。 - 上記力行回生判定手段は、上記可逆コンバータの饋電線側電流を検出し、当該電流の絶対値が所定の惰行判定基準値より大きくかつ向きが流出方向のときは力行状態、上記電流の絶対値が上記惰行判定基準値より大きくかつ向きが流入方向のときは回生状態、上記電流の絶対値が上記惰行判定基準値以下のときは惰行状態と判定するものとし、
上記惰行状態と判定されたときの上記可逆コンバータの饋電線側電圧は、当該惰行状態の直前の判定結果に基づく設定値を採用するようにしたことを特徴とする請求項5ないし8のいずれかに記載の饋電電圧補償装置。 - 上記列車の走行状態が、力行、惰行、回生動作を含む所定の単位走行パターンの繰り返しとみなせる場合であって、上記列車が上記単位走行パターンを走行したときその前後で上記キャパシタの電圧が上昇した場合、
上記可逆コンバータの饋電線側電圧を、上記饋電変電所の出力電圧検出値より所定量高く設定することにより、上記キャパシタの上記単位走行パターン前後における電圧上昇を抑制するようにしたことを特徴とする請求項2または3記載の饋電電圧補償装置。
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