JP3925126B2 - 燃料電池 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は燃料電池に用いるセパレータの構造に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、水素と酸素の電気化学反応による起電力を利用した発電装置である固体高分子型燃料電池には、水素などの燃料ガスを供給するための流体通路を保持したセパレータと、酸素等の酸化ガスを供給するための流体通路を保持したセパレータとを設けたセルにより構成されている。このような燃料電池において発電を行う際には、まず、セル内のアノード電極に水素が供給され、反応
【0003】
【式1】
Figure 0003925126
が起こる。この反応により発生したプロトンは、電解質膜を通過しカソード電極に至り、反応
【0004】
【式2】
Figure 0003925126
が起こる。これらの反応による発熱のために、セル内が高温になり、反応を促進するための触媒の表面積低下速度が増大する等の問題が生じるのため、また、この熱を有効利用するため、セルを冷却する必要が生じる。
【0005】
そこで、セルの冷却手段として、特開2001-43869号のように、セパレータの表面に冷却水を流す冷却通路を形成したものがある。さらに、冷却面には、発電時に発生した熱を冷却面内で効率よく冷却するために、流路が面上を隙間なく蛇行して形成されているものがあり、そこを水などの冷却媒体が通過することでセルの冷却が行われる。
【0006】
【発明が解決しようとしている問題点】
しかしながら、前述のような従来技術では、反応熱の過度の上昇を抑え、効率的な反応が行われる反面、セパレータ面における発電の増加により要求される冷却量が増え、セパレータ面全体に冷却通路を設ける必要があった。さらに、電池のコンパクト化を目的にセパレータの厚さも抑えられ、十分な幅・深さの冷却通路の確保が難しくなった。これらは、セパレータにおける反応熱の冷却を効率的に行えないという問題を生じさせ、結果として発電効率を低下させることになった。
【0007】
また、これとは別に、例えば燃料電池の動作を停止した際に冷却媒体の循環を停止し、さらに媒体を通路から抜く動作を備える燃料電池システムにおいて、冷却媒体の一部が通路の蛇行部分等に残って、これが氷点下の状態で凍結し流路が閉塞する問題もあった。この流路の閉塞は流路の増加や、幅や深さが小さくなる傾向と共に発生し易い傾向にあった。これが原因で、低温化での発電開始の際に通路に加温媒体を通した際、通路全体に加温媒体をめぐらせるまでに時間がかかり、結果として発電開始に時間がかかるという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は複雑な形状や余分な幅・深さの冷却通路を設けなくても冷却効果を高めることができ、更に低温下で凍結して冷却通路を閉塞させている媒体を効果的に解凍させる燃料電池用セパレータを提供することを目的とする。
【0009】
【問題点を解決するための手段】
第1の発明は、固体高分子電解質をその外側からアノード電極とカソード電極で挟んで構成される燃料電池構造体と、前記燃料電池構造体を狭持するアノード側セパレータとカソード側セパレータとを備え、前記燃料電池構造体と、前記アノード側セパレータと、前記カソード側セパレータとで単位セルを構成し、複数の前記セルが積層された燃料電池において、前記アノード側セパレータと前記カソード側セパレータは、隣り合うセルの互いに対向する対向面において前記アノード側セパレータと前記カソード側セパレータの少なくとも片方に冷却溝を設けて冷却媒体を流す冷却流路を形成し、前記冷却流路内の対向する表面の内、どちらか一方には熱伝導性を高めるための表面処理を施し、もう一方には親水処理を施した表面処理部を有するセパレータであることを特徴とする
【0010】
第2の発明は、第1の発明において、前記熱伝導性を高めるための表面処理として、セパレータに用いた材質より熱伝導性の高い塗料を塗布した塗装面を形成する。
【0011】
第3の発明は、第1の発明において、前記熱伝導性を高めるための表面処理として、表面粗度を大にした粗面を形成する。
【0015】
の発明は、第1から3のいずれか一つの発明において、前記セパレータの対向する表面は前記アノード側セパレータの表面と前記カソード側セパレータの表面の組み合わせとする。
【0016】
の発明は、第3の発明において、前記粗面の表面粗度は、算術平均粗さRa≦3.5μm、最大高さRy≦20μmとする。
【0017】
【作用及び効果】
第1の発明によれば、前記冷却流路内の対向する表面の内、どちらか一方には熱伝導性を高めるための表面処理を施し、もう一方には親水処理を施した表面処理部を有することで、熱伝導性を高めるための表面処理を施した表面の相対的な疎水性を高めることができる。これにより、凍結した際に比較的疎水性の高いセパレータを優先的に加熱することで、解凍時間を短縮することができる。
【0018】
第2の発明によれば、前記熱伝導性を高めるための表面処理として、セパレータに用いた材質より熱伝導性の高い塗料を塗布した塗装面を形成したので、熱伝導性が高まり、冷却効果が向上する。
【0019】
第3の発明によれば、前記熱伝導性を高めるための表面処理として、表面粗度を大にした粗面を形成することにより、伝熱面積が増加するので熱伝導性が高まる。また、運転停止中に残留冷媒が凍結した場合にセパレータ表面との間に微細気泡が発生するので、加温さえた冷媒の通路を確保して凍結した際の解凍時間が短縮できる。
【0023】
の発明によれば、前記セパレータの対向する表面を、アノード側セパレータの表面とカソード側の表面とすることにより、凍結した際に表面粗度を大きくした表面の解凍を速やかに行い、全体に冷却媒体を巡らせるまでの時間を短縮できるのに加えて、セパレータを容易に製作することができる。
【0024】
の発明によれば、粗面の表面粗度を、算術平均粗さRa≦3.5μm、最大高さRy≦20μmとしたので、冷却媒体の流動性の低下を抑制し、また、セパレータ基材表面に薄膜コーティングを施す場合、塗料の性能の低下を抑制できる。
【0025】
【発明の実施の形態】
図1に本実施形態における燃料電池1の構成図を示す。
【0026】
燃料電池構造体として膜状固体高分子電解質体2を挟んで、板状のアノード電極3aとカソード電極3bを設置し、その燃料電池構造体を挟んで略板形状の二つのセパレータ、アノード側セパレータ4a、カソード側セパレータ4bを設置する。電解質体2、電極3a、3b、セパレータ4a、4bはそれぞれ互いに平行になる様に設置されている。これら電解質体2、電極3a、3b、およびセパレータ4a、4bでもって単位セル1aを構成し、このようなセルを複数個平行に並べて燃料電池1を形成する。
【0027】
アノード側セパレータ4a(4aa)のアノード電極3aに対向する面6a(6aa)に、図において水平方向に延びる複数の互いに平行した燃料ガスを供給するための溝7a(7aa)を面全体に均等に形成する。一方、カソード側セパレータ4bのカソード電極3bに対向する面6bには、酸化剤ガスを供給するための垂直方向に延びる複数の互いに平行な溝7bを面全体に均等に形成する。ここで、本実施形態においては、燃料ガスを供給するための溝7a(7aa)と酸化剤ガスを供給するための溝7bは互いに直交して形成したが、この限りではなく、互いに平行に形成してもよい。そして、アノード電極3aでは、反応
【0028】
【式1】
Figure 0003925126
が起こり、電子は図示しない導線を通り、電気エネルギーとして利用されカソード電極3bに到達する。一方、プロトンは電解質体2を通過し、カソード電極3bに到達する。カソード電極3bでは、供給された電子とプロトン、そして酸化剤に含まれる酸素により反応、
【0029】
【式2】
Figure 0003925126
がおこり発電に必要な電気的化学反応が終結する。
【0030】
アノード電極3aとカソード電極3bとの間では、このような反応(1)、(2)が行われ、セル全体の温度が上昇する。
【0031】
そのため、セパレータ4a、4b(4aa)のそれぞれの電極3a、3bと対向しない背面に、複数の溝8a、8b(8aa)を形成し、相隣り合うセルの互いに対向するこれらの溝8a、8b(8aa)を組み合わせることで冷却流路9を設ける。つまり図1においては、1a内のカソード側セパレータ4bと、隣接するセルにおけるアノード側セパレータ4aaの表面の溝8b、8aaにより一つの冷却流路9を形成する。冷却流路9はセパレータ4a、4b(4aa)の面全体に互いに平行に、且つ、均等に形成し、この冷却流路9には冷却媒体を導く。
【0032】
本実施形態では、セパレータ4a、4b(4aa)のそれぞれに溝を設けているが、隣接するセルの対向面においてどちらか一方のセパレータにのみ溝を設けたものでもよい。また、酸化剤ガスを供給する溝7bと冷却流路9を平行に形成したが、この限りではない。そして、本発明では冷却流路内において対向する表面として冷却流路9を形成する各溝8a、8b、8aaの底面に熱伝導率を高めるための表面処理を施す、具体的にはセパレータ4a、4b(4aa)に用いた材質より熱伝導性の高い塗料を塗布した塗装面を形成する、もしくは表面粗度を大にした粗面を形成することにより冷却効率を向上させることができる。
【0033】
本発明における参考例及び実施形態について、冷却流路9の断面拡大図を図2〜図4に示す。図2〜図4は図1におけるカソード側セパレータ4bとアノード側セパレータ4aにより形成された冷却流路9の拡大図である。
【0034】
図2に示した参考例1においては、セパレータ4b、4aaに形成した溝8b、8aaの底面5b、5aaには冷却性能を確保するための表面処理部として、互いに同程度の粗さ、例えば表面粗さを2.9μmに設定した粗面を形成する。参考例1において冷却流路内で対向する表面として溝の底面に表面処理を行っているが、溝の側面部分11aa、11b、12aa、12bに表面処理を施すこともできる。ここで、熱伝導性および伝熱伝導性の許容範囲から算術平均粗さRaは最大で3.5μm、好ましくは3.0μm以下であり、且つ、最大高さRyは20μm以下、好ましくは10μm以下であるように設定する(Ra、Ryともに評価長さが4mmである。ここで評価長さとは、表面粗さによってその信頼性を得るために必要な測定長さ)。
【0035】
ここで、セパレータ4b、4aa(4a)は、金属もしくはカーボンと樹脂の複合材料により、既知の諸方法により形成され、従って、セパレータ4b、4aa(4a)の粗面を形成するための表面処理を施す以前の表面粗さは、基本的には金属版表面もしくはモールドの場合には金型の表面とほぼ同等の粗さ(Raが約1.0μm以下)を保持している。なお本発明で用いるセパレータ基材は金属、グラファイト及びカーボンと樹脂の複合材料、その他これらの組み合わせのいずれにも用いることができる。
【0036】
溝の底面5b、5aaの粗面は、ブラッシング、サンディング、エッチングもしくはブラスト等の表面処理方法で形成され、ブラシの硬さやサンディング材の目の粗さ、ショットブラストの際に用いる砥粒径や硬さ等は、セパレータ基材の硬さや必要とする表面粗さの程度に合わせて適宜変えることができる。また、セパレータ4b、4aaの外周にシール材を施す場合には、ガス密封性を保証するために冷却材流路9を形成する溝8b、8aaの底面5b、5aaのみに表面処理を行っているが、冷却面全体に表面処理を施してもよい。
【0037】
表面処理を形成する方法としてはエアブラストが利用できる。ブラスト用砥粒は既知のものがいずれも使用可能であるが、セパレータ表面に残った場合の安定性からガラスビーズを砥粒に用いるのが最も好ましい。
【0038】
次に図3に示した参考例2においては、冷却流路9を形成する溝8b、8aaのうち、一方の溝8aaの底面5aaに表面を、例えば算術平均粗さRaが2.9μmに設定した粗面を形成し、他方の溝8bを未処理(算術平均粗さRaが約1.0μm)とする。粗面の形成方法は参考例1と同様とする。
【0039】
図4に示した実施形態においては、冷却流路9を形成する溝8b、8aaのうち、一方の溝8aaの底面5aaに算術平均粗さRaが2.9μmの粗面を形成し、他方にセパレータの表面を形成する部材より親水性の高い塗料を塗布し、塗膜面を形成する。
【0040】
ここで、親水性の高い塗料として、例えば、カーボンと親水性の高い樹脂を主成分としたもので、さらに熱硬化性の樹脂を少量添加することで、セパレータ4bの表面への接着を向上することができる。カーボンは均一な表面を得るために、その平均粒径が30μmのものが好ましい。
【0041】
また、この組成に含まれる樹脂(親水樹脂+熱硬化性樹脂)量は、形成膜自体の電気伝導性が低下することによる発電性能の低下を防ぐため、カーボン100重量部に対して25重量部以下が好ましい。ここでは、平均粒径1μmの黒鉛紛100重量部に対してフェノール樹脂5.6重量部、ポリビニルアルコール11.7重量部を主成分とする親水性を呈する塗料を厚さ20μmで形成する。
【0042】
上記組成を有機溶剤、例えばメタノール等に溶解・分解させ、公知の塗布方法により溝の底面4bに親水性膜を形成する。
【0043】
このように熱伝導性を高める表面処理を施したセパレータを有する燃料電池1による電圧値の時間的変化を図5に、温度の時間的変化を図6に示す。比較のために、上記にような表面処理を施していない従来のセパレータを有する燃料電池1の電圧値と温度を「比較例」としてプロットする。
【0044】
参考例1においては、表面処理を施さないものに対して、燃料電池1の発生電圧を高めることができる。また、温度についても、低下させることができる。これは、冷却流路9を形成する溝8a、8b、8aaの底面5a、5b、5aaを粗面とすることで冷却面積を増加することができ、冷却効率を高めることができる、また、Raを3.5μm以下とし、対向する溝8b、8aa(8a)の両底面5b、5aa(5a)を粗面とするので、冷却媒体の流動性が低下することによる冷却効率の低下を防ぐことができるためである。その結果、燃料電池1の温度について過度の上昇を抑え、効率的な発電を行うことができる。
【0045】
また、特に燃料電池1の発電停止時に冷却媒体の一部もしくは全部を回収するようなシステムにおいては、冷却流路9の一部に冷却剤が残り、外気温が氷点下で凍結した場合であっても、次の起動時に粗面に微細な気泡が生じるので解凍時間を短縮することができる。
【0046】
参考例2においては、燃料電池1の温度は、参考例1よりは高いが、表面処理を施さないものよりは低くなる。
【0047】
ここで、セパレータの表面が疎水性の高い材質で形成されている時は、表面を粗面とすることでさらに疎水性を向上でき、反対に親水性の高い材質で形成されている時は表面を粗面とすることでさらに親水性を向上することができる。本実施形態においてはセパレータ4b、4aa(4a)を、疎水性を有するカーボン等で形成するため、表面に粗面を形成した底面5aaの疎水性がさらに向上する。
【0048】
冷却流路9を形成する二つの溝8b、8aaのうち溝8aaの底面5aaのみにしか表面処理を施さないため、冷却効率は参考例1には劣る。しかし、上記の理由から底面5bに対し底面5aaの疎水性が相対的に向上するので、冷却剤の解凍のために冷却流路9に加温媒体を通す際に、底面5aa側が短時間で解凍され、通路全体に加温媒体を巡らせるまでの時間を短縮することができる。
【0049】
実施形態においては、冷却流路9を形成する溝8aaの底面5aaを粗面とし、溝8bの底面5bを親水性の高い塗膜面としたので、冷却効率の向上を確保しつつ、底面5aaの底面5bに対する相対的な疎水性がさらに向上するので、冷却剤は底面5b側で凍結する傾向が強くなり、解凍時に加温媒体を通路全体に巡らせるまでの時間をさらに短縮することができる。
【0050】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるわけではなく、特許請求項の範囲に記載した技術思想の範囲以内で様々な変更が成し得ることはいうまでもない。
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施形態に用いる燃料電池の構造図である。
【図2】参考例1における冷却剤流路断面拡大図である。
【図3】参考例2における冷却剤流路断面拡大図である。
【図4】実施形態における冷却剤流路断面拡大図である。
【図5】燃料電池の電圧の変化を表す図である。
【図6】燃料電池の温度の変化を表す図である。

Claims (5)

  1. 固体高分子電解質をその外側からアノード電極とカソード電極で挟んで構成される燃料電池構造体と、
    前記燃料電池構造体を狭持するアノード側セパレータとカソード側セパレータとを備え、
    前記燃料電池構造体と、前記アノード側セパレータと、前記カソード側セパレータとで単位セルを構成し、複数の前記セルが積層された燃料電池において、
    前記アノード側セパレータと前記カソード側セパレータは、
    隣り合うセルの互いに対向する対向面において前記アノード側セパレータと前記カソード側セパレータの少なくとも片方に冷却溝を設けて冷却媒体を流す冷却流路を形成し、
    前記冷却流路内の対向する表面の内、どちらか一方には熱伝導性を高めるための表面処理を施し、もう一方には親水処理を施した表面処理部を有するセパレータであることを特徴とする燃料電池。
  2. 前記熱伝導性を高めるための表面処理として、セパレータに用いた材質より熱伝導性の高い塗料を塗布した塗装面を形成した請求項1に記載の燃料電池。
  3. 前記熱伝導性を高めるための表面処理として、表面粗度を大にした粗面を形成した請求項1に記載の燃料電池。
  4. 前記セパレータの対向する表面は前記アノード側セパレータの表面と前記カソード側セパレータの表面の組み合わせとする請求項1から3のいずれか一つに記載の燃料電池。
  5. 前記粗面の表面粗度は、算術平均粗さRa≦3.5μm、最大高さRy≦20μmとする請求項に記載の燃料電池。
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