JP3923336B2 - インクジェットインク用の新規な耐光性添加剤分子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は概してインクジェットインクに関し、より詳しくは、耐光性が改善されたインクジェットインクに関する。
【0002】
【従来の技術】
インクジェットインクは相当の期間にわたって知られてきたものであり、ヒューレット・パッカード社を含め、多数の製造業者によって商品化されている。多年にわたり、コゲーション、耐水性、及び耐スミア(擦り汚れ)性のような、多くの問題が対処されてきている。インク組成の改善は、幾つかの他の性質の中でも特に、コゲーションに対する耐性の改善と、耐水性及び耐スミア性の改善をもたらしている。
【0003】
基本的な問題の多くが克服されるか、又は少なくとも緩和されるにつれて、耐光性が改善されたインク処方を提供することが着目されてきた。耐光性は、周囲光に曝露された時の、インクの安定性の尺度である。着色剤(染料及び顔料)の多くは、光、特に紫外(UV)光に長期間曝露されると退色する傾向がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従って、白黒であるかカラーであるかに関わらず、印刷物が長期にわたって実質的に不変に保たれるようにするために、光に対する安定性が改善された、即ち周囲光に曝露された時の退色に耐えることのできるインク処方を提供することが望まれる。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、耐光性添加剤が提供される。これらの添加剤は多くの色料(水溶性及び水不溶性の両方の)について、優れた耐光性を示す。従ってこの耐光性添加剤は染料(水溶性又は水不溶性)及び顔料(水不溶性)の両方について有効に働く。染料と比較すると、顔料は耐光性であることが知られているが、それでもなお、本発明の添加剤の使用によって、顔料の耐光性をさらに改善することができる。
【0006】
本発明の耐光性添加剤は、良好な水溶性を示すと共に、UV光、周囲光等に曝露された時に大きく退色する染料及び顔料分子に対して顕著な影響を及ぼし、サーマルインクジェットインク、ピエゾインクジェットインク等のインクジェットインクの性能を改善するのに適している。
【0007】
本発明によれば、色料の耐光性を改善し得る分子は、次の三つの成分又は分子部分から構成される。
【0008】
A−X−B (I)
ここで、
(a)部分Aは、固体状態の色料分子の水溶性及び相溶性(分子の重なり)に寄与し、
(b)部分Bは、色料の耐光性の改善に寄与し、
(c)部分Xは、AとBの間の連結成分である。
【0009】
「相溶性」が意味することは、染料又は顔料分子と耐光性添加剤分子が、それらが有効に「重なる」ことができるように類似の構造又は部分的に類似の構造を有するということである。「分子の重なり」は、類似構造を有する分子が溶液中で極めてよく混ざり合うことを意味する。それらは均質性を維持する。固体状態においてさえも、溶媒を除去した場合にこの均質性は維持される。即ち、液体状態においても固体状態においても、相分離はない。
【0010】
上記の分子(I)において、部分Aは、置換基を有する又は有しないアリールスルホン酸又はその塩、特に金属塩である。例えばベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、ナフタレンモノ又はジスルホン酸の酸形及び塩形などである。またアリールカルボン酸又はその塩、例えば安息香酸なども使用できる。部分−X−は、−NR−又は−O−であり、そして部分Bは、置換基を有する又は有しないトリアジン、ベンゾトリアゾール、テトラゾール、又はベンゾイミダゾールである。
【0011】
Bがトリアジンである場合のA−X−B分子は、反応性トリアジン(例えば、塩化シアヌル、メラミン)と反応性アリールスルホン酸(アミノ、ジアミノ)との一段階反応で調製することができる。Bがベンゾトリアゾール、テトラゾール、又はベンゾイミダゾールである場合のA−X−B分子については、別の調製法が用いられる。
【0012】
何れの場合でも、染料又は顔料を含むインクジェットインクの耐光性は、本発明の添加剤を含んでいないインクに比較して改善される。
【0013】
【発明の実施の形態】
さて、本発明者らが現在、本発明を実施するためのベストモードと考えている、本発明の特定の実施態様を詳細に参照する。代替実施態様についても、それが適用できる場合について簡単に記述する。
【0014】
本明細書における全ての濃度は、別途記載しない限り重量パーセントで表される。全ての成分の純度は、インクジェットインクとして通常の商業的実施に用いられる純度である。
【0015】
本発明によれば、染料の耐光性を改善し得る分子は、次の三つの成分又は分子部分から構成される。
【0016】
A−X−B (I)
ここで、
(a)部分Aは、固体状態の色料分子の水溶性及び相溶性(分子の重なり)に寄与し、
(b)部分Bは、色料の耐光性の改善に寄与し、
(c)部分Xは、AとBの間の連結成分である。
【0017】
上記の分子(I)において、部分Aは、置換基を有する又は有しないアリールスルホン酸又はカルボン酸、或いはこれらの酸性塩である。部分Aの例としては、限定するものではないが、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンモノスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸ナトリウム塩、及びヒドロキシベンゼンスルホン酸ナトリウム塩がある。上述のように、部分Aは酸形又は塩形であってよい。酸形に関して、スルホン酸は−SO3H基を含み、カルボン酸は−COOH基を含む。塩形は対イオンとしてカリウム、リチウム、又はナトリウムを含む。置換基は、ハロゲン(X)、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、エステル(−O−)、エーテル(−OR)、アルコール(−OH)、及びアミド(NR2)から成る群より選択される。ここでRはH、アルキル、アリール、置換アルキル又はアリールである。
【0018】
部分−X−は、−NR−又は−O−のような連結成分である。ここでRはH、アルキル、置換アルキル、アリール、又は置換アリールであってよい。
【0019】
部分Bは、置換基を有する又は有しないトリアジン、ベンゾトリアゾール、テトラゾール、又はベンゾイミダゾールである。B部分が有する置換基は、A部分が有する置換基と同一の群より選択されるが、A部分の置換基には依存しない。
【0020】
単一の分子において、X部分は二つ以上あってよく、それによって付加的なA部分がB部分に連結され、又は付加的なB部分がA部分に連結される。
【0021】
A−X−B分子は、例えば、以下に示す反応性トリアジン(例えば塩化シアヌル又はメラミン)と反応性アリールスルホン酸塩(例えばアミノ又はジアミノ)との一段階反応で調製することができる。
【0022】
【化1】
【0023】
ベンゾトリアゾール、テトラゾール、ベンゾイミダゾールに関しては、当業者は過度の実験を必要とせずに、本発明の耐光性添加剤を調製するのに適当な反応を設計することができる。
【0024】
A部分にはSO3M基とCOOM基が含まれ、ここでMはH、Li、Na、又はKである。A部分の例には、限定するものではないが、次のものが含まれる。
【0025】
【化2】
【0026】
B部分の例には、限定するものではないが、下記のものが含まれる。
【0027】
【化3】
【0028】
ベンゾイミダゾール及びベンゾトリアゾールについての括弧内の語句は、置換基がフェニル環(フェニル置換)にあるか窒素含有環(ベンゾイミダゾリル又はベンゾトリアゾリル)にあるかを表す。テトラゾールについての括弧内の語句は、置換基が炭素原子に結合されているか(C−置換)又は第1窒素の水素を置換しているか(N−置換)を表す。
【0029】
本発明のA−X−B化合物の例には、限定するものではないが、以下のものが含まれる。
(1)4−アミノ−5−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジスルホン酸(二ナトリウム塩)と塩化シアヌルとの反応生成物(モノ及びトリ置換化合物)。
【0030】
【化4】
【0031】
トリ−置換化合物は、三つのA部分を単一のB部分に連結する、三つの連結成分X(ここでは−NH−)を含むことが看取されよう。
(2)3−アミノ−2−ヒドロキシ−ベンゼンスルホン酸(酸形)と塩化シアヌルとの反応生成物(モノ及びトリ置換化合物)。
【0032】
【化5】
【0033】
上記においては、Na塩と酸形を別々に示した。しかしながら本発明の実施に際しては、塩と酸形は互換的に用いることができる。また、単一分子上に複数のスルホン基がある場合は、塩及び酸形の両方の混合物を用いてもよい。例えば上記のナフタレン化合物(1)では、二つのスルホン酸基が両方とも塩(例えば上記のようなナトリウム塩)であっても、又は両方が酸形であっても、或いは一方が塩で他方が酸であってもよい。
(3)ベンゼン又はナフタレンスルホン酸とクロロベンゾトリアゾールとの反応生成物。
【0034】
【化6】
【0035】
(4)4,4’−ジアミノ−2,2’−スチルベンジスルホン酸の反応生成物。
【0036】
【化7】
【0037】
以上の記述から分かるように、本発明のA−X−B化合物は、例えば、二つ又は三つのB部分を単一のA部分に、又は二つ又は三つのA部分を単一のB部分に連結するために、一つより多い連結成分Xを使うことができる。前出の二つの化合物は何れも、単一のA部分に連結された二つのB部分を示している。
(5)以下のA−X−B化合物は、単一のA部分に連結された三つのB部分からなり、3モルのシアヌル酸と1モルの置換(R)ベンゼンスルホン酸との反応を伴う。
【0038】
【化8】
【0039】
nの値は1から3(n=3の時、Rはなし)である。ここでも、酸形、又は塩形と酸形の混合を用いてもよい。また、上の反応(1)に示したナフタレン化合物に類似の化合物が、三つのB部分の結合される単一のA部分からなることもできる。
【0040】
【化9】
【0041】
(6)A部分、B部分、及びX連結成分の組合せを「混合し整合させて」、本発明の耐光性添加剤の諸性質を微調整するための複合分子を提供することもできる。そのような複合分子の例には、次のものが含まれる。
【0042】
【化10】
【0043】
複数のA、B、及びX部分を有するさらに別の例は次の通りである。
【0044】
【化11】
【0045】
本発明の耐光性添加剤は、(1)UV光及び周囲光に曝露された時の印刷済みインクの退色を低減させるのに極めて有効であり、(2)水溶性であり、従って界面活性剤の添加を必要とせず、(3)無色であり、従ってインクにも又は基体上の予備印刷にも使用でき、(4)調製に要するのは化学反応は簡単なもののみであって低コストであり、そして(5)化学的に中性であってインクのpHに影響しない。このことは、インクを所望の低pHで印刷できることを意味する。
【0046】
本発明の耐光性添加剤は、典型的にはビヒクルと一つ以上の着色剤(染料又は顔料)を含有する、従来のインクジェットインクに添加される。
【0047】
本発明のインクは、(1)約5−50重量%の、好ましくは約10−25重量%の水混和性有機共溶媒と、(2)約0.05−10重量%の、好ましくは約0.5−10重量%の着色剤と、(3)約0.1−40重量%の、好ましくは、約0.1−10重量%の、最も好ましくは約0.5−6重量%の本発明の耐光性添加剤と、そして(4)水とを含有する。以下に説明するように、インクに対する他の成分及び添加剤も、存在していてよい。
【0048】
共溶媒は、インクジェット印刷に通常採用される一つ又はより多くの水混和性有機溶媒を含む。本発明の実施に採用される共溶媒の種類には、限定するものではないが、脂肪族アルコール、芳香族アルコール、ジオール、グリコールエーテル、ポリ(グリコール)エーテル、カプロラクタム、ホルムアミド、アセトアミド、及び長鎖アルコールが含まれる。また本発明の実施に用いられる化合物の例には、限定するものではないが、炭素数30以下の第一脂肪族アルコール、炭素数30以下の第一芳香族アルコール、炭素数30以下の第二脂肪族アルコール、炭素数30以下の第二芳香族アルコール、炭素数30以下の1,2−アルコール、炭素数30以下の1,3−アルコール、炭素数30以下の1,ω−アルコール、エチレングリコールアルキルエーテル、プロピレングリコールアルキルエーテル、ポリ(エチレングリコール)アルキルエーテル、ポリ(エチレングリコール)アルキルエーテルの高級同族体、ポリ(プロピレングリコール)アルキルエーテル、ポリ(プロピレングリコール)アルキルエーテルの高級同族体、N−アルキルカプロラクタム、未置換カプロラクタム、置換ホルムアミド、未置換ホルムアミド、置換アセトアミド、及び未置換アセトアミドがある。本発明の実施に好ましく用いられる共溶媒の具体例は、限定するものではないが、N−メチルピロリドン、1,5−ペンタンジオール、2−ピロリドン、ジエチレングリコール、1,3−(2−メチル)−プロパンジオール、1,3,5−(2−メチル)−ペンタントリオール、スルホン酸テトラメチレン、3−メトキシ−3−メチルブタノール、グリセロール、及び1,2−アルキルジオールが含まれる。
【0049】
以下の顔料は、本発明の実施において有用である。しかしながら以下の列挙は、本発明を限定することを意図するものではない。BASF社から市販されている以下の顔料、すなわちPaliogen(登録商標)オレンジ、Heliogen(登録商標)ブルーL6901F、Heliogen(登録商標)ブルーNBD7010、Heliogen(登録商標)ブルーK7090、Heliogen(登録商標)ブルーL7101F、Paliogen(登録商標)ブルーL6470、Heliogen(登録商標)グリーンK8683、及びHeliogen(登録商標)グリーンL9140。キャボット社から市販されている以下の顔料、すなわちMonarch(登録商標)1400、Monarch(登録商標)1300、Monarch(登録商標)1100、Monarch(登録商標)1000、Monarch(登録商標)900、Monarch(登録商標)880、Monarch(登録商標)800、Monarch(登録商標)700、Cabojet200、Cabojet300、IJX55、及びIJX76。チバガイギー社から市販されている以下の顔料、すなわちChromophtal(登録商標)イエロー3G、Chromophtal(登録商標)イエローGR、Chromophtal(登録商標)イエロー8G、Igrazin(登録商標)イエロー5GT、Igralite(登録商標)Rubine 4BL、Monastral(登録商標)マゼンタ、Monastral(登録商標)スカーレット、Monastral(登録商標)バイオレットR、Monastral(登録商標)レッドB、及びMonastral(登録商標)バイオレットMaroon B。コロンビアン・ケミカルズ社から市販されている以下の顔料、すなわちRaven 7000、Raven 5750、Raven5250、Raven 5000、及びRaven 3500。デグッサ社から市販されている以下の顔料、すなわちカラーブラックFW200、カラーブラックFW2、カラーブラックFW2V、カラーブラックFW1、カラーブラックFW18、カラーブラックS160、カラーブラックS170、スペシャルブラック6、スペシャルブラック5、スペシャルブラック4A、スペシャルブラック4、Printex U、Printex V、Printex 140U、及びPrintex 140V。デュポン社から市販されている以下の顔料、すなわちTipure(登録商標)R−101。ホイバッハ社から市販されている以下の顔料、すなわちDalamar(登録商標)イエローYT−858−D及びHeucophthal(登録商標)Blue G XBT−583D。ヘキスト社から市販されている以下の顔料、すなわちPermanentイエローGR、PermanentイエローG、PermanentイエローDHG、PermanentイエローNCG−71、PermanentイエローGG、HansaイエローRA、Hansaブリリアントイエロー5GX−02、HansaイエローX、Novoperm(登録商標)イエローHR、Novoperm(登録商標)イエローFGL、Hansaブリリアントイエロー10GX、PermanentイエローG3R−01、Hostaperm(登録商標)イエローH4G、Hostaperm(登録商標)イエローH3G、Hostaperm(登録商標)オレンジGR、Hostaperm(登録商標)スカーレットGO、及びPermanent Rubine F6B。バイエル社から市販されている以下の顔料、すなわちQuindo(登録商標)マゼンタ、Indofast(登録商標)ブリリアントスカーレット、Quindo(登録商標)レッドR6700、Quindo(登録商標)レッドR6713、及びIndofast(登録商標)バイオレット。サン・ケミカル社から市販されている以下の顔料、すなわちL74−1357イエロー、L75−1331イエロー、L75−2577イエロー、YGD 9374イエロー、YHD 9123イエロー、YCD9296イエロー、YFD 1100イエロー、QHD 6040マゼンタ、QFD 1180マゼンタ、RFD 3217マゼンタ、QFD 1146マゼンタ、RFD 9364マゼンタ、QFD 9334マゼンタ、BCD 6105シアン、BCD 9448シアン、BCD 6060シアン、BFD 5002シアン、BFD 1121シアン、及びLHD 9303ブラック。
【0050】
染料は、それが水溶性であろうと水不溶性であろうと、本発明の実施において用いることができる。水溶性染料の例としては、スルホン酸塩及びカルボン酸塩染料、特に、インクジェット印刷に通常用いられるものがある。具体例には、スルホローダミンB(スルホン酸塩)、アシッドブルー113(スルホン酸塩)、アシッドブルー29(スルホン酸塩)、アシッドレッド4(スルホン酸塩)、ローズベンガル(カルボン酸塩)、アシッドイエロー17(スルホン酸塩)、アシッドイエロー29(スルホン酸塩)、アシッドイエロー42(スルホン酸塩)、アクリジンイエローG(スルホン酸塩)、ニトロブルー・塩化テトラゾリウムモノハイドレート又はNBT、ローダミン6G、ローダミン123、ローダミンB、ローダミンBイソシアナート、サフラニンO、アズールB、アズールBエオシナート、ベーシックブルー47、ベーシックブルー66、チオフラビンT(ベーシックイエロー1)、及びオーラミンO(ベーシックイエロー2)が含まれるが、これらは全てアルドリッチ・ケミカル社から入手可能である。水溶性(アニオン)染料のさらに別の具体例には、アルドリッチ・ケミカル社のダイレクトイエロー132及びダイレクトブルー199、並びにマゼンタ377(イルフォードAG,スイス)が含まれ、これは単独で又はアシッドレッド52(アルドリッチ・ケミカル社)と一緒に使用可能である。水不溶性染料の例には、アゾ染料、キサンテン染料、メチン染料、ポリメチン染料、及びアントラキノン染料が含まれる。水不溶性染料の具体例には、チバガイギー社から市販されているOrasolブルーGN、Orasolピンク、及びOrasolイエローがある。
【0051】
インク組成中に一つ以上の界面活性剤が使用される場合は、その界面活性剤の濃度は、インクの約0.001から10重量%、好ましくは約0.01から5重量%の範囲にある。
【0052】
インクのバランス量は水であり、これは特定用途向けにインクの諸性質を最適化するのに用いられる、インクジェットインクに通常添加される他の添加剤を含む。例えば当業者には周知のように、殺生物剤をインク組成中に用いて、微生物の成長を禁止することができ、EDTAのような金属イオン封鎖剤を含有させて重金属不純物の有害な影響を排除することができる。さらにインクのpHを制御するために緩衝剤溶液を用いてもよい。粘度調節剤のような他の既知の添加剤及び他のアクリル系又は非アクリル系ポリマーを添加して、インク組成物の種々の性質を思うように改良することができる。
【0053】
【実施例】
例1 アシッドレッド52染料についての耐光性の改善
退色に及ぼす添加剤の効果を判定するため種々の耐光性添加剤を評価した。これについて、耐光性は、アトラス社から入手可能なhpuv(屋内化学線曝露システム)退色試験機で評価した。特に耐光性は、退色試験機が、58から70キロルクスという強度を72時間維持する条件下で測定した。光学濃度(OD)値は、曝露の前後で測定した。OD損失は、ANSI規格のIT9.9法(1996)によって判定した。
【0054】
ブラック、シアン、マゼンタ、及びイエローに関しては、OD損失値が低いほど、耐光性は高い。ブルー、グリーン、及びレッドについては、サンプルの退色につれて色が均一性を示すことが重要である。これらの色に関しては、二つの原色間の差を測定した。ゼロに近い値は均一な色を表し、一方、ゼロより大きいか又は小さい値はバランスの悪さを表し、結果的に不均一な画像品質となる。
【0055】
図1は、本発明の二つの耐光性添加剤(両方ともトリ置換トリアジン)の何れかを使った結果としての光学濃度(OD)損失の減少を図示している。LF1と表示された耐光性添加剤は、3モルの4−アミノ−5−ヒドロキシ−2,7−ナフタレンジスルホン酸(モノナトリウム塩)と1モルの塩化シアヌルの反応生成物であり、LF2と表示された耐光性添加剤は、3モルの3−アミノ−2−ヒドロキシ−ベンゼンスルホン酸(酸形)と1モルの塩化シアヌルとの反応生成物である。染料はアシッドレッド52であり、当初のODは0.5及び1.0であった。
【0056】
印刷に用いた媒体は低コストの光沢印刷媒体であり、これはヒューレット・パッカード社製の(1)プロフェッショナル・ブローシャ/フライヤ紙(両面光沢)(型番C−6817A)又は(2)写真品質インクジェット紙(両面半光沢)(型番C−6983A)として入手できる。
【0057】
図1から分かるように、LF1及びLF2は両方とも、退色試験機で光に曝露された結果としての、光学濃度損失の量を減少させた。
【0058】
図2は、異なる媒体上でLF1及びLF2を使った結果としての、光学濃度損失の減少を図示する。インクの具体的な組成は、それが印刷される媒体とは余り関係がないが、耐光性添加剤を含有するインクは、そのような添加剤を含んでいないインクよりも、光学濃度の損失がかなり小さいことが分かる。
【0059】
図1及び図2に示された以上の結果に基づけば、LF1がLF2より優れているように見受けられることは明らかである。しかしながら両方とも、染料だけの場合よりも著しく優れている。
例2〜7 マゼンタ377染料とアシッドレッド52染料の混合物についての耐光性の改善
二つのマゼンタ染料、M377及びアシッドレッド52を含有するインクについて、本発明の耐光性添加剤を含む場合と含まない場合の光安定性を以下に示す。この染料の組合せによって、ヒューレット・パッカード社製の重量級コート紙(型番6022B−36インチロール)のような印刷媒体上での湿気退色挙動が著しく改善され、且つ光沢印刷媒体のような他の印刷媒体上での退色性が改善される。しかしながら、アシッドレッド52は退色し易い染料であり、ある種の光沢印刷媒体のような別の印刷媒体上での退色挙動に影響を及ぼす。
【0060】
ヒューレット・パッカード社製のデスクジェット895Cプリンタに、以下に示す基本処方を有するマゼンタインクを充填したC1823Dカートリッジを装着して、上記したヒューレット・パッカード社製の重量級コート紙、光沢印刷媒体、及び幾つかのボンド紙上に英数字を印刷した。本発明の耐光性添加剤を含む場合と含まない場合について、幾つかの異なるインク処方を調製した。
【0061】
基本的なインク処方(着色剤なし)を以下の表1に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
注 EDTAはエチレンジアミン四酢酸、
DDI水は、蒸留した脱イオン水、
ビヒクルについてKOHによりpHを7.2−7.3に調整、
最終インクについてKOH又はHNO3によりpHを7.5−7.6に調整、
Proxel GXLは、アベシア社の殺生物剤、
MOPSは4−モルホリンプロパンスルホン酸、
EHPDは、エチルヒドロキシプロパンジオールである。
【0064】
表1に示した基本的インク処方に対し、着色剤、具体的にはマゼンタ377染料とアシッドレッド52染料の混合物を添加した。比較のため、一つの例ではアシッドレッド52をアシッドレッド289で置換した。また本発明の耐光性添加剤を含む場合と含まない場合について幾つかの組成物を調製し、幾つかの耐光性添加剤を使用した。その耐光性添加剤を以下でI、II、III、及びIVとして示す。
1.添加剤Iを下式に示す。
【0065】
【化12】
【0066】
2.添加剤IIを下式に示す。
【0067】
【化13】
【0068】
3.添加剤IIIを下式に示す。
【0069】
【化14】
【0070】
4.添加剤IVを下式に示す。
【0071】
【化15】
【0072】
着色剤と本発明の耐光性添加剤を含む組成を以下の表2に示す。なおM377はマゼンタ377染料、AR52はアシッドレッド52染料、AR289はアシッドレッド289染料を示す。
【0073】
【表2】
【0074】
これらのインクを二つの異なる光沢印刷媒体上に印刷した。これらの媒体は何れも同じ実験用組成を有しているが、「塩」として示したそのうちの一方は、媒体上に耐光性の塩を含み、これは2000年10月19日付の米国特許出願第09/693676号の主題となっている。印刷物は例1に記述した退色診断方法で調べた。具体的には、印刷媒体(印刷物)を73キロラクス、23℃、相対湿度48%の条件下に72時間曝露した。
【0075】
当初のOD値であるOD=0.3、OD=0.5、及びOD=1.0からの%OD損失を以下の表3に示す。
【0076】
【表3】
【0077】
注 コントロール1は表1のコントロール1と類似しているが、(1)界面活性剤としてはFluorad FS−62無しでTergitol 15−S−5を含み、そして(2)共溶媒としては1,2−プロパンジオールとEHPD無しで1,2−ヘキサンジオールを含む組成を有するインクであり、染料はM377であった。コントロール2は表1の組成を有するインクであり、染料は、M377とAR52の混合物であった。M377*は、M377のみを含む(AR52が存在しない)コントロールを示す。
【0078】
以下の結果が観察された。
(1)M377/AR52を含有するコントロールは、M377だけを含むコントロールより耐光性が低い。
(2)添加剤IVは、両方の高光沢印刷媒体上のコントロールマゼンタの退色を50%改善する。
(3)添加剤IIIは、両方の高光沢印刷媒体上のコントロールマゼンタの退色を40%改善する。
【0079】
以下に本発明の好適な実施態様を示す。
1 含有しない場合に比してインクジェットインクをより耐光性にするためのインクジェットインク用耐光性添加剤であって、三つの部分
A−X−B (I)
からなり、式中、
部分Aは、置換基を有する又は有しない、酸形又は塩形のアリールスルホン酸又はアリールカルボン酸、
部分−X−は、−NR−又は−O−であり、及び
部分Bは、置換基を有する又は有しない、トリアジン、ベンゾトリアゾール、テトラゾール、又はベンゾイミダゾールである耐光性添加剤。
2 部分Aは、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンモノスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸塩、及びヒドロキシベンゼンスルホン酸塩から成る群より選択される、上記1の耐光性添加剤。
3 前記塩は、カリウム、リチウム、及びナトリウムから成る群より選択される対イオンを含む、上記1の耐光性添加剤。
4 前記A部分及びB部分に対する置換基は、ハロゲン、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、エステル(−O−)、エーテル(−OR)、アルコール(−OH)、及びアミド(−NR2、ここでRはH又はアルキル若しくはアリール又は置換アルキル若しくは置換アリール)から成る群より個々に選択される、上記1の耐光性添加剤。
5 前記X部分におけるRは、H、アルキル、置換アルキル、アリール、及び置換アリールからなる群より選択される、上記1の耐光性添加剤。
6 前記X部分が少なくとも二つ存在し、二つ目のX部分が付加的なA部分を前記B部分に連結し、又は付加的なB部分を前記A部分に連結する、上記1の耐光性添加剤。
7 前記耐光性添加剤が、次式
【0080】
【化16】
【0081】
から成る群より選択される、上記1の耐光性添加剤。
8 ビヒクルと、少なくとも一つの着色剤とを含み、さらに上記1の耐光性添加剤を少なくとも一つ含有するインクジェットインク。
9 前記インクは前記耐光性添加剤を約0.1から40重量%含有する、上記8のインクジェットインク。
10 前記着色剤は染料又は顔料である、上記8のインクジェットインク。
11 前記ビヒクルは、少なくとも一つの水混和性有機共溶媒と、殺生物剤、pH調節剤及び緩衝剤、金属イオン封鎖剤、及び粘度調節剤から成る群より選択される少なくとも一つの添加剤とを含む上記8のインクジェットインク。
12 ビヒクルと少なくとも1つの着色剤とを含むインクジェットインクの耐光性を改善する方法であって、上記1の少なくとも一つの耐光性添加剤を前記インクに添加することからなる方法。
【0082】
【発明の効果】
本発明の耐光性添加剤は、インクジェットインクにおいて有用性を見出すものと期待される。本発明によれば、耐光性添加剤は多くの色料(水溶性及び水不溶性の両方の)について優れた耐光性を示し、従って染料(水溶性又は水不溶性)及び顔料(水不溶性)の両方について有効に働く。
【図面の簡単な説明】
【図1】当初の光学濃度(OD)とこれに対する%OD損失を表す座標上で示した、光沢のある媒体上における、本発明の異なる耐光性添加剤を含む二つの場合のそれぞれと、耐光性添加剤を含まない場合についての、マゼンタ染料(Acid Red 52)の光退色を示す棒グラフである。
【図2】%OD損失と図1におけるものと同じ三つのインク組成を表す座標上で示した、光退色に及ぼす各種印刷媒体の影響を示す棒グラフである。
Claims (11)
- 含有しない場合に比してインクジェットインクをより耐光性にするためのインクジェットインク用耐光性添加剤であって、三つの部分
A−X−B (I)
からなり、式中、
部分Aは、置換基を有する又は有しない、酸形又は塩形のアリールスルホン酸又はアリールカルボン酸であり、
部分−X−は、−NR−又は−O−であり、ここでRは、H、アルキル、置換アルキル、アリール、及び置換アリールからなる群より選択され、
部分Bは、置換基を有する又は有しない、トリアジン、ベンゾトリアゾール、テトラゾール、又はベンゾイミダゾールである
耐光性添加剤。 - 前記部分Aが、ベンゼンスルホン酸、ナフタレンモノスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、安息香酸、ベンゼンスルホン酸塩、及びヒドロキシベンゼンスルホン酸塩から成る群より選択される請求項1に記載の耐光性添加剤。
- 前記塩が、カリウム、リチウム、及びナトリウムから成る群より選択される対イオンを含む請求項1に記載の耐光性添加剤。
- 前記A部分及び前記B部分に対する置換基が、ハロゲン、アルキル、アリール、置換アルキル、置換アリール、エステル(−O−)、エーテル(−OR)、アルコール(−OH)、及びアミド(−NR2、ここでRはH又はアルキル若しくはアリール又は置換アルキル若しくは置換アリール)から成る群より個々に選択される請求項1に記載の耐光性添加剤。
- 前記X部分が少なくとも二つ存在し、二つ目のX部分が付加的なA部分を前記B部分に連結し、又は付加的なB部分を前記A部分に連結する請求項1に記載の耐光性添加剤。
- ビヒクルと、少なくとも一つの着色剤とを含み、さらに請求項1に記載の耐光性添加剤を少なくとも一つ含有するインクジェットインク。
- 前記インクが前記耐光性添加剤を約0.1〜40重量%含有する請求項7に記載のインクジェットインク。
- 前記着色剤が染料又は顔料である請求項7に記載のインクジェットインク。
- 前記ビヒクルが、少なくとも一つの水混和性有機共溶媒と、殺生物剤、pH調節剤及び緩衝剤、金属イオン封鎖剤、及び粘度調節剤から成る群より選択される少なくとも一つの添加剤とを含む請求項7に記載のインクジェットインク。
- ビヒクルと少なくとも1つの着色剤とを含むインクジェットインクの耐光性を改善する方法であって、請求項1に記載の少なくとも一つの耐光性添加剤を前記インクに添加することからなる方法。
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