JP3920955B2 - スパッタ装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本願の発明は、基板の表面に磁性薄膜を作成するスパッタ装置に関し、特に、磁気ヘッド等の製作に必要な磁気異方性を有する薄膜を作成するスパッタ装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
基板の表面への磁性薄膜の作成には、従来よりスパッタ装置が多く用いられている。このうち、磁気記録媒体の信号読み出し用等に使用される磁気ヘッド用の磁性薄膜の作成においては、磁気異方性を有する薄膜を作成することが必要である。
図4は、このような磁気異方性を有する薄膜を作成することが可能な従来のスパッタ装置の構成を示した正面断面概略図であり、図5は、図4の装置のB−Bでの断面を上から見た平面断面概略図である。
【0003】
図4に示すスパッタ装置は、排気系11を備えた真空容器1と、真空容器1内の所定の位置に設けられた試料台2と、試料台2に対向した真空容器1内の位置に配設された複数のカソード3と、試料台2に保持された基板20の表面に所定の磁場を設定する磁石41,42と、試料台2とカソード3との間に配設されて使用するカソード3を選択するシャッター板5とから主に構成されている。
【0004】
試料台2は円盤状の部材であり、その下面に基板20を保持するようになっている。基板20の保持は、基板20の周縁を機械的に保持する機構によって行われる。
この試料台2の上面中央には、上方に向けての延びる回転軸21が固定されている。回転軸21は、不図示の回転機構が連結されており、試料台2は回転軸21を介して中心軸Aの周りに自転するようになっている。
尚、基板20は、試料台2の中心軸Aから偏心した位置に配置される。従って、試料台2が自転した際、基板20は試料台2の中心軸Aの周りに公転することになる。
【0005】
また、カソード3は、図4及び図5から分かるように、試料台2の中心軸Aと同心円周上に等間隔をおいて複数配置されている。そして、試料台2が自転して所定位置に停止した際、基板20と特定のカソード3は同軸上に対向した状態となるようになっている。各々のカソード3は、所定の材料よりなるターゲット31と、ターゲット31の下側に配設された磁石機構32とから構成され、不図示のカソード電源によって所定の電圧が印加されるようになっている。尚、各カソード3のターゲット31は、異なる磁性材料で形成される場合が多い。これは、基板20の表面に異種の薄膜を積層する必要があるためにである。
【0006】
磁石41,42は、図2から分かるように、二本の棒状の永久磁石である。二本の磁石41,42は、基板20の直径よりも若干大きな離間間隔で平行に配置されており、図4中矢印400で示す向きの磁場を印加するようになっている。尚、二本の磁石41,42は、試料台2の下面に固定されており、従って、試料台2の回転とともに回転するようになっている。
【0007】
カソード3と試料台2との間に配置されたシャッター板5は、試料台2と同軸上に配置された円板状の部材である。シャッター板5は、中心軸Aからのカソード3の半径距離と同じ距離の位置に開口51を有している。開口51の大きさは、カソード3よりも僅かに大きい程度である。
シャッター板5の下面中央には回転軸52が固定されて下方に延びており、連結された不図示の回転機構によってシャッター板5は中心軸Aの周りに自転するようになっている。そして、上記基板20と特定のカソード3が対向した状態で、その基板20とカソード3の間に開口51が位置するようにシャッター板5を回転停止させることで、特定のカソード3を選択してスパッタリングに使用することができる。
【0008】
また、図4及び図5に示す装置は、真空容器1内に所定のガスを導入する不図示のガス導入系を備えている。このガス導入系は、アルゴン等の不活性ガスを導入し、カソード3が与える電界によってスパッタ放電を生じさせるよう構成されている。
【0009】
図4及び図5に示すスパッタ装置では、不図示のゲートバルブを通して基板20を真空容器1内に搬入し、試料台2上の所定位置に保持させた後、排気系11を動作させて所定圧力まで真空容器1内を排気する。並行して、試料台2及びシャッター板5を回転させ、所定のカソード3が基板20に対向し、その間にシャッター板5の開口が位置する状態とする。
【0010】
この状態で、ガス導入系を動作させて所定のガスを所定の流量で導入し、基板20に対向したカソード3を動作させる。即ち、当該カソード3のカソード電源を動作させてスパッタ放電を生じさせ、ターゲット31をスパッタする。スパッタされたターゲット31の材料は、シャッター板5の開口51を通って基板20の表面に達し、当該表面に所定の薄膜が作成される。
【0011】
次に、試料台2及びシャッター板5を回転させ、基板20が別のカソード3に対向し、その間にシャッター板5の開口51が位置した状態となるようにする。この状態で、所定のガスを所定量導入しながら、当該別のカソード3を動作させる。これによって、当該別のカソード3を構成するターゲット31の材料の薄膜が積層される。
このようにして、使用するカソード3を順次選択しながら所定の薄膜を積層する。そして、複数のカソード3のうちの一部又は全部は磁性材料よりなるターゲット31を備えており、磁性薄膜を含む所定の薄膜が積層されるようになっている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
上記のようなスパッタリングによる磁性薄膜の積層技術の重要な適用分野の一つに、磁気記録媒体の信号読み出し用等に使用される磁気ヘッドの製作が挙げられる。最近では、外部磁界によりその電気抵抗が変化する異方性磁気抵抗効果(AMR,anisotropic magnetoresistance effect) を使用した磁気ヘッドが多く生産されている。
【0013】
このうち、巨大磁気抵抗ヘッド(GMR)等のある種の磁気ヘッドの製作においては、異なる向きに一軸異方性を持つ強磁性薄膜を積層した構造をとる。このような磁気ヘッドの製作においては、基板に対して異なる向きに磁場を印加しながらスパッタ成膜することが必要になるが、述した従来のスパッタ装置では、スパッタ成膜される基板に対しては一つの向きの磁場を印加できるのみであり、基板20に対して異なる向きに磁場を印加する機能はなかった。従って、このような異なる向きに一軸異方性を有する磁性薄膜を積層する必要のある磁気デバイスについては、従来のスパッタ装置で成膜工程を行うことはできなかった。
【0014】
基板に対して異なる向きに磁場を印加するには、(1)磁石を基板の中心軸の周りに回転させる、(2)磁石に電磁石を採用し、磁場の向きを電気的に変化させる、(3)磁石は固定された状態とし、自転機構による回転又はアームによる再配置などの方法により成膜のたびに基板の向きを変える、等の構成が考えられる。
【0015】
しかしながら、(1)や(3)の構成では、基板を公転させる試料台の回転機構に付加するようにして基板中心軸周りの回転機構が必要になるため、機械的に非常に複雑になる欠点がある。また、(2)の構成では、真空容器1内に複雑な配線を設ける必要が生じ、放電からの配線の保護等のやっかいな問題が発生する。さらに、電磁石は永久磁石に比べて大きくなり易いので、試料台周辺の構成が大がかりになり易いという欠点もある。
【0016】
本願の発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、基板に対して異なる方向に磁場を印加することが可能な簡易な構成のスパッタ装置を提供することを目的とする。
【0017】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本願の請求項1記載の発明は、排気系を備えた真空容器と、真空容器内の所定の位置に設けられるとともに中心軸の周りに回転可能に設けられた試料台と、試料台に対向した真空容器内の位置であって試料台の中心軸と同心円周上に所定間隔をおいて配置された複数のカソードと、試料台に保持された基板の表面に異なる向きの磁場を設定することが可能な複数組の磁石と、試料台を回転させる試料台回転機構とを備え、成膜する基板を試料台の中心軸から偏心した所定位置に配置するとともに使用するカソードに対向した位置に基板が配置されるよう試料台を回転停止させて成膜を行うスパッタ装置であって、
前記複数組の磁石の各組は、試料台とカソードとの間の位置に試料台と同軸上に配設された磁石保持体によって一体に保持されるとともに中心軸と同心円周上に所定間隔をおいて配置されており、この磁石保持体は、カソードからのスパッタ粒子の通過を許容する形状を有し、さらに、磁石保持体を前記試料台の中心軸の周りに回転させて使用する磁石の組を基板の表面近傍の位置に配置する磁石回転機構が設けられており、
試料台と磁石保持体とは分離して設けられていて、それぞれの回転機構により別々に回転するものとなっているという構成を有する。
また、上記課題を解決するため、請求項2記載の発明は、上記請求項1の構成において、前記磁石保持体に保持された磁石の組が、基板に接近した第一の位置と、基板から離間した第二の位置とを取り得るよう磁石保持体を移動させる移動機構が設けられているとともに、前記試料台に保持された基板をクリーニングするための放電を生じさせる放電手段が設けられているという構成を有する。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。
図1は、本願発明の実施形態に係るスパッタ装置の構成を示した正面断面概略図であり、図2は、図1の装置のB−Bでの断面を上から見た平面断面概略図である。尚、図1の(a)(b)は、異なる動作状態を示している。
【0019】
図1に示すスパッタ装置は、排気系11を備えた真空容器1と、真空容器1内の所定の位置に設けられるとともに中心軸Aの周りに回転可能に設けられた試料台2と、試料台2に対向した真空容器1内の位置であって試料台2の中心軸Aと同心円周上に所定間隔をおいて配置された複数のカソード3と、試料台2に保持された基板20の表面に異なる向きの磁場を設定することが可能な複数の磁石41,42,43,44とを備えている。
【0020】
真空容器1は、不図示のゲートバルブを備えた気密な容器である。排気系11は、例えば拡散ポンプやクライオポンプ等を備えて、真空容器1内を10-5パスカル程度の圧力まで排気可能に構成される。
試料台2は、図4に示す装置と同様、円盤状の形状であり、回転軸21が上面に固定され、不図示の回転機構によって中心軸Aの周りに回転するようになっている。試料台2は、基板20の周縁を機械的に保持する不図示のチャック機構を有し、その下面に基板20を保持するよう構成されている。基板20は、従来と同様に試料台2の中心軸Aから偏心した位置に配置され、試料台2が自転した際に、試料台2の中心軸Aの周りに公転するようになっている。
【0021】
カソード3についても、従来と同様に、試料台2の中心軸Aと同心円周上に等間隔をおいて複数配置されている。そして、試料台2が回転して所定位置に停止した際、基板20と特定のカソード3は同軸上に対向した状態となるようになっている。
各々のカソード3は、所定の材料よりなるターゲット31と、ターゲット31の下側に配設された磁石機構32とから構成され、不図示のカソード電源によって所定の電圧が印加されるようになっている。尚、各カソード3のターゲット31は、異なる磁性材料で形成されており、基板20の表面に異種の薄膜を積層することが可能になっている。また、磁石機構32は、マグネトロンスパッタリングのための磁場をターゲット31の表面上に形成するものである。
【0022】
複数の磁石41,42,43,44についての構成は、本実施形態の装置の大きな特徴点を成している。複数の磁石41,42,43,44は、図1及び図2に示すように、棒状の二組の永久磁石からなるものである。一つの組を構成する磁石41,42,43,44の上面には、相異なる磁極が現れるようになっており、基板20の表面に沿うようにして一方向性の磁場が設定されるよう構成されている。
【0023】
そして、二組の磁石41,42,43,44は、基板20の表面に異なる向きの磁場を設定することが可能になっている。具体的には、各組を構成する棒状の磁石41,42,43,44は、互いに平行な方向に長いものである。そして、第一の組を構成する磁石41,42と第二の組を構成する磁石43,44とは、90度異なる方向に長い形状となっている。この結果、各組の磁石41,42,43,44によって90度異なる向き(図2中、矢印400,401で示す)の一方向性磁場が設定されるようになっているのである。
【0024】
これらの複数の磁場41,42,43,44は、図1及び図2に示すように、試料台2とカソード3との間の位置に試料台2と同軸上に配設された磁石保持体40の上面に固定されており、磁石保持体40によって一体に保持されている。各組の磁石41,42,43,44は、その中心点が中心軸Aの同心円周上になるように所定間隔をおいて配置されている。
【0025】
磁石保持体40は、円盤状の部材であり、その下面中央には回転軸45が設けられている。回転軸45には、不図示の回転機構が付設されており、磁石保持体40は、中心軸Aの周りに回転可能になっている。回転機構は、回転軸45に連結されたギヤ又はベルト等の運動伝達系とモータ等の回転駆動源とから構成される。
【0026】
また、磁石保持体40は、基板20と特定のカソード3が対向した際に基板20とそのカソード3との間に位置する開口46を有している。開口46は、カソード3よりも若干大きく、カソード3から飛来するスパッタ粒子を充分通過させて基板20に到達させるようになっている。
【0027】
さらに、磁石保持体40には、磁石保持体40を中心軸Aの方向に直線移動させる不図示の移動機構が付設されている。この移動機構は、磁石保持体40の回転軸45に連結されたものであり、回転軸45を介して磁石保持体40を移動させ、磁石保持体40上の磁石が、基板20に接近した第一の位置と、基板20から離間した第二の位置とを取り得るよう構成されている。
【0028】
移動機構は、磁石保持体40の回転軸45に連結された直線運動機構であり、回転軸45又は回転軸45に固定されたアームを上下動させるエアシリンダ等の直線駆動源と、この直線駆動源をガイドするリニアガイド等から構成される。この移動機構は、前述した回転機構に回転軸45との連結を着脱することが可能な部材を設け、回転軸45を回転機構から切り離した状態で回転軸45を上下動させるよう構成してもよい。
【0029】
また、上記磁石保持体40の下側には、シャッター板5が配設されている。シャッター板5は、図4及び図5に示す従来のものとほぼ同様の構成である。即ち、シャッター板5は、試料台2と同軸上に配置された円板状の部材であり、中心軸Aからのカソード3の半径距離と同じ距離の位置に開口51を有している。開口51の大きさは、カソード3よりも僅かに大きい。尚、図2中、シャッター板5の図示は省略されている。
【0030】
そして、シャッター板5の下面中央には回転軸52が固定されて下方に延びており、連結された不図示の回転機構によってシャッター板5が中心軸Aの周りに回転し、上記開口51を基板20とカソード3の間に位置させることが可能となっている。このシャッター板5により、使用されていないカソード3から不必要にスパッタ材料が基板20に飛来するのが防止される。
【0031】
尚、本実施形態の装置では、シャッター板5の回転軸52は円筒状の形状になっており、内部に磁石保持体40の回転軸45が挿通されている。また、シャッター板5の回転軸52と真空容器1の器壁の間、及び、シャッター板5の回転軸52の内面と磁石保持体40の回転軸45の間には、不図示の真空シールが設けられて気密封止している。真空シールは、磁性流体等を用いたメカニカルシールであり、回転軸52,45の回転を許容しつつ気密封止を確保している。また、前述した試料台2の回転軸と真空容器1の器壁との間に不図示の同様な真空シールが設けられている。
【0032】
また、図1及び図2に示す装置は、従来の装置と同様、真空容器1内に所定のガスを導入する不図示のガス導入系を備えている。ガス導入系は、アルゴン等の不活性ガスを導入し、カソードが与える電界によってスパッタ放電を生じるようになっている。
【0033】
さらに、本実施形態の装置では、試料台2に保持された基板20をクリーニングするための放電を生じさせる放電手段6が設けられている。放電手段6は、試料台2に所定の電圧を印加する試料台電源61を含む電力供給系である。試料台電源61は、例えば所定の周波数の高周波を試料台2に印加するように構成される。
不図示のガス導入系によって所定のガスを真空容器1内に導入させた状態で放電手段6を動作させると、基板20が高周波スパッタされる。この高周波スパッタによって、基板20の表面の汚れ等が除去されるようになっている。
【0034】
次に、図3を併用しながら、上記構成に係る本実施形態のスパッタ装置の動作について説明する。図3は、図1及び図2に示すスパッタ装置の動作を説明する斜視概略図である。
【0035】
まず、不図示のゲートバルブを通して基板20を真空容器1内に搬入し、試料台2上の所定位置に保持させた後、排気系11を動作させて所定圧力まで真空容器1内を排気する。並行して、試料台2及びシャッター板5を回転停止させ、所定のカソード3が基板20に対向し、その間にシャッター板5の開口51が位置する状態とする。また、図3(a)に示すように、磁石保持体40に設けられた不図示の回転機構及び移動機構を動作させて第一の組の磁石41,42が基板20の近傍に位置するようにする。
【0036】
この状態で、不図示のガス導入系を動作させて所定のガスを所定の流量で導入し、基板20に対向したカソード3を動作させる。即ち、当該カソード3のカソード電源を動作させてスパッタ放電を生じさせ、ターゲット31をスパッタする。スパッタされたターゲット31の磁性材料は、シャッター板5の開口51を通って基板20の表面に達し、当該表面に第一の磁性薄膜が作成される。この際、基板20の近傍に位置する第一の組の磁石41,42によって基板20の表面に所定の一方向性磁場が印加されているため、作成される第一の磁性薄膜は、この磁場の向き(矢印400)に沿った一軸異方性を有するものになる。
【0037】
そして、試料台2及びシャッター板5を回転させ、基板20が別のカソード3に対向し、その間にシャッター板5の開口が位置した状態になるようにする。また、図3(b)に示すように、磁石保持体40の回転機構を動作させて第二の組の磁石43,44が基板20の近傍に位置するようにする。
この状態で所定のガスを所定量導入しながら、当該別のカソード3を動作させる。これによって、当該別のカソード3を構成するターゲット31の材料よりなる第二の磁性薄膜が積層される。この際、第二の組の磁石43,44は、第一の磁石41,42とは90度異なる向きの磁場を印加するようになっているため、作成される第二の磁性薄膜は、前記第一の磁性薄膜に比べて90度異なる向き(矢印401)の一軸異方性を有することになる。
【0038】
このようにして、使用するカソード3を順次選択しながら所定の薄膜を積層する。尚、複数のカソード3のうち、特定のカソード3のターゲット31には非磁性材料を使用することもある。例えば、ある種の磁気ヘッドの製作においては、Ta(タンタル)シート層を磁性薄膜に積層して形成することがあるが、このような場合には、Ta製のターゲット3が使用される。
【0039】
上述のような成膜に際して、基板20の表面クリーニングを行うことがある。この表面クリーニングは、基板20の表面に付着した油脂等の汚れや表面保護膜等をスパッタエッチングによって除去するものである。
上記クリーニングは、以下の手順で行われる。即ち、試料台2に基板20を保持させた後、磁石保持体40に設けられた移動機構を動作させ、図1(a)に示すように、磁石41,42,43,44を基板20から離間した第二の位置に配置させる。この状態で、ガス導入系によって所定のガスを所定量導入しながら、放電手段6を動作させる。この結果、高周波スパッタによって基板20の表面がスパッタエッチングされ、表面の汚れ等が除去される。
【0040】
この際、磁石41,42,43,44が基板20から離間した第二の位置に位置するので、基板20の表面には本質的に磁場は印加されない。このため、高周波放電によって生ずるプラズマの状態は磁場の影響を受けずに安定して均一なものとなり、安定した均一なクリーニングが行われる。基板20の近傍に磁石41,42,43,44を位置させたままでクリーニングを行うと、プラズマが磁石41,42,43,44の影響を受けて不安定になったり不均一になったりして、クリーニングが充分行えない問題があるが、本実施形態の装置によれば、このような問題がない。
【0041】
このようにしてクリーニングが終了し、その後、前述した磁性薄膜の成膜を行う場合、磁石保持体40の移動機構を動作させ、図1(b)に示すように、磁石を基板20の近傍の位置に配置する。そして、同様に、クリーニング後の基板20について成膜を行う。この際、基板20の表面が清浄になっているので、薄膜の付着性等の点で問題になることがない。
【0042】
上述した構成及び動作に係る本実施形態のスパッタ装置では、異なる向きの磁場を印加する複数の磁石41,42,43,44が磁石保持体40に一体に保持されており、その磁石保持体40を中心軸Aの周りに回転させる機構によって特定の組の磁石41,42,43,44を選択しているので、基板20に対する異なる向きの磁場の印加が簡易な構成によって行えるという長所がある。
【0043】
以上説明した本実施形態のスパッタ装置の構成において、二組の磁石41,42,43,44は90度異なる向きの磁場を基板20に印加するものであったが、180度等の他の角度異なる向きの磁場を基板20に印加するものであってもよい。また、磁石の組数は、三組以上であってもよい。さらに、各組を構成する磁石が一つの磁石で兼用される場合もあり、従って、磁石の数が二の倍数になるとは限らない。
【0044】
【発明の効果】
以上説明した通り、請求項1の発明によれば、基板に対して異なる方向に磁場を印加することが可能な簡易な構成のスパッタ装置が提供できる。
また、請求項2の発明によれば、上記請求項1の発明の効果に加え、基板の表面のクリーニングを安定して均一に行えるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本願の発明の実施形態に係るスパッタ装置の構成を示した正面断面概略図である。
【図2】図1の装置のB−Bでの断面を上から見た平面断面概略図である。
【図3】図1及び図2に示すスパッタ装置の動作を説明する斜視概略図である。
【図4】磁気異方性を有する薄膜を作成することが可能な従来のスパッタ装置の構成を示した正面断面概略図である。
【図5】図4の装置のB−Bでの断面を上から見た平面断面概略図である。
【符号の説明】
1 真空容器
11 排気系
2 試料台
20 基板
3 カソード
31 ターゲット
40 磁石保持体
41 磁石
42 磁石
43 磁石
44 磁石
5 シャッター板
6 放電手段

Claims (2)

  1. 排気系を備えた真空容器と、真空容器内の所定の位置に設けられるとともに中心軸の周りに回転可能に設けられた試料台と、試料台に対向した真空容器内の位置であって試料台の中心軸と同心円周上に所定間隔をおいて配置された複数のカソードと、試料台に保持された基板の表面に異なる向きの磁場を設定することが可能な複数組の磁石と、試料台を回転させる試料台回転機構とを備え、成膜する基板を試料台の中心軸から偏心した所定位置に配置するとともに使用するカソードに対向した位置に基板が配置されるよう試料台を回転停止させて成膜を行うスパッタ装置であって、
    前記複数組の磁石の各組は、試料台とカソードとの間の位置に試料台と同軸上に配設された磁石保持体によって一体に保持されるとともに中心軸と同心円周上に所定間隔をおいて配置されており、この磁石保持体は、カソードからのスパッタ粒子の通過を許容する形状を有し、さらに、磁石保持体を前記試料台の中心軸の周りに回転させて使用する磁石の組を基板の表面近傍の位置に配置する磁石回転機構が設けられており、
    試料台と磁石保持体とは分離して設けられていて、それぞれの回転機構により別々に回転するものとなっていることを特徴とするスパッタ装置。
  2. 前記磁石保持体に保持された磁石の組が、基板に接近した第一の位置と、基板から離間した第二の位置とを取り得るよう磁石保持体を移動させる移動機構が設けられているとともに、前記試料台に保持された基板をクリーニングするための放電を生じさせる放電手段が設けられていることを特徴とする請求項1記載のスパッタ装置。
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