JP3911740B2 - タンタルアルコキシドの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、半導体等の生産に際して、金属酸化物薄膜を気相成長法により基盤上に形成する方法等において、その原料として用いられるタンタルアルコキシドの製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
タンタルアルコキシドの製造法としては、タンタルハロゲン化物とアルコールとを不活性有機溶媒の存在下で反応させ、さらにハロゲンの引き抜きを完成させるため、反応の途中において、アンモニアまたはアミン類を添加する方法が知られている(特開昭63−227593、特開平3−291247)。
これらの方法では、アンモニアまたはアミン類は、反応系中に生成するハロゲン化水素と反応してアンモニウム塩またはアミンの塩となるが、この塩は不活性有機溶媒には不溶で、反応系中に析出する。この塩は、反応終了後、ろ過または遠心分離等の方法により、反応混合物から分離される。
【0003】
従来の方法の問題点として、撹拌の問題がある。この反応では、系内には最初タンタルハロゲン化物のスラリーが存在するが、アルコール、アンモニアまたはアミン類を加えていくと、アンモニウム塩またはアミンの塩のスラリーへと変化していく。反応の進み具合によってスラリーの状態は複雑に変化するので、反応の様子に合わせて撹拌を調整しなければならず、非常に困難である。
【0004】
また従来の方法の問題点として、アンモニウム塩またはアミンの塩が大量に生成することがある。例えば五塩化タンタル(TaCl5 、分子量358.2 )1kg (2.79mol )とエタノール(C2H5OH、分子量46.1)0.643kg (14.0mol )を反応させ、副生する塩化水素の引き抜きにアンモニア(NH3 分子量17.0)0.237kg (14.0mol )を使うと、理論的にはペンタエトキシタンタル(Ta(OC2H5)5、分子量406.3 )1.13kg(2.79mol )の他に、塩化アンモニウム(NH4Cl 、分子量53.5)が0.747kg (14.0mol )生成する。
このように塩が大量に生成するため、反応時に撹拌をスムーズに行なうためには、大型の撹拌機が必要になり、エネルギーを大量に消費することになる。塩を大量の溶媒で希釈することにより撹拌を容易にすることもできるが、溶媒の原単位が高くなり、装置も大きくしなければならなくなる。
【0005】
またこのアンモニウム塩またはアミンの塩は、反応後ろ過または遠心分離により分離、除去するが、塩が多量に存在すると、塩に付着残留するタンタルアルコキシドが多くなり、目的物のロスが多くなる。塩を溶媒で洗うことにより目的物のロスを減らすことはできるが、溶媒が大量に必要となり、溶媒の原単位が高くなる。
また、このアンモニウム塩またはアミンの塩は産業廃棄物として処理するか、または水に溶かした後、適当な処理をして放流することになるが、塩が多いとその分だけかかる費用が多くなる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記問題を解決するもので、タンタルハロゲン化物とアルコールとの反応により生成するハロゲン化水素が、アンモニアまたはアミン類と反応して生成するアンモニウム塩、またはアミンの塩の量を減少させることにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
かかる問題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、不活性ガスのバブリングまたは減圧により、ハロゲン化水素を十分に除去した後に、アンモニアまたはアミン類を加えることを見出し、本発明に至った。
すなわち本発明は、タンタルハロゲン化物とアルコールとの反応において生成するハロゲン化水素を、不活性ガスのバブリング、または減圧により除去した後に、アンモニアまたはアミン類を加えることを特徴とする、下記式(1) のタンタル化合物の製造方法である。
Ta(OR)5 (1)
(式中、Rは炭素数1〜7のアルキル基を示す)
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、反応の詳細を説明する。
この反応は、目的物であるタンタルアルコキシドや、原料のタンタルハロゲン化物に不活性で、しかもアンモニウム塩やアミンの塩を溶解しない溶媒、例えば芳香族炭化水素、飽和脂肪族炭化水素、エーテル類、エステル類等の有機溶媒の存在下で行なうのが、反応を円滑に進めるうえで好ましい。さらに、溶媒中の水分はあらかじめ除去しておくことが、タンタルハロゲン化物やタンタルアルコキシドの加水分解を防止するうえで好ましい。
【0009】
反応に用いるアルコールは、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノールなどの炭素数1〜7の脂肪族飽和アルコールの内から、目的物に応じて選ぶことが好ましい。またアルコール中の水分はあらかじめ除去しておくことが、タンタルハロゲン化物やタンタルアルコキシドの加水分解を防止するうえで優れている。
【0010】
反応に用いるアミン類は、脂肪族第一アミンではメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、アミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミンが、脂肪族第二アミンではジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミンが、脂肪族第三アミンではトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミンが、芳香族アミンではアニリン、メチルアニリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、o−トルイジン、m−トルイジン、ジベンジルアミンが、それ以外のアミンではピリジンが、本反応を円滑に進めるうえで好ましい。またアミン中の水分はあらかじめ除去しておくことが、タンタルハロゲン化物やタンタルアルコキシドの加水分解を防止するうえで好ましい。
反応温度は60℃以下にすることが、反応を円滑に進めるうえで好ましい。
【0011】
無水のタンタルハロゲン化物は、下記式(2) に示す様にハロゲン基と等モルのアルコールと反応してタンタルアルコキシドを生成するが、同時にハロゲン基と等モルのハロゲン化水素を生成する。
TaX5 + 5ROH → Ta(OR)5 + 5HX (2)
(式中、Xはハロゲン基、Rは炭素数1〜7のアルキル基を示す)
よってアンモニアまたはアミン類の添加により生成するアンモニウム塩またはアミンの塩は、タンタルハロゲン化物の5 倍モル当量である。
【0012】
しかしアンモニアまたはアミン類を添加する前にハロゲン化水素を除去すれば、アンモニウム塩またはアミンの塩の生成量は、ハロゲン化水素を除去しない場合に比べて大きく減少することになる。よってこれにより、塩が大量に存在することで生じる従来の方法の問題点を解決することができる。
ハロゲン化水素の除去の方法としては、不活性ガスのバブリングがあげられる。不活性ガスとしては、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドンといった希ガスの他に、窒素などがあげられる。また不活性ガスのバブリングは、タンタルハロゲン化物とアルコールとの反応を実施しながら行なってもよいし、タンタルハロゲン化物とアルコールとの反応を実施した後に行なってもよい。なお不活性ガスは、あらかじめ水分を除去しておくことが、タンタルアルコキシドの加水分解を防止する上で好ましい。
【0013】
またハロゲン化水素の除去の方法としては、タンタルハロゲン化物とアルコールとの反応を減圧下で実施することもあげられる。この場合圧力は、アルコールを蒸発させない様な圧力にすることが、アルコールを余分に使わない点で重要である。
【0014】
またハロゲン化水素の除去の方法としては、タンタルハロゲン化物とアルコールとの反応を常圧で実施した後に、減圧にすることもあげられる。この場合、圧力が低ければ低いほど、ハロゲン化水素の除去が容易になるのでよい。しかし圧力を下げすぎて溶媒が蒸発してしまうと、アンモニウム塩またはアミンの塩が生成したときの撹拌が難しくなるので、溶媒を蒸発させないような圧力にすることが重要である。
【0015】
減圧を解除する方法としては、アンモニアまたは気体のアミン類を系内に導入すること、アンモニアまたは気体のアミン類と不活性ガスの混合ガスを系内に導入すること、不活性ガスのみを系内に導入することが可能である。いずれの方法でも、タンタルアルコキシドの加水分解を防止するために、アンモニアまたは気体のアミン類は高純度のものを、液体のアミン類や不活性ガスは水分を除去したものを用いるのが好ましい。
【0016】
【実施例】
以下、実施例によって本発明をさらに詳しく説明するが、本発明は係る実施例により限定されるものではない。
実施例1
タンタルペンタクロライド250g(0.70mol) にトルエン500gを加え、45〜55℃に保ちながらエタノール460g(10mol) を加える。エタノール添加後、液温を保ちながら、窒素ガスを120ml/min で30分間、バブリングする。エタノール添加により系内は塩化水素が充満するが、バブリング終了後、塩化水素は見られなくなる。次に液温を保ちながら、アンモニアを60g(3.5mol) 添加する。アンモニア添加により塩化アンモニウムの固体が生成するが、撹拌の操作性は最初と変わらない。アンモニア添加後、室塩に冷却し、塩化アンモニウムをろ過する。ろ過性は非常によい。その後溶媒とエタノールを減圧で留去後、蒸留を行なうと、ペンタエトキシタンタルが227g(0.56mol) 得られ、タンタル当たりでの収率は80% であった。なお、ろ過残渣をトルエン50g で洗浄、乾燥したところ、残渣の重量は27g となった。
【0017】
実施例2
タンタルペンタクロライド250g(0.70mol) にトルエン500gを加え、45〜55℃に保ちながら、エタノール460g(10mol) を加える。エタノール添加後室温に冷却し、さらに200Torr まで減圧し10分間保持する。エタノール添加により系内は塩化水素が充満するが、200Torr で10分間保持すると、塩化水素は見られなくなる。窒素ガスを導入して常圧まで戻した後に、加熱して液温を45〜55℃にする。次にアンモニアを60g(3.5mol) 添加する。アンモニア添加により塩化アンモニウムの固体が生成するが、撹拌の操作性は最初と変わらない。アンモニア添加後室塩に冷却し、塩化アンモニウムをろ過する。ろ過性は非常によい。その後溶媒とエタノールを減圧で留去後、蒸留を行なうと、ペンタエトキシタンタルが212g(0.52mol) 得られ、タンタル当たりでの収率は75% であった。なお、ろ過残渣をトルエン50g で洗浄、乾燥したところ、残渣の重量は40g となった。
【0018】
実施例3
タンタルペンタクロライド250g(0.70mol) にトルエン500gを加え、45〜55℃に保ちながらエチルアルコール460g(10mol) を加える。エチルアルコール添加後、液温を保ちながら、窒素ガスを120ml/min で30分間バブリングする。エチルアルコール添加により系内は塩化水素が充満するが、バブリング終了後、塩化水素は見られなくなる。次に液温を保ちながらジエチルアミンを69g(0.95mol)添加する。ジエチルアミン添加によりジエチルアミン塩酸塩の固体が生成するが、撹拌の操作性は最初と変わらない。ジエチルアミン添加後、室温に冷却し、ジエチルアミン塩酸塩をろ過する。ろ過性は非常によい。その後溶媒とエチルアルコール、ジエチルアミンを減圧で留去後、蒸留を行なうと、ペンタエトキシタンタルが196g(0.48mol) 得られ、タンタル当たりでの収率は69% であった。なお、ろ過残渣をトルエン50g で洗浄、乾燥したところ、残渣の重量は49g となった。
【0019】
実施例4
タンタルペンタクロライド250g(0.70mol) にトルエン500gを加え、45〜55℃に保ちながらエタノール170g(3.7mol)を加える。エタノール添加後、液温を保ちながら、窒素ガスを120ml/min で30分間バブリングする。エタノール添加により系内は塩化水素が充満するが、バブリング終了後、塩化水素は見られなくなる。次に液温を保ちながらピリジンを75g(0.95mol)添加する。ピリジン添加によりピリジン塩酸塩の固体が生成するが、撹拌の操作性は最初と変わらない。ピリジン添加後、室温に冷却し、ピリジン塩酸塩をろ過する。ろ過性は非常によい。その後溶媒とエタノール、ピリジンを減圧で留去後、蒸留を行なうと、ペンタエトキシタンタルが190g(0.47mol) 得られ、タンタル当たりでの収率は67% であった。なお、ろ過残渣をトルエン50g で洗浄、乾燥したところ、残渣の重量は55g となった。
【0020】
比較例1
タンタルペンタクロライド250g(0.70mol) にトルエン500g中を加え、45〜55℃に保ちながら、エタノール460g(10mol) を加える。エタノール添加により、系内には塩化水素が充満する。エタノール添加後、液温を保ちながら、アンモニアを60g(3.5mol) 添加する。アンモニア添加により塩化アンモニウムの固体が生成し、撹拌の操作性は最初よりも多少悪くなる。アンモニア添加後、室温に冷却し、塩化アンモニウムをろ過する。固体の量が多いためろ過には時間がかかり、ろ過の間にろ液には加水分解生成物である酸化タンタルの膜が生じる。その後溶媒とエタノールを減圧で留去後、蒸留を行なうと、ペンタエトキシタンタルが142g(0.35mol) 得られ、タンタル当たりでの収率は50% であった。なお、ろ過残渣をトルエン50g で洗浄、乾燥したところ、残渣の重量は140gとなった。
【0021】
【発明の効果】
本発明の方法により、ハロゲン化水素とアンモニア、またはアミン類の反応により生成する塩の量を減らすことができ、反応の際の撹拌操作の容易化、塩を除去する際に塩に付着残留する目的物の減量化、さらには産業廃棄物の減量化を図ることができ、極めて有効である。
Claims (8)
- タンタルハロゲン化物とアルコールとを不活性有機溶媒中で反応させ、生成するハロゲン化水素を除去した後に、アンモニアまたはアミン類を添加することを特徴とする下記式(1)のタンタルアルコキシドの製造方法。
Ta(OR)5 (1)
(式中、Rは炭素数1〜7のアルキル基を示す) - タンタルハロゲン化物とアルコールとの反応を不活性ガスをバブリングしながら実施するか、またはタンタルハロゲン化物とアルコールとの反応を実施した後に不活性ガスをバブリングすることによってハロゲン化水素を除去することを特徴とする請求項1記載のタンタルアルコキシドの製造方法。
- タンタルハロゲン化物とアルコールとの反応を減圧下で実施するか、またはタンタルハロゲン化物とアルコールとの反応を常圧で実施し、その後減圧にすることによってハロゲン化水素を除去することを特徴とする請求項1記載のタンタルアルコキシドの製造方法。
- アルコールが炭素数1〜7の脂肪族飽和アルコールである請求項1〜3のいずれかに記載のタンタルアルコキシドの製造方法。
- アルコールが、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールおよびヘプタノールから選ばれる請求項1〜4のいずれかに記載のタンタルアルコキシドの製造方法。
- 不活性有機溶媒が、芳香族炭化水素、飽和脂肪族炭化水素、エーテル類またはエステル類である請求項1〜5のいずれかに記載のタンタルアルコキシドの製造方法。
- アミン類が、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、アミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、アニリン、メチルアニリン、ジメチルアニリン、ジエチルアニリン、o−トルイジン、m−トルイジン、ジベンジルアミンまたはピリジンである請求項1〜6のいずれかに記載のタンタルアルコキシドの製造方法。
- タンタルハロゲン化物とアルコールとを不活性有機溶媒中で反応させる温度を60℃以下にする請求項1〜7のいずれかに記載のタンタルアルコキシドの製造方法。
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