JP3911249B2 - 雪上保冷による農産物の保存方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、雪上保冷による農産物の保存方法に関し、詳しくは特定の容器に収容し、上面全体を被覆した農産物を室内に集積した雪上に載置して、低温多湿条件で貯蔵することからなる農産物の保存方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
積雪寒冷地域では、冬期間に雪の中に野菜を埋めたり(雪中貯蔵)、積雪土の中あるいは雪や氷を貯えた洞や施設内(雪室、氷室)に野菜、果実等の食品を収容して保存する方法(特許文献1)が行われている。
しかし、これまでの方法は、温度や湿度などの管理が十分に行えないため、野菜類などが適切な条件で保存されず、品質の劣化が生じたり、あるいはこのような事態を回避するためには、高価な設備と多大の電力消費を必要とし、経済的に保存することができない等の問題を抱えていた。さらに、冷風を送入して低温貯蔵する方式では、農産物にカビ等の微生物が付着、増殖して品質を劣化させることが経験されている。
【0003】
【特許文献1】
特開平8−159632号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、貯雪槽に通年利用できる程度に集積した雪を利用して、農産物を効果的に保存する方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、断熱性の高い材料を使用した室内の下方に水切り用空隙を有する板状物を設置し、当該板状物の上に集積した雪上に、農作物を収容した上面が開放され側面と底面に空隙を設けた容器を載置、その上面全体を保冷用シートで被覆することによって、貯蔵のための電力を消費しないで、しかも農産物の呼吸熱による温度上昇を抑えて保存できると共に、農産物からの水分の蒸散も抑えることができることを見出した。さらに、この保存方法によれば、多くの農産物の場合、その風味を左右する成分、特に糖分などが増えると言う効果が奏されることがわかった。本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものである。
【0006】
請求項1記載の本発明は、農作物を保存するにあたり、断熱性の高い材料を使用した室内の下方に水切り用空隙を有する板状物を設置し、当該板状物の上に集積した雪上に、農作物を収容した上面が開放され側面と底面に空隙を設けた容器を載置し、その上面全体を保冷用シートで被覆して自然対流により貯蔵することを特徴とする農作物の保存方法である。
請求項2記載の本発明は、雪上の温度が0〜1℃、湿度が95%以上の低温多湿条件で貯蔵する請求項1記載の農産物の保存方法である。
請求項3記載の本発明は、15〜60トンの雪を集積する請求項1または2に記載の農作物の保存方法である。
請求項4記載の本発明は、農作物がホウレンソウ、ニンジン、リンゴまたはミカンである請求項1〜3のいずれかに記載の農作物の保存方法である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明が適用される農産物は特に限定されないが、野菜類、果実類などが好適なものである。具体的には、ホウレンソウ、ニンジン、ピーマンなどの野菜類;リンゴ、ミカンなどの果実類を挙げることができる。
【0008】
本発明では、農産物の貯蔵を、上記したように、雪を集積した室内で行う。雪を貯える施設は、地上設置型、地下埋設型等いずれの形式でもよいが、外装は断熱性の高い材料を使用すべきである。雪を集積する施設の室内の広さは、目的に応じて適宜決定すればよいが、広すぎると、莫大な量の雪を必要とするばかりでなく、貯蔵するための重要な条件である室内および雪上の温度や湿度の調節を均一、かつ厳格に設定することが困難になる。したがって、通常は15〜60トン程度、好ましくは20〜40トン程度の雪を集積して、当該雪上に農産物を載置できるスペースを有する室が適当である。例えば、縦4m、横4m、高さ3mの規模の貯雪槽を貯蔵室とすると、室内に約20トンの雪を貯えることができる。これは、家庭用などの比較的小規模の利用に適している。
本発明者らの実験によると、当該貯雪槽に2月末ないし3月中旬に約20トンの雪を集積して農産物の貯蔵を開始した場合、12月中旬ないし1月初旬まで雪は残り、農産物の保存を続けることができる。そのため、この状態で新雪に引き継いで保存することが可能であり、農産物の貯蔵庫として通年使用することができる。
【0009】
貯雪槽のような貯蔵室に雪を集積するにあたり、雪とその融解水が接触しないように、「すのこ」のような水切り用空隙を有する板状物(遮断板)を室内の下方に設置して、その上に雪を集積する。
適切な量の雪を積み重ねた後、雪上に農産物を載置して必要な期間中貯蔵する。その場合、上面が開放され、側面と底面に空隙を設けた容器に、農産物を収容し、当該容器を雪上に置くことにより、自然対流方式で冷蔵することができる。容器の形状、大きさ、空隙の寸法などについては、使用目的を考慮して適宜決めれば良く、対象の農産物が脱落せず、かつ通気が十分に行われる等の条件を満足するものであればよい。なお、発泡スチロール製の箱などのように側面と底面に空隙がない容器を使用すると、当該容器の大きさ、農産物の収納量などにより変化するが、容器内の温度が数度ほど上昇することがあるため、農産物の保存期間が短縮したり、品質の劣化をきたすことがある。
なお、農産物を容器に収容する場合、効率的な冷蔵を行うため、農産物が重ならないようにし、かつ過度に密充填しないように配慮すべきである。また、保存性を向上させるため、農産物を通気性のある袋などに包んでから容器に収容することが望ましい。しかし、通気性のないもので農産物を包むと、水分の減少を防ぎ相対重量の変化がほとんど認められないという効果は得られるが、保存中に腐敗と軟化が生じることがあるので好ましくない。さらに、農産物を収容した容器の上面全体を保冷用シートで被覆して農産物が露出しないようにする。
【0010】
本発明の方法によれば、農産物は実質的に雪上に直接置かれた状態で、自然対流方式で貯蔵される。このとき、農産物の周囲の温度は0〜1℃、湿度は95%以上であり、農産物はこの条件で貯蔵される。この条件は、雪量の多寡による影響をほとんど受けない。
このようにして貯蔵を続けると、時間の経過とともに一部の雪が融け出し、融解水は前記の板状物の空隙を経て下方の排出路に至り室外に排出される。なお、過剰の融解水は、ポンプなどを用いて室外に排出することができる。
融解水は、夏期などの気温が上昇する時期に、冷房用として利用できる。すなわち、貯蔵室近傍の室内の温度上昇を抑えるため、常法にしたがい、この融解水を利用して冷房し、当該室内を所定の温度(25℃程度)に保持することができる。一部の雪が融解した場合も、農産物が置かれた貯蔵室内の雪上温度は0〜1℃程度であり、変化は認められない。
【0011】
農産物の鮮度は、雪上での貯蔵期間、農産物の種類などにより影響されるが、例えばホウレンソウ等の比較的傷み易いものでも、水分の揮散等による重量の減少は僅かであり、24〜30日程度貯蔵後も食用可能な程度の鮮度が保たれる。一方、リンゴの場合は、露出状態での保存で180日程度、袋で包んだ場合は、約4年半経過しても、水分量の減少量は僅かであり、十分に食用可能な鮮度が保持される。
なお、本発明者らが、十分に食用可能な鮮度が保持された状態での農産物の保存期間について検討したところ、所定の保存日数における農産物の重量変化(相対重量)の実測値を、横軸に保存日数、縦軸に相対重量をとってプロットし、これから近似曲線を描き、当該曲線を計算する方程式並びにR−2乗値(R2)を求め、この方程式から予測できることが分かった。例えば、リンゴ(品種:フジ)を袋に包んで、本発明にしたがい雪上に貯蔵した場合、下記の式(xは保存日数、yは農産物の相対重量を表す)
【0012】
【数1】
y=−0.0059x+100.0(R2=0.9650)
が得られ、4年半後の相対重量が90.0%であることから、十分に食用可能な鮮度が保持されることが予測できる。
また、リンゴ(品種:フジ)を露出状態で雪上に貯蔵した場合は、次の方程式が適用され、約180日間まで保存可能である。
【0013】
【数2】
y=−0.0003x2 −0.0026x+99.949(R2=0.9500)
【0014】
ニンジンを露出状態で雪上に貯蔵した場合の方程式は、次の通りである。
【数3】
y=0.0007x2 −0.2164x+100.19(R2=0.9655)
また、袋に包んで雪上に貯蔵した場合の方程式は、次の通りである。ニンジンの場合は、長期間保存すると、根毛や葉が出てくることがある。
【0015】
【数4】
y=−0.0057x+99.714(R2=0.8672)
【0016】
ホウレンソウを露出状態で雪上に貯蔵した場合の方程式は、次の通りである。
【数5】
y=−0.8464x+100.95(R2=0.9954)
温州ミカンを露出状態で雪上に貯蔵した場合の方程式は、次の通りである。
【0017】
【数6】
y=−0.0171x+99.947(R2=0.9917)
また、袋に包んで雪上に貯蔵した場合の方程式は、次の通りである。
【0018】
【数7】
y=−0.0044x+100.0(R2=0.9807)
【0019】
さらに、本発明の方法によれば、農産物の保存中に、電気冷蔵庫で保存した場合と異なり、一般的に農産物の糖度やグルコース含量等の栄養成分が著増する現象が認められるほか、食味(糖度)を増進し、農産物の種類によっては、ビタミン類(ビタミンC、β−カロテン)等の健康増進作用のある微量成分が増す場合があることが確認されている。
【0020】
【実施例】
次に、本発明を実施例により詳しく説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、以下の実施例では、縦4m、横4m、高さ3mの規模の貯雪槽の室内に、約20トンの雪を集積して、貯蔵庫とした。農産物は、数個体を1組として実験を行い、平均値を求めた。表中で「包装」と表示したものは、通気性の袋(ポリエチレンフィルム)に包んでから、上面が開放され、側面と底面に空隙を設けた容器(商品名:EASY CASE)に収容して雪上に直接置くと共に、容器の上面全体を保冷用シートで覆って貯蔵した。このとき、保冷用シートで被った雪上の温度は0〜1℃に保たれていた。一方、保冷用シートの外側温度は、約5〜7℃に上昇したところもあった。
なお、6月から9月の期間で気温が高くなったときは、一部の雪解けで生じた融解水を利用して、貯蔵室とは別の室内を冷房することができる。すなわち、ファンコイルユニット(三菱電機製、三菱LV-FE‐C1-150、水量3.7リットル/分、風量5.0m3/分、熱交換器内容積450cm3)を用いて室内の温度を約25℃に冷房することができる。
【0021】
実施例1
青森県産のホウレンソウ3束を1組として貯蔵庫内の雪上に静置し、自然対流方式で保存した。一方、対照として、同時に購入したホウレンソウを電気冷蔵庫(機種:ゴールドスター・フレッシュマスター)にて並行保存した。
【0022】
雪冷蔵あるいは電気冷蔵庫中で保存したホウレンソウの鮮度および腐敗の有無は目視で判定した。また、鮮度を比較するする目的で、ホウレンソウの重量を定期的に測定し、ホウレンソウ中の水分変化を相対量として求めた。さらに、糖度、グルコース含量、ビタミンC含量、β−カロテン含量およびpHを測定するために、ホウレンソウ試料をジューサー(テスコム製、ミキサーMP9)で粉砕、遠心分離を行って固形物を取り除いた。得られた遠心上清を用いて、糖度は屈折計(アタゴ製、手持ち屈折計 N1)を利用して測定した。グルコース含量、ビタミンC含量およびpHについては、リフレクトクァント試験紙発色法(メルク製、RQ flex)により比色定量した。
【0023】
また、β−カロテン類は、上記の遠心上清にピロガロールを添加後、エタノール性水酸化カリウムを加えて、75℃で25分間加熱し、20℃に冷却した後、蒸留水、次いで石油ベンゼンを加えて振盪、遠心分離後、上清の波長450nmにおける吸光度より比色定量した。
これらの測定結果を第1〜5表に示す。なお、食品成分のうち糖度は%で、グルコースとビタミンCはppmで、β−カロテンは100g当たりの含量で表してある。ホウレンソウのpH変化については、保存開始時のpHは6.3で、雪冷蔵のものは以後42日目まで6.2〜6.5の範囲にあったが、電気冷蔵庫に保存したものは、7日目に6.2であり、以後は乾燥が著しく、抽出液が得られなくなったので測定を中止した。
【0024】
【表1】
第1表 ホウレンソウの相対重量(%)
【0025】
表から明らかなように、雪冷蔵したホウレンソウは、28日(4週)経過しても、ほぼ80%の相対重量を保持しているのに対して、電気冷蔵庫で保存した場合は、僅か7日(1週)で相対重量は50%以下になり、長期保存ができないことが分かる。
【0026】
【表2】
第2表 ホウレンソウの糖度(%)
【0027】
上記の表から明らかなように、電気冷蔵庫で保存した場合、ホウレンソウは僅か7日(1週)で糖度が約80%も失われるが、雪冷蔵の場合は、42日(6週)後でも約83%の糖度が保持されている。
【0028】
【表3】
第3表 ホウレンソウのグルコース含量(ppm)
【0029】
第3表に示したように、本発明による雪冷蔵では、保存中にグルコース含量が顕著に増加し、14日(2週)までは約8倍に増えている。これに対して、電気冷蔵庫で貯蔵した場合は、グルコース含量の増加は極めて少量である。その上、第1表から分かるように、僅か7日(1週)の保存でホウレンソウの相対重量は50%以下になり、貯蔵を続けることができない。
【0030】
【表4】
第4表 ホウレンソウのビタミンC含量(ppm)
【0031】
上記の表から、雪冷蔵を行うと、ホウレンソウのビタミンC含量は、ほとんど減らないし、保存中に増える現象も認められることが分かる。一方、電気冷蔵庫で保存すると、僅か7日(1週)でホウレンソウ中のビタミンC含量は大幅に減少してしまう。
【0032】
【表5】
第5表 ホウレンソウのβ−カロテン含量(μg/100g)
【0033】
表から分かるように、雪冷蔵の場合は、28日(4週)までは、β−カロテン含量の減少はほとんど認められないのに対して、電気冷蔵庫で保存すると、僅か7日(1週)でホウレンソウ中のβ−カロテンは大部分が失われてしまう。
【0034】
実施例2
千葉県産および青森県産のニンジン(雪冷蔵に3本1組、冷蔵庫に2本1組)を用いたこと以外は、実施例1と同様に実施した。なお、雪冷蔵のニンジンについては、通気性のある袋で包んだものについても実験した。結果を第6〜11表に示す。表中の千は千葉県産、青は青森県産を表す。
【0035】
【表6】
第6表 ニンジンの相対重量(%)
【0036】
表から明らかなように、ニンジンを露出状態で保存した場合、雪冷蔵の方が有意に保存性に優れている。なお、ニンジンを袋で包んだ場合は、いずれの貯蔵方法でも、高い相対重量値を示し、長期保存が可能である。しかし、電気冷蔵庫に保存すると、約3ヶ月で根毛や葉が出始める。
【0037】
【表7】
第7表 ニンジンの糖度(%)
【0038】
雪冷蔵の場合は、92日(約13週)の保存後もニンジンの糖度は減少していないが、冷蔵庫に保存した場合は糖度の減少が認められた。
【0039】
【表8】
第8表 ニンジンのグルコース含量(ppm)
【0040】
第8表に示したように、ニンジンのグルコース含量についても、雪冷蔵の場合は、92日(約13週)の保存後も減少しておらず、むしろ増加している。しかし、冷蔵庫に保存した場合は、グルコース含量の約76%が失われた。
【0041】
【表9】
第9表 ニンジンのビタミンC含量(ppm)
【0042】
保存中におけるニンジンのビタミンC含量に関しては、雪冷蔵の場合と電気冷蔵の場合との間に実質的な相違は認められなかった。
【0043】
【表10】
第10表 ニンジンのβ−カロテン含量(μg/100g)
【0044】
ニンジンのβ−カロテン含量についても、雪冷蔵の場合の方が減少の割合が少なく、特にニンジンを袋に包み込んだ場合は、ほとんど減っていないことが分かる。一方、電気冷蔵に保存した場合は、92日(約13週)後には、約58%のβ−カロテンしか残っていなかった。
【0045】
【表11】
第11表 ニンジンのpH変化
【0046】
第11表の結果から明らかなように、保存中のニンジンのpH変化は、保存方法による影響は認められなかった。
【0047】
実施例3
青森県産のリンゴ(品種:ふじ)2個を1組として用いたこと以外は、実施例1と同様に実施した。この例では、露出したリンゴを容器に収納したもの、および通気性の袋に包んだリンゴを容器に収納したものについて、試験を行った。結果を第12〜17表に示す。
【0048】
【表12】
第12表(その1) リンゴの相対重量(%)
【0049】
【表13】
第12表(その2) リンゴの相対重量(%)
【0050】
第12表から明らかなように、雪冷蔵の場合は、水分の揮散がほとんどなく、63日後も相対重量は99%以上であり、特に袋で包装した場合は、99.7%という高い値を示した。
これに対して、電気冷蔵庫でリンゴを露出のまま保存した場合は、30日後に相対重量は約4%減少し、63日後には約7%の減少が認められた。しかし、袋で包装した場合は、63日後も98.4%という比較的高い値を示した。
【0051】
【表14】
第13表 リンゴの糖度(%)
【0052】
リンゴの糖度については、リンゴを露出させたまま保存した場合と袋に包んで保存した場合との間に有意差は認められなかった。
【0053】
【表15】
第14表 リンゴのグルコース含量(ppm)
【0054】
表から明らかなように、露出状態で保存および袋包装して保存のいずれの場合も、リンゴ中のグルコース含量は貯蔵中に増加し、63日(9週)後には平均で約2倍に増加していた。
【0055】
【表16】
第15表 リンゴのビタミンC含量(ppm)
【0056】
第15表から、リンゴのビタミンC含量は、若干の差はあるが、袋包装した場合と露出状態で保存した場合との間に有意差は認められなかった。
【0057】
【表17】
第16表 リンゴのβ−カロテン含量(μg/100g)
【0058】
リンゴのβ−カロテン含量に関しては、表から明らかなように、露出状態で保存および袋包装して保存の間に有意差は認められなかった。
【0059】
【表18】
第17表 リンゴのpH
【0060】
第17表の結果から明らかなように、保存中のリンゴのpH変化は、露出状態で保存および袋包装して保存の間に有意差は認められなかった。
【0061】
実施例4
実施例3と同様に、青森県産のリンゴ(品種:ふじ)2個を1組として用い、露出したまま雪冷蔵または電気冷蔵庫による保存試験を行った。結果を第18〜22表に示す。
【0062】
【表19】
第18表 リンゴの相対重量(%)
【0063】
表から明らかなように、雪冷蔵したリンゴの相対重量は、116日(約17週)経過しても、95%以上の値を保持しているのに対して、電気冷蔵庫で保存した場合は、60日(約9週)を過ぎると、相対重量は90%以下になり、長期保存の点で明確な相違があることが分かる。
【0064】
【表20】
第19表 リンゴのグルコース含量(ppm)
【0065】
表より、保存方法(温度)にあまり影響されることなく、低温で保存すれば、グルコース含量が上昇することが分かる。
【0066】
【表21】
第20表 リンゴのβ−カロテン含量(μg/100g)
【0067】
β−カロテン含量についても、前記のグルコース含量の場合と同様に、保存方法(温度)による差はあまり認められなかった。
【0068】
実施例5
広島県産温州ミカン10個を1組(雪冷蔵の場合)または5個を1組(電気冷蔵庫の場合)として用い、露出したまま、あるいは通気性の袋に入れて雪冷蔵または電気冷蔵庫による保存試験を行った。結果を第21〜27表に示す。
【0069】
【表22】
第21表 温州ミカンの相対重量
【0070】
表に示したように、雪冷蔵の場合は、温州ミカンの相対重量は51日(約7週)経過後でも約99%であり、110日(約16週)経過後も98%以上で、実質的に水分の減少は認められないが、電気冷蔵庫で保存した場合は、51日(約7週)経過後で約13%も水分が減少し、雪冷蔵に比べて保存性に劣っていることが分かる。なお、電気冷蔵庫で保存した場合、87日(約12週)以前にカビが生えたため、以後の測定を中止した。
【0071】
通気性の袋に入れた広島県産温州ミン10個を1組として、上記と同じ試験を行った。結果を第22表に示す。
表から明らかなように、この場合は、露出保存の場合よりも高い相対重量値を示した。
【表23】
第22表 温州ミカンの相対重量
【0072】
【表24】
第23表 温州ミカンの糖度
【0073】
【表25】
第24表 温州ミカンのグルコース含量(ppm)
【0074】
【表26】
第25表 温州ミカンのビタミンC含量(ppm)
【0075】
【表27】
第26表 温州ミカンのβ−カロテン含量(μg/100g)
【0076】
【表28】
第27表 温州ミカンのpH変化
【0077】
第21〜27表の結果から、温州ミカンについては、雪冷蔵することによって、かなり長期間の保存が可能であり、その間に糖度やビタミンC含量の減少がほとんど認められないこと、β−カロテン含量は大幅に増加すること等が明らかとなった。
【0078】
実施例5
ピーマンの保存性を調べたところ、16日後の相対重量は露出状態で雪冷蔵した場合が85%であり、通気性の袋で包んで保存した場合は99.7%であり、いずれも食用可能であった。
【0079】
【発明の効果】
本発明により、積雪寒冷地域の特性を活用して、農産物、特に野菜類や果実類などを雪上保冷によって、効果的に保存する方法が提供される。
この方法は、未利用資源を利用して農産物を安価、かつ安定的に保存する方法であり、実用性に優れている。
Claims (4)
- 農作物を保存するにあたり、断熱性の高い材料を使用した室内の下方に水切り用空隙を有する板状物を設置し、当該板状物の上に集積した雪上に、農作物を収容した上面が開放され側面と底面に空隙を設けた容器を載置し、その上面全体を保冷用シートで被覆して自然対流により貯蔵することを特徴とする農作物の保存方法。
- 雪上の温度が0〜1℃、湿度が95%以上の低温多湿条件で貯蔵する請求項1記載の農産物の保存方法。
- 15〜60トンの雪を集積する請求項1または2に記載の農作物の保存方法。
- 農作物がホウレンソウ、ニンジン、リンゴまたはミカンである請求項1〜3のいずれかに記載の農作物の保存方法。
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