JP3910026B2 - 新規燃料電池用高分子電解質膜 - Google Patents

新規燃料電池用高分子電解質膜 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は,スルホン酸基を有する新規なスルホン化芳香族ポリイミドからなる燃料電池用高分子電解質膜に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、環境問題への対応として,燃料電池への期待が大きく高まり,特にプロトン伝導性の高分子電解質膜を用いた高分子電解質型燃料電池は、低温で作動することが可能であり、また,小型軽量化の可能性があることから期待されている。
高分子電解質型燃料電池用の高分子電解質膜としては、例えばナフィオン(Nafion、デュポン社の登録商標。以下同様)に代表される超強酸基含有フッ素系高分子が知られている。しかし、超強酸基含有フッ素系高分子はフッ素系のポリマーであるため非常に高価であり、また、合成時および廃棄時に環境への配慮が必要となる欠点を有している。
【0003】
超強酸基含有フッ素系高分子が高価である問題に対し、より安価な炭化水素系高分子電解質膜としてスルホン酸基を有するスルホン化芳香族ポリイミドを用いた燃料電池用高分子電解質膜が、特表2000−510511号公報、Y. Zhang他,Polym. Prep. (ACS), 40, 480 (1999)などにすでに開示されている。しかし、これらで電解質膜に用いられているスルホン化芳香族ポリイミドは、具体的には、下式の構造のスルホン化ジアミンから合成されるものであった。
【0004】
【化4】
Figure 0003910026
【0005】
しかし、これらのジアミンから合成されるスルホン化芳香族ポリイミドは、電子吸引性のスルホン酸基のため、イミド結合が加水分解しやすく、プロトン型のフィルムの耐水性は非常に劣る。このため、非スルホン化ジアミン成分を多量に含む共重合体化することにより、加水分解しやすいイミド結合の含量を減らすと共に吸水性を低下させて、耐水性をある程度保持する必要があった。しかし、このような共重合ポリイミドフィルムは、スルホン酸基含量の低下のため、プロトン伝導性などのスルホン化ポリイミドの特性を著しく低下させ、しかも薄膜での長期耐水性の改善が難しいなど、燃料電池用高分子電解質膜として問題であった。このような問題が改良された耐加水分解性に優れたスルホン化芳香族ポリイミドが求められていた。また、これまでにこのような問題に対して、原料となるスルホン化ジアミンの構造の影響についての記載は見い出していない。
【0006】
フルオレン環を有するスルホン化ポリイミドが、特開平5−192552号公報に気体分離膜として開示されている。しかし、フルオレン環にスルホン酸基が導入された具体的な化合物の開示はなく、さらに、上記の問題点に関する記述や、燃料電池用高分子電解質膜としての用途についてはなんら記載されていない。
【0007】
スルホン酸基を有するスルホン化芳香族ポリイミドは、特開平10−168188号公報、特開平8−333451号公報、特開平8−333452号公報、特開平8−333453号公報、特開昭63−283704号公報、特開昭63−283707号公報などに開示されており、また、特開平6−87957号公報には、スルホン酸基を有し、また、主鎖中にアミド結合を有するコポリイミドが開示されている。しかし、これらにおいても、上記の問題点に関する記述や、燃料電池用高分子電解質膜としての用途についてはなんら記載されていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記のような問題点のない、すなわち、高いプロトン伝導性と高温での長期の吸水耐久性を有する薄膜が作成可能な、耐加水分解性に優れた新規なポリイミドを用いた燃料電池用高分子電解質膜を提供することである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討を重ねた結果、下記化学式(4)で示される構造からなる芳香族ジアミンを原料として合成されるスルホン化芳香族ポリイミド、あるいは、下記化学式(5)の構造で示されるスルホン化芳香族ジアミンを原料として合成されるスルホン化芳香族ポリイミドが、高温での吸水時の耐久性に優れていることを見い出し本発明に到達した。
【0010】
【化5】
Figure 0003910026
【0011】
【化6】
Figure 0003910026
【0012】
すなわち本発明は、下記化学式(1)で示される構造単位を有するスルホン化芳香族ポリイミドからなることを特徴とする燃料電池用高分子電解質膜、および下記化学式(2)で示される構造単位を有するスルホン化芳香族ポリイミドからなることを特徴とする燃料電池用高分子電解質膜を提供するものである。
【0013】
【化7】
Figure 0003910026
【0014】
【化8】
Figure 0003910026
【0015】
また、本発明は、下記化学式(1’)で示される構造単位と下記化学式(3)で示される構造単位とからなり、スルホン酸あるいはその誘導体が1g当り0.5ミリ当量以上であるスルホン化芳香族ポリイミドからなることを特徴とする燃料電池用高分子電解質膜を提供するものである。
【化3】
Figure 0003910026
【化4】
Figure 0003910026
【発明の実施の形態】
以下、本発明の燃料電池用高分子電解質膜について詳述する。
【0016】
本発明で用いられる前述の化学式(4)および(5)で示される構造からなる芳香族ジアミンは、その構造に応じて合成方法を適用できる。
化学式(4)で示される構造からなる芳香族ジアミンは、原料ジアミンを硫酸塩としたのち、細田、「理論製造 染料化学」、技報社発行、東京、1957年などに記載の方法でスルホン化することによって合成することができる。この時、用いられる原料ジアミンは、芳香環がO 、CH2 、C(CH3)2 、C(CF3)2 、S を挟んで結合しているものであり、具体的には、3,4’−オキシジアニリン、4,4’−オキシジアニリン、3,3’−ジアミノジフェニルメタン、3,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’−ジエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、3,3’,5,5’−テトラエチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)ヘキサフルオロプロパン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィドなどを挙げることができる。
【0017】
前述の化学式(5)中のAr5 が下記化学式(51)の構造、すなわち、アミノ基に結合していない芳香環が電子吸引基と結合していないスルホン酸基含有芳香族ジアミンの場合、および前述の化学式(5)中のAr5 が下記化学式(52)の構造であるスルホン酸基含有芳香族ジアミンの場合、例えば、▲1▼原料ジアミンを濃硫酸または発煙硫酸中で、細田、「理論製造 染料化学」、技報社発行、東京、1957年などに記載の方法でスルホン化する方法、▲2▼二価フェノールを濃硫酸または発煙硫酸中で、細田、「理論製造 染料化学」、技報社発行、東京、1957年などに記載の方法でスルホン化後、特開平9−241225号公報などに記載の方法でニトロ基を有する芳香族ハライドと反応させてジニトロ化合物を合成し、その後、該ジニトロ化合物のニトロ基を還元することによってジアミン化合物とする方法、などによって合成することができる。
【0018】
【化9】
Figure 0003910026
【0019】
前述の▲1▼の方法において原料として用いられるジアミンとしては、アミノ基の結合していない芳香環が電子吸引基と結合していないものであり、例えば、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、α,α’−ビス(4−アミノフェニル)−1,4−ジイソプロピルベンゼン、1,5−ビス(4−アミノフェノキシ)ナフタレンなどを挙げることができる。
【0020】
前述の▲2▼の方法において原料として用いることのできる二価フェノールとしては、芳香環が電子吸引基と結合していないものであり、例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4' −ビフェノール、2,2' −ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(2−ヒドロキシフェニル)エーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3,5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(3−ヒドロキシフェノキシ)ベンゼン、ビス(2−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)メタン、1,5−ジヒドロキシナフタレンなどを挙げることができる。また、ニトロ基を有する芳香族ハライドとしては、2−クロロニトロベンゼン、3−クロロニトロベンゼン、4−クロロニトロベンゼン、2−フルオロニトロベンゼン、3−フルオロニトロベンゼン、4−フルオロニトロベンゼン、5−フロロ−2−ニトロトルエンなどを挙げることができる。
【0021】
前述の化学式(5)中のAr5 が下記化学式(53)の構造、すなわち、アミノ基の結合していない芳香環が電子吸引基と結合している芳香族ジアミンの場合、例えば、▲3▼二価フェノールを発煙硫酸中で、細田、 「理論製造 染料化学」、技報社発行、東京、1957年などに記載の方法でスルホン化後、特開平9−241225号公報などに記載の方法でニトロ基を有する芳香族ハライドと反応させてジニトロ化合物を合成し、その後、該ジニトロ化合物のニトロ基を還元することによってジアミン化合物とする方法などによって合成することができる。
【0022】
【化10】
Figure 0003910026
【0023】
前述の▲3▼の方法において原料として用いることのできる二価フェノールとしては、芳香環が電子吸引基と結合しているものであり、例えば、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトンなどを挙げることができ、ニトロ基を有する芳香族ハライドとしては、前述と同様のものを挙げることができる。
【0024】
本発明の前述の化学式(5)のAr5 が下記化学式(54)または下記化学式(55)の構造、すなわち、アミノ基の結合していないフルオレン環骨格を有するスルホン酸基含有芳香族ジアミンの場合、例えば、▲4▼原料ジアミンを濃硫酸中で硫酸塩とし、その後、細田、「理論製造 染料化学」、技報社発行、東京、1957年などに記載の方法で発煙硫酸を用いてスルホン化することにより合成することができる。この時、用いられる原料ジアミンとして、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン、9,9−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]フルオレンを挙げることができる。
【0025】
【化11】
Figure 0003910026
【0026】
本発明で用いられる芳香族ジアミンのアルカリ金属塩は、アルカリ金属の水酸化物、炭酸塩、炭酸水素塩およびハロゲンとの塩と反応させることにより容易に合成でき、該反応はスルホン化芳香族ジアミンの合成中、合成後、あるいは後述するポリイミドの合成後のいずれで行っても良い。アルカリ金属としては、リチウム、カリウム、ナトリウムなどを挙げることができる。
【0027】
本発明におけるスルホン化芳香族ポリイミドの合成に用いられる芳香族テトラカルボン酸成分としては、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、2,3’,3,4’−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸、ビス( 3,4−ジカルボキシフェニル) メタン、2,2−ビス( 3,4−ジカルボキシフェニル) プロパン、ピロメリット酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボン酸またはそれらの酸二無水物やエステル化物を挙げることができる。これらのなかで、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸またはそれらの酸二無水物やエステル化物が耐久性の点から好ましい。
【0028】
本発明におけるスルホン化芳香族ポリイミドの合成は特に限定されなく、特開平6−87957号公報、特開平10−168188号公報、特開平8−333451号公報、特開平8−333452号公報、特開平8−333453号公報、特表2000−510511号公報などに記載の公知の方法で合成することができる。
【0029】
本発明におけるスルホン化芳香族ポリイミドは、下記化学式(3)で示される構造単位を含有しても良い。化学式(3)の構造の原料として用いられる芳香族ジアミンは、スルホン酸基を有していないものであり、具体的には、前述のスルホン酸基含有芳香族ジアミンの合成に用いた原料ジアミンを挙げることができる。また、化学式(3)の構造の原料として用いられる芳香族テトラカルボン酸成分は、前述の芳香族テトラカルボン酸またはそれらの酸二無水物やエステル化物を挙げることができる。
【0030】
【化12】
Figure 0003910026
【0031】
このとき、スルホン酸基の含有量は、1g 当り0.5 ミリ当量以上、より好ましくは0.8 ミリ当量以上、さらに好ましくは0.9 ミリ当量以上、特に好ましくは1ミリ当量以上である。0.5 ミリ当量より小さいとイオン伝導度が低くなり、好ましくない。前述の化学式(1)または(2)で示される構造単位と前述の化学式(3)で示される構造単位とからなるスルホン化芳香族ポリイミド共重合体の合成は、特開平6−87957号公報、特表2000−510511号公報などに記載の公知の方法で合成することができ、その構造はランダム共重合体および/またはブロック共重合体である。
【0032】
前述のスルホン化芳香族ポリイミドを用いた本発明の高分子電解質膜の製膜は、特に限定されず公知の方法で製膜することができる。すなわち、スルホン化芳香族ポリイミドをフェノール、o −、m −およびp−クレゾール、p −クロロフェノールなどのフェノール系溶媒、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどのアミド系溶媒、ジメチルスルホキシドなどのスルホン系溶媒に溶解し、ガラス板、ステンレスベルトなどの支持体上に流涎し、溶媒を蒸発除去させることによって製膜される。
【0033】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、実施例に示した測定値は以下の方法で測定した。
<H-NMR >
溶媒として重水素化ジメチルスルホキシドを用いて、日本電子 JEOL EX-270 で測定した。
【0034】
<耐水性>
スルホン化ポリイミドのフィルム(プロトン型、厚み10〜20μm)を所定温度の水に所定時間浸漬した後、ピンセットでフィルムを取り出し、180 度折り曲げた時に破断しないものを○、破断したもの、あるいは、取り出し時に破断したものを×として評価した。
【0035】
<溶液粘度ηsp/c
試料を0.5 重量%となるように、特に記載がない場合はジメチルスルホキシドに溶解し、オストワルド粘度計を用いて30℃で測定した。溶液粘度ηsp/cは、次式により計算した。
ηsp/c=〔(t−t0 )/t0 〕×(1/c)
ここで、t は溶液の流出時間、t0は溶媒の流出時間、c は溶液濃度である。
【0036】
<プロトン伝導性>
中央部に2.5mm 幅のスリットが入り、スリットに沿って3mm の間隔で白金線を配置したテフロン(登録商標)板と、特に加工されていないテフロン(登録商標)板の間に、5mm 幅のフィルムを挟み、所定温度の水中で、日置電機(株)製3532 LCRハイテスタを用いて、複素インピーダンス測定によりプロトン伝導度を求めた。
【0037】
(実施例1)
(1)4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル−3,3’−ジスルホン酸の合成
4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル11.0gを0℃で濃硫酸(95%)20mlに溶かし、これに4.2mlの発煙硫酸(SO3 60%)を滴下した。反応液を0℃で30分、続いて50℃で2時間撹拌した後、反応液を冷却し100gの氷水に投入し、白色固体を得た。これを濾別し、水酸化ナトリウム水溶液に溶解させ、溶液を濾過した後、塩酸で酸性にし再沈殿させて精製し、水洗後真空乾燥し、14.7gの生成物を得た(収率93%)。この生成物を少量のトリエチルアミンを加えた重水素化ジメチルスルホキシドに溶かし、生成物のトリエチルアミン塩のH-NMR を測定した。1.13〜1.18ppm と3.02〜3.09ppm にトリエチルアミンのアルキル基のHに基づくシグナルが、6.63〜6.67ppm(d)、6.74〜6.77ppm(d)、6.81〜6.85ppm(d)、7.48〜7.50ppm(d)、8.04ppm(s)にベンゼン環のHに基づくシグナルが、そして4.99ppm(br) にアミノ基のHに基づくシグナルが観測され、その帰属とその積分強度比から、生成物は、下式の構造を有する4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル−3,3’−ジスルホン酸であることが確認された。
【0038】
【化13】
Figure 0003910026
【0039】
(2)スルホン化ポリイミドの合成
5.28g(10.0mmol) の4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル−3,3’−ジスルホン酸と3.5ml のトリエチルアミンを、40mlのm−クレゾールに添加し、ジアミンが完全に溶解した後、2.68g(10.0mmol) の1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸無水物および1.55g の安息香酸を添加し、80℃で4時間、180 ℃で20時間加熱撹拌した。室温まで冷却後、溶液を多量のアセトンに投入し、析出した固体を濾過、乾燥した。得られた生成物は、溶液粘度ηsp/c(溶媒;m−クレゾール)が10であり、また、m−クレゾールに溶解し、ガラス板上に流涎し、120 ℃で10時間、乾燥することによって、柔軟なスルホン酸トリエチルアミン塩型フィルムを得ることができた。これを60℃のメタノールに1時間浸漬し、次いで1N-HCl水溶液に5時間浸漬し、プロトン交換した後、水洗し、150 ℃で10時間真空乾燥した。このフィルムのIR吸収およびH −NMR スペクトルを測定し、トリエチルアミンのアルキル基のシグナルが完全に消滅していることを確認し、完全にプロトン交換されていることを確認した。得られたフィルムの耐水性評価結果およびプロトン伝導性(伝導度)を下記表1に示す。
【0040】
(実施例2)
(1)4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸の合成
25gの4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホンを20mlの95%硫酸に溶解した溶液に、20mlの発煙硫酸(SO3 ,60%)を滴下した。55℃で3時間撹拌後、冷却し、氷水に投入した。食塩を飽和まで添加後、析出した固体を濾別、乾燥した。得られた固体22.7g、100ml のジメチルスルホキシド、12mlの水に溶解した4gのNaOHおよび150ml のトルエンを冷却管付きDean−Stark トラップおよび窒素導入管の付いたフラスコに入れ、トルエンとの共沸により水を除去しながら4時間、沸騰下で撹拌した。室温まで冷却後、4−フルオロニトロベンゼン14.82 gを添加し、180 ℃で3日間加熱した。室温まで冷却後、濾過し、濾液を減圧乾燥した。得られた固体をアセトンで洗浄、乾燥した。
得られた固体20.9g、100ml のエタノール、100ml の水および2gのPd/カーボン(10重量%)を500ml のフラスコに仕込み、窒素気流下、95℃で撹拌しながら、30mlの抱水ヒドラジンを滴下した。そのまま24時間撹拌した後、室温まで冷却、濾過し、ろ液を5N 塩酸水溶液に滴下した。析出した固体を水洗、乾燥し生成物を得た(全収率70%)。
この生成物を少量のトリエチルアミンを加えた重水素化ジメチルスルホキシドに溶かし、生成物のトリエチルアミン塩のH-NMR を測定した。1.00〜1.18ppm と2.70〜2.82ppm にトリエチルアミンのアルキル基のHに基づくシグナルが、6.59〜6.62ppm(d)、6.73〜6.76ppm(d)、7.72〜7.75ppm(d)、8.20ppm(s)にベンゼン環のHに基づくシグナルが観測され、その帰属とその積分強度比から、生成物は、下式の構造を有する4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸であることが確認された。
【0041】
【化14】
Figure 0003910026
【0042】
(2)スルホン化ポリイミドの合成
5.92g(10.0mmol) の4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ジフェニルスルホン−3,3’−ジスルホン酸と1.06g(5.0mmol)の3,3’−ジメチルベンジンと3.5ml のトリエチルアミンを、50mlのm−クレゾールに添加し、ジアミンが完全に溶解した後、4.02g(15.0mmol) の1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸無水物および2.60g の安息香酸を添加し、80℃で4時間、180 ℃で20時間加熱撹拌した。室温まで冷却後、溶液を多量のアセトンに投入し、析出した固体を濾過、乾燥した。得られた生成物を実施例1と同様にキャストし、プロトン交換を行い、柔軟なフィルムを得ることができた。得られたフィルムの耐水性評価結果およびプロトン伝導性(伝導度)を下記表1に示す。
【0043】
(実施例3)
(1)9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン−2,7−ジスルホン酸の合成
17.4gの9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンを20mlの95% 硫酸に溶解した溶液を0 ℃まで冷却し、10mlの発煙硫酸(SO3 ,60%)を滴下した。60℃で2時間撹拌後、室温まで冷却、氷水に投入して析出した固体を濾別した。これをNaOH水溶液に溶解させ、溶液を濾過した後、塩酸水溶液を加え酸性にし再沈殿させて精製し、濾別、水洗、乾燥し、生成物を得た(収率85%)。この生成物は、H-NMR スペクトル(溶媒;重水素化ジメチルスルホキシド)で、6.41〜6.44ppm(d)、6.69〜6.72ppm(d)、7.53〜7.60ppm(m)、7.79〜7.82ppm(d)に芳香環のHに基づくシグナルが観察され、また、芳香環の反応性から、下式の構造を有する9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン−2,7−ジスルホン酸であると同定した。
【0044】
【化15】
Figure 0003910026
【0045】
(2)スルホン化ポリイミドの合成
10.16g(20.0mmol)の9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン−2,7−ジスルホン酸と6.8gのトリエチルアミンと5.36g(20.0mmol) の1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸と3.5gの安息香酸を、70mlのm−クレゾールに添加し、80℃で4時間撹拌した。室温まで冷却し7時間撹拌後、溶液を多量のアセトンに投入し、析出した固体を濾過、乾燥した。得られた生成物は、溶液粘度ηsp/cが4.8 であり、また、ジメチルスルホキシドに溶解し、ガラス板上に流涎し、80℃で10時間、150 ℃で15時間、真空乾燥することによって、柔軟なスルホン酸トリエチルアミン塩型フィルムを得ることができた。このフィルムを実施例1と同様にプロトン交換処理し、スルホン酸のフィルムを得た。
【0046】
(実施例4)
(1)4,4’−オキシジアニリン−2,2’−ジスルホン酸の合成
20g の4,4’−オキシジアニリンを17mlの95% 硫酸に溶解後、溶液を0℃まで冷却し、35mlの発煙硫酸(SO3 ,60%)を滴下した。80℃で1時間撹拌後、室温まで冷却し、氷水に投入して析出した固体を濾別した。NaOH水溶液に溶解させた後、塩酸水溶液を加え、析出した固体を、濾別、水洗、乾燥し、生成物を得た。得られた生成物は、H −NMR から、下式の構造を有する4,4’−オキシジアニリン−2,2’−ジスルホン酸であることが確認された。
【0047】
【化16】
Figure 0003910026
【0048】
(2)スルホン化ポリイミドの合成
7.21g の4,4’−オキシジアニリン−2,2’−ジスルホン酸と5.36g の1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸と4.4gのトリエチルアミンを50mlのジメチルスルホキシドに添加し、室温で7 時間撹拌した。100ml のm−キシレンを添加し、環流下、生成した水分をm−キシレンと共に除去しながら10時間加熱した。室温まで冷却後、溶液を多量のアセトンに投入し、析出した固体を濾過、乾燥した。得られた生成物は、溶液粘度ηsp/cが12であり、また、ジメチルスルホキシドに溶解し、ガラス板上に流涎し、80℃で10時間、150 ℃で15時間真空乾燥することによって、柔軟なスルホン酸トリエチルアミン塩型フィルムを得ることができた。このフィルムを実施例1と同様にプロトン交換処理し、スルホン酸のフィルムを得た。
【0049】
(実施例5)
実施例3で合成した9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン−2,7−ジスルホン酸を8.13g 、4,4’−オキシジアニリンを0.80g 用いた以外は実施例3と同様にポリイミドを合成し、柔軟なスルホン酸トリエチルアミン塩型フィルムを得た。このフィルムを実施例1と同様にプロトン交換処理し、スルホン酸のフィルムを得た。得られたフィルムの耐水性評価結果およびプロトン伝導性(伝導度)を下記表1に示す。
【0050】
(実施例6)
実施例4で合成した4,4’−オキシジアニリン−2,2’−ジスルホン酸を5.77g 、4,4’−オキシジアニリンを0.80g 用いた以外は実施例5と同様にポリイミドを合成し、柔軟なスルホン酸トリエチルアミン塩型フィルムを得た。このフィルムを実施例1と同様にプロトン交換処理し、スルホン酸のフィルムを得た。得られたフィルムの耐水性評価結果およびプロトン伝導性(伝導度)を下記表1に示す。
【0051】
(実施例7)
実施例1で合成した4,4’−ビス(4−アミノフェノキシ)ビフェニル−3,3’−ジスルホン酸を8.45g 、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンを1.39g 用いた以外は実施例5と同様にポリイミドを合成し、柔軟なスルホン酸トリエチルアミン塩型フィルムを得た。このフィルムを実施例1と同様にプロトン交換処理し、スルホン酸のフィルムを得た。得られたフィルムの耐水性評価結果およびプロトン伝導性(伝導度)を下記表1に示す。
【0052】
(比較例1)
2,2’−ベンジジンジスルホン酸を6.89 g用いた以外は実施例3と同様にポリイミドを合成し、柔軟なフィルムを得た。このフィルムを実施例1と同様にプロトン交換処理した。得られたフィルムの耐水性評価結果を試みたが、水洗中にフィルムの形状を保持できず、耐水性の評価をすることができなかった。
【0053】
(比較例2)
2,2’−ベンジジンジスルホン酸を5.51g 、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンを1.39g 用いた以外は実施例5と同様にポリイミドを合成し、柔軟なフィルムを得た。このフィルムを実施例1と同様にプロトン交換処理した。得られたフィルムの耐水性評価結果を下記表1に示す。
【0054】
(比較例3)
4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチル−2,2’−ビフェニルジスルホン酸を6.70g および9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンを0.70g 用いた以外は実施例5と同様にポリイミドを合成し、柔軟なフィルムを得た。このフィルムを実施例1と同様にプロトン交換処理した。得られたフィルムの耐水性評価結果およびプロトン伝導性(伝導度)を下記表1に示す。
【0055】
(比較例4)
4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチル−2,2’−ビフェニルジスルホン酸を3.72g および9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンを3.48g 用いた以外は実施例5と同様にポリイミドを合成し、柔軟なフィルムを得た。このフィルムを実施例1と同様にプロトン交換処理した。得られたフィルムの耐水性評価結果およびプロトン伝導性(伝導度)を下記表1に示す。
【0056】
【表1】
Figure 0003910026
【0057】
【発明の効果】
以上の説明のように、本発明により、高いプロトン伝導性と高温での長期の吸水耐久性を有する薄膜が作成可能な、耐加水分解性に優れた新規なポリイミドを用いた燃料電池用高分子電解質膜を提供することができる。

Claims (5)

  1. 下記化学式(1)で示される構造単位を有するスルホン化芳香族ポリイミドからなることを特徴とする燃料電池用高分子電解質膜。
    Figure 0003910026
  2. 下記化学式(2)で示される構造単位を有するスルホン化芳香族ポリイミドからなることを特徴とする燃料電池用高分子電解質膜。
    Figure 0003910026
  3. 下記化学式(1’)で示される構造単位と下記化学式(3)で示される構造単位とからなり、スルホン酸あるいはその誘導体が1g当り0.5ミリ当量以上であるスルホン化芳香族ポリイミドからなることを特徴とする燃料電池用高分子電解質膜。
    Figure 0003910026
    Figure 0003910026
  4. 請求項2の化学式(2)で示される構造単位と請求項3の化学式(3)で示される構造単位とからなり、スルホン酸あるいはその誘導体が1g当り0.5ミリ当量以上であるスルホン化芳香族ポリイミドからなることを特徴とする請求項2に記載の燃料電池用高分子電解質膜。
  5. 請求項3の化学式(1’)中のAr 3 、請求項2の化学式(2)中のAr3 および請求項3の化学式(3)中のAr6 で示される4価の芳香族基が1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸残基であることを特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の燃料電池用高分子電解質膜。
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