JP3908499B2 - 高Crフェライト系耐熱鋼用溶接金属 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、アーク溶接法によって形成される溶接金属に関するものであり、殊にB添加型の高Crフェライト系耐熱鋼を溶接する為のものであって、高温クリープ強度と靭性の両特性に優れた溶接金属に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ボイラーや熱交換器等の構造物の素材としては、耐熱性や耐圧性等の要求特性を考慮して、比較的多くのCrを含むフェライト系耐熱鋼が使用されている。また、上記の様な用途に使用される場合には、高Crフェライト系耐熱鋼には高温強度(特に、高温クリープ強度)と共に靭性に優れていることも要求される。しかしながら、高Crフェライト系耐熱鋼において高温強度を高めた場合には、靭性が低下する傾向がある。こうしたことから、高Crフェライト系耐熱鋼にBを添加することによって、靭性を低下させることなくクリープ特性を改善した鋼材も提案されており、こうした鋼材の開発によって優れたクリープ特性と靭性を発揮する構造用鋼が実現されている。
【0003】
ところで、ボイラー等の構造物は、鋼材を母材としてアーク溶接法によって構築されるのが一般的である。しかしながら、上記の様な高Crフェライト系耐熱鋼を溶接母材として用いた場合には、形成される溶接金属には母材からのBが混入することになり、こうしたBの混入は溶接金属の靭性を著しく低下させるという問題がある。即ち、上記の様な高Crフェライト系耐熱鋼を溶接母材として構造物を構築するときには、形成される溶接金属部においても高温クリープ強度と靭性のいずれにも優れていることが要求されるのであるが、これまでの溶接条件では母材に含まれるBによる靭性劣化によって上記両特性を満足する溶接金属が得られていないの実情である。
【0004】
これまでにも、溶接用ワイヤやフラックス等の溶接材料における成分を適切に調整することによって、強度や靭性に優れた溶接金属を形成する技術も多く提案されている(例えば、特開平11−170087号、同6−262388号、特公平8−25055号等)。しかしながら、溶接金属の特性は溶接用ワイヤーやフラックスだけでなく、溶接施工条件や母材希釈等の影響を受けるものであり、上記溶接材料の成分を調整するだけでは十分とは言えず、溶接金属自体の成分や組織を適切に制御する必要がある。
【0005】
また、溶接を行った場合には、部材内部に残留した応力を除去する為に応力緩和処理(以下、「SR処理」と略称することがある)されるのが一般的であるが、こうしたSR処理によっても溶接金属の特性が影響されるものであり、このSR処理条件も重要なパラメータとなる。
【0006】
一方、特開平11−291086号には、溶接ワイヤとフラックスの組み合わせを適切なものとすることによって、高温クリープ強度と靭性に優れた溶接金属を形成するための高Crフェライト系耐熱鋼潜弧溶接方法について提案されている。しかしながらこの技術においても、近年の要求特性を満足し得る溶接金属を得ることは困難である。特に、靭性を向上させる為にBを添加した高Crフェライト系耐熱鋼を溶接した際に、優れた高温クリープ強度と靭性を発揮する溶接金属が得られていないのが実情である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明はこうした状況の下でなされたものであって、その目的は、高温クリープ強度と靭性の両特性に優れた高Crフェライト系耐熱鋼溶接金属を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明に係る高Crフェライト系耐熱鋼用溶接金属とは、アーク溶接法によって形成される溶接金属であって、C:0.01〜0.15%(質量%の意味、以下同じ),Si:0.05〜0.9%,Mn:0.1〜2%、Ni:0.05〜1.2%を夫々含有すると共に、Cr:9.1〜13.0%、Nb:0.002〜0.10%、B:0.0015〜0.015%、Ti:0.001〜0.05%およびN:0.005〜0.080%を夫々含有し、残部が鉄および不可避的不純物からなり、[I]下記(1)式で定義されるFPがFP≧0.00を満足するか、および/または[II]応力緩和処理後に析出しているNaCl型の炭化物、窒化物および炭窒化物のアスペクト比(長径/短径)が2以上である点に要旨を有するものである。
FP=22[C]-1.2[Si]+0.58[Mn]+0.88[Cu]+1.4[Ni]-[Cr]-2.1[Mo]-4.4[V]-3.2[Nb]
-1.4[W]-6.9[Ti]-6.6[Al]+0.75[Co]+28.7[N]+11.5 …(1)
但し、[C],[Si],[Mn],[Cu],[Ni],[Cr],[Mo],[V],[Nb],[W],[Ti],[Al],[Co]および[N]は、夫々C,Si,Mn,Cu,Ni,Cr,Mo,V,Nb,W,Ti,Al,CoおよびNの含有量(質量%)を示す。
【0009】
本発明の溶接金属においては、必要によって、更に(a)Mo:0.05〜1.5%および/またはW:1〜3.5%、(b)Co:5%以下(0%を含まない)および/またはCu:5%以下(0%を含まない)、(c)V:0.05〜0.5%、(d)Al:0.015%以下(0%を含まない)等を含有させることや、(e)不可避的不純物として、P:0.025%以下(0%を含む)、S:0.015%以下(0%を含む)およびO:0.05%以下(0%を含む)に夫々抑制することも好ましく、含有若しくは抑制される成分の種類に応じて溶接金属の特性が更に改善される。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、上記課題を解決するべく様々な角度から検討を重ねた。その結果、溶接金属中におけるCr,Nb,BおよびN等の化学成分組成を適切に調整すると共に、各種成分の含有量によって定義付けられる前記(1)式を適切な値に調整することや、SR処理後に溶接金属中に析出しているNaCl型の炭化物、窒化物および炭窒化物の形態等を適切に調整することが、優れた高温クリープ強度と靭性の両特性を具備し得ることを見出し、本発明を完成した。以下、本発明が完成された経緯を説明しつつ、本発明の作用について説明する。
【0011】
高Crフェライト系耐熱鋼においては、その高温クリープ特性改善するためには、B含有させることが有効であると考えられている。しかしながら、こうした鋼材を母材として溶接したときには、形成される溶接金属中には母材からのBの移行が生じ、このBが溶接金属の靭性を著しく劣化させることになる。本発明者らがこうした問題が生じる原因について様々な角度から検討した結果、溶接金属中にBが含有するとδ−フェライトがより生成し易くなると共に、このδ−フェライトが溶接金属の靭性劣化の主原因であることを突き止めた。
【0012】
そこで、本発明者らは、こうした靭性劣化を防止する手段について、様々な角度から検討した。その結果、δ−フェライトの生成を厳格に制御するための成分パラメータであるFP[前記(1)式]を見出し、このFPがFP≧0.00を満足するように溶接金属の成分を制御すれば、δ−フェライトの生成を抑制して靭性の劣化を防止できることが判明したのである。
【0013】
即ち、上記(1)式で定義されるFPは、δ−フェライトの生成を制御するパラメータとなり得るものであり、このFPの値がFP<0.00の場合には原質部および再熱部のいずれにもδ−フェライトが生成し、靭性が大きく劣化することになる。ここで再熱部とは、溶着金属のうち溶接凝固後に次パスの熱によりAc3点以上に再加熱された領域であり、冶金学的には凝固して再度オーステナイトに逆変態した領域を指し、原質部とはその様な再加熱(Ac3点以上の再加熱)を受けていない領域を指したものである。
【0014】
これに対して、FP≧0.00の場合には、少なくとも再熱部におけるδ−フェライトの生成を抑制できると共に、FP≧0.50の場合には原質部においてもδ−フェライトの生成を抑制でき、溶接金属における良好な靭性を確保できるのである。尚、上記FPの値は、少なくとも0.00以上とする必要があるが、0.50以上とするのが好ましく、より好ましく1.00以上とするのが良い。
【0015】
上記の様に本発明では、溶接金属組成を適切に制御することによって溶接金属の特性を改善するものであるが、溶接金属組成はアーク溶接における溶接ワイヤ組成に加えて、溶接電流、溶接電圧およびワイヤ突き出し長さなどの溶接条件、更には母材組成・開先形状などの影響を受けるものであり、また溶接条件は、ワイヤ組成により変化するものである。従って、本発明の溶接金属組成を得るためのワイヤ組成、溶接条件、母材組成などの範囲は一概に決定されるものではなく、要するにこれらを組み合わせて本発明で規定する溶接金属を得ることによって、本発明の目的が達成できる。
【0016】
一方、本発明者らが溶接金属の特性を改善するという観点から、別の角度からも検討したところ、SR処理後の溶接金属中に析出しているNaCl型の炭化物、窒化物および炭窒化物(例えば、V炭化物、V窒化物、V炭窒化物、Nb炭化物、Nb窒化物、Nb炭窒化物等)の形態も大いに影響を及ぼしていることを見出した(以下、これら炭化物、窒化物および炭窒化物を総称して「炭・窒化物」ということがある)。即ち、SR処理後における上記炭・窒化物の存在は、溶接金属のクリープ特性を改善するものであるが、靭性を劣化させる因子ともなり得るものである。しかしながら、この炭・窒化物のアスペクト比が2以上となるように、その形態を制御すれば、溶接金属の靭性を損なうことなく良好な高温クリープ強度が確保できたのである。
【0017】
本発明において、形態制御する対象の炭・窒化物をNaCl型としたのは、以下の理由による。即ち、炭・窒化物には、NaCl型の他、M23C6型等のいくつかの型があるが、NaCl型の炭・窒化物は主にマルテンサイトラス内部に析出し、且つ他の析出物(M23C6型等)に比較して非常に微細である(短径で20nm以下)。このマルテンサイトラス内の微細な析出物であるNaCl型の炭・窒化物が、靭性やクリープ特性を最も強く支配していると考えられるからである。また炭窒化物のアスペクト比は、炭窒化物の主成分であるV,Nb,CおよびN等の成分含有量のバランスと共に、SR処理条件等によっても影響を受けるものであるので、これらを最適化することによって、アスペクト比が2以上の炭窒化物を得ることができる。尚、本発明では炭窒化物のアスペクト比を2以上とするものであるが、このアスペクト比は3以上にするのが好ましく、より好ましくは4以上にするのが良い。
【0018】
本発明では、上記の様に(1)溶接金属組成を適切に調整するか、または(2)炭・窒化物の形態を制御することによって、その目的が達成されるものであるがこれらの要件の両方を満足させることによって、特性のより改善された溶接金属を得ることができる。
【0019】
本発明に係る溶接金属では、少なくとも所定量のCr,Nb,BおよびNを必須成分として含有するものであるが、これら各元素の範囲限定理由は下記の通りである。
【0020】
Cr:9.1〜13.0%
Crは、溶接金属の耐酸化性および耐食性を向上させると共に、固溶強化による高温強度を維持する効果を発揮する。こうした効果を発揮させるためには、Cr少なくとも9.1%以上含有させる必要があるが、その含有量が過剰になって13.0%を超えるとδ−フェライトの生成によって靭性を劣化させることになる。従って、溶接金属中のCr含有量は9.1〜13.0%とする必要がある。尚、Cr含有量の好ましい下限は10.0%であり、より好ましい下限は11.0%であり、好ましい上限は12.5%であり、より好ましい上限は12.3%である。
【0021】
Nb:0.002〜0.10%
Nbは、炭窒化物の粒成長を抑制し、高温強度を維持する効果を発揮する成分であり、こうした効果を発揮させるためには、0.002%以上含有させる必要がある。しかしながら、その含有量が過剰になって0.10%を超えると、炭・窒化物のアスペクト比を低下させて靭性の劣化を招くことになる。尚、Nb含有量の好ましい下限は0.010%であり、より好ましい下限は0.020%であり、好ましい上限は0.070%であり、より好ましい上限は0.050%である。
【0022】
B:0.0015〜0.015%
Bは、母材に対する作用と同様に溶接金属のクリープ特性を改善する効果を発揮するが、その含有量が0.0015%未満ではこうした効果が発揮されない。しかしながら、B含有量が過剰になって0.015%を超えると、上記FPの値を適正にしても靭性の劣化を招くことになる。尚、B含有量の好ましい下限は0.0025%であり、より好ましい下限は0.0030%であり、好ましい上限は0.010%であり、より好ましい上限は0.0080%である。
【0023】
N:0.005〜0.080%
Nは炭・窒化物の構成元素であり、炭・窒化物の粒成長を抑制すると共に、アスペクト比を上昇させて高温強度を維持するのに有効な元素である。こうした効果を発揮させるためには、N含有量は0.005%以上とする必要があるが、その含有量が過剰になって0.080%を超えると、靭性が劣化することになる。尚、N含有量の好ましい下限は0.015%であり、より好ましい下限は0.020%であり、好ましい上限は0.060%であり、より好ましい上限は0.050%である。
【0024】
本発明の溶接金属で必須的に含有する成分は上記の通りであるが、鋼材としての基本成分であるC,Si,MnおよびNiについては下記の様に調整することが好ましい。但し、本発明の溶接金属においては、これらの基本成分はその組成を限定するものではなく、この成分範囲を外れていても、上記FPの値が適切な範囲内であれば本発明の目的を達成できるものである。
【0025】
C:0.01〜0.15%
Cはオーステナイト安定化元素の1つであり、溶接金属の強度を向上させる効果を発揮し、また靭性低下の原因になるδ−フェライトを抑制する効果がある。こうした効果を確保する為には、C含有量は0.01%以上とすることが好ましいが、C含有量が過剰になって0.15%を超えると、耐力の上昇による靭性および耐割れ性の劣化を引き起こす。従って、本発明の溶接金属中のC含有量は、0.01〜0.15%とすることが好ましい。尚、靭性を良好にするという観点から、C含有量のより好ましい下限は0.03%であり、更に好ましい下限は0.05%であり、より好ましい上限は0.12%であり、更に好ましい上限は0.10%である。
【0026】
Si:0.05〜0.9%
Siは、後述するMnやTiと同様に脱酸剤として機能し、溶接金属中の酸素量をコントロールする効果を発揮する。こうした効果を発揮させるためには、Si含有量は0.05%以上とすることが好ましいが、Si含有量が過剰になって0.9%を超えると、強度が高くなり過ぎて靭性低下の原因となる。尚、Si含有量のより好ましい下限は0.1%であり、更に好ましい下限は0.2%であり、より好ましい上限は0.6%であり、更に好ましい上限は0.5%である。
【0027】
Mn:0.1〜2%
Mnは、上記Siおよび後述するTiと同様に脱酸剤として機能し、溶接金属中の酸素量をコントロールする効果を発揮する。また溶接金属の強度を向上させると共に、SR処理時の回復促進作用によって、靭性を著しく改善する効果をも発揮する。これらの効果を発揮させる為には、Mn含有量は0.1%以上とすることが好ましいが、Mn含有量が過剰になって2%を超えると高温強度の劣化を引き起こす。従って、溶接金属中のMn含有量は0.1〜2%とすることが好ましい。尚、Mn含有量のより好ましい下限は0.3%であり、更に好ましい下限は0.5%であり、より好ましい上限は1.5%であり、更に好ましい上限は1%である。
【0028】
Ni:0.05〜1.5%
Niは、Mnと同様に靭性を改善する効果を発揮する。Ni含有量が0.05%未満ではこうした効果が発揮されず、1.5%を超えると高温強度を劣化させる。従って、溶接金属中のNi含有量は0.05〜1.5%とすることが好ましい。尚、Ni含有量のより好ましい下限は0.15%であり、更に好ましい下限は0.3%であり、より好ましい上限は1.2%であり、更に好ましい上限は1%である。
【0029】
本発明に係る溶接金属における必須成分および基本的な化学成分組成は上記の通りであり、残部は実質的にFeからなるものであるが、必要によって(a)Mo:0.05〜1.5%および/またはW:1〜3.5%、(b)Co:5%以下(0%を含まない)および/またはCu:5%以下(0%を含まない)、(c)V:0.05〜0.5%、(d)Ti:0.001〜0.05%、(e)Al:0.015%以下(0%を含まない)、等を含有させることも有効である。これらの成分を含有させるときの範囲限定理由は下記の通りである。
【0030】
尚、「実質的にFe」とは、Fe以外にその特性を阻害しない程度の微量成分(許容成分)をも含み得るものであり、前記許容成分としては例えば、フラックスに用いられる鉱物中に含まれる希土類元素(La,Ceなど),Li,Na,K,Ba,Mg,Ca等の元素や、P,S,O等の不純物、特に不可避的不純物が挙げられる。またこれらP,SおよびO等の不可避不純物に関しては、良好な靭性を確保するという観点から下記の様に抑制することが好ましい。
【0031】
Mo:0.05〜1.5%および/またはW:1〜3.5%
MoおよびWは、固溶強化およびクリープ中に粒界にラーベス相を析出させることによって高温強度を維持する効果を発揮する。こうした効果を発揮させるためには、Moで0.05%以上、Wで1%以上含有させることが好ましい。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になって、Moで1.5%、Wで3.5%を超えると、強度が過度に上昇して靭性を劣化させることになる。尚、Moについては、より好ましい下限は0.1%であり、更に好ましい下限は0.2%であり、より好ましい上限は0.5%であり、更に好ましい上限は0.4%である。またWについては、より好ましい下限は1.5%であり、更に好ましい下限は1.8%であり、より好ましい上限は3%であり、更に好ましい上限は2.8%である。
【0032】
Co:5%以下(0%を含まない)および/またはCu:5%以下(0%を含ない)
CoおよびCuは、δ−フェライトの生成を抑制する効果を発揮する。このうちCuは、析出によりクリープ特性を改善する効果も発揮する。但し、Coについては、高温強度改善効果が他の元素に比べて小さいので、δ−フェライトが生成しにくい成分系であれば、特に含有させる必要はない。こうした効果は、その含有量が多くなるにつれて増大するが、いずれも5%を超えて過剰に含有されると靭性が劣化することになる。尚、こうした効果を発揮させるためのCo含有量の好ましい下限は1%であり、より好ましい下限は1.5%であり、Cu含有量の好ましい下限は0.5%であり、より好ましい下限は1%である。またCo含有量のより好ましい上限は4.5%であり、更に好ましい上限は4%であり、Cu含有量のより好ましい上限は4.5%であり、更に好ましい上限は4%である。
【0033】
V:0.05〜0.5%
Vは、炭・窒化物の構成元素であり、炭・窒化物の針状化(即ち、アスペクト比の上昇)を促進し、高温強度を維持する効果を発揮する。こうした効果を発揮させるためには、0.05%以上含有させることが好ましいが、その含有量が過剰になって0.5%を超えると炭・窒化物の粒成長を促進して高温強度を劣化させることになる。従って、Vを含有するときには、その含有量は0.05〜0.5%であることが好ましい。尚、V含有量のより好ましい下限は0.1%であり、更に好ましい下限は0.15%であり、より好ましい上限は0.4%であり、更に好ましい上限は0.3%である。
【0034】
Ti:0.001〜0.05%
Tiは脱酸剤として作用し、溶接時のアークを安定化させると共に。Nbと同様に炭・窒化物の粒成長を抑制して高温強度を維持する効果を発揮する。こうした効果を発揮させるためには、その含有量は0.001%以上であることが好ましい。また、Ti含有量が0.001%未満では、クリープ強度が改善されない。しかしながら、その含有量が過剰になって0.05%を超えると靭性を劣化させることになる。従って、溶接金属中にTiを含有させるときには、その含有量は0.001〜0.05%とすることが好ましい。尚、Ti含有量のより好ましい下限は0.005%であり、更に好ましい下限は0.007%であり、より好ましい上限は0.02%であり、更に好ましい上限は0.015%である。
【0035】
Al:0.015%以下(0%を含まない)
Alは脱酸剤として添加され、溶接金属中にも残留するが、その量が過剰になると靭性を損なうので、0.015%以下にすることが好ましく、より好ましくは0.01%以下とするのが良い。
【0036】
P:0.025%以下(0%を含む),S:0.015%以下(0%を含む)
PおよびSは、多量に含有されると靭性を損なうので、夫々0.025%以下、0.015%以下に抑制することが好ましく、より好ましくはPは0.02%以下、Sは0.010%以下に抑制するのが良い。
【0037】
O:0.05%以下(0%を含む)
Oは、大気中やシールドガス中、或はフラックス中から混入してくるが、多量に存在すると靭性を損なうので、0.05%以下に抑制することが好ましく、より好ましくは0.04%以下にするのが良い。
【0038】
本発明はで、B添加型の高Crフェライト系耐熱鋼を溶接母材とすることを基本的に想定したものであるが、本発明で対象とする溶接母材はこうした鋼材に限らず、例えばBフリー型高Crフェライト系耐熱鋼のように上記鋼材に類似する特性を発揮する鋼材を溶接母材と場合であっても適用できるものである。また、本発明で溶接金属を形成するときの溶接方法は、アーク溶接法であれば特に限定するものではなく、後記実施例に示した被覆アーク溶接法およびティグ(TIG)溶接の他、サブマージアーク溶接法(SAW),ガスシールドアーク溶接法(MAG,MIG)等のアーク溶接法のいずれも適用できるものである。
【0039】
以下、本発明を実施例によって更に詳細に説明するが、下記実施例は本発明を限定する性質のものではなく、前・後記の趣旨に徴して設計変形することはいずれも本発明の技術的範囲に含まれるものである。
【0040】
【実施例】
実施例1
下記表1に示す化学成分の合金心線(直径:4.0mm、長さ:400mm)の外周に、被覆剤を塗布することによって、下記表2に示す被覆アーク溶接棒(Y1〜Y26)を作製した。このとき、被覆剤中には、必要に応じて炭酸塩(CaCO3,BaCO3)、弗化物(CaF2,BaF2)、SiO2、Mg等のアーク安定化剤およびスラグ生成剤、およびNa2O,K2O,Li2O等の粘結剤を添加した。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
上記被覆アーク溶接棒を用いて、アーク溶接を実施した。このとき、溶接母材(試験片)として、ASTM A387−Gr.91鋼板に規定されるもので、厚さが20mm、幅200mmおよび長さが350mmのものを使用した。溶接母材の化学成分組成を下記表3に示す。
【0044】
【表3】
【0045】
また開先は、角度が20°のV字型、そしてギャップが18mmとなるように形成されたものを使用した。このような開先に対して、溶接入熱:18〜22KJ/cm(溶接電流:170A−溶接電圧:23V−溶接速度:12cm/mim狙い)、下向き姿勢、予熱・パス間温度:200〜250℃の溶接条件で溶接を施した。
【0046】
その後、この試験片を740℃で8時間または16時間の熱処理(SR処理:昇温・冷却速度:50℃/hr以下)を行い、その後シャルピー衝撃試験片(JIS Z3111の4号)およびクリープ試験片(JIS Z2272)を採取し、各規格に準じて試験を行った。このとき、シャルピー衝撃値は0℃での吸収エネルギー(vE0)を測定し、クリープ試験は700℃×700N/mm2の条件で破断するまでの時間(クリープ破断時間)を測定した。両試験とも、試験片を各3本ずつ採取して試験したときの平均値を測定した。
【0047】
また、SR処理後に析出したNaCl型炭・窒化物のアスペクト比は、SR処理後の溶接金属原質部について抽出レプリカ法で炭・窒化物を採取し、透過型電子顕微鏡にて倍率:10万倍で5視野を観察し、採取された炭・窒化物の内、短径が20nm以下のものをNaCl型の炭・窒化物として選別し、これら選別された炭・窒化物の個々についてアスペクト比を求め、この結果から平均のアスペクト比を求めた。得られた溶接金属中の合金成分を下記表4に、上記試験結果を下記表5に夫々示す。尚、各試験における評価基準は、シャルピー衝撃試験については吸収エネルギー(vE0)が47J以上のもの、クリープ試験についてはクリープ破断時間が1000時間のものを合格と判断した。また、クリープ試験については、靭性が良好(vE0が47J以上のもの)についてのみ行った。
【0048】
【表4】
【0049】
【表5】
【0050】
この結果から明らかなように、本発明で規定する化学成分を満足すると共に、[I]前記(1)式で定義されるFPがFP≧0.00であるか、または[II]応力緩和処理後に析出しているNaCl型の炭・窒化物のアスペクト比(長径/短径)が2以上である、の要件の少なくともいずれかを満足するNo.1〜9のものでは、高温クリープ強度および靭性のいずれも優れていることがわかる。これに対して、No.10〜28のものでは、化学成分組成、上記要件[I]および[II]の要件のうちのいずれかが発明で規定する範囲を外れているので、溶接金属のいずれかの特性が劣化していることが分かる。
【0051】
実施例2
ワイヤ径が1.6mmの溶接ワイヤを用い、JIS 3316に準拠して、溶接入熱:15〜18KJ/cm(溶接電流:250A−溶接電圧:11V−溶接速度:12cm/mim狙い)、下向き姿勢、予熱・パス間温度:200〜250℃の溶接条件で溶接を行い、下記表6に化学成分を示した溶接金属を得た。得られた溶接金属を740℃で4時間または8時間の熱処理(SR処理)を行った後に、実施例1と同様にして溶接金属の高温クリープ強度および靭性を評価した。
【0052】
その結果を下記表7に示すが、本発明で規定する要件を満足するNo.29,30のものでは、高温クリープ強度および靭性のいずれも優れていることが分かる。
【0053】
【表6】
【0054】
【表7】
【0055】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、高温クリープ強度と靭性の両特性に優れた高Crフェライト系耐熱鋼溶接金属が実現できた。
Claims (8)
- アーク溶接法によって形成される溶接金属であって、C:0.01〜0.15%(質量%の意味、以下同じ),Si:0.05〜0.9%,Mn:0.1〜2%、Ni:0.05〜1.2%を夫々含有すると共に、Cr:9.1〜13.0%、Nb:0.002〜0.10%、B:0.0015〜0.015%、Ti:0.001〜0.05%およびN:0.005〜0.080%を夫々含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、且つ下記(1)式で定義されるFPがFP≧0.00を満足することを特徴とする高Crフェライト系耐熱鋼用溶接金属。
FP=22[C]-1.2[Si]+0.58[Mn]+0.88[Cu]+1.4[Ni]-[Cr]-2.1[Mo]-4.4[V]-3.2[Nb]
-1.4[W]-6.9[Ti]-6.6[Al]+0.75[Co]+28.7[N]+11.5 …(1)
但し、[C],[Si],[Mn],[Cu],[Ni],[Cr],[Mo],[V],[Nb],[W],[Ti],[Al],[Co]および[N]は、夫々C,Si,Mn,Cu,Ni,Cr,Mo,V,Nb,W,Ti,Al,CoおよびNの含有量(質量%)を示す。 - アーク溶接法によって形成される溶接金属であって、C:0.01〜0.15%(質量%の意味、以下同じ),Si:0.05〜0.9%,Mn:0.1〜2%、Ni:0.05〜1.2%を夫々含有すると共に、Cr:9.1〜13.0%、Nb:0.002〜0.10%、B:0.0015〜0.015%、Ti:0.001〜0.05%およびN:0.005〜0.080%を夫々含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、且つ応力緩和処理後に析出しているNaCl型の炭化物、窒化物および炭窒化物のアスペクト比(長径/短径)が2以上であること特徴とする高Crフェライト系耐熱鋼用溶接金属。
- アーク溶接法によって形成される溶接金属であって、C:0.01〜0.15%(質量%の意味、以下同じ),Si:0.05〜0.9%,Mn:0.1〜2%、Ni:0.05〜1.2%を夫々含有すると共に、Cr:9.1〜13.0%、Nb:0.002〜0.10%、B:0.0015〜0.015%、Ti:0.001〜0.05%およびN:0.005〜0.080%を夫々含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、且つ下記(1)式で定義されるFPがFP≧0.00を満足すると共に、応力緩和処理後に析出しているNaCl型の炭化物、窒化物および炭窒化物のアスペクト比(長径/短径)が2以上であること特徴とする高Crフェライト系耐熱鋼用溶接金属。
FP=22[C]-1.2[Si]+0.58[Mn]+0.88[Cu]+1.4[Ni]-[Cr]-2.1[Mo]-4.4[V]-3.2[Nb]
-1.4[W]-6.9[Ti]-6.6[Al]+0.75[Co]+28.7[N]+11.5 …(1)
但し、[C],[Si],[Mn],[Cu],[Ni],[Cr],[Mo],[V],[Nb],[W],[Ti],[Al],[Co]および[N]は、夫々C,Si,Mn,Cu,Ni,Cr,Mo,V,Nb,W,Ti,Al,CoおよびNの含有量(質量%)を示す。 - 更に、Mo:0.05〜1.5%および/またはW:1〜3.5%を含むものである請求項1〜3のいずれかに記載の高Crフェライト系耐熱鋼用溶接金属。
- 更に、Co:5%以下(0%を含まない)および/またはCu:5%以下(0%を含まない)を含むものである請求項1〜4のいずれかに記載の高Crフェライト系耐熱鋼用溶接金属。
- 更に、V:0.05〜0.5%を含有するものである請求項1〜5のいずれかに記載の高Crフェライト系耐熱鋼用溶接金属。
- 更に、Al:0.015%以下(0%を含まない)を含有するものである請求項1〜6のいずれかに記載の高Crフェライト系耐熱鋼用溶接金属。
- 前記不可避的不純物として、P:0.025%以下(0%を含む)、S:0.015%以下(0%を含む)およびO:0.05%以下(0%を含む)に夫々抑制したものである請求項1〜7のいずれかに記載の高Crフェライト系耐熱鋼用溶接金属。
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