JP3901528B2 - Mag溶接用メッキなしソリッドワイヤ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主に鉄骨の仕口溶接及びコラムの周溶接において、高入熱及び高パス間温度の溶接においても十分な機械性能を有する溶接部を得ることができると共に、ワイヤの送給性が安定し、低スパッタ化することができるソリッドワイヤであって、銅めっき等のめっき処理を施さないMAG溶接用メッキなしソリッドワイヤに関する。
【0002】
【従来の技術】
建築基準法の改定により、鉄骨における多層溶接、特に仕口溶接及びコラムの周溶接においては、入熱及びパス間温度の管理が極めて厳しくなっているのが現状である。このような状況を受けて、高入熱及び高パス間温度で溶接を行う場合でも十分な強度が得られるような比較的化学成分の添加量の多いタイプ、つまりYGW18、YGW19の適用が増えつつある。
【0003】
YGW19は、主に、MAG溶接(Arガスに占めるCO2比率10%〜30%程度)との組み合わせで使用され、その特徴としては、CO2溶接に比べてスパッタ、ヒューム及びスラグの発生量が少ないという利点がある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、YGW19を、YGW15、YGW16等のMAG溶接用ワイヤと比較すると、強度向上のために化学成分の添加量が多くなっており、このため、溶滴の表面張力が高く、スプレー移行中の溶滴径が大粒化し、その結果スパッタ発生量が多くなる傾向にある。
【0005】
従来のMAG溶接用ソリッドワイヤはその大部分が銅メッキ処理を施したワイヤである。銅メッキワイヤは溶滴表面での銅濃度が高く、溶滴の表面張力が高いため、アークがスプレー化しにくい。このことがYGW19タイプで更にスパッタ発生量を増やす一因となっている。
【0006】
また、YGW19ではワイヤ自体の強度も高くなるため、従来のメッキワイヤでは長尺トーチ等を使用する場合にコンジット内部における送給抵抗が高くなり、メッキが剥離してメッキ屑がコンジット内部に堆積するのと相俟って、ワイヤの送給が不安定になりやすい。
【0007】
この対策として、ワイヤ伸線過程で焼鈍工程をいれることにより、強度を極力低下させ、送給抵抗を低くする方法があるが、工程が複雑であり、製造コストが上昇してしまうという問題点がある。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、高入熱・高パス間温度の溶接においても十分な機械的性能を有する溶接金属を得ることができると共に、ワイヤの送給性が安定し、スパッタ量を低減できるMAG溶接用メッキなしソリッドワイヤを提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明に係るMAG溶接用メッキなしソリッドワイヤは、C:0.01〜0.15質量%、Si:0.4〜1.0質量%、Mn:1.4〜2.0質量%、Ti+Zr:総量で0.10〜0.30質量%を含有する鋼線の表面にメッキを有しないMAG溶接用メッキなしソリッドワイヤであって、アーク安定剤としてのK化合物がワイヤ表面上及び表面直下に、2〜10ppm付着しており、ポリイソブテンを含む油がワイヤ表面にワイヤ10kg当たり0.1〜2g存在することを特徴とする。
【0010】
このMAG溶接用メッキなしソリッドワイヤにおいて、前記鋼線に含まれるC、Mn及びTiの含有量が、(C+Mn/10+Ti)=0.30〜0.60を満足することが好ましい。また、前記鋼線に含まれるNi、Cr、Mo、Alの総量が0.01〜0.5質量%であることが好ましい。更に、ワイヤの周面に開口部よりも内部が広いボトルネック状及び/又はケイブ状の凹部が存在し、その凹部及びワイヤ表面上に、粒径が0.1乃至2μmであるMoS2がワイヤ10kg当たり0.01乃至0.5g存在することが好ましい。更にまた、例えば、前記K化合物は、ホウ酸Kであり、このホウ酸Kが前記ボトルネック状及び/又はケイブ状の凹部及びワイヤ表面上に存在する。
【0011】
なお、本発明が適用対象の一つとする高入熱及び高パス間温度の溶接においては、特に溶接金属の靭性の低下が懸念される。溶接金属の靭性向上のためには、Bの添加が効果的である。具体的には、B:0.02〜0.10質量%の範囲で含有することによって、ワイヤに十分な靭性が得られる。
【0012】
また、K及びMoS2がワイヤの表面上及び表面直下に存在する状態、並びにポリイソブテンを含む油がワイヤ表面に存在する状態とは、図1に模式的に示すように、これらの付着物がワイヤ表面を被覆するように、薄膜として付着している状態、これらの付着物がワイヤ表面に形成された多数の凹部内に存在する状態をいう。これらの付着物は、塩酸(HCl)でワイヤ表面を酸洗し、ワイヤ表面から30μmの深さまでのワイヤ表層部を除去した場合に、取り出される全てのK、MoS2、及びポリイソブテンを含む油をいう。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例について、添付の図面を参照して具体的に説明する。本発明においては、図1及び図2に示すように、ワイヤ1の表層部に、付着物2が存在している。この付着物2は、アーク安定剤としてのKを含む物質(例えば、ホウ酸K)、又はこのKを含む物質及び粒径が0.1〜2μmであるMoS2であり、ワイヤの表面上及び表面直下に存在する。また、付着物2のうち、ワイヤ1の表面上に存在するものとしては、ポリイソブテンを含む油を含む。
【0014】
図2はボトルネック状及び/又はケイブ状の凹部を示すワイヤの横断面図である。このような凹部とは、ワイヤの周面に設けられ、開口部よりも内部が広がったボトルネック状又は内部に長く延びる洞穴状に存在するものである。そして、この凹部は、この図2に示すように、ワイヤ表面に対してその中心に向けて半径方向に光線が投射されるような仮想光源を考えた場合に、陰になって表面から見えない部分(図2で黒く塗りつぶした部分)を有する。
【0015】
次に、ボトルネック状又はケイブ状の凹部をワイヤ表面に形成する方法の一例について説明する。なお、このようなボトルネック状及びケイブ状の凹部は、伸線前の線にあらかじめ形成されていなくても、伸線の中間段階で形成してもよいし、最終段階で形成してもよい。工業的には、以下の3つのステップによる方法が製造コストが低い有効な製造方法である。
【0016】
▲1▼素線の加工工程で凹凸を形成する工程
溶接ワイヤの素線であるところの「原線」は、製鉄所において一貫した連続鋳造及び熱間圧延工程によって製造される。但し、バッチ式の炉で鋳造され、その後圧延されて、製造されることもある。このときの圧延条件、即ち、圧延温度、及び減面率を調整することにより、ワイヤ長手方向に「皺状くぼみ」を生成させることができる。この「皺状くぼみ」は、通常、酸化鉄(所謂スケール)が埋めているが、その酸化物を機械的又は化学的に除去することによって、後述の工程を経て「ボトルネック状及び/又はケイブ状のくぼみ」に変えることができる「素線の凹部」となり得る。従って、予め十分な深さの「素線の凹部」を得るべく、圧延温度及び減面率を調整する。
【0017】
別の方法として、焼鈍によって素線の凹凸を制御することも可能であった。例えば、先ず、素線を酸化性雰囲気又は水蒸気雰囲気で焼鈍することにより、金属結晶粒界を優先的に酸化する。焼鈍後、化学的又は電気化学的に酸化膜を除去することにより、粒界腐食部が選択的に除去され、「素線の凹部」が生成される。
【0018】
上述の化学的な酸化皮膜除去の工程においては、酸洗条件を調整することによっても、「素線の凹部」の度合いを制御することができる。素線を塩酸酸洗する場合、塩酸浴中に酸素及び/又は硝酸及び/又は過酸化水素水等を添加することで酸化力を向上させ、「素線の凹部」の度合いを制御させることも可能である。塩酸以外の酸を用いても「素線の凹部」を調整することができる。例えば、硝酸を用いて原線表面を不動態化処理し、その後塩素イオン等を用いて電解局部腐食させることにより、原線表面にくぼみを生成することができる。また、インヒビターを使用し、酸洗することにより素線表面の酸化鉄(スケール)のみを選択的に溶解させ、組成が本来持っている鋭利なくぼみをなますことなく、保存することにより、鋭利なくぼみが多い素線を得ることもできる。このこの鋭利なくぼみは後述する方法により、「ボトルネック及びケイブ状の凹部」となりやすい。即ち、通常の酸洗であると、凹部はその開口周縁がなだらかに拡がるが、インヒビターを使用すると、凹部の開口周縁が鋭角のままで、凹部の内部よりも開口周縁の方が狭くなっている。なお、インヒビターとは、鉄地腐食阻害物質の薬品のことである。
【0019】
更に、別の方法として、素線加工工程において、ローラの表面粗度を調整した圧延ローラを使用し、そのローラ表面の凹凸をワイヤ表面に転写することにより、「素線の凹部」を生成できる。ローラ転写により「素線の凹部」を生成することは、酸化膜の有無、伸線温度、及び線径に拘わらず可能である。
【0020】
▲2▼その凹部を何らかの充填物で埋めてから、凹部の存在を保持しつつ、開口部(間口)を狭める工程
開口部が大きく開いた状態の素線表面に、最終製品ワイヤ径で必要となる機能性塗布剤を塗布し、その後、ワイヤを伸線加工することにより、開口部が狭まり、凹部内の塗布剤の上に鋼皮が薄くかぶさり、所望の「ボトルネック状及びケイブ状の凹部の内部に塗布剤が存在するワイヤ」を得ることができる。このときの伸線加工は、穴ダイス、マイクロミル又はローラダイスを使用して行うことができる。
【0021】
穴ダイスを用いて伸線加工する場合は、「素線の凹部」の形状をそのまま保存することは困難であるが、塗布剤中のバインダー成分を調整することにより、「ボトルネック状又はケイブ状の凹部」を生成することができる。具体的には、ボラックス、ボンデ処理等のワイヤ表面に化学的に結合する無機バインダー及び/又は有機バインダーを用いることにより、凹部形状を保持することができる。
【0022】
また、マイクロミル及び/又はローラダイスを用いると、「素線の凹部」は比較的保存されやすく、最終ワイヤ径において、「ボトルネック状又はケイブ状の凹部」を生成することができる。
【0023】
伸線加工工程においては、穴ダイス、マイクロミル又はローラダイスの単独による伸線加工に加えて、これらの方法を組合せて伸線加工しても良い。
【0024】
更に、K化合物(特にホウ酸K)、MoS2又はポリイソブテンを含む油を、有機系及び/又は無機系のバインダーで混合したものをワイヤ表面に塗布し、上記のような伸線工程を経ることによって、「素線の凹部」形状を保持しつつ、ワイヤ表面の開口部(間口)を狭めていき、内部にK化合物、MoS2又はポリイソブテンを含む油を保持しうる「ボトルネック状又はケイブ状の凹部」を高効率で形成することができる。
【0025】
▲3▼見かけ上平滑なワイヤ表面を持つように仕上げる工程
最終的には、その凹部に送給潤滑剤、通電安定剤、又はスパッタ防止剤等の機能性物質が充填されると共に、通電性及び耐詰まり性が良好であるように、見かけ上平滑なワイヤ表面を持つように仕上げることが必要である。
【0026】
最終ワイヤ径においては、「素線の凹部」の形成段階で機能性物質を充填させた場合は、仕上げ穴ダイス又はローラダイス等でスキンパス加工(低減面率で加工)することにより、凹部の開口部にワイヤ鋼皮が薄くかぶさって間口が小さくなり、本発明のワイヤを製造することができる。
【0027】
更に別の方法として、「素線の凹部」に予め別の物質を充填して伸線加工したものを、最終伸線上がり工程において、K化合物、MoS2及びポリイソブテンを含む油からなる群から選択された1種以上のものを、水、アルコール、油、又はエマルジョン等に分散させて、ワイヤ表面にすり込むことによっても、「ボトルネック状又はケイブ状の凹部」の内部が、これらの物質により置換され、凹部内に残留する。
【0028】
なお、本発明は銅メッキを施していないソリッドワイヤである。これは、銅メッキが施されたワイヤにおいては、前述の「ボトルネック状又はケイブ状の凹部」を生成しても、銅メッキが剥離しやすくなるため、実用に供することができないからである。
【0029】
本発明のように、銅メッキを施していないワイヤを使用して溶接した場合は、溶滴の表面張力が低下し、スプレーアーク中の溶滴同士又は溶滴と溶融プールが瞬間短絡しにくくなるために、スパッタの発生量が少なくなる。このような銅めっきを施していないワイヤ表面に更にKを適量存在させることでスパッタ発生量を大幅に低減させることができる。
【0030】
しかしながら、どんなにK化合物によるアーク安定化のみを追求しても、溶接時のワイヤ送給性が安定しない状況ではこれらの効果が十分に得られない。そこで、本発明においては、十分な溶接金属の機械性能が得られる範囲内でワイヤ自体の強度が適正に保たれるようにワイヤ組成を規定し、更に、ワイヤがチップ直上まで送られてきた時点においても、潤滑性が十分に保たれている必要があるため、K化合物の他にポリイソブテンを同時に添加し、更に好ましくはMoS2を同時に付加することにより、従来にない優れた溶接品質を実現したものである。
【0031】
アーク安定剤として使用するK化合物はホウ酸Kが望ましい。ホウ酸Kは微細粒子のものを入手しやすく、粘度調整剤としてのポリイソブテンと共存することにより、ワイヤ表面から離脱し難くなる。一方、伸線潤滑剤などに用いられるステアリン酸K等の炭素鎖の長い有機Kでは、ポリイソブテンと共存しても離脱し易さに変化はない。
【0032】
また、MoS2を適量ワイヤ表層部に存在させることにより、送給抵抗を低減し、溶滴の細粒化と離脱性が更に促進される。ポリイソブテンは微粒子のMoS2を効果的にワイヤ表面に保持する油として最適である。
【0033】
更に、「ボトルネック状及び/又はケイブ状の凹部」に、K化合物、MoS2、又はポリイソブテンを含む油が存在すると、これらのK化合物、MoS2、又はポリイソブテンを含む油からなる機能性物質は、コンジットライナーで擦られて離脱することなくトーチ先端の給電チップまで保持されるので、スパッタの低減及びチップの融着防止等の機能的作用効果を、極微量の保持範囲から十二分に発揮できる。
【0034】
このように構成された本発明によれば、メッキ屑等の金属屑がコンジット内部に堆積することがなくなるため、メッキありのワイヤよりも数段優れた送給性を得ることができる。
【0035】
なお、K及びMoS2の分析方法は以下のとおりである。
〈K分析方法〉
▲1▼Kが付着しているワイヤのカットサンプルを、約20mm〜30mmの長さで20g程度用意する。
▲2▼石英ビーカに塩酸と過酸化水素からなる液体を注ぎ、前記カットサンプルをこの液体中に浸漬して数秒間保持した後、前記カットサンプルを取り出し、残った液体をろ過する。
▲3▼ろ過後の液体中のK濃度を原子吸光法で測定し、ワイヤ10kg当たりの付着量を定量する。
【0036】
〈MoS2の分析方法〉
ワイヤを有機溶媒(例えば、エタノール、アセトン、石油エーテル等)で洗浄した後、洗浄液をろ紙でろ過し、その後、ろ紙を乾燥させる。このろ紙を白煙処理することによりMoS2(a)を溶解し、原子吸光法によってMoを定量化する。また、エタノール洗浄した後のワイヤを塩酸(1+1)に浸漬して溶解し、MoS2(b)を遊離させる。これをろ紙でろ過した後、白煙処理によってMoS2を溶解し、原子吸光法によってMoを定量化する。そして、(a)+(b)のMo定量値をMoS2に換算し、これをワイヤ質量で徐することによって、ワイヤ10kg当たりのMoS2塗布量を測定する。
【0037】
次に、ポリイソブテン定性分析方法及び油量定量分析方法としては、以下に示す方法がある。
〈ポリイソブテン定性分析方法〉
ワイヤ表面の油がポリイソブテンを含むものかどうかは、次のようにして判断できる。ワイヤ表面を、四塩化炭素又はヘキサンを洗浄溶剤として洗浄し、洗浄液から洗浄溶剤を減圧蒸留にて除去した残留物の赤外吸収スペクトルを透過法にて測定する。図3はこの赤外吸収スペクトルの透過率を示す。このようにして測定されたスペクトルに、1230cm−1、1365cm−1及び1388cm−1付近に極大値を持つ特性吸収が認められれば、ポリイソブテンを含むと判断できる。
【0038】
ポリイソブテンは、下記化学式1にて示す構造を有する。
【0039】
【化1】
【0040】
そして、ポリイソブテンにおける1230cm−1の吸収は4級炭素の骨格振動に起因するもの、1365cm−1及び1388cm−1の吸収は、ジメチル構造のメチル基の変角振動に起因するものと考えられている。なお、これらの波数は、共存する油の影響、ポリイソブテンの重合度、枝分かれ構造等の影響を受け、5cm−1程度のずれが生じる場合もある。
【0041】
〈油量定量分析方法〉
ポリイソブテンを一定濃度含有する四塩化炭素溶液を準備し、これを基準液として用いる。ワイヤのカットサンプルを、約20mm〜30mm長さで20g程度用意する。カットサンプルを四塩化炭素中に浸漬して洗浄し、洗浄液を赤外吸収法で測定し、基準液と比較することで、ワイヤ10kg当たりのポリイソブテン付着量を測定する。
【0042】
次に、ワイヤの組成限定理由について説明する。
C:0.01〜0.15質量%
Cの添加量が0.01質量%よりも低いと、溶滴の表面張力が低下しすぎるため、瞬間短絡時のスパッタが増える。また、Cの添加量が0.15質量%を超えると、表面張力が高くなりすぎるため、大粒のスパッタが発生しやすくなる。
Si:0.4〜0.1質量%
Siの添加量が0.4質量%よりも低いと、溶滴の表面張力が低下しすぎるため、瞬間短絡時のスパッタが増える。また、Siの添加量が1.0質量%を超えると、表面張力が高くなりすぎるため、大粒のスパッタが発生しやすくなる。
Mn:1.4〜2.0質量%
Mnの添加量が1.4質量%よりも低いと、溶滴の表面張力が低下しすぎるため、瞬間短絡時のスパッタが増える。また、Mnの添加量が2.0質量%を超えると、表面張力が高くなりすぎるため、大粒のスパッタが発生しやすくなる。
(Ti+Zr)の総量:0.10〜0.30質量%
Ti+Zrの総量が0.10質量%より低いと、溶滴の表面張力が低下しすぎるため、瞬間短絡時のスパッタが増える。Ti+Zrの総量が0.30質量%を超えると、表面張力が高くなり過ぎるため、大粒のスパッタが発生しやすい。
(C+Mn/10+Ti):0.30〜0.60質量%
C、Mn、Tiは、スパッタの発生形態に大きく影響する化学成分であり、本パラメータの範囲を規定することにより、大幅なスパッタ低減が可能となる。すなわち、数式(C+Mn/10+Ti)の値が0.30質量%より低いと、溶滴の表面張力が低下しすぎるため、瞬間短絡時のスパッタが増える。また、高電流・高パス間温度下の溶接で強度低下が生じる。一方、数式(C+Mn/10+Ti)の値が0.60質量%を超えると、表面張力が高くなりすぎるため、大粒のスパッタが発生しやすい。また、ワイヤ自体の強度が高くなりすぎるため、送給性が悪くなる。
(Ni+Cr+Mo+Al)の総量:0.01〜0.50質量%
Ni+Cr+Mo+Alの総量が0.01質量%より低いと、溶滴の表面張力が低下しすぎるため、瞬間短絡時のスパッタが増える。また、高電流・高パス間温度下の溶接では強度低下が生じる。Ni+Cr+Mo+Alの総量が0.50質量%を超えると、表面張力が高くなりすぎるため、大粒のスパッタが発生しやすい。また、ワイヤ自体の強度が高くなりすぎるため、送給性が悪くなる。
【0043】
次に、ワイヤ表面の付着物の付着量の限定理由について説明する。
ポリイソブテンを含む油:ワイヤ10kgあたり0.1〜2g
ポリイソブテンを含む油の付着量がワイヤ10kg当たり0.1gより少ないと、送給抵抗低減効果は期待できないため、送給性が悪くなる。また、2gを超えると、詰まりの原因となりやすい。
Kのワイヤ付着量:2〜10ppm
Kの付着量が2ppmよりも低いと、溶滴上部へのアークのはい上がりが実現しにくく、溶滴小粒化の効果が充分得られない。また、Kの付着量が10ppmを超えると、コンジットライナー内部の詰まりの原因となり、送給不良になりやすい。
粒径0.1〜2μmのMoS 2 の付着量をワイヤ10kgあたり0.01〜0.5gとする
MoS2の粒径は0.1〜2μmが望ましい。0.1μm未満では、滑り性が発現せず、良好な送給性は得られない。一方、2μm以上では滑り性は得られるが、表面から剥離しやすく、十分な送給性は得られない。付着量がワイヤ10kgあたり0.01gより少ないと、送給抵抗低減効果は期待できない。また0.5gを超えると、詰まりの原因となりやすい。
【0044】
【実施例】
以下、本発明の実施例について、本発明の範囲から外れる比較例と比較して説明する。下記表1は溶接条件、表2はスパッタの評価条件、表3は評価結果を示す。表1の溶接条件は、高入熱・高パス間温度の溶接を模擬したものである。また、図4はスパッタの測定方法を示す。捕集箱4内に試験板3を配置し、捕集箱4の上部にトーチ5を挿入し、下向き溶接で試験板3を溶接し、発生するスパッタ6を捕集箱4内に回収する。これにより、スパッタ発生量を測定することができる。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【0047】
【表3】
【0048】
この表3において、強度評価欄は、溶接金属の強度についての評価である。この溶接金属は、下記表4に示す条件で溶接し、表5に示す判定基準に基づいて、評価した。溶接条件は、JISZ3312にほぼ準拠する方法で行なった。但し、JISZ3312では、溶接パス間温度を150℃±15℃と規定しているが、本実施例においては、表4に記載したように、5層10パスの連続溶接(パス間の強制冷却を行わない溶接)にて実施した。また、強度の測定は、JISZ3111に規定する全溶着金属機械試験による。
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
この表3に示すように、本発明の実施例においては、スパッタ発生量が少なく(◎、○)、特に、請求項1乃至4の全ての条件を満足する実施例19,20の場合は、スパッタ発生量が極めて少なかった(◎)。これに対し、本発明の範囲から外れる比較例1乃至12はいずれもスパッタ発生量が多いものであった(△、×)。また、表3の「強度評価」は溶接金属の強度を示している。比較例1乃至12は、いずれかの成分が請求項1の下限値未満であるか、又は上限値を超えるものであって、「強度低すぎる」又は「強度高すぎる」ものである。これに対し、請求項1乃至4を満足する組成の実施例19,20は、一般軟鋼の溶接継手に比べ、高入熱・高パス間温度の溶接においても十分に高い継手強度が得られる。実施例13又は14は、請求項3を満足しないので、夫々継手強度が「若干低め」又は「若干高め」となっている。実施例17及び18は、請求項2を満足しないので、夫々継手強度が「若干低め,高め」となっている。また、実施例15又は16は、請求項4を満足しないので、若干、送給性不良又はコンジットライナーの詰まりが生じる。
【0052】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のMAG溶接用メッキなしソリッドワイヤによれば、高入熱・高パス間温度の溶接において、ワイヤの送給性が安定し、スパッタ量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ワイヤ表層部の付着物の状態を示す断面図である。
【図2】凹部の形状を説明する図である。
【図3】ポリイソブテンの赤外吸収スペクトルの透過率を示す。
【図4】スパッタ量の測定方法を示す図である。
【符号の説明】
1:ワイヤ
2:付着物
3:試験板
4:捕集箱
5:トーチ
6:スパッタ
Claims (5)
- C:0.01〜0.15質量%、Si:0.4〜1.0質量%、Mn:1.4〜2.0質量%、Ti+Zr:総量で0.10〜0.30質量%を含有する鋼線の表面にメッキを有しないMAG溶接用メッキなしソリッドワイヤであって、アーク安定剤としてのK化合物がワイヤ表面上及び表面直下に、2〜10ppm付着しており、ポリイソブテンを含む油がワイヤ表面にワイヤ10kg当たり0.1〜2g存在することを特徴とするMAG溶接用メッキなしソリッドワイヤ。
- 前記鋼線に含まれるC、Mn及びTiの含有量が、(C+Mn/10+Ti)=0.30〜0.60を満足することを特徴とする請求項1に記載のMAG溶接用メッキなしソリッドワイヤ。
- 前記鋼線に含まれるNi、Cr、Mo、Alの総量が0.01〜0.5質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のMAG溶接用メッキなしソリッドワイヤ。
- ワイヤの周面に開口部よりも内部が広いボトルネック状及び/又はケイブ状の凹部が存在し、その凹部及びワイヤ表面上に、粒径が0.1乃至2μmであるMoS2がワイヤ10kg当たり0.01乃至0.5g存在することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のMAG溶接用メッキなしソリッドワイヤ。
- 前記K化合物は、ホウ酸Kであり、このホウ酸Kが前記ボトルネック状及び/又はケイブ状の凹部及びワイヤ表面上に存在することを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のMAG溶接用メッキなしソリッドワイヤ。
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