JP3898959B2 - 快削鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は切削加工で成形し、自動車や産業機械などの部品として使用する機械構造用鋼に関わり、特にセメンタイトを黒鉛化することで被削性が向上した黒鉛鋼に関わるものである。
【0002】
【従来の技術】
中炭素鋼の組織をフェライトと黒鉛の組織にすることにより切削性が向上することは従来から知られており、黒鉛による切削性の向上は、層間結合力が弱い結晶構造をもつことから潤滑性に優れること、あるいは黒鉛がチップブレーカーとして機能するためと考えられ、その技術は特開昭49−67816号公報に開示されている。しかしながら、この方法では切削工具寿命はPb快削鋼並に向上するものの、工具と被削材の間に形成される構成刃先が大きく成長することにより切削面の表面粗さが粗くなる問題が残されている。
【0003】
切削面粗さを改善する手段として特開平6−212352号公報では工具と被削材の界面に潤滑性に優れたPb、Bi、MnS、MnTe、MnSeなどの被膜を形成させることで工具とフェライトの凝着を防止し、構成刃先の生成を抑制できることが開示されている。しかし、PbやBi、Sの多量添加は著しく黒鉛化を阻害し、黒鉛化のための焼鈍時間を延長しなくてはならず、製造コストが増加する問題が残されている。
【0004】
一方、黒鉛の析出を促進する手段として特開平2−111842号公報では、BNを黒鉛の析出核として利用することが有効であり、この結果、黒鉛粒径は約5〜10μm程度に微細化することが開示されている。しかし、本発明者らの調査によると、この方法では黒鉛粒径は微細化されているものの黒鉛間の最大距離は100μm程度あり黒鉛分散は不均一である。この原因は、BNはγ粒界やMnS上に析出するため、熱間圧延方向に伸長化したMnS上にBNが列状に析出したり、旧γ粒界に沿って編み目状にBNが析出した結果、黒鉛も列状や網目状に析出し不均一分散になる。更に、BNを黒鉛析出核に利用するにはBN析出のための熱処理が必要となり熱処理工程が増加し製造コストが上昇する。制御圧延によりBNの析出処理を圧延中に行うことも想定できるが、精密な温度管理が必要となる等、製造工程が制約される課題が残されている。また、BNの利用では黒鉛の不均一分散が原因で切削面粗さが改善しない問題が残されている。
【0005】
また、特開平7−3390号公報では、Zrの添加によりZrNが黒鉛化を阻害する固溶Nを低減し、黒鉛化を促進することが開示されている。更に、特開平10−140281号公報ではCaとZrの複合添加によりこれらの複合硫化物を生成し、BNの析出核として機能した結果、5〜10hの焼鈍で黒鉛化率が70%になることが開示されている。しかし、これらの従来方法ではZrの炭窒化物あるいはZrの硫化物を生成するために、約0.01〜0.2mass.%のZrの多量添加が必要である。このため10μmを超える粗大なZr(CN)やZrS等の析出物が生成し、疲労強度や靭性などの機械的特性を劣化したり、硬質なZr(CN)が工具の摩耗を促進し工具寿命が劣化する問題が残されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は切削工具寿命に優れると共に、切削表面粗さも優れた黒鉛快削鋼を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは黒鉛快削鋼の炭素含有量を0.8%超とし、かつS量を0.05%以上として、Zrを微量添加することで、切削工具寿命と切削面粗さの両立が可能となることを見出した。被削性の改善機構は、黒鉛とフェライトの二相構造により適度に構成刃先が成長し工具摩耗を抑制すると共に、高C、高S化により潤滑性が向上したことに加えて黒鉛の均一微細分散化により、構成刃先の成長が適度に抑制された結果、工具と被削材の間の過剰な隙間を防止し切削表面粗さが改善したと考えられる。
【0008】
炭素含有量が0.8%を超える鋼では、セメンタイトを黒鉛化した際に黒鉛粒径が粗大化し、不均一分散となり切削面粗さが劣化する。黒鉛の粗大不均一分散の原因は、黒鉛体積率が多いことに加え、高炭素化により溶鋼中の酸素濃度が低下し、黒鉛の析出核となるAl2O3等の酸化物が減少したことによると考えられる。
【0009】
一方、S含有量が0.05%を超える鋼は黒鉛化時間を著しく長時間化する。MnSなどの硫化物として析出していないSが黒鉛化を著しく阻害していると考えられる。
【0010】
本発明者らは、鋼にZrを微量添加することにより、0.8%を超える高炭素鋼で、かつSを0.05%以上含有しても酸化物が微細分散し、それらを析出核にして黒鉛が均一微細に分散し、切削面の粗さを改善すると共に、黒鉛化時間も著しく短縮化することを見出した。
【0011】
Zrの添加による酸化物の微細分散化効果はとりわけCaOやTi2O3等の酸化物で顕著に認められ、またこれらの酸化物を核に析出するMnSも顕著な微細分散化が認められる。CaOやTi2O3、あるいはMnSなどは黒鉛の析出サイトとして機能するため、Zr添加によりこれらの酸化物や硫化物を微細分散させた鋼材は、焼鈍処理を行うことでこれらの酸化物や硫化物を核として黒鉛が析出する。また酸化物や硫化物はBNなどの炭窒化物と異なり溶鋼中あるいはγ単相域で析出するため組織の影響を受けずに均一分散させることができる。更に黒鉛の析出サイトが多量分散することにより黒鉛化速度が増加し黒鉛化に要する焼鈍時間も短縮化できる。
【0012】
従来からZrを含有した黒鉛鋼は知られていたが、本発明はZrの添加量を0.005%以下にすることでZrS、ZrN、ZrCの生成を抑制したことがポイントである。従来技術によるZrを利用した硫化物の形態制御は硫化物の組成をMnSから変形能が小さい(Zr、X)Sとしたことによる。このためZrの添加量は0.01mass.%以上とする必要があった。しかし、Zrの多量添加は粗大な(Zr、X)Sあるいは硬質なZr(NC)を生成し、機械的特性が劣化する。本発明では、逆にZrの添加量を0.0005〜0.005%の範囲にすることで、(Zr、X)S及びZr(CN)の析出を抑制し、即ち含有Zrの内、ZrSあるいはZr(CN)として析出するZr量を約50%以下に抑制し機械的特性を劣化させる粗大な介在物や硬質なZr(CN)の生成を防止した。この際、添加Zrは酸化物Ti2O3やCaOに固溶することで、酸化物のサイズが均一微細化し、更に酸化物を核に析出するMnSの均一微細分散をなし得た。この結果、酸化物やMnSを核に析出する黒鉛の析出制御を達成するに至った。
【0013】
更に、黒鉛の析出サイトが多量分散することにより黒鉛化速度が増加し黒鉛化に要する焼鈍時間も短縮化できる。本発明者は以上のような知見に基づき従来困難であった高Cかつ高Sの鋼でも短時間で黒鉛化が可能であり、切削面の粗さに優れた黒鉛快削鋼を得るに至った。
【0014】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0015】
(1) 質量%で、
C:0.8超〜2.0%、
Si:0.5〜2.0%、
Mn:0.1〜2.0%、
P:0.5%以下(0%含む)、
S:0.05〜0.5%、
Cu:0.01〜1.0%、
Zr:0.0005〜0.005%、
N:0.0001〜0.02%
Al:0.001〜0.04%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、Zrを含む酸化物を103個/mm2以上含有し、質量%で0.1%以上の黒鉛を含有することを特徴とする快削鋼。
【0016】
(2) 更に、質量%で、
Ti:0.005〜0.05%、
Ca:0.0005〜0.005%、
Mg:0.0005〜0.005%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の快削鋼。
【0017】
(3) 更に、質量%で、
Mo:0.01〜0.5%、
Cr:0.01〜0.7%、
Ni:0.05〜3%、
Co:0.05〜3%、
B :0.0001〜0.01%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)または(2)記載の快削鋼である。
【0018】
(4) 更に、質量%で
Nb:0.005〜0.08%、
V :0.005〜0.2%、
の1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)乃至(3)の内のいずれかに記載の快削鋼である。
【0019】
(5) 更に、質量%で
Pb:0.05%以下、
Bi:0.05%以下、
Sn:0.05〜0.2%、
Te:0.002〜0.02%、
Se:0.002〜0.02%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)乃至(4)の内のいずれかに記載の快削鋼である。
【0020】
【発明の実施の形態】
本発明の化学成分の請求範囲を上記のように定めた理由を以下に示す。
【0021】
Cは黒鉛を生成し切削工具寿命を向上させる。工具寿命改善に必要な黒鉛量を十分確保するためその下限値を0.8%超とした。2.0%を超えると熱間延性が劣化し連続鋳造性の際、割れが発生しやすくなるため上限を2.0%とした。
【0022】
Siは黒鉛化を促進する有力な元素の一つである。短時間の焼鈍処理により十分な黒鉛を析出させて高い黒鉛化率とするためにはSiを添加することが必要であり、その下限値は0.5%である。ただしSi含有量が増大するとフェライト相が固溶硬化し切削工具寿命の劣化を招くので、上限値を2.0%とした。
【0023】
MnはSと結合してMnS、あるいはマトリックス中に固溶Mnとして存在する。MnSは単独あるいは複合介在物を形成し黒鉛の生成サイトとなると共に、潤滑性を向上し切削面粗さを改善する。十分なMnS量を確保するしためその下限値を0.1%とした。ただし固溶Mn量が大きくなると黒鉛化を著しく阻害するので上限値は2.0%とした。
【0024】
Pは鋼中で粒界偏析や中心偏析を起こし靭性劣化の原因となるので少ないほど望ましいが、一方で切削面の粗さを改善するため、その上限値を0.5%(0%を含む)とした。
SはMn、CuあるいはMg等の合金元素と反応して硫化物として存在する。これらの硫化物は黒鉛の核生成サイトとして機能すると共に、潤滑性が向上し切削面粗さを改善する。ただし0.05%未満では十分な量の硫化物が確保できず、またS量が多すぎると熱間延性を劣化させるため上限値を0.5%とした。
【0025】
Cuはセメンタイトを不安定化させると共に硫化物を生成し黒鉛化を促進する。0.01%未満では効果が不十分であり、また1%を超えて添加しても効果は飽和する。
【0026】
ZrはCaOやTi2O3などの酸化物やMnSなどの硫化物を微細分散化させる。これらの酸化物や硫化物は黒鉛の析出サイトとして有効に機能し黒鉛の均一分散化及び短時間黒鉛化に有効である。ただし、Zrの添加量が0.0005%未満ではこれらの効果が認められず、0.005%を超えて添加すると粗大な(Zr、X)Sや硬質なZr(CN)を形成し、Zrによる酸化物の微細化効果が減少するだけでなく破壊特性や被削性を劣化させる。
【0027】
NはAlやTiと結合してAlNやTiNを生成し、結晶粒の細粒化に有効であり、変形能を向上させる。0.0001%未満では効果がなく、0.02%を超えて添加しても効果が飽和するばかりでなく黒鉛化を著しく阻害する。
【0028】
AlはOと結合して酸化物、あるいはNと結合してAlNを形成する。AlNは結晶粒の細粒化に有効であり、焼入れ焼戻し後の靭性を向上させる。0.001%未満ではAlNの量が不十分で細粒化効果が現れず、0.04%を超えるとAl脱酸が支配的になりZrの効果が飽和する。
【0029】
Tiは酸化物Ti2O3や炭窒化物TiNあるいはTiCを形成する。Zrとの複合析出した酸化物は単独あるいはMnSとの複合体を形成し黒鉛の析出サイトとして機能する。一方、炭窒化物はピンニング粒子として機能しγ粒の成長を抑制する効果があり破壊靭性値を向上させる。0.005%未満では黒鉛の析出促進効果あるいは結晶粒細粒化の効果は小さく、また0.05%を超えて添加すると逆に靭性が劣化すると共に被削性も劣化する。
【0030】
Caは酸化物CaOを形成する。Zrと複合析出したCaOは単独あるいはMnSとの複合体を形成し黒鉛の析出サイトとして機能する。0.0005%未満では効果は少なく、0.005%を超えて添加するとCa脱酸が支配的となり粗大なCaOが形成され破壊特性が劣化する。
Mgは酸化物MgOやMgAl2O4を形成し、これらの単独あるいはZrとの複合介在物は黒鉛の析出サイトとして機能する。0.0005%未満では効果が少なく、0.005%以上含有するには製鋼コストが増加する。
【0031】
Moは焼入性を確保するために添加する。焼入性の効果を十分得るために、添加量の下限値を0.01%とした。また0.5%を超えて添加するとフェライト地の硬さが上昇し被削性が劣化すると共に黒鉛化を阻害する。
【0032】
Crは焼入性を確保するために添加する。焼入性の効果を十分得るために添加量の下限値を0.01%とした。また0.7%を超えて添加すると著しく黒鉛化を阻害する。
【0033】
Ni、Coはセメンタイトを不安定化させ黒鉛化を促進させると共に、焼入性を高め強度を確保するのに効果的である。0.05%未満では効果が不十分であり、また3%を超えて添加しても効果は飽和する共に経済的に極めて不利となる。
【0034】
Bは焼入れ性の向上を目的に添加する。効果を得るには0.0001%以上を添加しなければならない。ただし0.01%以上添加すると黒鉛化を阻害すると共に、B化合物が粒界に析出し破壊靭性を劣化させる。
【0035】
NbはNbCあるいはNbNを形成し、ピンニング粒子として機能しγ粒の成長を抑制する効果があり破壊靭性値を向上させる。0.005%未満では結晶粒細粒化の効果は小さく、また0.08%を超えて添加すると逆に靭性が劣化すると共に被削性も劣化する。
【0036】
VはVCあるいはVNを形成し、ピンニング粒子として機能しγ粒の成長を抑制する効果があり破壊靭性値を向上させる。0.005%未満では結晶粒細粒化の効果は小さく、また0.2%を超えて添加すると逆に靭性が劣化すると共に被削性も劣化する。
【0037】
Pb、Biは工具と被削材の界面において凝着を抑制する作用があるので、切削仕上げ面粗さを顕著に改善するが、0.05%を超えると黒鉛化を著しく阻害するため上限をそれぞれ0.05%とした。
【0038】
SnもPb、Biと同様に仕上げ面粗さを改善する効果がある。両者共に0.05%未満では効果が少なく、0.2%を超えると効果が飽和する。
【0039】
Te、Seも同様に切削仕上げ面を改善する効果がある。0.002%未満では効果が小さく、0.02%を超えると熱間加工性が低下する。
【0040】
本発明ではZrを含有する酸化物を特定の個数含有する。Zrを含有する酸化物とはTi2O3やCaOなどの酸化物中にZrを含有した酸化物である。このようにZrが酸化物中に固溶することで酸化物のサイズは微細化し、個数が増加する。これらの酸化物は直接あるいはMnSを媒介にして黒鉛の析出サイトとして機能し、黒鉛を均一分散化させる。Zrを含む酸化物の個数が103個/mm2未満であれば析出サイトが不足し黒鉛は均一に分散することなく、切削面の粗さが劣化する。
【0041】
更に、本発明では含有炭素の一部を黒鉛化させる。黒鉛の質量%が0.1%未満では黒鉛のもつ潤滑性を確保できず被削性が劣化するため、黒鉛量の下限を0.1%とした。
【0042】
熱間圧延あるいは熱間鍛造における加工温度、冷却速度を制御するか、焼鈍時間等を制御することによって、鋼中炭素の一部を黒鉛の形態で析出させて0.1%以上の黒鉛を含有させることができる。
【0043】
【実施例】
表1に示す成分の鋼を溶製鋳造し、分塊圧延によりビレットを製造した。次いでビレットを再加熱してφ20のサイズに熱間圧延した。表2に次式で表される硫化物または炭窒化物として析出するZrの分率、
(ZrS中のZr量+Zr(CN)中のZr量)/鋼の全Zr含有量×100
及び、主たる酸化物の種類、Zrを含有する酸化物の個数、粗大Zr介在物の有無を示す。更に、黒鉛化率90%までの焼鈍時間を示す。Zrの分率の測定は化学分析により求めた。ここで鋼中Zrの分析方法であるが、JIS G 1237−1997付属書3と同様の方法でサンプルを処理した後、鋼中Nb量の分析と同様に鋼中Zr量をICP(誘導結合プラズマ発光分光分析法)によって測定した。ただし、本発明での実施例の測定に供したサンプルは2g/鋼種で、ICPにおける検量線も微量Zrに適するように設定して測定した。即ち、Zr濃度が1〜200ppmとなるようにZr標準液を希釈して異なるZr濃度の溶液を作成し、そのZr量を測定することで検量線を作成した。なおこれらのICPに関する共通的な方法についてはJIS K 0116−1995(発光分光分析方法通則)及びJIS Z 8002−1991 (分析、試験の許容差通則)による。
【0044】
【表1】
【0045】
【表2】
【0046】
主たる酸化物の組成とZrを含有する酸化物の個数は、熱間圧延後の棒鋼を1200℃に60分間加熱し水焼入れしたサンプルの1/2R部より抽出レプリカ試料を作製し、TEM(透過型電子顕微鏡)を用いて50000倍の倍率で1000μm2の面積を観察することで評価した。介在物の同定はエネルギー分散型X線検出器(EDS)と、TEM電子線回折で行った。
【0047】
粗大Zr介在物は黒鉛化焼鈍後の棒鋼の1/2R部より採取したサンプルを用いSEM(走査型電子顕微鏡)により総視野1mm2を観察することで評価した。10μmを超えるZrを含有する介在物を粗大Zr介在物とした。視野中に観察されたZr系介在物がいずれも10以下の場合、無しとした。
【0048】
黒鉛化率90%までの焼鈍時間は、熱間圧延材を700℃の焼鈍炉に種々の時間保持し次式で示される黒鉛化率を求め、黒鉛化率が90%に達する焼鈍時間とした。
黒鉛化率(%)=(鋼中黒鉛含有量/鋼の炭素含有量)×100
ここで、炭素含有量及び黒鉛含有量は化学分析により定量した。
【0049】
表2に示したように本発明鋼の請求範囲を満足する鋼1〜21は含有Zrの内ZrSあるいはZr(CN)の形態で析出している割合はいずれも24%以下である。また主な酸化物はZrを含有したAl2O3やTi2O3やCaOあるいはMgAl2O4などである。機械的特性や被削性を劣化させる粗大Zr系介在物の生成が顕著に抑制されている。更に、黒鉛化率90%までの焼鈍時間は本発明鋼はいずれも11h以下である。Zrを含有しない鋼種31、Cuを含有しない鋼29は、それぞれ26h、24hで黒鉛化が遅延する。Zrの含有量が本発明範囲を超える鋼種は、19μm以上の粗大なZr系介在物を生成する。
【0050】
被削性試験結果は表3に示す。被削性試験に用いた供試材は表1の鋼種1〜34である。表3に示す、熱間圧延後の棒鋼の焼鈍条件を制御した黒鉛化処理、あるいは熱間鍛造または熱間圧延の条件を制御した黒鉛化処理を行った。鋼種18、19は1250℃で熱間鍛造し、空冷した材料を用いた。鋼種20、21は圧延温度を制御して黒鉛含有量を調整した熱間圧延ままの棒鋼を用いた。鋼中の黒鉛含有量は化学分析により定量した。被削性の評価にはドリル寿命(VL1000)と切削面粗さ(Rz)で評価した。
【0051】
【表3】
【0052】
ここでドリル寿命を示す指標VL1000とは累積穴深さ1000mmまで穿孔可能な最大のドリル周速のことで、この値が大きいほど高速で切削可能であり、被削性に優れることを意味する。被削性の評価には黒鉛化焼鈍後のサンプルを用いた。なお、鋼16は熱間圧延ままサンプルで評価した。切削試験は講義寿命を示す指標であるVL1000で評価した。φ5mmのストレートドリルを用い送り0.33mm/revで水溶性切削油を用いて、ドリル周速を変化させてドリル折損までの累積穿孔深さを測定し、それをもとにVL1000を求めた。
【0053】
切削面粗さはプランジ切削したときの切削表面を蝕針式粗さ計で測定しJISB0601に準拠した十点平均粗さRzで評価した。切削条件はプランジ切削用高速度工具SKH57を用いて、切削速度80m/min、送り0.05m/revで表面粗さRzを評価した。
【0054】
硫黄快削鋼SUM23のVL1000は90m/minであり、黒鉛の含有量が0.1%を超える鋼のVL1000はいずれの鋼種でも硫黄快削鋼より優れた工具寿命である。図1に黒鉛量と工具寿命VL1000との関係を示す。図2にZr含有量と工具寿命VL1000の関係を示す。Zr量が0.005%を超える鋼ではVL1000が劣化する。
【0055】
一方切削面粗さは、図3に示すようにS量の増加に伴い減少する。硫黄快削鋼SUM23の切削面粗さは26μmであり、S量が0.05〜0.5%の範囲とすることでRzはSUM23より小さくなり切削面粗さに優れる。S量が0.05%〜0.5%の範囲でもC量が本発明の範囲を外れる鋼種は切削面粗さが劣化する。図4にC量とRzの関係を示す。C量の増加に伴い、Rzが低下し、C量が0.8超〜2.0%の範囲ではSUM23より小さくなり切削面粗さに優れる。本発明の範囲を満たす鋼種は硫黄快削鋼SUM23より優れた切削面粗さである。
【0056】
本請求範囲を満たす鋼は切削工具寿命と切削面粗さの両面において硫黄快削鋼より優れた特性を示し、被削性が優れている。
【0057】
【発明の効果】
以上の実施例からも明らかなように本発明によれば、黒鉛が微細分散し、切削工具寿命と切削仕上げ面粗さに優れた黒鉛鋼を低コストで提供することが可能であり、産業上の効果は極めて顕著なるものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】工具寿命に及ぼす黒鉛量の影響を示す図である。
【図2】工具寿命に及ぼすZr含有量の影響を示す図である。
【図3】切削表面粗さに及ぼすS含有量の影響を示す図である。
【図4】切削表面粗さに及ぼすC含有量の影響を示す図である。
Claims (5)
- 質量%で、
C:0.8超〜2.0%、
Si:0.5〜2.0%、
Mn:0.1〜2.0%、
P:0.5%以下(0%含む)、
S:0.05〜0.5%、
Cu:0.01〜1.0%、
Zr:0.0005〜0.005%、
N:0.0001〜0.02%
Al:0.001〜0.04%
を含有し、残部がFe及び不可避的不純物であり、Zrを含む酸化物を103個/mm2以上含有し、質量%で0.1%以上の黒鉛を含有することを特徴とする快削鋼。 - 更に、質量%で、
Ti:0.005〜0.05%、
Ca:0.0005〜0.005%、
Mg:0.0005〜0.005%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1記載の快削鋼。 - 更に、質量%で、
Mo:0.01〜0.5%、
Cr:0.01〜0.7%、
Ni:0.05〜3%、
Co:0.05〜3%、
B :0.0001〜0.01%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2記載の快削鋼。 - 更に、質量%で
Nb:0.005〜0.08%、
V :0.005〜0.2%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至3の内のいずれかに記載の快削鋼。 - 更に、質量%で
Pb:0.05%以下、
Bi:0.05%以下、
Sn:0.05〜0.2%、
Te:0.002〜0.02%、
Se:0.002〜0.02%
の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至4の内のいずれかに記載の快削鋼。
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