JP4002411B2 - 被削性に優れた機械構造用鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は切削や冷間鍛造で成形し、自動車や産業機械などの部品として使用する機械構造用鋼に関わり、特にセメンタイトを黒鉛化することで冷間加工性を向上した黒鉛鋼に関わるものである。
【0002】
【従来の技術】
中炭素鋼の組織をフェライトと黒鉛の組織にすることにより冷間鍛造性及び切削性が向上することは従来から知られており、黒鉛による切削性の向上は、層間結合力が弱い結晶構造をもつことから潤滑性に優れること、あるいは黒鉛がチップブレーカーとして機能するためと考えられ、その技術は特開昭49−67816号公報に開示されている。しかしながら、この方法では切削工具寿命はPb快削鋼並に向上するものの、工具と被削材の間に形成される構成刃先が大きく成長することにより切削面の表面粗さが粗くなる問題が残されている。
【0003】
切削面粗さを改善する手段として特開平6−212352号公報では工具と被削材の界面に潤滑性に優れたPb、Bi、MnS、MnTe、MnSeなどの被膜を形成させることで工具とフェライトの凝着を防止し構成刃先の生成を抑制できることが開示されている。しかし、PbやBi、Sの多量添加は著しく黒鉛化を阻害し、黒鉛化のための焼鈍時間を延長しなくてはならず、製造コストが増加する問題が残されている。
【0004】
一方、黒鉛の析出を促進する手段として特開平2−111842号公報では、BNを黒鉛の析出核として利用することが有効であり、この結果、黒鉛粒径は約5〜10μm程度に微細化することが開示されている。しかし、本発明者らの調査によると、この方法では黒鉛粒径は微細化されているものの黒鉛間の最大距離は100μm程度あり黒鉛分散は不均一である。この原因は、BNはオーステナイト粒界やMnS上に析出するため、熱間圧延方向に伸長化したMnS上にBNが列状に析出したり、旧オーステナイト界に沿って編み目状にBNが析出した結果、黒鉛も列状や網目状に析出し不均一分散になると推定できる。更に、BNを黒鉛析出核に利用するにはBN析出のための熱処理が必要となり熱処理工程が増加し製造コストが上昇する。制御圧延によりBNの析出処理を圧延中に行うことも想定できるが、精密な温度管理が必要となる等、製造工程が制約される課題が残されている。またBNの利用では黒鉛粒径が微細化しても黒鉛の不均一分散が原因で切削面粗さが改善しない問題が残されている。
【0005】
また特開平7−3390号公報ではZrの添加によりZrNが黒鉛化を阻害する固溶Nを低減すると共に黒鉛析出核として機能し黒鉛が微細化することが開示されている。更に、特開平10−140281号公報ではCaとZrの複合添加によりこれらの複合硫化物を生成し、BNの析出核として機能した結果、黒鉛が微細化し5〜10hの焼鈍で黒鉛化率が70%になることが開示されている。しかし、これらの従来方法ではZrの炭窒化物あるいはZrの硫化物を生成するために、約0.01〜0.2wt.%のZrの多量添加が必要である。このため10μmを超える粗大なZr(CN)やZrS等の析出物が生成し、疲労強度や靭性などの機械的特性を劣化させたり、粗大なZr(CN)が工具の摩耗を促進し工具寿命が劣化する問題が残されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は機械構造用鋼として切削工具寿命に優れると共に、切削表面粗さも優れた黒鉛鋼を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは黒鉛鋼の炭素含有量を1.0%以上とし、かつS量を0.1%以上、Mgを添加することで、短時間の焼鈍による軟質化と切削工具寿命と切削面粗さの両立が可能となることを見出した。被削性の改善機構は、黒鉛とフェライトの二相構造により適度に構成刃先が成長し工具摩耗を抑制すると共に、高C、高S化により潤滑性が向上したことに加えて黒鉛サイズの微細化により、構成刃先の成長が適度に抑制された結果、工具と被削材の間の過剰な隙間を防止し切削表面粗さが改善したと考えられる。
【0008】
炭素含有量が1.0%を超える鋼では、セメンタイトを黒鉛化した際に黒鉛粒径が粗大化し、高周波焼入れ特性、冷間鍛造性、あるいは部品の疲労特性を劣化させる。黒鉛粗大化の原因は、黒鉛体積率が多いことに加え、高炭素化により溶鋼中の酸素濃度が低下し、黒鉛の析出核となるAl2O3等の酸化物が減少したことによると考えられる。
一方、S含有量が0.1%を超える鋼は黒鉛化時間を著しく長時間化する。MnSなどの硫化物として析出していないSが黒鉛化を著しく阻害していると考えられる。またS含有量が増加すると硫化物が粗大化し硫化物をサイトに析出する黒鉛も粗大化し、冷間鍛造性や疲労特性を劣化させると共に、高周波焼入れ後に粗大な黒鉛の分解が不十分なため、マルテンサイトとフェライトの混在した組織となり、熱処理後の疲労特性を顕著に劣化させる。
【0009】
本発明者らは、鋼にMgを微量添加することにより、1.0%を超える高炭素鋼で、かつSを0.1%以上含有してもMg系の酸化物が微細分散し、それらを析出核にして黒鉛が均一に、かつ微細に分散し、黒鉛化時間も著しく短縮化することを見出した。
【0010】
Mgの添加により生成する酸化物の形態はMgOあるいはMgAl2O4が主体であるがMg−Si系、Mg−Ti系の酸化物も存在する。更にMgの添加によりMgを含有しない酸化物、例えばAl2O3、Ti2O3なども微細化する効果を有する。またこれらの酸化物を核に析出するMnSなどの硫化物も顕著な微細化が認められる。酸化物や硫化物、あるいはこれらの複合介在物は黒鉛の析出サイトとして機能するため、Mg添加によりこれらの酸化物や硫化物を微細分散させた鋼材は、焼鈍処理を行うことでこれらの酸化物や硫化物を核として黒鉛が微細析出する。また酸化物や硫化物はBNなどの炭窒化物と異なり溶鋼中あるいは纈P相域で析出するため組織の影響を受けずに均一分散させることができる。
【0011】
更に黒鉛の析出サイトが多量分散することにより黒鉛化速度が増加し黒鉛化に要する焼鈍時間も短縮化できる。本発明者は以上のような知見に基づき従来困難であった高Cかつ高Sの鋼でも短時間で黒鉛化が可能であり、冷間鍛造性や疲労特性の劣化の原因となる粗大黒鉛の生成を防止した被削性に優れた機械構造用鋼を得るに至った。
【0012】
本発明の要旨は以下の通りである。
【0013】
(1) 質量%で、
C:1.0〜2.0%、
Si:0.5〜2.0%、
Mn:0.1〜2.0%、
P:0.001〜0.1%、
S:0.1〜0.5%
Al:0.001〜0.05%、
N:0.0001〜0.02%、
Mg:0.0001〜0.009%
を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなり、金属組織がフェライト、黒鉛、及びセメンタイトからなり、黒鉛化率が80%を超えることを特徴とする被削性に優れた機械構造用鋼。
【0014】
(2) 質量%で、
Mo:0.01〜0.5%、
Cr:0.01〜0.7%、
Ni:0.05〜3%、
Co:0.05〜3%、
Cu:0.05〜3%、
B:0.0001〜0.01%
の1種または2種以上を更に含有することを特徴とする上記(1)記載の機械構造用鋼。
【0015】
(3) 質量%で、
Zr:0.0005〜0.02%、
Ca:0.0001〜0.005%
の1種または2種を更に含有することを特徴とする(1)または(2)記載の機械構造用鋼。
【0016】
(4) 質量%で、
Ti:0.001〜0.05%、
Nb:0.005〜0.08%、
V :0.005〜0.2%
の1種または2種以上を更に含有することを特徴とする(1)乃至(3)の内のいずれかに記載の機械構造用鋼。
【0017】
(5) 質量%で、
Pb:0.01〜0.05%、
Bi:0.01〜0.05%、
Sn:0.05〜0.2%、
Te:0.002〜0.02%、
Se:0.002〜0.02%
の1種または2種以上を更に含有することを特徴とする(1)乃至(4)の内のいずれかに記載の機械構造用鋼。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の機械構造用鋼の化学成分を限定した理由を以下に説明する。
【0019】
Cは黒鉛を生成し切削工具寿命を向上させる。工具寿命改善に必要な黒鉛量を十分確保するためその下限値を1.0%とした。上限は連続鋳造の際の熱間延性を確保するために2.0%とした。
【0020】
Siは黒鉛化を促進する有力な元素の一つである。短時間の焼鈍処理により十分な黒鉛を析出させて高い黒鉛化率とするためにはSiを添加することが必要であり、その下限値は0.5%である。ただしSi含有量が増大するとフェライト相が固溶硬化し冷間加工性の劣化を招くので、上限値を2.0%とした。
【0021】
MnはSと結合してMnS、あるいはマトリックス中に固溶Mnとして存在する。MnSは単独あるいは複合介在物を形成し黒鉛の生成サイトとなると共に、潤滑性を向上し切削面粗さを改善する。十分なMnS量を確保するしためその下限値を0.1%とした。ただし固溶Mn量が大きくなると黒鉛化を著しく阻害するので上限値は2.0%とした。
【0022】
Pは鋼中で粒界偏析や中心偏析を起こし靭性劣化の原因となるので少ないことが望ましいが、被削性の観点からは切削面の粗さを改善するため、表面粗さを必要とする鋼の場合には適量を添加する。その含有量は、0.001%未満ではその効果が認められないので0.001%を下限とした。また、0.1%を超えると靭性が劣化し、圧延中にも割れを生じたりするため、0.1%を上限とした。
【0023】
SはMn、MgあるいはCu等の合金元素と反応して硫化物として存在する。これらの硫化物は黒鉛の核生成サイトとして機能すると共に、潤滑性を向上し切削面粗さを改善する。ただし0.1%未満では十分な量の硫化物が確保できず、またS量が多すぎると熱間延性を劣化させるため上限値を0.7%とした。
【0024】
AlはOと結合して酸化物、あるいはNと結合してAlNを形成する。AlNは結晶粒の細粒化に有効であり、焼入れ焼戻し後の靭性を向上させる。0.001%未満ではAlNの量が不十分で細粒化効果が現れず、0.05%を超えるとAl脱酸が支配的になりMgの効果が飽和する。
【0025】
NはAlやTiと結合してAlNやTiNを生成し、結晶粒の細粒化に有効であり、加工性を向上させる。0.0001%未満では効果がなく、0.02%を超えて添加しても効果が飽和するばかりでなく黒鉛化を著しく阻害する。
【0026】
Mgは酸化物MgOやMgAl2O4を形成し、これらは単独あるいは硫化物との複合介在物を生成し黒鉛の析出サイトとして機能する。0.0001%未満では効果が少なく、0.009%以上含有させるには製鋼コストが増加する。またMgの添加は黒鉛粒の微細化に効果があり、たとえ黒鉛化率が同じであっても微細分散している方が高周波焼入れ等の性能に優れる。即ち高周波焼入れのように短時間加熱による硬化処理において、均一な表面硬化層を形成させるためには短時間に黒鉛が鋼中に固溶、拡散しなければならない。そのため短い拡散距離で表面一帯に均一にCを拡散できるように黒鉛を微細分散させることが非常に有効である。この点でMgは非常に有効な元素である。
【0027】
Moは焼入性を確保するために添加される。焼入性の効果を十分得るために、添加量の下限値を0.01%とした。また0.5%を超えて添加するとフェライト地の硬さが上昇し冷間加工性が損なわれると共に黒鉛化を阻害する。
【0028】
Crは焼入性を確保するために添加される。焼入性の効果を十分得るために添加量の下限値を0.01%とした。また0.7%を超えて添加すると著しく黒鉛化を阻害する。
【0029】
Ni、Co、Cuはセメンタイトを不安定化させ黒鉛化を促進させると共に、焼入性を高め強度を確保するのに効果的である。0.05%未満では効果が不十分であり、また3%を超えて添加しても効果は飽和する共に経済的に極めて不利となる。
【0030】
Bは焼入れ性の向上を目的に添加する。効果を得るには0.0001%以上を添加しなければならない。ただし0.01%を超えて添加すると黒鉛化を阻害すると共に、B化合物が粒界に析出し破壊靭性を劣化させる。
【0031】
ZrはCaOやTi2O3などの酸化物やMnSなどの硫化物を微細分散化させる。これらの酸化物や硫化物は黒鉛の析出サイトとして有効に機能し黒鉛の微細分散化及び短時間黒鉛化に有効である。ただし、Zrの添加量が0.0005%未満ではこれらの効果が認められず、0.02%を超えて添加すると粗大な(Zr、X)SやZr(CN)を形成し、Zrによる酸化物の微細化効果が減少するだけでなく破壊特性を劣化させる。
【0032】
CaはCaO、あるいはCaSを形成する。CaOやCaSは単独あるいはMnSとの複合体を形成し黒鉛の析出サイトとして機能すると共に切削面粗さを改善する。0.0001%未満では効果は少なく、0.005%を超えて添加するとCa脱酸が支配的となり粗大なCaOが形成され疲労特性を劣化させる。
【0033】
Tiは酸化物Ti2O3や炭窒化物TiNあるいはTiCを形成する。炭窒化物はピンニング粒子として機能しオーステナイト粒の成長を抑制する効果があり破壊靭性値を向上させる。0.001%未満では黒鉛微細化あるいは結晶粒細粒化の効果は小さく、また0.05%を超えて添加すると逆に靭性が劣化する。
【0034】
NbはNbCあるいはNbNを形成し、ピンニング粒子として機能しオーステナイト粒の成長を抑制する効果があり破壊靭性値を向上させる。0.005%未満では結晶粒細粒化の効果は小さく、また0.08%を超えて添加すると逆に靭性が劣化する。
【0035】
VはVCあるいはVNを形成し、ピンニング粒子として機能しオーステナイト粒の成長を抑制する効果があり破壊靭性値を向上させる。0.005%未満では結晶粒細粒化の効果は小さく、また0.2%を超えて添加すると逆に靭性が劣化する。
【0036】
Pb、Biは工具と被削材の界面において凝着を抑制する作用があるので、切削仕上げ面粗さを顕著に改善するが、0.01%未満ではその効果が認められず、0.05%を超えると黒鉛化を著しく阻害するため上限を0.05%とした。
【0037】
SnもPb、Biと同様に仕上げ面粗さを改善する効果がある。0.05%未満では効果が少なく、0.2%を超えると効果が飽和する。
【0038】
Te、Seも同様に切削仕上げ面を改善する効果がある。0.002%未満では効果が小さく、0.02%を超えると熱間加工性が低下する。
【0039】
黒鉛化率とは下記の式(1)で定義されるものである。
黒鉛化率(%)=(鋼中黒鉛含有量/鋼の炭素含有量) ・ ・ ・(1)
【0040】
黒鉛化率に関しては鋼中Cが黒鉛化すると黒鉛のもつ変形に対する潤滑、易変形特性が発揮できるため、切削工具寿命が向上する。その黒鉛の効果は80%以上で顕著なため、これを下限とした。また黒鉛化率が不足すると硬質でこの点からも黒鉛化率によって工具寿命に差が生じる。そして、黒鉛率化率80%を超える黒鉛化を行うことにより、フェライト、黒鉛及びセメンタイトからなる金属組織が得られる。
【0041】
【実施例】
表1の化学成分の鋼を要請、分塊圧延−圧延−オフライン焼鈍によりφ10mmの鋼線材を作成した。
【0042】
【表1】
【0043】
なお、鋼12は比較例であり、従来の硫黄快削鋼なので熱間圧延ままサンプルで評価した。熱間圧延条件は800〜900℃で圧延し、冷却した。その後、焼鈍炉により690℃で保定した。黒鉛化による軟化特性や黒鉛粒径は前組織の作り込み条件によって異なるので、圧延終了後の冷却方法は▲1▼空冷、▲2▼オンライン水冷の2種類を作成した。▲1▼空冷ではフェライトパーライト主体の前組織を生成させ、▲2▼オンライン水冷では圧延直後に水槽に投入することで、マルテンサイトまたはベイナイトが焼鈍前組織となる。
【0044】
被削性試験結果、焼鈍軟化特性及び高周波焼入れ特性を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
被削性の評価には前処理:▲1▼空冷、690℃にて24時間焼鈍後のサンプルを用いた。また軟化特性や高周波焼入れ特性に関しては顕著に鋼種間の差が見られるように前処理:▲2▼水冷、690℃での焼鈍サンプルを用いた。軟化特性は黒鉛化率90%までの焼鈍時間、黒鉛化焼鈍後の黒鉛平均粒径で評価した。
【0047】
被削性の評価にはドリル寿命(VL1000)と切削面粗さ(Rz)で評価した。ここでドリル寿命を示す指標VL1000とは累積穴深さ1000mmまで穿孔可能な最大のドリル周速のことで、この値が大きいほど高速で切削可能であり、被削性に優れることを意味する。ドリルはφ5mmのストレートドリルを用い、送り0.33mm/rev、水溶性切削油を用いてドリル周速を変化させてドリル折損までの累積穿孔深さを測定し、それをもとにVL1000を求めた。
【0048】
更に各サンプルの性能差が顕著になるように前処理:▲2▼水冷とした場合の焼鈍時間と黒鉛化後の黒鉛粒径、高周波焼入れ特性を評価した。
【0049】
切削表面粗さはプランジ切削したときの切削表面を蝕針式粗さ計で測定し、JIS B0601に準拠した十点平均粗さRzで評価した。図1に切削方法を示す。切削条件は切削工具1を用いて切削速度80m/min、工具送り0.05mm/revで、2.5s切削後、工具を引き抜き6s間空転させる操作を1サイクルとし、切削により次々と溝が丸棒表面に創成されるので、その100サイクル目の溝底の切削面2の切削表面粗さを測定した。切削面粗さはプランジ切削用高速度工具SKH57を用いて、切削速度80m/min、送り0.05m/revで表面粗さRzを評価した。
【0050】
黒鉛化率90%までの焼鈍時間は、熱間圧延材を690℃の焼鈍炉に種々の時間保持し次式で示される黒鉛化率を求め、黒鉛化率が90%に達する焼鈍時間とした。
【0051】
黒鉛化率(%)=(鋼中黒鉛含有量/鋼の炭素含有量)×100
ここで、炭素含有量及び黒鉛含有量は化学分析により定量した。黒鉛の平均粒径及び最大粒径はSEMの反射電子線を利用した画像解析システムを利用して総視野0.25mm2を測定することで評価した。
【0052】
また高周波焼入れ特性は、黒鉛析出状態の鋼を直径8mmに旋削した丸棒を用いて、1000℃で3秒間の加熱条件で行った。その後、丸棒表層から1〜3mmの範囲を円周方向に硬さ試験と光学顕微鏡観察を行った。円周方向の硬度差が100(Hv)以上ある場合、もしくは焼入れ組織にフェライトが存在する場合は高周波焼入れ性が不良と判定した。
【0053】
図2にC量と被削性VL1000の関係を示す。硫黄快削鋼SUM23のVL1000は92m/minであり、本発明鋼のVL1000はいずれの鋼種でも硫黄快削鋼と同等以上の工具寿命である。Sが比較的多く添加されている場合にはC量が少ないとVL1000が小さく、SUM23のレベルには到達していなかった。またMgを添加しなかったサンプルに関しては前処理を空冷とした場合、24時間の焼鈍では十分に軟質化しなかったため、ドリル工具寿命に劣った。
【0054】
図3にプランジ切削の表面粗さに及ぼすS量の影響を示す。S量が多い方が表面粗さに優れ、S>0.1%でSUM23よりも良好な表面粗さとなる。なおドリル寿命に劣る実施例のサンプルに関してはプランジ切削は実施しなかった。
【0055】
更に表1の成分の鋼に関して、▲2▼水冷によって前組織を作成したサンプルの軟化に必要な焼鈍時間と黒鉛化後の黒鉛粒径、高周波焼入れ特性の評価結果では、Mg添加は軟化に必要な焼鈍時間の短縮と黒鉛粒径の微細化に大きな効果があった。更にMg添加材は微細化したため、高周波焼入れ時の硬化層ばらつきも小さく、良好な効果層が得られた。
【0056】
更に表3に化学成分に関して同様の評価を行った。
【0057】
【表3】
【0058】
その結果を表4及び図4、図5に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
サンプルの製造方法及び評価項目は表1のサンプルと同様である。図4にC量とVL1000との関係を示す。S量が本発明の範囲である0.1〜0.7%の鋼ではC量の増大に伴いVL1000が増加する傾向を示すが、Mg含有量が異なる鋼は黒鉛化不足のため硬度が高くVL1000も低い値である。一方切削面粗さは、C量の図5に示すようにC量の増加に伴い減少する。S量が0.1%に満たない鋼種はいずれも硫黄快削鋼の表面粗さに達していない。S量が0.1〜0.5%の範囲とすることでRzは更に減少し、C量が本発明の範囲の1.0%以上となる鋼種は硫黄快削鋼SUM23と同等以上の切削面粗さである。即ち、C、S及びMgの範囲を本発明の範囲とすることで、工具寿命と切削面粗さのいずれも硫黄快削鋼と同等以上にすることが可能となる。
【0061】
表4に示したように本発明鋼の請求範囲を満足する鋼13〜27は、いずれも▲2▼水冷の場合、13時間以下の焼鈍時間で黒鉛化率90%に達している。一方Mgの範囲が本発明と異なる鋼28〜36はいずれも20時間以上の焼鈍が必要である。特にS含有量が0.1%を超える鋼29、30〜32、34、35は29時間以上の焼鈍時間を要する。更に黒鉛の最大粒径は比較例がいずれも4μmを超えるのに対し本発明鋼の黒鉛の最大粒径は4μm以下であり著しく微細化している。また高周波焼入れ特性は黒鉛粒径の影響を受け、微細な黒鉛粒を有するサンプルでは均一に硬化したが、粗大な黒鉛粒のものはばらつきが大きく不適と判定された。
【0062】
本請求範囲を満たす鋼は切削工具寿命と切削面粗さの両面において硫黄快削鋼以上の特性を示し、被削性が優れ、かつ高周波焼入れ性も優れている。
【0063】
【発明の効果】
本発明によれば、黒鉛が微細分散し、切削工具寿命と切削仕上げ面粗さに優れた黒鉛鋼を低コストで提供することが可能であり、産業上の効果は極めて顕著なるものがある。
【図面の簡単な説明】
【図1】プランジ切削方法を示す図である。
【図2】工具寿命に及ぼすC量の影響を示す図である。
【図3】表面粗さに及ぼすS量の影響を示す図である。
【図4】C含有量とドリル寿命VL1000の関係を示す図である。
【図5】C含有量と切削面粗さRzの関係を示す図である。
【符号の説明】
1 切削工具
2 切削面
Claims (5)
- 質量%で、
C:1.0〜2.0%、
Si:0.5〜2.0%、
Mn:0.1〜2.0%、
P:0.001〜0.1%、
S:0.1〜0.7%
Al:0.001〜0.05%、
N:0.0001〜0.02%、
Mg:0.0001〜0.009%
を含有し、残部がFeと不可避的不純物からなり、金属組織がフェライト、黒鉛、及びセメンタイトからなり、黒鉛化率が80%を超えることを特徴とする被削性に優れた機械構造用鋼。 - 質量%で、
Mo:0.01〜0.5%、
Cr:0.01〜0.7%、
Ni:0.05〜3%、
Co:0.05〜3%、
Cu:0.05〜3%、
B:0.0001〜0.01%
の1種または2種以上を更に含有することを特徴とする請求項1記載の機械構造用鋼。 - 質量%で、
Zr:0.0005〜0.02%、
Ca:0.0001〜0.005%
の1種または2種を更に含有することを特徴とする請求項1または2記載の機械構造用鋼。 - 質量%で、
Ti:0.001〜0.05%、
Nb:0.005〜0.08%、
V :0.005〜0.2%、
の1種または2種以上を更に含有することを特徴とする請求項1乃至3の内のいずれかに記載の機械構造用鋼。 - 質量%で
Pb:0.01〜0.05%、
Bi:0.01〜0.05%、
Sn:0.05〜0.2%、
Te:0.002〜0.02%、
Se:0.002〜0.02%
の1種または2種以上を更に含有することを特徴とする請求項1乃至4の内のいずれかに記載の機械構造用鋼。
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