JP3898810B2 - アークスタート時の溶接安定性判定方法及び安定性判定装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、消耗電極式ガスシールドアーク溶接の、アークスタート時におけるアーク放電状態の不安定性に起因して発生する溶接品質不良の流出防止のための、アークスタート時の溶接安定性判定方法及び装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
消耗電極式ガスシールドアーク溶接では、溶接電源の出力制御方式が制御素子の進歩によりサイリスタ方式からインバータ方式に変化し、制御速度が300Hzから15〜60KHzへと約50〜200倍も高速化され溶接電流の波形制御ができるようになり、アークスタート性能の向上、高速溶接での溶接状態の規則性向上やスパッタの発生量低減が可能となり、溶接現象の規則性が改善されつつある。しかしアークスタート時は溶接ワイヤが全く加熱していない被溶接材に接触するという状態のために種々の異常現象が発生し易く、溶接ロボット等による自動溶接ラインの大きな問題となっていた。
【0003】
このアークスタート時の溶接現象の安定性の良否は、一般に作業者や技術者が溶接ビード外観の均一性を目視する事により判定をしていた。しかし目視による定性的な判定であるために、微小な異常の場合の判定には個人差があり、インラインでの判定に統一的な基準を求めることは困難であった。
【0004】
またアークスタート時の溶接現象を計測装置により、溶接電流・電圧を測定し判定する方法もあるが、解析に時間を要しインライン化は困難であった。さらにこれらのデータは必ずしも定量的なデータとは言えず、アークスタート時の溶接現象の安定性を正確に評価する事は困難であった。
【0005】
例えば特公平2−62017号公報(以下、第1の従来技術と言う)には、溶接電圧を測定することにより短絡期間とアーク期間とを判別し、それぞれの期間における溶接電流と溶接電圧波形の観測結果を所定の関数で演算し、アーク状態の均一性の程度、アーク切れの程度、アークの燃え上がり度により、溶接性の良否を判定する技術が開示されている。
【0006】
また特公平7−2275号公報(以下、第2の従来技術と言う)には、溶接電流、溶接電圧の監視区間設定手段を用いて、それぞれの移動平均を演算し、溶接状況や溶接結果を判定する技術が開示されている。
【0007】
さらに特開平6−262346号公報(以下、第3の従来技術と言う)には、アーク発生確認信号がオンになると溶接電圧の監視を開始し、溶接電圧が所定の判定電圧以下となった時間を累積し、該累積時間が所定の判定値に達した場合、溶接品質に異常が生じたと判断する技術が開示されている。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記第1の従来技術の場合、計測区間の設定がされていないため、アークスタート直後から定常部までのデータで判定を行うと誤判定を招く恐れがあると言う欠点を有している。なぜならアーク放電開始直後のアークは不安定で、定常部の溶接には直接関与するものではないためである。またアーク切れの程度をアーク期間中の平均電流(I)・電圧(V)による平均抵抗(R=V/I)を用い、またアークの燃え上がり度をアーク期間中の電力(P=I×V)を用いて表しているが、アーク期間中の平均電流はアーク時間によって変化しやすく、この平均電流を用いて、アーク切れの程度及びアークの燃え上がり度の判定を行うと誤判定を招く恐れがあるという欠点を有している。
【0009】
また、上記第2の従来技術の場合、アーク放電開始直後の溶接現象の不安定な期間では誤判定を招きやすく、アークスタート時の溶接現象の安定性の程度を正確に評価できないと言う欠点を有している。
【0010】
さらに、上記第3の従来技術の場合、溶接電圧が所定の判定電圧以下となった時間の累積により、溶接品質異常の判定を行っているが、ワイヤスティック現象には至らない長期短絡や、アーク切れの繰り返しによるアークの不安定現象の判定が困難で、アークスタート時の溶接品質異常の誤判定を招く恐れがあると言う欠点を有している。
【0011】
以上のように従来のアークスタート時の溶接現象の安定性の判定は定性的なものであり、解析に時間を要し、アーク溶接ロボット等による自動溶接ライン及び半自動溶接ラインにおけるアークスタート時の溶接現象の不安定状態に起因して発生する溶接品質不良の流出防止を図る上で、なお大きな問題となっていた。
【0012】
現状ではアークスタート時の溶接現象の安定性を監視する方法はなく、溶接現象の安定化対策として定期的にワイヤ送給経路を清掃したり、ワイヤコンジットケーブルを交換したり、コンタクトチップを交換したり、あるいは溶接欠陥が生じてからこれらの対策を実施していた。
【0013】
本発明は上記従来技術の問題点に鑑みてなされたもので、アークスタート時の溶接現象の状況を正確に捉え、アークスタート時の溶接状態の安定性の良否を迅速に判定する方法及び装置を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、
短絡とアークを交互に繰り返しながら溶接をする消耗電極式ガスシールドアーク溶接のアークスタート部溶接状態判定方法であって、溶接電極(以下溶接ワイヤと称す)と被溶接材間の溶接電圧を検出する電圧検出手段と、溶接ワイヤと被溶接材を流れる溶接電流を検出する電流検出手段を用いて出力されるアナログ出力信号を所定のサンプリング周波数でデジタル信号に変換して、
(a)ワイヤスティック時間
(b)アーク途切れ時間
(c)長期短絡時間
(d)無負荷電圧時間
(e)アークスタート電流立ち上がり速度
の5項目の内、任意の1又は2項目以上を演算し、それぞれに対応する基準値と比較して、何れか1つでも基準値との差が予め設定した許容範囲を越えた時に溶接が不安定または不良であると判定することを特徴とするアークスタート時の溶接安定性判定方法である。
【0015】
そして、請求項2の発明は、
短絡とアークを交互に繰り返しながら溶接をする消耗電極式ガスシールドアーク溶接のアークスタート時の溶接現象安定性の程度を判定する装置であって、溶接ワイヤと被溶接材間の溶接電圧を検出する電圧検出手段と、溶接ワイヤと被溶接材を流れる溶接電流を検出する電流検出手段と、両手段からのアナログ出力信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、A/Dコンバータからのデジタル信号を基に、
(a)ワイヤスティック時間
(b)アーク途切れ時間
(c)長期短絡時間
(d)無負荷電圧時間
(e)アークスタート電流立上り速度
の5項目の内、任意の1又は2項目以上を演算する演算手段と、演算手段からの演算結果を予め設定された基準値と比較し、基準値との差が許容範囲内か否かを出力する比較器と、比較器の出力を表示する表示器とからなることを特徴とするアークスタート時の溶接安定性判定装置である。
【0016】
【作用】
アークスタート時におけるアーク放電が安定して形成されないことに起因して発生する溶接現象の安定性の程度を、ワイヤスティック時間、アーク途切れ時間、長期短絡時間、無負荷電圧時間、アークスタート電流立ち上がり速度の5項目の内、任意の1又は2項目以上を演算し、定量値として表示し、それぞれに対応する基準値と比較して何れか1つでも基準値との差が予め設定した許容範囲を超えたときに溶接が不安定または不良であると判定する。こうすることで被溶接材への接地不良や、溶接ワイヤへの給電不良及び送給抵抗増加等によるアークスタート時における溶接品質異常を正確かつ確実に検知する。
【0017】
【発明の実施の形態】
次に本発明の好ましい実施の形態を図面の実施例に基づいて説明する。
図1は本発明の実施例のブロック図である。図中の1は溶接電源で所定の電流・電圧を溶接ワイヤ2、被溶接材5間に印加させ、溶接ワイヤ2は被溶接材5を溶接するために送給ローラ3によって所定の速度で送給される。4はコンタクトチップ、6は溶接電流を測定するための分流器、7は溶接ワイヤと被溶接材を流れる溶接電流を検出する電流検出回路、8は溶接ワイヤと被溶接材間の溶接電圧を検出する電圧検出回路、9は両検出回路7,8からの各アナログ出力信号を所定のサンプリング周波数でデジタル信号に変換するA/Dコンバータ、17は演算及び出力装置で両検出回路7,8とA/Dコンバータ9を含む。
【0018】
本装置17は溶接電圧、溶接電流を測定してデジタル変換し、無負荷電圧時間、ワイヤスティック時間、アーク途切れ時間、長期短絡時間、アークスタート電流立ち上がり速度を算出するための種々の演算をすると共に演算結果を予め設定された各基準値と比較し、基準値との差が許容範囲内であるか否かの比較を行うCPU10、それらの演算データを表示及び印刷するCRT11(ディスプレイ)及びプリンター15、プログラム及び演算に必要な種々のデータを格納するメモリ(ROM12,RAM13)及び測定に必要な定数及びその他のデータを入力するキーボード14、さらにビード欠け、アーク切れ等の異常信号を表示する表示器16から構成される。
【0019】
次に本発明によるアークスタート時の溶接安定性の判定方法について説明する。はじめにアークスタート時のアーク放電状態解析実行の概略処理フローを図2に示す。
【0020】
まずサンプリング速度、トリガーレベル、アーク・短絡判別電圧をキーボード14により入力しCPU10内に設定し、溶接を開始させる。ここでサンプリング速度の設定は溶接電源1の制御波形の判定も可能となるように本実施例では溶接電源1の制御速度以上の27KHzに設定したが、設定変更できるようになっている。
【0021】
溶接電圧がトリガーレベルに達すると溶接電圧、溶接電流の入力を開始し測定回数が、設定回数に達するまで各サンプリング点の溶接電圧、電流のデータをRAM13内に格納する。所定数のサンプリングが完了すると、ROM12内に格納されているプログラムを実施することにより、各種の演算を行う。ここで各種の演算は、演算データの誤判定を防ぐため演算区間の設定を、キーボード14より入力できるようになっている。
【0022】
演算完了後各種の演算結果をそれぞれに対応する基準値と比較して、何れか1つでも予め設定した許容範囲を超えたときにアークスタート時のアーク放電状態が不安定であるとして、ワイヤスティック、アーク途切れ、長期短絡等の異常信号の出力が行われ、アーク放電が安定して形成された場合はOK信号が出力される。
【0023】
次に図2内サブルーチン1の無負荷電圧時間の演算について説明する。図3はこの無負荷電圧時間演算処理を行うサブルーチンの詳細である。溶接ワイヤと被溶接材間の溶接電圧を検出する電圧検出手段を用い、溶接起動信号がオンになると溶接ワイヤと被溶接材間に電位差が生じ、溶接ワイヤが被溶接材に短絡後、適正にアーク放電が形成された場合、両者間の雰囲気ガスの絶縁破壊に応じた適正な電位差が発生する。
【0024】
溶接ワイヤが被溶接材に短絡するまでの時間を無負荷電圧時間と呼ぶ。無負荷電圧時間の演算は前記溶接起動信号がオンとなると共に溶接ワイヤと被溶接材との溶接電圧のサンプリングを開始し、サンプリングした溶接電圧Vが無負荷電圧時間測定開始判別電圧Vm1 に到達した時から、無負荷電圧時間の測定を開始し、溶接電圧が無負荷電圧時間測定終了判別電圧Vm2 に下がった時までを無負荷電圧時間として演算する。判別電圧Vm1 ,Vm2 の設定は任意に変更できるようになっている。
【0025】
この無負荷電圧時間がゼロまたは非常に短い場合、つまり溶接ワイヤと被溶接材との間隔がゼロまたは非常に短く溶接起動信号がオンになると同時に溶接ワイヤが短絡する現象をタッチスタートと呼び、溶接電圧Vが最初に5Vに到達した点から監視し、4msec後までの最大電圧が30V以下の場合をタッチスタートとして表示する。
【0026】
溶接起動信号がオンになった時点で、溶接電源によりコンデンサを充電し溶接ワイヤと被溶接材とが接触するとコンデンサに蓄積された電荷が放電され、溶接ワイヤと被溶接材との接触部のジュール加熱、アーク加熱を促進し良好なアーク放電を実現しようとしている。
【0027】
しかしこのような溶接ワイヤと被溶接材とが接触しているタッチスタートの場合、コンデンサに蓄積された電荷の放電がないため、アークスタート性能が低下する。この無負荷電圧時間の積算時間を基準値と比較し、基準値との差が予め設定した許容範囲を超えたとき無負荷電圧時間異常として異常信号を出力する。
【0028】
次に図2内サブルーチン2のアーク放電開始時のワイスティック時間の演算について説明する。図4はこのワイヤスティック時間演算処理を行うサブルーチンの詳細である。ワイヤスティック現象は自動アーク溶接装置において、アークスタート時に頻繁に起こる現象であり、高電圧を給電した溶接ワイヤと被溶接材が短絡した際に瞬時に絶縁破壊が発生せずアーク放電に移行しない現象のことである。
【0029】
このようなワイヤスティック現象が生じた場合、溶接ワイヤと被溶接材間が短絡しているため、短絡電流が流れ、アーク電圧はアーク放電が形成された際に比べ十分に低く、無負荷電圧時間終了直後のアーク電圧の判定によりアーク放電が形成されるまでの積算時間をワイヤスティック時間として演算し、本実施例では無負荷電圧時間終了直後、ワイヤスティック測定開始判別時間T1 msec後のアーク電圧がワイヤスティック開始判別電圧Vw1 以下の場合にワイヤスティック発生とし、この時点からアーク電圧がワイヤスティック終了判別電圧Vw2 以上になるまでの積算時間として演算する。
【0030】
これらの判別時間及び判別電圧の設定は任意に変更できるになっている。そしてワイヤスティック時間の積算時間を基準値と比較して、基準値との差が予め設定した許容範囲を超えたときワイヤスティック時間異常として異常信号を出力する。
【0031】
次に図2内サブルーチン3のアーク放電開始直後のアーク途切れ時間の演算について説明する。図5はこのアーク途切れ時間演算処理を行うサブルーチンの詳細である。アーク途切れ時間の演算は無負荷電圧時間終了後から設定時間までの溶接ワイヤと被溶接材との溶接電圧をサンプリングし、アーク途切れ判別電圧Vb以上に到達した時間から、Vb以下に下がった時間までの積算時間として演算する。この判別電圧Vbは50V程度が適しているが設定変更できるようになっている。また、判別時間の設定も自由に変更できるようになっている。
【0032】
アーク途切れ現象は、アークスタート時に頻繁に起こり易い現象であり、アークスタート時に短絡期間が長く続く長期短絡が発生すると、短絡を解放しようとする溶接電源の波形制御により過大な短絡電流が流れ、アーク再生時に大粒なスパッタが発生し、アークが瞬間的に途切れる現象である。またアーク期間が長く続いても溶接電流の減少により、アークが瞬間的に途切れることもある。
【0033】
このようなアーク途切れ現象が生じた場合、溶接電圧は瞬時に溶接電源の無負荷電圧に上昇し、溶接電流はアーク切れにより持続せず瞬時にゼロとなり溶接現象が不安定となる。このアーク途切れ時間の設定時間内における積算時間を基準値と比較して、基準値との差が予め設定した許容範囲を超えたときアーク途切れ時間異常として異常信号を出力する。
【0034】
次に図2内サブルーチン4のアーク放電開始後の長期短絡時間の演算について説明する。図6はこの長期短絡時間演算処理を行うサブルーチンの詳細である。長期短絡時間の演算は、無負荷電圧時間終了後から設定時間までの溶接ワイヤと被溶接材間との溶接電圧をサンプリングし、サンプリング電圧Vが短絡時間判別電圧Vs以下の短絡時間が長期短絡時間判別時間T2 msec以上に達した場合、長期短絡時間の測定を開始し、Vs以上に上がった時までの積算時間として演算する。
【0035】
なお、図6のサブルーチンで、TSnはn周期目の短絡時間をあらわす。
アーク・短絡期間の判別は溶接電圧が所定の判別電圧Vs以下であるか否かで判別する。短絡時の溶接電圧はアーク放電が形成された際の溶接電圧に比べ十分低く、判別電圧Vsは20V程度が適しているが、設定変更できるようになっている。
【0036】
また長期短絡判別時間T2 の設定は溶接電源の波形制御により異なるため設定変更できるようになっているが、本実施例では1回の短絡現象が7msec以上の場合を長期短絡現象と言い、その積算時間を長期短絡時間として演算する。
【0037】
アーク放電開始直後は、溶接ワイヤ先端に十分な大きさの溶滴が成長していなく、溶接ワイヤの溶融していない部分が溶融プールと接触し易い。このような溶融していない溶接ワイヤが短絡すると、通常の溶接ワイヤの溶滴が短絡したときと同じ短絡電流値を通電しても短絡状態を終了させて溶接現象を再発生させることができない。
【0038】
また、このような長期短絡状態が発生すると溶接ワイヤ先端がジュール熱で加熱され吹き飛ばされて短絡状態から溶接現象に移行することが多く、その瞬間にアーク長が非常に長くなるので溶接現象の規則性を維持する事ができなくなりアーク途切れが発生し易くなり、溶接現象が不安定となる。
【0039】
そこで、この長期短絡時間の設定時間内における積算時間を基準値と比較して、基準値との差が予め設定した許容範囲を超えたとき長期短絡時間異常として異常信号を出力する。
【0040】
次に、図2内サブルーチン5のアーク放電開始後のアークスタート電流立ち上がり速度の演算について説明する。図7はこのアークスタート電流立ち上がり速度演算処理を行うサブルーチンの詳細である。
アークスタート電流立ち上がり速度の演算は、無負荷電圧時間終了後から設定時間T3までの溶接ワイヤと被溶接材間を流れる溶接電流の測定を実施し、T3secで溶接電流がどれだけ上昇したかで電流立ち上がり速度として演算する。この設定時間T3は0.1msec程度が適しているが、自由に設定変更できるようになっている。
【0041】
アークスタート時は溶接起動信号がオンになると同時に、溶接電源よりコンデンサに充電を開始し、上記無負荷電圧時間に蓄積された電荷が、溶接ワイヤが被溶接材に接触した瞬間に放電され、溶接ワイヤ先端を急激にジュール熱により発熱させて溶融しアーク発生に至る。
【0042】
この時に溶接ワイヤ先端部の溶融が緩慢であると溶接ワイヤの送給力により被溶接材に押し付けられるのでワイヤスティック現象が発生し、さらにアーク発生が遅れると、溶接ワイヤが中途部で破断してアークスタートに失敗する。
【0043】
したがってアークスタート性能を向上させるために、溶接ワイヤ先端が被溶接材に短絡した瞬間に急激に大電流を供給し、溶接ワイヤ先端部を急速加熱しアーク発生に移行しなければならない。
【0044】
この急激に大電流を供給できたかどうかの判定指標としてアークスタート時の電流立ち上がり速度を演算する。この電流立ち上がり速度を基準値と比較して、基準値との差が予め設定した許容範囲を超えた時にアークスタート電流立ち上がり速度異常として異常信号を出力する。
【0045】
なお、図7でT3 はアークスタート電流測定終了時間である。
以上のように溶接品質異常の監視を溶接初期にだけ行うこととしたのは、ワイヤスティック現象や、アーク途切れ、長期短絡現象等の異常は溶接開始直後に発生することが多く、溶接初期においてこのような異常が発生した場合、その後の定常溶接部が正常であると否とにかかわらず溶接異常として扱い、ワイヤスティック、アーク途切れ、長期短絡等の異常信号を出力する。しかも本実施例によれば溶接初期において適切にアーク放電が安定して形成された場合は、これらの異常信号が出力されることはない。
【0046】
そのため、自動及び半自動アーク溶接装置において、アークスタート時における溶接現象の不安定状態を異常信号によって作業者や技術者が容易に検知可能となり、異常対応等の適切な処理を施すことにより不良品の流出を確実に防止することができる。
【0047】
【発明の効果】
本発明のアークスタート時の溶接安定性判定方法及び安定性判別装置は上述のように構成されているので、スタート時の溶接現象が不安定または不良であると的確に判定することができる。また溶接異常発生時の自動回復処理の電源制御信号を出力するための指標としてこれらのデータが有効に活用できるという効果も有する。また、溶接中にアークスタート時の溶接安定性をリアルタイムにかつ正確で定量的に監視することができ、溶接品質不良品の流出を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のアークスタート時溶接性判定装置の一実施例の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の解析実行フローチャートである。
【図3】無負荷電圧時間演算処理を行うサブルーチンである。
【図4】ワイヤスティック時間演算処理を行うサブルーチンである。
【図5】アーク途切れ時間演算処理を行うサブルーチンである。
【図6】長期短絡時間演算処理を行うサブルーチンである。
【図7】アークスタート電流立ち上がり速度演算処理を行うサブルーチンである。
【符号の説明】
1 溶接電源
2 溶接ワイヤ
4 コンタクトチップ
5 被溶接材
6 分流器
7 溶接電流検出回路
8 溶接電圧検出回路
9 A/Dコンバータ
10 CPU
16 表示器
17 演算及び出力装置
Claims (2)
- 短絡とアークを交互に繰り返しながら溶接をする消耗電極式ガスシールドアーク溶接のアークスタート部溶接状態判定方法であって、溶接電極(以下溶接ワイヤと称す)と被溶接材間の溶接電圧を検出する電圧検出手段と、溶接ワイヤと被溶接材を流れる溶接電流を検出する電流検出手段を用いて出力されるアナログ出力信号を所定のサンプリング周波数でデジタル信号に変換して、
(a)ワイヤスティック時間
(b)アーク途切れ時間
(c)長期短絡時間
(d)無負荷電圧時間
(e)アークスタート電流立ち上がり速度
の5項目の内、任意の1又は2項目以上を演算し、それぞれに対応する基準値と比較して、何れか1つでも基準値との差が予め設定した許容範囲を越えた時に溶接が不安定または不良であると判定することを特徴とするアークスタート時の溶接安定性判定方法。 - 短絡とアークを交互に繰り返しながら溶接をする消耗電極式ガスシールドアーク溶接のアークスタート時の溶接現象安定性の程度を判定する装置であって、溶接ワイヤと被溶接材間の溶接電圧を検出する電圧検出手段と、溶接ワイヤと被溶接材を流れる溶接電流を検出する電流検出手段と、両手段からのアナログ出力信号をデジタル信号に変換するA/Dコンバータと、A/Dコンバータからのデジタル信号を基に、
(a)ワイヤスティック時間
(b)アーク途切れ時間
(c)長期短絡時間
(d)無負荷電圧時間
(e)アークスタート電流立上り速度
の5項目の内、任意の1又は2項目以上を演算する演算手段と、演算手段からの演算結果を予め設定された基準値と比較し、基準値との差が許容範囲内か否かを出力する比較器と、比較器の出力を表示する表示器とからなることを特徴とするアークスタート時の溶接安定性判定装置。
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