JP3697359B2 - アーク溶接安定性判定方法及び装置 - Google Patents

アーク溶接安定性判定方法及び装置 Download PDF

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【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、アーク溶接安定性判定方法及び装置に関し、特に消耗電極式ガスシールドアーク溶接に好適な溶接安定性判定方法及び装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
近時のアーク溶接装置においては、溶接電源の出力制御がサイリスタ方式からインバータ方式に移行したことに伴い、制御速度が300Hzから15乃至60kHz へと50乃至200倍に高速化され、しかも溶接電流及び溶接電圧の波形制御も可能となっている。これにより、アークスタート性能の向上、高速溶接時の溶接状態の安定性向上、スパッタの発生量低減等が可能となり、アーク溶接時の溶接安定性も改善されつつある。しかし、アーク溶接開始時の溶接作動領域たるスタート部が不安定であることは言うまでもなく、その後の定常部においても、加工歪みあるいは熱歪み等によって溶接状態が変化するため、安定した溶接品質を維持することが困難であり、溶接ロボット等による自動溶接ライン及び半自動溶接ラインにおける溶接状態の不安定性に起因して発生する溶接品質不良の流出防止を図る上で障害となっていた。
【0003】
しかも、従前のアーク溶接装置における溶接状態の安定性の良否判定は、目視による定性的な判定に委ねられていた。このため、従来より種々の対策が講じられ、種々の溶接安定性判定方法が提案されている。例えば、特公平2−62017号公報には、1周期毎の短絡時間、アーク時間、短絡平均電流、アーク平均電流、アーク平均抵抗およびアーク電力を算出し、これらに基づき、例えばこれらの標準偏差を求め、アーク状態の均一性の程度、アーク切れの程度、アーク燃え上がり度を表し、溶接性の良否を判定する方法が提案されている。
【0004】
また、特公平5−57070号公報には、溶接電圧を測定することにより1周期毎の短絡時間とアーク時間を検出し、所定時間内での短絡時間の平均値あるいは標準偏差及びアーク時間の平均値あるいは標準偏差を求め、これらに基づき溶接指数を演算し、この溶接指数によって溶接性の良否を判定する溶接性判定方法が提案されている。更に、特公平6−53310号公報には、母材とワイヤが短絡する期間中に与えられる入熱の変化度を、最大短絡電流、短絡時の電流の平均値、短絡時の実効電流及び短絡時の電力の少なくとも1つの標準偏差を用いて表し、該標準偏差の値により溶接性を判定する方法が提案されている。
【0005】
あるいは、特公平7−2275号公報には、溶接電流、電圧を測定し、このデータを基に溶接電流の移動平均を求める移動平均法を利用したアーク溶接モニタ装置が提案されている。更に、この移動平均の演算期間および移動ピッチを適当に選択すること、そして開始直前及び終了間際のアークを除くように監視区間を設定することも提案されている。また、特公平6−53309号公報には、自動的に最適な溶接条件を設定してCO2 あるいはMAG溶接の最適制御を行なうことを目的としたアーク溶接の最適制御方法が提案されている。具体的には、短絡時間Ts、アーク時間Ta、短絡期間の電流の平均値Is'ave、アーク期間の電流の平均値Ia'ave、アーク期間の抵抗の平均値Ra'ave及びアーク期間の電力Paから、溶接性を定量的に把握する指数(以下、溶接性指数と称す)W=(σTs・σTa・σIs'ave・σIa'ave/K)・(Ra'ave/Ri)2 ・(Pa/Pi)を算出し、該溶接性指数が最小となるように溶接電源の出力あるいはワイヤ送給量を制御することとしている。ここで、σTsはTsの標準偏差、σTaはTaの標準偏差、σIs'aveはIs'aveの標準偏差、σIa'aveはIa'aveの標準偏差、Kは基準溶接条件でのσTs,σTa,σIs'ave,σIa'aveの積、Riは最適条件におけるRa'aveの回帰式、Piは最適条件におけるPaの回帰式を示している。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
然し乍ら、上記公報に開示された溶接状態の判定技術においては、何れも誤判定をまねくおそれがある。例えば、前掲の特公平2−62017号公報に記載の方法ではアーク期間中の平均電流を用いているが、この平均電流はアーク時間によって変化し易い。また、特公平5−57070号公報に記載の方法も、短絡時間の平均値及びアーク時間の平均値に夫々定数を乗じ、これらを加えたものを溶接安定性指数としている。前掲の特公平6−53309号公報に記載の方法も平均値を利用したものであり、特公平6−53310号公報に記載の方法は、アーク期間中の指標を用いることなく、短絡期間中のみの指標に基づく標準偏差を用いている。更に、特公平7−2275号公報に記載の装置においては、移動平均法としているものの、基本的には平均値を利用している。
【0007】
以上のように、従来のアーク溶接における溶接安定性の判定方法では不十分であり、解析に時間を要するものもあり、アーク溶接における溶接安定性の維持が困難である。しかも、特公平2−62017号公報、特公平6−53309号公報等に記載の方法では、利用する指標が多く処理が複雑なため、溶接安定性の判定に時間を要し、また制御ソフトが増大し、これに必要なメモリ容量が増大することとなる。
【0008】
そこで、本発明は、アーク溶接における溶接安定性をリアルタイムで迅速且つ適切に判定し得るアーク溶接安定性判定方法及び装置を提供することを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明のアーク溶接安定性判定方法は、請求項1に記載のように、溶接電源によって母材と溶接電極との間に溶接電圧を印加して溶接電流を供給し、前記母材と前記溶接電極との間で短絡とアークを繰り返して溶接を行なうアーク溶接において、前記溶接電源から前記母材及び前記溶接電極に入力する溶接電流であって前記アーク溶接の1周期毎におけるアーク期溶接電流及び短絡期溶接電流を所定の周波数でサンプリングして検出し、前記アーク期溶接電流の積分値及び前記短絡期溶接電流の積分値を演算すると共に、該各々の積分値の標準偏差を演算し、前記アーク期溶接電流の積分値の標準偏差に前記短絡期溶接電流の積分値の標準偏差を乗じた第1の積と、前記溶接電源によって前記母材及び前記溶接電極に印加する溶接電圧であって前記アーク溶接の1周期毎におけるアーク期溶接電圧及び短絡期溶接電圧を所定の周波数でサンプリングして検出し、前記アーク期溶接電圧の積分値及び前記短絡期溶接電圧の積分値を演算すると共に、該各々の積分値の標準偏差を演算し、前記アーク期溶接電圧の積分値の標準偏差に前記短絡期溶接電圧の積分値の標準偏差を乗じた第2の積の少なくとも何れか一方の積に基づき前記アーク溶接における溶接安定性指標を演算し、該溶接安定性指標を所定の基準値と比較して前記母材と前記溶接電極との溶接安定性を判定することとしたものである。
【0010】
更に、請求項2に記載のように、前記アーク溶接の1周期毎におけるアーク期と短絡期の時間比率を演算すると共に、該アーク期と短絡期の時間比率の標準偏差を演算し、該時間比率の標準偏差を前記第1の積と前記第2の積の少なくとも何れか一方に乗じ、前記第1の積と前記時間比率の標準偏差との積、前記第2の積と前記時間比率の標準偏差との積、及び前記第1の積と前記第2の積と前記時間比率の標準偏差との積の何れかに基づき前記アーク溶接における溶接安定性指標を演算し、該溶接安定性指標を所定の基準値と比較して前記母材と前記溶接電極との溶接安定性を判定することとしてもよい。
【0011】
また、請求項3に記載のように、前記溶接電流及び前記溶接電圧の少なくとも何れか一方の検出開始から終了までを複数の検出区間に分割し、該検出区間毎に前記溶接安定性指標を演算し、前記溶接安定性指標を前記検出区間毎に所定の基準値と比較して前記母材と前記溶接電極との溶接安定性を前記検出区間毎に判定することとしてもよい。
【0012】
一方、本発明のアーク溶接安定性判定装置は、請求項4に記載のように、母材と溶接電極との間で短絡とアークを繰り返してアーク溶接を行なうアーク溶接装置において、前記母材と前記溶接電極との間に溶接電圧を印加し溶接電流を供給する溶接電源装置と、該溶接電源装置から前記母材及び前記溶接電極に入力する溶接電流であって前記アーク溶接の1周期毎におけるアーク期溶接電流及び短絡期溶接電流を所定の周波数でサンプリングして検出する溶接電流検出手段と、前記溶接電源装置によって前記母材及び前記溶接電極に印加する溶接電圧であって前記アーク溶接の1周期毎におけるアーク期溶接電圧及び短絡期溶接電圧を所定の周波数でサンプリングして検出する溶接電圧検出手段の少なくとも何れか一方の検出手段を備え、前記溶接電流検出手段の検出溶接電流に基づき前記アーク期溶接電流の積分値及び前記短絡期溶接電流の積分値を演算すると共に、該各々の積分値の標準偏差を演算し、前記アーク期溶接電流の積分値の標準偏差に前記短絡期溶接電流の積分値の標準偏差を乗じた第1の積と、前記溶接電圧検出手段の検出溶接電圧に基づき前記アーク期溶接電圧の積分値及び前記短絡期溶接電圧の積分値を演算すると共に、該各々の積分値の標準偏差を演算し、前記アーク期溶接電圧の積分値の標準偏差に前記短絡期溶接電圧の積分値の標準偏差を乗じた第2の積の少なくとも何れか一方の積に基づき前記アーク溶接における溶接安定性指標を演算し、該溶接安定性指標を所定の基準値と比較して前記母材と前記溶接電極との溶接安定性を判定する溶接安定性判定手段とを備えることとしたものである。
【0013】
更に、請求項5に記載のように、前記溶接安定性判定手段が、前記アーク溶接の1周期毎におけるアーク期と短絡期の時間比率を演算すると共に、該アーク期と短絡期の時間比率の標準偏差を演算し、該時間比率の標準偏差を前記第1の積と前記第2の積の少なくとも何れか一方に乗じ、前記第1の積と前記時間比率の標準偏差との積、前記第2の積と前記時間比率の標準偏差との積、及び前記第1の積と前記第2の積と前記時間比率の標準偏差との積の何れかに基づき前記アーク溶接における溶接安定性指標を演算し、該溶接安定性指標を所定の基準値と比較して前記母材と前記溶接電極との溶接安定性を判定するように構成してもよい。
【0014】
また、請求項6に記載のように、前記溶接電流検出手段及び前記溶接電圧検出手段の少なくとも何れか一方による検出開始から終了までを複数の検出区間に分割する検出区間分割手段を備え、前記溶接安定性判定手段が、前記検出区間毎に前記溶接安定性指標を演算し、前記溶接安定性指標を前記検出区間毎に所定の基準値と比較して前記母材と前記溶接電極との溶接安定性を前記検出区間毎に判定するように構成してもよい。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の望ましい実施の形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態に係る消耗電極式ガスシールドアーク溶接装置(以下、単にアーク溶接装置という)を示すもので、溶接電源装置1によって母材5と溶接電極たる溶接ワイヤ2との間に溶接電圧が印加され溶接電流が供給されると、母材5と溶接ワイヤ2との間で短絡とアークが繰り返され、両者が溶接される。溶接ワイヤ2はコイル状に巻回され、その先端部がコンタクトチップ4によって保持されており、送給ローラ3によって所定の速度で母材5方向に送給されるように構成されている。
【0016】
また、溶接電源装置1から母材5及び溶接ワイヤ2に供給される溶接電流を検出するため、溶接電流検出手段DTiが設けられており、アーク溶接における1周期毎に母材5と溶接ワイヤ2に供給されるアーク期溶接電流及び短絡期溶接電流が検出される。本実施形態では、溶接電圧検出手段DTvも設けられており、アーク溶接の1周期毎における母材5と溶接ワイヤ2に印加されるアーク期溶接電圧及び短絡期溶接電圧が検出される。
【0017】
更に、溶接安定性判定手段MTが設けられ、溶接電流検出手段DTiの検出溶接電流に基づきアーク期溶接電流の積分値及び短絡期溶接電流の積分値が演算されると共に、各々の積分値の標準偏差が演算される。同様に、溶接電圧検出手段DTvの検出溶接電圧に基づきアーク期溶接電圧の積分値及び短絡期溶接電圧の積分値が演算されると共に、各々の積分値の標準偏差が演算される。更に、溶接安定性判定手段MTにおいては、必要に応じアーク溶接の1周期毎におけるアーク期と短絡期の時間比率が演算されると共に、この時間比率の標準偏差が演算される。
【0018】
そして、溶接安定性判定手段MTでは、アーク期溶接電流の積分値の標準偏差、短絡期溶接電流の積分値の標準偏差、アーク期溶接電圧の積分値の標準偏差、短絡期溶接電圧の積分値の標準偏差及びアーク期と短絡期の時間比率の標準偏差が、必要に応じ適宜組み合されてアーク溶接における溶接安定性指標が演算される。そして、この溶接安定性指標が所定の基準値と比較されて母材5と溶接ワイヤ2との溶接安定性が判定される。このように、上記標準偏差を組み合せて種々の溶接安定性指標を設定することができるが、少なくともアーク期溶接電流の積分値の標準偏差及び短絡期溶接電流の積分値の標準偏差を用い、両標準偏差の積を溶接安定性指標として設定することができる。尚、図1に破線で示すように警報手段WGを設けることとすれば、溶接安定性判定手段MTの判定結果に基づき、アーク溶接の不安定時には適宜警報を行なうことができる。
【0019】
また、本実施形態においては、破線で示すように検出区間分割手段DSによって、溶接電流検出手段DTi及び溶接電圧検出手段DTvによる検出開始から終了までを複数の検出区間に分割することができるように構成されている。而して、溶接安定性判定手段MTにおいては、検出区間毎に溶接安定性指標を演算し、各溶接安定性指標を所定の基準値と比較することによって、母材5と溶接ワイヤ2の溶接安定性を検出区間毎に判定することができる。
【0020】
更に、本実施形態においては、アーク溶接の開始から終了に至る溶接作動領域(これは溶接区間と表すこともできるが、上記の検出区間との混同を避けるために作動領域とする)が予め分割されている。即ち、アーク溶接開始直後のアークの状態は不安定であり定常部とは異なる特性を示すので、この溶接作動領域はスタート部として定常部とは区別される。一方、アーク溶接終了間際は、溶接ワイヤが特有の時定数で減衰し、その惰走分を溶融させるために溶接安定性が不安定となり定常部とは異なる特性を示すので、この溶接作動領域は終端処理部として定常部と区別される。結局、本実施形態では、スタート部、定常部及び終端処理部の3つの溶接作動領域に分割されており、各溶接作動領域毎に溶接安定性指標が演算され、且つ各溶接作動領域毎に基準値が設定される。而して各溶接作動領域の溶接安定性指標が各溶接作動領域の基準値と比較されて母材5と溶接ワイヤ2の溶接安定性が判定される。
【0021】
本実施形態において、図1に一点鎖線で囲繞した部分は、具体的には図2に示すように構成されている。即ち、バスを介して相互に接続されたプロセシングユニットCPU、メモリROM,RAM、入力インターフェースIT、出力インターフェースOT、並びにキーボード、ディスプレイ、プリンタ等の周辺機器(代表してOAで表す)が収容、装着されたコントローラ10が設けられており、このコントローラ10に溶接電流検出回路ID、溶接電圧検出回路VD及び警報手段WGが接続されている。溶接電流検出回路ID及び溶接電圧検出回路VDの出力信号はA/DコンバータADを介して夫々インターフェースITからプロセシングユニットCPUに入力されるように構成されている。また、出力インターフェースOTからは駆動回路ACを介して警報手段WGに駆動信号が出力されるように構成されている。この警報手段WGとしては、ディスプレイ、スピーカ等、種々の装置があるが、どのような装置を用いてもよい。
【0022】
而して、溶接電流検出回路ID及び溶接電圧検出回路VDが図1の溶接電流検出手段DTi及び溶接電圧検出手段DTvに包含され、その他の手段はコントローラ10内で構成されている。コントローラ10においては、メモリROMは図5乃至図9に示したフローチャートを含む種々の処理に供するプログラムを記憶し、プロセシングユニットCPUは起動されている間当該プログラムを実行し、メモリRAMは当該プログラムの実行に必要な変数データを一時的に記憶する。
【0023】
図3は上記コントローラ10の処理機能の一例を示したブロック図で、ここでは説明を容易にするため前述の溶接電圧検出手段DTv及びその関連機能等については省略している。先ず、ブロックB1及びB2では短絡とアークの繰り返しによるアーク溶接の1周期毎におけるアーク期溶接電流IA(n)及び短絡期溶接電流IS(n)が検出され、ブロックB3及びB4ではアーク期溶接電流の積分値∫IA(n)dt及び短絡期溶接電流の積分値∫IS(n)dtが演算される。ブロックB5及びB6ではアーク期溶接電流の積分値及び短絡期溶接電流の積分値の各々の標準偏差σ(∫IA(n)dt),σ(∫IS(n)dt)が演算され、ブロックB7にて、少なくとも各々の溶接電流の積分値の標準偏差σ(∫IA(n)dt),σ(∫IS(n)dt)に基づき溶接安定性指標が設定され、この溶接安定性指標に基づき、母材5と溶接ワイヤ2の溶接安定性が判定される。尚、溶接安定性指標の演算に溶接電圧も用いる場合には、ブロックB1乃至B6に対応する溶接電圧に係るブロックが並設される。
【0024】
そして、上記溶接安定性指標に基づき母材5と溶接ワイヤ2との溶接状態が不安定または不良と判定されたときには、ブロックB8にて警報が行なわれる。更に、図3に破線で示すブロックB9にて、検出開始から終了までを、(手動操作により)複数の検出区間に分割することとしてもよい。
【0025】
図4は、アーク溶接時における溶滴の移行現象と、これに対応する溶接電圧及び溶接電流の波形を示している。溶接ワイヤ2と母材5との間に溶接電圧が印加され溶接電流が供給されると、短絡とアークの1周期で、図4の(A)から(H)に移行する。即ち、溶接ワイヤ2の先端及び母材5が溶融されて、夫々に溶滴2a及び溶融池5aが形成され、溶滴2aが溶融池5aに入り溶接金属(ビード)が形成される。このときの溶接電圧及び溶接電流は図4の上段及び下段に示すように変動する。同図に明らかなように、アークから短絡への移行、及び短絡からアークへの移行時には溶接電圧が急激に変化する。従って、図4にVaで表すアーク/短絡判定電圧を基準にアーク期と短絡期を峻別することができる。
【0026】
図4において、TS(n)はn周期目の短絡時間、TA(n)はn周期目のアーク時間、T S(n+1)は(n+1)周期目の短絡時間、∫IS(n)dtはn周期目の短絡期溶接電流積分値、∫IA(n)dtはn周期目のアーク期溶接電流積分値、∫VS(n)dtはn周期目の短絡期溶接電圧積分値、∫VA(n)dtはn周期目のアーク期溶接電圧積分値を表す。尚、参考までに、アーク期平均電流IA(n)av、短絡期平均電流IS(n)av、アーク期平均電圧VA(n)av及び短絡期平均電圧VS(n)avを破線で示した。
【0027】
上記のように構成された本実施形態においては、コントローラ10により溶接電流制御等の一連の処理が行なわれ、溶接電源装置1が起動されると図5乃至図9等のフローチャートに対応したプログラムの実行が開始する。図5は溶接作動全体の処理を示すもので、先ずステップ101において初期設定が行なわれ、サンプリング速度、トリガーレベル、アーク/短絡判定電圧等が例えばキーボード(図示せず)によって入力される。本実施形態のサンプリング速度は、溶接電源装置1の出力信号波形の判定も可能なように、溶接電源装置1の制御速度以上(例えば、本実施形態では27kHz )に設定されているが、異なる値としてもよい。そして、溶接電圧がトリガーレベルに達すると溶接電圧及び溶接電流の入力が開始される。
【0028】
初期設定後、ステップ102にてアーク溶接が開始され、ステップ103に進み、スタート部のアーク溶接が行なわれる。そして、ステップ104においてスタート部のアーク溶接における溶接安定性が判定される。尚、ここで処理されるスタート部の溶接安定性判定については後述する。ステップ104における溶接安定性の判定結果に基づき、ステップ105にてスタート部のアーク溶接が安定と判定されると、ステップ106に進みスタート部の終了条件が判定される。ここで、未だスタート部の終了条件が充足されていないと判定されればステップ104に戻り、スタート部が終了と判定されるとステップ108に進む。一方、ステップ105にてスタート部のアーク溶接が不安定と判定されると、ステップ107に進み警報信号が出力される。
【0029】
スタート部が終了すると、ステップ108において定常部となり、ステップ109に進み定常部のアーク溶接における溶接安定性が判定される。このステップ109で処理される定常部の溶接安定性判定については図6を参照して後述する。ステップ109における溶接安定性の判定結果に基づき、ステップ110にて定常部のアーク溶接が安定と判定されると、ステップ111に進み定常部の終了条件が判定される。ここで、定常部が終了と判定されるとステップ112に進み終端処理部のアーク溶接が行われる。これに対し、定常部のアーク溶接に関し、未だ終了条件が充足されていないと判定されたときには、ステップ109に戻る。一方、ステップ110において定常部のアーク溶接が不安定と判定されると、ステップ107に進み警報信号が出力される。
【0030】
ステップ111にて定常部のアーク溶接に関し終了条件が充足されたと判定されると、ステップ112に進み終端処理部となり、ステップ113にて終端処理部でのアーク溶接における溶接安定性が判定される。ステップ113における溶接安定性の判定結果に基づき、ステップ114にて終端処理部のアーク溶接が安定と判定されると、ステップ115に進み終端処理部の終了条件が判定される。ここで、未だ終端処理部の終了条件が充足されていないと判定されればステップ113に戻り、ステップ115にてアーク溶接が終了と判定されるとこの処理全体が終了する。一方、ステップ114にて終端処理部のアーク溶接が不安定と判定されると、ステップ107に進み警報信号が出力される。
【0031】
以上のように、本実施形態ではアーク溶接の開始から終了に至る溶接作動領域が予めスタート部、定常部及び終端処理部の3つに分割されるが、終端処理部は定常部とは異なる特性を示すものの、基準値を変更する程度で定常部の溶接安定性判定と同様に判定することができる。然し乍ら、アーク溶接開始直後のアークの状態は不安定であるので、定常部の溶接安定性指標をスタート部にそのまま適用することはできない。従って、スタート部の溶接安定性判定は種々の判定手段を適宜組み合わせることによって行なう必要があるが、これについては後述する。
【0032】
図6は上記ステップ109及び113の定常部及び終端処理部における溶接安定性判定の処理内容を示すもので、先ずステップ201において、溶接安定性判定に供するサンプリング回数j,sがクリアされる。続いて、ステップ202にて溶接電圧v(j) 及び溶接電流i(j) が入力され、ステップ203において溶接電圧v(j) が所定のトリガーレベルVtと比較され、この値未満であればステップ204にてサンプリング回数jがインクリメントされてステップ202に戻る。このように、溶接電圧v(j) が所定のトリガーレベルVtに達するまで待機状態とされる。ステップ203において溶接電圧v(j) がトリガーレベルVt以上となったと判定されると、ステップ205に進みトリガー後の溶接電圧V(s) 及び溶接電流I(s) として入力され、ステップ206にて夫々メモリRAMに格納される。次に、ステップ207においてサンプリング回数sが所定回数Nsと比較され、これに達していないときには、ステップ208にてサンプリング回数sがインクリメントされた後、ステップ205に戻る。このようにして、所定回数Nsのサンプリングによって、トリガー後の溶接電圧V(s) 及び溶接電流I(s) が抽出され、メモリRAMに格納される。
【0033】
上記のように蓄積されたデータに基づき、ステップ209乃至212において、アーク期溶接電流の積分値(∫IA(n)dt)の標準偏差(σ1)、アーク期溶接電圧の積分値(∫VA(n)dt)の標準偏差(σ2)、短絡期溶接電流の積分値(∫IS(n)dt)の標準偏差(σ3)及び短絡期溶接電圧の積分値(∫VS(n)dt)の標準偏差(σ4)が演算される。尚、これらの演算の詳細については図7乃至図9を参照して後述する。更に、ステップ213において上記の標準偏差σ1乃至σ4の積が定数K1で除算され、溶接安定性指標W1が演算される。そして、ステップ214にて溶接安定性指標W1が所定の基準値Kw1と比較され、この基準値Kw1以下であればアーク溶接が安定した状態で行なわれていると判定され、ステップ215に進み安定を表すフラグがセットされ、基準値Kw1を越えている場合にはアーク溶接が不安定あるいは不良と判定され、ステップ216に進み不安定/不良を表すフラグがセットされる。而して、これらのフラグに基づき、前述のステップ110において安定か否かが判定される。
【0034】
図7は、ステップ209にて演算されるアーク期溶接電流の積分値(∫IA(n)dt)の標準偏差(σ1)の演算処理の詳細を示すもので、ステップ301にて溶接電圧V(s) 及び溶接電流I(s) のサンプリングが開始され、この演算に供するカウンタがクリア(0)された後カウントを開始する。続いて、ステップ302にてカウント開始後の経過時間taiが所定の時間T1となったか否かが判定され、所定の時間T1に達するまで待機される。サンプリング開始後所定の時間T1以上となるとステップ303乃至307の処理が行なわれ、所定の時間T2に達するまでこの処理が繰り返される(ステップ308)。即ち、予め設定した定常部の溶接安定性判定開始時間T1から判定終了時間T2までの間に溶接ワイヤ2と母材5との間に供給される溶接電流I(s) がサンプリングされる。
【0035】
ステップ303においてはサンプリング溶接電圧V(s) がアーク/短絡判定電圧Va以上となったか否かが判定され、そうであればステップ304に進みn周期目のアーク期溶接電流IA(n)の測定が開始され、溶接電圧V(s) がアーク/短絡判定電圧Vaを下回るまで測定される。即ち、ステップ303で溶接電圧V(s) がアーク/短絡判定電圧Va以上となった時からアーク期溶接電流IA(n)の測定が開始され(ステップ304)、ステップ305にて溶接電圧V(s) がアーク/短絡判定電圧Vaを下回ると、ステップ306にてn周期におけるアーク期溶接電流IA(n)の測定が終了する。
【0036】
そして、ステップ307にて周期nがインクリメントされた後、ステップ308にてサンプリング開始後の経過時間taiが所定の時間T2以上となったか否かが判定される。経過時間taiが所定の時間T2未満と判定されるとステップ303(そしてステップ304)に戻り、次の周期のアーク期溶接電流IA(n+1)の測定が行なわれる。一方、ステップ303において溶接電圧V(s) がアーク/短絡判定電圧Va未満と判定されたときにはそのままステップ308に進む。このようにして、上記ステップ303乃至307の処理が所定の時間T2を経過するまで繰り返される。
【0037】
而して、ステップ308にてサンプリング開始後の経過時間taiが所定の時間T2以上となったと判定されるとステップ309に進み、所定の時間T1,T2間のアーク期溶接電流IA(n)が積分され、アーク期溶接電流積分値(∫IA(n)dt)が演算される。そして、ステップ310においてアーク期溶接電流積分値(∫IA(n)dt)の標準偏差(σ1)が演算される。
【0038】
上記アーク期溶接電流積分値(∫IA(n)dt)は、図4に斜線で示した1周期毎のアーク期溶接電流波形と時間軸で囲まれた部分の面積に相当し、その標準偏差σ(∫IA(n)dt)はアーク期溶接電流とアーク時間のバラツキを同時に表す指標となる。従って、アーク期溶接電流積分値(∫IA(n)dt)の標準偏差(σ1)が大きくなるということは、短絡現象が略継続する瞬間アークや短絡に至らない長期アーク現象の発生等により溶滴移行が不安定となっていることを意味し、この標準偏差(σ1)が小さいほど溶滴移行が安定していることを示す。
【0039】
図8は、ステップ211にて演算される短絡期溶接電流の積分値(∫IS(n)dt)の標準偏差(σ3)の演算処理の詳細を示すもので、ステップ401にて溶接電圧V(s) 及び溶接電流I(s) のサンプリングが開始され、この演算に供するカウンタがクリア(0)された後カウントを開始する。続いて、ステップ402にてカウント開始後の経過時間tsiが所定の時間T1となったか否かが判定され、所定の時間T1に達するまで待機される。サンプリング開始後所定の時間T1以上となるとステップ403乃至407の処理が行なわれ、所定の時間T2に達するまでこの処理が繰り返される(ステップ408)。
【0040】
ステップ403においてはサンプリング溶接電圧V(s) がアーク/短絡判定電圧Vaを下回ったか否かが判定され、そうであればステップ404にてn周期目の短絡期溶接電流IS(n)の測定が開始され、ステップ405にて溶接電圧V(s) がアーク/短絡判定電圧Va以上となると、ステップ406にて短絡期溶接電流IS(n)の測定が終了する。そして、ステップ407にて周期nがインクリメントされた後、ステップ408にてサンプリング開始後の経過時間tsiが所定の時間T2以上となったか否かが判定される。経過時間tsiが所定の時間T2未満と判定されるとステップ403に戻り、次の周期の短絡期溶接電流IS(n+1)の測定が行なわれる。一方、ステップ403において溶接電圧V(s) がアーク/短絡判定電圧Va以上と判定されたときにはそのままステップ408に進む。このようにして、上記ステップ403乃至407の処理が所定の時間T2を経過するまで繰り返される。
【0041】
ステップ408にてサンプリング開始後の経過時間tsiが所定の時間T2以上と判定されるとステップ409に進み、所定の時間T1,T2間の短絡期溶接電流IS(n)が積分され、短絡期溶接電流積分値(∫IS(n)dt)が演算される。そして、ステップ410において短絡期溶接電流積分値(∫IS(n)dt)の標準偏差(σ3)が演算される。
【0042】
上記短絡期溶接電流積分値(∫IS(n)dt)は、図4に斜線で示した1周期毎の短絡期溶接電流波形と時間軸で囲まれた部分の面積に相当し、その標準偏差σ(∫IS(n)dt)は短絡期溶接電流と短絡時間のバラツキを同時に表す指標となる。従って、短絡期溶接電流積分値(∫IS(n)dt)の標準偏差(σ3)が大きくなるということは、溶滴移行が殆ど行なわれない瞬間短絡や短絡現象が解放されない長期短絡の発生等により短絡現象が不安定となっていることを意味し、この標準偏差(σ3)が小さいほど短絡現象が安定し溶滴移行が周期的に行なわれていることを示す。
【0043】
尚、図示は省略するが、図7及び図8の処理と同様に、アーク期溶接電圧の積分値(∫VA(n)dt)の標準偏差(σ2)及び短絡期溶接電圧の積分値(∫VS(n)dt)の標準偏差(σ4)が夫々演算される。
【0044】
上記の標準偏差σ1乃至σ4に加え、アーク/短絡時間比率(TA(n)/TS(n))の標準偏差(σ5)を演算し、これらを適宜組み合わせることによって、種々の溶接安定性指標を設定することができる。図9はアーク/短絡時間比率(TA(n)/TS(n))の標準偏差(σ5)の演算処理を示すもので、ステップ501にて溶接電圧V(s) 及び溶接電流I(s) のサンプリングが開始され、この演算に供するカウンタがクリア(0)された後カウントを開始する。続いて、ステップ502にてカウントを開始した後の経過時間tasが所定の時間T1となったか否かが判定され、所定の時間T1に達するまで待機される。サンプリング開始後所定の時間T1以上となるとステップ503乃至509の処理が行なわれ、所定の時間T2に達するまでこの処理が繰り返される(ステップ510)。
【0045】
上記アーク/短絡時間比率(TA(n)/TS(n))の標準偏差(σ5)が大きくなるということは、瞬間アーク、長期アーク、瞬間短絡、長期短絡等の発生により溶滴移行が不安定となっていることを意味し、この標準偏差(σ5)が小さいほど溶滴移行が安定していることを示す。
【0046】
ステップ503においては、溶接電圧V(s) がアーク/短絡判定電圧Va以上となったか否かが判定され、そうであればステップ504に進みアーク期のカウンタのカウント時間tanがクリア(0)された後、アーク期の時間(アーク時間)の測定が開始する。この後、溶接電圧V(s) がアーク/短絡判定電圧Vaを下回るまで測定され、ステップ505にてアーク/短絡判定電圧Vaを下回ったと判定されるとステップ506に進み、そのときのカウント時間tanがアーク時間TA(n)とされる。一方、ステップ503で溶接電圧V(s) がアーク/短絡判定電圧Vaを下回ったと判定されると、ステップ507に進み短絡期のカウンタのカウント時間tsnがクリア(0)された後、短絡期の時間(短絡時間)の測定が開始する。この後、溶接電圧V(s) がアーク/短絡判定電圧Va以上となるまで測定され、ステップ508にてアーク/短絡判定電圧Va以上と判定されるとステップ509に進み、そのときのカウント時間tsnが短絡時間TS(n)とされる。
【0047】
上記ステップ503乃至509においてアーク時間TA(n)及び短絡時間TS(n)の測定は、所定の時間T2を経過するまで繰り返される。即ち、ステップ510にてサンプリング開始後の経過時間tasが所定の時間T2以上か否かが判定され、所定の時間T2未満と判定されると、ステップ511にて周期nがインクリメントされてステップ503に戻り、次の周期のアーク時間TA(n+1)及び短絡時間TS(n+1)が演算される。サンプリング開始後の経過時間tasが所定の時間T2以上となるとステップ510からステップ512に進み、アーク時間TA(n)と短絡時間TS(n)の時間比率(TA(n)/TS(n))が演算される。そして、ステップ513においてアーク/短絡時間比率(TA(n)/TS(n))の標準偏差(σ5)が演算される。而して、このアーク/短絡時間比率標準偏差(σ5)と前述の標準偏差σ1乃至σ4を適宜組み合わせることにより、以下のように溶接安定性指標W2乃至W4を設定することができる。
【0048】
例えば、アーク期溶接電流の積分値(∫IA(n)dt)の標準偏差(σ1)と、短絡期溶接電流の積分値(∫IS(n)dt)の標準偏差(σ3)及び時間比率(TA(n)/TS(n))の標準偏差(σ5)の積が定数K2で除算されて溶接安定性指標W2が演算される(W2=σ1・σ3・σ5/K2)。また、アーク期溶接電圧の積分値(∫VA(n)dt)の標準偏差(σ2)と、短絡期溶接電圧の積分値(∫VS(n)dt)の標準偏差(σ4)及び時間比率(TA(n)/TS(n))の標準偏差(σ5)の積が定数K3で除算されて溶接安定性指標W3が演算される(W3=σ2・σ4・σ5/K3)。あるいは、最も簡単な組合せとして、アーク期溶接電流の積分値(∫IA(n)dt)の標準偏差(σ1)及び短絡期溶接電流の積分値(∫IS(n)dt)の標準偏差(σ3)の積が定数K4で除算された溶接安定性指標W4(=σ1・σ3/K4)を用いることとしてもよい。尚、定数K1乃至K4は溶接安定性指標W1乃至W4を実用的な値に設定するために用いられている。
【0049】
以上のように、溶接安定性指標W1乃至W4は前述の積分値又は時間比率の標準偏差の積で表されているので、この値が大きい場合にはアーク溶接における均一性が悪いことになり、アーク溶接時の溶接安定性の良否を定量的に判定することができる。これらの溶接安定性指標W1乃至W4は、要求される溶接条件に応じて適宜選択される。例えば、溶接安定性指標W1は演算速度は遅くなるが、厳しい溶接品質が要求される場合に好適であり、溶接安定性指標W2は溶滴移行の不安定性を精度良く検出することができ、溶接安定性指標W3はアーク切れ等によるアーク現象の不安定性を精度良く検出することができる。勿論、前掲の全ての標準偏差σ1乃至σ5を用いて、σ1・σ2・σ3・σ4・σ5/K5としてもよいが、それだけ演算処理が多くなり、演算速度が遅くなるので、最も厳しい溶接品質が要求される場合に限られる。
【0050】
図10及び図11は溶接施工条件を変化させたときの溶接安定性指標に基づき適正溶接電圧及び適正溶接電流を判定する実験結果を示すものである。図中、黒点と白点は溶接施工条件が異なる場合を表し、破線と実線は夫々を代表する曲線であるが、黒点の場合はバラツキが大で破線で代表させることは困難である。これらの図10及び図11から明らかなように、溶接電圧及び溶接電流の余裕度が広く、アーク溶接における溶接安定性が良好な、実線の特性を示した溶接施工条件が選択される。
【0051】
スタート部における溶接安定性の判定は、上記の定常部とは異なり、以下の指標が必要となる。先ず、溶接ワイヤと母材が短絡するまでの時間が「無負荷電圧時間」と呼ばれるが、この時間が短すぎると充分なアークが形成されない。このため、本実施形態では、無負荷電圧時間の積算値を基準値と比較し、その差が予め設定した許容範囲を越えたときに異常と判定することとしている。次に、高電圧を印加して溶接ワイヤと母材が短絡した際、瞬時に絶縁破壊が発生せずアーク放電に移行しない現象が「ワイヤスティック」と呼ばれる。このワイヤスティックが生じたときには溶接ワイヤと母材とが短絡しているので短絡電流が流れる。このため、アーク電圧はアーク放電時に比べると低くなることに鑑み、本実施形態では、無負荷電圧時間終了直後のアーク電圧の判定により、アーク放電が生ずるまでの積算時間をワイヤスティック時間とし、これを基準値と比較し、その差が予め設定した許容範囲を越えたときに異常と判定することとしている。
【0052】
更に、アークスタート時に短絡時間が長く続き、長期短絡と定義される状態となると、これを解放するための溶接電源装置1による波形制御によって過大な短絡電流が流れ、アーク再生時に大粒のスパッタが発生しアークが瞬間的に途切れることになる。また、アーク期が長期にわたる場合にもアークが瞬間的に途切れることがある。本実施形態では、このようなアーク途切れ時間の設定時間内における積算時間を基準値と比較し、その差が予め設定した許容範囲を越えたときにアーク時間異常と判定することとしている。
【0053】
而して、本実施形態においては、スタート部における溶接安定性指標として、上記ワイヤスティック時間、アーク途切れ時間、長期短絡時間及び無負荷電圧時間、並びにこれらにアークスタート電流立上り速度を加え、5つの指標を用意し、何れかの指標が基準値との差が予め設定した許容範囲を越えたときに不安定または不良と判定することとしている。尚、アークスタート電流立上り速度は、無負荷電圧時間終了後から所定時間T3(例えば、0.1msec)までの間に溶接ワイヤ2及び母材5に流れる溶接電流の増加速度である。このように、スタート部においては定常部とは異なる指標が用いられるが、前述のように本実施形態では予め溶接作動領域を設定しておき、各溶接作動領域に応じて適切に溶接安定性の判定を行なうことができる。
【0054】
【発明の効果】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、本発明のアーク溶接安定性判定方法及び装置においては、請求項1及び4に記載のように、検出溶接電流に基づきアーク期溶接電流の積分値及び短絡期溶接電流の積分値を演算すると共に、各々の積分値の標準偏差を演算し、アーク期溶接電流の積分値の標準偏差に短絡期溶接電流の積分値の標準偏差を乗じた第1の積と、検出溶接電圧に基づきアーク期溶接電圧の積分値及び短絡期溶接電圧の積分値を演算すると共に、各々の積分値の標準偏差を演算し、アーク期溶接電圧の積分値の標準偏差に短絡期溶接電圧の積分値の標準偏差を乗じた第2の積の少なくとも何れか一方の積に基づきアーク溶接における溶接安定性指標を演算し、この溶接安定性指標を所定の基準値と比較して母材と溶接電極の溶接安定性を判定するように構成されており、積分値の標準偏差を用いているので、アーク溶接時の溶接安定性をリアルタイムで迅速且つ適切に判定することができる。しかも、少ない指標に基づいて溶接安定性指標を演算することができ、これによって適切に判定を行なうことができるので、判定に要するメモリ容量を小さくすることができ、安価な判定装置とすることができる。
【0055】
そして、アーク溶接における溶接安定性指標は、必要に応じて請求項1、2、4及び5に記載のように適宜設定することができ、被溶接物の溶接品質やサイクルタイム等に応じて適切な溶接安定性指標を選択することができる。例えば、請求項1及び4において、第1の積と第2の積との積に基づいて演算した溶接安定性指標は演算速度は遅くなるが、厳しい溶接品質が要求される場合に好適であり、請求項2及び5において、時間比率の標準偏差を第1の積に乗じた積に基づいて演算した溶接安定性指標は、溶滴移行の不安定性を精度良く検出することができ、請求項2及び5において、時間比率の標準偏差を第2の積に乗じた積に基づいて演算した溶接安定性指標は、アーク切れ等によるアーク現象の不安定性を精度良く検出することができる。
【0056】
更に、請求項3及び6に記載のように複数の検出区間に分割することとすれば、検出区間毎に溶接安定性を判定することができるので、溶接不良に対し迅速に対処できると共に、溶接不良箇所の特定も容易となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のアーク溶接安定性判定装置の一実施形態の全体構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態におけるコントローラ内の構成を示すブロックである。
【図3】本発明のアーク溶接安定性判定装置の一実施形態の機能ブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態におけるアーク溶接作動状態を示すグラフである。
【図5】本発明の一実施形態におけるアーク溶接作動の全体処理を示すフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態における定常部における溶接安定性判定の処理を示すフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態におけるアーク期溶接電流の積分値の標準偏差の演算処理を示すフローチャートである。
【図8】本発明の一実施形態における短絡期溶接電流の積分値の標準偏差の演算処理を示すフローチャートである。
【図9】本発明の一実施形態におけるアーク/短絡時間比率の標準偏差の演算処理を示すフローチャートである。
【図10】本発明の一実施形態において溶接施工条件を変化させたときの溶接安定性指標に基づき適正溶接電圧を判定する実験結果の一例を示すグラフである。
【図11】本発明の一実施形態において溶接施工条件を変化させたときの溶接安定性指標に基づき適正溶接電流を判定する実験結果の一例を示すグラフである。
【符号の説明】
1 溶接電源装置, 2 溶接ワイヤ, 5 母材,
10 コントローラ, CPU プロセシングユニット,
AD A/Dコンバータ, AC 駆動回路,
IT 入力インターフェース, OT 出力インターフェース

Claims (6)

  1. 溶接電源によって母材と溶接電極との間に溶接電圧を印加して溶接電流を供給し、前記母材と前記溶接電極との間で短絡とアークを繰り返して溶接を行なうアーク溶接において、前記溶接電源から前記母材及び前記溶接電極に入力する溶接電流であって前記アーク溶接の1周期毎におけるアーク期溶接電流及び短絡期溶接電流を所定の周波数でサンプリングして検出し、前記アーク期溶接電流の積分値及び前記短絡期溶接電流の積分値を演算すると共に、該各々の積分値の標準偏差を演算し、前記アーク期溶接電流の積分値の標準偏差に前記短絡期溶接電流の積分値の標準偏差を乗じた第1の積と、前記溶接電源によって前記母材及び前記溶接電極に印加する溶接電圧であって前記アーク溶接の1周期毎におけるアーク期溶接電圧及び短絡期溶接電圧を所定の周波数でサンプリングして検出し、前記アーク期溶接電圧の積分値及び前記短絡期溶接電圧の積分値を演算すると共に、該各々の積分値の標準偏差を演算し、前記アーク期溶接電圧の積分値の標準偏差に前記短絡期溶接電圧の積分値の標準偏差を乗じた第2の積の少なくとも何れか一方の積に基づき前記アーク溶接における溶接安定性指標を演算し、該溶接安定性指標を所定の基準値と比較して前記母材と前記溶接電極との溶接安定性を判定することを特徴とするアーク溶接安定性判定方法。
  2. 前記アーク溶接の1周期毎におけるアーク期と短絡期の時間比率を演算すると共に、該アーク期と短絡期の時間比率の標準偏差を演算し、該時間比率の標準偏差を前記第1の積と前記第2の積の少なくとも何れか一方に乗じ、前記第1の積と前記時間比率の標準偏差との積、前記第2の積と前記時間比率の標準偏差との積、及び前記第1の積と前記第2の積と前記時間比率の標準偏差との積の何れかに基づき前記アーク溶接における溶接安定性指標を演算し、該溶接安定性指標を所定の基準値と比較して前記母材と前記溶接電極との溶接安定性を判定するように構成したことを特徴とする請求項1記載のアーク溶接安定性判定方法。
  3. 前記溶接電流及び前記溶接電圧の少なくとも何れか一方の検出開始から終了までを複数の検出区間に分割し、該検出区間毎に前記溶接安定性指標を演算し、前記溶接安定性指標を前記検出区間毎に所定の基準値と比較して前記母材と前記溶接電極との溶接安定性を前記検出区間毎に判定することを特徴とする請求項1又は2記載のアーク溶接安定性判定方法。
  4. 母材と溶接電極との間で短絡とアークを繰り返してアーク溶接を行なうアーク溶接装置において、前記母材と前記溶接電極との間に溶接電圧を印加し溶接電流を供給する溶接電源装置と、該溶接電源装置から前記母材及び前記溶接電極に入力する溶接電流であって前記アーク溶接の1周期毎におけるアーク期溶接電流及び短絡期溶接電流を所定の周波数でサンプリングして検出する溶接電流検出手段と、前記溶接電源装置によって前記母材及び前記溶接電極に印加する溶接電圧であって前記アーク溶接の1周期毎におけるアーク期溶接電圧及び短絡期溶接電圧を所定の周波数でサンプリングして検出する溶接電圧検出手段の少なくとも何れか一方の検出手段を備え、前記溶接電流検出手段の検出溶接電流に基づき前記アーク期溶接電流の積分値及び前記短絡期溶接電流の積分値を演算すると共に、該各々の積分値の標準偏差を演算し、前記アーク期溶接電流の積分値の標準偏差に前記短絡期溶接電流の積分値の標準偏差を乗じた第1の積と、前記溶接電圧検出手段の検出溶接電圧に基づき前記アーク期溶接電圧の積分値及び前記短絡期溶接電圧の積分値を演算すると共に、該各々の積分値の標準偏差を演算し、前記アーク期溶接電圧の積分値の標準偏差に前記短絡期溶接電圧の積分値の標準偏差を乗じた第2の積の少なくとも何れか一方の積に基づき前記アーク溶接における溶接安定性指標を演算し、該溶接安定性指標を所定の基準値と比較して前記母材と前記溶接電極との溶接安定性を判定する溶接安定性判定手段とを備えたことを特徴とするアーク溶接安定性判定装置。
  5. 前記溶接安定性判定手段が、前記アーク溶接の1周期毎におけるアーク期と短絡期の時間比率を演算すると共に、該アーク期と短絡期の時間比率の標準偏差を演算し、該時間比率の標準偏差を前記第1の積と前記第2の積の少なくとも何れか一方に乗じ、前記第1の積と前記時間比率の標準偏差との積、前記第2の積と前記時間比率の標準偏差との積、及び前記第1の積と前記第2の積と前記時間比率の標準偏差との積の何れかに基づき前記アーク溶接における溶接安定性指標を演算し、該溶接安定性指標を所定の基準値と比較して前記母材と前記溶接電極との溶接安定性を判定するように構成したことを特徴とする請求項4記載のアーク溶接安定性判定装置。
  6. 前記溶接電流検出手段及び前記溶接電圧検出手段の少なくとも何れか一方による検出開始から終了までを複数の検出区間に分割する検出区間分割手段を備え、前記溶接安定性判定手段が、前記検出区間毎に前記溶接安定性指標を演算し、前記溶接安定性指標を前記検出区間毎に所定の基準値と比較して前記母材と前記溶接電極との溶接安定性を前記検出区間毎に判定するように構成したことを特徴とする請求項4又は5記載のアーク溶接安定性判定装置。
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