JP3894790B2 - 紫外線受光素子 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はn型半導体層上に形成される電極材料にZrB2を使用した紫外線受光素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、紫外域で受光(感光)特性を示す材料であるGaN系半導体を使用した紫外線受光素子が作製されている。紫外線受光素子の基本的な構造としては、AlxGa1-xN(0≦x≦1)からなる受光領域を備えたデバイス構造を形成し、その受光領域のアルミニウム組成比xを調整することでAlxGa1-xNのバンドギャップエネルギ(カットオフ波長)を調整するものである。そして、受光領域を挟んで設けられた一対の電極に対して電界を印加することで、受光領域において発生した光キャリアを光電流として検出していた。しかし、紫外線受光素子を性能の良い火炎センサとして使用するためには、以下に説明するような3点の要求を満たすことが必須である。
【0003】
まず第1に、火炎センサとして、検出対象波長範囲外における欠陥準位による感度を低減し、微弱な火炎の光のみを選択的に検出する必要性から、結晶品質の良好なAlGaN層を受光領域として用いて、欠陥準位の少ない検出対象波長範囲における感度と、検出対象波長範囲外における感度との間の感度差を十分に確保することが求められる。また、三元混晶化合物であるAlGaNに含まれる二元化合物のGaNによる光吸収に起因する感度がカットオフ波長の長波長側である波長約360nm付近に現われることで、上記感度差を確保することが困難になるという問題についても解決する必要がある。ここで、感度(単位はA/W)とは、紫外線受光素子に照射される光強度(W)に対して、どれだけの光電流(A)が発生したかを示すものであり、同じ強度の光を照射した場合、発生する光電流が大きいほど感度が高いと言える。
【0004】
第2に、火炎の光を感度良く検出する必要があるという課題に関連して、欠陥密度が低く結晶品質の良好なAlGaN層を得ることで、紫外線受光素子に発生する暗電流を非常に低いレベルにまで低減することが求められる。これは、暗電流が大きいと、火炎の光を吸収して発生した光電流が暗電流に埋もれてしまう恐れがあるからである。また、暗電流が大きいと、印加されるバイアス電圧が大きくなるとともに暗電流も大きくなるという問題が生じ、結果的に小さいバイアス電圧しか印加することができないという問題にも至る。
【0005】
第3には、同じく火炎の光を感度良く検出する必要があるという課題に関連して、光キャリアを発生させる受光領域には、できるだけ大きい強度の光を入射させることが求められる。従って、受光領域よりも光入射面側には、光吸収や光散乱などによる光損失が極めて小さい半導体層、つまりバンドギャップエネルギが大きく、且つ欠陥密度が低く結晶品質の良好な半導体層を設けることが必要となる。
【0006】
以上のような3つの条件が満たされた時、紫外線受光素子を火炎センサとして使用する上での問題点が解消される。例えば、従来の火炎センサ(紫外線受光素子)では、サファイア基板上に、低温堆積されたAlN層と、GaNの結晶改善層と、低温堆積されたAlN層とを順次堆積させてなる下地構造を形成し、その下地構造上にAlGaNからなるショットキーダイオード型、PN型、PIN型などのデバイス構造が堆積され、大面積の受光領域が確保された素子構造が採用されていた。ここで、上記下地構造の役割は、サファイア基板の結晶成長面の格子間隔とAlGaNの格子間隔との間の格子不整合を緩和させ、欠陥密度が低く結晶品質の良好なAlGaN層(デバイス構造)を作製することにある。そして、結晶品質の良好なAlGaN層を得ることで、上述の3つの問題点を解決しようとしていた。
【0007】
例えば、デバイス構造の最下層に配置されたp型AlGaN層に対してオーミックな特性となるp電極を形成する場合、下地構造上に順次堆積されたp型GaN層(コンタクト層)、p型AlGaN層、n型AlGaN層などで構成されるデバイス構造を部分的に、そのp型GaN層が露出するように上記n型半導体層側からエッチングして、p型GaN層の表面が露出した時点でエッチングを停止させ、その露出されたp型GaN表面にp電極となる金属を堆積させることを行う必要がある。
【0008】
しかし、p型GaN層が薄く形成されている場合には、p型GaN層の表面が露出するようにデバイス構造のエッチングを制御することが非常に困難であるため、p型GaN層を厚く堆積させる必要がある。それに対して、p型GaN層(コンタクト層)を厚く堆積させた場合、下地構造の表面に現れていた良好な格子間隔はそのp型GaN層表面には保存されず、p型AlGaN層が堆積されるべきp型GaN層表面には格子間隔の乱れが生じてしまう。その結果、結晶品質の良好なp型AlGaN層が得られなくなる。以上のように、下地構造のすぐ上層(デバイス構造の最下層)にp型AlGaN層を堆積させる構造をとること自体が不可能であった。従って、下地構造上には、即ちデバイス構造の最下層にはn型半導体層を形成せざるを得ない。
【0009】
ここで、ショットキーダイオード型、PN型、またはPIN型などのデバイス構造を備えた紫外線受光素子を作製する場合、以上のようにデバイス構造の最下層にはn型半導体層が形成されることから、そのn型半導体層上にオーミック電極が設けられる構造が採られるが、その際、n型半導体層の組成には制約が存在する。
【0010】
例えば、太陽光に対して感度を有さないよう波長約280nm付近にカットオフ波長を設定するために、n−Al0.4Ga0.6N層とi−Al0.4Ga0.6N層とを順次積層してなるデバイス構造(ショットキーダイオード型)を作製する場合、i−Al0.4Ga0.6N層上にショットキー電極(正極)を設け、n−Al0.4Ga0.6N層上にオーミック電極が設けられた構成が採られる。
【0011】
しかし、AlxGa1-xNのアルミニウム組成比xが高い場合には、負極とn−Al0.4Ga0.6N層との間の電気的な特性がオーミックにならないという問題があった。そのため、電極が形成されるn型AlxGa1-xN層のアルミニウム組成比xが、オーミック接触を形成することができる臨界値以下である0.2以下であるコンタクト層を新たに設けることで、まずは電極とコンタクト層との間の電気的な特性をオーミックなものとし、その結果として電極とn型AlGaN層との界面の電気的な特性をオーミックなものとしていた。上述の例では、n−Al0.2Ga0.8N層(コンタクト層)と、n−Al0.4Ga0.6N層と、i−AlGaN層とを順次積層したデバイス構造を形成し、アルミニウム組成比の低いn−Al0.2Ga0.8N層(コンタクト層)に対してオーミック接触となる負極を形成していた。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、コンタクト層のアルミニウム組成比は、受光領域を形成するi−Al0.4Ga0.6N層よりも小さいことからそのバンドギャップエネルギも小さくなり、受光領域で吸収される光よりも低エネルギ側の光(長波長側の光)を吸収して、検出対象波長範囲以外の光(この場合は太陽光)に対しても感度を有するという問題が生じる。つまり、紫外線受光素子の感度に、コンタクト層(上述の場合はn−Al0.2Ga0.8N層)による光吸収を起源とする感度が含まれるため、極めて微弱な光を検出対象波長範囲を選択して受光する必要がある火炎センサとして紫外線受光素子を使用するのに適さないという問題が生じる。
【0013】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、n型半導体層に対するオーミック電極のコンタクト層が不要な素子構造を有する紫外線受光素子を提供する点にある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するための本発明に係る紫外線受光素子の第一の特徴構成は、特許請求の範囲の欄の請求項1に記載の如く、AlxGa1-xN(0≦x≦1)からなるn型半導体層を少なくとも有するデバイス構造と、前記デバイス構造の所定部位に設けられた一対の電極とを備えてなり、前記デバイス構造中の単数または複数の半導体層によって受光領域が形成されてなる紫外線受光素子であって、前記n型半導体層上に設けられた前記電極の1つがZrB2を含んで構成されたオーミック電極である点にある。ここで、電極と半導体との間の電気的な特性がオーミックな状態にある場合の電極をオーミック電極と呼び、擬似的なオーミック電極も含まれる。
【0015】
上記課題を解決するための本発明に係る紫外線受光素子の第二の特徴構成は、特許請求の範囲の欄の請求項2に記載の如く、上記第一の特徴構成に加えて、前記受光領域の形成に係るAlGaNのバンドギャップエネルギが3.6eV以上である点にある。
【0016】
上記課題を解決するための本発明に係る紫外線受光素子の第三の特徴構成は、特許請求の範囲の欄の請求項3に記載の如く、上記第二の特徴構成に加えて、前記受光領域の形成に係るAlGaNのバンドギャップエネルギが4.0eV以下である点にある。
【0017】
上記課題を解決するための本発明に係る紫外線受光素子の第四の特徴構成は、特許請求の範囲の欄の請求項4に記載の如く、上記第二の特徴構成に加えて、前記受光領域の形成に係るAlGaNのバンドギャップエネルギが4.1eV以上である点にある。
【0018】
上記課題を解決するための本発明に係る紫外線受光素子の第五の特徴構成は、特許請求の範囲の欄の請求項5に記載の如く、上記第四の特徴構成に加えて、前記n型半導体層のアルミニウム組成比xが0.25以上である点にある。
【0019】
上記課題を解決するための本発明に係る紫外線受光素子の第六の特徴構成は、特許請求の範囲の欄の請求項6に記載の如く、上記第四または第五の特徴構成に加えて、前記受光領域の形成に係るAlGaNのバンドギャップエネルギが4.4eV以上である点にある。
【0020】
上記課題を解決するための本発明に係る紫外線受光素子の第七の特徴構成は、特許請求の範囲の欄の請求項7に記載の如く、上記第六の特徴構成に加えて、前記n型半導体層のアルミニウム組成比xが0.35以上である点にある。
【0021】
上記課題を解決するための本発明に係る紫外線受光素子の第八の特徴構成は、特許請求の範囲の欄の請求項8に記載の如く、上記第一から第七の特徴構成に加えて、前記ZrB2がZr源とB源とを使用したMOCVD法により作製される点にある。
【0022】
以下に作用並びに効果を説明する。
本発明に係る紫外線受光素子の第一の特徴構成によれば、n型半導体層上に設けられる電極がZrB2を含んで構成されることで、AlxGa1-xN(0≦x≦1)からなるn型半導体層のアルミニウム組成比xに関係なく、そのn型半導体層と電極との間の電気的な特性をオーミックなものとすることができる。従って、アルミニウム組成比を小さくしたコンタクト層が不要であり、コンタクト層において、受光領域で吸収される光よりも低エネルギ側の光(長波長側の光)を吸収してしまい、受光領域が吸収する検出対象波長範囲以外の光(太陽光や各種照明機器からの室内光)に対しても感度を有するという従来の問題を回避することができる。
【0023】
以上のように、紫外線受光素子における感度が、受光領域による光吸収を起源とするものだけに限定されるので、検出対象波長範囲における感度と、検出対象波長範囲外における感度との間の感度差を十分に確保することができる。更に、紫外線受光素子に照射される光を吸収し、散乱させるという光損失をもたらすコンタクト層が不要になることから、受光領域に対して大きな強度の光が入射されることを確実にできる。その結果、微弱な光を感度良く検出することのできる紫外線受光素子が提供される。特に、微弱な光を感度良く検出することが求められる火炎センサとしての使用に適した紫外線受光素子を提供することができる。
【0024】
本発明に係る紫外線受光素子の第二の特徴構成によれば、上記受光領域において3.6eV以上のエネルギを有する光が吸収されることで、波長約344nm(3.6eV)以下の波長の光、即ち、波長約344nm以下の波長域に比較的大きい強度で現れる火炎の光を上記受光領域によって選択的に検出することができる紫外線受光素子を得ることができる。
【0025】
本発明に係る紫外線受光素子の第三の特徴構成によれば、上記受光領域において3.6eV以上4.0eV以下のエネルギを有する光が吸収されることで、波長約310nm(4.0eV)〜344nm(3.6eV)の範囲の波長の光、即ち、火炎の光の中でも特に炭化水素を含む化合物を燃焼させた場合に観測されるOHラジカルの発光に起因する発光ピークを良好に検出することができる紫外線受光素子を得ることができる。特に、紫外線受光素子の設置場所がエンジン内部などの閉鎖された空間である場合には、屋外に設置された場合には同時に観測される各種照明機器からの室内光や太陽光といった外乱光が存在することがないため、火炎の光のみを良好に検出することができる。
【0026】
本発明に係る紫外線受光素子の第四の特徴構成によれば、上記受光領域において4.1eV以上のエネルギを有する光が吸収されることで、波長約300nm(4.1eV)以下の波長の光、即ち、火炎の光を上記受光領域によって検出することができる紫外線受光素子を得ることができる。更に、波長約300nmを超える波長の光、即ち、各種照明機器などからの室内光に対しては上記受光領域が感度を有さないので、火炎の光に対して選択的に感度を有する紫外線受光素子を得ることができる。
【0027】
本発明に係る紫外線受光素子の第五の特徴構成によれば、n型半導体層を構成するAlGaNのアルミニウム組成比xが0.25以上であることで、そのn型半導体層のバンドギャップエネルギを約4.1eV以上に調整することができる。その結果、受光領域で吸収される光のエネルギ以下のエネルギの光を透過させて、受光領域による検出対象波長範囲よりも長波長側に光吸収による感度が現れないようなn型半導体層を作製することができる。
【0028】
本発明に係る紫外線受光素子の第六の特徴構成によれば、上記受光領域において4.4eV以上のエネルギを有する光が吸収されることで、波長約280nm(4.4eV)以下の波長の光、即ち、火炎の光を上記受光領域によって検出することができる紫外線受光素子を得ることができる。更に、波長約280nmを超える波長の光、即ち、各種照明機器などからの室内光および太陽光(自然光)に対しては上記受光領域が感度を有さないので、火炎の光に対して選択的に感度を有する紫外線受光素子を得ることができる。
【0029】
本発明に係る紫外線受光素子の第七の特徴構成によれば、n型半導体層を構成するAlGaNのアルミニウム組成比xが0.35以上であることで、そのn型半導体層のバンドギャップエネルギを約4.4eV以上に調整することができる。その結果、受光領域で吸収される光のエネルギ以下のエネルギの光を透過させ、受光領域による検出対象波長範囲よりも長波長側に光吸収による感度が現れないようなn型半導体層を作製することができる。
【0030】
本発明に係る紫外線受光素子の第八の特徴構成によれば、MOCVD法という一般的な成膜方法を利用して、ZrB2を作製することができる。また、各半導体層についてもMOCVD法により成膜することができるため、各半導体層を作製するための各種ガスソースに加えて、ZrB2を作製するためのZr:ジルコニウム源とB:ホウ素源とを用意しておくことで、各半導体層とZrB2電極とを同じ成膜装置を使用して作製することができるという利点がある。
【0031】
【発明の実施の形態】
図1に示す紫外線受光素子は、ショットキーダイオード型の素子構造を採用した場合の構成例である。この紫外線受光素子は、基板1上に、下地構造とデバイス構造とを順次積層して形成される。下地構造は、基板1上に、低温堆積緩衝層2(バッファ層)と、結晶改善層3と、低温堆積中間層4(バッファ層)とを順次積層して形成され、デバイス構造は、低温堆積中間層4上に、AlxGa1-xN(0≦x≦1)からなるn型半導体層5と、i型半導体層(受光領域)6とを順次積層して形成される。また、n型半導体層5が部分的に露出するようにデバイス構造をエッチングなどによって除去し、その露出部位に電極7が形成され、i型半導体層6上に電極8が形成される。尚、電極7はZrB2からなり、且つn型半導体層5に対して電気的な特性がオーミックなものとなるオーミック電極であり、電極8はi型半導体層6に対してショットキー接合となるショットキー電極である。ここで、光は電極8側から入射されるため、電極8は透明導電性膜(ITO、SnO2など)で形成される。
【0032】
図1に例示した素子構造では、基板1の材料はサファイアであり、低温堆積緩衝層2の材料はAlNであり、結晶改善層3の材料はGaNであり、低温堆積中間層4の材料はAlNであり、n型半導体層5の材料はAlGaNであり、i型半導体層6の材料はAlGaNである。上記の各窒化物半導体層は、トリメチルアルミニウム(Al源)、トリメチルガリウム(Ga源)、アンモニア(窒素源)などの各原料ガスを使用したMOCVD法を利用して作製可能である。
【0033】
尚、上記下地構造の役割は、デバイス構造の結晶品質を良好なものとすることである。サファイア基板1の結晶成長表面における格子間隔と、デバイス構造を構成するAlxGa1-xN(0≦x≦1)の格子定数との間には大きな差が存在するが、下地構造によってその格子不整合を緩和し、AlGaN層を成長させる際に加わる格子不整合による応力を非常に小さくさせることができる。その結果、デバイス構造中のAlGaN層の結晶品質を良好にすることができる。
【0034】
図1に示した紫外線受光素子に対して外部から光が照射された場合、その光は電極8を透過して受光領域であるi型半導体層6に入射して吸収され、光キャリアが発生される。電極7および電極8の間には電界が印加されており、発生された光キャリアは光電流として外部に出力される。ここで、電極7の材料にはZrB2を使用していることから、AlxGa1-xN(0≦x≦1)からなるn型半導体層5のアルミニウム組成比に関係なく、n型半導体層5と電極7との間の電気的な特性をオーミックなものとすることができる。
【0035】
デバイス構造を構成するAlxGa1-xN(0≦x≦1)のバンドギャップエネルギはアルミニウム組成比を変えることで調整され、アルミニウム組成比xとバンドギャップエネルギとは図2に示すような関係で示される。図2から読み取れるように、アルミニウム組成比xを変えることで、AlxGa1-xNのバンドギャップエネルギを3.42eVから6.2eVにまで調整することができる。従って、受光領域で吸収可能な光の波長は約200nm〜約363nmの間で調整可能である。また、紫外線受光素子において火炎の光を検出する場合には、図3の発光スペクトルに示すような火炎の発光を吸収するバンドギャップエネルギを有する受光領域を形成すればよい。尚、図3に示す火炎の発光スペクトルは、ガス(炭化水素)を燃焼させた際に発生する火炎のスペクトルである。また、太陽光のスペクトルと、各種照明機器からの光による室内光のスペクトルも同時に示す。
【0036】
以下には、受光領域の形成に係るAlGaNのバンドギャップエネルギについて説明する。
紫外線受光素子に波長選択性を持たせるためには、受光領域(AlxGa1-xN)におけるAlの組成比を調整して、そのバンドギャップエネルギを所望の値に設定することが行われる。例えば、波長約344nm以下の波長域に比較的大きい強度で現れる火炎の光を選択的に受光することのできる火炎センサを作製したい場合には、受光領域のバンドギャップエネルギが3.6eV以上となるようにアルミニウム組成比x=0.05、或いはそれ以上とすればよい。或いは、約300nm以上の波長域に含まれる、各種照明機器からの光(室内光)を受光せずに、検出対象波長範囲にある火炎の光を受光するような火炎センサを作製したい場合には、受光領域のバンドギャップエネルギが4.1eV以上となるようにアルミニウム組成比x=0.25、或いはそれ以上とすればよい。また或いは、約280nm以上の波長域に含まれる、太陽光からの光を受光せずに、検出対象波長範囲にある火炎の光のみを受光するような火炎センサを作製したい場合には、受光領域のバンドギャップエネルギが4.4eV以上となるようにアルミニウム組成比x=0.35、或いはそれ以上とすればよい。
【0037】
或いは、弱い光強度であれば太陽光などの外乱光が受光領域において吸収されても構わない場合には、受光領域のバンドギャップエネルギが4.3eV以上(波長約290nm以下)となるようにアルミニウム組成比x=0.31、或いはそれ以上とすればよい。波長約290nm以下では図3に示すようにそれらの外乱光の光強度が非常に小さくなり、他方で火炎の光は大きいので、結果として火炎の光が存在することを検知することができる。
【0038】
更に、紫外線受光素子がエンジン内部などの閉鎖空間に設置され、そこで燃焼される燃料の発光を検出したい場合には、上述した室内光や太陽光が存在しないため、それらを排除するような大きいバンドギャップエネルギを設定する必要はない。そのため、検出対象波長範囲にある火炎の光の中でも特に炭化水素を含む化合物(エンジンで燃焼される燃料)を燃焼させた場合に観測されるOHラジカルの発光に起因する発光ピーク(波長約310nm(310nm±10nm):4.0eV)の光(波長310nm以上344nm以下の火炎の光)を選択的に受光することのできる紫外線受光素子を作製した場合には、受光領域のバンドギャップエネルギが3.6eV以上4.0eV以下となるように、アルミニウム組成比xを0.05以上0.23以下とすればよい。
【0039】
尚、上述したアルミニウム組成比xとバンドギャップエネルギとの関係は理論値に基づいて説明したものであり、アルミニウム組成比xが同じになるように成膜を行ったとしても実際に得られるAlGaN層のバンドギャップエネルギが異なる可能性もある。例えば、三元混晶化合物であるAlGaNの場合には、二元化合物であるGaNが生成され易く、その結果、バンドギャップエネルギが低エネルギ側(長波長側)にシフトする傾向にある。従って、理論値通りのバンドギャップエネルギを得たい場合には、アルミニウム組成比を予め大きく設定した上で成膜することが行われることもある。
【0040】
本発明に係る紫外線受光素子においては上述のようなデバイス構造を形成した後、上述したように受光領域を挟んで電界を印加する一対の電極の形成が行われる。電極7の材料となるZrB2は、イオンビームスパッタ、レーザアブレーション、CVDなどの蒸着方法により作製することができる。特に、Zr源としてZr[N(C2524、またはZr(BH44などを使用し、B源としてトリメチルボロンを使用したMOCVD法を利用してZrB2を作製する場合、デバイス構造を形成する各窒化物半導体層と共通の成膜装置を使用することができるという利点がある。尚、後述するように、作製されたZrB2電極上にAl、Au、Ni、Tiなどの金属を更に形成してZrB2電極を保護するような多層電極を形成してもよい。
【0041】
従来、電極7の材料にはAl、Au、Ni、Tiなどが使用されていたが、これらの材料ではAlxGa1-xN層(0≦x≦1)との間の電気的な特性をオーミックなものとすることが困難であった。具体的には、アルミニウム組成比xの値が0.2よりも大きい場合には電極金属との間で電気的な特性をオーミックなものとすることが出来なかった。しかし、図1を参照して説明したように電極7の材料としてZrB2を使用した場合には、アルミニウム組成比に制限されず、アルミニウム組成比xの値が0.2よりも大きい場合にも、電極7とAlxGa1-xN層との界面の電気的な特性をオーミックなものとすることができる。
【0042】
例えば、図1に示す紫外線受光素子においてi型半導体層(受光領域)6がAl0.25Ga0.75Nである場合、受光領域のバンドギャップエネルギは約4.1eVとなり、上述のように受光領域では室内光は吸収されない。ここで、n型半導体層(AlxGa1-xN)5のアルミニウム組成比xが0.25以上である場合、受光領域であるi型半導体層6において吸収される光のエネルギ以下の光が、n型半導体層5において吸収されることがないので、設計された検出対象波長範囲以外の光に対しては感度が現れない紫外線受光素子が得られる。
【0043】
更に、図1に示す紫外線受光素子においてi型半導体層6がAl0.35Ga0.65Nである場合、受光領域のバンドギャップエネルギは約4.4eVとなり、上述したように受光領域では太陽光は吸収されない。ここで、n型半導体層(AlxGa1-xN)5のアルミニウム組成比xが0.35以上である場合、受光領域であるi型半導体層6において吸収される光のエネルギ以下の光が、n型半導体層5において吸収されることがないので、設計された検出対象波長範囲以外の光に対しては感度が現れない紫外線受光素子が得られる。
【0044】
以上のように、デバイス構造中の受光領域以外の部分のバンドギャップエネルギを受光領域のバンドギャップエネルギ以上にすることができる、つまり、受光領域以外の部分を光透過特性の良好な受光領域にとっての窓にすることができるので、受光領域に入射される光の強度を大きく確保することができる。従って、外部から紫外線受光素子に照射される光が微弱であっても、その光強度を減衰させることなく受光領域にまで到達させることができる。
【0045】
図4に示す紫外線受光素子は、PIN型の素子構造を採用した場合の構成例である。この紫外線受光素子は、基板1上に、下地構造とデバイス構造とを順次積層して形成され、その下地構造の構成は図1に例示した下地構造と同様である。他方で、デバイス構造は低温堆積中間層4上に、AlxGa1-xN(0≦x≦1)からなるn型半導体層5と、i型半導体層(受光領域)6と、p型半導体層12とを順次積層して形成される。また、n型半導体層5が部分的に露出するようにデバイス構造をエッチングなどによって除去し、その露出部位に電極7が形成され、p型半導体層12上に電極8が形成される。電極7はZrB2からなり、且つn型半導体層5との間の電気的な特性をオーミックなものとするオーミック電極であり、電極8はp型半導体層12との間の電気的な特性をオーミックなものとするオーミック電極である。ここで、光は電極8側から入射されるため、電極8は透明導電性膜(ITO、SnO2など)またはメッシュ状の金属電極で形成される。
【0046】
ここで、n型半導体層5の材料はAlGaNであり、i型半導体層6の材料はAlGaNであり、p型半導体層12の材料はGaNである。図1を参照して上述したのと同様に、n型半導体層5上にオーミック電極を形成するために、電極7の材料としてZrB2を使用した場合には、AlxGa1-xN層(0≦x≦1)からなるn型半導体層5のアルミニウム組成比xに制限はなく、アルミニウム組成比xの値が0.2よりも大きい場合にも、電極7とAlxGa1-xN層(n型半導体層5)との界面の電気的な特性をオーミックなものとすることができる。また、電極7の下の分布容量の減少によって、応答速度が向上したり、n型半導体層5の厚さの設計自由度が高まるという効果も得られる。
【0047】
図5に示す紫外線受光素子もPIN型の素子構造を採用した場合の構成例であり、ZrB2基板21上に、ZrB2基板表面を窒化処理することで得られるZrN層22と、p型GaN層(p型コンタクト層)23と、p型半導体層24と、i型半導体層25と、n型半導体層26とが順次形成されてなる。また、p型半導体層24が部分的に露出するようにn型半導体層26と、i型半導体層25と、p型半導体層24とをエッチングなどによって除去し、その露出部位に電極7が形成され、n型半導体層26上に電極8が形成される。電極8はZrB2からなり、且つn型半導体層26との間の電気的な特性をオーミックなものとするオーミック電極であり、電極7はp型半導体層24との間の電気的な特性をオーミックなものとするオーミック電極である。ここで、光は電極8側から入射されるため、電極8はメッシュ状のなどの光透過性の良好な形状で作製される。
【0048】
受光領域として作用するi型半導体層25に対して大きな強度の光が入射されることを確実にするためには、n型半導体層26が薄く、且つi型半導体層25よりも光入射面側にあるn型半導体層26のバンドギャップエネルギがi型半導体層25のバンドギャップエネルギ以上であることが要求されるが、電極8の材料としてZrB2を使用した場合には、AlxGa1-xN層(0≦x≦1)からなるn型半導体層26のアルミニウム組成比xが制限を受けることはなく、アルミニウム組成比xの値が0.2よりも大きい場合にも、電極8とAlxGa1-xN層(n型半導体層26)との界面の電気的な特性をオーミックなものとすることができる。
【0049】
また、図5に例示したPIN型の素子構造は、基板側からp型、i型、n型と積層されているが、基板側からn型、i型、p型と積層されたPIN型の素子構造を採用することもできる。例えば、ZrB2基板上にAlxGa1-xN層(0≦x≦1)からなるn型半導体層を堆積させた場合、その界面にはZrNなどの窒化物層が形成されるため、ZrB2基板とn型半導体層との間の電気的な特性をオーミックなものとすることができない。しかし、上記ZrB2基板とZrNなどの窒化物層をエッチングしてn型半導体層から取り外し、そのn型半導体層表面にZrB2電極を上述したのと同様の方法で作製することで、ZrB2電極とn型半導体層との間の電気的な特性をオーミックなものとすることができる。
【0050】
図6は、図1に例示した素子構造の紫外線受光素子の光入射面側に干渉層を配置した紫外線受光素子の例である。ここで、干渉層は光透過性のAlN層10とAlGaN層11とを交互に積層して形成され、多層膜フィルタの原理と同様に、AlN層10とAlGaN層11との界面における光の干渉作用を使用して、所定の波長の光強度を減衰させることが行われる。その結果、波長選択性の高い紫外線受光素子を提供することができる。尚、最下層のAlN層10は、低温堆積されたAlN層であり、この場合には膜中にクラックが発生することが抑制され、結晶品質の良好な膜が得られるため、長波長側に吸収が発生し難い干渉層を得ることができる。尚、AlN層10とAlGaN層11との繰り返し回数は図示したものに限定されない。
【0051】
また、ZrB2電極7上にはAl、Au、Ni、Ti、Crなどからなる金属が保護金属電極9として設けられることで、ZrB2電極7が保護されている。
【0052】
尚、以上の実施形態ではショットキーダイオード型などの紫外線受光素子を参照して説明したが、本願発明はこれに限定されない。例えば、デバイス構造がPIN型やPN型である場合などにも適用可能である。言い換えると、n−AlGaNとZrB2との間の電気的な特性をオーミックなものとするためのあらゆる場合に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】紫外線受光素子の構成図である。
【図2】AlGaNのバンドギャップエネルギを示すグラフである。
【図3】火炎の光、太陽光、および室内光のスペクトルを示すグラフである。
【図4】紫外線受光素子の別の構成図である。
【図5】紫外線受光素子の別の構成図である。
【図6】紫外線受光素子の別の構成図である。
【符号の説明】
1 基板
2 低温堆積緩衝層
3 結晶改善層
4 低温堆積中間層
5 n型半導体層
6 i型半導体層
7 電極
8 電極
9 保護電極
10 AlN(干渉層)
11 AlGaN(干渉層)
12 p型半導体層
21 ZrB2基板
22 ZrN層
23 p型コンタクト層
24 p型半導体層
25 i型半導体層
26 n型半導体層

Claims (8)

  1. AlxGa1-xN(0≦x≦1)からなるn型半導体層を少なくとも有するデバイス構造と、前記デバイス構造の所定部位に設けられた一対の電極とを備えてなり、前記デバイス構造中の単数または複数の半導体層によって受光領域が形成されてなる紫外線受光素子であって、
    前記n型半導体層上に設けられた前記電極の1つがZrB2を含んで構成されたオーミック電極である紫外線受光素子。
  2. 前記受光領域の形成に係るAlGaNのバンドギャップエネルギが3.6eV以上である請求項1に記載の紫外線受光素子。
  3. 前記受光領域の形成に係るAlGaNのバンドギャップエネルギが4.0eV以下である請求項2に記載の紫外線受光素子。
  4. 前記受光領域の形成に係るAlGaNのバンドギャップエネルギが4.1eV以上である請求項2に記載の紫外線受光素子。
  5. 前記n型半導体層のアルミニウム組成比xが0.25以上である請求項4に記載の紫外線受光素子。
  6. 前記受光領域の形成に係るAlGaNのバンドギャップエネルギが4.4eV以上である請求項4または請求項5に記載の紫外線受光素子。
  7. 前記n型半導体層のアルミニウム組成比xが0.35以上である請求項6に記載の紫外線受光素子。
  8. 前記ZrB2がZr源とB源とを使用したMOCVD法により作製される請求項1から請求項7の何れか1項に記載の紫外線受光素子。
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