JP3892237B2 - トリフェニルボラン・アミン錯体化合物の製造法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、漁網防汚剤、船底塗料、工業用防腐防黴剤または動物忌避剤などの有効成分として有用なトリフェニルボラン・アミン錯体化合物の製造法に関する。
【0002】
【従来の技術】
ベリヒテ、第57巻、813頁(1924年)、米国特許第3211679号明細書には、トリフェニルボランの無水エーテル溶液を調製し、窒素気流下、種々のアミンと反応させることにより、相当するトリフェニルボラン・アミン錯体化合物を合成する方法が記載されている。この方法では、高価で非常に引火性の高いエーテルを使用すること、および原料のトリフェニルボランは不安定で可燃性の固体であるため、工業的スケールでの多量の取り扱いは、危険であるなどの問題がある。
【0003】
特開平8−311074号公報には、トリフェニルボランの水酸化ナトリウム付加体を水溶液中でアミンと反応させることにより、トリフェニルボラン・アミン錯体化合物を製造する方法が記載されているが、原料となるトリフェニルボランの水酸化ナトリウム付加体の前駆体として不安定なトリフェニルボランを経由しなければならないなどの問題がある。
【0004】
ジャーナル・オブ・オーガノメタリック・ケミストリー、第8巻、411頁(1967年)には、テトラフェニルホウ酸アルカリ金属塩とアミンのハロゲン化水素酸塩を反応させることによりトリフェニルボラン・アミン錯体化合物を製造する方法が記載されている。また、特開平11−292883号公報には、テトラフェニルホウ酸アルカリ金属塩とアミンを反応させることによりトリフェニルボラン・アミン錯体化合物を製造する方法が記載されている。これらの製造方法では、不安定なトリフェニルボランの代わりに、安定なテトラフェニルホウ酸アルカリ金属塩を使用するが、いずれの場合もテトラフェニルホウ酸アルカリ金属塩を製造し、単離する必要があり、工程が長くなるなど経済的な製造法ではない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
従来技術におけるトリフェニルボラン・アミン錯体化合物の製造法は上記のような問題点を有するため、火災などの危険性がなく安全に取り扱え、しかも簡単な工程で経済的、且つ工業的に有利な製造法が切望されている。本発明の目的は、出発原料が安定で取り扱いが容易であり、経済的に効率よくトリフェニルボラン・アミン錯体化合物を製造する方法を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記した従来のトリフェニルボラン・アミン錯体化合物の製造上の諸欠点を克服するために鋭意研究に努力した結果、反応中間体であるテトラフェニルホウ酸マグネシウムハライドを単離することなく、直接反応に用いることにより、トリフェニルボラン・アミン錯体化合物をワンポットで合成できる工業的に有利な方法を見いだし、本発明を完成させるに至った。
【0007】
すなわち本発明は、つぎのトリフェニルボラン・アミン錯体化合物の製造法を提供する。
(1)一般式(2):
【0008】
【化4】
【0009】
(式中、Xはハロゲン原子を示す)で表されるテトラフェニルホウ酸マグネシウムハライドと、一般式(3):
【0010】
【化5】
【0011】
(式中、Rは炭素数1〜18の直鎖または分枝状のアルキレン基、Yは水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜18の直鎖もしくは分枝状のアルコキシル基、Zはハロゲン原子を示す)で表される第一級アミン塩とを反応させることを特徴とする一般式(1):
【0012】
【化6】
【0013】
(式中、R、Yは前記と同義である)で表されるトリフェニルボラン・アミン錯体化合物の製造法。
(2)テトラフェニルホウ酸マグネシウムハライドがテトラフェニルホウ酸マグネシウムクロライドである前記(1)記載の製造法。
(3)一般式(3)において、Rが炭素数1〜8の直鎖または分枝状のアルキレン基、Yが炭素数1〜18の直鎖または分枝状のアルコキシル基である第一級アミン塩を用いる前記(1)または(2)記載の製造法。
(4)一般式(3)において、Rがトリメチレン基、Yがブトキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基またはラウリルオキシ基である第一級アミン塩を用いる前記(1)〜(3)のいずれかに記載の製造法。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明においては、一般式(2)で表されるテトラフェニルホウ酸マグネシウムハライドと、一般式(3)で表される第一級アミン塩とを反応させて、一般式(1)で表されるトリフェニルボラン・アミン錯体化合物を製造する。
【0015】
本発明で用いられるテトラフェニルホウ酸マグネシウムハライドは一般式(2):
【0016】
【化7】
【0017】
(式中、Xはハロゲン原子を示す。)で表されるものである。Xで表されるハロゲン原子としては、塩素原子、臭素原子などがあげられる。一般式(2)で表されるテトラフェニルホウ酸マグネシウムハライドの具体例としては、テトラフェニルホウ酸マグネシウムクロライド、テトラフェニルホウ酸マグネシウムブロマイドなどがあげられる。
【0018】
一般式(2)で表されるテトラフェニルホウ酸マグネシウムハライドは、三フッ化ホウ素のエーテル錯体とフェニルマグネシウムクロライドやフェニルマグネシウムブロマイドなどのフェニルマグネシウムハライドとをテトラヒドロフランなどの不活性溶媒中で反応させることにより容易に製造できる。この反応により得られたテトラフェニルホウ酸マグネシウムハライドを含有する反応混合液は、テトラフェニルホウ酸マグネシウムハライドを単離することなく、そのままつぎの工程で使用できる。前記反応で使用される溶媒としては、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,4−ジオキサンなどが単独でまたは2種以上を混合して使用できるが、これらに炭化水素系溶媒、例えばベンゼン、トルエン、キシレンなどを加えて混合溶媒として用いてもよい。
【0019】
本発明の方法では、つぎに前記テトラフェニルホウ酸マグネシウムハライド(該化合物を含有する反応混合物)と、一般式(3)で表される第一級アミン塩の水溶液との反応により、目的とする一般式(1)で表されるトリフェニルボラン・アミン錯体化合物を得る。
【0020】
一般式(3)で表される第一級アミン塩は、水と第一級アミンの混合物に、化学量論的にほぼ等量の塩酸水、臭化水素酸水などのハロゲン化水素酸水を徐々に加えることにより、容易に合成できる。また、アミンが固体の場合は溶融温度まで加熱後、ハロゲン化水素酸水を滴下するのが好ましい。
【0021】
テトラフェニルホウ酸マグネシウムハライドに対する一般式(3)で表されるアミン塩の使用量は、テトラフェニルホウ酸マグネシウムハライドの使用量に対して80〜120モル%の範囲が好ましく、より好ましくは85〜90モル%である。
【0022】
テトラフェニルホウ酸マグネシウムハライドと一般式(3)で表されるアミン塩との反応は、テトラフェニルホウ酸マグネシウムハライド(該化合物を含有する反応混合液)に、一般式(3)で表されるアミン塩の水溶液を、40℃以下を保ちながら徐々に加え、添加終了後、40℃以下でさらに反応させることによって行うことができる。反応時間は、30分間から24時間程度である。得られた反応混合物の後処理は適宜の方法で行うことができるが、たとえば、反応混合物から有機層をデカンテーションにより分離、採取し、溶媒を留去後キシレンに置き換え、水洗し、脱水した後にキシレンを減圧で留去することにより、目的とする一般式(1)で表されるトリフェニルボラン・アミン錯体化合物を得ることができる。
【0023】
つぎに、本発明に用いる第一級アミン塩について詳しく説明する。本発明に用いる第一級アミン塩は一般式(3):
【0024】
【化8】
【0025】
(式中、Rは炭素数1〜18の直鎖または分枝状のアルキレン基、Yは水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜18の直鎖もしくは分枝状のアルコキシル基、Zはハロゲン原子を示す)で表されるものである。
【0026】
一般式(3)において、Rで表される炭素数1〜18の直鎖または分枝状アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、2−メチルトリメチレン基、1,1−ジメチルエチレン基、1,2−ジメチルエチレン基、1−エチルエチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、1−ブチルエチレン基、オクタメチレン基、2−エチルヘキサメチレン基、デカメチレン基、ドデカメチレン基、テトラデカメチレン基、ヘキサデカメチレン基、オクタデカメチレン基などがあげられる。アミン塩の溶剤への溶解性、性状などの点から、炭素数1〜8の直鎖または分枝状アルキレン基が好ましい。Yで表される官能基のうちハロゲン原子としては、塩素、臭素、ヨウ素などがあげられる。炭素数1〜18の直鎖もしくは分枝状のアルコキシル基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec―ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、ウンデシルオキシ基、ラウリルオキシ基、トリデシルオキシ基、テトラデシルオキシ基、ペンタデシルオキシ基、ヘキサデシルオキシ基、ヘプタデシルオキシ基、ステアリルオキシ基などがあげられる。Yで表される官能基としては、アミン塩の溶剤への溶解性、性状などの点から、炭素数1〜18の直鎖または分枝状のアルコキシル基が好ましく、とくに好ましくは炭素数4〜12の直鎖または分枝状のアルコキシル基である。Zで表されるハロゲン原子としては、塩素、臭素などがあげられる。
【0027】
本発明で用いる一般式(3)で表されるアミン塩のうち好ましいものとしては、3−ブトキシプロピルアミン塩酸塩、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン塩酸塩、3−ラウリルオキシプロピルアミン塩酸塩、3−ステアリルオキシプロピルアミン塩酸塩、3−ブトキシプロピルアミン臭化水素酸塩、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン臭化水素酸塩、3−ラウリルオキシプロピルアミン臭化水素酸塩、3−ステアリルオキシプロピルアミン臭化水素酸塩などがあげられる。
【0028】
本発明の目的化合物であるトリフェニルボラン・アミン錯体化合物は一般式(1):
【0029】
【化9】
【0030】
で表されるものである。一般式(1)におけるRおよびYは、一般式(3)と同じものである。一般式(1)で表される目的化合物のうち好ましいものとしては、トリフェニルボラン・3−ブトキシプロピルアミン錯体化合物、トリフェニルボラン・3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン錯体化合物、トリフェニルボラン・3−ラウリルオキシプロピルアミン錯体化合物、トリフェニルボラン・3−ステアリルオキシプロピルアミン錯体化合物などがあげられる。
【0031】
【実施例】
以下、本発明を実施例により詳述するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0032】
実施例1
(トリフェニルボラン・3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン錯体化合物の製造)
還流冷却器、温度計、窒素導入管および攪拌機を取り付けた1リットルの四ツ口フラスコに切片状マグネシウム16.8g(0.69mol)を仕込み、窒素導入管より窒素を導入しながら加熱し、マグネシウムを活性化した。冷却後、滴下ロートよりクロロベンゼン74.3g(0.66mol)を脱水テトラヒドロフラン142.8g、ベンゼン61.2gに溶解した溶液を、少量滴下し加熱した。反応の開始を確認後、おだやかに還流する速度で、滴下を続けた。滴下終了後、2時間加熱還流を行った。このようにして製造したフェニルマグネシウムクロライドのグリニヤール試薬を室温まで冷却し、ついで滴下ロートより、三フッ化ホウ素のエーテル錯体20.7g(0.15mol)を、40℃以下に保ちながら滴下した。滴下終了後、30〜40℃で2時間反応を行った。反応終了後室温まで冷却し、別途調製した3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン(広栄化学工業(株)製)24.6g(0.13mol)、水300gおよび濃塩酸13.3g(0.13mol)の溶液を40℃以下で滴下した。滴下終了後30分間撹拌した後、有機層と水層に分離させ、有機層をデカンテーションにより採取した。残りの水層にテトラヒドロフラン128g、ベンゼン55gを加え撹拌して静置し、有機層をデカンテーションにより採取した。この有機層を先の有機層と合わせ、溶媒を減圧留去した。濃縮物にキシレン190gを加え、70gの水で3回洗浄した。このキシレン溶液を共沸脱水後、ろ過、濃縮して茶色アメ状固化物57.6gを得た。これをメタノールから再結晶して精製品43.0g(収率77%、第一級アミンの仕込み量に基づく値、以下同様)を得た。精製品のIR(赤外吸収スペクトル)分析により、トリフェニルボラン・3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミン錯体化合物であることを確認した。
【0033】
実施例2
(トリフェニルボラン・3−ブトキシプロピルアミン錯体化合物の製造)
実施例1において、クロロベンゼンに代えてブロモベンゼン103.6g(0.66mol)、ベンゼンに代えてトルエン61.2g、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンに代えて3−ブトキシプロピルアミン(広栄化学工業(株)製)17.1g(0.13mol)を用いた以外は実施例1と同様に反応、処理して、茶色固形物49.9gを得た。これをメタノールから再結晶して精製品36.9g(収率76%)を得た。精製品のIR(赤外吸収スペクトル)分析により、トリフェニルボラン・3−ブトキシプロピルアミン錯体化合物であることを確認した。
【0034】
実施例3
(トリフェニルボラン・3−ラウリルオキシプロピルアミン錯体化合物の製造)実施例1において、3−(2−エチルヘキシルオキシ)プロピルアミンに代えて3−ラウリルオキシプロピルアミン(広栄化学工業(株)製)31.6g(0.13mol)を用いた以外は実施例1と同様に反応、処理して、茶色アメ状固化物65.1gを得た。これをメタノールから再結晶して精製品46.1g(収率73%)を得た。精製品のIR(赤外吸収スペクトル)分析により、トリフェニルボラン・3−ラウリルオキシプロピルアミン錯体化合物であることを確認した。
【0035】
【発明の効果】
漁網防汚剤、船底塗料、工業用防腐防黴剤または動物忌避剤などの有効成分として有用な化合物であるトリフェニルボラン・アミン錯体化合物の製造において、一方の出発物質としてテトラフェニルホウ酸マグネシウムハライドを用いることにより、不安定であるトリフェニルボランを原料として用いることなく、また、テトラフェニルホウ酸アルカリ金属塩を製造することなく、経済的、且つ工業的に容易に目的物を製造できる。
Claims (4)
- テトラフェニルホウ酸マグネシウムハライドがテトラフェニルホウ酸マグネシウムクロライドである請求項1記載の製造法。
- 一般式(3)において、Rが炭素数1〜8の直鎖または分枝状のアルキレン基、Yが炭素数1〜18の直鎖または分枝状のアルコキシル基である第一級アミン塩を用いる請求項1または2記載の製造法。
- 一般式(3)において、Rがトリメチレン基、Yがブトキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基またはラウリルオキシ基である第一級アミン塩を用いる請求項1〜3のいずれかに記載の製造法。
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