JP3891098B2 - 溶融亜鉛めっき鋼板のスポット溶接方法およびスポット溶接接合体 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、溶融亜鉛メッキ鋼板のスポット溶接に関し、特に、溶融亜鉛メッキ鋼板を連続してスポット溶接を行った際に所定のナゲット径が安定して得られる電極寿命の長いスポット溶接方法およびその方法により得られるスポット溶接接合体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車車体の外板に用いられている270〜440N/m2クラスの軟鋼板および高張力鋼板には、車体寿命の向上を目的として、耐食性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板が多く使用されている。しかしこの溶融亜鉛めっき鋼板は、連続してスポット溶接する場合には電極の消耗が激しく、連続打点時の電極寿命が短いという問題がある。特に、優れた加工性(プレス性)が要求される軟鋼板の溶融亜鉛めっき鋼板の場合には、スポット溶接の電流が大きくなるため、電極寿命が著しく短い。
【0003】
すなわち、溶融亜鉛めっき鋼板の場合は、そのめっき層の融点が合金化溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層の融点より低いために容易に溶融し、スポット溶接の際の通電経路が拡大して溶接電流密度が低下し、ナゲットの形成に必要な溶接電流が大きくなるという傾向がある。また、電極素材である銅とめっき層の亜鉛とは合金を形成するため、電極と鋼板との溶着が起こりやすく、電極先端の合金化とその剥離によって電極の損耗が著しい。さらに、溶融亜鉛めっき鋼板では、めっき過程でのめっき層へのFeの拡散を抑え合金化を抑制するために、合金化亜鉛めっき鋼板の場合より多いAlをめっき層に含有しており、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の場合のような連続打点溶接の際に形成される凸型の酸化物層が生じない。そのため、溶融亜鉛めっき鋼板のスポット溶接電極寿命は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板より著しく劣るといわれている。
【0004】
上記の問題点を解決するために、例えば、亜鉛めっき鋼板の表面にZnOを主体とする酸化皮膜を付与することでスポット溶接性を改善しようとする技術(例えば、特許文献1参照。)やめっき表面のZn量、Al2O3量を規定した鋼板を用いる技術(例えば、特許文献2参照。)が提案されている。しかしながら、これらの技術は、鋼板めっき層の改善のみで溶接性を改善しようとするものであり、めっき層が容易に溶融する溶融亜鉛めっき鋼板の場合には大きな効果が期待できないという問題がある。
【0005】
また、亜鉛めっき層中のAl量を低減することにより電極寿命の改善を図る技術(例えば、特許文献3参照。)も提案されているが、Al量の低減は、硬くて脆いFe−Zn合金層の発達を促進するため、めっき性状の劣化を招くという問題があり、他の特性を害することなく溶接性を改善することは難しい。
【0006】
【特許文献1】
特開昭63-230861号公報
【特許文献2】
特開平10-330902号公報
【特許文献3】
特開平04-021750号公報
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、溶融亜鉛めっき鋼板の電極寿命の改善は、まだまだ不十分であり、自動車のホワイトボディの組立溶接ラインにおいては、溶融亜鉛めっき鋼板の溶接に用いる電極は、頻繁に交換せざるを得ない。そのため国内では、溶融亜鉛めっき鋼板は、スポット溶接性が重視される自動車外板用にはほとんど用いられていない。そこで、溶融亜鉛めっき鋼板を有効に利用するためにも、スポット溶接性の改善技術すなわち電極寿命の改善技術が望まれている。
【0008】
本発明の目的は、溶融亜鉛めっき鋼板を連続してスポット溶接する場合において、めっき鋼板の外観や加工性等を損なうことなく電極寿命を向上させることができる溶融亜鉛めっき鋼板のスポット溶接方法およびその接合体を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、上記従来技術が抱える問題点を解決するため、溶融亜鉛メッキ鋼板の電極寿命に及ぼす諸因子として、めっき組成、鋼板特性、電極の組成や形状などに注目し、総合的な検討を行った。その結果、溶融亜鉛めっき鋼板母材の高温硬さを制限したうえで、電極形状を好適なものとすることにより、電極寿命を大きく改善できることを見出し、本発明を開発するに至った。
【0010】
上記知見に基づき開発された本発明は、鋼板表面に目付量30g/m2以上の溶融亜鉛めっき層を有し、鋼板母材の500℃における高温硬さがHv(50g)で70〜81である溶融亜鉛メッキ鋼板を、8mm以下の先端径を有する円錐台形電極を用いてスポット溶接することを特徴とする溶融亜鉛メッキ鋼板のスポット溶接方法を提案する。
【0011】
また、本発明は、鋼板表面に目付量30g/m2以上の溶融亜鉛めっき層を有し、鋼板母材の500℃における高温硬さがHv(50g)で70〜81である溶融亜鉛メッキ鋼板を、8mm以下の先端径を有する円錐台形電極を用いてスポット溶接してなることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板のスポット溶接接合体である。なお、上記接合体は、ピール剥離した時のボタン径が、4√t(t:板厚)を超えていることが好ましい。
【0012】
【発明の実施の形態】
溶融亜鉛めっき鋼板のスポット溶接においては、電極の銅とめっき層の亜鉛とが合金化して電極先端の損耗が促進されるために電極寿命が著しく短くなること、また、めっき層中のAl量の低減は、電極寿命の改善には有効であるものの、合金化を促進しめっき性状の劣化を招くことは先述した通りである。そこで、めっき層中のAl量が多い場合であっても良好な電極寿命が得られる鋼板及び電極について検討を行った。その結果、上述した本発明の構成に想到したのである。以下、本発明について、説明する。
【0013】
電極形状:円錐台形かつ先端径が8mmφ以下
発明者らは、電極寿命の延長を図るためには、電極の損耗速度を抑制することと、ナゲット形成能を向上させることが有効であるとの考えから、先ず、損耗速度を低減するのに有効な電極形状について検討した。その結果、溶融亜鉛めっき鋼板のスポット溶接に用いられる電極は、従来から多く用いられている球面形(円蓋形)の電極形状ではなく、図1に示すような円錐台形である必要があることがわかった。この理由は、球面形の電極では、電極が鋼板に容易に沈み込みを起こすため、通電面積が増加して電流密度の低下を招くが、この電流密度の低下をカバーするためには、大きな溶接電流が必要となり、結果として電極の損耗速度を速めることになる。これに対して、円錐台形電極では、電極の沈み込みが少なく、また、損耗したときの径の拡大が小さいため、電極の損耗を小さく抑えることができる。
【0014】
なお、図1にθで示した円錐台形の先端角度は、従来の円錐台形では、90〜120°のものが用いられていた。しかし、θが90°を超えると、電極の損耗にともなう通電面積が変化量(増加量)が大きい、すなわち通電面積の安定性に劣るため、小さい方が好ましく、90°以下であることが望ましい。
また、この円錐台形の先端径は、8mmφ以下である必要がある。これは、先端径が8mmを超えると、加圧力が通常の溶接機では不足するという問題があるからである。一方、最小径は、板厚0.8mmの鋼板を溶接して良好なナゲット径を得るために5mmφ以上であることが好ましい。
【0015】
次に、発明者らは、溶融亜鉛めっき鋼板ついての検討を行い、ナゲット形成能の向上のためには、以下の条件を満たす必要があることがわかった。
亜鉛めっき目付量:30g/m2以上
まず、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は、その目付量は、30g/m2以上である必要がある。目付量が、30g/m2未満では、めっき鋼板としての耐食性が不十分だからである。好ましくは、50g/m2以上である。
【0016】
500℃における高温硬さ:Hv(50g):70〜81
スポット溶接でナゲットを形成するためには、電極の沈み込みが起こり易い軟鋼板よりも、高張力鋼板のように母材強度が高く、通電経路が広がりにくい材料の方が有利であり、従って、電極寿命向上ためには高強度鋼板の方が有利であると考えられる。しかし、発明者らの調査では、軟鋼に近い引張強度440N/m2以下の鋼板の場合には、室温での強度と電極寿命とは必ずしもよい相関がないことがわかった。
【0017】
そこで、円錐台形状の電極を用いて、室温強度が270〜440N/m2クラスの軟鋼板及び高張力鋼板を対象として、電極寿命に及ぼす高温強度の影響について調査した。ここで、高温強度は、500℃における高温硬さで評価することとし、この高温硬さには、めっき層を酸洗除去した鋼板の断面を測定面とし、高温硬さ計を用いて、Ar雰囲気炉中で500℃まで昇温し、荷重50gで測定したビッカース硬さを用いることとした。また、電極寿命は、連続打点数が2000回以上を良(○)、2000回未満を不良(×)として評価した。結果を、図2に示す。この図から明らかなように、500℃における高温硬さHvが70〜81であれば、連続打点数が2000回以上の良好な電極寿命が得られることがわかった。
【0018】
【実施例】
表1に示す溶融亜鉛めっき鋼板を用いて、抵抗スポット溶接実験を行い、連続溶接可能な打点数を測定した。実験は、各鋼板を2枚重ね、加圧力:2000N、加圧時間:30サイクル、通電時間:10サイクル、保持時間:5サイクル、打点間隔:2秒以下の条件で、連続して抵抗スポット溶接を行い、電極の寿命を測定した。なお、電極寿命は、100打点毎にピール試験片(25×80mm)に3点の溶接を行い、その溶接部をピール剥離し、その時のボタン径が4√t以下(t:板厚)になる直前の累積打点数で判断した。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
表2に溶接実験の結果をまとめて示す。本発明の条件、すなわち500℃における高温硬さHv(50g): 70〜81を満たすNo.1〜5の鋼板では、連続打点数が2000以上と良好な電極寿命が得られ、また、めっき表面性状も良好であった。これに対して、高温硬さがHv(50g)<70であるNo.6〜8の鋼板では、連続打点数が2000に達せず、電極寿命は不十分であった。
【0022】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、良好な性状の溶融亜鉛めっき鋼板を用いて、十分な電極寿命を得ることが可能となり、とりわけ国内で用いられている良溶接性の合金化溶融亜鉛めっき鋼板と同じ組立溶接ラインでの施工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明のスポット溶接電極形状を示す図である。
【図2】 鋼板の高温強度(硬さ)と、スポット溶接の電極寿命との関係を示すグラフである。
Claims (2)
- 鋼板表面に目付量30g/m2以上の溶融亜鉛めっき層を有し、鋼板母材の500℃における高温硬さがHv(50g)で70〜81である溶融亜鉛メッキ鋼板を、8mm以下の先端径を有する円錐台形電極を用いてスポット溶接することを特徴とする溶融亜鉛メッキ鋼板のスポット溶接方法。
- 鋼板表面に目付量30g/m2以上の溶融亜鉛めっき層を有し、鋼板母材の500℃における高温硬さがHv(50g)で70〜81である溶融亜鉛メッキ鋼板を、8mm以下の先端径を有する円錐台形電極を用いてスポット溶接してなることを特徴とする溶融亜鉛めっき鋼板のスポット溶接接合体。
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