JP3890821B2 - 耐応力腐食割れ性に優れた高強度高靱性ステンレス鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、炭酸ガスおよび/または微量のH2S を含有する石油、天然ガスに接する環境下で使用されるチュービングおよびラインパイプ用の材料に関する。もちろん、炭酸ガスおよび/または微量のH2S を含有する他の産業分野、例えば、脱炭酸ガス設備の配管、地熱発電用の配管および炭酸ガス含有液のタンクを構成する構造部材として使用できる材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、石油または天然ガスを採取するための井戸の環境がますます過酷なものになっており、これらの流体を汲み出す際のチュービング、輸送する際のラインパイプの腐食が大きな問題となっている。もちろん、そのような状況下でも高強度を備えた材料が求められている。
【0003】
従来は、一般の炭素鋼とインヒビターを併用すること、あるいは耐食性に優れている13Cr鋼を使用することで対応してきた。
しかしながら、例えば13Cr系のSUS420鋼を適用する場合には、目的とする靱性と耐食性の所定性能を確保する必要上、654MPa(95ksi) 以上の高強度を得ることは困難であった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ここに、本発明の目的は、炭酸ガスおよび/または微量H2S を含む腐食流体に対して耐食性を有する高強度高靱性ステンレス鋼を提供することである。
【0005】
より具体的には、本発明の目的は、654MPa(95ksi) 以上の耐力およびVtrs≦−10℃の高靱性を備え、耐炭酸ガス腐食性および耐応力腐食割れ性に優れたステンレス鋼を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、上述のような本発明の目的を達成すべく、化学成分を規定するとともに、焼入れままでのマルテンサイト率を95%以上に規定することで、654MPa(95ksi) 以上の高強度で高靱性・高耐食ステンレス鋼を得ることができることを知り、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明にあっては、それぞれの特性を実現するために、下記のような手段を考え、各手段の組み合わせによって、従来技術の予測を大幅に超えた優れた効果が得られることを知ったのである。
【0008】
▲1▼靱性と強度
C%を0.001 〜0.05%、かつCr:9〜14%、Al:0.001 〜0.10%としマルテンサイト率を95%以上とすることで焼入れ焼戻し後の強度と靱性を確保する。
【0009】
▲2▼耐炭酸ガス腐食性能
Cr%を9%以上にすることで100 ℃程度の高温の炭酸ガス含有水溶液中での炭酸ガス腐食を防止する。なお、Moおよび/またはWを添加することで局部腐食性能を向上する。
【0010】
▲3▼耐応力腐食割れ性
微量H2S 環境では、マルテンサイトステンレス鋼は応力腐食割れに対する感受性が高いことが知られている。そこで、種々の検討を行い、本発明にあっては、Ni、Mo、Wの化学成分の添加量を以下の成分で規定する範囲にすることで、この応力腐食割れに対し、抵抗性を発揮させるのである。
【0011】
Ni/5≧Mo+W/2≧Ni/20 (%)
また、Cuを添加すれば、Mo、Wと同等の効果が得られるのであって、Cuを添加する場合は以下の式でNi、Mo、W、Cuの添加量を規定する。
Ni/5≧Mo+W/2+Cu/3≧Ni/20 (%)
ここに、本発明は次の通りである。
【0012】
(1) 重量%で、
C:0.001 〜0.05%、Si:0.01〜1.0 %、Mn:0.1 〜1.5 %、
P: 0.03%以下、S: 0.01%以下、Cr:9〜14%、
Ni:0.5 〜4.0 %、Al:0.001 〜0.10%、
Mo+1/2W:0.1 〜0.8 %、
Ni/5≧Mo+W/2≧Ni/20 (%)
残部がFeと不可避不純物
から成る鋼組成を有し、焼入れままでマルテンサイト率95%以上、焼入れ焼戻し後に654MPa(95ksi) 以上の耐力を有する、耐応力腐食割れ性に優れた高強度高靱性ステンレス鋼。
【0013】
(2) 重量%で、
C:0.001 〜0.05%、Si:0.01〜1.0 %、Mn:0.1 〜1.5 %、
P: 0.03%以下、S: 0.01%以下、Cr:9〜14%、
Ni:0.5 〜4.0 %、Al:0.001 〜0.10%、
Mo+1/2W:0.8 %以下、Cu:0.1 〜1.0 %、
Ni/5≧Mo+W/2+Cu/3≧Ni/20 (%)
残部がFeと不可避不純物
から成る鋼組成を有し、焼入れままでマルテンサイト率95%以上、焼入れ焼戻し後に654MPa(95ksi) 以上の耐力を有する、耐応力腐食割れ性に優れた高強度高靱性ステンレス鋼。
【0014】
(3) 前記鋼組成が、さらに、重量%で、Nb:0.005 〜0.05%を含有する、上記(1) または(2) 記載の耐応力腐食割れ性に優れた高強度高靱性ステンレス鋼。
【0015】
(4) 前記鋼組成が、さらに、重量%で、Ca:0.001 〜0.05%、Mg:0.001 〜0.05%、La:0.001 〜0.05%、およびCe:0.001 〜0.05%のうちの1種または2種以上を含有する、上記(1) ないし(3) のいずれかに記載の耐応力腐食割れ性に優れた高強度高靱性ステンレス鋼。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明において、鋼組成を上述のように限定した理由を以下に説明する。
C:
Cは、その含有量が0.05%を越えると、他の添加元素の量にもよるが焼入れままのマルテンサイト率95%以上の鋼の靱性が劣化し、また、耐応力腐食割れ性も確保できなくなるため、その上限を0.05%と定めた。C%は低ければ低い方がいいが、経済的に製造容易なことを考慮して、0.001 %を下限とした。なお、C%が低いほど靱性および耐応力割れ性が良好となる。好ましくは、0.001 〜0.02%である。
【0017】
Si:
Siは脱酸成分として0.01%以上添加するが、その含有量が1.0 %を越えると熱間加工性が劣化するようになることから、その上限値を1.0 %と定めた。
【0018】
Mn:
Mnは脱酸成分として0.1 %以上添加するが、その含有量が1.5 %を越えると熱間加工性が劣化するようになることから、その上限値を1.5 %と定めた。
【0019】
Cr:
Crは耐炭酸ガス腐食性を向上させる成分である。9%未満では十分な耐炭酸ガス腐食性を得られない。また、14%超では、焼入れままで所定のマルテンサイト相を得ることが難しいので、Cr含量を9〜14%とした。好ましくは、10〜12%である。
【0020】
Ni:
Ni成分は焼入れままで、マルテンサイト率95%を得るため、0.5 〜4.0 %の範囲で添加する。また、Niは、Mo、W、Cuと複合添加して耐応力腐食割れ性を向上させる。好ましくは、Ni含有量は0.5 〜2.0 %である。
【0021】
Al:
Alは上記のSiと同様に、製鋼過程で脱酸剤として添加されるが、その含有量が0.001 %未満では所望の脱酸効果が得られない。逆に、その含有量が0.10%を越えると、非金属介在物が多くなって靱性および耐食性が劣化する。よって、Al含有量は0.001 〜0.10%とした。好ましくは、0.003 〜0.02%である。
【0022】
P:
不可避不純物としてのPは、その含有量が0.03%を越えると、硫化水素環境での硫化物割れ性を高める作用が現われるので、上限値を0.03%と定めた。
【0023】
S:
不可避不純物としてのS成分には、その含有量が0.01%を越えると、熱間加工を劣化させる作用あるので、その上限値を0.01%と定めた。
【0024】
Mo、W
Mo、Wは、少なくとも1種添加することでCrとの共存下で炭酸ガス環境での局部腐食を防止する効果がある。WはMoより、一層の効果があり、従って (Mo+W/2)として考えて、この値が0.1 %未満では十分な耐局部腐食性を示さない。同じく(Mo +W/2)が0.8 %超となっても、耐局部腐食性を著しく向上させ得ない。
【0025】
さらに、Niの添加量との関係では以下の式の範囲にMo、Wを規定すれば微量H2S 含有環境下での耐応力腐食割れ性を確保することができる。
Ni/5≧Mo+W/2≧Ni/20 (%)
微量H2S 含有環境での耐応力腐食割れ性を確保するには、ステンレス鋼表面に生成しているCr酸化物からなる不働態皮膜を安定に生成させる必要がある。H2S が含有した場合、この不働態皮膜を安定にするには、Cr酸化物皮膜の上に硫化物皮膜を生成させて、H2S のCr酸化物を溶解させることを防止する必要がある。Ni、Mo、Wの硫化物の場合、上記式の範囲にすれば、Ni硫化物とMoおよび/またはWの硫化物の混合物が非常に緻密になり、Cr酸化物皮膜を保護することがわかった。このことから、Ni、Mo、Wの成分を上記式のように規定した。
【0026】
Cu:
Cuも微量H2S 環境で硫化物を生成する元素であり、所望により0.1 %以上添加すればよい。しかし、Cuを1.0 %超添加しても効果が飽和するので、上限を1.0 %とした。一方、Cu硫化物はそれ自身でもCr酸化物被膜へのH2S の侵入を防止できる。Mo、Wの硫化物であってもCr酸化物の安定性を向上する。
よって、本発明にあっては、以下の式で規定する範囲にCuを添加する。
Ni/5≧Mo+W/2+Cu/3≧Ni/20 (%) 。
【0027】
Nb:
Nbも所望により添加され、細粒化に有効な元素であり、靱性を向上させ得る。0.005 %未満ではその効果が得られず、0.05%を越えると効果が飽和する。
【0028】
Ca、Mg、LaおよびCe
Ca、Mg、LaおよびCeは、必ずしも添加含有させる必要はないが、いずれの元素も鋼の熱間加工性を向上させるのに用いて有効である。したがって、その効果を得たい場合には、これらのうち1種または2種以上を選んで添加含有させることができる。しかし、いずれの元素もその含有量が0.001 %未満では上記の効果が得られない。一方、それぞれが0.05%を超えて添加含有させると、粗大な酸化物が生成し、かえって耐食性が低下する。
よって、これらの元素を1種または2種以上添加含有させる場合、Ca、Mg、LaおよびCeの含有量は、いずれも0.001 〜0.05%とする。
【0029】
本発明にかかるステンレス鋼は、板材、棒材、管材として、さらには異形材としての利用が可能であり、例えば管材としても継目無鋼管であっても、あるいは溶接管であってもよい。つまり、コイルをパイプ状に成型してシーム溶接する溶接管にも本発明にかかる材料は適用可能である。
【0030】
本発明にかかるステンレス鋼は成形後、焼入れ、焼戻しを行って使用されるが、そのときの焼入れ条件は、例えば 900〜1000℃に加熱して油冷あるいは水冷を行い、次いで 500〜700 ℃に5〜60分間加熱して焼戻すのである。
焼入れままでのマルテンサイト率は、95%以上とするが、これは、上述のような慣用の焼入れを行うことで本発明の鋼組成では十分に達成できる。
【0031】
本発明にかかるステンレス鋼は炭酸ガスおよび/または微量H2S を含有する環境において広く使用できるが、好ましくは油井、ガス井のチュービング用あるいはそれらの生産品の輸送用のラインパイプ用に用いることでその利益が発揮される。
【0032】
【実施例】
表1に示される成分組成をもった溶湯を通常の電気炉で、次いで脱硫の目的でAr−酸素脱炭炉(AOD炉) を使用して溶製した後、直径:500 mmφのインゴットを鋳造し、次いでこのインゴットに温度:1200℃で熱間鍛造を施して直径:150 mmφのビレットを成形し、引き続いて前記ビレットよりマンネスマン製管法により直径:168 mmφ×肉厚:12mmの管とした。
【0033】
このようにして得られた管体に、900 ℃に加熱して水冷し、次いで650 ℃に30分間加熱する焼入れ焼戻しを行い、654MPa(95ksi) 以上の耐力をもつ管体を制作した。
【0034】
そして、この管体から試験片を採取、加工し、引張試験、高温での耐炭酸ガス腐食性試験、および常温での耐応力腐食割れ性試験を行った。シャルピー試験は焼入れままの管体から切り出した試験片について行った。
【0035】
(A) 引張試験
試験温度:常温
試験片:4.0 mmφで平行部長さ20mm
(B) シャルピー試験
焼入れままの管体からフルサイズのシャルピー試験片を切り出し、種々温度で試験し、脆性破面率50%となる温度を求めた。
【0036】
(C) マルテンサイト率
焼入れままのパイプの管軸方向に垂直の断面を切り出し、100 倍のミクロを10視野観察して、平均値としてマルテンサイト率を測定した。
【0037】
(D) 高温の耐炭酸ガス性試験 (腐食速度と局部腐食性を評価)
試験ガス:30 bar CO2
試験溶液:5%NaCl
試験温度:150 ℃
浸漬時間:720 h
試験片:20mm幅×2mm厚×30mm長。
【0038】
(E) 常温での耐応力腐食割れ性試験 (割れの有無を評価)
試験ガス:30 bar CO2+0.01 bar H2S
試験溶液:5%NaCl、pH 4.5
試験温度:25℃
浸漬時間:720 h
付加応力:0.2 %耐力の100 %
試験片:10mm幅×2mm厚×75mm長 (4点曲げ試験片)
これらの試験結果を、表1に示す。
【0039】
なお、耐炭酸ガス腐食性の試験においては、腐食速度が0.5 mm/y以下のものを“○”、以上のものを“×”として示した。局部腐食に関しては、孔食が生じたものを“×”、孔食がなかったものを“○”とした。
【0040】
耐応力腐食割れ性の試験においては、割れを生じなかったものを“○”、生じたものを“×”で示した。
Vtrs (脆性破面率50%) を示す温度が−10℃以下であるものを“○”、以上であるものを“×”で示した。
【0041】
表1に示した結果から、本発明範囲の化学成分とNi、Mo、W、Cuの添加量を規定したマルテンサイト率が95%以上である0.2 %耐力が654MPa(95ksi) 以上を有する発明鋼は、高靱性で高耐食であることが明らかである。鋼の成分元素が本発明で規定する条件からはずれた比較合金はそれらの性能が十分でない。
【0042】
【表1】
【0043】
【発明の効果】
以上に説明したごとく、本発明によれば、炭酸ガスおよび/または微量H2S を含有する環境において腐食性に優れた654MPa(95ksi) 以上の耐力を有する焼入れ焼戻しして使用する高強度、高靱性、高耐食性のステンレス鋼が得られるのであって、最近のように例えば油井環境が厳しくなっている状況下では本発明の意義は特に大きい。
Claims (4)
- 重量%で、
C:0.001 〜0.05%、Si:0.01〜1.0 %、Mn:0.1 〜1.5 %、
P: 0.03%以下、S: 0.01%以下、Cr:9〜14%、
Ni:0.5 〜4.0 %、Al:0.001 〜0.10%、
Mo+1/2W:0.1 〜0.8 %、
Ni/5≧Mo+W/2≧Ni/20 (%)
残部がFeと不可避不純物
から成る鋼組成を有し、焼入れままでマルテンサイト率95%以上、焼入れ焼戻し後に654MPa(95ksi) 以上の耐力を有する、耐応力腐食割れ性に優れた高強度高靱性ステンレス鋼。 - 重量%で、
C:0.001 〜0.05%、Si:0.01〜1.0 %、Mn:0.1 〜1.5 %、
P: 0.03%以下、S: 0.01%以下、Cr:9〜14%、
Ni:0.5 〜4.0 %、Al:0.001 〜0.10%、
Mo+1/2W:0.8 %以下、Cu:0.1 〜1.0 %、
Ni/5≧Mo+W/2+Cu/3≧Ni/20 (%)
残部がFeと不可避不純物
から成る鋼組成を有し、焼入れままでマルテンサイト率95%以上、焼入れ焼戻し後に654MPa(95ksi) 以上の耐力を有する、耐応力腐食割れ性に優れた高強度高靱性ステンレス鋼。 - 前記鋼組成が、さらに、重量%で、Nb:0.005 〜0.05%を含有する、請求項1または2記載の耐応力腐食割れ性に優れた高強度高靱性ステンレス鋼。
- 前記鋼組成が、さらに、重量%で、Ca:0.001 〜0.05%、Mg:0.001 〜0.05%、La:0.001 〜0.05%、およびCe:0.001 〜0.05%のうちの1種または2種以上を含有する、請求項1ないし3のいずれかに記載の耐応力腐食割れ性に優れた高強度高靱性ステンレス鋼。
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