JP3888886B2 - Babf非線形光学結晶 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この出願の発明は、BABF非線形光学結晶に関するものである。さらに詳しくは、この出願の発明は、育成が容易で、真空紫外光の発生をも可能とする新しいBABF非線形光学結晶と、その製造方法およびその結晶を用いた波長変換素子、波長変換装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術とその課題】
医療、半導体、情報通信等の分野においてレーザ技術の応用が急速に広がりつつあり、紫外光が必要とされる場面が多くなってきている。そして近年では、従来の液体レーザーに代わり、高効率化、小型化、長寿命化の実現がが可能な固体レーザ技術の開発が求められている。この紫外域の固体レーザは、一般的には、近赤外域での安定な高出力発振が可能なYAGレーザ等の固体レーザ光を波長変換素子に通して得るようにしているため、より短波長に波長変換できる光学材料の利用が不可欠であり、多くの機関等においてこの光学材料の開発が盛んに行われている。
【0003】
この出願の発明者らは、紫外光領域でもより短波長側の、波長200nm以下の真空紫外光の発生を念頭においた光学材料の探索を行ってきた。その結果、既に、新しい非線形光学結晶として、K2Al227(KAB)結晶を提供するに至っている。このKAB結晶は、従来より知られているKBe2BO32(KBBF)結晶、Sr2Be227(SBBO)結晶と構造が類似していることから、これらの結晶と同様に真空紫外光発生特性を有することが期待されていたものの、KAB結晶の吸収端は比較的長波長側であって、深紫外領域の232.5nm波長までの第2高調波しか発生できないことが明らかとなった。このように、真空紫外光の発生を可能とする固体レーザーは未だ実用には遠い状態であり、真空紫外光の発生を可能とする新しい波長変換光学材料が求められている。
【0004】
そこで、この出願の発明は、以上の通りの事情に鑑みてなされたものであり、従来技術の問題点を解消し、育成が容易で、真空紫外光の発生をも可能とする新しいBABF非線形光学結晶と、その結晶を用いた波長変換素子、波長変換装置を提供することを課題としている。
【0005】
【課題を解決するための手段】
そこで、この出願の発明は、上記の課題を解決するものとして、以下の通りの発明を提供する。
【0006】
すなわち、まず第1には、この出願の発明は、組成がBa1+ αAl1+ β1+ γ3+ δ2+ ε(式中、α,β,γ,δ,εは、それぞれ−0.2を超過しかつ0.2未満の値を示す)で表され、BO 平面構造はc軸方向に歪み、F−Al−F結合はc軸方向で非対称であり、非線形光学特性を有することを特徴とするBABF非線形光学結晶を提供する。
【0007】
そしてこの出願の発明は、第2には、上記の発明について、結晶点群が三方晶系の点群C3,D3,C3v、もしくは六方晶系の点群C3h,D3hのいずれかに属することを特徴とするBABF非線形光学結晶を、第3には、吸収端が160nmもしくはその近傍であって、複屈折率が約0.05であることを特徴とするBABF非線形光学結晶を提供する。
【0008】
加えて、この出願の発明は、第4には、上記のBABF非線形光学結晶がレーザー光波長変換素子とされていることを特徴とする波長変換素子を、第5には、その波長変換素子が組込まれていることを特徴とする波長変換装置を提供する。
【0009】
さらに、この出願の発明は、上記の非線形光学結晶の製造方法であって、第6には、化学量論比でBa:Al:B:O:F=1:1:1:3:2となるように配合した出発原料と溶媒成分とを融解して融液として、この融液の液面に結晶成長点を接触させ、引き上げながら、融液を飽和温度から冷却して結晶成長させることを特徴とするBABF非線形光学結晶の製造方法を、第7には、その融液の冷却速度を0.1℃〜0.5℃/日とすることを特徴とするBABF非線形光学結晶の製造方法をも提供する。
【0010】
以上のこの出願の発明のBaAlBO32(BABF)非線形光学結晶に関して、BABF結晶そのものについての存在は、BaGaBO32結晶と共にH.Parkらにより2000年に報告されている。しかしながら、Parkらの研究によると、この結晶は中心対象構造を持っているため、高調波の発生に不可欠な2次の非線型光学効果は発現されないとされていた。
【0011】
一方で、この出願の発明者らは、このBABF結晶が過去に報告されている非線形光学結晶KBBFと、化学式、結晶構造の点で類似していることに着目し、実際に結晶の育成を行い、より詳細な調査を行った結果、この結晶が非線形光学特性を示すことを発見するに至ったものである。全く新たな光学材料としてのこのBABF結晶は、この出願の発明者らにより初めて提示されるものである。
【0012】
【発明の実施の形態】
すなわち、この出願の発明が提供するBABF非線形光学結晶は、組成がBa1+αAl1+βB1+γO3+δF2+εで表され、非線形光学特性を有することを特徴とするものである。前式中のα,β,γ,δ,εは、このBABF非線形光学結晶として許容される組成の幅を示しており、それぞれが−0.2を超過しかつ0.2未満の値を示している。つまり、このBABF非線形光学結晶は、組成がBaAlBO32の結晶を基本として、これと同じ結晶構造をとり得る組成ずれ、すなわち各成分についての20%未満の組成ずれを許容することができる。もちろん、このBABF非線形光学結晶に、不可避的な不純物が混入されてよいことは言うまでもない。
【0013】
そして、詳細なX線結晶構造解析によると、このBABF非線形光学結晶はAlBO32結合を有しており、AlBO32結合におけるBO3平面構造はc軸方向に歪み、F-Al-F結合はc軸方向で非対称であることが明らかとなった。このような非対称構造に起因して、この出願の発明の非線形光学結晶は、非線形光学特性を発現することになる。たとえば、このBABF粉末微結晶にレーザー光を照射すると、非線形光学効果による第2高調波光の発生を確認することができる。
【0014】
また、たとえば、薄板状結晶を用いた光学評価においては、BO3平面が層状構造を形成していることを考慮すると、薄板面がc面であることが推定でき、実際の偏光顕微鏡による消光実験からも薄板面が光軸方向、すなわちc面であることが確認される。これらの結果は、▲1▼結晶が光学的に一軸性である可能性をも示唆している。
【0015】
さらに、c軸方向から直線偏光のレーザを入射させると、▲2▼入射偏光と平行な高調波成分が観測され、▲3▼入射光の偏光方向を入射面内で回転させると60°間隔で強い信号が得られる。これらの高調波光は、板厚0.35mmの薄板結晶からら得られる信号であるため、通常の位相整合条件で発生したものではない。
【0016】
以上の▲1▼〜▲3▼と結晶点群に対する非線形光学定数から、BABF結晶の属している正しい点群が類推できる。現時点の結果からは、このBABF結晶が少なくとも三方晶系の点群C3,D3,C3vか、六方晶系の点群C3h,D3hのいずれかに属していると判断できる。このような結晶構造からは、電界印加による分極反転が生じる可能性も秘められている。
【0017】
また、この出願の発明のBABF非線形光学結晶は、吸収端を165nmもしくはその近傍に有し、複屈折率が約0.05程度である。具体的には、これらの値は組成や結晶性等に影響を受けるため厳密には特定できないが、この出願の発明のBABF非線形光学結晶の吸収端はおよそ160〜170nmの範囲に現われ、複屈折率は0.05±0.01程度のものとなる。したがって、真空紫外光発生用の新しい非線形光学結晶として期待できる材料でもある。
【0018】
たとえば、この出願の発明のレーザー波長変換素子は、上記のBABF非線形光学結晶により構成されている。また、この出願の発明の波長変換装置は、その波長変換素子が組込まれている。これらのレーザー波長変換素子および波長変換装置等の光学部品および光学機器においては、波長変換により165nm波長までの真空紫外光の発生が可能であり、真空紫外光の発生を可能とする光学部品および光学機器が実現されることになる。一方で、真空紫外光用の光ファイバー用材料や、表面弾性波用材料等としての利用も具体的なものとして例示することができる。
【0019】
以上のようなこの出願の発明のBABF非線形光学結晶は、非調和溶融結晶と考えられ、フラックス法により好適に製造することができる。より具体的には、たとえば、化学量論比でBa:Al:B:O:F=1:1:1:3:2となるように配合した出発原料と溶媒成分とを融解して融液として、この融液の液面に結晶成長点を接触させ、引き上げながら、融液を飽和温度から冷却して結晶成長させることで、BABF結晶を得ること等が例示される。ここで、出発原料の配合は化学量論比を目標とするようにしているが、もちろん、不可避適な組成のずれや不純物の混入は許容される。
【0020】
出発原料としては、Ba、AlおよびBの酸化物あるいはフッ化物等を粉末として用いることができる。この場合の溶媒成分としては、NaF、BaF2、B23、LiCl、PbO、PbF2、NaCl等を用いることができ、粘性や不純物などを考慮するとNaFとすることがより好ましい。溶媒成分の添加量については、たとえば、出発原料とのモル比で、BABF:NaF=1:1〜1:2程度とすることが適当である。これらの出発原料および溶媒成分は、融解および反応を十分かつ容易なものとするために、数ミクロン程度の大きさに粉砕しておくこともできる。
【0021】
加熱については、原料を融解できれば特に制限はなく、目安としては、たとえば、1000〜1100℃程度で1〜2時間程度加熱すること等が例示される。出発原料および溶媒成分が完全に融解したことを確認したのち、この融液の液面に結晶成長の核となる種結晶や白金線の先端等の結晶成長点を接触させ、引き上げながら、融液を飽和温度から冷却してBABF結晶を成長させるようにする。
【0022】
融液の冷却速度については、目的とする結晶の質や大きさによって調整することができるため一概には言えないが、おおよそ0.1〜0.5℃/日程度の範囲で調整することができる。たとえば、高品質結晶の育成には冷却速度を低めにすることができ、大型結晶の育成には冷却速度を高めに設定することができ、理想的には0.2℃/日程度である。より具体的には、たとえば、冷却速度を0.3℃/日程度にした場合には、直径9.0mm程度で厚さが2mm程度のBABF結晶を得ることができる。また、上記の条件を最適化し、溶液を攪拌しながらさらに育成時間を延ばすことで、直径30mm程度、厚さ10mm程度のBABF結晶を得ることなども可能である。
【0023】
これによって、簡便かつ容易に、この出願の発明のBABF非線形光学結晶を得ることができる。
以下に、この出願の発明の非線形光学結晶についてさらに詳しく説明する。
【0024】
【実施例】
(実施例1)
出発原料としては、フッ化バリウム(BaF2)、酸化アルミニウム(Al23)、酸化ホウ素(B23)を化学量論比でBaAlBO32となるように配合し、溶媒成分としてのフッ化ナトリウム(NaF)を加えて粉砕混合したものを用いた。これを白金るつぼに充填し、円筒型電気炉にて溶解させた。白金線を溶液面に浸し、炉内部の温度を飽和温度から0.3℃/日で降下させた。過飽和温度領域にて、無色透明のBaBO3AlF2(BABF)単結晶が、浸液した白金線に自然核形成した。
【0025】
このまま温度降下を続けた結果、7日後には、9.5×9.0×1.5mm3の大きさの単結晶を得ることができた。得られたBABF単結晶を図1に示した。
【0026】
またこのBABF単結晶を、空気雰囲気中、昇温速度10℃/minで示差熱分析した結果を図2に示した。このBABF単結晶の融点が973.6であることがわかった。
(実施例2)
実施例1で得られたBABF結晶について誘導結合型プラズマ(ICP)発光分析および4軸X線解析を行なったところ、この結晶がほぼBaAlBO32の組成を有することが確認された。このBABF結晶からおおよそ0.25×0.25×0.25mmの試料を切出し、詳細なX線構造解析を行なった。反射データの測定は全て、リガク(株)製の回折計AFC5Rを用いて行った。線源としては、回転対陰極型X線発生器により、グラファイトモノクロメーターで単色化したMo−Kα線を使用した。図3に、BABF結晶のX線回折の結果を示した。
【0027】
得られた反射データを最小二乗法で精密化し、格子定数および配向マトリックスを得た。その結果、BABF結晶の結晶学的パラメータは、a=4.8860(8)Å、c=9.402(1)Å、α=90.0000°V=194.38(5)Å3、Z(単位胞あたりの分子数)=2、F.W.(式量)=261.12であった。また、密度を算出したところ、4.46g/cm3であった。
【0028】
収集された1205の回折線データから結晶構造解析を行った。解析は直接法により行い、計算にはMolecular Stracture製の結晶構造解析用プログラムteXsanを用いて行った。結晶構造解析で得られたこのBABF結晶における各原子の座標、占有率、異方性変位パラメーター、結合距離、結合角等の結果から、BABF結晶の結晶点群は、三方晶系の点群C3,D3,C3v、もしくは六方晶系の点群C3h,D3hのいずれかに相当することが確認された。また、BABFの分子構造を図4に、BO3平面構造を図5に作図した。
【0029】
図からは解りにくいが、このBaAlBO32(BABF)結晶のAlBO32結合においては、B#原子を中心としたBO3平面からBが上方に0.1637Åずれ、またF1#-AlおよびAl-F2の結合長さがそれぞれ1.65Å、1.98Åと異なっている。すなわち、BO3平面構造は、c軸方向に歪み、F-Al-F結合はc軸方向で非対称であることが明らかとなった。
(実施例3)
実施例1と同様にして得られた厚さ1mmのBABF結晶を用い、波長140〜240μmの紫外光を照射したときの透過スペクトルを測定した。その結果を図6に示した。このBABF結晶は、吸収端が165nmであることが確認された。
【0030】
また、油浸法により複屈折率を測定したところ、ne=1.588、nO=1.637で、その差(複屈折率)は0.049であった。
もちろん、この発明は以上の例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることは言うまでもない。
【0031】
【発明の効果】
以上詳しく説明した通り、この発明によって、育成が容易で、真空紫外光の発生をも可能とする新しいBABF非線形光学結晶と、その製造方法およびその結晶を用いた波長変換素子、波長変換装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例において得られたBABF単結晶を例示した図である。
【図2】この出願の発明のBABF単結晶について示差熱分析した結果を例示した図である。
【図3】この出願の発明のBABF結晶のX線回折分析の結果を例示した図である。
【図4】この出願の発明のBABFの分子構造を例示した図である。
【図5】この出願の発明のBABFにおけるBO3平面構造を例示した図である。
【図6】この出願の発明のBABF結晶の紫外光透過特性を例示した図である。

Claims (7)

  1. 組成がBa1+ αAl1+ β1+ γ3+ δ2+ ε(式中、α,β,γ,δ,εは、それぞれ−0.2を超過しかつ0.2未満の値を示す)で表され、BO 平面構造はc軸方向に歪み、F−Al−F結合はc軸方向で非対称であり、非線形光学特性を有することを特徴とするBABF非線形光学結晶。
  2. 結晶点群が三方晶系の点群C3,D3,C3v、もしくは六方晶系の点群C3h,D3hのいずれかに属することを特徴とする請求項1記載のBABF非線形光学結晶。
  3. 吸収端が160nmもしくはその近傍であって、複屈折率が約0.05であることを特徴とする請求項1または2記載のBABF非線形光学結晶。
  4. 請求項1ないし3いずれかに記載のBABF非線形光学結晶がレーザー光波長変換素子とされていることを特徴とする波長変換素子。
  5. 請求項4の波長変換素子が組込まれていることを特徴とする波長変換装置。
  6. 請求項1ないし3いずれかに記載のBABF非線形光学結晶の製造方法であって、化学量論比でBa:Al:B:O:F=1:1:1:3:2となるように配合した出発原料と溶媒成分とを融解して融液として、この融液の液面に結晶成長点を接触させ、引き上げながら、融液を飽和温度から冷却して結晶成長させることを特徴とするBABF非線形光学結晶の製造方法。
  7. 融液の冷却速度を0.1℃〜0.5℃/日とすることを特徴とする請求項6記載のBABF非線形光学結晶の製造方法。
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