JP3888021B2 - 自動変速機のマニュアル変速制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、手動変速可能な手動変速モードを有する自動変速機の、マニュアル変速制御装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動変速機のシフトレバーなどの変速指示部に、通常のP−R−N−Dレンジなどの自動変速モードの外に、運転者がシフトレバーやシフトスイッチでダウン/アップシフトを指示できる手動変速モードが設けられ、運転者の意思でギヤ段をアップダウンさせることが出来るものが知られている。
【0003】
こうした手動変速モードの場合、運転者が高速段を指示したままの状態でブレーキを踏んで減速した際に、当該高速段を保持したままでは駆動力不足となることから、所定のダウンマップに従って、変速段を制御装置側で自動的にダウンシフトさせる制御が行われている。
【0004】
しかし、こうした制御を行うと、制御装置側でのダウンシフト制御と、運転者が、速度低下に対応するために意識的に手動変速でダウンシフトを行なった場合のダウンシフト制御が競合する場合が生じる。そこで、従来は、手動変速モードにおいて、減速に伴う自動ダウンシフト動作が行われている場合には、運転者による手動変速モードによる変速要求が生じても当該変速要求を禁止する制御を行ない、運転者が意図したと思われる変速段を越えた変速段への変速を防止していた。
【発明が解決しようとする課題】
しかし、車両が急減速しており、運転者の変速要求が、自動ダウンシフトによる変速段よりも更に低いギヤ段を要求している可能性が高いような場合には、そうした変速要求は許可した方が、運転者に違和感を与えることが無くなり、シフトフィーリングとしては良好なものとなる。
【0005】
本発明は、上記した事情に鑑み、手動変速モード時の自動ダウンシフト制御中に、運転者によるダウンシフト要求がなされた場合でも、適切に対応することが出来る、自動変速機のマニュアル変速制御装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
本発明の内、請求項1の発明は、運転者がアップシフト及びダウンシフトを指示する必要のない自動変速モード(例えば、変速レバー70eを、自動変速モード部70aに入れた状態)及び運転者がアップシフト及びダウンシフトを指示することの出来る手動変速モード(例えば、変速レバー70eを、手動変速モード部70bに入れた状態)を有するシフト指示手段(70)を有する自動変速機の制御装置(21)において、
運転者の減速意思を演算推定する運転者減速意思演算手段(60、61,SUB1)を設け、
車両の状態に基づいて自動ダウンシフト動作を行う自動ダウンシフト動作手段(62、63、65)を設け、
前記自動ダウンシフト動作手段による自動ダウンシフト動作中に、前記シフト指示手段(70)から運転者の手動変速モードによるダウンシフト要求があった場合、前記運転者減速意思演算手段によって演算推定された運転者の減速意思が、大きいものと判断された場合に前記自動ダウンシフト手段(62、63、65)によるダウンシフト動作に加えて前記シフト指示手段(70)からのダウンシフト要求によるダウンシフト動作を実行し、小さいものと判断された場合に前記シフト指示手段(70)からのダウンシフト要求を却下するダウンシフト実行制御手段(62、SUB1)を設けて構成される。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記自動ダウンシフト動作手段(62、63、65)による自動ダウンシフトは、前記シフト指示手段(70)が自動変速モードにある場合に生じることを特徴として構成される。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1の発明において、前記自動ダウンシフト動作手段(62、63、65)による自動ダウンシフトは、前記シフト指示手段(70)が手動変速モードにある場合に生じることを特徴として構成される。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1の発明において、前記運転者減速意思演算手段(60、61、SUB1)は、車両の減速度を演算し、該減速度の大小により、前記運転者の減速意思を演算推定して構成される。
【0011】
請求項5の発明は、請求項1の発明において、ダウンシフト実行制御手段による、前記シフト指示手段からの運転者の手動変速モードによるダウンシフト要求に基づくダウンシフト動作は、前記自動ダウンシフト手段によるダウンシフト動作による変速終了後(図4のステップS39の変速終了判断の完了後)に開始するようにして構成される。
【0012】
【発明の効果】
請求項1の発明によれば、運転者減速意思演算手段により、運転者の減速意思を推定することが可能となり、自動ダウンシフト動作手段による自動ダウンシフト動作中の、シフト指示手段からの運転者の手動変速モードによるダウンシフト要求に対して、当該要求を受け入れるか否に関して適切な対応が可能となる。
【0013】
請求項2の発明によれば、自動変速モードにおいて自動ダウンシフト動作を行っていた場合に、運転者がシフト指示手段を操作して手動変速モードに切り換えて手動変速モードによるダウンシフト動作を指示した場合でも、当該要求を受け入れるか否に関して適切な対応が可能となる。
【0014】
請求項3の発明によれば、手動変速モードにおいて自動ダウンシフト動作を行っていた場合に、運転者がシフト指示手段を操作して手動変速モードによるダウンシフト動作を指示した場合でも、当該要求を受け入れるか否に関して適切な対応が可能となる。
【0015】
請求項4の発明によれば、車両の減速度を演算することにより運転者の減速意思を演算推定することから、確実に運転者の減速意思を推定することが出来る。
【0018】
請求項5の発明によれば、シフト指示手段からの運転者のダウンシフト要求に基づくダウンシフト動作は、自動ダウンシフト手段によるダウンシフト動作による変速終了後に開始されるので、2段以上のダウンシフト動作を、段階的に行うことが出来、急激なダウンシフトに伴うシフトショックの発生を防止することが出来る。
【0019】
なお、括弧内の番号等は、図面における対応する要素を示す便宜的なものであり、従って、本記述は図面上の記載に限定拘束されるものではない。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、図面に沿って、本発明の実施の形態について説明する。
【0021】
5速自動変速機1は、図2に示すように、トルクコンバータ4、3速主変速機構2、3速副変速機構5及びディファレンシャル8を備えており、かつこれら各部は互に接合して一体に構成されるケースに収納されている。そして、トルクコンバータ4は、ロックアップクラッチ4aを備えており、エンジンの回転はエンジンクランクシャフト13から、トルクコンバータ内の油流を介して又はロックアップクラッチによる機械的接続を介して主変速機構2の入力軸3に入力する。そして、一体ケースにはクランクシャフトと整列して配置されている第1軸3(具体的には入力軸)及び該第1軸3と平行に第2軸6(カウンタ軸)及び第3軸(左右車軸)14a,14bが回転自在に支持されており、また該ケースの外側にバルブボディが配設されている。
【0022】
主変速機構2は、シンプルプラネタリギヤ7とダブルピニオンプラネタリギヤ9からなるプラネタリギヤユニット15を有しており、シンプルプラネタリギヤ7はサンギヤS1、リングギヤR1、及びこれらギヤに噛合するピニオンP1を支持したキャリヤCRからなり、またダブルピニオンプラネタリギヤ9は上記サンギヤS1と異なる歯数からなるサンギヤS2、リングギヤR2、並びにサンギヤS2に噛合するピニオンP2及びリングギヤR2に噛合するピニオンP3を前記シンプルプラネタリギヤ7のピニオンP1と共に支持する共通キャリヤCRからなる。
【0023】
そして、エンジンクランクシャフト13からトルクコンバータ4を介して連動している入力軸3は、第1の(フォワード)クラッチC1を介してシンプルプラネタリギヤ7のリングギヤR1に連結し得ると共に、第2の(ダイレクト)クラッチC2を介してシンプルプラネタリギヤ7のサンギヤS1に連結し得る。また、ダブルピニオンプラネタリギヤ9のサンギヤS2は、第1のブレーキB1にて直接係止し得ると共に、第1のワンウェイクラッチF1を介して第2のブレーキB2にて係止し得る。更に、ダブルピニオンプラネタリギヤ9のリングギヤR2は、第3のブレーキB3及び第2のワンウェイクラッチF2にて係止し得る。そして、共通キャリヤCRが、主変速機構2の出力部材となるカウンタドライブギヤ18に連結している。
【0024】
一方、副変速機構5は、第2軸を構成するカウンタ軸6の軸線方向リヤ側に向って、出力ギヤ16、第1のシンプルプラネタリギヤ10及び第2のシンプルプラネタリギヤ11が順に配置されており、またカウンタ軸6はベアリングを介して一体ケースに回転自在に支持されている。前記第1及び第2のシンプルプラネタリギヤ10,11は、シンプソンタイプからなる。
【0025】
また、第1のシンプルプラネタリギヤ10は、そのリングギヤR3が前記カウンタドライブギヤ18に噛合するカウンタドリブンギヤ17に連結しており、そのサンギヤS3がカウンタ軸6に回転自在に支持されているスリーブ軸12に固定されている。そして、ピニオンP3はカウンタ軸6に一体に連結されたフランジからなるキャリヤCR3に支持されており、また該ピニオンP3の他端を支持するキャリヤCR3はUDダイレクトクラッチC3のインナハブに連結している。また、第2のシンプルプラネタリギヤ11は、そのサンギヤS4が前記スリーブ軸12に形成されて前記第1のシンプルプラネタリギヤのサンギヤS3に連結されており、そのリングギヤR4は、カウンタ軸6に連結されている。
【0026】
そして、UDダイレクトクラッチC3は、前記第1のシンプルプラネタリギヤのキャリヤCR3と前記連結されたサンギヤS3,S4との間に介在しており、かつ該連結されたサンギヤS3,S4は、バンドブレーキからなる第4のブレーキB4にて係止し得る。更に、第2のシンプルプラネタリギヤのピニオンP4を支持するキャリヤCR4は、第5のブレーキB5にて係止し得る。
【0027】
ついで、図2及び図3に沿って、本5速自動変速機の機構部分の作用について説明する。
【0028】
D(ドライブ)レンジにおける1速(1ST)状態では、フォワードクラッチC1が接続し、かつ第5のブレーキB5及び第2のワンウェイクラッチF2が係止して、ダブルピニオンプラネタリギヤのリングギヤR2及び第2のシンプルプラネタリギヤ11のキャリヤCR4が停止状態に保持される。この状態では、入力軸3の回転は、フォワードクラッチC1を介してシンプルプラネタリギヤのリングギヤR1に伝達され、かつダブルピニオンプラネタリギヤのリングギヤR2は停止状態にあるので、両サンギヤS1、S2を逆方向に空転させながら共通キャリヤCRが正方向に大幅減速回転される。即ち、主変速機構2は、1速状態にあり、該減速回転がカウンタギヤ18,17を介して副変速機構5における第1のシンプルプラネタリギヤのリングギヤR3に伝達される。該副変速機構5は、第5のブレーキB5により第2のシンプルプラネタリギヤのキャリヤCR4が停止され、1速状態にあり、前記主変速機構2の減速回転は、該副変速機構5により更に減速されて、出力ギヤ16から出力する。
【0029】
2速(2ND)状態では、フォワードクラッチC1に加えて、第2のブレーキB2(及び第1のブレーキB1)が作動し、更に、第2のワンウェイクラッチF2から第1のワンウェイクラッチF1に作動が切換わり、かつ第5のブレーキB5が係止状態に維持されている。この状態では、サンギヤS2が第2のブレーキB2及び第1のワンウェイクラッチF1により停止され、従って入力軸3からフォワードクラッチC1を介して伝達されたシンプルプラネタリギヤのリングギヤR1の回転は、ダブルピニオンプラネタリギヤのリングギヤR2を正方向に空転させながらキャリヤCRを正方向に減速回転する。更に、該減速回転は、カウンタギヤ18,17を介して副変速機構5に伝達される。即ち、主変速機構2は2速状態となり、副変速機構5は、第5のブレーキB5の係合により1速状態にあり、この2速状態と1速状態が組合されて、自動変速機1全体で2速が得られる。なおこの際、第1のブレーキB1も作動状態となるが、コーストダウンにより2速になる場合は、後述するように制御される。
【0030】
3速(3RD)状態では、フォワードクラッチC1、第2のブレーキB2及び第1のワンウェイクラッチF1並びに第1のブレーキB1はそのまま係合状態に保持され、第5のブレーキB5の係止が解放されると共に第4のブレーキB4が係合する。即ち、主変速機構2はそのままの状態が保持されて、上述した2速時の回転がカウンタギヤ18,17を介して副変速機構5に伝えられ、そして副変速機構5では、第1のシンプルプラネタリギヤのリングギヤR3からの回転がそのサンギヤS3及びサンギヤS4の固定により2速回転としてキャリヤCR3から出力し、従って主変速機構2の2速と副変速機構5の2速で、自動変速機1全体で3速が得られる。
【0031】
4速(4TH)状態では、主変速機構2は、フォワードクラッチC1、第2のブレーキB2及び第1のワンウェイクラッチF1並びに第1のブレーキB1が係合した上述2速及び3速状態と同じであり、副変速機構5は、第4のブレーキB4を解放すると共にUDダイレクトクラッチC3が係合する。この状態では、第1のシンプルプラネタリギヤのキャリヤCR3とサンギヤS3,S4が連結して、プラネタリギヤ10,11が一体回転する直結回転となる。従って、主変速機構2の2速と副変速機構5の直結(3速)が組合されて、自動変速機全体で、4速回転が出力ギヤ16から出力する。
【0032】
5速(5TH)状態では、フォワードクラッチC1及びダイレクトクラッチC2が係合して、入力軸3の回転がシンプルプラネタリギヤのリングギヤR1及びサンギヤS1に共に伝達されて、主変速機構2は、ギヤユニットが一体回転する直結回転となる。この際、第1のブレーキB1が解放されかつ第2のブレーキB2は係合状態に保持されるが第1のワンウェイクラッチF1が空転することにより、サンギヤS2は空転する。また、副変速機構5は、UDダイレクトクラッチC3が係合した直結回転となっており、従って主変速機構2の3速(直結)と副変速機構5の3速(直結)が組合されて、自動変速機全体で、5速回転が出力ギヤ16から出力する。
【0033】
更に、本自動変速機は、加速等のダウンシフト時に作動する中間変速段、即ち3速ロー及び4速ローがある。
【0034】
3速ロー状態は、フォワードクラッチC1及びダイレクトクラッチC2が接続し(第2ブレーキB2が係合状態にあるがワンウェイクラッチF1によりオーバランする)、主変速機構2はプラネタリギヤユニット15を直結した3速状態にある。一方、第5のブレーキB5が係止して副変速機構5は1速状態にあり、従って主変速機構2の3速状態と副変速機構5の1速状態が組合されて、自動変速機1全体で、前述した2速と3速との間のギヤ比となる変速段が得られる。
【0035】
4速ロー状態は、フォワードクラッチC1及びダイレクトクラッチC2が接続して、主変速機構2は、上記3速ロー状態と同様に3速(直結)状態にある。一方、副変速機構5は、第4のブレーキB4が係合して、第1のシンプルプラネタリギヤ10のサンギヤS3及び第2のシンプルプラネタリギヤ11のサンギヤS4が固定され、2速状態にある。従って、主変速機構2の3速状態と副変速機構5の2速状態が組合されて、自動変速機1全体で、前述した3速と4速との間のギヤ比となる変速段が得られる。
【0036】
なお、図2において点線の丸印は、コースト時エンジンブレーキの作動状態を示す。即ち、1速時、第3のブレーキB3が作動して第2のワンウェイクラッチF2のオーバランによるリングギヤR2の回転を阻止する。また、2速時、3速時及び4速時は、第1のブレーキB1が作動して第1のワンウェイクラッチF1のオーバランによるサンギヤS1の回転を阻止する。
【0037】
また、R(リバース)レンジにあっては、ダイレクトクラッチC2及び第3のブレーキB3が係合すると共に、第5のブレーキB5が係合する。この状態では、入力軸3の回転はダイレクトクラッチC2を介してサンギヤS1に伝達され、かつ第3のブレーキB3によりダブルピニオンプラネタリギヤのリングギヤR2が停止状態にあるので、シンプルプラネタリギヤのリングギヤR1を逆転方向に空転させながらキャリヤCRも逆転し、該逆転が、カウンタギヤ18,17を介して副変速機構5に伝達される。副変速機構5は、第5のブレーキB5に基づき第2のシンプルプラネタリギヤのキャリヤCR4が逆回転方向にも停止され、1速状態に保持される。従って、主変速機構2の逆転と副変速機構5の1速回転が組合されて、出力軸16から逆転減速回転が出力する。
【0038】
図1は、電気制御系を示すブロック図で、21は、マイクロコンピュータ(マイコン)からなる制御部(ECU)で、電子制御部21には、車速センサ22、ブレーキストロークセンサ23及びブレーキ圧センサ25及びシフト指示手段であるシフトレバー装置70が接続している。制御部21は、車両減速度演算部60,変速要求判断部61、変速実行部62、手動変速制御部63及び自動変速制御部65を有している。
【0039】
シフトレバー装置70は、図中右方に形成された、P−R−N−D−3−2レンジからなる自動変速モード部70a及び、現在選択されているギヤ段に対してアップシフトを指示する「+」レンジと現在選択されているギヤ段に対してダウンシフトを指示する「−」レンジとからなる手動変速モード部70bを有しており、自動変速モード部70aと手動変速モード部70bは、Dレンジと、+レンジと−レンジとの中間の待機位置70cとの間を接続する接続溝70dで接続されている。運転者が操作自在な変速レバー70eは自動変速モード部と手動変速モード部70bとの間を接続溝70dを介して図中左右方向にも移動自在に設けられている。また、自動変速モード部70aでは、運転者が所望のレンジに変速レバー70eを図中上下方向に移動させることにより位置決めし、自動変速制御部65を介して変速実行部62が図示しない変速マップなどに基づいて自動変速制御を行う。この場合、運転者は、アップシフト及びダウンシフトを電子制御装置9に対して指示する必要はない自動変速モードとなる。
【0040】
また、変速レバー70eは、手動変速モード部70bでは、図示しない付勢手段により待機位置70cに保持されており、運転者が車両の走行状態からギヤ段を、現在選択されているギヤ段に対してダウンシフトしたい場合には変速レバー70eを−レンジ側に移動させ、運転者が車両の走行状態からギヤ段を、現在選択されているギヤ段に対してアップシフトしたい場合には変速レバー70eを+レンジ側に移動させる。変速レバー70eは、付勢手段により待機位置70cに付勢されているので、運転者が変速レバー70eを+又は−レンジに移動させても、直ちに待機位置70cに戻るように駆動される。
【0041】
手動変速モード部70bで変速レバー70eが、+又は−レンジに移動させられると、シフトレバー装置70からは手動シフト信号S1が手動変速制御部63に出力され、手動変速制御部63はこれを受けて、変速実行部62に対して、ギヤ段を現在選択されているギヤ段に対して1段アップ又はダウンシフトさせるように指令し、変速実行部62は当該指令を実行する。
【0042】
ついで、図4〜6に沿って、シフトレバー装置70の変速レバー70eが自動変速モード部70aにあり、自動変速モードにおいてダウンシフトが生じる場合、例えばコーストダウン時の4→3変速について説明する。4→3変速にあっては、具体的には、解放側油圧PAが第3のクラッチC3用油圧であり、係合側油圧PBは第4のブレーキB4用油圧である。
【0043】
まず、図示しないスロットル開度センサ及び車速センサ22からの信号に基づき、制御部21はマップにより、4→3変速等のダウンシフトを判断すると、変速実行部62に対して、図4及び図5に示すフローチャートに従って、係合側摩擦係合要素であるブレーキB4、解放側摩擦係合要素であるクラッチC3の制御を行うように指令する。以下、各摩擦係合要素への油圧(制御信号圧)の供給状態を示すタイムチャートである図6を参照しつつ説明する。
【0044】
変速実行部62は、これを受けて、図5に示すように、解放側の摩擦係合要素であるクラッチC3については、図5のステップS1を実行し、入力トルクTt の関数により解放側トルクTAを算出する(S1)。該入力トルクTt は、例えば、マップによりスロットル開度とエンジン回転数に基づきエンジントルクを求め、更にトルクコンバータの入出力回転数から速度比を計算し、該速度比からマップにてトルク比を求め、エンジントルクに上記トルク比を乗じて求められる。更に、該入力トルクにトルク分担率等が関与して上記解放側トルクTA が求められる。
【0045】
該解放側トルクTA から解放側の待機係合圧Pwが算出され(S2)、変速実行部62は、クラッチC3への供給油圧が該待機係合圧Pwになるように制御する(S3)。更に、変速実行部62は、図5のステップS4で、クラッチC3の供給油圧PAをPwから予め設定されている所定勾配からなる油圧δPEにより、スイープダウンさせる(S4)。この制御は、供給油圧PAが0になるまで継続される(S5)。
【0046】
一方、係合側となるブレーキB4は、図4に示すように、制御部21からのダウンシフト判断に基づき、変速実行部62による計時が開始され(S30)、第4のブレーキB4用油圧サーボへの油圧PBが所定圧Ps1になるように所定信号圧を出力する(S31)。
【0047】
該所定圧Ps1は、油圧サーボの油圧室を満たしてガタ詰めを行うために必要な油圧に設定されており、所定時間tSAの間保持される。所定時間tSAが経過すると(S32)、係合側油圧PBは、所定勾配[(Ps1−Ps2)/tSB]でスイープダウンし(S33)、係合側油圧PBが所定低圧Ps2になると(S34)、該スイープダウンが停止され、該所定低圧Ps2に保持される(S35)。該所定低圧Ps2は、ピストンストローク圧以上でかつ係合側摩擦係合要素(例えば第4のブレーキB4)にトルク容量を生じさる圧に設定されており、該所定低圧Ps2は、計時tが所定時間tSE経過するまで保持される(S36)。上記ステップS31からS36までサーボ起動制御となる。ここで、所定低圧Ps2をトルク容量を生じさせる圧に設定しているので、所定低圧Ps2で保持されている間に、係合側摩擦係合要素(B4)の係合が開始、つまり変速が開始(入力軸の回転変化が開始)される。なお、図6の入力軸回転数は出力軸回転数(車速)が一定と仮定した場合の回転数変化である。
【0048】
次に、変速実行部62は、図4に示すように、係合側の摩擦係合要素であるブレーキB4のサーボ起動制御(図4のステップS36まで)が終了すると(t≧tSE)、直ちに完了制御に入る。該完了制御では、完了制御時間tFIN がタイマに設定される(S37)。そして係合側油圧PBは、予め設定されている所定勾配からなる油圧δPFによりスイープアップし(S38)、上記設定された所定時間tFIN が経過するまで(t≦0)、上記スイープアップが続けられ(S39)、該時間が経過した時点で完了制御は終了し変速実行部62による変速終了判断がなされ、ブレーキB4の係合が完了し、4→3変速が完了する。
【0049】
このようにして、変速レバー70eが自動変速モード部70aにある場合のコーストダウンシフト、例えば4−3ダウンシフト変速が行われるが、このダウンシフト動作は、変速レバー70eが手動変速モード部70bにある場合においても同様に、行われる場合がある。即ち、運転者が手動変速モード部70bで変速レバー70eを操作して、手動変速モードによる変速動作が行われている場合、運転者が高速段(例えば4速)を指示したままの状態でブレーキを踏んで減速した際に、当該高速段を保持したままでは駆動力不足となることから、手動変速制御部63は、図7に示す所定のダウンマップMAP1に従って、変速段を制御装置側で自動的にダウンシフトさせる制御を行なう。
【0050】
一方、手動変速制御部63による自動ダウンシフト制御中に、運転者が、速度低下に対応するために、シフトレバー70を手動変速モード部70bで−レンジに移動させ、意識的に手動変速でダウンシフトを行なう場合が生じる。
【0051】
例えば、図9に示すように、手動変速モード部70bでの運転中に車両が減速されて、時点T1で図7に示すダウンマップMAP1に基づいて、手動変速制御部63による4−3ダウンシフト指令が出力され、当該指令に基づいて変速実行部62が前述のダウンシフト動作を開始した後、運転者が変速レバー70eを−レンジに操作して手動ダウンシフトを指令した場合には、電子制御部21は、図8示す変速要求処理サブルーチンSUB1に基づいて、以下の処理を行なう。電子制御部21は、まず運転者の変速要求が時点T1で実行された自動ダウンシフトによる変速段よりも更に低いギヤ段を要求している可能性、即ち、運転者の減速意思が単なる1段のダウンシフトを要求しているのか、自動ダウンシフトによるダウンシフトに加えた更なるダウンシフトを要求しているのかの減速意思を演算推定する。
【0052】
即ち、電子制御部21は、変速要求処理サブルーチンSUB1のステップS1及びステップS2で、変速レバー70eが手動変速モード部70bに有る場合において、自動変速判断による変速実行中に運転者によるマニュアル変速要求が発生したことを検知すると、ステップS3で、車速センサ22、ブレーキストロークセンサ23及びブレーキ圧センサ25などからの信号を取り込み、ステップS4で車両減速度演算部60に車両の減速度を演算させる。減速度は、車速センサ22や図示しない変速機の出力軸回転数センサからの信号に基づいて車速の変化率を演算したり、ブレーキストロークセンサ23からの信号に基づいてブレーキストロークの変化率を演算したりすることにより、求める。
【0053】
こうして、減速度が求められたところで、ステップS5で変速要求判断部61が、演算された減速度が所定値以上、従って、図9(c)に示すように、車両が急激に減速しており、自動変速判断によるダウンシフトを行ったとしても、なおダウンシフトの余地が残ると判断された場合には、運転者の減速意思は大きいものと判断し、ステップS6に入り、運転者によるマニュアル変速要求を許可し、ステップS7に入り、図9(d)に示すように、図4のステップS39の変速終了判断の後、更にマニュアル変速要求に基づくダウンシフト動作に入り、変速実行部62を介して、例えばB4ブレーキが解放されると共に、B5ブレーキが係合されて3−2ダウンシフトが行われる。この場合、自動変速判断により、4−3変速が行われ、当該変速中にマニュアル変速要求が出力されて、更に3−2変速が行われるので、結果的に4−2変速が行われることとなるが、車両は、4−2ダウンシフトを許容する程度に急激に減速されているので、適正な駆動力を減速後に直ちに得ることが出来る。即ち、この場合の、運転者の減速意思は2段のダウンシフトにあったものと推定され、運転者は自動変速制御部65の自動変速動作を考慮した形で手動変速指令を出力したものと判断される。
【0054】
また、図8のステップS5で、演算された減速度が所定値以下、従って、図9(a)に示すように、車両の減速度がそれほどのものではなく、自動変速判断によるダウンシフトのみで、ダウンシフト後の駆動力が十分まかなえるものと判断された場合には、運転者の減速意思は小さいものと判断し、ステップS8に入り、運転者によるマニュアル変速要求を却下し、ステップS9に入り、図9(b)に示すように、図4のステップS39の変速終了判断の後、更なるダウンシフト動作を行うことなく、定常状態に戻る。この場合、手動変速指令は却下され、結果的に4−3変速のみが自動で行われることとなるが、車両の減速度は穏やかであり、1段階のダウンシフトで、適正な駆動力を減速後において十分に得ることが出来る。即ち、この場合の、運転者の減速意思は1段のダウンシフトにあったものと推定され、自動変速判断と運転者の手動変速指令が競合したものと判断される。
【0055】
上述の実施例は、手動変速制御部63が4−3自動ダウンシフトを行っているときに、運転者が更にダウンシフト指令を手動変速指令として出力した場合について述べたが、手動変速指令が出力される状態は、手動変速制御部63によるダウンシフトが、4−3に限らず、5−4、3−2など、2−1などの最低ギヤ段へのダウンシフト以外、どのようなギヤ段に係わるダウンシフト動作中でもよい。また、自動変速モード部70aにおいて、自動変速制御部65がダウンシフトを行っているときに、運転者が変速レバー70eを自動変速モード部70aから手動変速モード部70bへ操作してダウンシフト指令を手動変速指令として出力する場合にも適用できる。
【0056】
また、手動変速指令を出力する手動変速指令出力手段は、変速レバー70eに限らず、変速スイッチなどの電気的なスイッチにより構成してもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係わる電子制御部を示すブロック図。
【図2】本発明を適用しうる自動変速機の機構部分を示すスケルトン図。
【図3】その摩擦係合要素の作動を示す図。
【図4】クラッチツークラッチ変速における自動ダウンシフトの係合側油圧の制御を示すフローチャート。
【図5】クラッチツークラッチ変速における自動ダウンシフトの解放側油圧の制御を示すフローチャート。
【図6】クラッチツークラッチ変速による自動ダウンシフト時の各摩擦係合要素に対する油圧の状態(信号圧)を示すタイムチャート。
【図7】手動変速モードにおけるオートダウンマップの一例を示す図。
【図8】変速要求処理サブルーチンの一例を示すフローチャート。
【図9】自動ダウンシフト動作中に手動変速指令が出力された際の、処理の一例を示すタイムチャート。
【符号の説明】
21……制御装置(電子制御部)
60……運転者減速意思演算手段(車両減速度演算部)
61……運転者減速意思演算手段(変速要求判断部)
62……ダウンシフト実行制御手段、自動ダウンシフト動作手段(変速実行部)
63……自動ダウンシフト動作手段(手動変速制御部)
65……自動ダウンシフト動作手段(自動変速制御部)
70……シフト指示手段(シフトレバー)
SUB1……ダウンシフト実行制御手段(変速要求処理サブルーチン)
MAP1……変速マップ(ダウンマップ)
Claims (5)
- 運転者がアップシフト及びダウンシフトを指示する必要のない自動変速モード及び運転者がアップシフト及びダウンシフトを指示することの出来る手動変速モードを有するシフト指示手段を有する自動変速機の制御装置において、
運転者の減速意思を演算推定する運転者減速意思演算手段を設け、
車両の状態に基づいて自動ダウンシフト動作を行う自動ダウンシフト動作手段を設け、
前記自動ダウンシフト動作手段による自動ダウンシフト動作中に、前記シフト指示手段から運転者の手動変速モードによるダウンシフト要求があった場合、前記運転者減速意思演算手段によって演算推定された運転者の減速意思が、大きいものと判断された場合に前記自動ダウンシフト手段によるダウンシフト動作に加えて前記シフト指示手段からのダウンシフト要求によるダウンシフト動作を実行し、小さいものと判断された場合に前記シフト指示手段からのダウンシフト要求を却下するダウンシフト実行制御手段を設けて構成した、自動変速機のマニュアル変速制御装置。 - 前記自動ダウンシフト動作手段による自動ダウンシフトは、前記シフト指示手段が自動変速モードにある場合に生じることを特徴とする、請求項1記載の自動変速機のマニュアル変速制御装置。
- 前記自動ダウンシフト動作手段による自動ダウンシフトは、前記シフト指示手段が手動変速モードにある場合に生じることを特徴とする、請求項1記載の自動変速機のマニュアル変速制御装置。
- 前記運転者減速意思演算手段は、車両の減速度を演算し、該減速度の大小により、前記運転者の減速意思を演算推定する、請求項1記載の自動変速機のマニュアル変速制御装置。
- ダウンシフト実行制御手段による、前記シフト指示手段からの運転者の手動変速モードによるダウンシフト要求に基づくダウンシフト動作は、前記自動ダウンシフト手段によるダウンシフト動作による変速終了後に開始するようにして構成した、請求項1記載の自動変速機のマニュアル変速制御装置。
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