JP3887868B2 - 鉄骨梁の鉄骨柱への溶接方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、鉄骨構造物の溶接方法に関し、とくに建設現場において、鉄骨梁を直接鉄骨柱に溶接する、鉄骨梁の鉄骨柱への溶接方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鉄骨構造物における鉄骨梁の鉄骨柱への接合方法としては、梁材の一部を予め工場において柱材に溶接接合しておき、建設現場においては梁材相互をボルト接合する接合方法がある。しかし、この方法は、建設現場、とくに高所において溶接作業を行わなくてよい利点があるものの、接合箇所が多くなる欠点がある。そのため、梁材を建設現場で直接、鉄骨柱に溶接する接合方法も採用されている。
【0003】
建設現場において梁材を柱部材に直接溶接する接合構造の従来の1例を図7に示す。
H形鋼からなる梁材8のフランジ1a、1bはレ形開先によるフランジ片面からの完全溶込み溶接により、また、ウェブ2はガセットプレート6と高力ボルト7により、直接柱部材9に接合される。この際、梁材のウェブ2の端部に1/4 円弧上のスカラップ3、3が設けられる。これにより、上フランジ1aの溶接においては、裏当金4を上フランジ裏面に挿入することができ、また、下フランジ1bの溶接においては、溶接トーチをウェブ面に交叉して通過させることができるため、円滑な溶接が可能となる。このスカラップ3は、裏当金を挿入するのに支障となるウェブ、あるいはフランジ中央のウェブ位置を溶接するのに支障となるウェブを切り欠いたものである。
【0004】
このようなスカラップは、加工に手間を要するばかりでなく、大きな断面欠損を内在させることとなり、地震等の繰り返し荷重に対する柱梁接合部の耐力を著しく低下させる。
地震時に、柱梁接合部に発生する地震力によるモーメントは、図6に示すように、梁端部で最大値となり、フランジ外縁に最大応力が発生することになる。この最大応力が発生する梁端部のウェブにはスカラップが設けられており、スカラップ隅角部に最大応力が集中しやすくなり、地震等の繰り返し荷重に対し早期破壊が生じる原因となる。(山本他:構造工学論文集、vol.39B (1993.3), pp.493〜506.参照)さらに、下フランジ側溶接部では、裏当金がフランジ外側に取付けられており、切欠き状の隙間を内在しやすく、また、裏当金の仮付け溶接により梁、柱の材質(靱性)が劣化することが多く、応力集中を受けた場合に接合部全体の脆性破壊につながる恐れがある。(藤本他:日本建築学会構造系論文報告集、第357 号(1985.11) 、pp81〜88. 参照)
また、特開平6-87071 号公報には、スカラップを設ける必要のない、鉄骨梁の鉄骨柱への溶接方法が開示されている。この方法は、ウェブ先端下部に切欠きを設け、溶接時にはこの切欠きを含む開口部分と同一形状の薄鋼板よりなるふさぎ板を用いてフランジ溶接する。しかしながら、この方法では、スカラップによる断面欠損は回避できるが、依然として裏当て金を必要とし、また、薄鋼板よりなるふさぎ板を加工する必要があるなど複雑な工程となり、依然として問題を残していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した問題を有利に解決し、地震荷重に対し安全な鉄骨構造物を建設するための鉄骨梁の鉄骨柱への溶接方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、スカラップを設けず、また裏当金を必要としない溶接方法について鋭意検討した結果、開先形状の変更と、取り外し可能な裏当材の使用に想到し、本発明を構成した。
【0007】
本発明は、フランジ面を上下面とする姿勢のH形鋼からなる鉄骨梁をボルトと溶接により鉄骨柱に接合するに際し、前記鉄骨梁端部の上下フランジにフランジ外側に開いた外開先を形成し、前記鉄骨柱に溶接により取り付けられたガセットプレートと前記鉄骨梁端部のウェブをボルトで接合したのち、前記上フランジと前記鉄骨柱材との接合は、前記上フランジ開先部の下側に取り外し可能な裏当材を押し当て、下向き溶接によりシーリングビードを形成し、ついで裏当材を取り外し、該シーリングビードの下層に上向き溶接で化粧盛りビードを形成して、該シーリングビードの上層に下向き溶接により溶接金属を積層して行い、一方、前記下フランジと前記鉄骨柱材との接合は、前記下フランジ開先内に取り外し可能な裏当材を押し当て、下向き溶接によりシーリングビードを形成し、ついで裏当材を取り外し、該シーリングビードの下層に上向き溶接により溶接金属を積層して行うことを特徴とする鉄骨梁の鉄骨柱への溶接方法であり、前記裏当材は、表面をガラステープで覆われた銅製平板とするのが好ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明の溶接方法を適用する接合部形状を図1に示す。
本発明では、接合部における鉄骨梁材端部の上下フランジ1a、1bに、いずれもフランジ外側に開いたレ形の外開先を形成する。鉄骨柱とフランジとのルートギャップ5はできるだけ小さくするのが好ましく、溶接施工上からは5mm程度が適当である。また、開先角度は35〜45度とするのが溶接施工上好ましい。
【0009】
一方、接合部における梁材端部のウェブ2には、ガセットプレート6を柱材に取り付ける溶接ビード10を避けるために、ウェブ中央付近にルートギャップ5の2〜3倍程度の凹部深さの浅い凹状部11が形成される以外は梁材端部のウェブはフランジ端と同一面とするのが好ましい。すなわち、本発明では、接合部であるフランジ近傍のウェブにはスカラップのような断面欠損を設ける必要はない。通常ガセットプレート6の幅は、ウェブ2の幅より狭いのでフランジから凹状部までのウェブにおける距離12は、ガセットプレートの幅に応じ適宜決定すればよい。また、凹状部11の両端部13は応力集中をさけるため円弧状の滑らかな形状とするのが好ましい。
【0010】
つぎに、鉄骨柱と鉄骨梁の接合方法について図2にしたがい説明する。
上フランジ1aと鉄骨柱部材9とを溶接により接合する(図2(a)〜(c))。溶接の手順は、開先部の下側に取り外し可能な裏当材18を押し当て、下向き溶接でシーリングビード14をフランジ幅方向に形成する(図2(a))。その後、裏当材18を外し、シーリングビード14の下層に上向き溶接で化粧盛りビード17を形成する(図2(b))。ついで、シーリングビード14の上層に下向き溶接で溶接金属19を積層し(図2(c))、鉄骨柱と鉄骨梁の上フランジとの接合が完了する。
【0011】
下フランジ1bと鉄骨柱部材9とを溶接により接合する(図2(d)〜(e))。溶接の手順は、開先部の下側から取り外し可能な裏当材18を開先内へ押し当て、下向き溶接でシーリングビード14を形成する(図2(d))。ついで、裏当材18を外したのち、シーリングビード14の上層に上向き溶接で溶接金属19を積層し(図2(e))、鉄骨柱と鉄骨梁の下フランジとの接合が完了する。
【0012】
図2では、取り外し可能な裏当材として、表面をガラステープ15で覆われた銅製平板16を示しているが、裏当材は、表面をガラステープで覆われた銅製平板に限らず、溶接を阻害せず溶接後に容易に取り外しができれるものであればとくに限定されない。なお、上向き溶接は、溶接技量が要求されるため、溶接ロボットを利用してもよい。
【0013】
ウェブと柱材との接合は、ガセットプレート6を用い、ガセットプレート6と柱材との接合は隅肉溶接で、ウェブとガセットプレートとの接合は高力ボルト7により行うのが好ましい。ウェブとガセットプレートをボルトで接合したのち、上記した鉄骨柱と鉄骨梁の上下フランジとの接合を行うのが好ましい。
【0014】
【実施例】
本発明例として、図3(a)に示す溶接前端部形状を有する鉄骨梁を用い、鉄骨柱に接合した。鉄骨梁材として、H420 ×200 のH形鋼(鋼種:SN490 B)を用いた。フランジ厚みは22mm、ウェブ厚みは12mmである。梁材端部の上下フランジには、フランジ外側に開いた開先角度35度のレ形開先を形成した。また、梁材端部のウェブには深さ15mmの凹状部を形成し、凹状部の両端部は応力集中をさけるため半径15mmの円弧状の滑らかな形状に仕上げた。フランジから凹状部までのウェブにおける距離は30mmとした。ウェブにはボルト接合用の穴が配設されている。
【0015】
この鉄骨梁を接合する鉄骨柱は300mm 角の溶接組立箱形断面材(鋼種:SN490 B)とした。
まず、鉄骨柱に溶接により取り付けられたガセットプレートを、鉄骨梁の上下フランジと鉄骨柱で構成される開先のルートギャップが5mmとなるように、ボルトにより鉄骨梁のウェブに接合した。ついで、裏当て材として、表面をガラステープで覆われた銅製平板を用いて、図2(a)に示すように、上フランジの開先部の下側に取り外し可能な裏当材を押し当て、図2(a)に示すように、初層溶接を行いシーリングビードを形成し、ついで、図2(b)〜(c)に示す手順で、裏当材を外し、化粧盛りビードを形成し、溶接金属を積層し、鉄骨柱と鉄骨梁の上フランジとの接合を完了した。ついで、鉄骨柱と鉄骨梁の上フランジとの接合を図2(d)〜(e)に示す溶接手順で完了した。溶接は、ガスシールドアーク溶接とし、シールドガスはAr80%-CO220%、溶接ワイヤはYFW-C50DR (1.2mm φ)を用いた。溶接条件は電流: 200〜 280A、電圧:25〜30V、溶接速度:16〜30cm/minとした。
【0016】
従来例として、図3(b)に示す溶接まえの端部形状を有する鉄骨梁を用い、鉄骨柱に接合した。鉄骨梁材として、本発明例と同じ寸法のH形鋼を用いた。鉄骨柱としては、本発明例と同じ寸法とした。
梁材の上フランジには、フランジ外側に開いたレ形開先、下フランジにはフランジ内側に開いたレ形開先が形成されている。また、ウェブ上下端には半径35mmのスカラップが形成されている。また、ルートギャップは5mmとした。
【0017】
上フランジ溶接においては、裏当金4を上フランジ裏面に挿入し、また、下フランジの溶接においては、溶接トーチをウェブ面に交叉して通過させ、下向き溶接により鉄骨柱と溶接接合した。なお、溶接は、ガスシールドアーク溶接とし、シールドガスはAr80%-CO220%、溶接ワイヤはYFW-C50DR (1.2mm φ)を用いた。溶接条件は電流: 200〜 280A、電圧:25〜30V、溶接速度:16〜30cm/minとした。他の条件は本発明例と同一とした。
【0018】
上記した溶接方法で図4に示す梁端接合部の試験体を製作した。これら試験体に、図4に矢印で示すように梁に逆対称の繰り返し荷重を作用させ、梁端接合部の変形能力を調査した。その結果を図5に示す。
図5から、本発明例の試験体は、エネルギー変形能力の指標である累積塑性変形倍率、および塑性変形能力の指標である平均塑性率いずれも従来例より高く、従来の接合方法に比べ、接合部の変形能力が向上していることがわかる。
【0019】
【発明の効果】
本発明によれば、断面欠損による応力集中、裏当金による切欠きの内在や仮付け溶接により梁、柱の靱性劣化を回避でき、地震荷重に対し安全な鉄骨構造物を建設することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の1実施例である接合部の形状を模式的に示す概念図である。
【図2】本発明の溶接方法を示す概念図である。
【図3】本発明例(a)および従来例(b)の接合部近傍の寸法形状を示す正面図である。
【図4】試験体の形状を示す正面図である。
【図5】試験体の変形能力を示すグラフである。
【図6】柱梁接合部の地震力によるモーメントの分布を示すグラフである。
【図7】従来の柱梁接合部を模式的に示す概念図である。
【符号の説明】
1a 上フランジ
1b 下フランジ
2 ウェブ
3 スカラップ
4 裏当金
5 ルートギャップ
6 ガセットプレート
7 高力ボルト
8 梁材
9 柱部材
10 溶接ビード
11 凹状部
12 ウェブ距離
13 凹状部端部
14 シーリングビード
15 ガラステープ
16 銅製平板
17 化粧盛りビード
18 裏当材
19 溶接金属
Claims (2)
- フランジ面を上下面とする姿勢のH形鋼からなる鉄骨梁をボルトと溶接により鉄骨柱に接合するに際し、前記鉄骨梁端部の上下フランジにフランジ外側に開いた外開先を形成し、前記鉄骨柱に溶接により取り付けられたガセットプレートと前記鉄骨梁端部のウェブをボルトで接合したのち、前記上フランジと前記鉄骨柱材との接合は、前記上フランジ開先部の下側に、取り外し可能な裏当材を押し当てて下向き溶接によりシーリングビードを形成し、ついで該裏当材を取り外したのち、該シーリングビードの下層に化粧盛りビードを形成し、ついで該シーリングビードの上層に溶接金属を積層して行い、一方、前記下フランジと前記鉄骨柱材との接合は、前記下フランジ開先内に取り外し可能な裏当材を押し当て、シーリングビードを形成し、ついで該裏当材を取り外し、該シーリングビードの下層に溶接金属を積層して行うことを特徴とする鉄骨梁の鉄骨柱への溶接方法。
- 前記裏当材が、表面をガラステープで覆われた銅製平板であることを特徴とする請求項1記載の鉄骨梁の鉄骨柱への溶接方法。
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