JP3887290B2 - 差圧発信器 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、石油化学・化学工業・電力・ガス・食品・鉄鋼等の種々のプラントに用いられる差圧発信器に関し、特に過大圧保護機構を備えた差圧発信器に関する。
【0002】
【従来の技術】
差圧発信器は、高圧側および低圧側の受圧ダイアフラムに加えられる各測定圧力を、圧力伝達媒体としての封入液によって半導体圧力センサに導き、その歪みを電気信号に変換して取り出すように構成しており、例えば石油精製プラントにおける高温反応塔等の被測定流体を貯蔵する密閉タンク内の上下二位置の差圧を検出することにより、液面高さを測定するときなどに用いられる(例えば、特許文献1,2,3参照。)
【0003】
【特許文献1】
特開平7−198519号公報(2頁〜3頁、図1)
【特許文献2】
特開平4−320939号公報(2頁〜3頁、図1、図3)
【特許文献3】
特公平3−74782号公報(1頁〜3頁、図1、図2)
【特許文献4】
特開平6−82326号公報(2頁〜3頁、図8)
【0004】
この種の差圧発信器は、圧力センサの耐圧を超える圧力が加わったときに圧力センサが破損するのを防止するために、過大圧保護機構を備えたものが一般的である。過大圧保護機構は、ボディ本体の各側面に設けられる受圧ダイアフラムと、ボディ本体の内室を高圧側と低圧側のセンターダイアフラム室に仕切って設けられるセンターダイアフラムとで構成され、受圧ダイアフラムに過大な圧力が加わったときに受圧ダイアフラムをボディ側面に着底させることにより圧力センサに過大な圧力が加わらないようにしている。すなわち、高圧側に過大な圧力が加わったときには、高圧側の受圧ダイアフラムがボディ本体に着底して高圧側の封入液の移動を制限し、低圧側に過大な圧力が加わったときには、低圧側の受圧ダイアフラムがボディ本体に着底して低圧側の封入液の移動を制限することにより、圧力センサに過大な圧力が加わらないようにしている。
【0005】
図8は上記特開平7−198519号公報に開示された従来の標準型差圧発信器で、この差圧発信器1は、二つのボディ2A,2Bを接合することによってボディ本体2を形成し、各ボディ2A,2Bの側面に測圧用の受圧ダイアフラム3,4をそれぞれ設け、これらの受圧ダイアフラム3,4と各ボディ2A,2Bとの間の空間をそれぞれ受圧ダイアフラム室5,6として圧力伝達媒体としてのシリコーンオイル等の封入液7を封入している。また、両ボディ2A,2Bの接合面間に内室8を形成し、この内室8を前記受圧ダイアフラム3,4とともに過大圧保護機構を構成するセンターダイアフラム9によって2つのセンターダイアフラム室8a,8bに画成し、これらのセンターダイアフラム室8a,8bを前記各受圧ダイアフラム室5,6に連通路10a,10bを介してそれぞれ連通させている。さらに、前記ボディ本体2の内部には前記各センターダイアフラム室8a,8bと圧力センサ12を接続する封入液回路11(11a,11b)が形成されている。圧力センサ12としては、シリコン、サファイア等のダイアフラムを有するダイアフラム式圧力センサが用いられる。
【0006】
このような構造からなる差圧発信器1において、高圧側の受圧ダイアフラム3と低圧側の受圧ダイアフラム4にプロセス流体の高圧HPと低圧LPを印加すると、受圧ダイアフラム3,4が変位し、その差圧(HP−LP)が封入液7を介して圧力センサ12の半導体ダイアフラムに加えられる。このため、半導体ダイアフラムがその差圧に応じて歪み、この歪みを電気信号として取り出すことにより差圧が測定される。
【0007】
高圧HP側の受圧ダイアフラム3に過大な圧力が加わったときは、受圧ダイアフラム3が低圧側に変位してボディ本体2の側面に着底するため、それ以上の封入液7の移動がなく、過大圧による圧力センサ12の破損を防止することができる。同様に、低圧LP側の受圧ダイアフラム4に過大な圧力が加わったときは、受圧ダイアフラム4が高圧側に変位してボディ本体2の側面に着底するため、それ以上の封入液7の移動がなく、この場合も過大圧による圧力センサ12の破損を防止することができる。
【0008】
一方、この種の差圧発信器は、近年地球環境、取り扱いの容易さ、あるいは予備品、機種点数の削減などのために、測定範囲、使用温度範囲が広いものや、ボディの小さなものが要求される。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上記した通り、過大圧保護機構を備えた従来の差圧発信器1は、圧力センサ12による測定範囲を超える過大な圧力が加わったときに過大圧保護機構が働くことにより圧力センサ12の破損を防止するようにしている。しかしながら、周囲温度の変化により受圧ダイアフラム室5,6内の封入液7が膨張、収縮してその量が変化すると、過大圧保護機構が働き始めるときの圧力、すなわち過大圧保護機構の動作点(以下、O/L動作点という)も変化するという問題があった。
【0010】
以下、O/L動作点の変化について説明する。
図9は従来装置における過大圧保護機構のO/L動作点を示す概念図で、縦軸は受圧ダイアフラム下の封入液移動量(またはセンサ出力)、横軸は差圧、S,S1 ,S2 はそれぞれ温度が25℃、25+t℃、25−t℃のときのO/L動作点である。
O/L動作点は、受圧ダイアフラム室5または6内の封入液7の液量Vbとセンターダイアフラム9のコンプライアンスΦcによって定まる。このとき、温度をt℃とすると、O/L動作点は、
Pt=Vb/Φc
で示される。
【0011】
高温時においては熱膨張により封入液7の液量が常温時における液量よりも増大するため、受圧ダイアフラムを表面側が凸となるように変形させている。この状態で圧力が加わると受圧ダイアフラムの変位量が大きく、封入液7の移動量が多い。したがって、O/L動作点は大きくなる。一方、低温時においては熱収縮により封入液7の液量が常温時における液量よりも減少するため、受圧ダイアフラムを表面側が凹となるように変形させている。この状態で圧力が加わると受圧ダイアフラムの変位量が小さく、封入液の移動量が少ない。したがって、O/L動作点は小さくなる。なお、受圧ダイアフラム3,4のコンプライアンスΦbがセンターダイアフラム9のコンプライアンスΦcより十分に大きい(Φb≫Φc)ときは、O/L動作点には影響しない。
【0012】
このため、過大圧保護機構を備えた従来の差圧発信器では、その仕様が使用温度範囲、測定レンジ、センサ耐圧等により制限を受ける。
【0013】
また、従来の差圧発信器はO/L動作点の変動幅Wが広いため、発信器自体が大型化するという問題もあった。すなわち、温度変化による封入液の膨張、収縮によって受圧ダイアフラムが変形すると、O/L動作点の変動幅Wが広くなるため、封入液の最大液移動量(ダイアフラムの弾性域における変位量)Qmaxは多くなる。ダイアフラムの弾性域における変位量はダイアフラム径が大きいほど多くなるため、封入液の最大液移動量が多いと、必然的に受圧ダイアフラムを大きくせざるを得ず、結果としてボディ本体2が大型化し、発信器の小型化に制約を受ける。
【0014】
本発明は上記した従来の問題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、過大圧保護機構の温度変化によるO/L動作点の変動幅を狭くし、発信器の仕様(使用温度範囲、測定レンジ、センサ耐圧、ボディ本体のサイズ等)の制限を緩和し得るようにした差圧発信器を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために発明は、受圧ダイアフラムを両側面に有するボディ本体の内部に内室を形成し、この内室を過大圧保護機構を構成するセンターダイアフラムによって二つのセンターダイアフラム室に画成し、前記各受圧ダイアフラムの内側に形成した受圧ダイアフラム室と前記センターダイアフラム室をそれぞれ接続するとともに、前記ボディ本体と別部材からなる容器内部に設けられダイアフラム式圧力センサを収容するセンサ室と前記センターダイアフラム室とを接続し、かつこれらの室に封入液をそれぞれ封入した差圧発信器において、前記容器は、前記ボディ本体に一体に接合された金属製の外筒および内筒によって構成され、前記センサ室は前記金属製内筒内に形成されて前記圧力センサのセンサダイアフラムにより上側センサ室と下側センサ室とに仕切られており、前記金属製内筒の外壁と前記金属製外筒の内壁との隙間を前記二つのセンターダイアフラム室のうちの一方と前記上側センサ室とを連通させる連通路とし、前記センターダイアフラム室のうちの他方と前記下側センサ室とを連通させ、前記金属製外筒の前記連通路に接する内壁面および前記下側センサ室に接する前記金属製内筒の内壁面にスペーサ装填用空間部をそれぞれ設け、これらのスペーサ装填用空間部に前記容器より線膨張係数が小さい材料によって形成したスペーサをそれぞれ配置したものである。
【0022】
発明においては、線膨張係数が小さい材料からなるスペーサをスペーサ装填用空間部内に配置しているので、封入液の量は僅かに増大するものの見かけ上は殆ど変わらない。温度上昇によってボディ本体が熱膨張すると、スペーサ装填用空間部も熱膨張して広がる。このとき、スペーサも熱膨張するが、スペーサ装填用空間部の熱膨張に比べて膨張量が少ないため、スペーサ装填用空間部とスペーサとの間の隙間は温度が変化する以前よりも拡大する。この隙間に入っている封入液も熱膨張するが、その量はきわめて僅かであるため前記隙間の熱膨張量よりきわめて少ない。このため、室内の封入液の一部は熱膨張した隙間に入り込む。したがって、温度上昇によって封入液が熱膨張しても室内全体の封入液の量の変化は小さく、過大圧保護機構の温度変化によるO/L動作点の変動を小さく抑えることができる。一方、温度下降時においてはボディ本体とスペーサが収縮するため、上記とは逆に隙間が縮小して当該隙間内の封入液の一部を室内に送り込む。したがって、このときも封入液の量の変化は小さく、O/L動作点の変動を小さく抑えることができる。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を図面に示す実施の形態に基づいて詳細に説明する。
図1は本発明を説明するための第1の参考例を示す断面図である。同図において、全体を符号20で示す差圧発信器は、金属製のボディ本体21と、ボディ本体21の両側面(測圧面)22,23にそれぞれ取付けられた左右一対のカバー部材24,24と、ボディ本体21の上方にネック部25を介して設けられた電気信号変換部26等で構成されている。
【0025】
前記ボディ本体21は、SUS316等によって円板状に形成された2つのボディ21A,21Bを電子ビーム溶接等によって一体的に接合することにより形成されており、両側面22,23に受圧ダイアフラム27,28がそれぞれ取付けられている。受圧ダイアフラム27,28は、通常ステンレスなどの薄膜状金属板を塑性加工することで円板状に形成され、外周縁部(固定部)がボディ本体21の各側面22,23にそれぞれ溶接によって固定されている。受圧ダイアフラム27,28の加工形成に際しては、圧力を受ける受圧部、すなわち前記各側面22,23に溶接される外周縁部(固定部)より内側部分に波形の襞を同心円状に付けることで、受圧ダイアフラム27,28の荷重−弾性変形特性における線形域を広くしている。
【0026】
前記ボディ本体21の各側面22,23で各受圧ダイアフラム27,28の受圧部と対向する部分には、これらダイアフラムと同形の円形の凹部30,31がそれぞれ形成されており、これらの凹部30,31と前記受圧ダイアフラム27,28の間の空間が受圧ダイアフラム室32a,32bをそれぞれ形成している。
【0027】
また、ボディ本体21の内部中央、すなわち前記2つのボディ21A,21Bの接合面間には内室34が形成されており、この内室34を前記受圧ダイアフラム27,28とともに過大圧保護機構を構成するセンターダイアフラム35によって高圧側と低圧側の2つの室、すなわち高圧側のセンターダイアフラム室34aと低圧側のセンターダイアフラム室34bとに仕切っている。センターダイアフラム35は、外周縁部(固定部)が溶接によってボディ21A,21Bの接合面に挟持されて溶接され、外周縁部より内側部分が受圧部を形成している。この受圧部には、前記受圧ダイアフラム27,28の受圧部と同様に波形の襞が同心円状に形成されている。前記各センターダイアフラム室34a,34bの内壁面36a,36bには、センターダイアフラム35と同形の波形の襞がそれぞれ同心円状に形成されている。なお、本実施の形態においては、前記受圧ダイアフラム27,28、センターダイアフラム35とボディ本体21に同心円状の波形の襞をそれぞれ形成したが、これらの襞は必ずしも必要ではない。
【0028】
前記ボディ本体2の各側面22,23と各受圧ダイアフラム27,28との間に形成された前記各受圧ダイアフラム室32a,32bと、前記センターダイアフラム室34a,34bは、ボディ21A,21B内に形成した連通路39a,39bによってそれぞれ連通している。また、受圧ダイアフラム室32a,32b、センターダイアフラム室34a,34bおよび連通路39a,39bには、各ボディ21A,21Bに設けた封入液封入用孔40,40から圧力伝達媒体であるシリコーンオイル等の封入液41,41がそれぞれ封入されている。各封入液封入用孔40は、ボール42によってそれぞれ封止され、このボール42の抜けを止めねじ43によって防止している。
【0029】
前記各カバー部材24は、裏面外周縁部がシール部材44を介して前記ボディ本体21の側面22,23の外周縁部にそれぞれ密接され、複数本のボルト45およびナット46によって共締め固定されている。また、各カバー部材24の中央には、被測定流体47をボディ本体21の受圧ダイアフラム27,28に導く流体導入口48がそれぞれ表裏面に貫通して形成されている。
【0030】
さらに、前記ボディ本体21の内部には、封入液回路51(51a,51b)が形成されている。この封入液回路51は、一端が一方のボディ21Aのダイアフラム座36aに開口して前記センターダイアフラム室34aと連通し、他端が他方のボディ21Bのダイアフラム座36bに開口してセンターダイアフラム室34bと連通し、中間部が前記ボディ本体21のネック部25内に組み込まれたダイアフラム式の圧力センサ52によって2つの回路に仕切られている。
【0031】
前記ネック部25は、それぞれSUS等の金属によって形成され前記ボディ本体21の上面に溶接によって一体的に接合された外筒60および内筒61とからなり、これらによって前記圧力センサ52を収納する金属製の容器65を形成している。
【0032】
前記圧力センサ52は、前記内筒61の凹陥部61a内に配設されたパイレックス(登録商標)ガラス等の基台66と、この基台66の下面に外周縁部が接合されたシリコン、サファイア等からなるセンサダイアフラム67とを備え、このセンサダイアフラム67によって前記凹陥部61aの内部を二つのセンサ室、すなわちセンサダイアフラム67の下側と上側の室68A,68Bに仕切っている。下側のセンサ室68Aは、前記封入液回路51aに連通している。上側のセンサ室68Bは、前記基台66に貫通形成した貫通孔66aと前記内筒61内に形成した連通孔61bと、前記外筒60と内筒61との間に形成した環状溝68を介して前記封入液回路51bに連通している。したがって、センサダイアフラム67の中央に設けたダイアフラム部の下面側には、前記受圧ダイアフラム27に加えられる高圧HPが、受圧ダイアフラム室32a、連通路39a、センターダイアフラム室34a、封入液回路51aおよびセンサ室68A内の封入液41を介して加えられ、ダイアフラム部の上面側には、前記受圧ダイアフラム28に加えられる低圧LPが、受圧ダイアフラム室32b、連通路39b、センターダイアフラム室34b、封入液回路51b、連通路61b、貫通孔66aおよびセンサ室68B内の封入液41を介して加えられている。そして、前記センサダイアフラム67のいずれか一方の面には、ピエゾ抵抗領域として作用する図示しない4つの拡散ゲージが不純物の拡散またはイオンの打ち込み技術によって形成されており、これらの拡散ゲージは、ホイールストーンブリッジを形成し、リード線62およびリードピン63によって電気回路に接続されている。このような圧力センサ52としては、ピエゾ抵抗式に限らず、キャパシタンス式のものであってもよい。なお、64はリードピン63を内筒61から絶縁するハーメチックシールである。
【0033】
前記各ボディ21A,21Bの受圧ダイアフラム室32a,32bには、スペーサ装填用空間部70,71がそれぞれ形成されている。これらのスペーサ装填用空間部70,71は、前記各ボディ21A,21Bの受圧ダイアフラム27,28が着底する着底面の中央に形成した同一の大きさの凹陥部からなり、スペーサ72a,72bがそれぞれ収納配置されている。
【0034】
前記スペーサ72a,72bは、その線膨張係数をαc、ボディ本体21、受圧ダイアフラム27,28の線膨張係数をαs、封入液41の体膨張係数をαfとすると、αf≫αs≫αcの条件を満たす、線膨張係数がきわめて小さい材料(以下、低熱膨張材料ともいう)によって略同一の大きさに形成され、前記スペーサ装填用空間部70,71にそれぞれ嵌挿され、ボルト、かしめ固定等の適宜な固定手段によって固定されている。また、スペーサ72a,72bは、前記スペーサ装填用空間部70,71より若干小さく形成されることにより、スペーサ装填用空間部70,71の内壁との間に環状の適宜な隙間74a,74bをそれぞれ形成しており、表面がスペーサ装填用空間部70,71を形成しない場合におけるボディ21A,21Bの側面と同一面を形成している。このため、各受圧ダイアフラム室32a,32bは、前記隙間74a,74bの容積分だけ従来の受圧ダイアフラム室より大きく形成されている。また、当然のことながら、各受圧ダイアフラム室32a,32bに封入される封入液41の量も前記隙間74a,74bの容積分だけ従来の封入液量より増加している。
【0035】
前記スペーサ72a,72bの材料としては、線膨張係数αcが前記ボディ本体21の線膨張係数αsの1/5以下、好ましくは1/10以下で、さらに好ましくは線膨張係数αcがマイナスのセラミックス、金属等によって形成されている。なお、スペーサ72a,72bとしては、ボディ21A,21Bに対する容積比が大きいことが好ましい。
【0036】
低熱膨張材料としては、シリコン(線膨張係数:2.54ppm/K )、チタン酸アルミニウム(線膨張係数:−0.8ppm/K )、インバー(線膨張係数:1.2ppm/K )等が用いられる。
【0037】
このような構造からなる差圧発信器20において、被測定流体47の高圧HPと低圧LPを受圧ダイアフラム27,28にそれぞれ加えると、両ダイアフラム27,28および受圧ダイアフラム室32a,32b内の封入液41を介してセンターダイアフラム35に伝達される。このため、センターダイアフラム35はその差圧(HP−LP)に応じて変位し、この変位が封入液41を介して圧力センサ52のセンサダイアフラム67の両面に加えられる。このため、センサダイアフラム67は前記差圧(HP−LP)に応じて歪み、その歪み量が電気信号に変換され、演算処理されることにより、被測定流体47の圧力、液面高さ等が測定される。
【0038】
測定に当たっては、低熱膨張材料からなるスペーサ72a,72bを各ボディ21A,21Bの受圧ダイアフラム室32a,32bに配置しているので、過大圧保護機構の温度変化によるO/L動作点の変動幅を小さくすることができる。
【0039】
図2は過大圧保護機構のO/L動作点を示す概念図で、縦軸は受圧ダイアフラム下の封入液移動量(またはセンサ出力)、横軸は差圧、S,S1 ,S2 はそれぞれ25℃、25+t℃、25−t℃での過大圧保護機構が働き始める点である。
低熱膨張材料からなるスペーサ72a,72bを用いた本発明に係る差圧発信器においては、上記した通り温度変化による封入液の膨張収縮量が少ないため、図2から明らかなように温度変化による過大圧保護機構のO/L動作点S,S1 ,S2 の変動幅Woは、図9に示す従来装置におけるO/L動作点S,S1 ,S2 の変動幅Wより小さくなる。
【0040】
ここで、図2(a)は25℃におけるO/L動作点(S)が従来と同じとした場合の過大圧保護機構のO/L動作点を示す図であり、この図から明らかなように、測定範囲Aaは図9に示す従来装置における測定範囲Aよりも広くなり、センサ耐圧Baは従来装置におけるセンサ耐圧Bよりも小さくてよい。また、封入液の最大液移動量Qamaxも少なくなる。したがって、変位量が少ない小径の受圧ダイアフラム27,28を用いることが可能で、ボディ本体2、ひいては発信器自体を小型化することができる。
【0041】
さらに、図2(b)は測定範囲Aが従来と同じとした場合の過大圧保護機構のO/L動作点を示す図であり、この図から明らかなように、センサ耐圧Bbは上記図2(a)の場合のセンサ耐圧Baよりもさらに小さくてよい。また、封入液の最大液移動量Qbmaxもさらに少なくなり、発信器の小型化がさらに可能となる。
以下、本発明の原理を説明する。
【0042】
〔従来装置〕
周囲温度が常温よりも高くなると、その温度上昇に比例して高圧HP側のボディ21A、受圧ダイアフラム27および封入液41が熱膨張する。このとき、スペーサ72aを備えない従来の差圧発信器においては、αf≫αsにより封入液41の熱膨張による増加量Q1はボディ21Aと受圧ダイアフラム27とからなる容器の熱膨張による容積増加量Q2に比べて大きいため、封入液41の液量Vbが常温時における液量よりも増大する。したがって、受圧ダイアフラム27は表面側が凸となるように弾性変形する。
【0043】
このとき、周囲温度の上昇に比例して低圧LP側のボディ21B、受圧ダイアフラム28および封入液41も高圧側と全く同様に熱膨張するため、受圧ダイアフラム28を表面側が凸となるように弾性変形させる。
【0044】
この状態で、高圧HP側の受圧ダイアフラム27に圧力が加わると、受圧ダイアフラム27は低圧LP側に変位する。このときの受圧ダイアフラム27のボディ21Aの側面に着底するまでの変位量は、上記した通り熱膨張により凸状に膨らんでいることから大きく、封入液41の移動量も多い。したがって、過大圧保護機構のO/L動作点も受圧ダイアフラム27の変形方向に変動し、常温時よりも大きくなる(図9参照)。
【0045】
周囲温度が常温より高くなった状態で低圧LP側の受圧ダイアフラム28に圧力が加わったときは、上記とは反対に低圧側の受圧ダイアフラム28が高圧HP側に変位する。このときの受圧ダイアフラム28のボディ21Bの側面に着底するまでの変位量は、上記した通り熱膨張により凸状に膨らんでいることから大きく、封入液41の移動量も多い。したがって、このときも過大圧保護機構のO/L動作点が受圧ダイアフラム28の変形方向に変動し、常温時よりも大きくなる。
【0046】
受圧ダイアフラム室32a,32bにスペーサ装填用空間部70,71を設け、これらのスペーサ装填用空間部70,71に低熱膨張材料からなるスペーサ72a,72bを配置し、微小な隙間74a,74bを形成しておくと、周囲温度が上昇したとき、スペーサ装填用空間部70,71はボディ21A,21Bとともに熱膨張し、図1に2点鎖線で示すように拡大し、隙間74a,74bの寸法がdからd’に増大する。
【0047】
一方、スペーサ72a,72bは線膨張係数αcがボディ21A,21Bの線膨張係数αsに比べて十分に小さいため(αs≫αc)、その体積増加量Q3はスペーサ装填用空間部70,71の熱膨張による容積増加量Q4に比べて小さい(Q3<Q4)。このため、容積増加量Q4と体積増加量Q3の差分だけ受圧ダイアフラム室32a,32b内の封入液41が熱膨張した隙間74a,74bに入り込む。したがって、温度上昇によって受圧ダイアフラム室32a,32b内の封入液41が熱膨張しても、受圧ダイアフラム室32a,32b内の封入液41の液量増加はスペーサ72aを備えない従来の差圧発信器に比べて少ない。言い換えれば、低熱膨張材料からなるスペーサ72a,72bを用いることで、受圧ダイアフラム室32a,32b内の封入液41の熱膨張量を見かけ上少なくすることができる。このため、受圧ダイアフラム27,28の表面側に凸状に変化する変化量は、高温時の従来装置に比べて小さく、圧力が加わったときの最大変位量(ボディ側面に接触するまでの変位量)が小さい。したがって、温度変化による過大圧保護機構のO/L動作点の変動は従来装置に比べて小さい(図2)。
【0048】
周囲温度が常温よりも低温になったときは、ボディ21A,21B、受圧ダイアフラム27,28、スペーサ72a,72bおよび封入液41は収縮するが、αf≫αs≫αcであるため、上記した昇温時とは反対に受圧ダイアフラム27,28は裏面側に凸となるように変形する。このとき、隙間74a,74bは収縮量が大きく狭くなるため、内部の封入液の一部が排出され受圧ダイアフラム室32a,32bに送り込まれる。したがって、このときも受圧ダイアフラム室32a,32b内の封入液の量はスペーサを備えない従来装置に比べて大きく変化せず、過大圧保護機構のO/L動作点の変動を小さくすることができる。
【0049】
この場合、スペーサ装填用空間部70,71およびスペーサ72a,72bが小さいときは、温度上昇による隙間74a,74bの容積増加量が小さいため、受圧ダイアフラム室32a,32b内の封入液41の隙間74a,74bへの移動量が少なく、受圧ダイアフラム27,28の変形を抑える効果は小さいが、スペーサ装填用空間部70,71とスペーサ72a,72aを徐々に大きくしていくと、ある大きさで前記容積増加量Q4と体積増加量Q3の差(Q4−Q3)と、受圧ダイアフラム室32a,32b内の封入液41の熱膨張による体積増加量Q5とが略等しくなる。したがって、この場合は、受圧ダイアフラム室32a,32b内の圧力が常温時に比べて殆ど変化しない。これよりもさらにスペーサ装填用空間部70,71とスペーサ72a,72bを大きくしていくと、前記容積増加量Q4と体積増加量Q3の差(Q4−Q3)は受圧ダイアフラム室32a,32b内の封入液41の体積増加量Q5よりも大きくなるため、受圧ダイアフラム室32a,32b内の圧力Pが反対にその差に応じた圧力だけ減少し、受圧ダイアフラム27,28を裏面側に凸となるように弾性変形させる。したがって、受圧ダイアフラム室32a,32bの内圧が変化しないように、ボディ21A,21B、受圧ダイアフラム27,28の材質、線膨張係数αs、封入液41の体膨張係数αfに応じて、スペーサ装填用空間部70,71、スペーサ72a,72bおよび隙間74a,74bの大きさを決定すれば、過大圧保護機構のO/L動作点を略一定にすることができる。なお、温度下降時についても同様である。
【0050】
このように、過大圧保護機構の温度変化によるO/L動作点の変動は、低熱膨張材料からなるスペーサ72a,72bを受圧ダイアフラム室32a,32bに配置することで小さくすることができる。また、スペーサ72a,72bのボディ21A,21Bに対する割合は、大きい程効果が大である。さらに、スペーサ72a,72bの線膨張係数αcは小さい程効果が大きく、線膨張係数αcがマイナスの材料であればさらに効果大である。
【0051】
次に、O/L動作点の変動幅が小さくなる効果を数式によって説明する。
(A)低熱膨張材料からなるスペーサを備えない従来品の場合
25℃における高圧HP側(または低圧LP側)受圧ダイアフラム室32aの容積をVb、前記受圧ダイアフラム室32a以外の高圧側容積をVs、高圧側における封入液41の全量をVb+Vs、ボディ21Aの体膨張係数を3αs(αs:線膨張係数)、封入液41の体膨張係数をαf、受圧ダイアフラム27のコンプライアンスをΦB 、センターダイアフラム35のコンプライアンスをΦcとすると、ΦB≫Φcのとき
25℃でのO/L動作点(S)は、
25=Vb/Φc ・・・(1)
で示される。
【0052】
温度がdt℃変化したときのO/L動作点変化は
Figure 0003887290
【0053】
(B)低熱膨張材料からなるスペーサ72aを備えた本発明の場合
25℃における高圧側(または低圧側)受圧ダイアフラム室32aの容積をVb、前記受圧ダイアフラム室32a以外の高圧側容積をVs、スペーサ72aの体積をVc、高圧側における封入液41の全量Vf=Vb+Vs−Vc、ボディ21Aの体膨張係数を3αs(αs:線膨張係数)、封入液41の体膨張係数をαf、スペーサ72aの体膨張係数を3αc(αc:線膨張係数)、受圧ダイアフラム27のコンプライアンスをΦB 、センターダイアフラム35のコンプライアンスをΦcとすると、ΦB≫Φcのとき
25℃でのO/L動作点は、
25=Vb/Φc ・・・(3)
【0054】
受圧ダイアフラム室32aの容積変化:dVb=3αs・Vb・dt
受圧ダイアフラム室32a以外の高圧側容積の変化:dVs=3αs・Vs・dt
スペーサ72aの体積変化:dVc=3αc・Vc・dt
封入液量の変化:dVf=αf・Vf・dt
【0055】
受圧ダイアフラム室32aの封入液41の液量変化dVは
Figure 0003887290
となる。
【0056】
Figure 0003887290
となる。この値は従来装置の(2)式の約60%に相当し、約40%の改善が図れる。
すなわち、
Figure 0003887290
したがって、25±50℃のときはスペーサ72aを備えない従来装置に比べて5.5kPa改善される。
【0057】
なお、O/L動作点の変化:dPt=0になるなるように設計するにはdV=0とすればよく、dV=0とするには、(4)式より以下の条件を満たせばよいことになる。
(Vb+Vs)(αf−3αs)−Vc(αf−3αc)=0
すなわち、
Vc/(Vb+Vs)=(αf−3αs)/(αf−3αc) ・・・(6)
以下、具体例を示す。
今、αf=1×10-3
3αs=5×10-5
3αc=0
Vb=500mm3
Vs=Vc+1000mm3(設計条件としてVb以外の高圧側容積はVcより1000mm3大きいことが必要と仮定)
として(6)式を解くと
Vc=28500mm3
Vs=29500mm3
となり、このときdV=0となる。
つまり、このような条件を満たすように設計したスペーサ72aを備えれば、温度が変化してもO/L動作点が変動しないようにすることができるのである。
【0058】
図3は第2の参考例を示す概略断面図である。
この実施の形態は、低熱膨張材料からなるスペーサ72a,72bを受圧ダイアフラム室32a,32bに配置する代わりにセンターダイアフラム室34a,34bにそれぞれ配置したものである。この場合も各センターダイアフラム室34a,34bにスペーサ装填用空間部91a,91bを形成し、これらのスペーサ装填用空間部91a,91bにスペーサ72a,72bをそれぞれ適宜な隙間92を保って配置すればよい。
【0059】
このような構造においても、温度が変化したとき、センターダイアフラム室34a,34b内の封入液の量の変化を少なくすることができるので、上記した第1の参考例と同様な効果が得られることは明らかであろう。
【0060】
図4は第3の参考例を示す概略断面図である。
この実施の形態は、図1に示した実施の形態と図3に示した実施の形態を組合わせたもので、低熱膨張材料からなるスペーサ72a,72bを受圧ダイアフラム室32a,32bとセンターダイアフラム室34a,34bに形成したスペーサ装填用空間部70,71,91a,91bにそれぞれ適宜な隙間74a,74b,92,92を保ってそれぞれ配置したものである。
【0061】
このような構造においては、受圧ダイアフラム室32a,32bとセンターダイアフラム室34a,34bの温度上昇に伴う封入液の量の変化を同時に抑えることができるため、温度変化によるO/L動作点の変動をより一層小さくするができる。
【0062】
図5は第4の参考例を示す概略断面図である。
この参考例は、高圧側の受圧ダイアフラム室32aと低圧側のセンターダイアフラム室34bに、スペーサ装填用空間部70,91bをそれぞれ形成し、これらの空間部70,91bに低熱膨張材料からなるスペーサ72a,72bを適宜な隙間74a,92を保って配置したものである。
【0063】
図6は第5の参考例を示す概略断面図である。
この参考例は、高圧側のセンターダイアフラム室34aと低圧側の受圧ダイアフラム室32bに、スペーサ装填用空間部91a,71をそれぞれ形成し、これらの空間部91a,71に低熱膨張材料からなるスペーサ72a,72bを適宜な隙間92,74bを保って配置したものである。
【0064】
図5および図6に示した参考例においても、上記した第1〜第4の参考例と同様な効果が得られることは明らかであろう。
この場合、第1〜第4の参考例においては、高圧側と低圧側のボディ21A,21Bを左右対称に製作することが可能であるため、第5、第6の参考例に比べて安価に製作することができる利点がある。
【0065】
図7は本発明の実施の形態を示す概略断面図である。
この実施の形態は、圧力センサ52を収納する容器65内に低熱膨張材料からなるスペーサ101,102を配置したものである。このため、外筒60と内筒61の接液面にスペーサ装填用空間部100a,100bをそれぞれ形成し、これらの空間部100a,100bに前記スペーサ101,102を適宜な隙間を保ってそれぞれ配置している。この場合は、金属製容器65の線膨張係数より十分に小さい線膨張係数を有するスペーサを用いればよい。その他の構造は図1に示した構造と同一であるため、同一構成部材のものについては同一符号をもって示し、その説明を省略する。
【0066】
このような構造においては、ボディ本体21のサイズが小さいものに適用して有効である。
【0067】
【発明の効果】
以上説明したように本発明に係る差圧発信器は、低熱膨張材料からなるスペーサを封入液が封入されている室に配置したので、見かけ上封入液の熱膨張を少なくすることができる。その結果として、温度変化による過大圧保護機構のO/L動作点の変動を小さくすることができ、発信器の使用温度範囲、測定レンジ、センサ耐圧、ボディ本体のサイズ等が受ける制約を緩やかにすることができる。また、構造が簡単で、安価に製作することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明を説明するための第1の参考例を示す断面図である。
【図2】 O/L動作点を示す概念図である。
【図3】 第2の参考例を示す概略断面図である。
【図4】 第3の参考例を示す概略断面図である。
【図5】 第4の参考例を示す概略断面図である。
【図6】 第5の参考例を示す概略断面図である。
【図7】 本発明の実施の形態を示す断面図である。
【図8】 差圧発信器の従来例を示す断面図である。
【図9】 従来装置のO/L動作点を示す概念図である。
【符号の説明】
20…差圧発信器、21…ボディ本体、21A,21B…ボディ、27,28…受圧ダイアフラム、32a,32b…受圧ダイアフラム室、34…内室、34a,34b…センターダイアフラム室、35…センターダイアフラム、39a,39b…連通路、51…封入液回路、52…圧力センサ、65…容器、67…センサダイアフラム、70,71…スペーサ装填用空間部、72a,72b…スペーサ、74a,74b…隙間。

Claims (1)

  1. 受圧ダイアフラムを両側面に有するボディ本体の内部に内室を形成し、この内室を過大圧保護機構を構成するセンターダイアフラムによって二つのセンターダイアフラム室に画成し、前記各受圧ダイアフラムの内側に形成した受圧ダイアフラム室と前記センターダイアフラム室をそれぞれ接続するとともに、前記ボディ本体と別部材からなる容器内部に設けられダイアフラム式圧力センサを収容するセンサ室と前記センターダイアフラム室とを接続し、かつこれらの室に封入液をそれぞれ封入した差圧発信器において、
    前記容器は、前記ボディ本体に一体に接合された金属製の外筒および内筒によって構成され、前記センサ室は前記金属製内筒内に形成されて前記圧力センサのセンサダイアフラムにより上側センサ室と下側センサ室とに仕切られており、前記金属製内筒の外壁と前記金属製外筒の内壁との隙間を前記二つのセンターダイアフラム室のうちの一方と前記上側センサ室とを連通させる連通路とし、前記センターダイアフラム室のうちの他方と前記下側センサ室とを連通させ、前記金属製外筒の前記連通路に接する内壁面および前記下側センサ室に接する前記金属製内筒の内壁面にスペーサ装填用空間部をそれぞれ設け、これらのスペーサ装填用空間部に前記容器より線膨張係数が小さい材料によって形成したスペーサをそれぞれ配置したことを特徴とする差圧発信器。
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