JP3886300B2 - 信号処理装置及びその信号処理方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、デジタル信号を検出する信号処理装置及びその信号処理方法に関し、特に、磁気記録媒体上に記録されたデータをPRML(Partial Response Maximum Likelihood)技術を用いて検出する信号処理装置及びその信号処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
磁気ディスクのような磁気記録媒体におけるデータ再生方法として、PRML(Partial Response Maximum Likelihood)技術を用いた再生方法が知られている。PRML技術は、データの伝送方式であるPR方式に、誤り訂正技術におけるビタビ復号を組み合わせた技術である。PR方式は、データを伝送するときに、受信側の波形に符号間干渉を許すことで効率的な伝送が可能となる伝送方式であって、その種類は、PR(パーシャルレスポンス:Partial Response)クラス1、PRクラス4、EPR(エクステンデッドパーシャルレスポンス:Extended Partial Response)クラス4など、符号間干渉の形態によって複数に分類される。なお、磁気ディスクのような磁気記録媒体では、主にPRクラス4とその拡張方式(EPRクラス4)が用いられる。
【0003】
また、ビタビ復号は、誤り訂正技術における最尤復号法の一つであって、PR方式で加えられた符号間干渉を使って、記録媒体からの読み出し信号の誤り訂正が行われる。具体的には、読み出し信号に符号間干渉が与えられると、読み出し信号をサンプリングして得られるデータ系列には限られたパターンしか現れなくなる。従って、このパターンと実際のサンプリング結果を比較することで誤りを検出することができる。そして、ビタビ復号法は、サンプリング結果が最も似ているパターン見つける方法である。
【0004】
このPRML技術についての詳細は、例えば、「信号処理方式PRML」(日経エレクトロニクス、71〜97頁、1994,1,17、No.599)に記載されている。
【0005】
図8は、従来の信号処理装置の概略図である。図8において、等化器3には、磁気ディスクから再生ヘッドによって読み出された読み出し信号が入力される。そして、等化器3は、入力される読み出し信号に所定のPR特性(例えば、PRクラス4:PR4)を持つように等化(変形)する。PR等化された信号は、アナログ−デジタル変換器(A/D)によってそのサンプリングタイミング毎にサンプリングされ、デジタル信号に変換されて、最尤復号器10に入力される。最尤復号器10は、PR4が許す符号間干渉で与えられる全ての状態遷移の組み合わせを有している。図8において、状態遷移の組み合わせは、▲1▼状態M+から状態M+、▲2▼状態M+から状態M−、▲3▼状態M−から状態M+、▲4▼状態M−から状態M−の4つである。なお、状態M+と状態M−は、磁気記録媒体上の各ビットにおける磁化方向を示し、それらは互いに反対方向である。
【0006】
最尤復号器10は、入力されるサンプリング信号のレベルと、PR4における期待値「+1」、「0」、「−1」とのユークリッド距離を計算し、ユークリッド距離が最小になる状態遷移を選択する。具体的には、サンプリング信号レベルをyとすると、yと期待値「+1」、「0」、「−1」とのユークリッド距離、即ち、それぞれ(y−1)2、y2、(y+1)2を計算する。例えば、前の状態が状態M+において、ユークリッド距離y2が最も小さい場合は、次の状態も状態M+、即ち状態遷移は上記▲1▼であって、ユークリッド距離(y+1)2が最小の場合は、次の状態は状態M−、即ち状態遷移は上記▲2▼である。なお、PR4の特性により、前の状態が状態M+において、ユークリッド距離(y−1)2が最小になる場合はない。さらに、前の状態が状態M−において、ユークリッド距離y2が最も小さい場合は、次の状態も状態M−、即ち状態遷移は上記▲4▼であって、ユークリッド距離(y−1)2が最小の場合は、次の状態は状態M+、即ち状態遷移は上記▲3▼である。なお、PR4の特性により、前の状態が状態M−において、ユークリッド距離(y+1)2が最小になる場合はない。そして、▲2▼状態M+から状態M−、又は▲3▼状態M−から状態M+のように磁化反転が生じる状態遷移が選択されると、符号列におけるデータ“1”が再生され、▲1▼状態M+から状態M+、▲4▼状態M−から状態M−のように磁化反転が生じない状態遷移が選択されると、符号列におけるデータ“0”が再生される。このように再生されたデータ系列が最も確からしいデータ系列となる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、磁気記録において、記録密度が高くなると、隣り合う磁化反転位置の影響を受けて磁化反転位置が移動する非線形ビットシフト(Nonlinear transition shift:NLTS)や、磁化反転間隔が狭い部分からの読み出し信号の振幅が弱くなる部分消去(Partial Erasure:PE)が発生する確率が高くなる。即ち、これらの非線形現象(NLTS、PE)が発生する状況では、隣り合う磁化反転位置での連続した磁化反転に対応したレベルが正確に読み出されるとは限られない。従って、最尤復号器10において、ユークリッド距離に基づいて選択されるデータ系列が必ずしも最も確からしいデータ系列とはならず、最尤復号器10の信号再生性能が劣化する。
【0008】
従って、本発明の目的は、磁気記録媒体からの読み出し信号に非線形現象に現れる場合であっても、読み出し信号を正確に再生することができる信号処理装置及びその信号処理方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、磁気記録媒体に記録されたデータをPRMLを用いて再生する本発明の信号処理装置において、PR等化された読み出し信号の状態遷移尤度(ブランチメトリック)は、読み出し信号のレベルが各状態遷移である確率を表す尤度関数に基づいて求められる。これにより、確率分布の異なる尤度関数を複数設定することが可能となり、読み出し信号の性質に応じた確率分布を有する尤度関数を複数設定することで、信号再生性能の向上が図られる。特に、非線形ビットシフト(NLTS)や部分消去(PE)などの非線形現象による磁化反転に対するレベル変動を考慮した確率分布で与えられる尤度関数が設定される。従って、磁気記録媒体における記録密度の高密度化に伴って発生確率が高くなる上記非線形現象による信号再生性能の劣化を抑えることができ、さらに、磁気記録媒体の記録密度を高めることができる。
【0010】
上記目的を達成するための本発明の信号処理装置の構成は、磁化反転の有無によってデータが記録される記録媒体からの読み出し信号を符号列に再生する信号処理装置において、前記読み出し信号を所定の等化特性に等化する等化器と、前記等化された信号のレベルを所定のサンプリング時間毎にサンプリングするサンプリング器と、前記サンプリングされたレベルが前記等化特性によって定められる複数の状態遷移のそれぞれである確率を表す尤度関数に基づいて、前記レベルに対応する状態遷移の尤度を判定する最尤復号器とを備え、磁化反転する状態遷移に対応する尤度関数に対し、前記確率のピークレベル及び/又はピーク位置が異なる複数の尤度関数が設定され、前記最尤復号器は、少なくとも1つ前の状態遷移における磁化反転の有無に基づいて、対応する尤度関数を選択することを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、読み出し信号の性質に適合した所定の確率分布で表される尤度関数に基づいて状態遷移尤度が判定されるので、信号再生性能の向上が実現される。
【0013】
これにより、読み出し信号に非線形現象が含まれる場合であっても、信号再生性能の劣化が防止できる。
【0014】
さらに、例えば、読み出し信号の再生誤り率に応じた確率、又は読み出し信号がランレングス制限(RLL)符号の規則に従っている場合に、データ“0”の長さに応じた確率など、読み出し信号の性質に応じた確率を表す尤度関数が複数設定されることにより、信号再生性能の向上が図られる。
【0015】
上記目的を達成するための本発明の信号処理方法は、磁化反転の有無によってデータが記録される記録媒体からの読み出し信号を符号列に再生する信号処理方法において、前記読み出し信号を所定の等化特性に等化するステップと、前記等化された信号のレベルを所定のサンプリング時間毎にサンプリングするステップと、前記サンプリングされたレベルが前記等化特性によって定められる複数の状態遷移のそれぞれである確率を表す尤度関数に基づいて、前記レベルに対応する状態遷移の尤度を判定するステップとを備え、磁化反転する状態遷移に対応する尤度関数に対し、前記確率のピークレベル及び/又はピーク位置が異なる複数の尤度関数が設定され、前記尤度を判定するステップでは、少なくとも1つ前の状態遷移における磁化反転の有無に基づいて、対応する尤度関数を選択することを特徴とする。
【0016】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。しかしながら、本発明の技術的範囲が、本実施の形態に限定されるものではない。
【0017】
図1は、本発明の実施の形態における信号処理装置のブロック構成図である。図1の信号処理装置は、例えば磁気記録媒体(磁気ディスク)から読み出される信号を処理する信号処理装置である。図1において、磁気ディスクから再生ヘッド1によって読み出された読み出し信号は、ヘッドアンプ(AMP)2によって増幅され、等化器(EQ)3に入力される。等化器3によって所定等化特性が与えられた読み出し信号は、アナログ−デジタル変換器(A/D)4によってそのサンプリングタイミング毎にサンプリングされデジタル信号に変換される。そして、デジタル信号は最尤復号器(ML)10に入力される。最尤復号器10は、後述する本発明の実施の形態における所定の演算を実行する演算ユニット11と、複数のデータ系列を記憶するパスメモリであるシフトレジスタ12と、後述する尤度関数テーブルを格納するメモリ13とを備える。そして、演算ユニット11は、メモリ13に格納される尤度関数テーブルを参照して、入力されるデジタル信号のレベルに対応する状態遷移の尤度をビタビ復号により判定する。また、正しい可能性のある状態遷移に対応する符号列の履歴はパスメモリ12に記憶され、演算ユニット11によって間違っていると判定されると消去される。そして、残ったデータ系列が最も確からしい符号列として最尤復号器10から出力される。また、演算ユニット11は、最適な尤度関数を用いるための尤度関数テーブルの切り換えなどの各種制御も実行する。
【0018】
図2は、本発明の実施の形態における信号処理装置の機能図である。図2では、例えば、PR等化にPRクラス4を適用した場合について説明する。図2において、等化器3は、磁気ディスクから再生ヘッドによって読み出された読み出し信号をPR4の特性を有する信号に等化する。等化器3によってPR等化された信号は、そして、A/D4は、デジタル信号が取り得る「+1」から「−1」までのレベルを複数レベルに分割し、レベルに対応した量子化信号を出力する。図においては、例えば、値+0.7以上をレベルa、値+0.2以上+0.7未満をレベルb、−0.2以上+0.2未満をレベルc、−0.7以上−0.2未満をレベルd、値−0.7未満をレベルeと設定する。レベル信号は、最尤復号器10に入力される。最尤復号器10は、上述同様にPR4が許す符号間干渉で与えられる全ての状態遷移(ブランチともいう)の組み合わせを有している。即ち、状態遷移の組み合わせは、▲1▼状態M+から状態M+、▲2▼状態M+から状態M−、▲3▼状態M−から状態M+、▲4▼状態M−から状態M−の4つである。状態M+と状態M−は、磁気記録媒体上の各ビットにおける磁化方向を示し、それらは互いに反対方向である。
【0019】
そして、本発明の最尤復号器10は、従来のユークリッド距離に代わって、以下に説明する確率に従った尤度関数を用いて状態遷移を選択する。
【0020】
図3は、尤度関数の例を示す図である。尤度関数(メトリックともいう)は、最尤復号器10に入力されたレベル信号のレベルが、期待値「−1」、「0」、「+1」である確率を表す関数である。さらに詳しくは、前の状態遷移が期待値「0」である場合における次の状態遷移の確率である。期待値が「0」であるということは、前の状態遷移で磁化反転が生じていないことを示す。図中、図3(a)は、レベルが「−1」である確率を表す尤度関数、図3(b)は、レベル信号が「0」である確率を表す尤度関数、図3(c)は、レベル信号が「+1」である確率を表す尤度関数である。ここで、最尤復号器10に入力されるデジタル信号のレベルyはy∈{a,b,c,d,e}であって、i番目における期待値XiはXi∈{−1、0、+1}である場合において、期待値Xiがレベルyである確率P(Xi|y)は、次式で表される。
【0021】
P(Xi|y)=P(Xi)P(y|Xi)/{ΣP(Xi)P(y|Xi)} ・・・(1)
ここで、右辺の分子における確率P(Xi)は期待値Xiが現れる確率であって、確率P(y|Xi)はレベルyが期待値Xiである確率である。また、分母は、分子であるP(Xi)P(y|Xi)における期待値Xiとレベルyの各組み合わせ確率の合計である。なお、分母は各確率に対して共通の値なので、ブランチメトリックを求める場合、分母を考慮する必要はない。従って、上記(1)式は、単に、
P(Xi|y)=P(Xi)P(y|Xi) ・・・(2)
と表すことができる。そして、確率P(Xi|y)は、図3における各尤度関数の全体の面積に対する各レベルyに対応する面積比で表される。
【0022】
例えば、レベルbのレベル信号が入力された場合、レベル信号がそれぞれ期待値「−1」、「0」、「+1」である確率は、図3(a)、(b)、(c)の確率P(−1|b)、P(0|b)、P(+1|b)の領域に対応する。即ち、レベルbのレベル信号が入力された場合は、期待値「+1」である確率が最も高く、期待値「−1」である確率が最も低い。
【0023】
このように、本発明の実施の形態では、入力されるレベル信号のレベルyに対する各期待値毎の状態遷移尤度(ブランチメトリックともいう)を求めるための確率P(Xi|y)で表される尤度関数が与えられる。そして、最尤復号器10は、入力されるレベル信号毎に求められる確率を掛け合わせ、最も確率の高いデータ系列が最も確からしいデータ系列と判定する。なお、確率P(Xi|y)を対数logで表すことにより、最も確率の高いデータ系列は、確率logPの加算で求めることができ、最尤復号器10の演算を簡単にすることができる。従って、本発明の実施の形態では、図2に示されるような確率の対数logP(以下、確率logPという)が、最尤復号器10のメモリ13(図1参照)にテーブルとして設定される。
【0024】
例えば、図2において、前の状態が状態M+において、次の状態も状態M+である状態遷移尤度(ブランチメトリック)(即ち、磁化反転がない場合の期待値「0」である確率)は、入力するレベル信号がレベルa、b、c、d、eである場合に、順に確率logP(0|a)、logP(0|b)、logP(0|c)、logP(0|d)、logP(0|e)である。前の状態が状態M−において、次の状態も状態M−である状態遷移の確率も、上記と同様である。また、前の状態が状態M+において、磁化反転によって次の状態が状態M−となる状態遷移の確率(即ち、期待値「−1」である確率)は、入力するレベル信号がレベルa、b、c、d、eである場合に、順に確率logP(−1|a)、logP(−1|b)、logP(−1|c)、logP(−1|d)、logP(−1|e)である。さらに、前の状態が状態M−において、磁化反転によって次の状態がM+となる状態遷移確率(即ち、期待値「+1」である確率)は、入力するレベル信号がレベルa、b、c、d、eである場合に、順に確率logP(+1|a)、logP(+1|b)、logP(+1|c)、logP(+1|d)、logP(+1|e)である。
【0025】
このようにして、最尤復号器10は、入力されるレベル信号のレベルに応じて、各期待値に対する確率logPを求め、さらに、入力されるレベル信号毎に求められる確率logPを加算していきながら、最も確率の高いデータ系列を最も確からしいデータ系列として選択する。
【0026】
そして、本発明の実施の形態では、期待値「+1」、「0」、「−1」に対応する各尤度関数は、磁化反転の状態遷移の履歴に応じて異なる分布を有する確率P(Xi|y)が与えられる。
【0027】
図4は、尤度関数の別の例を示す図である。具体的には、図4の尤度関数は、一つ前の状態遷移で状態M+からM−へ遷移し(即ち、期待値「−1」)、磁化反転が発生した場合において、さらに次の状態遷移で、状態M−から状態M+に遷移する(即ち、期待値「+1」)ときの尤度関数である。従って、図4の尤度関数は、図3(c)の尤度関数の別の例である。
【0028】
一つ前の状態遷移で磁化反転が起きた場合、上述のように、非線形ビットシフト(NLTS)や部分消去(PE)などの非線形現象が生じる可能性が高くなるので、次の状態遷移で磁化反転が起きる場合であっても、レベル信号の振幅が小さくなる可能性が高い。即ち、磁化反転が起きる場合、通常、図3(c)に示すように、レベル信号のレベルyは、それぞれ期待値に近いレベル可能性が最も高く、尤度関数は、期待値に近いレベルで鋭いピークを有している。
【0029】
しかしながら、非線形現象が発生する状況下では、上述のように磁化反転が起きてもレベル信号の振幅が弱まる。従って、図3(c)におけるレベルeのレベル信号が出力される確率が相対的に低下する。そこで、図4に示すように、図3(c)と比較して、ピークレベルが下がり且つピーク位置がレベルb方向にずれ、形状が全体的になまった尤度関数が用意される。このとき、図4の尤度関数の面積と図3(c)の尤度関数の面積は等しい。尤度関数をこのような形状にすることで、非線形現象によりレベル信号の振幅が弱まっても、磁化反転の発生を認識する確率を高めることができる。
【0030】
また、図示されないが、一つ前の状態遷移で期待値が「+1」である場合において、次の状態遷移の期待値が「−1」である確率の尤度関数は、図3(a)の尤度関数と比較して、ピークレベルが下がり且つピーク位置がレベルd方向にずれ、形状が全体的になまった尤度関数となる。
【0031】
このように、本発明の実施の形態によれば、状態遷移の確率を表す尤度関数を用いて、状態遷移尤度が判定される。そして、各状態遷移に対応する尤度関数について、隣り合う磁化反転位置での状態遷移(一つ前の状態遷移における磁化反転の有無)に応じて異なる確率分布を有する尤度関数が与えられる。そして、一つ前の磁化反転位置での状態遷移で磁化反転が生じたか否かにより最適な確率分布を有する尤度関数に切り換えられる。即ち、最尤復号器10の演算ユニット11が最適な尤度関数を選択する。これにより、最も確からしいデータ系列の確度がさらに向上する。
【0032】
また、最尤復号器10は、判定結果を蓄えるための複数のパスメモリ12(図1参照)を備える。パスメモリ12は、例えばシフトレジスタなど構成され、状態遷移における磁化反転の有無を記憶する。PRクラス4等化の場合、最尤復号器10は2つのパスメモリ12A、12B(図2参照)を備える。パスメモリ12Aは、状態M+を基準に磁化反転の有無を一時的に記憶するメモリであって、パスメモリ12Bは状態M−を基準に磁化反転の有無を記憶するメモリである。パスメモリ12A、12Bが格納するデータ系列の長さは、符号と等化方式で決まるエラー伝幡の長さに依存する。
【0033】
パスメモリの各ビットには、データである“0”又は“1”の列(データ系列)が与えられる。状態M+に対応するパスメモリ12Aには、状態M+から状態M+の状態遷移、即ち磁化反転が生じない状態遷移▲1▼の場合に、“0”が記憶され、状態M−から状態M+の状態遷移、即ち磁化反転が生じる状態遷移▲3▼の場合に、“1”が記憶される。一方、状態M−に対応するパスメモリ12Bには、状態M−から状態M−の状態遷移、即ち磁化反転が生じない状態遷移▲4▼の場合に、“0”が記憶され、状態M+から状態M−の状態遷移、即ち磁化反転が生じる状態遷移▲2▼の場合に、“1”が記憶される。なお、状態遷移▲1▼、▲3▼が発生した場合には、パスメモリ12Aに記憶される符号と同じ符号が、パスメモリ12Bに複写され、状態遷移▲2▼、▲4▼が発生した場合には、パスメモリ12Bに記憶される符号と同じ符号が、パスメモリAに複写される。
【0034】
このように、パスメモリ12A、12Bには、過去の磁化反転履歴が記憶される。従って、最尤復号器10は、一つ前の状態遷移において、磁化反転が発生しているか否かをパスメモリ12A、12Bの符号により判断し、磁化反転が発生していない場合は、図3に示した通常の確率分布を有する尤度関数を用い、磁化反転が発生している場合は、図4に示した非線形現象発生用の確率分布を有する尤度関数を用いて、ブランチメトリックを求めていく。
【0035】
図5は、PR等化にEPRクラス4を適用した場合の最尤復号器10の信号処理装置の機能図である。EPR4(Extended PR class 4)では、PR4における状態M+と状態M−に代わって、次の8つの状態が必要となる。即ち、3つ前までの状態遷移における磁化反転の有無の履歴の組み合わせであって、磁化反転がある場合が“1”、磁化反転がない場合が“0”で表される。例えば、状態“001”は、一つ前の状態遷移で磁化反転が生じ、2つ前及び3つ前の状態遷移では、磁化反転がなかったことを示す。従って、状態“001”において、次の状態遷移で磁化反転が生じない場合、状態“010”となり、次の状態遷移で磁化反転が生じると、状態“011”となる。そして、この場合も、最尤復号器10は、状態“001”から状態“010”のように、磁化反転が生じない状態遷移の場合、又は状態“000”から状態“001”のように、磁化反転が生じる状態遷移であって、且つその一つ前のデータが“0”(磁化反転無し)である場合は、上述の図3に示すような通常の確率分布で表される尤度関数テーブルを用いて、ブランチメトリックを求める。そして、状態“001”から状態“011”のように、磁化反転が生じる状態遷移であって、その一つ前のデータも“1”(磁化反転あり)である場合は、上述のように、非線形現象が発生する可能性が高いので、図4に示したような非線形現象用の確率分布で表される尤度関数テーブルを用いて、ブランチメトリックを求める。
【0036】
図6は、誤り率監視回路を有する信号処理装置の模式図である。誤り率監視回路5は、最尤復号器10により復号された信号の誤り率を監視する回路である。さらに詳しくは復号された信号に含まれる誤り訂正符号により復号された信号が訂正される確率を監視する回路である。そして、最尤復号器10の演算ユニット11は、誤り率監視回路5から誤り率を取得し、その値に基づいて、最適な尤度関数に切り替える。具体的には、最尤復号器10のパスメモリ13は、図3及び図4に示した各尤度関数について、図示されている形状の尤度関数に加えて、それと比較してピークレベルが高く分布幅の狭い尤度関数とピークレベルが低く分布幅の広い尤度関数のテーブルを有する。
【0037】
図7は、分布幅の狭い尤度関数と分布幅の広い尤度関数の例を示す図である。図7では、図4の尤度関数(実線)についての分布幅の狭い尤度関数と分布幅の広い尤度関数とがそれぞれ点線L1及びL2で示される。なお、このとき、尤度関数の形状の面積は全て同じになるように設定される。尤度関数は、上記例に限定されず、さらに複数種類に分類されてもよい。
【0038】
そして、復号信号の誤り率が所定の基準値(例えば10-9)より低い場合、分布幅のより狭い尤度関数が選択される。これにより、誤り率をより低くすることができる。また、誤り率が基準値以上の場合、分布幅のより広い尤度関数が選択される。これにより、誤り率を低くすることができ、基準値を満たすようにすることができる。
【0039】
また、上述の実施の形態において、いわゆるランレングス制限(RLL(Run Length Limited))符号が、磁気記録媒体への記録符号として用いられる。例えば、PR4との組み合わせて用いられる(0,4)RLL符号は、データ系列中の“1”と“1”の間に現れる“0”の連続(ラン(Run)と呼ぶ)が0以上4以下であることを示す。従って、(0,4)RLL符号では、“0”が5以上連続して現れることはない。
【0040】
このようなRLL符号の特性によれば、データ系列中の“0”(磁化反転なし)の数が連続してきた場合、次に“1”(磁化反転あり)が現れる確率が高くなる。即ち、PR4を例にすると、磁化反転する状態遷移、即ち、期待値「+1」又は「−1」の確率が高くなる。従って、上述の尤度関数の式(1)又は(2)の右辺における期待値Xiの現れる確率P(Xi)について、期待値「+1」及び「−1」の確率P(Xi)を、期待値「0」の確率P(Xi)に対して相対的に高くすることにより、最尤復号器10が求める最も確からしいデータ系列の確度をより高めることができる。このように、最尤復号器10は、確率P(Xi)が期待値によって異なる尤度関数のテーブルを備え、データ系列中の“0”が連続した場合に、確率P(Xi)が期待値「+1」及び「−1」について相対的に高く、期待値「0」について相対的に低い尤度関数のテーブルに切り替えてもよい。
【0041】
なお、上述の実施の形態においては、磁気記録媒体から読み出し信号の信号処理について説明したが、磁化反転によってデータ記録を行う他の記憶媒体(例えば、光磁気記録媒体)に対しても本発明は適用可能である。
【0042】
本発明の保護範囲は、上記の実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶものである。
【0043】
【発明の効果】
以上、本発明によれば、磁気記録媒体に記録されたデータをPRMLを用いて再生する場合、PR等化された読み出し信号の状態遷移尤度(ブランチメトリック)は、読み出し信号のレベルが各状態遷移である確率を表す尤度関数に基づいて求められる。これにより、確率分布の異なる尤度関数を複数設定することが可能となり、読み出し信号の性質に応じた確率分布を有する尤度関数を設定することで、信号再生性能の向上が図られる。特に、非線形ビットシフト(NLTS、PE)などの非線形現象による磁化反転に対するレベル変動を考慮した確率分布で与えられる尤度関数が設定される。従って、磁気記録媒体における記録密度の高密度化に伴って発生確率が高くなる上記非線形現象による信号再生性能の劣化を抑えることができ、さらに、磁気記録媒体の記録密度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態における信号処理装置のブロック構成図である。
【図2】本発明の実施の形態における信号処理装置の機能図である。
【図3】尤度関数の例を示す図である。
【図4】尤度関数の別の例を示す図である。
【図5】EPRクラス4を適用した最尤復号器10の信号処理装置の機能図である。
【図6】誤り率監視回路を有する信号処理装置の模式図である。
【図7】分布幅の狭い尤度関数と分布幅の広い尤度関数の例を示す図である。
【図8】従来の信号処理装置の概略図である。
【符号の説明】
3 等化器
4 アナログ−デジタル変換器
5 誤り率監視回路
10 最尤復号器
11 演算ユニット
12 パスメモリ
13 メモリ

Claims (4)

  1. 磁化反転の有無によってデータが記録される記録媒体からの読み出し信号を符号列に再生する信号処理装置において、
    前記読み出し信号を所定の等化特性に等化する等化器と、
    前記等化された信号のレベルを所定のサンプリング時間毎にサンプリングするサンプリング器と、
    前記サンプリングされたレベルが前記等化特性によって定められる複数の状態遷移のそれぞれである確率を表す尤度関数に基づいて、前記レベルに対応する状態遷移の尤度を判定する最尤復号器とを備え
    磁化反転する状態遷移に対応する尤度関数に対し、前記確率のピークレベル及び/又はピーク位置が異なる複数の尤度関数が設定され、前記最尤復号器は、少なくとも1つ前の状態遷移における磁化反転の有無に基づいて、対応する尤度関数を選択することを特徴とする信号処理装置。
  2. 磁化反転の有無によってデータが記録される記録媒体からの読み出し信号を符号列に再生する信号処理装置において、
    前記読み出し信号を所定の等化特性に等化する等化器と、
    前記等化された信号のレベルを所定のサンプリング時間毎にサンプリングするサンプリング器と、
    前記サンプリングされたレベルが前記等化特性によって定められる複数の状態遷移のそれぞれである確率を表す尤度関数に基づいて、前記レベルに対応する状態遷移の尤度を判定する最尤復号器とを備え、
    前記最尤復号器によって判定された状態遷移の尤度から決定された符号列の誤り率を監視する誤り率監視回路を備え、各状態遷移に対応する尤度関数に対し、前記確率のピークレベルが異なる複数の尤度関数が設定され、前記最尤復号器は、前記符号列の誤り率に基づいて、対応する尤度関数を選択することを特徴とする信号処理装置。
  3. 磁化反転の有無によってデータが記録される記録媒体からの読み出し信号を符号列に再生する信号処理装置において、
    前記読み出し信号を所定の等化特性に等化する等化器と、
    前記等化された信号のレベルを所定のサンプリング時間毎にサンプリングするサンプリング器と、
    前記サンプリングされたレベルが前記等化特性によって定められる複数の状態遷移のそれぞれである確率を表す尤度関数に基づいて、前記レベルに対応する状態遷移の尤度を判定する最尤復号器とを備え、
    各状態遷移に対応する尤度関数に対し、前記確率のピークレベルが異なる複数の尤度関数が設定され、前記符号列がランレングス制限 (RLL) 符号である場合、前記最尤復号器は、前記符号列のゼロの長さに基づいて、対応する尤度関数を選択することを特徴とする信号処理装置。
  4. 磁化反転の有無によってデータが記録される記録媒体からの読み出し信号を符号列に再生する信号処理方法において、
    前記読み出し信号を所定の等化特性に等化するステップと、
    前記等化された信号のレベルを所定のサンプリング時間毎にサンプリングするステップと、
    前記サンプリングされたレベルが前記等化特性によって定められる複数の状態遷移のそれぞれである確率を表す尤度関数に基づいて、前記レベルに対応する状態遷移の尤度を判定するステップとを備え、
    磁化反転する状態遷移に対応する尤度関数に対し、前記確率のピークレベル及び/又はピ ーク位置が異なる複数の尤度関数が設定され、前記尤度を判定するステップでは、少なくとも1つ前の状態遷移における磁化反転の有無に基づいて、対応する尤度関数を選択することを特徴とする信号処理方法。
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