JP3879940B2 - 塩酸ファスジル注射剤 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は光安定性が良好な塩酸ファスジル水溶液注射剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
塩酸ファスジルは脳組織の機能、状態の障害及びそれに伴う症状、後遺症を予防、改善し、もしくは当該障害の進行を穏やかにする薬剤として有望であり、特に、脳代謝機能の変化と関連する脳機能障害の予防、改善、さらには、脳細胞の壊死、脱落と関連する脳機能障害の予防、改善にも有望な薬物として開発されている。
【0003】
本薬物は経口投与剤としては、錠剤、カプセル剤、顆粒剤等の形態で、また、非経口投与剤としては水溶液アンプル剤の形態で医薬品として製造できる。これらの製剤化例としては特許文献1の実施例7で示され、(2)無菌注射剤の項では2mlアンプル剤の調製例が示されている。
【特許文献1】
特開平2−256617号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、発明者らにより新たに、そのような塩酸ファスジルアンプル剤は光安定性が不良で、太陽光さらには蛍光灯の3000Lux程度の光によっても徐々に内容液が褐色に変化することが判明した。この光による変化を防止するため、塩酸ファスジルアンプル剤を光が全く透過しない容器に収納して商品化することも考えられるが、製造の手間やコスト高となり、また、中身が全く見えないということから、製品検査さらにユーザーの内容物確認に支障をきたしてしまう。
【0005】
そこで本発明者らは、塩酸ファスジル水溶液注射剤の光に対する安定性を確保し、さらに内容液等が確認できる商品を提供することを自らの課題として設定し、これを克服するべく鋭意研究した。
【0006】
【課題を解決するための手段】
前述の通り、発明者らは、塩酸ファスジルの光変化に関する調査研究や、多くの光遮光剤の性能を調査した。その結果、治療薬として適切な塩酸ファスジル水溶液が、紫外線の照射を受けると塩酸ファスジル自体の分解は極めてわずかであるが、水溶液が茶褐色に変化してしまうことが判明した。そこでガラス成分を変えたアンプルや光遮光フィルムを用いてさらに調査研究を進めた結果、例えば波長350nmの光の透過を90%制限する波長350nmの透過率が10%以下であるガラス容器や遮光剤を設けた容器が有効に塩酸ファスジルの光による変化を防止し、また、そのような波長の紫外線を遮光すれば、光安定性の目安となる120万Lux・hr(3000Luxの光を連続400時間照射)の光に対しても塩酸ファスジル注射用水溶液の変化を防止できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
より具体的には、後記の「試験例」に記載される通り、塩酸ファスジル注射剤に90万Lux・hr(照度×時間)及び120万Lux・hr照射した後の内容液の着色度合いを測定した結果、着色が改善又は防止されることを確認して、本発明を得た。即ち本発明は、内容物を肉眼的に確認できる容器であって、且つ90万Lux・hrの光照射下における塩酸ファスジル水溶液の着色が防止される程度に波長350nmの紫外線が遮光されている該容器に、塩酸ファスジル水溶液が充填された塩酸ファスジル水溶液注射剤である。
また本発明は、内容物を肉眼的に確認できる容器であって、且つ90万Lux・hrの光照射下における塩酸ファスジル水溶液の着色が防止される程度に波長350nmの紫外線が遮光されている該容器に、塩酸ファスジル水溶液を充填せしめることを特徴とする塩酸ファスジル水溶液の光による着色度合いの改善方法である。
さらに本発明は、内容物を肉眼的に確認できる容器であって、且つ90万Lux・hrの光照射下における塩酸ファスジル水溶液の着色が防止される程度に波長350nmの紫外線が遮光されている該容器に、塩酸ファスジル水溶液を充填せしめることを特徴とする塩酸ファスジル水溶液の光に対する安定化方法である。
本発明における塩酸ファスジルは下記の構造式
【0008】
【化1】
【0009】
で表され、元素分析C14H17N3 O2 S・HClで、分子量327.83からなる化合物であって、脳組織の機能、状態の障害及びそれに伴う症状、後遺症を予防、改善し、もしくは当該障害の進行を穏やかにする薬物であり、その製造方法は特開平6−340659号公報に示されている。通常塩酸ファスジルの注射用水溶液は、有効成分である塩酸ファスジルを治療に適切な濃度である1〜100mg/mlの水溶液とし、例えば1回投与用量として10〜60mgを使用すればよく、これに好ましくは等張化として塩化ナトリウム等の塩類やブドウ糖等の糖類を適宜添加して調製される。さらに必要に応じてリン酸塩等のpH緩衝剤、フェノール等の無痛化剤等を添加して調製してもよい。
【0010】
次に、この注射用水溶液は通常ろ過等の除菌処理され、アンプル、バイアルまたはプレフィルドシリンジ(あらかじめ薬液が充填されたシリンジ)等の容器に充填され、必要に応じてさらに加熱滅菌等の処理が施される。一方、本発明における容器について具体的に説明するならば、波長350nmの透過率が10%以下である容器が挙げられ、例えば素材がガラスであれば、通常アンプル等のガラス容器は珪素化合物(例えばSiO2 )、ホウ素化合物(例えばB2 O 3)、ナトリウム化合物(例えばNa2 O)、アルミニウム化合物(例えばAl2 O 3)、カルシウム化合物(例えばCaO)、バリウム化合物(例えばBaO)、カリウム化合物(例えばK2 O)等で構成されるが、この組成物の中に酸化鉄(例えばFe2 O 3)、酸化チタン(TiO2 )等の遮光剤となる物質を添加して、着色性のアンプル、バイアルやプレフィルドシリンジに加工することにより得られる。例えば、このような着色性アンプル、バイアルやプレフィルドシリンジの容器において、0.2〜0.8%程度の酸化鉄(例えばFe2 O 3)、0.5〜4%程度の酸化チタン(TiO2 )のいずれか1種または0.5%程度の酸化鉄(例えばFe2 O 3)と2.8%程度の酸化チタン(TiO2 )の2種を含有するものであればよい。
【0011】
また被覆材について具体的に説明するならば、まずフィルム等の被覆剤が本発明の波長350nmの透過率が10%以下であるものを選択することが挙げられる。これらのフィルムは例えばポリ塩化ビニル、ポリプロピレン等のフィルムを多層にすることにより、またはインクを配合することにより、その目的とする遮光性能を有している。これらのフィルムをラベルとしてアンプル、バイアルまたはプレフィルドシリンジ等に巻き付けて被覆することにより波長350nmの透過率が10%以下である被覆剤で被覆されたアンプル、バイアルまたはシリンジ等の容器として調整できる。
【0012】
このようにして得られる波長350nmの光の透過率が10%以下である容器において、例えば波長600nmの透過率が図1、図3および図4に示す通り50%以上であるものは内容物を肉眼的に確認できることから、より好ましい形態として実施でき、このような容器に充填した塩酸ファスジル水溶液注射剤は、光安定性の良好なものとして提供できる。
【0013】
【実施例】
以下に実施例、対照例及び試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0014】
【実施例1】
特開平6−340659号公報に記載の方法により得られた塩酸ファスジル30g、及び塩化ナトリウム16gを2000mlの水に溶解し、除菌ろ過して塩酸ファスジル注射用水溶液2000mlを調製した。これを、ガラス容器重量に対して酸化鉄(Fe2 O3 )0.5%、酸化チタン(TiO2 )2.8%を含有した2ml用ガラスアンプルに2mlずつ充填、溶封し、本発明の塩酸ファスジル水溶液注射剤を500アンプル製造した。
【0015】
ここで製造したアンプルの光透過性曲線を波長200〜700nmにて調査した結果図1に示す通りであって、波長350nmの透過率は4%であった。
【0016】
【対照例1】
実施例1で調製した塩酸ファスジル注射用水溶液を、波長350nmの透過率が約80%であった透明な2mlガラスアンプル(このアンプルの光透過性曲線を図2に示した)に2mlずつ充填、溶封し、本発明以外の塩酸ファスジル水溶液注射剤を100アンプル製造した。
【0017】
【実施例2】
塩酸ファスジル9g、及び塩化ナトリウム4.8gを600mlの水に溶解し、除菌ろ過して塩酸ファスジル注射用水溶液600mlを調製した。これをシリンジ胴部がガラス製の2mlアルテ社製シリンジに2mlずつ充填し、塩酸ファスジルのプレフィルドシリンジ(あらかじめ薬液を充填したシリンジのキット製品)を200本製造した。
【0018】
この塩酸ファスジルのプレフィルドシリンジの胴部に、住友ベークライト製塩化ビニル製フィルムA(透明、厚さ200μm)及びB(薄いオレンジ色に着色、厚さ200μm)を巻き付け、本発明の塩酸ファスジル水溶液注射剤のプレフィルドシリンジA(シリンジAという)及び塩酸ファスジル水溶液注射剤のプレフィルドシリンジB(シリンジBという)を各30本ずつ製造した。
【0019】
なお、このフィルムAの光透過率は図3の結果から波長350nmの透過率は0%であった。また、フィルムBの光透過率は図4の結果から波長350nmの透過率も0%であった。
【0020】
【対照例2】
実施例2で調製した塩酸ファスジルのプレフィルドシリンジに、実施例2のようなフィルムを巻き付けないものを30本別に製造した。ここで製造したシリンジのガラス胴部の光透過性曲線を図5に示すもので、その結果、波長350nmの透過率は約70%であった。
【0021】
【試験例】
実施例1及び実施例2で製造した本発明の塩酸ファスジル注射剤と、本発明の要件を満たさない対照例1及び対照例2の塩酸ファスジル注射剤について、塩酸ファスジルの光安定性を試験した。各注射剤に蛍光灯の3000Luxの照度の光を90万Lux・hr(照度×時間)及び120万Lux・hr照射した後の内容液の着色度合いを示す波長400nmの透過率を測定した結果を下記表1〔内容液の波長400nmの透過率%)〕に示した。
【0022】
【表1】
【0023】
なお試験条件は以下の通りである。
・試験器:ナガノ科学製光試験器
・光照射条件:蛍光灯3000Lux
・温度条件:25℃の一定温度
その結果、対照例は1、2ともに内容液が薄い褐色に変化したが、本発明の実施例1、2の注射剤は、120万Lux・hr照射した後も変化なかった。
【0024】
このことから、塩酸ファスジル注射用水溶液は波長350nmの光の透過率が10%以下、好ましくは5%以下である容器に充填することにより安定化し得たものである。
【0025】
【発明の効果】
以上の結果から、波長350nmの光の透過率が10%以下である容器に充填した塩酸ファスジル水溶液注射剤は、120万Lux・hr(3000Luxの光を連続400時間照射)の光に対しても塩酸ファスジル注射用水溶液の変化を防止でき、安定化された塩酸ファスジル注射剤を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、酸化鉄、酸化チタンを含有したガラスアンプルの光透過性曲線を示す。
【図2】図2は、対照例1で用いた透明な2mlガラスアンプルの光透過性曲線を示す。
【図3】図3は、住友ベークライト製塩化ビニル製フィルムA(透明、厚さ200μm)の光透過性曲線を示す。
【図4】図4は、住友ベークライト製塩化ビニル製フィルムB(薄いオレンジ色に着色、厚さ200μm)の光透過性曲線を示す。
【図5】図5は、フィルムを巻き付けないアルテ社製シリンジの光透過性曲線を示す。
Claims (9)
- 内容物を肉眼的に確認でき、且つ波長350nmの光の透過率が10%以下であるガラス製又は被覆材で被覆されたガラス製の容器に、塩酸ファスジル水溶液が充填されたことを特徴とする塩酸ファスジル水溶液注射剤。
- 該容器が、アンプル、バイアルまたはプレフィルドシリンジである請求項1に記載の塩酸ファスジル水溶液注射剤。
- 被覆材で被覆されている容器を該容器として用いる請求項1又は2に記載の塩酸ファスジル水溶液注射剤。
- 被覆材が、フィルムである請求項3に記載の塩酸ファスジル水溶液注射剤。
- 波長350nmの光の透過率が5%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の塩酸ファスジル水溶液注射剤。
- 内容物を肉眼的に確認でき、且つ波長350nmの光の透過率が10%以下であるガラス製又は被覆材で被覆されたガラス製の容器に、塩酸ファスジル水溶液を充填せしめることを特徴とする塩酸ファスジル水溶液の光による着色度合いの改善方法。
- 波長350nmの光の透過率が5%以下である請求項6に記載の塩酸ファスジル水溶液の光による着色度合いの改善方法。
- 内容物を肉眼的に確認でき、且つ波長350nmの光の透過率が10%以下であるガラス製又は被覆材で被覆されたガラス製の容器に、塩酸ファスジル水溶液を充填せしめる塩酸ファスジル水溶液の光に対する安定化方法。
- 波長350nmの光の透過率が5%以下である請求項8に記載の塩酸ファスジル水溶液の光に対する安定化方法。
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