JP3878787B2 - コーニファイドエンベロップの評価 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、皮膚の角層を構成するコーニファイドエンベロップ(cornified envelope:角質肥厚膜;以下、「CE」ともいう)の性状の評価方法、延いては肌質の評価方法、ならびに該評価方法に用いるキットに関する。
【0002】
【発明の背景】
肌質(または皮膚の状態)を的確に把握することは、より健康な皮膚を維持するための的確なスキンケアをするうえで重要である。そのため、化粧品によるスキンケアを実施するに際し、例えば、美容技術者による問診などを通じて、化粧品の使用者の肌質が評価されてきた。また、肌質の客観的な評価を目的として、各種の計測機器を使用して、観察または測定されるパラメーターにより、皮膚の状態または機能を評価することも行われている。
【0003】
このようなパラメーターの代表的なものとしては、皮膚表面のレプリカを拡大して皮溝や皮丘を観察する皮膚表面形態、角層の伝導度(コンダクタンス)測定による角層水分量、経表皮水分喪失量(transepidermal water loss;TEWL)の測定による角層バリアー機能などが挙げられる。
【0004】
また、角層の保湿能の指標として天然保湿因子(natural moisturizing factor;NMF、具体的には種々の遊離アミノ酸など)を定量したり、角層中のサイトカインの定量により肌質を評価する方法も応用されつつある。 角層は、表皮角化細胞が終末分化して形成された角質細胞と、それをとりまく細胞間脂質から構成される。細胞間脂質は、セラミド、コレステロール、脂肪酸などを成分としてラメラ構造を形成し、角層バリアー機能において重要な役割を演じていることが明らかになってきている。これは、角層バリアー機能が低下する種々の皮膚疾患や、肌荒れなどの皮膚トラブルを伴う場合において、細胞間脂質が形態的にまた組成的にも乱れていることにより裏付けられている。
【0005】
一方、角質細胞は、ケラチン線維を主成分とし、それを包むCEから構成される。CEは、表皮角化細胞が分化するにしたがって産生される複数のCE前駆体タンパクが、酵素トランスグルタミナーゼにより架橋され不溶化して形成される。さらに、その一部には、セラミドなどが共有結合し、疎水的な構造をとることで、前述した細胞間脂質のラメラ構造の土台を供給し角層バリアー機能の基礎を形成することが示唆されている。
【0006】
CEは、皮膚組織または培養皮膚細胞などを、ドデシル硫酸ナトリウムなどの界面活性剤およびメルカプトエタノールなどの還元剤を含む溶液中で煮沸し、遠心分離などの手段により可溶性成分を除去した不溶性画分を得ることにより調製できる。これを顕微鏡で形態観察することにより、その性状を評価することができる。Michel らは、角層の最外層に比較して角層の深部においては、脆弱な構造のCEが多いことを報告している(J. Invest. Dermatol 91:11−15,1988)。
【0007】
一方、乾癬や葉状魚鱗癬などでは最外層においても脆弱なCEが認められるとしている(Br. J. Dermatol. 122:15−21,1990)。
【0008】
【発明の構成】
本発明者らは、角層バリアー機能、殊に、体内からの水分の蒸散や外界からの異物の混入を防ぐ機能の主体をなすと考えられている脂質とCEとの関連性、あるいはCEの性状に注目して研究してきた。その結果、従来の顕微鏡によるCEの形態観察の結果のみならず、一定の色素によるCEの染色性やCEの構成タンパク質の抗原性はCEの性状に応じて変動することが確認された。本発明はこのような知見に基づき完成されたものである。
【0009】
したがって、本発明は、皮膚由来の角層試料におけるコーニファイドエンベロップを、疎水性領域を特異的に染色できる色素で染色し、該コーニファイドエンベロップの染色性を評価の指標とすることを特徴とする該コーニファイドエンベロップの性状の評価方法ならびに/または皮膚由来の角層試料におけるコーニファイドエンベロップを、該コーニファイドエベロップの構成タンパク質の抗原性を検出し、検出された抗原性を評価の指標とすることを特徴とする該コーニファイドエベロップの性状の評価方法、に関する。
【0010】
さらには、本発明は、上記評価方法により得られるCEの性状を、角層試料の提供者の肌質の指標とすることを特徴とする肌質の評価方法にも関する。
【0011】
また、本発明は、上記評価方法で使用される試薬類を含んでなる肌質を評価するためのキットにも関する。
【0012】
本発明に従って、CEの性状が評価される皮膚由来の角層試料は、身体のいずれの部分に由来する試料でもよく、また、かような試料(組織もしくは細胞)の培養物であってもよい。該試料の由来する身体の部位または領域の典型例としては、顔面の頬、額、手甲および体幹などを挙げることができる。
【0013】
このような試料は、所謂、外科的手段等の侵襲的な方法により取得されたものであってもよいが、殊に肌質の評価を目的とする場合には、非侵襲的な方法により皮膚から取得されるものであることが好ましい。非侵襲的な方法としては、当該技術分野で常用されているテープストリッピングや擦過法等を挙げることができる。
【0014】
疎水性領域(特に、生物組織における)を選択的に染色できる色素としては、各種疎水性領域の染色に使用されている色素であって、本発明の目的に沿うものであれば、いずれも使用することができる。このような色素の具体的なものとしては、ナイルレッド(Nile Red)、オイルレッドO(Oil Red O)、スダンIII(Sudan III)を挙げることができる。特にナイルレッドを好適に使用することができる。ナイルレッドは、その還元型であるナイルブルーとの混合物であってもよい。このような混合物には、ナイルブルーの水溶液中でナイルブルーの一部が自然に酸化されてナイルレッドに転化している状態のものも包含される。
【0015】
CEの構成タンパク質の抗原性を検出するための対象となるタンパク質としては、インボルクリン、ロリクリンなどの脂質が共有結合しうるタンパク質やタンパク質間の架橋結合であるイソペプチド、シュウドイソペプチドを挙げることができる。これらの抗原性は、これらのタンパク質またはペプチドに対する抗体を使用して検出することができる。検出方法は、上記タンパク質またはペプチドへの抗体の結合を検出できる方法であれば、いかなる方法であってもよいが、組織標本中の酵素、構造タンパク質などの抗原物質を標識または染色するのに使用されている蛍光抗体法、酵素抗体法が好適である。抗体の蛍光標識としては、例えば、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(TRITC)などを使用するのがよい。例えば、上記二種の蛍光標識は、蛍光波長が異なるので、二重染色により二種の抗原物質の抗原性を同じ試料中で同時に検出するのに使用することもできる。本発明に従う抗原性の検出には、かような二重染色による場合も包含される。
【0016】
蛍光抗体法では、検出すべき抗原に対する抗体を直接蛍光標識したものを使用してもよいが、特に、抗原に対する抗体に対する抗体、すなわち第二抗体が蛍光標識された、所謂、間接法によるのが検出感度が高いとの観点から好ましい。
【0017】
本発明に従うCEの性状の評価方法によれば、例えば、抗原性の検出方法により角層試料におけるCEのインボルクリンが有意に検出できる場合は、有意量(または識別可能な程度)までには、脂質がインボルクリンに共有結合していないか、あるいは架橋反応が十分でなく抗原性を保持していることを意味し、角層試料におけるCEは未熟な状態にあると評価できる。逆に、例えば、インボルクリンが有意には検出できない場合には、脂質のインボルクリンへの共有結合がかなり生じているか、あるいは架橋反応が十分に進み抗原性が消失しており、CEは成熟した状態にあると評価できる。また、例えば、ナイルレッドで強陽性に染色されるCEが角層試料中に検出(または観察)される場合には、CEは強靭な状態であると評価できる。逆に、ナイルレッドによる染色性に多様性が認められる場合には、CE形成過程にばらつきがあると評価できる。以上の評価は培養した表皮角化細胞におけるCE形成過程にも同様に適用できる。
【0018】
上記評価結果は、被検試料が由来する(すなわち、被験者の)皮膚の肌質とも相関性があることが認められた。例えば、抗原性を検出した結果、角層試料中にインボルクリン陽性CEが検出できる場合には、被験者の検出対象部位の角層バリアー機能は低く、肌荒れが生じているものと評価できる。
【0019】
一方、ナイルレッドで強陽性に染色されるCEが検出される場合には、被験者の角層バリアー機能は十分であるが、角層が堅牢な状態であると評価できる。また、ナイルレッド染色性に多様性が認められる場合には、角層形成過程にばらつきがあり、肌荒れ状態にあると評価できる。
【0020】
さらに付言すれば、評価対象部位の角層試料から得られたCE中に、上述の異常なCEを認めた場合には、肌荒れなどの皮膚トラブルを有すると評価できる。異常なCEの出現頻度は、目視により判定することもできるが、その数をカウントしたり、画像解析により数値化してもよい。このようにして評価した異常なCEの検出頻度を、健常な皮膚を有することが知られているヒトの対応するCEと比較する。
【0021】
加えて、同一人において、一定のスキンケア手段が施される前後の皮膚に由来するCEにおける異常CEの検出頻度との比較を行なうこともできる。この場合、例えば、スキンケア手段が施された後の異常CEの検出頻度が、それ以前の異常CEの検出頻度よりも有意に小さいときは、当該スキンケア手段は肌質の改善に有効であるものと評価できる。したがって、本発明によれば、皮膚に対して施されたスキンケア手段の評価方法も包含される。かかるスキンケア手段としては、スキンケアクリーム、スキンケアローションなどの皮膚への施用を具体的なものとして挙げることができるが、それらに限定されない。
【0022】
本発明に従う、肌質の評価方法のより具体的な態様を示せば、以下の工程を含んでなる。
【0023】
(A)被験者の評価対象部位の皮膚由来の角層試料を用意する工程、
(B)用意した角層試料からコーニファイドエンベロップを調製する工程、
(C)コーニファイドエンベロップの性状を疎水性領域を染色できる色素により染色して、染色の程度を判定する工程、
(D)コーニファイドエンベロップにおける構成タンパク質の抗原性を該タンパク質に対する抗体により免疫染色して染色の程度を判定する工程、
(E)前記(C)(D)で得られた判定結果を、被験者以外の対応する角層試料について工程(A)〜(D)と同様の工程を介して得られた判定結果と比較する工程。
【0024】
本発明によれば、肌質を評価するためのキットも提供される。
【0025】
該キットには、皮膚由来の角層試料におけるコーニファイドエンベロップの疎水性領域を特異的に染色できる色素および該コーニファイドエンベロップの構成タンパク質に対する抗体からなる群より選ばれる少なくとも1種の試薬が含まれる。
【0026】
典型的には、上記色素としては、ナイルレッドが、そして上記抗体としてはインボルクリンおよびロリクリンに対する抗体の少なくとも一種および、これらの各抗体に対する蛍光標識(それぞれFITCおよびTRITCによる)抗体の少なくとも一種が含められる。これらの色素および各抗体は市販されているものをそのまま使用することができる。
【0027】
場合により、本発明に従うキットには、角層試料を用意するための粘着性テープ、角層試料からCEを調製するための試薬類(後述する実施例を参照のこと)および操作説明書等を含めることもできる。
【0028】
こうして、本発明によれば、特に、非侵襲的な方法により採取できる角層試料を使用して、CEの性状を評価し、延いては被験者の肌の状態(または質)を客観的かつ正確に評価できる。
【0029】
【実施例】
以下、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明する。
実施例1:皮膚から直接取得した角層試料の評価
(角層試料の用意およびCEの調製)
肌荒れなどの皮膚トラブルを有する被験者の顔面(頬)および上腕に、セロハンテープを貼付して直ちに剥離した。テープに付着した角層に、ジチオスレイトール、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を含むトリス塩酸緩衝液を加えて、100℃にて10分間加熱した。不溶物を、4000g10分間の遠心により集めた。さらに溶出液添加と加熱を3回繰り返して、可溶性成分を徹底的に除去した。こうして得られた不溶物をCEとした。
(CE染色例)
上述の方法で調製した被験者の上腕内側(無処置群)、SDS惹起肌荒れ群およびテープストリッピング肌荒れ群由来の角層試料における各CEをそれぞれスライドグラスに滴下し、風乾させた後、冷アセトン中で固定した。ダルベッコのリン酸緩衝生理食塩液にて水和させた後、マウス抗ヒトインボルクリン抗体(NOVOCASTRA 社)を1次抗体として反応させた。余剰の抗体を洗浄により除去した後に、FITC標識ウサギ抗マウスイムノグロブリン抗体を2次抗体として反応させた。余剰の抗体を洗浄により除去した後に、ナイルレッド染色液を反応させ、封入し、蛍光顕微鏡にて観察した。観察画像をCCDカメラを介してコンピュータに取り込み、印刷するとともに、画像解析ソフト(Mac Scope)を用いて、インボルクリン陽性CE、ナイルレッド陽性CEなどを鑑別した。 肌荒れに悩む人の顔面由来のCEに上述の染色を施した結果を図1(図面代用写真)に、皮膚トラブルを有していない健常な上腕内側にドデシル硫酸ナトリウム(SDS)処置あるいはテープストリッピングにより実験的肌荒れを惹起した角層由来のCEに染色を施した結果を図2(図面代用写真)に示す。
【0030】
また、上記実験的肌荒れのSDS処置群およびテープストリッピング群)を無処置群(それぞれ3ないし4検体)におけるインボルクリン陽性CEの割合を対比して表1に示す。
【0031】
【表1】
Figure 0003878787
【0032】
実施例2:培養角化細胞の評価
(CE形成促進効果)
ヒト表皮角化細胞を、Rheinwald & Green の方法(Cell:6:331−334,1975)にしたがって、培養した。増殖培地(10%ウシ胎児血清、ヒドロコルチゾン0.5μg/ml、インスリン5μg/ml、コレラトキシン10-10M、上皮増殖因子10ng/ml、アデニン1.8x10-4Mを含むDMEM−Ham’sF12(3:1))にて培養しコンフルエントに達した後に、ケラチノサイトの分化を促しバリアー形成を促進することが知られているオレイン酸、あるいはリノール酸(Hanleyら、Journalof Clinical Investigation 100:705−712,1997、Komuvesら、Journal of Investigative Dermatology 111:429−433、1998)を含む培養液(0.1%ウシ血清アルブミンを含むMEM)に置換して、さらに1週間培養を続けた。培養終了後に、ジチオスレイトール、ドデシル硫酸ナトリウムを含むトリス塩酸緩衝液を加えて、100℃にて10分間加熱した。不溶物を、4000g10分間の遠心により集めた。さらに溶出液添加と加熱を繰り返して、可溶性成分を徹底的に除去した。こうして得られた不溶物をCEとした。得られたCEを、前述の例に記載した方法により、抗ヒトインボルクリン抗体処理およびナイルレッド染色を行った。その結果を表2に示す。
【0033】
【表2】
Figure 0003878787

【図面の簡単な説明】
【図1】肌荒れに悩む人の顔面から調製したCEにインボルクリン免疫染色(FITC標識)およびナイルレッド染色を施した組織細胞の状態を示す図面に代わる蛍光顕微鏡にて観察した写真(A)および位相差観察像(B)である。白枠三角の指示する部位がインボルクリン陽性の未熟CEを示し、白塗り三角の指示する部位がナイルレッド陽性の成熟CEを示す。
【図2】健常人の上腕内側にSDS処置または繰り返しテープストリッピング置換により実験的肌荒れを惹起し、こうして調製したCEにインボルクリン免疫染色(FITCと標識)およびナイルレッド染色を施した組織細胞の状態を示す図面に代わる蛍光顕微鏡にて観察した写真である。(A)は、対象部位で、(B)はSDSによる肌荒れ部位で、そして(C)はテープストリッピングによる肌荒れ部位の観察結果である。白枠三角の指示する部位がインボルクリン陽性の未熟CEを示す。健常部位においては認められなかった未熟CEが肌荒れ部位では出現している。

Claims (9)

  1. 皮膚由来の角層試料から調製されたコーニファイドエンベロップについて、疎水性領域を選択的に染色できる色素で染色し、該コーニファイドエンベロップの染色性を評価の指標とすることを特徴とする皮膚由来の角層試料におけるコーニファイドエンベロップの性状の評価方法。
  2. 色素がナイルレッドである請求項1記載の評価方法。
  3. 皮膚由来の角層試料から調製されたコーニファイドエンベロップについて、該コーニファイドエンベロップの構成タンパク質の抗原性を検出し、検出された抗原性を評価の指標とすることを特徴とする皮膚由来の角層試料におけるコーニファイドエンベロップの性状の評価方法。
  4. 抗原性が抗ヒトインボルクリン抗体を使用して検出される請求項3記載の評価方法。
  5. 請求項1または2および請求項3または4に記載の評価方法が、組み合わせて用いられる皮膚由来の角層試料におけるコーニファイドエンベロップの性状の評価方法。
  6. 皮膚由来の角層試料が非侵襲的な方法により皮膚から取得されたものである請求項1〜5のいずれかに記載の評価方法。
  7. 皮膚由来の角層試料が培養された表皮角化細胞に由来するものである請求項1〜5のいずれかに記載の評価方法。
  8. 請求項1〜6のいずれかに記載の評価方法により得られるコーニファイドエンベロップの性状を肌質の指標とすることを特徴とする肌質の評価方法。
  9. 皮膚由来の角層試料から調製されたコーニファイドエンベロップの疎水性領域を特異的に染色するための色素および該コーニファイドエンベロップの構成タンパク質に対する抗体からなる群より選ばれる少なくとも1種の試薬を含んでなる皮膚由来の角層試料におけるコーニファイドエンベロップの性状を評価し、その評価結果に基づき肌質を評価するためのキット。
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