JP3876653B2 - 交通流の異常検知装置及び方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、道路に車両感知器等を設置して交通計測データを集め、この交通計測データによって、突発事象の発生による交通流の異常を検知することができる交通流の異常検知装置及び方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
道路上に交通事故、災害などの突発事象が発生したとき、この突発事象に基づく交通流の異常をいち早く検知して、後続の車両に知らせたり、後続の車両を誘導したりする必要がある。
従来、道路にカメラを設置して、画像処理をして交通流の異常を検知することが行われているが(特開平7−21488号公報、特開平10−40490号公報など参照)、道路の広い範囲にわたってカメラを設置することは経費がかかり、また、夜間や悪天候時の検知が困難である。
【0003】
そこで、道路の随所に設置した車両感知器を使って道路の交通量、車両の速度などを測定し、これらの測定値に基づいて交通流の異常を監視することが行われている。
この監視装置によれば、交通量が少ないのに速度が急激に落ち、その状態が一定時間継続したときに事故発生と判定している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところが前記の監視装置では、車両の走行速度に基づいて判定しているため、自然渋滞時に突発事象が発生した場合に区別がつきにくく、検知精度が低下するという問題があった。
そこで、発明者は、所定地域若しくは所定区間の道路上の車両(走行車両、停車車両を含む)の存在台数に着目し、この増減を算出することにより、道路上の突発事象の発生を、交通状態の影響を受けることなく、精度よく検知することができるのではないかと考えた。
【0005】
本発明は、少ない誤差で、道路上の突発事象の発生を確実に検知することができる交通流の異常検知装置及び方法を実現することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
(1)本発明の交通流の異常検知装置は、道路を走行する車両を計測する車両計測手段と、車両計測手段の計測結果に基づいて、所定地域若しくは所定区間の道路における車両の存在台数の時間変動を求める変動算出手段と、変動算出手段により算出された車両の存在台数の時間変動の一定期間にわたる分散がしきい値以上となったとき、道路上の突発事象の発生を検知する総合判定手段とを有するものである(請求項1)。
前記総合判定手段は、一定期間の車両の存在台数を記録しておき、その時間変動の一定期間にわたる分散がしきい値以上となったとき、道路上の突発事象の発生を検知する。前記一定期間が短すぎると、ノイズによる誤差を拾ってしまうことがある。一定期間が長すぎると、道路上の突発事象の検知が遅れてしまう。これらのことを考慮して前記一定期間を決めるとよい。
【0007】
交通の流れが定常であれば、地域若しくは区間に流入する車両台数と流出する車両台数とはほぼ等しいので、地域若しくは区間内の存在台数はほとんど変化しない。しかし事故などの突発事象が発生したとき、交通流に乱れが生じるため、地域若しくは区間内の存在台数は不安定に変化する。そこで、地域若しくは区間の道路における車両の存在台数の時間変動を求め、この時間変動に基づいて道路上の突発事象の発生を検知する。
【0008】
(2)存在台数の変動の算出方法として、次の (a)(b) の2つがある。
(a)複数の地点で道路の交通量を計測し、当該複数の地点での交通量の差に基づいて存在台数の変動を直接求める(請求項2)。
例えば区間に流入する交通量Q1と区間から流出する交通量Q2との差ΔQ
ΔQ=Q1−Q2
を求めれば、そのΔQが区間内の存在台数の変動を表す。
【0009】
(b)複数の地点での交通量と速度と区間距離とに基づいて車両の存在台数を算出し、さらに車両の存在台数の時間変動を算出する(請求項3)。
区間内の交通量Q、速度V、区間距離Lに基づいて存在台数Eが求められる。
E=QL/V
その存在台数Eの変化の幅(分散)をとったり、存在台数Eを時間微分したりして、存在台数の変動を求める。
【0010】
なお、区間に流入する地点の交通量Q1と速度V1、区間から流出する交通量Q2と速度V2しか分からないときは、区間を前半(区間距離L/2)と後半(区間距離L/2)に分け、前半についてはQ1,V1を用い、後半についてはQ2,V2を用いて存在台数Eを求めることができる。
E=(Q1/V1)(L/2)+(Q2/V2)(L/2)
【0011】
前記しきい値は、時間帯、曜日などに応じて統計的に求められ、記憶されている値であってもよい(請求項4)。車両の存在台数の変動に、統計的な傾向が現れることがあるからである。
(4)車両計測手段は、車両の通過とその速度を感知することのできる車両感知器であってもよい(請求項5)。
車両感知器の車両感知信号に基づいて、交通量や速度情報を得ることができる。車両感知器は、簡単な構造を持つので、低コストで道路に設置できる。
【0012】
(5)本発明の交通流の異常検知装置は、複数の地点で道路の交通量と車両の速度とを計測する車両計測手段と、当該複数の地点での交通量の差に基づいて、所定地域若しくは所定区間の道路における車両の存在台数の時間変動を求める第1の変動算出手段と、当該複数の地点での交通量と速度と区間距離とに基づいて、所定地域若しくは所定区間の道路における車両の存在台数の時間変動を求める第2の変動算出手段と、前記第1の変動算出手段、及び第2の変動算出手段により算出された車両の存在台数の時間変動に基づいて道路上の突発事象の発生尤度を表す評価値を算出し、この評価値に基づいて道路上の突発事象の発生を検知する総合判定手段とを有するものである(請求項6)。
【0013】
この構成によれば、前記(2)の2つの方法(a)(b)で存在台数の時間変動をそれぞれ算出し、各変動算出手段の検知結果を組み合わせることにより、各欠点を補い、より精度の高い判定をすることができる。
前記総合判定手段は、前記第1の変動算出手段により算出された車両の存在台数の時間変動に基づいて道路上の突発事象の発生尤度を表す第1の評価値を算出し、第2の変動算出手段により算出された車両の存在台数の時間変動に基づいて道路上の突発事象の発生尤度を表す第2の評価値を算出し、これらの評価値の重み付け平均値に基づいて道路上の突発事象の発生を検知するものであってもよい(請求項7)。
【0014】
突発事象の発生状況に応じて、各変動算出手段の検知精度が異なるので、各評価値に対して重み付け平均演算を行い、この重み付け平均値に基づいて、総合判定を行えば、判定の精度をさらに向上させることができる。
前記重み付け平均をとる場合に用いる重み係数を、次の(a)〜(g)のいずれか1つ、又はこれらの組み合わせの関数とし、自動的に決定されるようにしてもよい(請求項8)。
(a)交通計測データ:交通量Q、速度V、占有率Oなど交通計測データに応じて各変動算出手段の検知精度が異なることがある。交通量Qが多いときに有利な変動算出手段、不利な変動算出手段がある。
【0015】
(b)道路線形:道路の曲がり具合や道路幅などにより、各変動算出手段の検知精度が異なることがある。例えば、急カーブの多い道路では、速度も遅くなり渋滞しやすいが、このようなときに有利な変動算出手段、不利な変動算出手段がある。
(c)曜日:曜日によって混んだり空いたりする道路があるので、どのような変動算出手段を重視するか決めることができる。
【0016】
(d)時間帯:時間帯によって混んだり空いたりする道路があるので、どのような変動算出手段を重視するか決めることができる。
(e)渋滞の程度:渋滞の多い少ないによって有利な変動算出手段、不利な変動算出手段があり、どのような変動算出手段を重視するか決めることができる。
(f)各変動算出手段の実績データ:各変動算出手段の過去の検知結果などの実績データに基づき、精度のよい変動算出手段、精度のよくない変動算出手段があるので、どのような変動算出手段を重視するか決めることができる。
【0017】
(g)天候:雨、雪などの天候状態により精度のよい変動算出手段、精度のよくない変動算出手段があるので、どのような変動算出手段を重視するか決めることができる。
(9)また、本発明によれば、実際の突発事象の発生に関連する交通計測データに基づいて、各変動算出手段での検知結果を求め、実績データとして蓄積することが好ましい(請求項9)。これにより、各変動算出手段の実績に基づいて重み係数を決定することができる。
【0018】
前記実績データには、正検知率、検知漏れ率、誤検知率、検知遅れ時間のうち1又は複数のデータが含まれていてもよい(請求項10)。これらの値は、重み係数を決定するのに役立つパラメータとなる。
(10)本発明の交通流の異常検知装置は、総合判定手段により道路上の突発事象が検知された場合に、その突発事象の発生を外部に知らせる情報提供手段をさらに有することが、好ましい(請求項11)。ドライバなどに知らせることにより、事故の拡大を防止するためである。
【0019】
前記情報提供手段は、当該地域内若しくは当該区間内を走行する車両、又は当該地域内若しくは当該区間内への走行が予想される車両に対して情報を提供してもよい(請求項12)。例えば路側ビーコンなどの移動通信手段を用いて、車両のドライバに情報を提供することができる。
情報提供手段は、すでに予定されている道路上の規制に対しては、その影響を検知しても外部に知らせなくてもよい。例えば、道路工事等のためある時間から車線が制限されることが分かっているときは、その時間に道路上の規制による影響が検知されても、外部に知らせない。これは外部に知らせることによる混乱を防止するためである。
【0020】
前記総合判定手段は、判定の基礎となった値の大きさ(尤度)に応じて、段階的な判定を行い、前記情報提供手段は、この総合判定手段による段階的な判定の結果によって異常情報の内容を変えることが好ましい(請求項13)。
突発事象発生の尤度(確実性)に応じて、例えば「この先事故・止まれ」、「前方注意」など情報提供の内容を変えることにより、ドライバなどに、より適切な情報を与えることができる。
【0021】
(11)前記総合判定手段は、複数の道路区間で交通流の異常を検知した場合、判定の基礎となった値の大きさに応じて、異常発生区間を特定してもよい(請求項14)。突発事象発生の尤度(確実性)の一番高い区間を異常発生区間とすることにより、後続のドライバなどに発生区間の情報や回避ルートの情報を知らせることができる。
(12) また、本発明の交通流の異常検知方法(請求項15)は、請求項1記載の交通流の異常検知装置と同一発明に係る方法である。
【0022】
【発明の実施の形態】
以下、高速道路の交通流監視を例にとって、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
1.システムの構成
図1は、交通流の異常検知をするための交通流監視システムを示す概略図である。
【0023】
2車線ある高速道路1に、2ループ埋め込み式の車両感知器5が、間隔をおいて車線ごとに設置されている。また、車両の上方から車高を測定する超音波式の車両感知器3も、車線ごとに設置されている。これらの車両感知器3,5が設置された高速道路の区間を区間1,2,‥‥,i,‥‥(iは2以上の整数)と表示する。各区間の距離をLiとする。これらの車両感知器3,5、カメラは、一次処理装置4につながれていて、一次処理装置4は、車両通過台数のカウントや、車両速度の検知等を行う。
【0024】
また、高速道路1には、事故情報や路面情報などを車両に知らせるための可変表示板6が設けられている。また、車両と双方向通信を行う路側ビーコン7が設けられている。
さらに、高速道路1に接続する一般道路2には、高速道路1の事故情報や路面情報などを、高速道路1に入ろうとする車両に知らせるための可変表示板9が設けられている。
【0025】
交通管理センター10内部のコンピュータ11は、各区間に設置された一次処理装置4、路側ビーコン7、可変表示板6などと、有線通信網12(無線通信網であってもよい)を通して接続されている。また、当該コンピュータ11は、国土交通省、警察庁、都道府県警、消防庁などの関係機関13と通信回線を通して結ばれており、放送局14とも通信回線を通して結ばれている。
なお、前記のシステム例では、高速道路を想定していたが、一般道路であってもよい。車線数が2車線の道路を想定したが、車線数は、2に限られるものではなく、1車線であっても3以上の車線であってもよい。
【0026】
また、複数埋め込み式の車両感知器5に代えて、道路の脇に設置されるドップラー式の車両感知器を用いてもよい。また、道路にテレビカメラを設置して画像処理により車両通過台数、車高、車長、通過速度などを検知してもよい。
2.交通管理センター
以下に説明するコンピュータ11の機能の全部又は一部は、CD−ROM等の記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータ11が実行することにより実現される。
【0027】
図2は、交通管理センター10内部のコンピュータ11の機能ブロック図である。
コンピュータ11の入力処理部21には、車両感知器5の感知信号が一次処理装置4を介して入力される。入力処理部21は、車両感知器5が感知した車両の通過台数や車両速度の検知量に基づいて、交通量(単位時間当たりの通過台数)Q、平均速度V、占有率O(ある時間T内に車両が車両感知器を横切った時間tkの総和Σtkを時間Tで割ったもの:Σtk/T)や車両の特徴量等を算出する。「平均」速度としたのは、一定時間内に通過した各車両の速度の平均をとるためである。以下、「平均速度」のことを単に「速度」という。
【0028】
区間iに注目して、区間iの距離をLi、時刻tにおける区間iへの第1車線の流入交通量をQ1,i(t)、第2車線の流入交通量をQ2,i(t)とし、第1車線と第2車線の両方を合わせた、時刻tにおける区間iへの流入交通量をQi(t)とする。同じく、区間iからの第1車線の流出交通量をQ1,i+1(t)、第2車線の流出交通量をQ2,i+1(t)とし、第1車線と第2車線の両方を合わせた、時刻tにおける区間iからの流出交通量をQi+1(t)とする。
【0029】
Qi(t)=Q1,i(t)+Q2,i(t)
Qi+1(t)=Q1,i+1(t)+Q2,i+1(t)
また、時刻tにおける区間iへの第1車線の流入速度をV1,i(t)、第2車線の流入速度をV2,i(t)とする。同じく、区間iからの第1車線の流出速度をV1,i+1(t)、第2車線の流出速度をV2,i+1(t)とする。第1車線と第2車線の、各交通量で重み付け平均した時刻tにおける区間iへの流入速度をVi(t)とし、区間iからの流出速度をVi+1(t)とする。
【0030】
また、第1車線の車両の占有率をO1(t),第2車線の車両の占有率をO2(t)とする。両車線の占有率をO(t)とする。
また、入力処理部21は、車両の特徴量を算出する。すなわち、車両感知器3の出力に基づいて各車両の最大車高を算出するとともに、車両感知器5の2つのループの出力時間差に基づいて車両の速度を測定し、これと車両の感知時間とに基づいて車長を算出する。車両が通過するごとに車高、車長が算出されるので、1又は複数の車高、車長のデータ列が車線ごとに得られる。
【0031】
なお、コンピュータ11の入力処理部21において交通量Qや平均速度Vを算出していたが、これらの算出処理は、一次処理装置4の中でするようにしてもよい。
これらの交通量、速度、占有率、車高、車長等の検知データを、「交通計測データ」という。
コンピュータ11には、判定部22が設けられており、判定部22の中には、違った判定アルゴリズムにより、車両存在台数の時間変動量の分散をそれぞれ算出する算出部A,Bが設けられている。
【0032】
3.分散の算出
算出部Aは、流入交通量Qi(t)と流出交通量Qi+1(t)との差ΔQi(t)を算出する。
ΔQi(t)=Qi(t)−Qi+1(t)
そして算出部Aは、車両存在台数Ei(t)の時間変動量を求める。ΔQi(t)そのものが、車両存在台数Ei(t)の時間変動量を表すことになる。
【0033】
算出部Aは、一定(例えば1分)間隔の時刻t1,t2,t3,‥‥,tk,‥‥(代表するときは添え字kを使う)ごとにΔQi(tk)を記録し、過去の期間T(例えば10分)にわたる分散(variance)を算出する。この分散をσ1(tk)と書く。
算出部Bは、区間iを前半と後半に分け、それぞれにおいて車両存在台数を算出する。区間前半においては流入交通量Qi(t)と、流入速度Vi(t)とを用いて区間前半の存在台数Ei1(t)を求める。
【0034】
Ei1(t) =Qi(t)/ Vi(t)・ Li/2
区間後半においては流出交通量Qi+1(t)と流出速度Vi+1(t)とから区間後半の存在台数Ei2(t)を求める。
Ei2(t) =Qi+1(t)/ Vi+1(t)・ Li/2
そして、両方の存在台数Ei1(t),Ei2(t)の和をとって、区間iの車両存在台数Ei(t)とする。
【0035】
Ei(t)=Ei1(t)+Ei2(t)
算出部Bは、車両存在台数Ei(t)の時間変動量を求めるために、各時刻tkごとにEi(tk)を記録し、過去の期間Tにわたる分散を算出する。この分散をσ2(tk)と書く。
4.突発事象の発生判定
コンピュータ11には、総合判定部23が設けられている。総合判定部23は、算出部A,Bの算出結果に基づいて、評価値(突発事象の発生尤度(確からしさ)を表す数値)を算出し、この評価値に基づいて突発事象が発生しているかどうかを判定する。次の2つの判定方法を説明する。
【0036】
4.1 総合判定1(評価値加算方式)
図3は、総合判定部23が行う評価値加算方式による突発事象発生を判定する処理を説明するフローチャートである。
総合判定部23は、この処理を、時刻tkごとに繰り返し行う。図3に沿って説明すると、総合判定部23は、分散σ1(tk)、σ2(tk)を取得し(ステップS1)、σ1(tk)、σ2(tk)がそれぞれしきい値以上であるかどうか判定する(ステップS2,4)。両方がしきい値以上であれば、評価値に定数qを加算し(ステップS3)、一方のみがしきい値以上であれば、評価値に定数r(r<q)を加算する(ステップS5)。q、rは判定の確からしさを設定するための加算項である。
【0037】
σ1(tk)、σ2(tk)がいずれもしきい値未満であれば、評価値を0にリセットする(ステップS6)。
評価値が一定値以上となったかどうか判定し(ステップS7)、一定値以上となれば、総合判定部23は、突発事象が発生したと判断する(ステップS8)。一定値以上でなければ、次の時刻tk+1に判断を持ち越す。
以上のようにして突発事象の発生が判定されると、交通管理センター10は、関係機関等に情報伝達する(ステップS9)。
【0038】
4.2 総合判定2(重み付け方式)
算出部Aの出力した分散σ1(tk)に基づいて行う判定アルゴリズムを「方法A」、算出部Bの出力した分散σ2(tk)に基づいて行う判定アルゴリズムを「方法B」という。
この重み付け方式では、方法Aに基づいて評価値PAを算出し、方法Bに基づいて評価値PBを算出し、各評価値PA,PBの重み付け平均をとる。
【0039】
図4、図5は、総合判定部23が行う重み付け処理を説明するためのフローチャートである。
総合判定部23は、この処理を、時刻tkごとに繰り返し行う。総合判定部23は、分散σ1(tk)を取得し(ステップT1)、σ1(tk)がしきい値以上であるかどうか判定する(ステップT2)。しきい値以上であれば、評価値PAに定数を加算し(ステップT3)、しきい値未満であれば、評価値PAを0にリセットする(ステップT5)。
【0040】
次に、分散σ2(tk)を取得し(ステップT5)、σ2(tk)がしきい値以上であるかどうか判定する(ステップT6)。しきい値以上であれば、評価値PBに定数を加算し(ステップT7)、しきい値未満であれば、評価値PBを0にリセットする(ステップT8)。
総合判定部23は、それぞれ重み係数α,βを用いて、算出した評価値PA,PBの重み付き平均値Ptotalを算出する(ステップT9)。
【0041】
Ptotal=(αP1+βP2)/(α+β)
そしてこのPtotalを検知しきい値と比較し(ステップT10)、検知しきい値を超えていれば突発事象の発生尤度が十分に高く「突発事象発生」と判断する(ステップT12)。この検知しきい値が高すぎると検知漏れが多くなり、検知しきい値が低すぎると誤検知が増える。この検知しきい値は、後に図6を用いて説明する検知漏れ率や誤検知率の実績に基づき、自動的に決定されるようにしてもよい。
【0042】
検知しきい値を超えていなければ、このPtotalを注意しきい値と比較する(ステップT11)。注意しきい値<検知しきい値の関係がある。注意しきい値を超えていれば、突発事象の発生尤度が中程度に高く、「突発事象の発生の可能性が高い注意状態」と判断する(ステップT13)。
注意しきい値を超えていなければ、突発事象の発生尤度が低く、「突発事象の発生なし」と判断する(ステップT14)。
【0043】
ここで、前記重み係数α,βの決定の仕方を説明する。この決定をする前提として、実際に交通計測データを集め、突発事象の発生時の交通計測データに基づいて、総合判定部23で異常判定して、正しく検知したかどうかなどの実績を調べておく必要がある。
図6は、この検知率等の記録方法を説明するためのフローチャートである。まず、交通計測データを常時集積する(ステップU1)。実際に突発事象が発生したことが分かると(ステップU2のYES)、発生時刻前後の交通計測データを参照し(ステップU3)、α=1,β=0として処理を行い(方法A)、α=0,β=1として処理を行う(方法B)(ステップU4)。それぞれの方法A,Bで評価値PA,PBがしきい値を超えて交通流の異常検知を行っていたかどうか判断する。以上の処理を、突発事象が発生するたびに行う。
【0044】
この結果、方法A,Bごとに、突発事象全発生件数に対して正しく検知できた確率を「正検知率」、突発事象全発生件数に対して検知できなかった確率を「検知漏れ率」、総検知数に対して誤って検知した確率を「誤検知率」、突発事象が実際に発生してから検知するまでの時間を「検知遅れ時間」とする(ステップU5)。
総合判定部23は、2つの方法A,Bごとにこれらの値を、交通状態、曜日、季節、天候、時間帯別に分類し、記録している。
【0045】
次の表1は、記録内容に基づいて、2つの方法A,Bを評価した一例を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
総合判定部23は、重み係数α,βを決定する。
重み係数α,βは、交通量Q、速度V、占有率O、道路線形(カーブ、ジグザグ等)、曜日、時間帯、渋滞の程度、過去の検知実績(表1)などの関数とする。
図7は、重み係数α,βの決定処理を説明するためのフローチャートである。この処理は、リアルタイムで行う処理である。α,βの初期値(例えば初め全部同一の値とする)に対して修正を施す。
【0048】
まず、検知の対象となる道路区間の道路線形による重みを加算する(ステップV1)。例えば、ボトルネックとなりそうな道路線形であれば、方法Bの重み係数βを上げる。
次に、曜日に基づいた重みを加算する(ステップV2)。例えば現在が日曜日であれば、方法Aの重み係数αを上げる。平日であれば、方法Bの重み係数βを上げる。
【0049】
次に、時間帯に基づいた重みを加算する(ステップV3)。例えば昼、夜であれば、方法Aの重み係数αを上げる。早朝、夕方であれば、方法Bの重み係数βを上げる。
次に、過去の実績に基づいた重みを加算する(ステップV4)。例えば当該区間で検知率の高い方法の重み係数を上げる。
そして、今の交通状態(渋滞の程度)をチェックする(ステップV5)。渋滞がなければ(ステップV6のNO)、方法Aの重み係数αを上げる(ステップV7)。
【0050】
渋滞があれば、方法Bの重み係数βを上げる(ステップV8)。
以上のようにして、重み係数α,βが自動的に決定されるので、これらを用いて総合評価値Ptotalを算出することができる。
5.突発事象発生区間の特定
以上に説明した突発事象の発生が複数の区間で判定された場合、各区間における判定の評価値を比較して、もっとも評価値の高い区間を突発事象発生区間として特定することができる。
【0051】
図8は、突発事象発生区間を特定する処理を説明するためのフローチャートである。
まず、図3〜図5で説明した突発事象発生検知処理を、それぞれの監視対象道路区間1,2,‥‥,i,‥‥で行う(ステップW1)。すべての監視対象道路区間1,2,‥‥,iで同処理が終了すれば(ステップW2のYES)、突発事象発生と判定された区間があるかどうか調べる(ステップW3)。そして、各区間で算出された評価値を比較する(ステップW4)。この評価値が最大を示す区間を、突発事象発生区間と特定する(ステップW5)。
【0052】
図9は、5つの区間での検知処理結果から得られた評価値の時間推移を示すグラフである。このグラフによれば、事故は8時20分に発生し、各区間1〜3での評価値が上がっている。特に区間2の評価値が最大であるので、区間2が突発事象発生区間と特定することができる。
6.情報伝達
以上のようにして突発事象の発生及びその発生区間が決定されると、交通管理センター10は、可変表示板6,9に、突発事象の発生を表示し、路側ビーコン7を通して車両に突発事象の発生を通知する。
【0053】
この通知にあたっては、図5ステップT12で示したように「突発事象発生」と判定されていれば、交通管理センター10の出力処理部25は、可変表示板6,9に「この先事故・止まれ」のような運転者の警告を与えるメッセージを表示し、路側ビーコン7を通して車両にも危険区間である旨を通知する。
図5ステップT12で示したように「突発事象の発生の可能性が高い注意状態」と判定されていれば、出力処理部25は、可変表示板6,9に「前方注意」のように運転者の注意を喚起するようなメッセージを表示し、路側ビーコン7を通して車両にも走行注意区間である旨を通知する。
【0054】
そして、この情報を通信回線を通して関係機関13や放送局14に連絡する。なお、すでに道路工事などが予定され、交通流の異常が予想されている場合は、出力処理部25は、当該時刻に突発事象の発生を判定しても、この判定に基づいて可変表示板6,9に突発事象の発生を表示することはなく、関係機関13や放送局14に連絡することもない。
【0055】
【実施例】
高速道路に、500mおきに車両感知器を設置し、車両感知器の感知信号に基づいて、車両存在台数E2(t)の時間変動ΔE2(t)を算出した。
ΔE2(tk)=Ei(tk)−Ei(tk-1)
図10は、実際に事故の発生した日に算出された車両存在台数E2(t)の変動ΔE2(t)を示すグラフである。
【0056】
事故の起こった時刻13時25分よりも前、ΔE2(t)は0に近くなる。しかし、事故の起こった時刻13時25分よりも後は、ΔE2(t)は大きくなる。
したがって、事故の発生と車両存在台数E2(t)の変動とが相関付けられたといえる。
【0057】
【発明の効果】
以上のように本発明の交通流の異常検知装置又は方法によれば、道路上の突発事象の発生をより精度よく検知することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】交通流の異常検知をするための交通流監視システムを示す概略図である。
【図2】交通管理センター10内のコンピュータ11の機能ブロック図である。
【図3】算出部Aが行う突発事象発生を監視する処理を説明するためのフローチャートである。
【図4】総合判定方法の1つである多数決方式を説明するためのフローチャートである。
【図5】総合判定方法の1つである重み付け方式を説明するためのフローチャートである。
【図6】過去の実績に基づく検知率等の記録方法を説明するためのフローチャートである。
【図7】重み係数の決定処理を説明するためのフローチャートである。
【図8】突発事象発生区間を特定する処理を説明するためのフローチャートである。
【図9】各区間で算出された評価値の時間推移を示すグラフである。
【図10】実際に事故の発生した日に算出された車両存在台数E2(t)の変動を示すグラフである。
【符号の説明】
1 高速道路
2 一般道路
3 車両感知器
4 一次処理装置
5 車両感知器
6 可変表示板
7 路側ビーコン
9 可変表示板
10 交通管理センター
11 コンピュータ
13 関係機関
14 放送局
21 入力処理部
22 判定部
23 総合判定部
25 出力処理部
Claims (15)
- 道路を走行する車両を計測する車両計測手段と、
車両計測手段の計測結果に基づいて、所定地域若しくは所定区間の道路における車両の存在台数の時間変動を求める変動算出手段と、
変動算出手段により算出された車両の存在台数の時間変動の一定期間にわたる分散がしきい値以上となったとき、道路上の突発事象の発生を検知する総合判定手段とを有することを特徴とする交通流の異常検知装置。 - 前記車両計測手段は、複数の地点で道路の交通量を計測するものであり、変動算出手段は、当該複数の地点での交通量の差に基づいて車両の存在台数の時間変動を算出することを特徴とする請求項1記載の交通流の異常検知装置。
- 前記車両計測手段は、複数の地点で道路の交通量と車両の速度とを計測するものであり、変動算出手段は、当該複数の地点での交通量と速度と区間距離とに基づいて車両の存在台数を算出し、車両の存在台数の時間変動を算出することを特徴とする請求項1記載の交通流の異常検知装置。
- 前記しきい値は、時間帯、曜日などに応じて統計的に求められ、記憶されている値である請求項1記載の交通流の異常検知装置。
- 前記車両計測手段は、車両の通過とその速度を感知することのできる車両感知器である請求項1記載の交通流の異常検知装置。
- 前記車両計測手段は、複数の地点で道路の交通量と車両の速度とを計測するものであり、
前記変動算出手段は、
当該複数の地点での交通量の差に基づいて、所定地域若しくは所定区間の道路における車両の存在台数の時間変動を求める第1の変動算出手段と、
当該複数の地点での交通量と速度と区間距離とに基づいて、所定地域若しくは所定区間の道路における車両の存在台数の時間変動を求める第2の変動算出手段とを含み、
前記総合判定手段は、前記第1の変動算出手段、及び第2の変動算出手段により算出された車両の存在台数の時間変動に基づいて道路上の突発事象の発生尤度を表す評価値を算出し、この評価値に基づいて道路上の突発事象の発生を検知するものであることを特徴とする請求項1記載の交通流の異常検知装置。 - 前記総合判定手段は、前記第1の変動算出手段により算出された車両の存在台数の時間変動に基づいて道路上の突発事象の発生尤度を表す第1の評価値を算出し、第2の変動算出手段により算出された車両の存在台数の時間変動に基づいて道路上の突発事象の発生尤度を表す第2の評価値を算出し、これらの評価値の重み付け平均をとることにより道路上の突発事象の発生を検知するものであることを特徴とする請求項6記載の交通流の異常検知装置。
- 前記重み付け平均をとる場合の重み係数は、次の(a)〜(g)のいずれか1つ、又はこれらの組み合わせの関数であり、自動的に決定されることを特徴とする請求項7記載の交通流の異常検知装置。
(a)交通計測データ、
(b)道路線形、
(c)曜日、
(d)時間帯、
(e)渋滞の程度、
(f)各変動算出手段の実績データ
(g)天候 - 実際に突発事象の発生に関連する交通計測データに基づいて、各変動算出手段での検知結果を求め、実績データとして蓄積することを特徴とする請求項8記載の交通流の異常検知装置。
- 前記実績データには、正検知率、検知漏れ率、誤検知率、検知遅れ時間のうち1又は複数のデータが含まれることを特徴とする請求項9記載の交通流の異常検知装置。
- 前記総合判定手段により道路上の突発事象が検知された場合に、その突発事象の発生を外部に知らせる情報提供手段をさらに有することを特徴とする請求項1又は請求項6記載の交通流の異常検知装置。
- 前記情報提供手段は、当該地域内若しくは当該区間内を走行する車両、又は当該地域内若しくは当該区間内への走行が予想される車両に対して情報を提供するものであることを特徴とする請求項11記載の交通流の異常検知装置。
- 前記総合判定手段は、判定の基礎となった値の大きさに応じて、段階的な判定を行い、前記情報提供手段は、この総合判定手段による段階的な判定の結果によって異常情報の内容を変えることを特徴とする請求項11記載の交通流の異常検知装置。
- 前記総合判定手段は、複数の道路区間で交通流の異常を検知した場合、判定の基礎となった値の大きさに応じて、異常発生区間を特定することを特徴とする請求項1又は請求項6記載の交通流の異常検知装置。
- 道路を走行する車両を計測し、
この計測結果に基づいて、所定地域若しくは所定区間の道路における車両の存在台数の時間変動を算出し、
算出された車両の存在台数の時間変動の一定期間にわたる分散がしきい値以上となったとき、道路上の突発事象の発生を検知することを特徴とする交通流の異常検知方法。
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