JP3874391B2 - 機能性重合物及びその製造方法、電極材料及び電極 - Google Patents

機能性重合物及びその製造方法、電極材料及び電極 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は、酸化還元反応が可逆的に行われる機能性重合物及びその製造方法並びにこの機能性重合物を用いた電極に関するものであり、特に、電池の電極に用いた場合に、軽量で高エネルギー密度の電池が得られるようにする点に特徴を有するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、高出力,高エネルギー密度の新型電池として、リチウムの酸化,還元を利用した高起電力のリチウム二次電池が利用されるようになった。
【0003】
ここで、このようなリチウム二次電池においては、その正極における正極材料として、一般にマンガン,コバルト,ニッケル,鉄,バナジウム,ニオブ等の金属酸化物が使用されていた。
【0004】
しかし、このような金属酸化物を正極に用いた場合、その重量が大きくなると共にそのコストも高く付き、また反応電子数が少なく、単位重量当たりにおける容量が必ずしも十分であるとはいえず、軽量で高エネルギー密度のリチウム二次電池を得ることが困難であった。
【0005】
一方、最近においては、導電性高分子を電極材料に用い、これを軽量で高エネルギー密度の電池や、大面積のエレクトロクロミック素子や、微小電極を用いた生物化学センサーに利用することが検討されている。
【0006】
そして、このような導電性高分子として、従来においては、ポリアニリン,ポリピロール,ポリアセン,ポリチオフェン等が検討され、これらの導電性高分子の電池の電極に使用することが研究されており、さらに近年においては、高容量で高エネルギー密度が得られる高分子として、ヨーロッパ特許第415856号において有機硫黄化合物が提案されている。
【0007】
ここで、上記の有機硫黄化合物は、硫黄の酸化還元反応を利用して充放電を行うものであり、このような有機硫黄化合物を正極の正極材料に使用して、高エネルギー密度のリチウム二次電池を得ることが検討されている。
【0008】
しかし、上記の有機硫黄化合物の場合、その酸化還元反応が遅くて、充放電電流が小さくなり、100℃以上の高温での使用に限られる等の問題があった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
この発明は、軽量で高エネルギー密度の電池や、大面積のエレクトロクロミック素子や、微小電極を用いた生物化学センサー等に好適に利用できる新規な機能性重合物を提供することを課題とするものであり、低い温度においてもこの新規な機能性重合物における酸化還元反応が適切に行われ、この機能性重合物を電池の電極に使用した場合に、低い温度、例えば室温においても適切な充放電反応が行われ、大きな電流での充放電が可能になると共に、高容量で高エネルギー密度の電池が得られるようにすることを課題とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
この発明においては、上記のような課題を解決するため、前記の化1に示す構造を有する機能性重合物を開発したのである。
【0011】
そして、上記のような機能性重合物としては、例えば、請求項2に記載した化2に示す機能性重合物を用いることができる。
【0012】
ここで、前記の化1及び化2におけるアニオンX- は過塩素酸イオン等の無機イオンや有機イオンであり、また化2におけるベンゼン環に結合する置換基としては、低級アルキル基、アミノ基、ハロゲン基、水酸基、スルフォン基等が挙げられる。
【0013】
そして、2以上のチオアミド基を有する芳香族化合物又は複素環式化合物が重合された前記の化1及び化2に示すような機能性重合物を製造するにあたっては、2以上のチオアミド基を有する芳香族化合物又は複素環式化合物を酸性媒体中において酸化させて重合させることにより製造することができる。
【0014】
ここで、2以上のチオアミド基を有する芳香族化合物又は複素環式化合物を酸性媒体中において酸化させて重合させるにあたっては、例えば、酸化剤に過酸化水素や過塩素酸等を用い、蟻酸等の酸性溶液中において酸化させる他に、酸性溶液中において電気化学的な酸化反応によって酸化させることもできる。
【0015】
そして、上記のように2以上のチオアミド基を有する芳香族化合物又は複素環式化合物H2NSC−R−CSNH2(なお、Rは芳香族化合物又は複素環式化合物である。)を酸性媒体中において酸化させると、下記の化3の反応式に示すように、芳香族化合物又は複素環式化合物におけるチオアミド基−CSNH2の硫黄相互が結合し、次いでアミノ基が縮合されてNH3が放出され、S−S結合を有する5員環が形成されると考えられる。
【0016】
【化3】
Figure 0003874391
【0017】
そして、このようにして得られた機能性重合物は、上記のS−S結合を有する5員環がπ電子雲を持つと共に、この5員環の両側にπ電子雲を持つ芳香族化合物又は複素環式化合物が結合された構造となり、この機能性重合物において電子の移動がスムーズに行われ、この機能性重合物を電池の電極に用いた場合には、大電流での充放電が可能になる。
【0018】
また、上記の機能性重合物においては、下記の化4に示すような3電子の酸化還元反応が可逆に行われると考えられ、この機能性重合物を電池の電極に用いた場合、高容量で高エネルギー密度の電池が得られるようになる。なお、下記の化中において、Xはアニオン、Yは金属イオン等のカチオンである。
【0019】
【化4】
Figure 0003874391
【0020】
また、この発明においては、電極に使用する電極材料、前記の化1や化2に示す構造を有する機能性重合物を用いるようにしたのである。
【0021】
ここで、前記の化1や化2に示す電極材料は、上記のようにS−S結合を有する5員環がπ電子雲を持つと共に、この5員環の両側にπ電子雲を持つ芳香族化合物が結合された構造となり、電子の移動がスムーズに行われると共に、3電子の酸化還元反応が可逆に行われると考えられる。
【0022】
また、この発明における電極においては、その電極材料に前記の化1や化2に示す機能性重合物を用いるようにしたのである。
【0023】
ここで、前記の化1や化2に示した機能性重合物を用いた電極材料を使用して電極を作製するにあたっては、必要に応じて、これらの材料に導電材料やイオン伝導材料やバインダー等を加えるようにする。
【0024】
そして、導電材料としては、金属粉末、炭素材料、導電性高分子等を用いることができ、例えば、金属粉末としては、ニッケル,ステンレス等が用いられ、炭素材料としては、アセチレンブラック,気相成長炭素,グラファイト等が用いられ、導電性高分子としては、ポリアニリン,ポリピロール,ポリパラフェニレン,ポリセチレン及びこれらの誘導体等が用いられる。
【0025】
また、イオン伝導材料としては、無機イオン固体電解質や有機イオン固体電解質が用いられ、有機イオン固体電解質としては、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO),ポリアクリロニトリル(PAN)及びこれらの誘導体に電解質塩を含有させたポリマーや、電解質溶液を含浸させたゲル状ポリマー等を用いることができる。
【0026】
また、バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の電極の作製に通常用いられるポリマーを使用することができる。
【0027】
さらに、前記の化1や化2に示した機能性重合物を用いて電極を作製するにあたっては、必要に応じて、2,5−ジメルカプト−1,3−チアジアゾール等の他の有機硫黄化合物や硫黄を混合させたり、また電極の比表面積を大きくしたり、その製膜性を向上させるために、ゼオライト,ウイスカー等の繊維状や粒子状の固形物を混合させることも可能である。
【0028】
また、上記の機能性重合物を用いて電極を作製する方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、上記の機能性重合物に導電材料等を加えて乳鉢で混合した合剤を集電体等に塗布して形成したり、プレス機械で押し固めて成形する等の方法を用いることができる。
【0029】
そして、上記の機能性重合物を用いて作製した電極は、リチウム二次電池の正極等として使用することができる。
【0030】
ここで、上記の機能性重合物を用いて作製した電極をリチウム二次電池の正極に使用する場合、このリチウム二次電池の負極や電解質には従来より一般に使用されている公知のものを用いることができる。そして、負極としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金、リチウムの吸蔵・放出が可能な炭素材料や無機材料等で構成されたものを用いることができ、また電解質としては、例えば、エチレンカーボネート等の有機溶媒に電解質塩としてLiClO4 等のリチウム化合物を溶解させた液体や、無機材料を用いた固体電解質や、ポリマーを用いた固体電解質等を用いることができ、またポリマーに上記の液体を含浸させてゲル状にしたゲル状ポリマー電解質を使用することも可能である。
【0031】
【実施例】
以下、この発明の実施例に係る機能性重合物及びその製造方法について具体的に説明すると共に、この実施例の機能性重合物を電池の電極に用いた場合に優れた効果が得られることを明らかにする。なお、この発明における機能性重合物及びその製造方法は、下記の実施例に示したものに限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施できるものであり、またその用途も電池の電極に限られるものではない。
【0032】
この発明の実施例として、下記の化5に示す構造の機能性重合物を製造する場合について説明する。
【0033】
【化5】
Figure 0003874391
【0034】
ここで、上記の化5に示す構造の機能性重合物を製造するにあたっては、下記のようにして製造した化6に示す1,4−ベンゼンジカルボチオアミドを反応開始モノマーとして用いるようにした。
【0035】
【化6】
Figure 0003874391
【0036】
ここで、1,4−ベンゼンジカルボチオアミドを製造するにあたっては、トリエチルアミンを数滴加えたエタノール20mlにテレフタロニトリルを750mg溶解させた。次いで、この溶液に硫化水素を吹き込みながら50℃で6時間反応させ、この反応によって析出した黄色結晶を回収し、これをエタノールで洗浄した後、ジメチルホルム−アミドエーテル溶液で再結晶させて、上記の1,4−ベンゼンジカルボチオアミドを870mg得た。
【0037】
そして、上記の1,4−ベンゼンジカルボチオアミドを重合させるにあたっては、温度計を据え付けた50mlの三つ口フラスコ内に95%の蟻酸7.5mlと70%の過塩素酸7.5mlとを加えて混合溶液を調整し、この三つ口フラスコ内に上記の1,4−ベンゼンジカルボチオアミドを1.8g加え、これを上記の混合溶液中において攪拌しながら30%の過酸化水素水0.75mlを10分間かけて滴下し、さらに15分間攪拌を続け、次いで、これをさらに攪拌しながら温度が70℃になるように加熱して24時間反応させ、その後、吸引濾過を行って紫色の固形物を得た。そして、この固形物を水、エタノール、アセトンの順で洗浄し、この固形物に残っている反応溶液や低分子化合物を除いた後、これを真空乾燥させて前記の化4に示す構造の機能性重合物を0.4g得た。なお、上記の1,4−ベンゼンジカルボチオアミドが重合する反応は、下記の化7に示す反応式に従って行われると考えられる。
【0038】
【化7】
Figure 0003874391
【0039】
ここで、上記のようにして得た機能性重合物と、この機能性重合物のモデル単量体である下記の化8に示す3,5−ジフェニル−1,2,4−ジチアゾリウム過塩素酸塩との赤外吸収スペクトルを比較した。
【0040】
【化8】
Figure 0003874391
【0041】
この結果、上記の機能性重合物の赤外吸収スペクトルは、3,5−ジフェニル−1,2,4−ジチアゾリウム過塩素酸塩に由来する赤外吸収スペクトル特性を有しており、この機能性重合物が前記の化5に示す構造であると考えられる。
【0042】
また、上記の機能性重合物と3,5−ジフェニル−1,2,4−ジチアゾリウム過塩素酸塩とのサイクリックボルタモグラムを比較したところ、上記の機能性重合物は、3,5−ジフェニル−1,2,4−ジチアゾリウム過塩素酸塩と同様に、下記の化9に示すような可逆な三電子酸化還元反応を示すと考えられ、また上記の機能性重合物においては反応ピーク間の距離が3,5−ジフェニル−1,2,4−ジチアゾリウム過塩素酸塩より短くなっており、上記のように重合されることにより、その電子移動速度が加速されたと考えられる。
【0043】
【化9】
Figure 0003874391
【0044】
次に、上記の機能性重合物を用いて電極を作製し、この電極をリチウム二次電池の正極に使用した場合に、大きな電流での充放電においても大きな電池容量が得られることを明らかにする。
【0045】
ここで、上記の機能性重合物を用いて電極を作製するにあたっては、上記の機能性重合物の粉末0.4gを乳鉢により十分に粉砕した後、これにアセチレンブラック0.4gを数回に分けて加えて粉砕混合し、さらにこれにポリフッ化ビニリデン(PVDF)を0.1g加えてよく混合した後、これにジメチルホルムアミド(DMF)50mlを加えて混練し、この混練物を厚みが30μmで大きさが10cm×10cmのチタン箔上に印刷した後、これを80℃で3時間真空加熱処理し、その後、これを1cm×1cmの大きさに切って評価用の電極を作製した。
【0046】
次に、この評価用の電極を正極に用い、負極と参照極とにそれぞれ金属リチウムを使用すると共に、電解質溶液にプロピレンカーボネートにLIClO4 を1モル/lの割合で溶解させた溶液を使用して三極式の試験用電池を作製した。なお、この試験用電池の作製は全てアルゴンガスフローのグローブボックス内で行った。
【0047】
そして、この試験用電池を用い、電流値0.1mAの定電流で放電終止電圧1.75V、充電終止電圧3.75Vの充放電を繰り返して行った。
【0048】
そして、第1回目の放電時における上記の機能性重合物の放電特性を調べ、その結果を図1に示すと共に、放電回数に伴う放電容量の変化を調べ、上記の機能性重合物においてClO4 -等のアニオンを除いたポリマー基質1g当たりの放電容量の変化を求め、その結果を下記の表1に示した。なお、上記のポリマー基質が三電子酸化還元反応を示す場合における単位重量当たり理論容量は452mAhとなる。
【0049】
【表1】
Figure 0003874391
【0050】
この結果から明らかなように、上記の機能性重合物を用いた電極をリチウム二次電池の正極に使用して充放電を行うことができ、特に、1回目の放電時においては、上記の機能性重合物のポリマー基質1g当たりの放電容量が422mAh/gと非常に大きくなって上記の理論容量に近い値となっており、この機能性重合物においては、上記のような三電子酸化還元反応を示すと考えられる。
【0051】
なお、上記の実施例においては、前記の化4に示す構造になった機能性重合物を用いた電極について説明したが、前記の化8に示す3,5−ジフェニル−1,2,4−ジチアゾリウム過塩素酸塩を用いた電極においても、上記の機能性重合物の場合と同様の三電子酸化還元反応を示し、大きな放電容量が得られると考えられる。
【0052】
【発明の効果】
以上詳述したように、この発明における機能性重合物は、前記の化1や化2に示すように、S−S結合を有するπ電子雲を持つ5員環が形成されると共に、この5員環の両側にπ電子雲を持つ芳香族化合物又は複素環式化合物が結合された構造になっており、電子の移動がスムーズに行われると共に、この機能性重合物においては3電子の酸化還元反応が行われると考えられる。
【0053】
そして、上記のような機能性重合物を電池の電極材料に用いた場合には、大きな電流での充放電が可能になると共に、高容量で高エネルギー密度の電池が得られるようになった。
【0054】
なお、この発明の機能性重合物や電極材料は電池の電極に用いる他に、発色・退色速度の速いエレクトロクロミック素子や、応答速度の速いグルコースセンサー等のセンサーや、書き込み・読み出し速度が速い電気化学アナログメモリー等に用いることもできる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 この発明の実施例において作製した試験用電池における第1回目の放電特性を示した図である。

Claims (5)

  1. 下記の化1に示す構造を有することを特徴とする機能性重合物。
    Figure 0003874391
    化1の式中、Rは芳香族化合物又は複素環式化合物、X - はアニオン、nは2以上の整数である。
  2. 下記の化2に示す構造を有することを特徴とする機能性重合物。
    Figure 0003874391
    化2の式中、X - はアニオン、nは2以上の整数であり、ベンゼン環に置換基が結合されていてもよい。
  3. 2以上のチオアミド基を有する芳香族化合物又は複素環式化合物を酸性媒体中において酸化させて重合させることを特徴とする機能性重合物の製造方法。
  4. 請求項1又は請求項2に記載した機能性重合物を用いたことを特徴とする電極材料。
  5. 請求項4に記載した電極材料を含有することを特徴とする電極。
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