JP3873605B2 - 情報記録媒体用原盤、スタンパー及び情報記録媒体の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光記録媒体などの情報記録媒体を作製するに用いる原盤、スタンパー及び情報記録媒体の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
光磁気ディスク、相変化ディスク、無機穴あけ型ディスク、色素ディスク等の光ディスクに代表される光記録媒体は、ユーザーが記録可能な大容量情報記録媒体であり、コンピュータの外部記憶装置に用いる媒体として広く普及している。また音楽や写真、画像、動画などの情報を記録するため音楽プレーヤーやデジタルカメラ、ビデオ、セットトップボックスなどの記録再生装置に用いる媒体としても急速に普及しつつある。
光磁気ディスクとしては3.5インチ型の640MB製品、230MB製品、128MB製品、GIGAMO、5.25インチ型の650MB〜4.8GBの製品、ミニディスク等が知られ、相変化ディスクとしてはCD−RW、DVD−RAM等が製品化され、DVD+RW、DVD−RWなども開発されている。また、色素ディスクとしては、CD−R、DVD−Rといった製品が知られている。
【0003】
これらの光記録媒体には一般に記録トラックが設けられ、記録再生装置の光ヘッドなどの記録再生系がトラックに沿って移動し(トラッキング)、記録再生光を照射することにより、上記の各種情報(データ)を記録トラックに記録し、再生し、あるいは消去する。トラッキングは、通常、光記録媒体上に設けられた凹凸溝あるいは凹凸ピットを頼りに行われる。
多くの記録可能な光ディスクには螺旋状又は同心円状の凹凸溝が設けられ、該溝に沿って記録トラックが形成されている。これには、溝部(基板の凹部)を記録トラックとして記録を行う溝記録タイプと、隣接する溝部の間に位置する溝間部(基板の凸部)を記録トラックとして記録を行うランド記録タイプと、両方を記録トラックとして記録を行うランド&グルーブ記録(L&G記録)タイプとがある。
一般的に、このような凹凸溝は基板に設けられ、その基板上に、記録層、保護層、反射層などの薄膜が形成される。各層の形成にはスパッタリングや真空蒸着等の真空プロセスや、スピンコートによる塗布法が用いられる。
【0004】
なお、以下では、実際に情報を蓄える層(以下、記録層と称する)、及びその前後に設けられる保護層、反射層等の薄膜を全て含んだものを情報層と総称する。
光磁気ディスクや相変化ディスク等、無機材料系の情報層を用いる場合は通常スパッタリング法あるいは真空蒸着法(電子ビーム蒸着、熱蒸着等)が用いられる。緻密で良好な膜質が得られることからスパッタリング法が用いられることが多い。
さて、従来主流であったランド記録タイプの光ディスクに加えて、近年、溝記録タイプも用いられるようになった。さらにはランド&グルーブ記録タイプも実用化され始めた。ランド&グルーブ記録は、記録トラックピッチを極めて高密度にすることが可能であり、高密度記録に有用である。
しかしながら、溝部を記録トラックとして情報を記録する媒体には、溝の内部に均一に情報層が付着しにくいという問題点があった。
【0005】
以下、図を用いて説明する。
図2の(a)は従来の光記録媒体の基板の溝形状と、成膜中の斜め入射粒子との関係を示す図であり、(b)は成膜後の膜付着状態を示す図である。
従来、溝の形状としてV字型及び矩形型が知られており、溝部を記録トラックとする場合は、高い再生信号を得るためやトラッキング特性の面などから矩形型が用いられることが多い。ここで、矩形型には台形型も含まれる。
図2(a)に示すように、従来の溝記録タイプの光ディスクは、光ディスク基板1に溝部2、溝間部3及びそれらを結合する溝壁面6よりなる矩形溝が形成されている。
基板1にスパッタリング法或いは真空蒸着法により情報層5の成膜を行うと、成膜粒子は様々な角度から基板に向かって飛来する。
基板直上から垂直に飛来した垂直入射粒子(図示せず)は、溝部2、溝間部3、溝壁面6に均一に付着する。
【0006】
しかし、基板に向かって斜め方向から飛来した粒子(斜め入射粒子)4は、溝壁面の影響で斜め入射成膜粒子の到達が妨げられるシャドウイングにより、溝部の底部の一部及び溝壁面の一部(シャドウイング領域)7には到達できない。このため図2(b)に示すように、情報層5の膜厚は溝部2が溝間部3に比べ著しく薄くなってしまう。従って、シャドウイングがあまり大きいと、溝部の膜厚が不十分となり良好な記録が行えないという問題がある。
【0007】
また、シャドウイングにより溝底部への到達が遮られた成膜粒子は、そのまま溝壁面上部に付着してしまうため、その部分の膜厚が厚くなり、成膜が進むに従い溝幅は狭くなっていく。また溝間部に比べて溝底部への膜付着が少ないため、溝深さはより深くなり、ランド&グルーブ記録では記録感度や特性が異なってしまう。なお、シャドウイングの影響は溝中心よりも壁面に近い方が強いので、成膜後の溝部の形状は壁面に近い細い部分が深くなる。つまり細い凹部が形成される。この細い凹部からは信号が再生し難くなるので、溝部からの信号は溝間部に比べより大きく劣化してしまう。
【0008】
さらに、本発明者の検討によれば、シャドウイングは再生信号のノイズ上昇の原因ともなることが分かった。通常、基板表面にはある程度の荒れ(微細な凹凸)が存在するが、溝壁面の荒れ、すなわち斜面の角度の変化はシャドウイングの状態を変動させ成膜速度を変化させるため、成膜が進むに従い、壁面の荒れは著しく強調されていくのである。この結果、溝幅、溝深さが局所的に変わり、これが再生信号の変動をもたらすので結果として大きなノイズを発生させることがわかった。
【0009】
さて、光記録媒体の記録再生方式には、基板を通して記録再生光を入射させ記録再生を行う基板面入射方式と、基板を通さずに(記録層側から)記録再生光を入射させる膜面入射方式とがあるが、膜面入射方式の光記録媒体では、シャドウイングによる特性悪化がより大きな問題となる。
一般に、基板面入射方式の光記録媒体の層構成は、基板/第1誘電体層/記録層/第2誘電体層(/反射層)であり、膜面入射方式の光記録媒体の層構成は、基板(/反射層)/第1誘電体層/記録層/第2誘電体層となっている。
いずれの方式でも、再生光は記録層表面において反射され、この光が検出器により検出されて再生信号となる。つまり、基板面入射方式では、再生光は第1誘電体層/記録層の界面で反射され、膜面入射方式では、再生光は記録層/第2誘電体層の界面で反射される。
ここで、シャドウイングによる溝壁面荒れの増幅、変形は、成膜が進むほど大きくなるから、基板から離れた膜の表面ほどその変形は顕著になる。膜面入射方式では、再生光は、より変形の大きい記録層表面で反射されるため、ノイズが大きくなりやすいのである。
【0010】
また、上述したように、成膜に伴い膜表面の溝形状はより狭く深くなっていくという溝形状の変形そのものも、基板から離れた膜表面ほど大きくなるため、ランド&グルーブ記録タイプでの溝部と溝間部の特性差といった問題もやはり膜面入射方式のほうが大きい。
シャドウイングを小さくするために、基板とターゲット(ないし蒸着源)の距離を離す方法(ロングスロー)や、基板とターゲット(ないし蒸着源)との間に垂直方向に飛来する粒子のみを基板に到達するようにする筒状の格子(コリメーター)を挿入する方法がある。
しかし、いずれの方法でもターゲットないし蒸着源の利用効率が著しく低下し、製造コストを増加させる。また成膜速度が低下するので製造に要する時間も長くなってしまう。
溝の深さを非常に浅くすれば、シャドウイングを低減できる。しかし、この場合はトラック追随(トラッキング)のために信号(溝信号)が著しく低下してしまう。
また、ランド&グルーブ記録タイプでは、光学的な干渉効果によってクロストーク(隣接記録トラックからの漏洩信号)を低減させているため、溝をあまり浅くするとクロストークの増加を招き、再生信号特性が悪化してしまう。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らの検討の結果、溝部及び溝間部の両方の大部分を曲面とすることでシャドウイングを低減できることが分かった。
溝部及び溝間部の両方を曲面とするための方法としては、例えば、樹脂基板に紫外線を照射し基板を変形させる方法がある。
【0012】
しかしながら、我々の検討では、通常光ディスクに使用されるポリカーボネート樹脂基板を紫外線処理した場合、樹脂の極性基の部分が優先的に分解されるので表面は極性の小さい状態となってしまうことがわかった。情報層は、自身の極性と基板の極性基との結合により基板と密着しているため、処理後の基板は情報層との密着性が極めて悪いものとなってしまい、高温、高湿の環境化等では容易に膜剥離を起こしてしまう。
また、この方法では、大量に生産される基板全てに処理を行わなければならないため、処理コストが膨大になる上、生産タクトが著しく低下するという問題がある。
【0013】
本発明の目的は、基板への紫外線照射で問題となる、基板と情報層との低密着性及び低処理効率を解消し、シャドウイングが小さくノイズが著しく低い情報記録媒体の大量生産が低コスト、高効率で達成できる製造方法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、基体上に、溝部及び互いに隣接する溝部の間に位置する溝間部を設けてなる、該溝部の底部にフォトレジストが残っているフォトレジスト層を有する情報記録媒体用原盤に、
又は、
基体上に、樹脂からなる下地層に接して設けられる、溝部及び互いに隣接する溝部の間に位置する溝間部を設けてなるフォトレジスト層を有する情報記録媒体用原盤に、
エネルギー線を照射して該溝の底部も曲面とすることを特徴とする情報記録媒体用原盤の製造方法に存する。
本発明の他の要旨は、上記方法により製造した情報記録媒体用原盤上に、金属層を形成したのち剥離してスタンパーとする工程を含むことを特徴とするスタンパーの製造方法に存する。
さらに本発明の他の要旨は、上記方法により製造した情報記録媒体用原盤上に、金属層を形成したのち剥離してスタンパーを作製する工程と、該スタンパーの表面形状を転写した基板を作製する工程と、該基板上に少なくとも記録層を含む情報層を形成する工程を含むことを特徴とする情報記録媒体の製造方法に存する。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下では、情報記録媒体として代表的な光記録媒体を例として説明を行う。
まず、光ディスクの一般的な製造工程について説明する。
精密に研磨された、表面の清浄なガラス板(基体)に、フォトレジストをスピンコート法などにより塗布し、所定厚さのフォトレジスト層を形成する。こののち適当な温度でベーキングを行い、フォトレジスト中の残留溶媒を飛ばす。次にフォトレジスト層に所定の信号に従いレーザー露光を行ったのち現像し、再度ベーキングののち、表面に溝やピットなどの所定の凹凸パターンが形成されたフォトレジスト層を有する光記録媒体用原盤を得る。
なお、本発明においては、情報記録媒体用原盤としてガラス原盤を例に説明するが、原盤の基体はガラスに限られるものではなく、平滑で所定の固さがあれば金属、セラミック、樹脂等でも良い。
【0016】
次に、ガラス原盤からフォトレジスト層表面にNiなどの金属薄膜をスパッタリング成膜し、これを電極としてNiなどの金属の電解メッキを行う。その後、金属部分をガラス原盤から剥離し、フォトレジスト層の凹凸パターンが逆に転写されたスタンパーを得る。スタンパーを形成する金属はNi以外であってもよい。
スタンパーをもとに、ポリカーボネート等の樹脂による射出成形を実施することで、スタンパー表面の凹凸パターンが正確に逆に転写された基板を得、続いて誘電体層、記録層、誘電体層、反射層などの情報層をスパッタリングなどの方法で成膜し、さらに紫外線硬化性樹脂からなる保護コート層を形成し、光記録媒体を得る。
【0017】
なお、上述のように作製したスタンパーをマスタースタンパーとし、剥離処理ののち電解メッキを行い金属層を形成し剥離して凹凸パターンの転写されたマザースタンパーを作製し、さらにもう一度電解メッキで凹凸の転写を行うことで最終的なサンスタンパーを得、これをもとに射出成形を行うこともできる。こういった複製技術を用いることで、一枚のガラス原盤から、より多くのスタンパーが作製できる。
【0018】
本発明は、基体上に、所定の凹凸パターンが設けられてなるフォトレジスト層を有する情報記録媒体用原盤に、エネルギー線を照射して該凹凸パターンの形状を変化させ所望の凹凸パターンを形成する。こうすることで基板表面の性状を変化させることなく、また全ての基板を一々処理することなく、容易に良好な溝形状の基板を得ることが可能となる。
これに対して、全ての樹脂基板をエネルギー線処理する方法は、製造ラインに数分間に及ぶ処理時間を持った紫外線照射装置等を導入する必要がある。通常の連続製造ラインは数秒の製造タクトで稼働するため、この流れの中で数分間の処理を行うには大量の基板を導入できる巨大な照射装置を必要とし、コストが膨大なものとなる。さらに紫外線ランプの連続照射を行うのでランプ交換等のメンテナンスが頻繁となり稼働コストの上昇及び稼働率の低下を招く。処理時間によっては製造タクトが長くなり、生産性を低下させてしまう。また処理した樹脂基板は、先に述べたように情報層との密着性の低下も大きな問題となる。
【0019】
本発明では、原盤の状態でエネルギー線処理を行うので、処理後の原盤からスタンパーを製造することで、わずか一回の処理により大量の良好な基板を作製できる。紫外線照射装置もガラス原盤が一枚乃至数枚入る程度のもので良く低コストですむ上、基板を全て処理するのに比べて遥かに使用時間が短くて済むので稼働コストも小さい。さらに、情報層を成膜する基板自体には処理を行わないので、情報層の密着性が低下することもない。
【0020】
次に、本発明について図を用いて説明を行う。
図4は本発明の一実施形態の説明図である。ガラスなどの基体10上に溝部2と溝間部3を有するフォトレジスト層9が形成されてなる。ここにエネルギー線8を照射する。
エネルギー線8は、波長300nm以下の紫外線を含むことが好ましい。300nm以下の光はフォトレジストのような樹脂表面の原子間の結合を切断すると共に、大気中の酸素を励起することで、表面をエッチングするとされている。
このとき、体積あたりの表面積の大きい角部や突起部はエッチング速度が大きく、優先的に削れる。
【0021】
この結果フォトレジスト層表面は全体の表面積を減少させるように溝などの凹凸パターンの角部が削れ、滑らかな曲面形状となるように変化する。
エネルギー線源としては、波長300nm以下の紫外線を含む低圧水銀ランプやエキシマランプが使用可能である。低圧水銀ランプは185nm及び254nmの波長を含んでいる。エキシマランプを用いることは低圧水銀ランプに比べ処理時間が短縮されて好ましい。例えば172nmの波長の低圧水銀ランプを用いることができる。
【0022】
原盤の処理は空気中で行って良いが、処理速度を遅くし処理時間を長めにして凹凸パターン形状の制御を行い易くするために、窒素やアルゴン等を雰囲気中に導入することもできる。逆に、処理を高速で行うためには、酸素を雰囲気中に導入することも可能である。
処理中の、ランプなどのエネルギー線源と原盤の距離は15mm以下であることが好ましい。また2mm以上であることが好ましい。距離が遠過ぎると紫外線が空気中で吸収されてしまい効果が小さくなる。また近すぎるとランプの輻射熱でフォトレジスト層が加熱される上、光強度にむらが生じやすい。
照射時間はエネルギー線源と原盤の距離や元々の溝形状等によるが、1分以上であることが好ましい。さらに好ましくは2分以上である。また、照射時間が長すぎると溝が全て削れてしまうので、30分以下であることが好ましい。
【0023】
照射する紫外線のパワーは、0.5W/cm2 以上であることが好ましい。さらに好ましくは0.8W/cm2 である。ただし強すぎると反応の制御が困難になる上、フォトレジスト層が加熱されてしまうので5W/cm2 以下であることが好ましい。さらに好ましくは4W/cm2 以下である。
全面均一に処理を行うために、紫外線を照射しながら原盤を回転させるのは好ましい手法である。複数の原盤をホルダーに載せ、回転させながら全て同時に処理を行うこともできる。
紫外線処理を行うと、一旦処理前より溝やピットなどの凹凸パターンの深さが深くなり、処理が進行するとまた浅くなっていく傾向がある。従って、処理後に最適な形状をとるように、処理前の溝やピットの形状を調整しておくことが好ましい。
【0024】
さて、上述のシャドウイングは溝部と溝間部の角部において大きく発生するため、本発明は、溝部及び互いに隣接する溝部の間に位置する溝間部を有する原盤に用いて効果が大きい。
処理後の溝形状は、溝部及び溝間部が両方とも、その大部分が曲面で構成されていることが好ましい。即ち、一組の溝部及び溝間部の平坦な部分の合計を平坦部F、溝部の中心と隣接する溝部の中心の間隔TP(すなわち溝ピッチ)とすると(図3参照)。そして、断面溝形状には、エッジや切り立った溝壁面がほとんど無く、滑らかである。そして、平坦部Fを溝ピッチTPの45%以下とするのが好ましい。以下、このような溝形状の溝を「波状溝」と称する。
ここで、平坦部とは、基板の溝の形成されていない領域の面に実質的に平行である平坦な領域である。より厳密には、基板表面の高さ変動が、溝深さの1%以内である連続した領域を平坦部とみなすことができる。ただし、微小な表面荒れや突起等による変動は高さ変動とはみなさない。
また、溝形状の測定は、例えば原子間力顕微鏡(AFM)などにより行うことができる。
【0025】
或いは波状溝は、次のように捉えることもできる。断面溝形状が、凹状の曲面と凸状の曲面とが交互に連続し、かつ、平坦部Fが溝ピッチTPの45%以下の形状である。つまり、図3に示すごとく、基準線に対して凹状の曲面と凸状の曲面とが連続している。ここでは、連続している様子がTP1個分しか示していないが、実際の媒体では遥かに多くの凹凸が連続している。そして、溝部の平坦部と溝間部の平坦部の合計が、溝ピッチTPの45%以下と小さい。
凹状の曲面とは大部分が凹状の曲面のことを、凸状の曲面とは大部分が凸状の曲面のことを言い、いずれも多少であれば平坦部Fを含んでいても良い(図3参照)。
ランド&グルーブ記録方式の光記録媒体の場合は、溝間部の平坦部を溝ピッチの半分より若干広めにしておくことが好ましい。これは平坦部と溝部の境界の位置が最もフォトレジストが削れやすく、処理後に溝間部の幅が減少してしまうためである。
【0026】
ところで、原盤を上述のようにエネルギー線で処理する場合、処理前の溝の底部にフォトレジスト層がなくガラスなどの基体面が露出していると、この部分はエッチングされないので完全な波状溝とはならない。しかしながらこのときも溝の角部が除去されることによるノイズ低減の効果は得られる。
溝底部にフォトレジスト層が残っている、いわゆるV溝(溝断面が略V字形状の溝)を用いることもできる。V溝は溝底部に平坦部がほとんど無いので、溝部を記録トラックとして記録層に情報を記録する溝記録方式ないしランド&グルーブ記録方式には通常は用いられないが、本発明によれば、V溝はエネルギー線処理後に曲面となるため溝部への記録も可能となる。
ただし、一般には、溝記録方式ないしランド&グルーブ記録方式に用いる光記録媒体には、フォトレジスト層を底まで露光し現像後に台形状或いは矩形状の溝断面形状を得る、いわゆるU溝が用いられる。このとき、通常、溝の底部にはガラスなどの基体面が現れている。
このような場合、フォトレジスト層を樹脂からなる下地層に接して設けることが好ましい。
【0027】
図5に、本発明の他の実施例を示す。基体10上に、樹脂からなる下地層11が形成され、さらに溝部2と溝間部3を有するフォトレジスト層9が設けられてなる。下地層11は樹脂からなるため、溝の底部もフォトレジスト層と同様にエネルギー線によりエッチングされ、溝底部も曲面とすることができる。
下地層に用いる樹脂としては、フォトレジストの露光や現像により影響を受けないこと、フォトレジスト層と反応しないこと、フォトレジストとの密着性がよいことなどを考慮して選ぶことができる。例えば、ポリカーボネート、ポリイミド、アクリル系樹脂等でもよく、あるいはフォトレジストを変性させ露光や現像で影響を受けなくしたものでもよい。
【0028】
また、形成後の下地層表面は充分に平滑であることが好ましい。基体10と下地層11のあいだには必要に応じて他の層を設けてもよい。
下地層の形成にはさまざまな手法を用いうる。例えば、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアクリレート等の樹脂を溶媒に溶解させたのち塗布、乾燥させてもよい。或いは同樹脂を加熱溶融させたのち塗布、冷却してもよい。塗布方法としてはスピンコート等がある。又は、フォトレジストを塗布したのちに露光感度が低下するように熱処理などを施して変性させたものを下地層としてもよい。
ただし、下地層上にフォトレジストを塗布する際には、下地層樹脂とフォトレジストとが混ざらないように、溶媒を揮発させるなり、冷却するなりしてフィルム状に固化しておくことが好ましい。
【0029】
あるいは、熱硬化性樹脂、紫外線硬化性樹脂等の硬化性樹脂を用い、塗布後に硬化させても良い。フィルム状の樹脂を基体上に接着することもできる。
下地層は薄すぎると紫外線処理により基体面が露出してしまうので、厚さは50nm以上であることが好ましい。さらに好ましくは100nm以上である。一方、厚過ぎると平坦性が低下するので10μm以下であることが好ましい。さらに好ましくは5μm以下である。
【0030】
ユーザーへの配布情報ないしアドレス情報、光記録媒体の記録再生に関する情報等があらかじめ記録されている凹凸ピットの形状に関しては、エネルギー線処理による形状変化を考慮して最適化されていることが好ましい。より具体的には、エネルギー線処理により一般にピットは拡大するので、あらかじめ最適値より小さめのピットを作製しておくことが好ましい。
凹凸ピットの形状を変化させたくない場合には、凹凸ピットの入った領域を何らかの方法でエネルギー線から遮蔽してもよい。例えば紫外線でエッチングする際に紫外線を局所的にカットするマスク板を紫外線ランプと基板の間に挿入しても良い。
このようにして作製した情報記録媒体用原盤上に、Niなどの金属層を形成したのち剥離してスタンパーを得、さらにこのスタンパーをもとに、その表面形状を転写した基板を射出成形などにより作製する。
【0031】
以上のようにして作製した基板に情報層を成膜する。成膜にはスパッタリング法ないし真空蒸着法などを用いることができる。
これらの方法では粒子が蒸発源から直線的に基板に到達するためシャドウイングの影響が強く、本発明の適用による改善効果が大きい。ただしこれら以外にも、例えばスピンコーティング法でも従来は溝部に塗布液がたまり、溝間部よりも厚く塗布されるという問題があったが、本発明を適用することで改善することができる。
【0032】
本発明の製造方法は、ユーザーが記録可能である情報記録媒体に好ましく適用できる。記録層としては、各種のものを用いることができ、例えば光磁気記録層や相変化型記録層、色素型記録層、無機追記型記録層が用いられる。また、層構成としても各種のものを採用することができる。
光磁気記録層としては、例えばTbFe、TbFeCo、TbCo、GdFeCo、DyTbFeCo等の希土類と遷移金属との非晶質磁性層、MnBi、MnCuBi等の多結晶垂直磁化層、Pt/Co多層膜等が用いられる。
【0033】
光磁気記録層は単層であっても良いし、オーバーライトやMSR(磁気超解像)を可能とするためにGdTbFe/TbFeのように2層以上の磁性層を重ねて用いても良い。
相変化型記録層としては、例えばGeSbTeやInSbTe、AgSbTe、AgInSbTe、GeInSbTeといった化合物が使用できる。
好ましくは、{(Sb2 Te3 )1-x (GeTe)x }1-y Sby (0.2<x<0.9、0≦y<0.1)合金、及び該3元合金に10原子%程度までのIn、Ga、Zn、Sn、Si、Cu、Au、Ag、Pd、Pt、Pb、Cr、Co、O、S、Se、Ta、Nb、Vのうち少なくとも1種を含む合金薄膜があげられる。
【0034】
あるいは、高速でのオーバーライトが可能な材料として、Sb70Te30共晶点近傍のSbTe合金を主成分とする、MSbTe(M=In、Ga、Zn、Ge、Sn、Si、Cu、Au、Ag、Pd、Pt、Pb、Cr、Co、O、S、Se、Ta、Nb、Vのうち少なくとも1種)合金薄膜が好ましい。
無機追記型記録層としてはTeSe等、色素型記録層としては、シアニン色素、フタロシアニン色素、含金属アゾ色素、又はそれらの混合物などを用いることができる。
【0035】
記録層の上部及び/又は下部には耐候性、高硬度、高滑性などの性質を備えた透明中間層を設けるのが好ましい。中間層の材質はこれら性質を考慮の上選ばれる。耐候性、高硬度といった点では誘電体が好ましい。
誘電体としては金属酸化物、窒化物、カルコゲン化物、炭化物、フッ化物、およびその混合物などが用いられる。
金属酸化物としてはAl2 O3 、Ta2 O5 、SiO2 、SiO、TiO2 等の金属酸化物単独又はこれらの混合物、或いはAl−Ta−Oの複合酸化物等が挙げられる。
金属窒素物としては、窒化ケイ素、窒化アルミニウム等が挙げられる。
【0036】
カルコゲン化物としては、ZnS、ZnSe等のカルコゲン化亜鉛、CdS、CdSe等のII−V族化合物、La2 S3 、Ce2 S3 等の希土類硫化物、TaS2 、MgS、CaS等があげられる。カルコゲン化亜鉛は化学的にも安定で、その中でも特にZnSは毒性も低く最も好ましい。
さらに、高反射率の金属又は合金からなる反射層を設けても良い。反射層材料としては、Al、Ag、Au、Pt又はこれらの合金、或いはこれらの一種以上を主成分とする合金などが用いられる。
【0037】
本発明においては、上記の層を総称して情報層と称する。
以下、情報層の形成とシャドウイング、及び溝形状の関係についてより詳細に説明する。
図2(a)は従来の光記録媒体の基板の溝形状と、成膜中の斜め入射粒子との関係を示す図である。溝形状は、溝の延在方向に垂直な断面の溝形状である。なお、実際の成膜粒子は様々な角度から飛来するが、図2(a)には便宜上一方向の斜め入射粒子しか記載していない。
図2(b)は成膜後の膜付着状態を示す図である。従来の断面が台形に近い溝形状の場合、シャドウイングのため溝底部には成膜されにくいので溝深さは深くなる。また壁面部にはシャドウイングされた粒子が付着するので溝幅は狭くなる。さらに溝深さは溝底部の壁面に近接した部分で最も深くなる。
【0038】
従って成膜後の溝形状は基板本来のものとはかなり異なったものとなる。こういったシャドウイングによる溝形状変化は溝部、溝間部の特性変化を生じ、またその局所的ばらつきによりノイズを発生させていた。
例えば光磁気記録媒体の場合、信号強度は反射率、カー回転角及び楕円率によって決まる。溝部と溝間部からの各々の反射光は、その光路長の違いから位相の違いを持つ。従って全体の楕円率はそれらの合成によって決定される。溝幅、深さが変化すると反射光の楕円率は変動し、反射率変動と相まって大きなノイズを発生する。
【0039】
このように光磁気記録媒体の場合は反射率変動、楕円率変動ともにノイズを発生させるのでシャドウイングに伴うノイズは特に大きくなってしまう。
もちろん、他の光記録媒体であっても、反射率変化を検出する媒体であれば溝形状変化は反射率変動を引き起こし、ノイズを発生させる。例えば、相変化媒体や色素型媒体、無機ライトワンス媒体などである。
一方、図1(a)は本発明の方法により作製した光記録媒体の一実施例の基板の溝形状と、成膜中の斜め入射粒子との関係を示す図である。溝形状は、溝の延在方向に垂直な断面の溝形状である。なお、実際の成膜粒子は様々な角度から飛来するが、図2(a)には便宜上一方向の斜め入射粒子しか記載していない。
【0040】
本発明においては溝部及び溝間部が両方とも、その大部分が曲面で構成されていることが好ましい。即ち、本発明においては、一組の溝部及び溝間部の平坦な部分の合計を平坦部F、溝部の中心と隣接する溝部の中心の間隔TP(すなわち溝ピッチ)とすると(図3参照)、平坦部Fを溝ピッチTPの45%以下とした波状溝とするのが好ましい。
波状溝では溝壁面がほとんど存在しないので、図1(a)に示すように溝壁面による成膜粒子のシャドウイングは著しく低減される。より好ましくは平坦部Fを溝ピッチTPの30%以下とし、さらに好ましくは20%以下とする。溝形状の測定は、例えば原子間力顕微鏡(AFM)などにより行うことができる。
【0041】
ここで、平坦部とは、基板の溝の形成されていない領域の面に実質的に平行である平坦な領域である。より厳密には、基板表面の高さ変動が、溝深さの1%以内である連続した領域を平坦部とみなすことができる。ただし、微小な表面荒れや突起等による変動は高さ変動とはみなさない。
【0042】
本発明の波状溝は、溝部と溝間部全体を曲面により滑らかに結合させることが望ましい。これにより効果的にシャドウイングを防止することができる。ここで、溝部は凹状であり、溝間部は凸状の曲面を有している。
このような波状溝を用いることにより成膜後の溝形状は図1(b)に示すように、本来の基板溝形状と大変類似したものとなる。この結果、溝部と溝間部での膜厚差が非常に小さくなり、均一な特性を得ることができる。しかも、溝部内での膜厚むらも無くなるので、溝部からの再生信号特性が大きく改良される。またシャドウイングに伴う溝形状の微視的、巨視的な変形がともに小さいので、ノイズを小さくすることができる。
【0043】
上記したように光磁気記録媒体ではシャドウイングによるノイズが特に大きいため、本発明を適用することによるノイズ低減効果が特に著しい。
また、シャドウイングを大きく受けるスパッタリング法ないし真空蒸着法により情報層の少なくとも一部が成膜される媒体に用いて効果が高い。
【0044】
さらに、本発明は、溝部を記録トラックとして情報記録を行う方式の媒体に用いて顕著な効果がある。特に、溝部と溝間部の両方に記録を行うランド&グルーブ記録用媒体に用いると、溝部と溝間部の特性差が小さくなり好ましい。この場合波状溝は、凸状の溝間部と凹状の溝部とが、ほぼ反転した同一形状となることが望ましい。
【0045】
本発明において特に好ましくは、平坦部Fが存在せず、溝部及び溝間部が全て曲面より構成されることである。これにより、ランド&グルーブ記録において、溝部と溝間部の両方の特性差をほとんどなくすことができる。
なお、ユーザーが記録に使用しない領域では、溝形状は必ずしも曲面でなくてもよい。例えば、基板上の凹凸ピットによりアドレス情報等が記録されている領域のピットの断面形状が曲面でなくてもよい。
【0046】
以下では、本発明においてより好ましい溝形状について説明する。
溝が極端に浅ければシャドウイングの影響が少ないのは前述のとおりである。しかし、溝が浅すぎると記録再生時に充分なトラック追随信号がとりにくくなる。また、溝が浅くなることで、隣り合うトラック間を熱が伝わっていく距離が短くなるので、記録又は消去時の加熱がその隣接トラックに干渉を及ぼす可能性が高くなる。つまり記録、消去の光パワーの許容範囲が狭くなる傾向がある。
【0047】
さらに、ランド&グルーブ記録では、溝深さを適度な範囲とすることにより、溝部からの反射光と溝間部からの反射光との光干渉によってクロストークを軽減する「クロストークキャンセル」という方法が用いられている。
一般に、この効果を出すためには溝部に入射する光の波長λに対し、少なくともλ/6の溝深さを必要とする。ただしλ/3以下が好ましい。ここで、膜面入射方式の場合、λは空気中での波長であり、基板面入射方式の場合は、基板中での波長である。
従来は、溝深さを深くするとシャドウイングの影響が大きくなってしまうために、溝記録、或いはランド&グルーブ記録においても、必ずしも最適な溝形状とすることができない場合があった。
【0048】
本発明によれば、シャドウイングを低減できるため、上記のような点のみを考慮して溝形状の最適化を実施できる。
好ましい溝深さは、下限がλ/20以上であり、より好ましくはλ/15以上である。また上限はλ/4以下であり、より好ましくはλ/5以下である。
また、溝幅0.7μm以下と狭い光記録媒体はシャドウイングの影響が大きいので、本発明の適用効果は特に高い。
溝深さと溝幅の比(アスペクト比)が大きいと、溝部に再生光が侵入しにくく再生信号が低下しやすい。従って
【0049】
【数1】
d/w < 0.3
【0050】
であることが好ましい。さらに好ましくは、
【0051】
【数2】
d/w < 0.2
【0052】
である。
ここで、図3に、本発明における溝形状のパラメータの定義を示す。溝深さdは、溝断面形状で見て溝部と最凹部と溝間部の最凸部の垂直方向の距離により定義される。溝幅wは溝深さがd/2となる位置を結んだ溝部の幅である。
ランド&グルーブ記録の場合、溝幅wは溝ピッチTPに対し、好ましくは35%以上とし、より好ましくは40%以上とする。ただし、65%以下が好ましく、より好ましくは60%以下である。この範囲とすることにより、ランドと溝(グルーブ)の両方の特性をバランスよく良好に保つことができる。
【0053】
また本発明は、成膜にともなう溝形状変動を抑えるので、特に膜面入射方式に用いて効果が高い。このような方式では、基板に伴う収差の発生が無いので、基板面入射方式と比べ高い開口数のレンズを使用可能である。また対物レンズを膜面に近接可能であるため、SIL(Solid Immersion Lens)を用いることで1を越える大きな開口数を得ることができる。対物レンズを膜面に近接させる記録再生方法としてはまた、例えば対物レンズを浮上型ヘッドに搭載する方法もある。本発明によればこのような膜面入射方式の媒体のCNRを大きく向上させることができるため、非常に高密度の情報記録が可能となる。
【0054】
膜厚が厚いほどシャドウイングによる溝形状変動は激しいため、本発明は、記録層を厚く設ける媒体、例えば光磁気記録媒体における光変調オーバーライト媒体、磁気超解像(MSR)媒体等に用いて特に好ましい。好ましくはスパッタリングないし真空蒸着により作製される記録層の膜厚が100nm以上の媒体であり、さらに好ましくは200nm以上の媒体である。
膜の低付着効率が大きな問題とならない場合、波状溝とロングスロースパッタリング、あるいはコリメーター等を組み合わせることで、シャドウイングに関してはより低減が可能である。
【0055】
【実施例】
以下に実施例をもって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(実施例1〜5、比較例1)
円盤状のガラスの基体上にフォトレジストを厚さ180nmに塗布し、レーザー露光機で所定の信号に従い露光しさらに現像し、螺旋状に溝を形成した。溝ピッチTPは1.2μmであり、溝の延在する方向に垂直な断面の溝形状は、溝幅0.42μm、溝深さ65nm、溝間部の平坦部が0.58μmのV溝であった。V溝であるため溝部の平坦部はない。溝は原盤の内径30mmから60mmまで形成されている。
これらガラス原盤に対し、一枚を除き、出力300Wの低圧水銀ランプで紫外線照射を行った。用いた低圧水銀ランプの発光は185nmと254nmの波長を含んでいる。ガラス原盤とランプの距離は5mmであった。紫外線照射ののち、溝形状をAFM(原子間力顕微鏡)で観察した。
照射時間と溝形状の関係を表−1に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表−1から分かるとおり、照射とともに平坦部は減少していき、10分以上の照射で、平坦部が存在せず全体が曲面より構成される溝形状となった。処理時間が15分では、溝間部の減少に伴って溝幅が広くなり溝部の一部が平坦となった。
次に、これらガラス原盤上にNi薄膜をスパッタリングした後、これを電極として電解メッキで300μmの厚みまでNiを堆積させた。この後ガラス原盤からNiを剥離してスタンパーとした。これを射出成形機に取り付け、ポリカーボネート樹脂により、1.2mm厚、直径130mmの基板を射出成形した。
これら基板上に、スパッタリングにより膜厚70nmの酸化Ta、膜厚100nmのTb21(Fe80Co20)89 、膜厚80nmの窒化Siを成膜し、光磁気ディスクを作製した。酸化Taと窒化Siは直流反応性スパッタリング、TbFeCoは直流スパッタリングにより成膜した。
波長680nm、対物レンズの開口数NA=0.55の評価機で、これらディスクを線速8m/sで回転させながら、膜面入射方式及び基板面入射方式の両方で評価を行った。いずれのディスクでも充分なトラック追随信号(トラッキング信号)が得られた。
【0059】
なお、評価機の対物レンズが1.2mmの基板を介して用いるように最適化されて設計されていたため、膜面入射方式での評価の際は、ディスクと対物レンズのあいだに1.2mmのガラス板を挿入した。
各々に1.52μmのマーク長で記録し、再生した信号特性CNR(dB)を表−1に示す。CNRは40dB以上得られるのが好ましく、より好ましくは45dB以上である。また、溝部と溝間部との差が小さいほど好ましい。
紫外線照射時間が3分の実施例1でも、溝部においてCNRに改善が見られ、実施例2〜5は溝部でも溝間部でもCNR40dB以上が得られるようになった。
これらの媒体に対し、セロハンテープを用いて情報層のテープ剥離試験を行ったところ、全ての媒体において情報層の基板からの剥離は見られなかった。
【0060】
(実施例6)
実施例1と同様に溝を作製したガラス原盤に対し、出力200W、波長172nmのエキシマランプ(ウシオ電機製)で紫外線照射を行った。原盤とランプの距離は5mmであった。紫外線照射ののち、溝形状をAFM(原子間力顕微鏡)で観察した。表−1に結果を示す。
1.5分の照射では平坦部がTPの8%まで減少し、2分の照射で平坦部が存在しない、全体が曲面より構成される溝形状となった。
【0061】
次にこの原盤より実施例1と同様にスタンパーを得、さらにこれより光ディスクを得た。実施例1と同様の評価を行った結果を表−1に示す。いずれもCNR45dB以上が得られている。
この媒体に対し、セロハンテープを用いて情報層のテープ剥離試験を行ったところ、情報層の基板からの剥離は見られなかった。
【0062】
(参考実施例1〜3、参考比較例1)
円盤状のガラスの基体上にフォトレジストを厚さ70nmに塗布し、レーザー露光機で所定の信号に従い露光しさらに現像し、螺旋状に溝を形成した。溝ピッチTPは1.2μmであり、溝の延在する方向に垂直な断面の溝形状は、溝幅0.60μm、溝深さ70nm、溝間部と溝部の平坦部がともに0.55μmのU溝であった。溝は原盤の内径30mmから60mmまで形成されている。
これらガラス原盤に対し、一枚を除き、出力300Wの低圧水銀ランプで紫外線照射を行った。用いた低圧水銀ランプの発光は185nmと254nmの波長を含んでいる。ガラス原盤とランプの距離は5mmであった。紫外線照射ののち、溝形状をAFM(原子間力顕微鏡)で観察した。
照射時間と溝形状の関係を表−2に示す。
【0063】
【表2】
【0064】
紫外線照射とともに溝間部の平坦部が減少した。また溝深さも減少した。
次にこれら原盤より実施例1と同様にスタンパーを得、さらにこれより光ディスクを得た。実施例1と同様の評価を行った結果を表−2に示す。紫外線照射を行ったものはほぼCNR45dB以上が得られている。
これらの媒体に対し、セロハンテープを用いて情報層のテープ剥離試験を行ったところ、全ての媒体において情報層の基板からの剥離は見られなかった。
【0065】
(実施例7〜11、比較例2)
円盤状のガラスの基体上にフォトレジストを厚さ200nm塗布し、130℃で2時間加熱することで硬化させ、また光への反応性を失わせ、下地層とした。続いてフォトレジストを厚さ60nmに塗布し、レーザー露光機で所定の信号に従い露光しさらに現像し、螺旋状に溝を形成した。溝ピッチTPは1.2μmであり、溝の延在する方向に垂直な断面の溝形状は、溝幅0.60μm、溝深さ60nm、溝間部と溝部の平坦部がともに0.
55μmのU溝であった。平坦部合計は1.1μmであり、溝ピッチの92%であった。溝は原盤の内径30mmから60mmまで形成されている。
これらガラス原盤に対し、一枚を除き、出力300Wの低圧水銀ランプで紫外線照射を行った。用いた低圧水銀ランプの発光は185nmと254nmの波長を含んでいる。ガラス原盤とランプの距離は5mmであった。紫外線照射ののち、溝形状をAFM(原子間力顕微鏡)で観察した。
照射時間と溝形状の関係を表−3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
紫外線照射とともに溝間部の平坦部が減少し、10分以上の照射で平坦部が存在しない、全体が曲面より構成される溝となった。このとき溝底部がエッチングされることにより、溝深さは65nmまで増加した。処理時間が15分の場合は溝間部の減少に伴って溝幅が広くなり、溝部での平坦部が増加した。
【0068】
次にこれら原盤より実施例1と同様にスタンパーを得、さらにこれより光ディスクを得
た。実施例1と同様の評価を行った結果を表−3に示す。
紫外線照射時間が3分の実施例10でも溝部においてCNRに改善が見られ、実施例8〜11は溝部でも溝間部でもCNR45dB以上が得られるようになった。
これらの媒体に対し、セロハンテープを用いて情報層のテープ剥離試験を行ったところ、全ての媒体において情報層の基板からの剥離は見られなかった。
【0069】
(比較例3)
比較例2において作製したポリカーボネート基板を、出力300Wの低圧水銀ランプで10分間、紫外線照射を行った。用いた低圧水銀ランプの発光は185nmと254nmの波長を含んでいる。基板とランプの距離は3mmであった。
本基板上に、実施例1と同様にして情報層を形成後、実施例1と同様の評価を行った。膜面入射方式での評価で、溝部及び溝間部のCNRは各々51.2dB、51.5dBであった。
次に、この媒体に対し、セロハンテープを用いて情報層のテープ剥離試験を行ったところ、情報層は基板から容易に剥離した。
【0070】
【発明の効果】
本発明によれば、基板への紫外線照射で問題となる、基板と情報層との低密着性及び低処理効率を解消し、シャドウイングが小さくノイズが著しく低い情報記録媒体の大量生産が低コスト、高効率で達成できる製造方法を提供することにある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は本発明により作製した光記録媒体の一実施例の基板の溝形状と、成膜中の斜め入射粒子との関係を示す図であり、(b)は成膜後の膜付着状態を示す図である。
【図2】 (a)は従来の光記録媒体の基板の溝形状と、成膜中の斜め入射粒子との関係を示す図であり、(b)は成膜後の膜付着状態を示す図である。
【図3】 溝形状のパラメータの定義を示す説明図である。
【図4】 本発明のエネルギー線処理方法の一実施例の説明図である。
【図5】 本発明のエネルギー線処理方法の他の実施例の説明図である。
【符号の説明】
1 基板
2 溝部
3 溝間部
4 斜め入射粒子
5 情報層
6 溝壁面
7 シャドウイング領域
8 エネルギー線
9 フォトレジスト層
10 基体
11 下地層
Claims (6)
- 基体上に、溝部及び互いに隣接する溝部の間に位置する溝間部を設けてなる、該溝部の底部にフォトレジストが残っているフォトレジスト層を有する情報記録媒体用原盤に、
又は、
基体上に、樹脂からなる下地層に接して設けられる、溝部及び互いに隣接する溝部の間に位置する溝間部を設けてなるフォトレジスト層を有する情報記録媒体用原盤に、
エネルギー線を照射して該溝の底部も曲面とすることを特徴とする情報記録媒体用原盤の製造方法。 - 上記エネルギー線が、波長300nm以下の紫外線を含んでいる請求項1に記載の情報記録媒体用原盤の製造方法。
- 上記エネルギー線の照射により上記フォトレジスト層表面がエッチングされる請求項1乃至2のいずれかに記載の情報記録媒体用原盤の製造方法。
- 請求項1乃至3のいずれかに記載の方法により製造した情報記録媒体用原盤上に、金属層を形成したのち剥離してスタンパーとする工程を含むことを特徴とするスタンパーの製造方法。
- 請求項1乃至4のいずれかに記載の方法により製造した情報記録媒体用原盤上に、金属層を形成したのち剥離してスタンパーを作製する工程と、該スタンパーの表面形状を転写した基板を作製する工程と、該基板上に少なくとも記録層を含む情報層を形成する工程を含むことを特徴とする情報記録媒体の製造方法。
- 上記情報記録媒体が、溝部及び互いに隣接する溝部の間に位置する溝間部を有する基板上に少なくとも記録層を含む情報層が設けられてなり、かつ少なくとも該溝部を記録トラックとして記録層に情報を記録するために用いられる媒体である請求項5に記載の情報記録媒体の製造方法。
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