JP3871015B2 - 円すいころの研削方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、研削砥石と調整車との間に挿入した円すいころを、該円すいころの軸線方向に連続的に送りながら外周を研削する円すいころの研削方法に関し、特に、スルーフィード研削における不安定現象である「ジャー」の発生を防止する研削方法の改良に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、円すいころ軸受に用いられる円すいころのセンタレス・スルーフィード研削は、図10に示すように、鍔1、ねじ状溝3を設けた調整車5と、ブレード7とにより図11に示す円すいころ9を支持し、砥石11と接触することにより円すいころ9の外周を研削する。このとき、研削抵抗によって円すいころ9と調整車5との間には力が作用し、円すいころ9は調整車5の回転により自転すると共に、鍔1により軸線方向に送られ、調整車5の1回転に1個づつ次々と研削が行われる。
【0003】
ここで、砥石11の中心OGと調整車5の中心OCとを結ぶ直線に対し、円すいころ9の中心と砥石11の中心OGとを結ぶ直線がなす角をα、円すいころ9の中心と調整車5の中心OCとを結ぶ直線がなす角をβとすると、γ(=α+β)は芯高角と呼ばれ、γ=7°のときが成円作用の最適値とされている。従来の円すいころの研削方法では、ごみ等による円すいころ9の浮き上がり(調整車回転方向)を阻止すべく、上部にトップブレード13を最小隙間状態で設けてある。また、調整車5は、円すいころ大径側と鍔1の関係から、図10(b)に示す調整車の手前側を持ち上げる。即ち、スルーフィード角θthは、θth≧0とされる。
【0004】
一般的に、センタレス・スルーフィード研削は、ワークが円筒形状(円筒ころ、ニードル、軸受外輪等)であり、調整車には円筒形状の砥石が使用され、円筒ワークの軸線方向に亘って調整車と同周速になる(但し、微小スリップは存在する)。しかし、ワークが円すいころ9の場合、ワーク外周面がテーパ状であるために、調整車5は、図10に示す傾斜を持つ溝3及び鍔1からなるねじ状のスチール製ドラムが用いられる。円すいころ9は、調整車5とブレード7により支持され、砥石11に対して研削送り量が与えられ、研削抵抗の法線方向成分により円すいころ9が調整車5に押しつけられて自転する。
【0005】
このとき、研削抵抗の接線方向成分は、円すいころ9の自転を発生させる方向に作用するため、ブレード7の摩擦抵抗(すべり)と、円すいころ9、調整車5間のころがり抵抗がバランスし(但し、溝3、鍔1部では多少すべり成分有り)、調整車5の周速と、円すいころ9の周速とが略同一となる。そして、円すいころ9は、鍔1により軸線方向に送られ、次々にスルーフィード研削される。
【0006】
円すいころ9は、研削加工時の真円度精度向上のため、砥石11、調整車5の中心位置を結ぶ線よりHだけ上方に配置される(即ち、Hはγ=7°となる高さ)。但し、下方にH(芯高)を設定する方法もあり、この方法によってもスルーフィード研削を行える。
上記条件の下では、図10(a)に示すように、円すいころ9外周面の円すい頂点Bと、調整車溝円すい頂点Aとは、円すいころ9を挟んで反対側に位置している。このため、円すいころ9の軸線方向の任意の位置で、円すいころ9と調整車5との相対速度の方向が変わり、ころがり条件が満たされない領域が生じる。この点が円すいころセンタレス・スルーフィード研削の特徴である。
【0007】
図12は、芯高H=0、ブレード摩擦力=0、調整車5と円すいころ9との回転軸が平行となるように単純化して、図10の円すい頂点A、Bを考慮した相対的な周速度と、円すいころに働く摩擦力の向きとを示した説明図である。図12には、砥石の法線方向研削抵抗FN 、接線方向研削抵抗FT も示している。図12(a)は円すいころの軸方向の中点で相対速度0の場合、図12(b)は円すいころの速度がより大となり小径部にて相対速度0の場合、図12(c)は反対に円すいころの速度がより小となり大径部にて相対速度0の場合を示している。
【0008】
図12(c)では、円すいころと調整車との間の摩擦力、接線方向研削抵抗FT との方向が円すいころの自転速度を大きくする方向で一致するため、円すいころの回転速度が大となり、図12(a)、(b)の状態に移行する。従って、図12(c)の状態は実際には存在しない。
図12(a)では、円すいころと調整車との間の摩擦力の方向が、円すいころ軸線方向の中央位置で逆転するため摩擦力が0となり、図12(c)の場合と同様に、図12(b)へ移行する。
また、図12(b)では摩擦力の方向は、全ての軸線方向位置で接線方向研削抵抗FT とは反対側にブレーキ力として作用している。
【0009】
ここで、相対すべり速度は摩擦力に関係しないとすると、図12(a)の等速位置を越えて、円すいころ周速大の領域では、円すいころ9の回転は不定、又は砥石周速まで増大する不安定状態となる。従って、正常研削状態では、図12(a)の状態から図12(b)の状態の間、即ち、円すいころ9の軸線方向中央から小径側との間に周速の等しい位置が存在しなければならない。逆に、この状態が維持できるような円すいころ9と調整車5間の摩擦係数が必要である。この摩擦係数μ0 は、図12より、
μ0FN >FT → μ0>FT /FN
となる。
【0010】
以上の状況において、何らかの理由により突然「ジャー」と呼ばれる不安定現象が発生することがある。「ジャー」発生直後の円すいころの性状調査によれば、外径面の粗さより、円すいころは砥石周速近くまで回転させられ、また、外径寸法より、円すいころは調整車の溝の送り方向先端まで寄せられたことが確認されている。さらに、「ジャー」発生部分の砥石が大きなダメージを受けていることも確認されている。
【0011】
この「ジャー」は、砥石11により円すいころ9の回転が突発的に増大され、調整車5の鍔1から大径側が離れ、更に研削抵抗の増大と回転速度の増大が発散現象となり、小径側が鍔1に当たるまで異常研削(砥石周速と円すいころの自転速度が近くなり、クラッシングに近くなる)が行われ、「ジャー」という異常音を発生する現象である。「ジャー」という名前もそのときの異常音より名付けられている。
【0012】
一般に、FT /FN は、0.25〜0.4であるから(FT /FN はドレス条件により変化し、研削面粗さが小さいほど小さくなる)、静止摩擦係数を0.3とすると「ジャー」の発生防止には非常に厳しい値で、図12(b)に近い状態と考えられる。また、厳密には鍔1、ブレード7による摩擦及び芯高も考慮した解析が必要となる。一方、図12(a)に近い場合では、円すいころの小径部を浮かせるモーメントが発生することになる。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
図13〜図18に、円すいころ9と調整車5の周速、円すいころ中心軸のスルーフィード方向に対する傾斜角度θw、調整車回転軸のスルーフィード方向に対する角度θth(スルーフィード角)をパラメータとして、円すいころ9と調整車5間の相対速度の方向、大きさについての関係を示した。但し、スルーフィード速度Vt は鍔1のねじ角度により(調整車1回転で1ピッチとして)調整車5の周速VR に応じて与えられる。なお、ここでは円すいころ軸線方向の中央位置において検討したが、図12(a)、(b)の中間状態よりも、かなり図12(b)の状態が近いときを考え、円すいころの周速が約2倍になった場合の周速Vwiについても検討し、方向性が考慮できるように考えた(周速Vw は図12(a)の状態で、周速Vwiは図12(b)に近い状態かこれをオーバーした状態である)。
【0014】
図13は、円すいころのセンタレス・スルーフィード研削時の正面図である。図14、15,17,18は、円すいころ9及び調整車5を、砥石11側より水平方向に対し角度βだけ傾斜した方向から見た側面図である。
図14は、スルーフィード角θth=0、円すいころの傾斜角度θw >0(大径側が上位置)の場合の円すいころ及び調整車の状態を示す図である。円すいころ9の運動方向は、中心軸まわりの回転による周速Vw と鍔1によるスルーフィード送り速度Vt の合成速度ベクトルVT で表され、調整車周速VR との相対すべり速度ΔVは、ΔV=VR −VT となり、ΔVの方向に摩擦力が作用する。なお、円すいころ周速VW のVR 方向成分と調整車周速VRとは同じ値としている(図12(a)に近い状態)。
【0015】
このときの摩擦力は、円すいころ大径側の鍔面方向に作用するので、円すいころは鍔1を離れてスルーフィード前進方向には進まず、「ジャー」が発生することはない。また、円すいころ9が砥石研削による接線力FT により回転増速されたときを想定して円すいころの周速Vwiを検討すると、この場合の相対すべり速度ΔViは、円すいころ大径側の鍔面方向と、円すいころの回転ブレーキ方向に摩擦力が作用する。また、図14より周速Vwiが大になるほどブレーキ力が大となり、鍔面方向の成分が小さくなるが、円すいころのスルーフィード前進方向には力は働かない。以上のことから、図14に示す状態では「ジャー」は発生せずに安定している。
【0016】
図15は、調整車スルーフィード角θth>0(大径側が上位置)で、且つ調整車スルーフィード角と円すいころの傾斜角度θwがθth>θwである場合の円すいころ及び調整車を示す図である。この場合、相対すべり速度ΔVは鍔面方向とは逆のスルーフィード前進方向となり、また、円すいころの周速が周速V w iの場合、図15によりΔViはスルーフィード前進方向の成分が減少されて略円周方向成分のみとなり、円すいころ自転のブレーキのみとなる。ここで、速度ベクトルは方向のみを表しており、摩擦力の関数ではない。以上のことから、図15に示す状態においても「ジャー」が発生せずに安定している。
【0017】
図16は、調整車スルーフィード角θth=0で、且つ円すいころの傾斜角度θw <0(大径側が下位置)の場合の円すいころ及び調整車を示す図である。この場合は、相対すべり速度ΔVが円すいころ大径側の鍔面方向に作用するが、増速時の相対すべり速度ΔViは、スルーフィード前進方向と、円すいころの回転ブレーキ方向の成分とからなる。このため、砥石研削接触抵抗により円すいころ9が増速されると、スルーフィード前進方向への摩擦力が作用することになり、「ジャー」が発生し易くなる。
【0018】
図17は、調整車スルーフィード角θth>0で、且つ円すいころの傾斜角度θw <0の場合の円すいころ及び調整車を示す図である。この場合は、相対すべり速度ΔV、及び増速時のΔViは、スルーフィード前進方向の摩擦力が作用して、「ジャー」が発生し易く、図16の場合と比較して「ジャー」がより発生し易いことになる。
【0019】
以上の結論として、円すいころの傾斜角度θwがθw <0(小径側が持ち上がり、ブレードから離れる状態)になると「ジャー」が発生し易くなり、スルーフィード角θthがθth≧0になることにより、更にこれを悪化させることが予想される。
【0020】
ところで、従来の円すいころの研削方法は、トップ・ブレードを使用することにより、円すいころの浮き上がりが、大径側で最小の隙間に抑えられていた。しかしながら、小径側は、円すいころが軸線方向へ連続的に送られるため、これを抑えることができない。この小径側の隙間δを図13に示した。
従って、小径側はトップ・ブレードに当接するまで浮き上がることになり、円すいころの姿勢は、小径側が上がり、円すいころ中心軸の水平方向に対する傾斜角度θwがθw <0となる。従来の調整車の中心軸の傾斜であるスルーフィード角θthは、大径側を上げ図15に示すように、円すいころ大径側と鍔の接点をできるだけ交差角小にするようにθth≧0としている。従って、図17に示すように、小径側が浮き上がり、傾斜角度がθw <0、スルーフィード角がθth≧0の場合だけ、円すいころに対する調整車の摩擦力がスルーフィード前進方向になり、円すいころは大径側の鍔から離れ、円すいころの円すい角θcのくさび作用により、研削量が大とる側に進む。
【0021】
このため、より研削抵抗が大となり、益々スルーフィード前進方向への摩擦力が増大して、発散現象、所謂「ジャー」が発生する。円すいころが砥石により回転増大されても、図17に示すように、摩擦力のスルーフィード前進方向成分比は小となっても、摩擦力の絶対値は大となり発散現象となる。さらに、円すいころの浮き上がり開始時は、大径側の研削力大で小径側の研削力は0になるため、円すいころの姿勢を元に戻すモーメントは作用しない。
このようなことから、「ジャー」の発生頻度を抑えるためには、研削能率を敢えて下げているが、これでは根本的な対策にはならず、「ジャー」が発生した際の砥石、調整車、ブレードへのダメージが大きく、工具交換が必要になり、作業が長時間中断されるといった問題があった。
【0022】
本発明は上記状況に鑑みてなされたもので、「ジャー」の発生原理を解析し、その対策のなされた円すいころの研削方法を提供することにより、高能率、安定研削の達成を図ることを目的とする。
【0023】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するための本発明に係る円すいころの研削方法は、砥石車と、該砥石車に対向配置されねじ状溝を有する調整車との間に、該調整車のねじ状溝低面に外周面の少なくとも一部が接触するように挿入された円すいころを、該円すいころの下方に設けたブレードにより支持するとともに、前記円すいころを挟んでブレード上方に設けたトップブレードにより円すいころの持ち上がりを規制しつつ、前記円すいころの外周面をセンタレス・スルーフィード研削する円すいころの研削方法において、前記調整車回転軸とスルーフィード方向とのなすスルーフィード角θ th を、前記トップブレードと前記調整車とによって規制される高さまで前記円すいころの小径側が浮き上がったときの該円すいころ中心線の傾斜角θ w に対して|θ th |>|θ w |となるようにスルーフィード進行側を上げるように設定したことを特徴とする円すいころの研削方法。
この円すいころの研削方法では、トップブレードにより円すいころの持ち上がりを抑え、持ち上がり時においても「ジャー」が発生しないスルーフィード角θ th にできる。
また、本発明に係る円すいころの研削方法は、砥石車と、該砥石車に対向配置されねじ状溝を有する調整車との間に、該調整車のねじ状溝低面に外周面の少なくとも一部が接触するように挿入された円すいころを、該円すいころの下方に設けたブレードにより支持するとともに、前記円すいころを挟んでブレード上方に設けたトップブレードにより円すいころの持ち上がりを規制しつつ、前記円すいころの外周面をセンタレス・スルーフィード研削する円すいころの研削方法において、前記トップブレードと前記調整車とによって規制される高さまで前記円すいころの小径側が浮き上がったときの該円すいころ中心線の傾斜角θw を、円すいころの大径側が小径側より上方となる傾斜とし、且つ、前記調整車回転軸とスルーフィード方向とのなすスルーフィード角θthを、θth≧θw に設定したことを特徴とする。
【0024】
この円すいころの研削方法では、円すいころの小径側が浮き上がり、トップブレードに小径側が当接するときの円すいころ中心の最大傾斜角度θwmaxを、円すいころの大径側が小径側より上方となる傾斜として、且つスルーフィード角θthとの関係をθth≧θwmaxとする。これにより、最大傾斜角度θwmaxの状態となっても円すいころに対する調整車の摩擦力は、常にスルフィード方向後方に作用し、円すいころがスルーフィード方向に前進して発生する異常発散現象、「ジャー」を防止できる。
【0025】
また、本発明に係る円すいころの研削方法は、上記円すいころの研削方法において、円すいころ中心軸の傾斜角度θw の最大値θwmaxが、最小となるトップブレード角θTBを選定することが好ましい。これにより、「ジャー」の発生をより確実に防止できる。
【0026】
また、スルーフィード角θthを大とすると、成円作用に関係する芯高角γが円すいころの入口側(加工始め)と出口側(完了部)との間で変化が大になり過ぎる。この点からも、円すいころ中心軸の最大傾斜角度θwmaxが最も小さくなるトップブレード角θTBを選定する必要がある。
【0027】
さらに、本発明に係る円すいころの研削方法は、上記円すいころの研削方法において、芯高角γを5゜〜12゜の範囲内に設定することが好ましい。これにより、十分な成円作用を得ることができる。
【0028】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る円すいころの研削方法の好適な実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は本発明の研削方法に用いるセンタレス研削盤の研削部正面図、図2は図1の要部拡大図、図3は図2の円すいころを軸線直交方向の砥石側から視た側面図である。なお、図10〜図18に示した部材と同一の部材、部位には同一の符号を付し、重複する説明は省略するものとする。
【0029】
図1に示すように、一般にはセンタレス研削盤21の研削部に砥石(砥石車)11が設けられ、砥石11は図示しない回転駆動機構により回転されることで砥石外周で円すいころ9の外周面を研削する。図2に示すように、円すいころ9のセンタレス研削盤では、砥石11と対面する位置には砥石11の軸心に対して所定角度傾けて鍔1、ねじ状溝3を設けた調整車5が配設され、調整車5は円すいころ9とほぼ同じ周速で回転される。即ち、円すいころ9は、調整車5とブレード7とにより支持され、砥石11と外周面の少なくとも一部が接触することにより外周面が研削される。また、円すいころ9のブレード7側とは反対側にはトップブレード13が最小隙間状態で設けられ、トップブレード13はごみ等による円すいころ9の浮き上がりを阻止し、円すいころ9の上下位置を安定させるように作用する。一方、円すいころ9の小径側は、ブレード7に支持された状態からトップブレード13に接するまでの範囲を移動可能となっている。
【0030】
このように構成されたセンタレス研削盤21の研削部では、砥石11と調整車5との間に円すいころ9が送り込まれる。送り込まれた円すいころ9は、調整車5とブレード7とにより保持され、砥石11にて外周面が研削される。そして、その研削抵抗により調整車5と略同速度で回転する。また、調整車5の回転軸は、図3に示すように円すいころのスルーフィード前進方向である水平軸から傾斜されている。
この調整車5の回転により、円すいころ9は自転すると共に、鍔1によって軸線方向に送られ、調整車5の1回転に1個づつ次々と研削が行われる、所謂スルーフィード研削が行われる。
【0031】
以降、本発明に係る円すいころの研削方法により、「ジャー」の発生を防止しつつ円すいころを研削する条件を説明する。
図4は本発明に係る円すいころの研削方法を説明する原理図、図5は円すいころ小径側の中心座標の求め方を示す説明図、図6は円すいころの小径側が浮き上がったときの中心座標の求め方を示す説明図である。これらの図を参照し、後述の式(1)〜(7)により円すいころの最大傾斜角度θwmaxを求める。
得られた最大傾斜角度θwmaxに関係して適切なスルーフィード各θthを設定し、これらθwmax、θthを用いて、センタレス研削盤の各部材を調整することで「ジャー」の発生を防止した研削が可能となる。
【0032】
図4は、ブレード7上に円すいころの大径部と小径部が共に接して載置された第1の状態と、小径部がトップブレード13側に浮き上がった第2の状態とを示している。各状態において、
O :大径部中心
Oi:小径部中心(第1の状態)
Oii:小径部中心(第2の状態)
PB:大径部とブレード7との接点
PBi:小径部とブレード7との接点(第1の状態)
PG:大径部と砥石9との接点
PGi:小径部と砥石9との接点(第1の状態)
PC:大径部と調整車との接点
PCi:小径部と調整車との接点(第1の状態)
PCii:小径部と調整車との接点(第2の状態)
PTB:大径部とトップブレード13との接点
PTBii:小径部とトップブレード13との接点(第2の状態)
である。
【0033】
図4に示したように、円すいころ中心軸のスルーフィード方向に対する傾斜角度θw は、θw <0になっても、スルーフィード角θthをθth<0とし、且つ|θth|>|θw|とすれば、相対すべり速度ΔV、及び増速時の相対すべり速度ΔViには、スルーフィード前進方向成分は存在せず(円すいころ大径側の鍔側に押し付けられるようになる)、「ジャー」が発生しない。θw はトップブレード13により上限値が制約される。その上限値は、円すいころ9の円すい角θc、ブレード頂角θB 、芯高角α、β、トップブレード角θTB、トップブレード13ところ大径との隙間δTBにより決まる。
ここで、円すいころ9の長さをlc 、大径寸法をdc1、小径寸法をdc2、円すい角をθc(dc2はdc1、lc 、θc の関数)とする。また、図4に示すように、円すいころ径寸法dc1、dc2(及びdc1−dc2)は、調整車径寸法に対し極めて小さいのでβi=βとする。
【0034】
次に、図5を用いて円すいころの大径中心Oと小径中心Oiとの関係を求める。円すいころ大径中心Oを原点としたx−y座標において、砥石11、ブレード7、調整車5、円すいころの位置関係より、円すいころ小径の中心座標Oi(Δxi、Δyi)が求められる。ここで、O−Oi間距離をeとすると次式で表される。
【0035】
【数1】
そして、Δxi、Δyiは式(1)、(2)で表すことができる。
【数2】
【0036】
上記図4に示す第1の状態においては、調整車5が円すいころ9に接して、トップブレード13は、円すいころ大径側との隙間がδTBとなるように位置調整される。この第1の状態から、円すいころの小径側が浮き上がり、第2の状態となったとき、円すいころの小径側は調整車5とトップブレード13とに接し、円すいころ中心軸が最大の傾斜角度θwmaxとなる。
【0037】
この最大傾斜角度θwmaxを求めるため、図6に示す円すいころの小径側が浮き上がった第2の状態における、円すいころの小径側中心座標Oiiのy軸座標y0iiを求める。このy0iiを求めるには、まずトップブレード面を表す直線I、円すいころ小径側の調整車との接線IIを求め、その2等分線IIIと第1の状態における円すいころ小径中心Oiを通る直線IIと平行な直線IVとの交点を求める。この交点が第2の状態における小径側中心座標Oiiとなる。なお、芯高角γは、αとβとの和を約7°とすることが望ましい。
【0038】
まず、直線Iの式を求める。直線Iは、接点PTBを通る勾配tan(90°−θTB) の直線である。ここで、接点PTBの座標は、〔−{(dc1/2)+δTB}sin(90°−θTB) ,{(dc1/2)+δTB}cos(90°−θTB) 〕である。 したがって、直線Iは式(3)で表される。
【0039】
【数3】
【0040】
直線IIは、接点Pciを通る勾配tan(90°−β) の直線である。ここで、接点Pciの座標は、{−Δxi+(dc2/2)cos β,−Δyi−(dc2/2)sin β}である。したがって、直線IIは式(4)で表される。
【0041】
【数4】
【0042】
そして、直線Iと直線IIとの交点P(xP,yP)は、式(3)、(4)より、式(5)、(6)により表される。
【0043】
【数5】
【0044】
直線IIIは、交点Pを通る勾配 tan{90°−(θTB+β)/2}の直線である。ここで、点Pの座標は(xP,yP)であるため、直線IIIは式(7)により表される。
【0045】
【数6】
【0046】
直線IVは、点Oiを通る勾配tan(90°−β)の直線である。ここで、点Oiの座標は(−Δxi,−Δyi)であるため、直線IVは式(8)により表される。
【0047】
【数7】
【0048】
そして、直線IIIと直線IVとの交点としてOii(x0ii,y0ii)を求める。なお、ここではy0iiのみ式(9)として記した。
【0049】
【数8】
【0050】
上述のように、式(1)、式(2)よりΔxi,Δyiを求め、式(5)、式(6)よりxP,yPを求め、次いで、式(9)よりy0iiを求める。これにより得られたy0iiを用いて図4を参照しつつ、式(10)によって最大傾斜角度θwmaxを求める。
【0051】
【数9】
【0052】
ここで、円すいころ9において tan(θc/2)=(dc1−dc2)/(2lc)であるから、θwmaxは式(11)として表される。
【0053】
【数10】
【0054】
なお、x0iiは式(12)として表される。
【0055】
【数11】
【0056】
上述のように、最大傾斜角度θwmaxは式(11)から求めることができ、この結果に基づいてセンタレス研削盤の各部材形状を決定する。
次に、上記のようにして得られた各式に対し、実際の数値を代入した数値計算結果を以下に示す。
【0057】
〔数値計算1〕
・円すいころ;
大径寸法dc1=φ10mm
長さlc=15mm
円すい角θc=4°
小径寸法dc2=dc1−2lc tan(θci/2)=φ8.952mm
・芯高角;γ=α+β=7°
・砥石径DG=φ510mm
・調整車径Pc=φ300mm
・α={(Dc+dc1)/(DG+Dc+2dc1)}γ=2.61°
・β={(DG+dc1)/(DG+Dc+2dc1)}γ=4.39°
・ブレード頂角;θB=40°
・トップブレード頂角;θTB=45°
・トップブレード隙間;δTB=0.2mm
【0058】
したがって、
式(1)、(2)より、
Δxi=0.515mm、Δyi=0.201mm
式(5)、(6)より、
xP=4.930mm、yP=12.29mm
式(8)、(11)より、
x0ii=−0.285mm、y0ii=0.580mm
式(10)より、
θwmax=2.21°
となる。
【0059】
〔数値計算2〕
数値計算1に対して、トップブレード頂角θTB=90°に変更する点以外は数値計算1と同様である。
式(1)、(2)より、
Δxi=0.515mm、Δyi=0.201mm
式(5)、(6)より、
xP=4.386mm、yP=5.2mm
式(9)より、
y0ii=0.731mm
【0060】
式(11)より、
θwmax=2.76°
したがって、数値計算2のトップブレード頂角θTB=90°に対して、数値計算1のθTB=45°の方が最大傾斜角度θwmaxが小さい値となる。このため、θTB=45゜の方がころの浮き上がりを抑制でき、「ジャー」防止に有利な構成となる。また、θTB≒βとした場合はy0iiが無限大となる。これらのことから、トップブレード頂角θTB をパラメータとして最大傾斜角度θwmaxを求めると、トップブレード頂角θTBには最適値が存在することがわかる。
【0061】
〔数値計算3〕
さらにトップブレード頂角θTB=30°、60°について最大傾斜角度θwmaxを計算し、その相関関係を図7に示した。
θTB=60°→θwmax=2.21°
θTB=30°→θwmax=2.60°
図7によれば、θwmaxが最も小さくなる最適なトップブレード頂角θTBは、θTB≒50°であり、そのときのθwmaxは2°である。
したがって、上記条件におけるスルーフィード角θthは、θth<−2°となる。(|θth|が円すいころの円すい角θc の1/2以上であるため)。
【0062】
なお、円すいころの小径側が浮き上がると、円すいころが受ける研削抵抗FT、FNは大径側に集中する。図8にこの様子を示した。図8(a)は砥石11側から見た円すいころ、図8(b)はトップブレード上方から見た円すいころの状態を示し、研削抵抗の接線方向成分FT及び接線方向成分FNを示している。
図8に示すように研削抵抗は大径側に集中し、浮き上がりを元に戻すモーメントの作用は非常に小さくなる。したがって、この図8に示す状態は、「ジャー」発生の最初状態と考えられる。
【0063】
次に、スルーフィード角θthによる加工幅全体に亘る芯高角γの変化を検討する。なお、芯高角γは円すいころ大径側のみ検討することにする。
図9に示すように、芯高角γ=α+βを与えたとき、取代Δdにより出口における円すいころ大径は、dc1より小さいdc1aとなり、芯高さは下がる。さらにスルーフィード角θthにより調整車自身の中心が出口側で上がるため、芯高は下がることになる。このとき、調整車の入口側、出口側における調整車径は同一としているため、調整車5の出口側を持ち上がることで、出口側の溝面を砥石側に出すようにしている。
【0064】
ここで、調整車出口側の持ち上げ量を考慮して芯高角γの変化を求める。調整車の入り口側から出口側までの距離をL、入り口側における砥石中心OGと調整車中心OCとの連結線に対する円すいころ大径中心Oまでの高さをH、出口側における砥石中心OGと調整車中心OCとの連結線に対する円すいころ大径中心Oまでの高さをHa、入り口側の高さHから出口側の高さHaまでの高さ変化量をΔHとすると、ΔH、H、Haは式(13)〜(16)で表される。なお、αaは、出口側における砥石中心OGと出口側における円すいころ大径中心Oaとの連結線がOG−OC連結線となす角であり、βaも同様に出口側における円すいころ大径中心Oaとのなす角である。
【0065】
【数12】
【0066】
γ=α+β、γa=αa+βa、dc1a=dc1−Δdc1(Δdc:取代)の関係より、γとγaの関係をスルーフィード角θthをパラメータとして求める。
なお、式(16)中の*印は、ΔHのころ径dc1a中心における比例成分からの近似値で、**印は、入り口側大径中心O→出口側大径中心Oaにおける上下方向変化分(図5、式(2)に示すΔyi)を示している。
式(14)、(15)より、式(17)が得られる。
【0067】
【数13】
【0068】
ここで、γ、γa、θthをラジアン単位から度に変換すると、式(17)は式(18)となる。
【0069】
【数14】
【0070】
式(18)において、第1項は取代により円すいころ径が小さくなるために芯高角大となる値、第2項は調整車スルーフィード角により芯高角小となる値、第3項は取代により円すいころ径が小となり、円すいころの中心が出口側で下がることにより芯高角小となる値を示している。
このように、スルーフィード角θthによる加工幅全体に亘る芯高角γの変化は式(18)により規定される。なお、芯高角γは円すいころ小径側に対しても同様に規定することができる。
【0071】
以上を纏めると、円すいころセンタレス・スルーフィード研削における「ジャー」の原因は次のように考えられる。即ち、円すいころ9の小径側が浮き上がり、ころの中心線の傾斜角度θw が負側(大径側が小径側より下がった状態)に変化する。このときのスルーフィード角θthが一般的には正側(大径側が小径側より上がった状態)なので、研削抵抗、調整車・円すいころ間の相対すべりによる摩擦力、及びその向きにより円すいころ9にねじ状溝内にて鍔1を離れてよりスルーフィード前進側に作用する力が発生する。そして、くさび作用によって、調整車の溝に対しての前進、急激な研削が発散現象的に生ずるようになる。この「ジャー」が発生することで、砥石11、調整車5が多大なダメージを受け、これを復旧するのに長時間を要し、生産性を著しく阻害する要因となる。
【0072】
この現象を避けるために、研削能率を落とすことが一般的であったが、本発明によれば、発生原理から解析的に「ジャー」を防止させるため、トップブレード13により円すいころ9の浮き上がり時の角度θw が抑えられ、浮き上がり時においても「ジャー」が発生しないスルーフィード角θthとなる。このスルーフィード角は、スルーフィード進行側を上げる角度で、|θth|>|θw|の条件を満足するものである。
【0073】
そして、式(11)により最大傾斜角度θwmaxを計算し、芯高角γ、ブレード角θBの研削に関するセット条件のもとに、トップブレード角θTBをパラメータとして、θwmaxを最小にするθthの最適値を求め、そのときの最大傾斜角度θwmax値によりスルーフィード角θthを決める。さらに、研削幅(砥石幅)での入口部、出口部の芯高角の変化を式(18)により計算し、芯高角γの最適値を7°とすると、入り口側γ=10.27゜、出口側γ=7゜となり、これに基づいてセット条件を決める。なお、この芯高角γは、5゜より小さいと奇数角歪円(特に3角歪円)が発生し、12゜より大きいと偶数角の歪円が発生して歪量が増大する。このため、最適値である7゜付近の5゜〜12゜の範囲に設定することで、実用的に問題のない良好な成円作用が得られる。
【0074】
以上の順序で、典型的な円すいころの数値計算を行い、各数値を求めたが、実用上問題ない値を得ることができ、「ジャー」の発生を確実に防止できることが確認できた。
また、円すいころ大径側と鍔の当たりに対しても問題ないことを確認したが、最も能率が重視され且つ発生率が大なる粗工程においては、円すいころの大径側と鍔の当たりは許容される。
【0075】
【発明の効果】
本発明に係る円すいころの研削方法は、円すいころのセンタレス・スルーフィード研削において、調整車回転軸とスルーフィード方向とのなすスルーフィード角θ th を、トップブレードと調整車とによって規制される高さまで円すいころの小径側が浮き上がったときの円すいころ中心線の傾斜角θ w に対して、|θ th |>|θ w |となるようにスルーフィード進行側を上げるように設定することにより、トップブレードにより円すいころの持ち上がりを抑え、持ち上がり時においても「ジャー」が発生しないスルーフィード角θ th にできる。
また、本発明に係る円すいころの研削方法は、円すいころのセンタレス・スルーフィード研削において、円すいころ中心線の傾斜角θ w を、円すいころの大径側が小径側より上方となる傾斜とし、且つ、スルーフィード角θ th を、θth≧θw に設定することにより、円すいころの小径側が浮き上がっても、円すいころに対する調整車の摩擦力の軸方向成分はスルーフィード前進方向にならず、発散不安定現象である「ジャー」の発生を防止できる。この結果、研削能率を下げることなく安定した研削が行え、高生産性が得られ、量産軸受で最も重要なコストダウンを達成できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の研削方法に用いるセンタレス研削盤の研削部正面図である。
【図2】図1の要部拡大図である。
【図3】図2の円すいころを軸線直交方向の砥石側から視た側面図である。
【図4】本発明に係る円すいころの研削方法を説明する原理図である。
【図5】円すいころ小径中心座標の求め方を示す説明図である。
【図6】円すいころ小径が浮き上がった時の中心座標の求め方を示す説明図である。
【図7】円すいころの最大傾斜角度θwmax及びトップブレード頂角θTB両方の相関関係を示すグラフである。
【図8】円すいころが受ける研削抵抗FT、FNの大径側に集中する様子を示す説明図である。
【図9】芯高角γ=α+β(入口側)、γa=αa+βa(出口側)の変化分を示す説明図である。
【図10】従来の円すいころの研削状態を平面視(a)、正面視(b)で示した説明図である。
【図11】円すいころの側面図である。
【図12】砥石、円すいころ、調整車の相対速度と摩擦力の向きとの関係を、円すいころの相対速度が0となる位置別に示した説明図である。
【図13】円すいころのセンタレス・スルーフィード研削時の正面図である。
【図14】スルーフィード角θth=0、円すいころの傾斜角度θw >0の場合の説明図である。
【図15】スルーフィード角θth>0、且つθth>θw の場合の説明図である。
【図16】スルーフィード角θth=0、且つθw <0の場合の説明図である。
【図17】スルフィード角θth>0、且つθw <0の場合の説明図である。
【符号の説明】
3 ねじ状溝
5 調整車
7 ブレード
9 円すいころ
11 砥石
13 トップブレード
θth スルーフィード角
θw 円すいころ中心線の傾斜角
Claims (2)
- 砥石車と、該砥石車に対向配置されねじ状溝を有する調整車との間に、該調整車のねじ状溝低面に外周面の少なくとも一部が接触するように挿入された円すいころを、該円すいころの下方に設けたブレードにより支持するとともに、前記円すいころを挟んでブレード上方に設けたトップブレードにより円すいころの持ち上がりを規制しつつ、前記円すいころの外周面をセンタレス・スルーフィード研削する円すいころの研削方法において、
前記調整車回転軸とスルーフィード方向とのなすスルーフィード角θ th を、前記トップブレードと前記調整車とによって規制される高さまで前記円すいころの小径側が浮き上がったときの該円すいころ中心線の傾斜角θ w に対して|θ th |>|θ w |となるようにスルーフィード進行側を上げるように設定したことを特徴とする円すいころの研削方法。 - 砥石車と、該砥石車に対向配置されねじ状溝を有する調整車との間に、該調整車のねじ状溝低面に外周面の少なくとも一部が接触するように挿入された円すいころを、該円すいころの下方に設けたブレードにより支持するとともに、前記円すいころを挟んでブレード上方に設けたトップブレードにより円すいころの持ち上がりを規制しつつ、前記円すいころの外周面をセンタレス・スルーフィード研削する円すいころの研削方法において、
前記トップブレードと前記調整車とによって規制される高さまで前記円すいころの小径側が浮き上がったときの該円すいころ中心線の傾斜角θ w を、円すいころの大径側が小径側より上方となる傾斜とし、且つ、前記調整車回転軸とスルーフィード方向とのなすスルーフィード角θ th を、θ th ≧θ w に設定したことを特徴とする円すいころの研削方法。
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