JP3866841B2 - 耐摩耗性鋼 - Google Patents
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Description
【０００１】
【発明の属する技術分野】
本発明は耐摩耗性鋼に係り、特に、耐摩耗性、耐スカッフ性に優れる耐摩耗性鋼であって、鋳鉄に比べて強度が高く、伸びが大きい上に、超強力鋼、超硬合金に比べて靭性が高く、加工性も良好な高特性耐摩耗性鋼に関する。
【０００２】
【従来の技術及び先行技術】
ディーゼルエンジン等の内燃機関のピストンリングには、耐摩耗性、耐スカッフ性等の特性が要求される。従来、このような用途に用いられる耐摩耗性材料としては、ユーバロイ等の片状黒鉛鋳鉄（以下、鋳鉄と略記）や硬度の高い超強力鋼、超硬合金が知られている。
【０００３】
しかしながら、鋳鉄は強度が低く、伸びが小さいという欠点を有し、また、超強力鋼、超硬合金は靭性が低く、加工性に乏しく、更に耐スカッフ性（耐焼付き性）にも劣るという欠点を有している。
【０００４】
このような問題を解決するものとして、本出願人は先に次のＩ〜III のような組成の耐摩耗性鋼を提供した。
【０００５】
【表１】
【０００６】
【発明が解決しようとする課題】
近年、耐摩耗性鋼の適用分野では、増々、高負荷で苛酷な使用条件が課せられており、要求特性に答えるべく、より一層特性の改善が望まれている。
【０００７】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、耐摩耗性、耐スカッフ性、強度、伸び、加工性等の特性がより一層改善され、とりわけクリープ特性が改善された耐摩耗性鋼を提供することを目的とする。
【０００８】
【課題を解決するための手段】
表２に本発明の耐摩耗性鋼の組成を示す。
【０００９】
【表２】
【００１０】
ＭｏとＷ及び／又はＢとを特定の割合で添加することにより、母材成分による耐摩耗性、耐スカップ性、強度、伸び、靭性、加工性の向上効果を損なうことなく、クリープ特性を大幅に改善することができる。
【００１１】
この添加成分の好ましい添加形態及び添加割合は次の通りである。
【００１２】
(1) Ｍｏ：５．０重量％以下とＷ：１．０重量％以下の併用添加
(2) Ｍｏ：５．０重量％以下とＢ：０．５重量％以下の併用添加
(3) Ｍｏ：５．０重量％以下とＶ：２．０重量％以下とＷ：１．０重量％以下との併用添加
なお、本発明において、「残部が鉄よりなる」とは、残部がすべて鉄であることを示すものではなく、不可避的に含まれる不純物を２．０重量％以下、好ましくは０．５重量％以下の範囲で含有していても良い。
【００１３】
【発明の実施の形態】
本発明の耐摩耗性鋼において、母材成分として含まれるＣ，Ｓｉ，Ｍｎ，Ｃｒ，Ｐ及びＳの含有量は、機械的特性（強度、伸び等）や摺動特性等を高めるために必要な値であり、いずれも本発明の範囲をはずれると良好な特性を得ることができない。
【００１４】
一方、Ｍｏ，Ｗ，Ｖ，Ｂはクリープ特性改善のための添加成分であるが、これらの添加量が多過ぎると一部の機械的性質が低下するため、本発明の範囲以下、好ましくは、前記(1)〜(3)の添加形態及び添加量とする。
【００１５】
なお、添加成分の合計の添加量は５．０重量％以下であることが好ましい。
【００１６】
このような本発明の耐摩耗性鋼は、一般に下記のような通常の熱処理を施して使用に供される。また、このような熱処理の他、レーザ熱処理或いはサブゼロ処理を施しても良い。
【００１７】
[熱処理方法及び条件]
請求項１，２の耐摩耗性鋼：焼入（温度：７８０℃〜８４０℃）→油中急冷→焼戻（温度１００℃〜７００℃）→放冷
請求項３，４の耐摩耗性鋼：焼入（温度：１０００℃〜１１００℃）→油中急冷→焼戻（温度１００℃〜８００℃）→放冷
このような本発明の耐摩耗性鋼は、内燃機関のピストンリング材料、ライナー材料、輪バネなどの摺動部品等として工業的に極めて有用である。
【００１８】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【００１９】
実施例１〜７、比較例１〜４
表３に示す組成を有し、表３に示す熱処理を行った耐摩耗性鋼について、下記方法で各種特性を調べ、結果を表４に示した。
【００２０】
（１） 耐摩耗性
ターカロイ製ディスクと、耐摩耗性鋼で構成されたピンとを用い、下記条件で摺動摩擦することにより摩耗試験を行い、摩耗試験１００時間あたりの摩耗量を調べた。
[摩耗試験条件]
摩擦速度 ：１．６５ｍ／ｓｅｃ
接触荷重 ：４５００Ｎ
潤滑油 ：ＳＡＥ＃２０エンジルオイル
潤滑油速度：１６０℃
【００２１】
（２） 耐スカッフ性
スーパーターカロイ製回転片と、耐摩耗性鋼で構成された固定片とを用いて、ピンディスク型摩擦摩耗試験機により下記条件でスカッフ試験を行い、スカッフ発生までの時間及び荷重を調べた。
[スカッフ試験条件]
(1) 潤滑油 ：ＳＡＥ＃３０＋白灯油（１：１）
潤滑油量：潤滑油を回転片摺動面に塗布し、周速５ｍ／ｓで３０秒間空転させ摺動面
上の油量を一定にした。
試験方法：荷重は２５ｋｇｆから５０ｋｇｆに５分毎に１０ｋｇｆずつ高め周速は５
ｍ／ｓ一定とした。
【００２２】
（３） 機械的強度
引張強さ、０．２％耐力、ヤング率、伸びを調べた。
【００２３】
（４） クリープ特性
下記試験条件にてクリープ試験を行い、クリープ試験前後のクリープ伸びが５％以下で破断のないものを「○」、クリープ伸びが５％を超えるか破断のあるものを×とした。
[クリープ試験条件]
(1) 試験条件Ｉ
荷重：２５ｋｇ／ｍｍ２
温度：４５０℃
時間：１００時間
(2) 試験条件II
荷重：２５ｋｇ／ｍｍ２
温度：６００℃
時間：１００時間
【００２４】
【表３】
【００２５】
【表４】
【００２６】
表４より、本発明の耐摩耗性鋼は、摺動特性や機械的強度を損なうことなく、クリープ特性を大幅に改善できることがわかる。
【００２７】
比較例５〜８
実施例１において、添加成分として、Ｍｏを５．５重量％（比較例５）、Ｗを１．２重量％（比較例６）、Ｖを２．２重量％（比較例７）又はＢを０．７重量％添加したこと以外は同様にしてその特性評価を行い、結果を表５に示した。
【００２８】
【表５】
【００２９】
表５より、添加成分の添加量が多いと、伸びが損なわれることがわかる。
【００３０】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明によれば、耐摩耗性、耐スカッフ性、強度、伸び、加工性等の特性がより一層改善され、とりわけクリープ特性が改善された耐摩耗性鋼が提供される。
【発明の属する技術分野】
本発明は耐摩耗性鋼に係り、特に、耐摩耗性、耐スカッフ性に優れる耐摩耗性鋼であって、鋳鉄に比べて強度が高く、伸びが大きい上に、超強力鋼、超硬合金に比べて靭性が高く、加工性も良好な高特性耐摩耗性鋼に関する。
【０００２】
【従来の技術及び先行技術】
ディーゼルエンジン等の内燃機関のピストンリングには、耐摩耗性、耐スカッフ性等の特性が要求される。従来、このような用途に用いられる耐摩耗性材料としては、ユーバロイ等の片状黒鉛鋳鉄（以下、鋳鉄と略記）や硬度の高い超強力鋼、超硬合金が知られている。
【０００３】
しかしながら、鋳鉄は強度が低く、伸びが小さいという欠点を有し、また、超強力鋼、超硬合金は靭性が低く、加工性に乏しく、更に耐スカッフ性（耐焼付き性）にも劣るという欠点を有している。
【０００４】
このような問題を解決するものとして、本出願人は先に次のＩ〜III のような組成の耐摩耗性鋼を提供した。
【０００５】
【表１】
【発明が解決しようとする課題】
近年、耐摩耗性鋼の適用分野では、増々、高負荷で苛酷な使用条件が課せられており、要求特性に答えるべく、より一層特性の改善が望まれている。
【０００７】
本発明はこのような実情に鑑みてなされたものであって、耐摩耗性、耐スカッフ性、強度、伸び、加工性等の特性がより一層改善され、とりわけクリープ特性が改善された耐摩耗性鋼を提供することを目的とする。
【０００８】
【課題を解決するための手段】
表２に本発明の耐摩耗性鋼の組成を示す。
【０００９】
【表２】
ＭｏとＷ及び／又はＢとを特定の割合で添加することにより、母材成分による耐摩耗性、耐スカップ性、強度、伸び、靭性、加工性の向上効果を損なうことなく、クリープ特性を大幅に改善することができる。
【００１１】
この添加成分の好ましい添加形態及び添加割合は次の通りである。
【００１２】
(1) Ｍｏ：５．０重量％以下とＷ：１．０重量％以下の併用添加
(2) Ｍｏ：５．０重量％以下とＢ：０．５重量％以下の併用添加
(3) Ｍｏ：５．０重量％以下とＶ：２．０重量％以下とＷ：１．０重量％以下との併用添加
なお、本発明において、「残部が鉄よりなる」とは、残部がすべて鉄であることを示すものではなく、不可避的に含まれる不純物を２．０重量％以下、好ましくは０．５重量％以下の範囲で含有していても良い。
【００１３】
【発明の実施の形態】
本発明の耐摩耗性鋼において、母材成分として含まれるＣ，Ｓｉ，Ｍｎ，Ｃｒ，Ｐ及びＳの含有量は、機械的特性（強度、伸び等）や摺動特性等を高めるために必要な値であり、いずれも本発明の範囲をはずれると良好な特性を得ることができない。
【００１４】
一方、Ｍｏ，Ｗ，Ｖ，Ｂはクリープ特性改善のための添加成分であるが、これらの添加量が多過ぎると一部の機械的性質が低下するため、本発明の範囲以下、好ましくは、前記(1)〜(3)の添加形態及び添加量とする。
【００１５】
なお、添加成分の合計の添加量は５．０重量％以下であることが好ましい。
【００１６】
このような本発明の耐摩耗性鋼は、一般に下記のような通常の熱処理を施して使用に供される。また、このような熱処理の他、レーザ熱処理或いはサブゼロ処理を施しても良い。
【００１７】
[熱処理方法及び条件]
請求項１，２の耐摩耗性鋼：焼入（温度：７８０℃〜８４０℃）→油中急冷→焼戻（温度１００℃〜７００℃）→放冷
請求項３，４の耐摩耗性鋼：焼入（温度：１０００℃〜１１００℃）→油中急冷→焼戻（温度１００℃〜８００℃）→放冷
このような本発明の耐摩耗性鋼は、内燃機関のピストンリング材料、ライナー材料、輪バネなどの摺動部品等として工業的に極めて有用である。
【００１８】
【実施例】
以下に実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【００１９】
実施例１〜７、比較例１〜４
表３に示す組成を有し、表３に示す熱処理を行った耐摩耗性鋼について、下記方法で各種特性を調べ、結果を表４に示した。
【００２０】
（１） 耐摩耗性
ターカロイ製ディスクと、耐摩耗性鋼で構成されたピンとを用い、下記条件で摺動摩擦することにより摩耗試験を行い、摩耗試験１００時間あたりの摩耗量を調べた。
[摩耗試験条件]
摩擦速度 ：１．６５ｍ／ｓｅｃ
接触荷重 ：４５００Ｎ
潤滑油 ：ＳＡＥ＃２０エンジルオイル
潤滑油速度：１６０℃
【００２１】
（２） 耐スカッフ性
スーパーターカロイ製回転片と、耐摩耗性鋼で構成された固定片とを用いて、ピンディスク型摩擦摩耗試験機により下記条件でスカッフ試験を行い、スカッフ発生までの時間及び荷重を調べた。
[スカッフ試験条件]
(1) 潤滑油 ：ＳＡＥ＃３０＋白灯油（１：１）
潤滑油量：潤滑油を回転片摺動面に塗布し、周速５ｍ／ｓで３０秒間空転させ摺動面
上の油量を一定にした。
試験方法：荷重は２５ｋｇｆから５０ｋｇｆに５分毎に１０ｋｇｆずつ高め周速は５
ｍ／ｓ一定とした。
【００２２】
（３） 機械的強度
引張強さ、０．２％耐力、ヤング率、伸びを調べた。
【００２３】
（４） クリープ特性
下記試験条件にてクリープ試験を行い、クリープ試験前後のクリープ伸びが５％以下で破断のないものを「○」、クリープ伸びが５％を超えるか破断のあるものを×とした。
[クリープ試験条件]
(1) 試験条件Ｉ
荷重：２５ｋｇ／ｍｍ２
温度：４５０℃
時間：１００時間
(2) 試験条件II
荷重：２５ｋｇ／ｍｍ２
温度：６００℃
時間：１００時間
【００２４】
【表３】
【表４】
表４より、本発明の耐摩耗性鋼は、摺動特性や機械的強度を損なうことなく、クリープ特性を大幅に改善できることがわかる。
【００２７】
比較例５〜８
実施例１において、添加成分として、Ｍｏを５．５重量％（比較例５）、Ｗを１．２重量％（比較例６）、Ｖを２．２重量％（比較例７）又はＢを０．７重量％添加したこと以外は同様にしてその特性評価を行い、結果を表５に示した。
【００２８】
【表５】
表５より、添加成分の添加量が多いと、伸びが損なわれることがわかる。
【００３０】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明によれば、耐摩耗性、耐スカッフ性、強度、伸び、加工性等の特性がより一層改善され、とりわけクリープ特性が改善された耐摩耗性鋼が提供される。
Claims (4)
- 炭素：０．２５〜２．０重量％、珪素：０．２０〜１．２０重量％、マンガン：０．４０〜１．２０重量％、リン：０．０５重量％以下、硫黄：０．２０〜０．５０重量％、クロム：０．８０〜５．５０重量％を母材成分として含むと共に、
モリブデン：５．０重量％以下と、タングステン：１．０重量％以下及び／又は硼素：０．５重量％以下とをクリープ特性改善のための添加成分として含み、
残部が鉄よりなることを特徴とする耐摩耗性鋼。 - 請求項１において、更にバナジウム２．０重量％以下を含むことを特徴とする耐摩耗性鋼。
- 炭素：０．６０〜２．０重量％、珪素：０．１０〜０．４０重量％、マンガン：０．４０〜１．０重量％、リン：０．０５重量％以下、硫黄：０．２０〜０．６０重量％、クロム：１１．０〜１５．０重量％を母材成分として含むと共に、
モリブデン：５．０重量％以下と、タングステン：１．０重量％以下及び／又は硼素：０．５重量％以下とをクリープ特性改善のための添加成分として含み、
残部が鉄よりなることを特徴とする耐摩耗性鋼。 - 請求項１において、更にバナジウム２．０重量％以下を含むことを特徴とする耐摩耗性鋼。
Priority Applications (1)
| Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
|---|---|---|---|
| JP30560097A JP3866841B2 (ja) | 1997-11-07 | 1997-11-07 | 耐摩耗性鋼 |
Applications Claiming Priority (1)
| Application Number | Priority Date | Filing Date | Title |
|---|---|---|---|
| JP30560097A JP3866841B2 (ja) | 1997-11-07 | 1997-11-07 | 耐摩耗性鋼 |
Publications (2)
| Publication Number | Publication Date |
|---|---|
| JPH11140595A JPH11140595A (ja) | 1999-05-25 |
| JP3866841B2 true JP3866841B2 (ja) | 2007-01-10 |
Family
ID=17947106
Family Applications (1)
| Application Number | Title | Priority Date | Filing Date |
|---|---|---|---|
| JP30560097A Expired - Fee Related JP3866841B2 (ja) | 1997-11-07 | 1997-11-07 | 耐摩耗性鋼 |
Country Status (1)
| Country | Link |
|---|---|
| JP (1) | JP3866841B2 (ja) |
Families Citing this family (5)
| Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
|---|---|---|---|---|
| US6527879B2 (en) | 1999-06-25 | 2003-03-04 | Hitachi Metals Ltd. | Self-lubricating piston ring material for internal combustion engine and piston ring |
| JP2007046687A (ja) * | 2005-08-09 | 2007-02-22 | Ntn Corp | 一方向クラッチの内方部材及びその製造方法とその内方部材を備えたクラッチ内蔵プーリ |
| JP5274762B2 (ja) * | 2006-10-17 | 2013-08-28 | 電気興業株式会社 | 熱処理方法 |
| US8845831B2 (en) | 2009-02-02 | 2014-09-30 | Denki Kogyo Co., Ltd. | Heat treatment method |
| DE102009010728C5 (de) * | 2009-02-26 | 2019-08-14 | Federal-Mogul Burscheid Gmbh | Kolbenringe und Zylinderlaufbuchsen |
-
1997
- 1997-11-07 JP JP30560097A patent/JP3866841B2/ja not_active Expired - Fee Related
Also Published As
| Publication number | Publication date |
|---|---|
| JPH11140595A (ja) | 1999-05-25 |
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