JP3863204B2 - スパッタリングターゲット材及びその製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主としてフラットパネルディスプレイ等に使用されるスパッタリングターゲット材及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、液晶ディスプレイに代表されるフラットパネルディスプレイの生産が急激に拡大している。これに伴って例えばディスプレイに用いられる透明導電膜や電解トランジスタ(FET)類のゲート,ソース,及びドレインに供する金属配線膜等の需要も急速に増大しており、その特性上における高速化も要求されている。
【0003】
このようなフラットパネルディスプレイに使用されるスパッタリングターゲット材としては、インジウム・スズ酸化膜,アルミニウム,クロム,タンタル,タングステン,モリブデン等が挙げられるが、最近ではクロム・モリブデン合金の使用が検討されている。
【0004】
クロム・モリブデン合金は、スパッタリングターゲット材として特性が優れる反面、加工性が悪いため、製造に際してはホットプレス,HIP(熱間等方圧静水圧プレス)を行った試料か、或いは静水圧プレスを行った後に熱処理を行った試料を用いるのが一般的である。因みに、スパッタリングターゲット材としてのクロム・モリブデン合金は相対密度が60〜80[%]の範囲となっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上述したクロム・モリブデン合金の場合、スパッタリングターゲット材に使用してスパッタリングを行うと、相対密度が60〜80[%]の範囲であるために内部にポアー(点空洞)が点在し、放電特性に影響を及し、スパッタリングした成膜に異物(パーティクル)の発生頻度が高く、又ターゲット電圧も高電圧が必要となり成膜の比抵抗が大きくなってしまう。こうした理由によりフラットパネルディスプレイの製品歩留りを悪化させる問題があった。
【0006】
本発明は、このような問題点を解決すべくなされたもので、その技術的課題は、スパッタリング時の成膜特性の良いクロム・モリブデン合金を用いたスパッタリングターゲット材及びその製造方法を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上述した技術的課題を達成し得るスパッタリングターゲット材を提供するもので、本発明によれば、モリブデン中にクロムを1〜5[wt%]の範囲で含有すると共に、相対密度が90〜98[%]の範囲にあるクロム・モリブデン合金を用いて成るスパッタリングターゲット材が得られる。
【0008】
又、本発明によれば、モリブデン中にクロムを1〜5[wt%]の範囲で含有させて成るクロム・モリブデン粉末を圧力条件196〜294[MPa]の範囲で静水圧プレスしてクロム・モリブデン圧粉体を得る静水圧プレス工程と、クロム・モリブデン圧粉体を焼結してクロム・モリブデン焼結体と成す焼結工程と、クロム・モリブデン焼結体を温度条件1400〜1600[℃]の加熱範囲で圧延又は鍛造して相対密度が90〜98[%]の範囲にあるスパッタリングターゲット材としてのクロム・モリブデン合金を形成する合金形成工程とを含み、静水圧プレス工程での圧力条件と合金形成工程での温度条件との関係は、X軸を温度[℃],Y軸を圧力[MPa]とした場合における294[MPa]での1400[℃]に対応する第1の点、294[MPa]での1600[℃]に対応する第2の点、196[MPa]での1600[℃]に対応する第3の点による3点を直線で結んだ範囲内にあるスパッタリングターゲット材の製造方法が得られる。
【0009】
このスパッタリングターゲット材の製造方法において、合金形成工程で、圧延又は鍛造の加工率を30〜80[%]の範囲で行うことは好ましい。
【0010】
【作用】
クロム・モリブデン合金は、一般的に非常に鍛造,圧延性が悪くて加工が困難であるが、本発明のようにモリブデン中にクロムを1〜5[wt%]の範囲で含有するクロム・モリブデン焼結体を加工率30〜80[%]の範囲で圧延又は鍛造すると、相対密度を90〜98[%]の範囲とすることができる。このようなクロム・モリブデン合金をスパッタリングターゲット材に使用してスパッタリングを行うと、その成膜時に発生する異物が顕著に低下する。又、成膜自体の比抵抗も小さくなる。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下に実施例を挙げ、本発明のスパッタリングターゲット材及びその製造方法について、図面を参照して詳細に説明する。
【0012】
最初に、本発明のスパッタリングターゲット材の概要について簡単に説明する。このスパッタリングターゲット材は、モリブデン中にクロムを1〜5[wt%]の範囲で含有すると共に、相対密度が90〜98[%]の範囲にあるクロム・モリブデン合金を用いて成るものである。
【0013】
このクロム・モリブデン合金をスパッタリングターゲット材に使用してスパッタリングを行うと、その成膜に発生する異物が顕著に低下され、成膜自体の比抵抗が小さくなる。結果として、こうした成膜特性の向上によってフラットパネルディスプレイの製品歩留りが改善される。
【0014】
このようなスパッタリングターゲット材を製造するためには、モリブデン中にクロムを1〜5[wt%]の範囲で含有させて成るクロム・モリブデン粉末を圧力条件196〜294[MPa]の範囲で静水圧プレスしてクロム・モリブデン圧粉体を得る静水圧プレス工程と、クロム・モリブデン圧粉体を焼結してクロム・モリブデン焼結体と成す焼結工程と、クロム・モリブデン焼結体を温度条件1400〜1600[℃]の加熱範囲で圧延又は鍛造して相対密度が90〜98 [%]の範囲にあるスパッタリングターゲット材としてのクロム・モリブデン合金を形成する合金形成工程とを実行すれば良い。但し、静水圧プレス工程での圧力条件と合金形成工程での温度条件との関係は、X軸を温度[℃],Y軸を圧力[MPa]とした場合における294[MPa]での1400[℃]に対応する第1の点、294[MPa]での1600[℃]に対応する第2の点、196[MPa]での1600[℃]に対応する第3の点による3点を直線で結んだ範囲内にあるようにし、更に、合金形成工程では圧延又は鍛造の加工率を30〜80[%]の範囲で行う。
【0015】
そこで、以下は幾つかの特性が異なる試料を合わせたスパッタリングターゲット材の製造方法を具体的に説明する。
【0016】
先ず静水圧プレス工程では、クロム粉末及びモリブデン粉末を準備し、モリブデン粉末中に1,3,5,10[wt%]でクロム粉末を入れて混合して得た4種の混合粉末をそれぞれ98,196,294[MPa]の3種の圧力条件下で静水圧プレスを行い、総計12種のクロム・モリブデン圧粉体を得た。
【0017】
次に、焼結工程で各クロム・モリブデン圧粉体を焼結(熱処理)してそれぞれ各クロム・モリブデン焼結体と成した後、合金形成工程の初期的な圧延加工で各クロム・モリブデン焼結体に対して加熱温度1200℃,1400℃,1600℃,1800℃の4つの温度条件でそれぞれ圧延加工を行って圧延加工性を調べたところ、図1に示すような結果となった。
【0018】
図1からは、加熱温度T(℃)が1200℃,1800℃では静水圧プレスの圧力条件に拘らず亀裂(クラック)や割れが生じ、静水圧プレスのプレス圧力P(MPc)が98MPaであると温度条件に拘らず何れも亀裂や割れが生じる(比較的大きなものが生じる)ことが判る。又、各クロム・モリブデン焼結体に関して、モリブデン粉末中に1,3,5[wt%]のクロム粉末を入れて混合したものは加工できるが、10wt%としたものは全て大きな割れが発生して加工できないことも判った。
【0019】
従って、圧延加工までの工程では、少なくともモリブデン粉末中に1〜5[wt%]の範囲でクロム粉末を入れて混合粉末を得ておくこと、静水圧プレスの圧力条件を196〜294[MPa]の範囲とすること、圧延加工の加熱温度条件を1400〜1600[℃]の範囲とした上、静水圧プレス工程での圧力条件と合金形成工程での温度条件との関係は、X軸を温度[℃],Y軸を圧力[MPa]とした場合における294[MPa]での1400[℃]に対応する第1の点、294[MPa]での1600[℃]に対応する第2の点、196[MPa]での1600[℃]に対応する第3の点による3点を直線で結んだ範囲内にあるようにすることの諸条件を満たし、合金形成で圧延又は鍛造の加工率を30〜80[%]の範囲で行えば加工性が保証されることが判る。又、上述した圧延加工までの工程の条件で鍛造加工を行っても、圧延加工行った場合と同様な結果が得られた。
【0020】
一方、圧延加工において亀裂や割れが発生しない各クロム・モリブデン焼結体に関する圧延条件として異なる圧延率30,40,50,60,70,80[%]と相対密度[%]との関係を調べたところ、図2に示すような結果となった。図2からは、亀裂や割れが発生しない圧延率30〜80[%]の範囲における相対密度は90〜98[%]の範囲となることが判る。
【0021】
更に、亀裂や割れが発生しない各クロム・モリブデン焼結体(圧延率がそれぞれ30%,50%,80%のもの)に対して合金形成工程の後期的な二次加工として切削,研磨等により加工率30〜80[%]の範囲で機械加工を施してスパッターターゲット材としての3種のクロム・モリブデン合金を得た。
【0022】
そこで、これらの各クロム・モリブデン合金及びこれらと諸条件が合致する合金形成工程前の各クロム・モリブデン焼結体(圧延,鍛造を施さない従来のクロム・モリブデン合金に相当するもの)を多数スパッタリングターゲット材に使用してスパッタリングを行うことでスパッタリング特性を比較して調べたところ、図3に示すような結果となった。
【0023】
図3からは、本発明のクロム・モリブデン合金をスパッタリングターゲット材に使用すれば、従来の焼結体を用いた場合に比べてその成膜に発生する異物数NP が処理枚数NH の増加に拘らず格段に減少しており、パーティクルの発生頻度が従来品に比べて低下した。
【0024】
【発明の効果】
以上に述べた通り、本発明によれば、従来では圧延,鍛造が困難と考えられていたクロム・モリブデン合金をそのモリブデン中のクロムの含有量及び静水圧プレスの圧力条件、並びに合金形成での温度条件を特定な範囲に選定することで圧延又は鍛造が可能であって、相対密度がスパッタリングターゲット材として適当なものとして得られるようにしているので、このクロム・モリブデン合金をスパッタリングターゲット材としてスパッタリングを行うと、その成膜に発生する異物が顕著に低下する。又、成膜自体の比抵抗も小さくなり、成膜特性が向上するようになる。この結果、スパッタリング時の成膜特性が劣化されず、フラットディスプレイの製品歩留りを顕著に向上し得るようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のスパッタリングターゲット材の製造方法に含まれる合金形成工程における初期的な圧延加工で幾つかの特性が異なる試料に関する圧延加工性を調べた結果を示したものである。
【図2】図1で説明した圧延加工において亀裂や割れが発生しない各クロム・モリブデン焼結体に関する圧延条件として異なる圧延率と相対密度との関係を調べた結果を示したものである。
【図3】図1で説明した合金形成工程の後期的な圧延加工を経て得られた各クロム・モリブデン合金及びこれらと諸条件が合致する合金形成工程前の各クロム・モリブデン焼結体を多数スパッタリングターゲット材に使用して調べたスパッタリング特性の比較結果を示したものである。

Claims (3)

  1. モリブデン中にクロムを1〜5[wt%]の範囲で含有すると共に、相対密度が90〜98[%]の範囲にあるクロム・モリブデン合金を用いて成ることを特徴とするスパッタリングターゲット材。
  2. モリブデン中にクロムを1〜5[wt%]の範囲で含有させて成るクロム・モリブデン粉末を圧力条件196〜294[MPa]の範囲で静水圧プレスしてクロム・モリブデン圧粉体を得る静水圧プレス工程と、前記クロム・モリブデン圧粉体を焼結してクロム・モリブデン焼結体と成す焼結工程と、前記クロム・モリブデン焼結体を温度条件1400〜1600[℃]の加熱範囲で圧延又は鍛造して相対密度が90〜98[%]の範囲にあるスパッタリングターゲット材としてのクロム・モリブデン合金を形成する合金形成工程とを含み、前記静水圧プレス工程での前記圧力条件と前記合金形成工程での前記温度条件との関係は、X軸を温度[℃],Y軸を圧力[MPa]とした場合における前記294[MPa]での前記1400[℃]に対応する第1の点、前記294[MPa]での前記1600[℃]に対応する第2の点、前記196[MPa]での前記1600[℃]に対応する第3の点による3点を直線で結んだ範囲内にあることを特徴とするスパッタリングターゲット材の製造方法。
  3. 請求項2記載のスパッタリングターゲット材の製造方法において、前記合金形成工程では、前記圧延又は前記鍛造の加工率を30〜80[%]の範囲で行うことを特徴とするスパッタリングターゲット材の製造方法。
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