JP3862118B2 - 軽油組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた耐摩耗性を有する低硫黄軽油組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
環境問題に対応するため、軽油の低硫黄化が進められているが、その際軽油基材に高度に脱硫処理を行うと、軽油の潤滑性が低下することが指摘されている。これは日本に先行して軽油の硫黄分の0.05質量%以下の規制が始まっている欧米諸国の一部において、ディーゼルエンジンに燃料を供給する分配型燃料噴射ポンプの作動性や耐久性が低下したことに端を発している。この分配型燃料噴射ポンプは主に小、中型ディーゼル車に搭載されているものであり、軽油自身の潤滑性能によりポンプ内部の可動部分を潤滑する事が特徴であり、軽油の潤滑性の低下と作動性や耐久性の低下との関係が報告されている。
【0003】
軽油の低硫黄化に伴う潤滑性の低下の原因として、軽油中に含まれる潤滑性に寄与する微量成分が、軽油を高度に脱硫処理することによって分解、変質あるいは取り除かれることが原因と考えられている。そのため低硫黄軽油に対しては潤滑性向上剤を添加するなどの対策が行われている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
軽油の潤滑性の試験には、HFRR試験器[High Frequency Reciprocating Rig]などが使用されており、WSD(Wear Scar Diameter、試験球に生じる摩耗痕径)により評価されている。しかしながら、潤滑性向上剤の添加によるHFRR試験器における摩耗痕径(WSD)の改善は不安定な場合があり、その為潤滑性向上剤の添加量を増やさなければならないなど経済上不利な場合もあることが分った。本発明は、上記従来技術の状況に鑑みてなされたものであり、優れた耐摩耗性を有する低硫黄軽油組成物を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明者らは、低硫黄軽油組成物の潤滑性について鋭意研究を行った結果、原油の常圧蒸留により得られる直留軽油留分を所定量含有させ、かつ、特定の潤滑性向上剤を添加した場合に、安定的にHFRR試験における摩耗痕径(WSD)が十分改善され、優れた耐摩耗性を備えた低硫黄軽油組成物ができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、原油の常圧蒸留より得られる直留軽油留分を0.001〜1.0容量%含有した総硫黄分0.05質量%以下の軽油に対して、オレイン酸及びリノール酸から選ばれる高級脂肪酸とグリコールおよびグリセロールから選ばれる多価アルコールのエステルである潤滑性向上剤を25〜200容量ppm添加したことを特徴とする低硫黄軽油組成物に関する。本明細書において、「ppm」は容量基準である。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明で不可欠の成分として使用する直留軽油留分は、原油を常圧蒸留することにより得られる。ここで、常圧蒸留とは、石油精製プロセスにおける一般的な常圧蒸留プロセスを意味する。本発明で不可欠の構成成分として用いる直留軽油留分とは、JIS K2254に規定された常圧法蒸留試験法による蒸留性状の温度範囲が160〜400℃の範囲内の留分を意味する。また、直留軽油留分は1種単独で用いても、2種以上を併用しても何ら差し障りはない。
【0008】
本発明でいうところの総硫黄分0.05質量%以下の軽油の基材としては、深度脱硫軽油、直接脱硫軽油、間接脱硫軽油、脱硫灯油、直留灯油などが用いられ、出来上がりの軽油組成物がJIS K2204に記載の軽油としての性状を満足するものであれば基材の種類や配合割合に制約はない。
【0009】
ここで、用語「深度脱硫軽油」、「直接脱硫軽油」および「間接脱硫軽油」とは、それぞれ下記の軽油を意味する。
深度脱硫軽油とは、原油の常圧蒸留により得られる軽油留分を水素化脱硫処理により高度に脱硫した軽油留分である。
直接脱硫軽油とは、原油の常圧蒸留残査を直接水素化脱硫処理する際に一部が水素化分解されるために得られる軽油留分である。
間接脱硫軽油とは、原油の常圧蒸留残査を減圧蒸留する際に得られる減圧軽油を水素化脱硫処理して得られる軽油である。
【0010】
本発明の軽油組成物における直留軽油留分の配合量は0.001容量%以上であって、好ましくは0.01容量%以上である。0.001容量%より少ないと、安定的かつ十分なHFRR試験における摩耗痕径(WSD)の改善が得られない場合がある。直留軽油留分の配合量の上限は、出来上がりの軽油組成物の性状が上記のJIS K2204規格を満足するようにするためには自ずと決まってしまう。例えば、硫黄分0.04質量%の深度脱硫軽油に対して硫黄分1質量%の直留軽油留分を配合する場合には、どちらの軽油の密度も実質的に同じであるから、JIS K2204における硫黄分の規格を満足させるためには直留軽油留分の配合量の上限は1容量%となる。
【0011】
直留軽油留分は、硫黄分0.05質量%以下の規制が実施される前においては、軽油に対しては基材として配合されていた場合もあったが、硫黄分の規制が0.05質量%以下になった現在においては、直留軽油留分を軽油基材の一部として使用する場合には、残余の基材の脱硫処理のレベルをさらに高める必要があり、経済的かつ技術的に問題があるため実施されていない。
【0012】
これに対して、本発明の軽油組成物では、特定の潤滑性向上剤の添加によるHFRR試験における摩耗痕径の十分な改善が、ごく少量の直留軽油の配合によって安定的に達成できることを見出したものである。
【0013】
直留軽油留分を配合することにより、HFRR試験における摩耗痕径(WSD)に対する潤滑性向上剤の添加効果が安定的に引き出せる理由として、推測の域を脱しないが、直留軽油留分中に含まれる微量の成分が潤滑性向上剤の潤滑領域での膜形成を安定化させていると考えている。
【0014】
また、本発明の軽油組成物において直留軽油の配合方法は特に制限されるものではなく、出来上がりとしての軽油組成物中の直留軽油留分の含有量が本発明の範囲にあれば、軽油基材に直接配合してもよいし、潤滑性向上剤の希釈剤として、潤滑性向上剤と直留軽油の混合物を所定量添加してもよい。例えば、潤滑性向上剤と直留軽油を1:1の割合(容量比)で混合しておき、その混合物を200ppm添加すれば、潤滑性向上剤と直留軽油が100ppmづつ配合されることになる。
【0015】
本発明で使用する潤滑性向上剤オレイン酸及びリノール酸から選ばれる高級脂肪酸とグリコールおよびグリセロールから選ばれる多価アルコールのエステルである。これらは1種単独で用いても、2種以上を併用しても何ら差し障りはない。
【0016】
本発明の軽油組成物における潤滑性向上剤の添加量は25〜200ppmの範囲にあり、好ましくは50〜100ppmの範囲である。25ppm以下であると、HFRR試験における摩耗痕径(WSD)の十分な改善が得られず、200ppmより多くても効果にそれ程の改善は認められず、経済上不利である。
【0017】
なお、本発明の軽油組成物にはその他の各種添加剤、例えば他の潤滑性向上剤、流動性向上剤、防腐剤、防錆剤、消泡剤、清浄剤、酸化防止剤、色相安定剤、セタン価向上剤などを添加してもよい。
【0018】
【実施例】
次に、本発明を実施例、比較例および参考例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明は、これらの例によって何ら制限されるものではない。
【0019】
実施例1〜4、比較例1〜5および参考例1〜4
表1に示す性状を有する直留軽油留分(LGOAあるいはLGOB)、深度脱硫軽油留分(ULGO)、脱硫灯油留分(UKRO)、直留灯油留分(KERO)、直接脱硫軽油留分(DDS)を、表2に示す割合で配合したサンプルに対して潤滑性向上剤を表2に示す割合で添加した軽油組成物を調製した。潤滑性向上剤としては、長鎖脂肪酸のエステル(組成:オレイン酸とリノール酸との1:1(質量基準)混合物のグリセリンエステル;モノ置換エステル 50質量%、ジ置換エステル 45質量%、トリ置換エステル 5質量%)である潤滑性向上剤を使用した。なお、実施例3では深度脱硫軽油基材と脱硫灯油基材を85:15(容量比)の割合で混合した軽油に対して、潤滑性向上剤と直留軽油を1:1(容量比)の割合で混合した混合物を200ppm添加することにより調製している。得られた軽油組成物の各々について下記の方法で潤滑性能を比較した。
【0020】
実施例、比較例および参考例の評価試験は、次の方法により行った。
HFRR試験器[High Frequency Reciprocating Rig、PCS Instruments社製]を用いて、JPI−5S−50−97に準拠した軽油−潤滑性試験を実施し、摩耗痕径(WSD)および摩擦係数を測定した。なお、試験温度は60℃で行った。ここで、WSDおよび摩擦係数の値が小さい程軽油の潤滑性が良いことを示している。
【0021】
表1においてIBPは初留点、T10は10%留出温度、T50は50%留出温度、T90は90%留出温度、そしてFBPは終点である。
【0022】
【表1】
Figure 0003862118
【0023】
【表2】
Figure 0003862118
【0024】
【表3】
Figure 0003862118
【0025】
【表4】
Figure 0003862118
【0026】
比較例1〜4に示すように潤滑性向上剤の添加のみではWSD値が比較的高い場合があり、かつ参考例1〜4に示した低硫黄軽油からの改善幅も小さい場合がある。また、比較例5に示すように直留軽油を1容量%配合しただけではWSD値の改善は認められない。それに対し、実施例1〜4に示すように直留軽油を含有し、かつ潤滑性向上剤を添加した軽油組成物は優れた耐摩耗性を備えていることがわかる。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば原油の常圧蒸留により得られる直留軽油留分を所定量含有させ、かつ潤滑性向上剤を添加することにより、安定的にHFRR試験における摩耗痕径(WSD)を十分改善し、優れた耐摩耗性を備えた低硫黄軽油組成物を提供することができる。

Claims (4)

  1. 原油の常圧蒸留より得られる直留軽油留分を0.001〜1.0容量%含有した総硫黄分0.05質量%以下の軽油に対して、オレイン酸及びリノール酸から選ばれる高級脂肪酸とグリコールおよびグリセロールから選ばれる多価アルコールのエステルである潤滑性向上剤を25〜200容量ppm添加したことを特徴とする低硫黄軽油組成物。
  2. 軽油中の直留軽油留分の含有量が0.001〜0.5容量%である請求項1に記載の低硫黄軽油組成物。
  3. 上記潤滑性向上剤が高級脂肪酸のエステルである請求項1又は2に記載の低硫黄軽油組成物。
  4. 上記高級脂肪酸が炭素数10〜30の高級脂肪酸である請求項3に記載の低硫黄軽油組成物。
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