JP3856100B2 - 内燃機関の燃料噴射制御装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明はエンジンの燃料噴射制御装置に関し、より詳しくは火花点火式エンジンの始動性および排気エミッション性能の改善を目的とした燃料噴射制御装置の改良に関する。
【0002】
【従来の技術と解決すべき課題】
火花点火式エンジンの始動性を改善する技術として、特開2000-45841号公報では、エンジン始動の開始をイグニッションスイッチまたはスタータースイッチのON操作により検出し、全気筒同時噴射により吸気管壁面に壁流を付着させるための予備噴射を行ない、その後クランク角センサによる気筒判定直前の基準信号(REF信号)を基準としてシーケンシャル噴射相当量の燃料を全気筒同時に供給するようにしたものが提案されている。また、特開2000-240489号公報)では、エンジンの始動完了を回転数により判定し、始動完了前は吸気弁開弁中に全気筒同時に燃料を噴射することにより、クランキングから最初の点火までの時間を短縮するようにしたものが提案されている。
【0003】
しかしながら、前者では始動操作の開始時を基準として全気筒同時噴射を行う構成であり、クランクアングルに対する燃料噴射タイミングが一定ではないという問題がある。例えば、吸気行程、特にその前半で燃料が噴射された気筒では燃料量が不足して燃焼不良を起こしHCエミッションが悪化する。また、エンジン始動開始時に全気筒同時噴射を行ない、その後気筒判定直前のREF信号を基準としてシーケンシャル相当量の全気筒同時噴射を行なうので、気筒毎に吸気弁開時期に対する噴射タイミングがまちまちになり、各気筒への吸気管壁に付着する壁流燃料の状態にもばらつきが生じる。この結果、各気筒に吸入される燃料量にもばらつきが生じ、リーンな気筒では失火により、リッチな気筒では不完全燃焼により、排気エミッションが悪化するおそれがある。さらに、所定クランクアングルで同時噴射を行っていることから、その後の噴射で補正を行う必要を生じ、それだけ制御が複雑化してしまう。一方、後者では吸気行程気筒への要求噴射量が多く噴射時間が長くなる場合には、燃料を吸入できる所定のクランクアングルまでの時間が限られるため要求量の燃料を噴射しきれず、リーン失火して始動性およびHCエミッションが悪化するという問題がある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、火花点火式多気筒エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段と、各気筒の吸気通路毎に設けられる燃料噴射弁と、前記運転状態に基づいて演算した燃料噴射量信号により前記燃料噴射弁を制御する制御手段とを備えた燃料噴射制御装置において、エンジンの始動クランキングを検出する始動検出手段と、気筒位置を判定する気筒判定手段と、エンジンの初爆の有無を判定する初爆判定手段とを設けると共に、前記制御手段を、前記始動検出手段および気筒判定手段からの信号に基づき、始動クランキング開始後の最初の気筒判定時に吸気行程となる気筒および排気行程となる気筒に、当該気筒毎もしくは気筒グループ毎に、気筒判定時期に同期して燃料を噴射し、その後は各気筒の排気行程に同期したシーケンシャル燃料噴射を行い、かつ前記燃料噴射により初爆が行われていないことを判定したときには当該判定時に吸気行程にある気筒に割り込み噴射を行うように構成した。
【0005】
第2の発明は、前記第1の発明において、前記シーケンシャル燃料噴射による排気行程に同期した燃料噴射の噴射量を、前記気筒判定時の同期燃料噴射の噴射量以下に設定する。
【0006】
第3の発明は、前記第1の発明において、前記割り込み噴射量を、前記吸気行程気筒の燃料噴射量と、割り込み噴射する気筒に排気行程で噴射された燃料量との差に設定する。
【0007】
第4の発明は、前記第1の発明において、前記割り込み燃料噴射量を、機関水温に基づいて決定するものとする。
【0008】
第5の発明は、前記第1の発明において、前記割り込み噴射を、噴射開始時期基準で実行する。
【0009】
第6の発明は、前記第1の発明において、前記排気行程のシーケンシャル噴射は、噴射開始時期基準で実行したのち、噴射終了時期基準での実行に移行するようにする。
【0010】
第7の発明は、前記第1の発明において、予め設定された所定の低温領域では前記始動クランキング開始後の最初の気筒判定前に全気筒同時に燃料を噴射するようにする。
【0011】
第8の発明は、前記第7の発明において、前記全気筒同時の燃料噴射量を、初爆要求噴射量に対して、前記最初の気筒判定時の燃料噴射時に吸気行程の所定クランクアングルまでに噴射できる燃料量が不足する分を噴射するように設定する。
【0012】
【作用・効果】
第1の発明以下の各発明によれば、始動時の最初の燃料噴射を吸気行程にある気筒に対して行うことで初爆を早期に得られるため始動時間を短縮できる。また、次の燃焼は排気行程にあるときに燃料を噴射した気筒にて行われるので、良好な混合気性状の下に、HCの排出量を最小限に抑えることができる。もし前記気筒が初爆に失敗したときにはその時点で吸気行程にある気筒に対して割り込み噴射を行うことで、始動時間の遅れや未燃HCの排出を最小限に抑えることができる。
【0013】
第2の発明によれば、初爆気筒に比べてそれ以降の燃焼気筒は排気行程の吸気量は少ない方向になるので、精度良い燃料量とすることで未燃HCの発生をさらに抑制することができる。
【0014】
第3または第4の発明によれば、初爆するために必要な要求燃料噴射量を適切に設定して、さらに精度良く失火発生を防ぎ、始動時間の遅れ、未燃HCの排出を抑制することができる。
【0015】
第5の発明によれば、噴射タイミングを噴射開始時期基準とすることにより、例えば燃料噴射タイミングが遅すぎて噴射した燃料が筒内に吸入されず、割り込み噴射の効果がなくなることを防止できる。また噴射開始時期基準とすることにより、割り込み噴射が必要であると判断したら、即座に燃料噴射を開始することができる。
【0016】
第6の発明によれば、排気成分の悪化や燃焼安定性の悪化を防止することができる。
【0017】
第7の発明によれば、気筒判定前に全気筒に同時噴射を行うことで、特に低温時のプラグくすぶり・かぶりを防止しつつ、始動時間の短縮・リーン失火によるHCエミッションの悪化を防止することができる。
【0018】
第8の発明によれば、特に低温下での始動時の要求燃料量をシーケンシャル噴射で噴射しきれない場合に、不足する量を要求量にあわせて供給し、良好な始動性と排気エミッション性能とを両立させることができる。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本実施形態に係る4ストローク型4気筒ガソリンエンジンの概略構成を示している。図において、エンジン2の吸気管3には吸入空気量を検出するエアフローメータ4およびスロットルバルブ5が設けられ、気筒6付近の吸入ポート7には燃料噴射弁8が設けられている。燃料噴射弁8は、4気筒エンジンの場合各気筒宛て都合4個が設けられる。燃料噴射弁8には図示しない燃料供給系統により一定圧力で燃料が供給され、その開弁時間に応じた量の燃料を噴射するように構成されている。コントローラ1により演算される燃料噴射量は、前記燃料噴射弁8の開弁時間に相当する噴射パルス幅として算出される。
【0020】
9はクランクシャフト10の回転角度およびエンジン回転数を検出するためのクランク角センサであり、パルス状のPOS信号とREF信号を出力する。POS信号はクランクシャフト10の単位回転角度毎に、例えば1deg周期で出力され、REF信号はクランクシャフト10の予め設定された基準位置で出力される。11はカムシャフト12の回転位置を検出するカム位置センサであり、カムシャフト12が予め設定された回転位置となったときにパルス状のPAHSE信号を出力する。13はイグニッションスイッチであり、そのスタータ接点のONに伴いコントローラ1は点火コイル14に所定のタイミングでイグニッション信号を供給すると共に図示しないスタータモータを駆動する。15はエンジン温度の代表値として冷却水温を検出する水温センサ、16は排気中の酸素濃度を検出する酸素センサである。
【0021】
コントローラ1はマイクロコンピュータおよびその周辺装置から構成され、運転状態信号として前記エアフローメータ4からの吸入空気量信号、クランク角センサ9からの回転数信号、水温センサ15からの水温信号、酸素センサ16からの酸素濃度信号等が入力し、これらに基づき燃料噴射量等の演算を行う。
【0022】
図2は、前記コントローラ1の燃料噴射制御に係る機能をブロック図として表したものである。クランキング判定部aでは、前記イグニッションスイッチ13からのスタータ信号およびイグニッション信号に基づき、クランキング開始を判定する。気筒判定部bでは、前記カム位置センサ11からのPHASE信号とクランク角センサ9からのPOS信号とにより、エンジン2のある気筒がどの行程にあるかの気筒判定を行う。回転数生成部cでは、前記POS信号の単位時間あたりの個数からエンジン回転数を算出する。噴射パルス幅演算部dでは、基本的な噴射パルス幅を吸入空気量と回転数によってテーブル検索等により決定し、これを水温信号や酸素濃度信号により補正して所期の空燃比で運転されるように噴射量指令値を決定する。駆動信号出力部eは前記噴射量指令値に基づいて燃料噴射弁8の駆動信号を出力する。噴射開始時期演算部fは、噴射終了時期管理で噴射を行う場合は、この噴射パルス幅とエンジン回転数から噴射開始時期を算出し、前記駆動信号出力部eによる燃料噴射弁8の駆動タイミングを管理する。初爆については、前記回転数生成部cからの信号により回転数がクランキング状態から急上昇したことから判定する。
【0023】
次に、図3以下に示した流れ図等に基づいて前記構成下での始動時の燃料噴射制御について説明する。図3〜図14,17,19は、前記コントローラ1により周期的に実行される始動時制御の処理ルーチンを表し、流れ図中の符号Sは処理ステップを表している。
【0024】
図3は、始動クランキング開始後の制御の全体のフローを示す。ステップ1ではイグニッション信号オン後の経過時間TMFPONをカウントし、これが基準値FPONTMを経過したらば、クランキング時の燃料・点火制御に移行する。ここで設定される基準値FPONTMは、燃料配管中の燃料圧力が定常圧力に上昇するのに必要な燃料ポンプの駆動時間に相当し、この時間設定によりクランキング開始後初回となる燃料噴射において燃料圧力のばらつきによる燃料噴射量のばらつきを防止している。次に、ステップ2で、燃圧上昇時間経過後のREF信号または初回の気筒判定信号が入力したら、燃料噴射パターン、すなわち全気筒同時噴射とするか、または気筒もしくは気筒グループ毎の行程順によるシーケンシャル噴射の何れとするかを決める制御を実行する(REFまたは初回気筒判定時期同期)。REF、初回気筒判定時期入力がない場合は制御周期、例えば10ms毎に燃料噴射パルス幅の算出制御(ステップ4)、点火制御(ステップ5)を実行する。
【0025】
図4は、前記ステップ3で実行されるクランキング開始後の燃圧上昇時間経過後の燃料噴射パターン制御の全体フローを示す。ステップ6で、REF信号入力回数が所定値未満(例えば4気筒エンジンの場合は4であり、気筒数に応じた設定値となる)と判定され、かつステップ7でクランキング開始時水温TWINTが所定の基準値以上と判定された場合は、ステップ8の通常時噴射開始時期基準での制御(図Y)を実行する。ステップ7でクランキング開始時水温TWINTが基準値未満の場合は、ステップ9の極低水温時噴射開始時期基準での制御を実行する。ステップ6でREF信号入力回数が所定値以上となっている場合は、ステップ10の噴射終了時期基準制御を実行する。
【0026】
図5は、前記ステップ8で実行されるクランキング開始直後の水温が通常水温での噴射開始時期基準制御のフローを示す。燃圧上昇時間経過後の初回REF信号が入力された場合(ステップ11)、REF入力タイミング同期で全気筒同時に噴射開始をセットする(ステップ12)。燃圧上昇時間経過後初回の気筒判定が入力された場合(ステップ13)、気筒判定入力タイミング同期で吸気行程気筒と排気行程気筒にグループ噴射開始をセットする(ステップ14)。入力が、燃圧上昇時間経過後初回のREF、気筒判定でもない場合は、REF信号入力タイミングから指令値VDINJ1で設定される所定クランク角度後に前回噴射した次気筒に対して噴射開始時期をセットする(ステップ15)。ただし、すでにグループ噴射を行った気筒に対してはセットは行わない。このときの噴射は、排気行程で噴射が行われるようにVDINJ1が設定される。
【0027】
図6は、前記ステップ9で実行されるクランキング開始時水温がTWINT未満の極低水温時の噴射開始時期基準制御のフローを示す。燃圧上昇時間経過後の初回REFが入力された場合(ステップ16)、REF信号入力タイミング同期で全気筒同時に噴射開始をセットする(ステップ17)。燃圧上昇時間経過後初回の気筒判定が入力された場合(ステップ18)、気筒判定入力タイミング同期で吸気行程気筒のみに噴射開始をセットする(ステップ19)。入力が、燃圧上昇時間経過後初回のREF、初回の気筒判定でもない場合は、REF信号入力タイミングからVDINJ2で設定される所定クランク角度後に前回噴射した次気筒に対して噴射開始時期をセットする(ステップ20)。このときの噴射は、吸気行程で噴射が行われるようにVDINJ2が設定される。
【0028】
図7は、前記ステップ10で実施される噴射終了時期基準制御のフローを示す。燃圧上昇時間経過後所定回数以上のREF信号が入力されると、ステップ21にて各気筒初回噴射用パルス幅または通常噴射パルス幅を読み込む。ステップ22で目標噴射終了時期を算出した後、ステヅプ23にて、噴射開始時期を算出する為の回転数を読み込む。この時の回転数は、REF信号入力毎に更新される回転数を用いるか、POS信号入力毎に更新される回転数を用いるかは、運転状態(過渡時か定常時か)に合わせた回転数を読み込むものとしている。ステップ24にて、噴射パルス幅と回転数と目標噴射終了時期から、噴射開始時期を算出し、前回噴射気筒の次燃焼気筒に噴射開始時期をセットする。
【0029】
図8は、前記ステップ22で実行される目標噴射終了時期の算出フローを示す。クランキング開始時水温TWINTが所定の基準値未満(ステップ25)、かつ回転数が所定回転数以下(ステップ26)の時は、噴射終了時期目標値は吸気行程噴射となる所定値でセットされ(ステップ27)、クランキング開始時水温TWINTが基準値以上(ステップ25)、またはクランキング開始時水温が基準値未満であっても回転数が所定回転数を超えている場合(ステップ26)は、噴射終了時期目標値は、各回転数毎に排気が最良となる噴射終了時期(排気行程噴射)でセットされる。
【0030】
図9に、前記目標噴射終了時期の算出に関する他のフローを示す。この処理では、ステップ25の水温判定でクランキング開始時水温TWINTが基準値未満のときには、TWINTに応じて噴射タイミング移行判定用REF入力回数NREFHを求め(ステップ70)、REF信号の入力回数が前記判定基準値NREFH未満(ステップ71)のときは噴射終了時期目標値は吸気行程噴射となる所定値でセットされ(ステップ27)、クランキング開始時水温TWINTが基準値以上、またはクランキング開始時水温が基準値未満であってもREF信号入力回数が基準値NREFH以上(ステップ71)のときには、噴射終了時期目標値は、各回転数毎に排気が最良となる噴射終了時期(排気行程噴射)でセットされる。REF入力回数判定基準値NREFHはTWINTが高いほど早期に排気行程噴射に移行する特性に設定されている。
【0031】
図10は、前記ステップ4で実行される噴射パルス幅算出フローを示す。燃圧上昇時間経過後初回のREF信号が入力されていない場合(ステップ29)は、ステップ35にて初回REF信号入力時用の噴射パルス幅の演算を実施する。燃圧上昇時間経過後初回のREF信号が入力しており、燃圧上昇時間経過後初回の気筒判定信号が入力されていない場合(ステップ30)は、ステップ34にて初回気筒判定時用の噴射パルス幅の演算を実行する。燃圧上昇時間経過後初回のREF信号が入力し、燃圧上昇時間経過後初回の気筒判定信号が入力し、燃圧上昇時間経過後初回気筒判定後に各気筒に1回も噴射を行っていない場合(ステップ31)は、ステップ33にて各気筒初回噴射用の噴射パルスの演算を実施する。燃圧上昇時間経過後初回のREF信号が入力し、燃圧上昇時間経過後初回の気筒判定信号が入力し、初回の気筒判定後に各気筒に1同ずつ噴射を行った場合(ステップ31)は、ステップ32にて通常噴射パルス幅演算を実行する。
【0032】
図11は、前記ステップ35にて実行される燃圧上昇時間経過後初回REF信号入力時用の噴射パルス幅演算フローを示す。ステップ36で、大気圧変化による空気質量変化に伴う噴射量補正値TATM、吸気管内の圧力変化による燃料圧力と噴射場(噴射弁出口部)とのあいだの差圧の変化に伴う噴射量補正値KBST、クランキング開始経過時間に応じて変化する吸気バルブ温度変化に応じた燃料気化変化に伴う噴射量補正値KTSTを読み込み、ステップ37にて、クランキング開始時水温(TWINT)に応じてREF信号入力時噴射用テーブルTTST1から基本値TST1を決定する。例えば、クランキング開始時の要求噴射量が少なくなる高水温領域では、基本値TST1はゼロとなり同時噴射を行わない設定となる。次に、ステップ38にて、TST1に対して各補正値で補正を行い、TIST1を算出する。TIST1は、水温によりTST1がゼロ設定となる場合があることから、TIST1が最小噴射量以下で噴射を行う水温領域が存在する。この時の噴射量のばらつきに伴う始動性悪化、排気エミッション悪化を防止するために、ステップ38にて算出されたTIST1がステップ39で読み込まれる最小噴射パルス幅TEMIN未満の場合(ステップ40)は、ステップ41でTIST1をTlST1Mとして記憶しておき(ステップ41)、ステップ42にてTIST1がゼロ、すなわち同時噴射を行わないようにし、ステップ43にて、TIST1を燃圧上昇時間経過後の初回REF信号入力時用噴射パルス幅としてセットする。
【0033】
図12は、前記ステップ34にて実行される燃圧上昇時間経過後気筒判定入力時用の噴射パルス幅演算フローを示す。ステップ44で、エアフローメータで計量される空気計量値に基づく噴射量基本パルス幅TPと目標当量比TFBYAから決まる噴射量TIPSを読み込む。なお目標当量比はストイキ時の空気過剰率に対する目標空気過剰率の比率である。ステップ45で、大気圧変化による空気質量変化に伴う噴射量補正値TATM、吸気管内の圧力変化による燃料圧力と噴射場とのあいだの差圧変化に伴う噴射量補正値KBST、クランキング開始後経過時間に応じて変化する吸気バルブ温度変化に応じた燃料気化変化に伴う噴射量補正値KTSTを読み込み、ステップ46にて、クランキング開始時水温に応じて気筒判定入力時噴射用テーブルTTST2から基本値TST2を決定する。次に、ステップ47にて、TST2に対して各補正値で補正を行いTIST2を算出する。REF信号入力時噴射量TIST1が、最小噴射量以下となりゼロ設定される場合に、各気筒に与える噴射量が要求量に対して少なくなるため、TIST1がゼロの場合(ステップ48)は、ステップ47で算出されたTIST2に対して、ステップ41で算出されたTIST1Mを加算して、噴射量が要求噴射量に対して少なくなることによる始動性悪化、排気悪化を防止する(ステップ49)。ステップ50にて、空気計量から算出された噴射量TIPSからTIST1を減算した値とTIST2との比較を行い、大きいほうの噴射量を初回気筒判定時噴射パルス幅としてセットし、スロットル開での始動操作等で吸入空気量が大きくなった場合のリーン化を防止する。
【0034】
図13は、前記ステップ33にて実行される各気筒初回噴射時用の噴射パルス幅演算フローを示す。ステップ51で、エアフローメータの空気計量値に基づく噴射量基本パルス幅と目標当量比から決まる噴射量TIPSを読み込む。ステップ52で、大気圧変化による空気質量変化に伴う噴射量補正値TATM、吸気管内の圧力変化による燃料圧力と噴射場とのあいだの差圧変化に伴う噴射量補正値KBST、クランキング開始後経過時間に応じて変化する吸気バルブ温度変化に応じた燃料気化変化に伴う噴射量補正値KTSTを読み込み、ステップ53にてクランキング開始時水温に応じて各気筒初回燃料噴射時噴射用テーブルTTST3から基本値TST3を決定する。次に、ステップ54にて、TST3に対して各補正値で補正を行いTIST3を算出する。REF信号入力時噴射量TIST1が、最小噴射量以下となりゼロ設定される場合に各気筒に与える噴射量が要求量に対して少なくなるため、TIST1がゼロの場合(ステップ55)は、ステップ54で算出されたTIST3に対して、ステヅプ41で算出されたTIST1Mを加算して、噴射量が要求噴射量に対して少なくなることによる始動性悪化・排気悪化を防止する(ステップ56)。ステップ57にて、空気計量から算出された噴射量TIPSからTIST1を減算した値とTIST3との比較を行い、大きいほうの噴射量を各気筒初回噴射時噴射パルス幅としてセットし、スロットル開での始動操作等で吸入空気量が大きくなった場合のリーン化を防止する。
【0035】
図14は、前記ステップ32にて実行される通常噴射パルス幅演算フローを示す。ステップ58で、エアフローメータの空気計量値に基づく噴射量基本パルス幅と目標当量比から決まる噴射量CTIを読み込む。ステップ59で、大気圧変化による空気質量変化に伴う噴射量補正値TATM、吸気管内の圧力変化による燃料圧力と噴射場とのあいだの差圧変化に伴う噴射量補正値KBST、クランキング開始後経過時間に応じて変化する吸気バルブ温度変化に応じた燃料気化変化に伴う噴射量補正値KTSTを読み込み、ステップ60にて回転数変化に対する噴射量補正を行うための回転数を読み込み、ステップ61で回転補正値を読み込む。この回転数は、REF信号入力毎に更新される回転数を用いるか、POS信号入力毎に更新される回転数を用いるか、運転状態(過渡か定常か)に合わせて読み込むものとする。ステップ62にて、クランキング開始時水温に応じて通常噴射用テーブルTTST4から基本値TST4を決める。次に、ステップ63にて、TST4に対して各補正値で補正を行いTIST4を算出する。ステップ64にて、空気計量から算出された噴射量CTIとステップ63で算出されたTIST4の比較を行い、大きいほうの噴射量を通常噴射パルス幅としてセットし、スロットル開での始動操作等で吸入空気量が大きくなった場合のリーン化を防止する。
【0036】
図15は前記始動制御による各部の状態を経時的に表したタイミング図であり、図示したようにREF信号入力前の全気筒同時噴射によりその後の噴射と合わせて始動時に必要な要求燃料量を確保する一方、気筒判別時にはそのとき吸気行程にある気筒と排気行程にある気筒、図の例では#1気筒と#3気筒にグループ噴射を行う。その後は、次に排気行程となる#4気筒、#2気筒という順序で各気筒の排気行程に同期したシーケンシャル噴射を行う。この場合、当初吸気行程で燃料を噴射した#1気筒において初爆が起こるはずであるが、何らかの理由でこのときの初爆に失敗した場合にはこの初爆失敗を判定した時点で吸気行程にある#4気筒に対して割り込み噴射を行う。なお初爆判定は前述したように初爆による回転数の急上昇があるか否かで判定する。
【0037】
この点につきより詳細に説明すると、各気筒に噴射する燃料噴射パルス幅は前述したように燃料噴射開始時の運転条件によって決定されるため、シーケンシャル噴射移行後の#4シリンダの初回噴射パルス幅TIST3は初回同時噴射で#1および#3気筒に噴射された燃料TIST2が筒内に吸入され、#1気筒において初爆が発生することを前提に設定されている。この排気行程同期のシーケンシャル噴射(図の燃料噴射A)の燃料が吸入される時には初爆燃焼aの発生後であるため、エンジン回転数が上昇し、吸気ポート内の負圧発達による燃料気化向上および筒内へ吸入される空気量の減少等のため、#4気筒における要求燃料噴射パルス幅は減少する。したがって、前記燃料噴射Aにおける設定燃料噴射パルス幅も低減させている。すなわち、TIST3<TIST2の関係となる(図16参照)。
【0038】
ここで、図17に示したように、#1気筒で初爆が起きれば前述した排気行程同期のシーケンシャル噴射制御を行うが(ステップ61,62)、もし#1気筒で初爆が発生しなかった場合、燃料噴射Aにおける初回シーケンシャル噴射パルス幅TIST3は燃焼要求に対して少ないことになるためリーン失火発生などが生じ(図18参照)、その結果として始動時間が長くなったり、排気成分が悪化したりするおそれを生じるので割り込み噴射制御を行う(ステップ63)。
【0039】
ここで、初爆が発生する燃焼aの時点で初爆判定を行い、本来初爆があるはずの#1気筒で初爆が発生しない場合、初回排気行程シーケンシャル噴射された気筒#4の吸気行程において、不足した燃料噴射パルス幅TIST5を燃料噴射Bのタイミングで噴射して初爆可能となる混合気を形成する。この燃料噴射パルス幅TIST5を算出する処理ルーチンを図19に示す。ステップ71で、大気圧変化による空気質量変化に伴う噴射量補正値TATM、吸気管内の圧力変化による燃料圧力と噴射場(噴射弁出口部)とのあいだの差圧の変化に伴う噴射量補正値KBST、クランキング開始経過時間に応じて変化する吸気バルブ温度変化に応じた燃料気化変化に伴う噴射量補正値KTSTを読み込み、ステップ72にて、クランキング開始時水温(TWINT)に応じて割り込み噴射用テーブルTTST5から基本値TST5を決定する。次に、ステップ73にて、TST5に対して前記各補正値で補正を行い、TIST5を算出する。次いで、ステップ74にて目標当量比TFBYAから決まる噴射パルス幅TIPSから初回噴射パルス幅TIST3を減じた結果とTIST5を比較し、大きい方を割り込み噴射パルス幅としてセットする。この不足する燃料噴射パルス幅TIST5は、本来初爆があると仮定した場合の燃料噴射パルス幅TIST3(すでに排気行程で噴射終了している)と、初爆が発生していない場合の燃料噴射パルス幅TIST2(吸気・排気行程の気筒にグループ燃料噴射された燃料量)との差分以上である。すなわち、TIST5≧TIST2-TIST3の関係がある。
【0040】
ここで、前記割り込み噴射Bのタイミングを、噴射終了時期基準で行うこととしたのでは演算が間に合わないため、噴射開始時期基準で管理する。これにより、初爆が必要と判断した直後から燃料噴射時期を管理して燃料噴射開始することができる。このときの噴射時期のリタード側限界は燃料が吸入できる限界とする。これにより、噴射時期が遅くなりすぎて必要な気筒で燃料が吸入されないという不都合を回避することができる(図20参照)。
【0041】
前述した初爆判定による燃料噴射制御を始動操作完了まで継続して行うことにより、ある気筒において燃焼せず、エンジン回転数上昇が止まった場合の始動時間延長を最小限に抑えることができ、始動時間や排気性能の悪化を確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係るエンジンの概略構成図。
【図2】前記実施形態のコントローラの機能を表すブロック図。
【図3】前記コントローラにより実行される始動時燃料噴射制御の第1の流れ図。
【図4】前記コントローラにより実行される始動時燃料噴射制御の第2の流れ図。
【図5】前記コントローラにより実行される始動時燃料噴射制御の第3の流れ図。
【図6】前記コントローラにより実行される始動時燃料噴射制御の第4の流れ図。
【図7】前記コントローラにより実行される始動時燃料噴射制御の第5の流れ図。
【図8】図7の変形例を示す流れ図。
【図9】前記コントローラにより実行される始動時燃料噴射制御の第6の流れ図。
【図10】前記コントローラにより実行される始動時燃料噴射制御の第7の流れ図。
【図11】前記コントローラにより実行される始動時燃料噴射制御の第8の流れ図。
【図12】前記コントローラにより実行される始動時燃料噴射制御の第9の流れ図。
【図13】前記コントローラにより実行される始動時燃料噴射制御の第10の流れ図。
【図14】前記コントローラにより実行される始動時燃料噴射制御の第11の流れ図。
【図15】前記始動時燃料噴射制御の低水温制御時のタイミング図。
【図16】始動時エンジン回転数と要求燃料噴射量との一般的関係を表す特性線図。
【図17】前記コントローラにより実行される始動時燃料噴射制御の第12の流れ図。
【図18】始動時の供給空燃比(A/F)と排出HC濃度との一般的関係を表す特性線図。
【図19】前記コントローラにより実行される始動時燃料噴射制御の第13の流れ図。
【図20】始動時の燃料噴射時期と初爆気筒の排出HC濃度および平均有効圧との一般的関係を表す特性線図。
【符号の説明】
1 コントローラ
2 エンジン
3 吸気管
4 エアフローメータ
5 スロットルバルブ
6 気筒
7 吸入ポート
8 燃料噴射弁
9 クランク角センサ
10 クランクシャフト
11 カム位置センサ
12 カムシャフト
13 イグニッションスイッチ
14 点火コイル
15 水温センサ
16 酸素センサ
Claims (8)
- 火花点火式多気筒エンジンの運転状態を検出する運転状態検出手段と、各気筒の吸気通路毎に設けられる燃料噴射弁と、前記運転状態に基づいて演算した燃料噴射量信号により前記燃料噴射弁を制御する制御手段とを備えた燃料噴射制御装置において、
エンジンの始動クランキングを検出する始動検出手段と、気筒位置を判定する気筒判定手段と、エンジンの初爆の有無を判定する初爆判定手段とを設けると共に、
前記制御手段を、前記始動検出手段および気筒判定手段からの信号に基づき、始動クランキング開始後の最初の気筒判定時に吸気行程となる気筒および排気行程となる気筒に、当該気筒毎もしくは気筒グループ毎に、気筒判定時期に同期して燃料を噴射し、その後は各気筒の排気行程に同期したシーケンシャル燃料噴射を行い、かつ前記燃料噴射により初爆が行われていないことを判定したときには当該判定時に吸気行程にある気筒に割り込み噴射を行うように構成したことを特徴とする燃料噴射制御装置。 - 前記シーケンシャル燃料噴射による排気行程に同期した燃料噴射の噴射量は、前記気筒判定時の同期燃料噴射の噴射量以下に設定されている請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
- 前記割り込み噴射量は、前記吸気行程気筒の燃料噴射量と、割り込み噴射する気筒に排気行程で噴射された燃料量との差に設定される請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
- 前記割り込み燃料噴射量は、機関水温に基づいて決定される請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
- 前記割り込み噴射は、噴射開始時期基準で実行される請求項1に記載の内燃機関の燃料噴射制御装置。
- 前記排気行程のシーケンシャル噴射は、噴射開始時期基準で実行したのち、噴射終了時期基準での実行に移行する請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
- 予め設定された所定の低温領域では前記始動クランキング開始後の最初の気筒判定前に全気筒同時に燃料を噴射する請求項1に記載の燃料噴射制御装置。
- 前記全気筒同時の燃料噴射量は、初爆要求噴射量に対して、前記最初の気筒判定時の燃料噴射時に吸気行程の所定クランクアングルまでに噴射できる燃料量が不足する分を噴射するように設定した請求項7に記載の燃料噴射制御装置。
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