JP3856091B2 - 多気筒エンジンの燃料噴射制御装置 - Google Patents

多気筒エンジンの燃料噴射制御装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
この発明は多気筒エンジンの燃料噴射制御装置、特に始動時のものに関する。
【0002】
【従来の技術】
多気筒エンジンの始動時に始動時間を短縮して始動性を確保するため、始動時に全気筒同時期に燃料噴射を行うものがある(特開平10−061475号公報参照)。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、従来装置のように、始動直後に全気筒に対して同時に所定量の燃料噴射を行うのでは、気筒毎に最適な燃料噴射量と燃料噴射時期で燃料供給を行えないため、未燃燃料に起因したHC・COの排出が顕著となる上、過剰に燃料を供給することとなり燃料消費量を増加させてしまうという問題がある。
【0004】
これについて説明すると、有害排出物質であるHC、CO、NOxの低減や過渡応答性の向上の観点から、始動後にはエンジン回転に同期させた各気筒独立の燃料噴射とし、たとえば各気筒の圧縮上死点前の所定のクランク角で立ち上がるREF(レファレンス)信号を検出または算出し、各気筒でこのREF信号後の圧縮行程になったときに点火し、その後に排気行程になったとき燃料噴射を行っているのであるが、この各気筒独立燃料噴射を始動より開始したのでは、初爆気筒(始動開始後に最初に燃焼する気筒)が生じるまでの時間(つまり始動時間)が長くなり、始動性が悪化する(図15a参照)。
【0005】
このような始動性の悪化を解決するべく、図15bに示したように、各気筒独立燃料噴射を開始する前である気筒判定前であってクランキング開始より所定の時間(たとえば数百m秒程度)が経過したとき、全気筒に対して同時に所定量の半分の燃料量を噴射し、引き続きクランクシャフトが半回転した後に残りの半分の燃料噴射を行い、さらにクランクシャフトが1回転する度に同様にして燃料噴射を行い、気筒判定が完了した気筒から、順次、各気筒独立燃料噴射に移行させている。
【0006】
しかしながら、このような全気筒同時燃料噴射では、各気筒への始動初回の燃料供給量が異なり、所定量の燃料が要求通り供給される気筒の外に、所定量の1.5倍もの燃料が供給され筒内空燃比が過リッチとなる気筒や所定量の半分の燃料しか供給されずに筒内空燃比が過リーンとなる気筒が生じてしまうため、未燃燃料に起因したHC・COの排出が増加する。
【0007】
これを図15bの例で詳細にみてみると次のようになる(ただしポートや吸気弁に付着する燃料壁流分は無視する)。
【0008】
♯1気筒:排気行程での半量の燃料が次の吸気行程での半量の燃料に加わるため、所定量の燃料が要求通り供給され、その後の点火により燃焼する(初爆が得られる)。
【0009】
♯3気筒:膨張行程と排気行程での半量ずつの燃料が次の吸気行程ですべて供給されるため、この気筒も所定量の燃料が要求通り供給され、その後の点火により燃焼する。
【0010】
♯4気筒:圧縮行程と膨張行程での半量ずつの燃料が次の次の吸気行程での半量の燃料に加わるため、所定量の5割増しの燃料が供給され、筒内空燃比が過リッチとなる(リッチ失火が生じる)。
【0011】
♯2気筒:吸気行程で半量の燃料が供給されるものの、次の圧縮行程での半量の燃料は点火に間に合わないため、結局、所定量の半分の燃料しか供給されず筒内空燃比が過リーンとなる(リーン失火が生じる)。
【0012】
このように、図15bの例では、4気筒のうち半分の気筒で失火が生じてしまう結果となる。さらに、この例では燃料供給が過剰に行われているため(三度目の半量噴射分が燃料過剰である)、燃料消費量も増加する。
【0013】
そこで、このような特定気筒(図15bの例では♯4、♯2気筒)での過リッチまたは過リーンを防止するべく、特開平10−061475号公報の技術では、エンジン始動直後の最初の燃料噴射に限って、各気筒に対して必要かつ十分な燃料量を全気筒同時に噴射し、その後、気筒判定した順に各気筒独立燃料噴射に移行させている(図15c参照)。
【0014】
この場合、初爆気筒の発生するトルクによってエンジン回転速度が上昇し吸気管内圧力が大気圧より低い値へと発達してゆくことから初爆気筒以降の気筒では吸入空気流量が減少する。しかしながら、初爆気筒以降の気筒についても初爆気筒と同一量の燃料を同一のタイミングで供給してあるので、初爆気筒以降の気筒の空燃比がリッチとなり、HC・COの排出の増加やエンストを招く。また、燃料噴射時期が全気筒で同じであり、各気筒で最適な時期に燃料噴射を行っているわけでないため、この点からも始動時のHC・COの排出を助長する。
【0015】
これを図15cの例で詳細にみてみると次のようになる。♯1気筒では排気行程から吸気行程にかけての最適な時期に噴射されているため初爆気筒となっている。これに対して、初爆気筒以降の気筒である♯3、♯4、♯2の各気筒では筒内空燃比がリッチとなり、かつ噴射時期も最適でないため、HC・COの排出が増加する。
【0016】
このように、図15cの例では、4気筒のうち3気筒で筒内空燃比と燃料噴射時期が適切でない結果となる。さらに、この例でも過濃に燃料を供給している分(♯3、♯4、♯2の3つの気筒で燃料過剰である)、燃料消費量が悪化する。
【0017】
そこで本発明は、各気筒について初回の燃料噴射を行う際に、始動初めての気筒判定時期に吸気行程にある気筒に対してまず燃料噴射を行い、残りの気筒に対しては排気行程のみで燃料噴射を行うことにより、始動時間を従来装置と同程度としつつ、始動時のHC・COの排出量を従来装置より低減することを目的とする。
【0018】
【課題を解決するための手段】
第1の発明は、多気筒エンジンの燃料噴射制御装置において、各気筒について初回の燃料噴射を行う際に、始動初めての気筒判定時期に吸気行程にある気筒に対してまず燃料噴射を行い、残りの気筒に対しては、時間単位の初回の燃料噴射量をそのときのエンジン回転速度を用いて、エンジン回転速度が上昇するほど減少する値のクランク角に換算し、予めクランク角単位で定めてある燃料噴射開始時期よりこのクランク角換算された初回の燃料噴射量を足した値を燃料噴射終了時期とし、これら燃料噴射開始時期と燃料噴射終了時期とを用いて排気行程のみで燃料噴射を行うと共に、リーン失火を生じる燃料噴射終了時期の吸気行程における限界をリタード限界として定めておき、前記始動初めての気筒判定時期に吸気行程にある気筒についての初回の燃料噴射終了時期がこのリタード限界を超える場合に、その初回の燃料噴射を禁止する。
【0019】
第2の発明では、第1の発明において各気筒について初回の燃料噴射を行う際に、始動初めての気筒判定時期に吸気行程にある気筒に対してまず燃料噴射を行い、残りの気筒に対しては排気行程のみで燃料噴射を行う手段が、
始動初めての気筒判定時期であるかどうかを判定する手段と、始動初めての気筒判定時期であると判定されたとき、吸気行程にある気筒に対してまず燃料噴射を行う手段と、前記残りの気筒に対して排気行程となったとき燃料噴射を行う手段とからなる。
【0020】
第3の発明では、第1または第2の発明において前記各気筒について初回の燃料噴射を行った後に、各気筒の基準位置から噴射時期を決定する各気筒独立燃料噴射に移行する。
【0022】
の発明では、第1または第2の発明において前記各気筒について初回の燃料噴射量をすべての気筒で同一の供給空燃比となるように設定する。
【0023】
の発明では、第1または第2の発明において前記始動初めての気筒判定時期に吸気行程にある気筒に対しての燃料噴射量を、HC濃度が最低となる供給空燃比となるように設定する。
【0024】
の発明では、第1または第2の発明において前記始動初めての気筒判定時期を基準としてクランク角で所定値オフセットさせた位置を前記残りの気筒の各燃料噴射開始時期として定める。
【0025】
【発明の効果】
第1、第2、第3の発明によれば、初回噴射気筒を吸気行程噴射とすることで、始動時間を短縮して従来なみの始動性を確保できるとともに、残りの気筒に対してはすべて排気行程のみで燃料噴射を行うことにしたため、残りの気筒に対して最適な噴射時期で最適な始動時燃料噴射量を供給することが可能となり、これによって始動時のHC・COの排出を従来装置より大幅に低減できる。さらに、過剰な燃料供給を行わなくてすむため、燃料消費量も悪化することがない。
【0026】
低水温時等で要求される始動時燃料噴射量が多くなり始動初めての気筒判定時期に吸気行程にある気筒の吸気行程後期にまたがって燃料噴射を行う場合には、次の事態が生じる。すなわち、吸気ポート内の流速が小さくなることにより燃料のすべてが筒内に輸送されず、リーン失火してエンジントルクが発生しない。また、ポート内に残留する燃料が次サイクルに持ち越され次サイクルの筒内空燃比がリッチとなりHCの排出が悪化する。こうした事態が生じるのであるが、始動初めての気筒判定時期に吸気行程にある気筒についての初回の燃料噴射終了時期がリタード限界を超える場合にその初回の燃料噴射を禁止する第の発明によれば、このような事態を未然に防止できる。
【0027】
の発明によれば、供給空燃比をHC・COの排出量が最良となるように定めておくことで、各気筒でHC・COの排出量が最良となる燃料量を供給でき、有害排出物の一層の低減が可能になる。さらに、無駄燃料の抑制により燃料消費量を低減できる。
【0028】
の発明によれば、始動初めての気筒判定時期に吸気行程にある気筒についての初回の燃料噴射時のHC濃度を最低とすることができる。
【0029】
の発明によれば、初爆前においても、簡易版のシーケンシャル噴射が可能となる。
【0030】
【発明の実施の形態】
図1において、1はエンジン本体で、ピストン2、クランクシャフト3、吸気通路4、排気通路5、吸気弁6、排気弁7、吸・排気弁駆動用の各カムシャフト8、9、燃料インジェクタ10、点火栓11などからなる。なお、同図は1気筒で代表させており、実際にはピストン、吸気弁6、排気弁7、燃料インジェクタ10、点火栓11などは気筒数や動弁形式に応じて必要となる数だけ備えている。
【0031】
エンジン1にはホールIC式クランク角センサを備える。このクランク角センサは、POS(ポジション)センサ15およびPHASE(フェーズ)センサ16の2つのセンサからなっている。このうちPOSセンサ15はクランクシャフト3の後(フライホイールまたはドライブプレート)に設けられたシグナルプレート(図示しない)に対向して設けられ、クランクシャフト3のポジションを検出する。また、PHASEセンサ16はエキゾーストカムスプロケット部に設けられた凸部により、カムシャフト9のポジションを検出する。これらPOSセンサ15、PHASEセンサ16からの信号を波形整形してパルスにしたもの(POS信号とPHASE信号)を図2の上2段に示す。POS信号の1つのパルスの立ち上がりから次のパルスの立ち上がりまではクランク角で10°ありこのPOS信号10°間および歯抜け間は時間計測を行って1°単位のクランク角信号(1°信号)を算出する。PHASE信号は点火順序(♯1−♯3−♯4−♯2)に合わせたパルス数を有している。
【0032】
21はECM(エレクトロニックコントロールモジュール)で、POSセンサ15、PHASEセンサ16からの信号が入力し、これらに基づいて気筒判定を行い、各気筒の基準位置となるREF(リファレンス)信号を算出し、さらにエンジン回転速度Neを算出する。
【0033】
ECM21には、エアフローメータ22からの吸入空気流量信号、水温センサ23からの水温信号、さらには排気通路5に設置したO2センサ24からの酸素濃度信号、アクセルセンサ25からのアクセル開度の信号、トランスミッションのギヤ位置センサ(図示しない)からのギヤ位置信号等も入力し、エンジン回転速度Neと冷却水温Twに基づき各気筒について初回の燃料噴射量を与える始動時燃料噴射パルス幅Tstを、またエンジン回転速度Neと吸入空気流量Qaに基づき各気筒について2回目以降の燃料噴射量を与える始動後燃料噴射パルス幅Tiを算出し、これら始動時や始動後の燃料噴射量が所定のタイミングで供給されるように、また最適な時期に点火が行われるように、各気筒の燃料噴射開始時期および燃料噴射終了時期と点火時期とを制御する。
【0034】
この場合、各気筒について始動初回の燃料噴射を行う際に、本実施形態では始動初めて気筒判定を行ったクランク角位置(このクランク角位置を以下「初回気筒判定時期」という。)を基準に各気筒の燃料噴射開始時期を決定し、この決定した各気筒の燃料噴射開始時期に従い、初回噴射気筒は吸気行程で、残りの気筒は排気行程で燃料噴射を行う。
【0035】
これをさらに図2、図3(基本的に図2と同じもの)により説明すると、同図は4気筒エンジンにつき始動からの燃料噴射と点火がどのように行われるかをモデル的に示したものである。同図においてt1が初回気筒判定時期であり、このとき吸気行程にある気筒(♯1気筒)を初回噴射気筒としてすぐさま燃料噴射を行う。これは、初回気筒判定時期でただちに気筒内に燃料を供給してエンジントルクを発生させ、これによって始動時間を短縮させたいためである。したがって、この吸気行程噴射により♯1気筒に対してすべての始動時燃料量が供給されれば、その直後の膨張行程で初爆が得られる。
【0036】
一方、残り3つの気筒である♯3、♯4、♯2の各気筒に対しては排気行程で燃料噴射を行う。これは、残り3つの気筒も吸気行程での燃料噴射としたのでは、筒内の燃料壁流が増加することによりHC濃度を悪化させるので(図11参照)、HC濃度が最良となる排気行程での燃料噴射としたものである。このため、初回気筒判定時期を基準としてこれより所定のクランク角だけオフセットさせた各位置t2、t5、t7を残りの3つの気筒の燃料噴射開始時期として予め定めておく。すなわち、t2が♯3気筒について初めての燃料噴射開始時期、t5が♯4気筒について初めての燃料噴射開始時期、t7が♯2気筒について初めての燃料噴射開始時期である。
【0037】
このようにして定めた燃料噴射開始時期で各気筒について初回の燃料噴射を行う。これで、各気筒について初回の燃料噴射を終了するので、次には各気筒独立燃料噴射に移行する。この移行後の制御は各気筒のREF信号を基準に燃料噴射時期と点火時期を決定するもので、従来と同様である。なお、各気筒について初回の燃料噴射を「始動時燃料噴射」ということがある。
【0038】
ECM21で実行されるこの制御の内容を、図4のフローチャートにしたがって説明する。図4は始動からの燃料噴射を制御するためのメインルーチンで、たとえばクランク角で1°毎に実行する。
【0039】
ステップ1でイグニッションスイッチ信号をみる。イグニッションスイッチ信号がONであれば、ステップ2に進み、POS信号とPHASE信号に基づいて気筒判定を行う。気筒判定の仕方は従来と同様でかまわない。たとえば始動からの気筒判定の様子を図2の第3段目に示す。同図において記号判定結果のところの2、1、3、4・・・といった数値はすぐ上に記載されているPHASE信号の数に対応するものとなっており、その数値は各気筒の気筒判定時期を基準としてその後に最初に点火する気筒番号を表す。たとえば初回気筒判定時期にまず2と判定されているが、この2は初回気筒判定時期の後に最初に点火するのは♯2気筒であることを意味する。
【0040】
図4のステップ3では初回気筒判定時期であるかどうかみる。初回気筒判定時期は、図2、図3の例では♯1気筒の吸気行程初めより30°後(30°ATDC)としている。この数値はエンジン機種により変わり得る。
【0041】
初回気筒判定時期であれば、図4のステップ4に進み始動後噴射回数(全気筒ついて始動からの噴射回数)を0に初期化する。始動後噴射回数は各気筒について初回の燃料噴射(始動時燃料噴射)と各気筒について2回目以降の燃料噴射(始動後各気筒独立燃料噴射)の場合分けを行うために必要となるものである。すなわち、後述するように始動後噴射回数が0〜3までの間は始動時燃料噴射を行い、この値が4になると始動後各気筒独立燃料噴射に移行する。
【0042】
図4のステップ5、6は、ステップ2とともに、初回気筒判定時期であるかどうかや始動後噴射回数に関係なく常時行われる処理である。このうちステップ5では各気筒の点火・燃料噴射のためのREF信号を、またステップ6ではREF信号の入力を起点としてその後の1°信号をカウントすることにより各気筒のREF信号後のクランク角(このクランク角を以下「各気筒REF信号後クランク角」という)θrefをそれぞれ算出する。これらREF信号と各気筒REF信号後クランク角θrefの算出方法は従来と同様でかまわない。図2の例ではREF信号はたとえば各気筒の圧縮上死点前50°(BTDC50°)で立ち上がる信号である。
【0043】
図4のステップ7では始動後噴射回数と気筒数−1(4気筒では気筒数−1は3になる)を比較し、始動後噴射回数≦気筒数−1のときにはステップ8に進みサブルーチン1において各気筒にとって1回目の噴射を行い、始動後噴射回数>気筒数−1になると、ステップ9に進みサブルーチン2において各気筒にとって2回目以降の噴射を行う。
【0044】
上記サブルーチン1(図4のステップ8)の処理については図5、図6により説明する。ただし、説明の便宜上、図2、図3の例に対応させたルーチンとしてあるので、図2、図3を参照しながら、始動からのクランク角の推移に従って説明する。
【0045】
まずステップ21は始動時燃料噴射の制御中常に実行される処理で、ここでは初回気筒判定時期からのクランク角(このクランク角を以下「初回気筒判定後クランク角」という)θtを算出する。従来装置においては初回気筒判定時期と始動時制御噴射基準位置とが必ずしも一致するものでないが、本発明では始動後できるだけ早く燃料噴射を開始させるため、始動時制御噴射基準位置を初回気筒判定時期と一致させている。したがって、初回気筒判定後クランク角θtは始動時制御噴射基準位置からのクランク角でもある。始動時燃料噴射の制御においてはこの初回気筒判定後クランク角θtに基づいて、後述するように各気筒について初回の燃料噴射開始時期や燃料噴射終了時期になったかどうかを判定する。
【0046】
ステップ22以降は「初回気筒判定時期の処理」と「その後の処理」に分かれ、さらに「その後の処理」はほぼ3つの段階に分かれるので、項を分けて説明する。
【0047】
〈1〉初回気筒判定時期の制御:
初回気筒判定時期であればステップ22よりステップ23に進み、初回気筒判定結果と噴射順序から図7のテーブルに従い、初回に燃料噴射する気筒を決定する。図2、図3の例であれば、初回気筒判定結果が2であるため、初回に噴射する気筒は♯1気筒である。初回に噴射する気筒が決まると、その後の噴射気筒は点火順序に従い自動的に決まる。
【0048】
ステップ24では、図8に示すテーブルに従い各気筒について初回の燃料噴射開始時期を設定する。同図の数値は初回気筒判定時期からの各オフセット量(単位はクランク角)である。図2の例によれば初回気筒判定時期が♯1気筒の吸気行程初めより30°後であるから、各気筒の燃料噴射開始時期ITs1〜ITs4をわかりやすくすると、結局次のようになる。
【0049】
ITs1(初回噴射気筒 :♯1気筒):
♯1気筒の吸気行程初めより30°後、
ITs2(2番目噴射気筒:♯3気筒):
♯3気筒の排気行程終わりより120°前、
ITs3(3番目噴射気筒:♯4気筒):
♯4気筒の排気行程終わりより120°前、
ITs4(4番目噴射気筒:♯2気筒):
♯2気筒の排気行程終わりより120°前、
ここで、初回噴射気筒(♯1気筒)以外の気筒の初回の燃料噴射開始時期を排気行程終わりより120°前としたのは、初回噴射気筒以外の気筒については排気行程中に燃料噴射を完了したいためである。この120°という数値は実験に用いたエンジンに適合させた値であるため、エンジン機種により異なることが考えられる。なお、ITs1〜ITs4は各気筒の燃料噴射終了時期ITe1〜ITe4を算出するのに必要となるので、RAMに記憶させておく。
【0050】
ステップ25では主に冷却水温Twとエンジン回転速度Neに基づいて始動時燃料噴射パルス幅Tstを算出する。この始動時燃料噴射パルス幅Tstの算出方法は従来と同様でかまわない。たとえば、冷却水温Twをパラメータとするテーブル値とエンジン回転速度Neをパラメータとするテーブル値の乗算で始動時噴射パルス幅の基本値を求める。このようにして算出される基本値に対して燃圧による補正(当該補正を行わないものもある)と大気圧補正(高地対策)を行う。冷却水温Twをパラメータとする上記のテーブル値は冷却水温が低くなるほど大きくなる値、また回転速度Neをパラメータとする上記のテーブル値は回転速度が低くなるほど大きくなる値である。
【0051】
この場合、図9に示すようにHC濃度が最良となる供給空燃比が存在するため、HC濃度が最良となる供給空燃比が得られるように始動時燃料噴射パルス幅Tstを算出することが好ましい。そこで、本実施形態では従来と相違して、始動時のHC濃度が最低となるように冷却水温Twをパラメータとする上記テーブル値を適合している。なお、図9は実験結果であるため、エンジン機種が異なれば、HC濃度が最低となる供給空燃比が異なってくることが考えられる。
【0052】
このようにして算出した始動時燃料噴射パルス幅Tst、初回噴射気筒(♯1気筒)の上記燃料噴射開始時期ITs1、およびそのときのエンジン回転速度Neを用い、ステップ26において初回噴射気筒の燃料噴射終了時期ITe1を算出する。これは時間単位の始動時燃料噴射パルス幅Tst[ms]をエンジン回転速度Ne[rpm]を用いてクランク角単位に換算し、燃料噴射開始時期ITs1よりこのクランク角換算された噴射パルス幅を足した値を噴射終了時期とするもので、考え方そのものは従来と同様である。
【0053】
ステップ27では、このようにして算出された燃料噴射終了時期ITe1と、各気筒について初回の燃料噴射における燃料噴射終了時期のリタード限界を比較する。このリタード限界は図10に示すようにテーブルとして予め設定している。同図の数値も初回気筒判定時期からの各オフセット量である。これらの数値を各気筒の吸気行程初めよりのクランク角になおしてみると、次のようになる。
【0054】
初回噴射気筒(♯1気筒)のリタード限界:
♯1気筒の吸気行程初めより120°後、
2番目噴射気筒(♯3気筒)のリタード限界:
♯3気筒の吸気行程初めより120°後、
3番目噴射気筒(♯4気筒)のリタード限界:
♯4気筒の吸気行程初めより120°後、
4番目噴射気筒(♯2気筒)のリタード限界:
♯2気筒の吸気行程初めより120°後、
このように、各気筒とも燃料噴射終了時期のリタード限界を吸気行程初めより120°後であるとして定めたのは図11、図12の実験結果に基づくものである。この実験結果について説明すると、図12に示すように初回の燃料噴射終了時期をリタード限界(破線で示す)を超えてリタードさせたとき、ポート流速が低くなり燃料が吸入空気の流動に乗らずに筒内に輸送しきれず、リーン失火が生じ、このリーン失火に伴うトルク低下で始動不良を起こす。さらに、リーン失火によりHCの悪化が生じるばかりか筒内に入りきらない燃料が吸気ポートに残留するため次サイクルの燃焼がリッチ燃焼となりHC排出の悪化に拍車をかける。したがって、図12の特性によればリタード限界は吸気行程初め(TDC)より120°後であった。一方、図11によれば進角側のほうがHC濃度が小さいのであるが、低水温時に始動時燃料噴射パルス幅Tstが大きくなるため、リタード限界を進角側にもってくると燃料の総てを噴き切れないことが考えられるので、この点よりすればリタード限界は遅角側ほどよい。そこで、両者を勘案してリタード限界を吸気行程初めより120°後として定めたものである。ただし、図11、図12は実験結果であるためエンジン機種が相違すれば120°という数値は変わり得る。
【0055】
図6に戻り初回噴射気筒の燃料噴射終了時期ITe1がこれに対応する燃料噴射終了時期のリタード限界(90°)を超えるときには、ステップ27よりステップ28、29に進んで初回噴射気筒噴射禁止フラグ(0に初期設定)=1とするとともに、初回噴射気筒(♯1気筒)の初回の噴射を禁止する。
【0056】
なお、初回噴射気筒だけが吸気行程での燃料噴射であり、残り3つの気筒すなわち2〜4番目噴射気筒(♯3、♯4、♯2気筒)は排気行程での燃料噴射であるため、リタード限界により実際に初回噴射が禁止されるのは初回噴射気筒だけであると考えられるため、残りの気筒についての初回噴射を禁止する処理は省略している。
【0057】
一方、初回噴射気筒の燃料噴射終了時期ITe1がこれに対応する燃料噴射終了時期のリタード限界(90°)を超えてないときには、ステップ27よりステップ30に進み初回噴射気筒である♯1気筒の初回噴射を開始する。
【0058】
ステップ31ではステージフラグ(0に初期設定)=1とする。このステージフラグは初回気筒判定時期の後の制御段階に応じて異なる値となるもので、後述するように
初回噴射気筒(♯1気筒)の噴射開始から2番目噴射気筒(♯3気筒)の噴射終了まで:1、
2番目噴射気筒(♯3気筒)の噴射終了直後から3番目噴射気筒(♯4気筒)の噴射終了まで:2、
3番目噴射気筒(♯4気筒)の噴射終了直後から4番目噴射気筒(♯2気筒)の噴射終了まで:3、
となる(図3の下段参照)。このステージフラグによって上記「その後の処理」は、ステージフラグ=1であるときの処理、ステージフラグ=2であるときの処理、ステージフラグ=3であるときの処理の3つに分かれる。以下この順に詳述する。
【0059】
なお、初回気筒判定時期でないときにはステージフラグの値に関係なく、ステップ32を必ず通るため、ここでは、そのときのエンジン回転速度Neと冷却水温Twに応じた始動時燃料噴射パルス幅Tstが算出される。これは、初回気筒判定時期より変化していく運転状態(Tw、Ne)に応じたものとするためである。したがって、ステップ31で算出される始動時燃料噴射パルス幅Tstは初回気筒判定時期からの運転状態(Tw、Ne)の変化に応じて多少変化する。
【0060】
なお、図2において各気筒の始動時燃料噴射パルス幅Tstが相違しているのは、別の理由からである。すなわち、図2において♯1、♯3、♯4の各気筒については初爆前であるためクランク角に換算した始動時燃料噴射パルス幅がほぼ同じであるのに対して、♯2気筒では初爆により回転速度が上昇した分だけクランク角換算した始動時燃料噴射パルス幅がこれら♯1、♯3、♯4の各気筒よりも減少している。
【0061】
〈2〉ステージフラグ=1であるときの処理(t1直後よりt4まで):
図5、図6においてステップ34よりステップ43までの処理である。ここでの主な処理は2番目噴射気筒(♯3気筒)の初回の燃料噴射の開始(ステップ35、36)とその燃料噴射の終了(ステップ41、42)である。また、図2に示したように♯3気筒の排気行程は♯1気筒の吸気行程と重なっているため、初回噴射気筒(♯1気筒)の初回の燃料噴射を終了させるための処理が加わっている(ステップ39、40)。
【0062】
詳細にはまずステップ34で、RAMに格納してある♯3気筒の初回の燃料噴射開始時期ITs2とステップ32で得ている始動時燃料噴射パルス幅Tstとそのときのエンジン回転速度Neを用いて♯3気筒の初回の燃料噴射終了時期ITe2[°]を算出する。
【0063】
ステップ35では初回気筒判定後クランク角θtとRAMに格納してある2番目噴射気筒(♯3気筒)の初回の燃料噴射開始時期ITs2(=30°)を比較する。図3においてt1直後からt2直前まではθtがITs2に一致することはないが、t2になるとθtがITs2に一致するので、ステップ36、37に進み、2番目噴射気筒(♯3気筒)の初回の燃料噴射を開始するとともに、始動後噴射回数=1とする。
【0064】
ステップ38では初回噴射気筒噴射禁止フラグをみる。初回噴射気筒噴射禁止フラグ=0のときにはステップ39に進んでθtと初回噴射気筒(♯1気筒)の初回の燃料噴射終了時期ITe1を、またステップ41でθtと2番目噴射気筒(♯3気筒)の初回の燃料噴射終了時期ITe2を比較する。図3においてt2直後からt3直前まではθtがITe1、ITe2のいずれとも一致しないが、t3になると、θtが♯1気筒の初回の燃料噴射終了時期ITe1と一致するためステップ40に進み、♯1気筒の初回の燃料噴射を終了する。t3直後からt4直前までもθtがITe1、ITe2のいずれとも一致しないが、t4になると、θtが♯3気筒の初回の燃料噴射終了時期ITe2と一致するためステップ42、43に進み、2番目噴射気筒(♯3気筒)の初回の燃料噴射を終了し、ステージフラグ=2とする。このステージフラグ=2より次回はステップ21、22、32、33、44よりステップ45以降に進む。
【0065】
一方、初回噴射気筒噴射禁止フラグ=1のときにはステップ39、40の処理は不要であるためこれらを飛ばし、ステップ41〜43の処理を実行する。
【0066】
〈3〉ステージフラグ=2であるときの処理(t4直後よりt6まで):
図5、図6においてステップ45よりステップ51までの処理である。ここでの主な処理は♯4気筒の初回の燃料噴射の開始(ステップ46、47)とその燃料噴射の終了(ステップ49、50)であるため、♯3気筒について前述したところと同様である。すなわち、ステップ45でRAMに格納してある3番目噴射気筒(♯4気筒)の初回の燃料噴射開始時期ITs3とステップ32で得ている始動時燃料噴射パルス幅Tstとそのときのエンジン回転速度Neを用いて、3番目噴射気筒(♯4気筒)の初回の燃料噴射終了時期ITe3[°]を算出する。
【0067】
ステップ46では初回気筒判定後クランク角θtとRAMに格納してある3番目噴射気筒(♯4気筒)の初回の燃料噴射開始時期ITs3(=210°)を比較する。図3においてt4直後からt5直前まではθtがITs3に一致することはないが、t5になるとθtがITs3に一致するので、ステップ47、48に進み、3番目噴射気筒(♯4気筒)の初回の燃料噴射を開始するとともに、始動後噴射回数=2とする。
【0068】
ステップ49ではθtと3番目噴射気筒(♯4気筒)の初回の燃料噴射終了時期ITe3を比較する。図3においてt5直後からt6直前までθtがITe3と一致しないが、t6になると、θtがITe3と一致するためステップ50、51に進み、3番目噴射気筒(♯4気筒)の初回の燃料噴射を終了するとともに、ステージフラグ=3とする。このステージフラグ=3より次回はステップ21、22、32、33、44よりステップ52以降に進む。
【0069】
〈4〉ステージフラグ=3であるときの処理(t6直後よりt8まで):
図5、図6においてステップ52よりステップ59までの処理である。ここでの主な処理も♯2気筒の初回の燃料噴射の開始(ステップ53、54)とその燃料噴射の終了(ステップ56、57)であるため、♯3、♯4気筒について前述したところと同様である。すなわち、ステップ52でRAMに格納してある4番目噴射気筒(♯2気筒)の初回の燃料射開始時期ITs4とステップ32で得ている始動時燃料噴射パルス幅Tstとそのときのエンジン回転速度Neを用いて、♯2気筒の初回の燃料噴射終了時期ITe4[°]を算出する。ステップ53では初回気筒判定後クランク角θtとRAMに格納してある4番目噴射気筒(♯2気筒)の初回の燃料噴射開始時期ITs4(=390°)を比較する。図3においてt6直後からt7直前まではθtがITs4に一致することはないが、t7になるとθtがITs4に一致するのでステップ54、55に進み、4番目噴射気筒(♯2気筒)の初回の燃料噴射を開始するとともに始動後噴射回数=3とする。ステップ56ではθtと4番目噴射気筒(♯2気筒)の初回の燃料噴射終了時期ITe4を比較する。図3においてt7直後からt8直前まではθtがITe4と一致しないが、t8になると、θtがITe4と一致するためステップ57に進み、♯2気筒の初回の燃料噴射を終了する。
【0070】
これで各気筒について初回の燃料噴射をすべて終了するので、ステップ58でステージフラグ=0とし、次回には始動後各気筒独立燃料噴射の処理に移行させるためステップ59で始動後噴射回数=4とする。この始動後噴射回数=4により次回には図4においてステップ7よりステップ9に流れる。
【0071】
次に、サブルーチン2(図4のステップ9)の処理を図13により説明するが、これは各気筒について2発目からの燃料噴射の処理である始動後各気筒独立燃料噴射の処理(各気筒の燃料噴射開始時期と噴射終了時期を各気筒別にREF信号に同期して演算する)であり、従来と同様である。なお、この処理は各気筒とも共通であるため、図13では各気筒を区別することなく述べる。
【0072】
まずステップ71でエンジン回転速度Neをパラメータとして予め割り付けられている始動後の燃料噴射終了時期テーブルから、そのときのエンジン回転速度Neに応じた燃料噴射終了時期ITeを算出する。始動後の燃料噴射終了時期はたとえば図14のようになっており、同図において縦軸は各気筒REF信号後クランク角θrefである。図14の特性は、各気筒とも始動後の燃料噴射終了時期が吸気行程終わりより30°〜50°前となるように定めたものである。
【0073】
図13のステップ72では始動後の燃料噴射パルス幅Tiを算出する。たとえば、そのときのエンジン回転速度Neとエアフローメータからの吸入空気流量Qaとに基づいてほぼ理論空燃比の得られる基本噴射パルス幅Tpを算出し、これに水温増量補正や始動後増量補正を行って始動後の燃料噴射パルス幅Tiを算出する。このようにして得られる燃料噴射パルス幅Ti[ms]も時間単位であるため、ステップ73においてそのときのエンジン回転速度Neを用いてクランク角単位に変換し、始動後の燃料噴射終了時期ITeよりこのクランク角換算された燃料噴射パルス幅Tiだけ前のクランク角を始動後の燃料噴射開始時期ITs[°]として算出する。
【0074】
このようにして算出された始動後の燃料噴射開始時期ITsと各気筒REF信号後クランク角θrefとを図13のステップ74において比較し、θrefがITsと一致したとき始動後の燃料燃料噴射を開始する。同様にして、図13のステップ76でREF信号後クランク角θrefと始動後の燃料噴射終了時期ITeを比較し、θrefがITeと一致したとき始動後の燃料噴射を終了する。
【0075】
図2の例でいえば、各気筒について初回の燃料噴射処理で最後に噴射されたのは♯2気筒であったので、始動後各気筒独立燃料噴射の処理に移行した直後には♯1気筒の2回目の燃料噴射が排気行程で実行され、その後は点火順序に従い、♯3、♯4、♯2の気筒の順に同じく各気筒の排気行程での燃料噴射が実行される。
【0076】
図15は、本実施形態の図2、図3との比較のため従来装置について始動からの燃料噴射と点火とがどうなるかを示したもので、このうち上段のaは、始動より各気筒独立燃料噴射を行わせたもの、中段、後段のb、cは始動時に全気筒同時燃料噴射を行わせたものである(cは特開平10−61475号公報の例)。
【0077】
ただし、本実施形態との比較を容易にするため、燃料噴射時期と始動時燃料噴射パルス幅の違いがよくわかるように重要でない部分は図2、図3と同じにしている。したがって、初回気筒判定時期も同じとする。
【0078】
さて、図15aの場合には、気筒判定結果より各気筒のREF信号を算出し、各気筒REF信号後クランク角θrefに基づいて各気筒の燃料噴射を開始するため、初爆気筒が出現するのが大きく遅れ始動時間が長くなっている。これに対して、図15bの場合には、初回気筒判定時期の前にクランキング開始からの時間管理で全気筒に対して同時に燃料噴射を行うため、図15aの場合より始動時間が短縮されるものの、各気筒の筒内に輸送される燃料量が異なるため、筒内空燃比が過リッチや過リーンとなる気筒で失火を生じHCの排出量が悪化する。図15cでは、図15bと相違して各気筒に同一量の燃料を供給できるため、図15bの場合よりHCの排出を低減できるものの、初爆気筒以降の気筒について吸入空気流量変化分の燃料補正を行うことができないので、初爆気筒以降の気筒の筒内空燃比がリッチとなり、その分HC排出量が悪くなる。
【0079】
これに対して、本実施形態では、図2、図3に示したように初回噴射気筒(♯1気筒)の燃料噴射を吸気行程での燃料噴射とすることで、図15aの場合より始動時間が短縮され、図15b、cの場合と同様の始動時間になるとともに、初回噴射気筒を除く残りの気筒(♯3、♯4、♯2の各気筒)についての初回の燃料噴射を排気行程での燃料噴射としているので、初回噴射気筒を除く残りの気筒に対して最適な噴射時期に最適な始動時燃料噴射量を供給することが可能となり、図15b、cの場合よりHC排出量を一段と低減できる。本実施形態の始動時間と始動時HC排出量の特性を図16に示す。また、過剰な燃料供給を行わないため、燃料消費量の悪化をも抑制できる。
【0080】
この場合、初回噴射気筒の吸気行程での燃料噴射については、低水温時等で要求される始動時燃料噴射量が多くなり吸気行程後期にまたがって燃料噴射を行った場合に、吸気ポート内の流速が小さくなることにより燃料の総てが筒内に輸送されず、リーン失火してトルクが発生しない、また、ポート内に残留する燃料が次サイクルに持ち越され次サイクルの筒内空燃比がリッチとなりHC、COの排出が悪化するといった事態が生じるのであるが、本実施形態では、リーン失火を生じる燃料噴射終了時期の吸気行程における限界をリタード限界として定めており、各気筒について算出した初回の燃料噴射終了時期がこのリタード限界を超える場合にその初回の燃料噴射を禁止するので、HC、COの排出量を増加させてしまうこのような事態を未然に防止できる。
【0081】
また、各気筒について初回の燃料噴射量を、HC濃度が最低となる供給空燃比が得られるように設定するので、各気筒について初回の燃料噴射時のHC濃度を最低とすることができる。
【0082】
また、各気筒初回の燃料噴射について、初回気筒判定時期を基準として所定値オフセットさせたクランク角位置を初回の燃料噴射開始時期として定めているので、初爆前においても、簡易版のシーケンシャル噴射が可能となる。
【0083】
次に、本実施形態でも、初爆気筒(♯1気筒)の発生するトルクによってエンジン回転速度が上昇し吸気管内圧力が大気圧より低い値へと発達してゆくことから、初爆気筒以降の気筒では吸入空気流量が減少するので、これを考慮することなく初爆気筒以降の気筒である残りの気筒(♯3、♯4、♯2の各気筒)について初回の燃料噴射量を算出したのでは、残りの気筒についての筒内空燃比が初爆気筒の空燃比よりリッチとなり、残りの気筒についてHC・COの排出量が最良となる燃料量を供給できなくなる。
【0084】
そこで、残りの気筒についての初回の燃料噴射量を、エアフローメータの出力に基づいて燃料補正を行い(初爆気筒に対するよりも燃料減量する)、残りの気筒についても初爆気筒と同じ供給空燃比となるようにすることが好ましい。こうした残りの気筒に対する燃料補正により、すべての気筒でHC・COの排出量が最良となる燃料量を供給できることとなり、有害排出物の一層の低減が可能になる。さらに、無駄燃料の抑制により燃料消費量も低減できる。
【0086】
実施形態では4気筒エンジンについて説明したが、これに限られるものでない。たとえば、図7、図8、図10には6気筒エンジンの場合を重ねて示している。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1実施形態の制御システム図。
【図2】始動からのPOS信号、PHASE信号、気筒判定結果、REF信号、各気筒の行程、燃料噴射、点火を示す本実施形態のタイムチャート。
【図3】同じく本実施形態のタイムチャート。
【図4】始動からの燃料噴射制御を説明するためのフローチャート。
【図5】サブルーチン1の処理を説明するためのフローチャート。
【図6】サブルーチン1の処理を説明するためのフローチャート。
【図7】始動後の初回の燃料噴射気筒を決定するための表図。
【図8】各気筒について初回の燃料噴射開始時期を示す表図。
【図9】始動時に供給空燃比がHC濃度に及ぼす影響を示す特性図。
【図10】各気筒について初回の燃料噴射終了時期のリタード限界を示す表図。
【図11】始動時燃料噴射終了時期が初爆気筒のHC濃度に及ぼす影響を示す特性図。
【図12】始動時燃料噴射時期が初爆気筒の平均有効圧力に及ぼす影響を示す特性図。
【図13】サブルーチン2の処理を説明するためのフローチャート。
【図14】始動後の燃料噴射終了時期の特性図。
【図15】従来装置による始動からの燃料噴射と点火を説明するためのタイムチャート。
【図16】本実施形態による効果を説明するための特性図。
【符号の説明】
1 エンジン本体
10 燃料インジェクタ
15 POSセンサ
16 PHASEセンサ
21 ECM

Claims (6)

  1. 多気筒エンジンの燃料噴射制御装置において、各気筒について初回の燃料噴射を行う際に、始動初めての気筒判定時期に吸気行程にある気筒に対してまず燃料噴射を行い、残りの気筒に対しては、時間単位の初回の燃料噴射量をそのときのエンジン回転速度を用いて、エンジン回転速度が上昇するほど減少する値のクランク角に換算し、予めクランク角単位で定めてある燃料噴射開始時期よりこのクランク角換算された初回の燃料噴射量を足した値を燃料噴射終了時期とし、これら燃料噴射開始時期と燃料噴射終了時期とを用いて排気行程のみで燃料噴射を行うと共に、
    リーン失火を生じる燃料噴射終了時期の吸気行程における限界をリタード限界として定めておき、前記始動初めての気筒判定時期に吸気行程にある気筒についての初回の燃料噴射終了時期がこのリタード限界を超える場合に、その初回の燃料噴射を禁止する
    ことを特徴とする多気筒エンジンの燃料噴射制御装置。
  2. 各気筒について初回の燃料噴射を行う際に、始動初めての気筒判定時期に吸気行程にある気筒に対してまず燃料噴射を行い、残りの気筒に対しては排気行程のみで燃料噴射を行う手段は、始動初めての気筒判定時期であるかどうかを判定する手段と、始動初めての気筒判定時期であると判定されたとき、吸気行程にある気筒に対してまず燃料噴射を行う手段と、前記残りの気筒に対して排気行程となったとき燃料噴射を行う手段とからなることを特徴とする請求項1に記載の多気筒エンジンの燃料噴射制御装置。
  3. 前記各気筒について初回の燃料噴射を行った後に、各気筒の基準位置から噴射時期を決定する各気筒独立燃料噴射に移行することを特徴とする請求項1または2に記載の多気筒エンジンの燃料噴射制御装置。
  4. 前記各気筒について初回の燃料噴射量をすべての気筒で同一の供給空燃比となるように設定することを特徴とする請求項1または2に記載の多気筒エンジンの燃料噴射制御装置。
  5. 前記始動初めての気筒判定時期に吸気行程にある気筒に対しての燃料噴射量を、HC濃度が最低となる供給空燃比となるように設定することを特徴とする請求項1または2に記載の多気筒エンジンの燃料噴射制御装置。
  6. 前記始動初めての気筒判定時期を基準としてクランク角で所定値オフセットさせた位置を前記残りの気筒の各燃料噴射開始時期として定めることを特徴とする請求項1または2に記載の多気筒エンジンの燃料噴射制御装置。
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