JP3855387B2 - インクジェット記録装置および該インクジェット記録装置におけるインク温度調節方法 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、画像信号に応じてインクを吐出して記録媒体上に画像を記録するインクジェット記録装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、インクジェット記録装置では、一般に、インクジェットヘッドのインクチャンネル内に収容されたインクを加圧手段により加圧して、ノズルからインク滴を飛翔させ、これを記録媒体に付着させて画像を記録している。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、インクジェットヘッドに最初にインクを充填する際に、ヘッド内の空気が抜け切らずにインクテャンネル内に気泡となって残留することがある。また、インクジェットヘッドにインクを供給するインクカートリッジを交換する際にカートリッジ接続部においてインクに空気が混入し、それが気泡となってインクと共にインクチャンネルに送られてインクチャンネル内に気泡が溜まることもある。これらの場合に、インクチャンネル内の気泡がインク飛翔のための加圧力を吸収してしまうため、インク飛翔を妨げる原因となるという問題があった。この問題の解決方法として、ノズル側から負圧をかけてインクチャンネル内の気泡をインクと共に吸引して除去する方法も採られているが、ノズル径に対して気泡が大きく成長している場合には、この方法で気泡を取り除くのは困難であった。
【0004】
一方、低温環境下でインクジェット記録装置による画像記録を行う場合、インクジェットヘッド内のインクの温度も低下し、インクの粘度や表面張力が上昇するために、飛翔するインク滴径が常温時より小さくなって画質が低下するという問題もあった。
【0005】
そこで、本発明の目的は、インクジェットヘッド内のインク温度を調節することにより上記問題を解消できるインクジェット記録装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記目的達成のため、本発明のインクジェット記録装置は、記録媒体上に画像を記録するようにノズルからインクを吐出するインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッド内のインクを加熱および冷却するために前記インクジェットヘッドまたは前記インクジェットヘッドを支持するキャリッジに内蔵されたインク温度調節手段と、前記ノズルを介して上記インクジェットヘッド内のインクを吸引パージする吸引手段と、前記インク温度調節手段によって前記インクジェットヘッド内のインクを所定温度に冷却した後に前記ノズルを介して吸引パージする一方、前記インク温度調節手段によって前記インクジェットヘッド内のインクを所定温度に加熱した後にインク吐出動作を行うよう制御する制御手段と、を備えることを特徴とするものである。
この場合、前記インク温度調節手段がペルチェ素子であることが好ましい。
【0007】
また、本発明のインクジェット記録装置におけるインク温度調節方法は、記録媒体上に画像を記録するようにノズルからインクを吐出するインクジェットヘッド内のインクを、前記インクジェットヘッドまたは前記インクジェットヘッドを支持するキャリッジに内蔵された1つのインク温度調節手段によって、所定温度に冷却した後に吸引手段で前記ノズルを介して吸引パージする一方、所定温度に加熱した後にインク吐出動作を行うことを特徴とするものである。
この場合、前記インク温度調節手段がペルチェ素子であることが好ましい。
【0008】
本発明によれば、1つのインク温度調節手段によってインクジェットヘッド内のインクを冷却することにより、気泡のインクに対する溶解度が上がりインクに溶け込み易くなる。その結果、ヘッド内に溜まった気泡が完全に溶解して無くなるか、あるいは、小さくなった気泡をノズルからの吸引により容易に除去することができる。これにより、インク飛翔安定性を向上させることができる。
【0009】
また、前記1つのインク温度調節手段はインクジェットヘッド内のインクを加熱することもできるので、インクが低温となって粘度が大きくなっているときにインクを加熱して粘度を下げ、インクを飛翔し易くする。これにより、低温環境下でも一定の大きさのインク滴を飛翔させることができ、画質の低下を防止できる。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下、添付図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1はインクジェット記録装置の印字部を示す。図1に示すように、インクジェットヘッド10はキャリッジ12に支持されている。キャリッジ12はガイドシャフト14に沿って移動可能に支持されている。また、キャリッジ12は、ガイドシャフト14の両端近傍に配置したプーリ16、16に無端状に架け渡されたベルト18に連結してあり、一方のプーリ16が連結されているモータ20の駆動に基づいてガイドシャフト14に沿って矢印a方向に往復移動できるようにしてある。
【0011】
クリーニング装置52は、非記録時にインクジェットヘッド10が待機する場所(ホームポジション)の近傍に設けてあり、モータ24によってインクジェットヘッド10に向かって矢印b方向に進退できるようになっている。クリーニング装置52は、その側面にキャップ部54を有する。ホームポジションにあるインクジェットヘッド10に向かってクリーニング装置52が移動したとき、キャップ部54はインクジェットヘッド10のノズル面に圧接され、キャップ部54の内部に全ノズルを覆う密閉空間を形成する。この状態で、該密閉空間に負圧をかけることによってインクジェットヘッド10内のインクがノズルから吸引されるようになっている。
【0012】
図2はインクジェットヘッド10のノズル面、図3は図2におけるIII−III線断面図を示す。インクジェットヘッド10は、第1ヘッド部26と第2ヘッド部28とからなり、天板30、隔壁32、振動板34、および基板36を一体的に重ね合わせて構成されている。第1ヘッド部26と第2ヘッド部28は、インクジェットヘッド10の移動方向に並んでおり、中央の一点鎖線38に関して対称な構成を有している。
【0013】
天板30の隔壁32との対向面には、電鋳やフォトリソグラフィー等の方法により複数の溝状凹部が形成されている。隔壁32で覆われたこれらの凹部が、第1ヘッド部26および第2ヘッド部28のそれぞれについて、インクを収容する複数のインクチャンネル40と、補給用インクを収容するインク供給室42と、各インクチャンネル40をインク供給室42に連通させるインクインレット44とになっている。第1ヘッド部26と第2ヘッド28のインクチャンネル40は、これらのヘッド部26、28が対向する方向に沿って延びる長溝状に、かつ平行に形成されている。また、天板30には、インクインレット44の反対側において各インクチャンネル40にそれぞれ連通する複数のノズル46がインクチャンネル40の長手方向と直交する一つの直線上に所定の間隔で形成されている。ノズル46はインク吐出側に向かって次第に細くなるテーパ状に形成されている。
【0014】
隔壁32は導電材からなる薄肉フィルムからなり、天板30と振動板36との間に固定されている。なお、隔壁32は後述する圧電部材の変形を妨げるものではなく、圧電部材の変形に応じて変形する。
【0015】
振動板36は、周知の圧電材料(例えばPZT)からなる平板の上面と下面に金属を蒸着するなどの方法により導電層を設けたもので、隔壁32と基板36とに導電性の接着剤によりそれぞれ固定されている。また、振動板34は、基板36上に固定された後で隔壁32に接着される前に、ダイシング加工により縦横に切断されて、各インクチャンネル44にそれぞれ対向する圧電部材48と、各圧電部材48を囲む壁50とに分離されている。各圧電部材48は、高温下で上下の導電層間に高圧を印加することにより分極処理されている。
【0016】
基板36は振動板34との対向面に複数の導電リード線(図示せず)を備えており、各導電リード線は圧電部材48の下部導電層に導通している。導電リード線は基板36の縁部まで引き出され、そこから図示しないドライバに接続されており、これにより各圧電部材48に画像信号に応じて電圧をそれぞれ印加できるようになっている。
【0017】
また、基板36の内部には、両端が電源に接続されたペルチェ素子56が組み込まれている。このペルチェ素子56は、インクジェットヘッド10内に収容されたインクの冷却と加熱のために設けてある。また、ペルチェ素子56による温度調節状態を検出するための温度センサ58が隔壁32と基板36との間に設置されている(図参照)。
【0018】
以上の構成からなるインクジェットヘッド10では、図示しないインクカートリッジからインク供給室42にインクが供給され、対応するインクインレット44を介して各インクチャンネル40にインクが充填される。この状態で、圧電部材48に画像信号に応じて電圧を印加すると、圧電部材48は厚み方向に瞬時に変形する。この変形により隔壁32がインクチャンネル40側に押し込まれ、インクチャンネル40内のインクが加圧される。加圧されたインクはノズル46からインク滴となって飛翔し、記録媒体上に付着してドットを形成する。このドットの集合により画像が記録される。
【0019】
インクジェットヘッド10に最初にインクを充填する際、インク供給室42、インクインレット44、およびインクチャンネル40の内部がインクで完全に満たされればよいが、これらのインク流路内にあった空気がインクチャンネル40内に気泡となって残る場合が多い。この気泡は圧電部材48の変形による加圧力を吸収し、インク滴の大きさのばらつきやインク吐出不良の原因となる。このような気泡の発生を回避するため、インクの充填を次のように行う。
【0020】
まず、ペルチェ素子56を加熱状態にしてインク充填時の温度を例えば40℃と高めに設定する。ここで、インクチャンネル40の体積が例えば幅300μm×長さ2600μm×高さ100μm=78000pl(ピコリットル)である場合、実測した結果100〜200pl(チャンネル体積の0.12〜0.25%)の気泡の混入が確認された。また、1cm3当たりの水への空気の溶解度は、水温40℃で0.014cm3(1.4%)、20℃で0.019cm3(1.9%)である。そこで、40℃で一旦充填したインクをペルチェ素子56により20℃に冷却すると、インクに対する空気の溶解度が1.4%から1.9%へと0.5%増加し、たとえ充填時にインク中の空気が飽和状態にあったとしても、さらに0.5%の空気が溶け込む余地が生じる。これにより、インクチャンネル40の体積78000plの0.5%は390plであるため、インクチャンネル40内にある最大でも200plの気泡をインク中に完全に溶け込ませて無くすことができる。なお、この場合にはインクを30℃程度に冷却すれば、390plのほぼ半分に相当する200plの気泡をほぼ吸収することが可能である。
【0021】
次に、クリーニング装置52による吸引パージでインクチャンネル内の気泡を除去する操作について説明する。
まず、インクジェットヘッド10をクリーニング装置52に対向するホームポジションに移動させる。このとき、ペルチェ素子56を冷却状態に駆動して、インクチャンネル40内のインクを冷却する。これにより、インクへの空気の溶解度が上がるため、インクチャンネル内に溜まった気泡がインクに溶け込んで完全に無くなるか、あるいは小さくなる。その後、クリーニング装置52を駆動してノズル46からインクを吸引し、残った気泡をインクと共に除去する。このとき気泡はノズル径に対して十分に小さくなっているため、ノズル46から容易に排出することができる。このような気泡の除去を例えばインクカートリッジの交換時や所定枚数の印字ごとに行うことにより、インクチャンネル40内に気泡が存在しない状態を維持でき、インク飛翔安定性を向上させることができる。
【0022】
また、このようなインク冷却と吸引パージを行った後に、インクを加熱してからプリント動作を開始するようにしたシーケンスを組み込んでもよい。具体的には、図のフローチャートに示すように、まず、温度センサ58の検出結果によりインクチャンネル40内のインクの温度が所定温度T1であるか否かを判定する(S1)。この温度T1はインク中に混入した気泡を溶解させて小さくするのに十分な温度である。所定温度T1であれば(S1でY)、上述したようにインクジェットヘッド10をホームポジションに移動してクリーニング装置52による気泡除去のためのメンテナンス動作を行う(S2)。所定温度T1以上であれば(S1でN)、ペルチェ素子56を冷却状態でオンしてインクを温度T1まで冷却する(S2,S3)。インクが所定温度T1まで冷却されると(S3でY)、ペルチェ素子56をオフして(S4)、上述したようにクリーニング装置52によるメンテナンス動作を行う(S5)。メンテナンス動作終了後、今度はペルチェ素子56を加熱状態でオンし(S6)、インクを印字に適した所定温度T2まで加熱する(S7)。所定温度T2までインクが加熱されると(S7でY)、ペルチェ素子56をオフして(S8)、通常のプリントシーケンスの実行を開始する(S9)。このように、インク冷却による気泡除去と加熱によるインクの適温化を組み合わせることで、常に安定したインク飛翔と画質の維持が達成される。
【0023】
なお、以上に説明したインク冷却による気泡溶解作用は、インクジェットヘッドに充填する前にインクを十分に脱気して空気含有量を予め少なくしておけばより効果的になることは勿論である。
【0024】
ところで、ペルチェ素子56によるインクの加熱は、インクジェット記録装置を低温環境下で使用する場合に特に有効である。低温になるとインク粘度が上昇して飛翔するインク滴が小さくなり画質低下を招くことになるが、インクを加熱して適温に保つことによりインク滴の大きさを一定にして画質低下を防止できる。この効果を確認するため、次のような実験を行った。図5に示すパルス電圧(電圧20V、周波数4kHz)を圧電部材に印加してインクを飛翔させ、用紙(エプソン社製SF紙)上に200ドットを形成して平均ドット径を測定した。その結果を図6のグラフに示す。このグラフから明らかなように、インク温度が15℃程度より低い場合にはドット径が小さかったが、インクを加熱して少なくとも20℃程度にすることによりドット径をほぼ一定することができた。
【0025】
以上に説明したように、本実施形態のインクジェット記録装置では、ペルチェ素子でヘッド内のインクを冷却することにより、インクチャンネル内に溜まった気泡をインクに溶け込ませて完全に無くすか、あるいは、小さくしてノズルから容易に吸引除去することができる。したがった、インクチャンネル内の気泡によりインク飛翔が妨げられることがなく、安定したインク飛翔を維持することができる。また、ペルチェ素子でヘッド内のインクを加熱することにより、低温環境下でもインク滴を一定の大きさに保つことができ、画質の低下を防止できる。
【0026】
なお、本実施形態のインクジェット記録装置では、ペルチェ素子56をヘッドの基板36に組み込んだが、図7に示すようにヘッドを支持するキャリッジ12内に組み込むようにしてもよい。基板36またはキャリッジ12の内部にペルチェ素子56を組み込むことによって省スペースによる小型化を図れる。
【0027】
また、温度調節手段はペルチェ素子に限られず、ヘッド内のインクを冷却および加熱できるものであればよく、冷却と加熱とが別々の部材でそれぞれなされるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【図1】 インクジェッド記録装置の印字部を示す斜視図。
【図2】 インクジェットヘッドの部分正面図。
【図3】 図1に示すインクジェットヘッドのIII−III線断面図。
【図4】 インクを冷却して気泡を除去した後、インクを加熱してプリントを行う制御を示すフローチャート。
【図5】 実験に用いた圧電部材への印加パルス電圧の波形図。
【図6】 インクを加熱して温度調節したときのドット径の変化を示すグラフ。
【図7】 ペルチェ素子をキャリッジに組み込んだ変形例を示す図。
【符号の説明】
10…インクジェットヘッド、30…天板、32…隔壁、34…振動板、36…基板、40…インクチャンネル、42…インク供給室、44…インクインレット、46…ノズル、48…圧電部材、56…ペルチェ素子(温度調節手段)。

Claims (4)

  1. 記録媒体上に画像を記録するようにノズルからインクを吐出するインクジェットヘッドと、該インクジェットヘッド内のインクを加熱および冷却するために前記インクジェットヘッドまたは前記インクジェットヘッドを支持するキャリッジに内蔵されたインク温度調節手段と、前記ノズルを介して上記インクジェットヘッド内のインクを吸引パージする吸引手段と、前記インク温度調節手段によって前記インクジェットヘッド内のインクを所定温度に冷却した後に前記ノズルを介して吸引パージする一方、前記インク温度調節手段によって前記インクジェットヘッド内のインクを所定温度に加熱した後にインク吐出動作を行うよう制御する制御手段と、を備えることを特徴とするインクジェット記録装置。
  2. 前記インク温度調節手段がペルチェ素子であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置。
  3. 記録媒体上に画像を記録するようにノズルからインクを吐出するインクジェットヘッド内のインクを、前記インクジェットヘッドまたは前記インクジェットヘッドを支持するキャリッジに内蔵された1つのインク温度調節手段によって、所定温度に冷却した後に吸引手段で前記ノズルを介して吸引パージする一方、所定温度に加熱した後にインク吐出動作を行うことを特徴とするインクジェット記録装置におけるインク温度調節方法。
  4. 前記インク温度調節手段がペルチェ素子であることを特徴とする請求項1に記載のインクジェット記録装置におけるインク温度調節方法。
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