JP3852415B2 - 高周波焼入れ用非調質鋼 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高周波焼入れ用非調質鋼に関し、詳しくは、例えば自動車の部品であるハブユニットや等速ジョイントなどのように、その表面全体又は一部を高周波焼入れ処理する部品、又は、必要に応じて上記高周波焼入れの後に更に焼戻し処理を施す部品の素材として好適な高周波焼入れ用非調質鋼に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、自動車の部品であるハブユニットや等速ジョイントは、その転動部分にはJISで規定されたSUJ2鋼などの軸受鋼が用いられ、その他の部分には非調質鋼或いは調質鋼が用いられるというように、複数の鋼を組み合わせて製造されてきた。
【0003】
しかし、部品の軽量化及びコストダウンに対する産業界からの要望がますます大きくなり、1つの鋼に多くの機能を確保させることが必要になってきた。このため、例えば、上記のハブユニットや等速ジョイントの素材にも、非調質鋼或いは調質鋼に要求されていた引張強さ、回転曲げ疲労強度及び靱性などの特性、並びに、軸受鋼に要求されていた転動疲労特性を兼備する鋼が求められるようになっている。
【0004】
こうした要求に対し、JISのS55CやSAEの1065などC含有量の高い鋼を用い、それに高周波焼入れ処理、更には必要に応じて焼戻し処理を施すことによって、引張強さ、回転曲げ疲労強度及び靱性などの非調質鋼或いは調質鋼が有する特性と、軸受鋼の有する転動疲労特性とを兼備させることが行われ、一応の効果が得られている。しかし、部品の小型化の進展とともに、転動部分に一層高い面圧がかかるようになり、上記したJISのS55CやSAEの1065などの従来鋼に高周波焼入れ処理を施した場合に十分な転動疲労寿命が得られなくなってきた。
【0005】
このような状況の下、特許文献1〜3に、優れた転動疲労寿命、疲労強度、加工性及び切削性などを兼ね備えた鋼が開示されている。
【0006】
すなわち、特許文献1には、軸部品及び軸受部品が冷間鍛造で製造可能であり、且つ軸部品及び軸受部品において優れた転動疲労特性を得ることができる特定の化学組成からなる「冷間鍛造−高周波焼入れ用鋼」が開示されている。この鋼は、固溶硬化元素であるMn及びPの低減とTi及びN量の適正化によって素材の段階での冷間鍛造性を確保し、Mn低減によって劣化した焼入れ性をBの添加によって補うことを特徴とするものである。なお、特許文献1で提案された鋼が重量比で、0.005〜0.020%未満のTiを含むのは、固溶Nの完全固定によるBN析出の防止のためである。つまり、特許文献1で提案された技術は鋼中にTiNを生成させようとするものであり、したがって、前記の「冷間鍛造−高周波焼入れ用鋼」にはTiNが存在することになる。
【0007】
ここで、TiNは転動疲労破壊の起点となり得る析出物であり、工業的規模の量産設備で鋼塊を製造する場合には、凝固偏析を完全に防止することが困難なため、Ti及びNの量を規制していても粗大なTiNが生成して転動疲労寿命が短くなることがあり、したがって、転動疲労特性がばらついて不安定である。なお、特許文献1に記載された発明に係る技術は、TiNが多量に析出することを防止するために、Nの含有量を0.0015%から0.005%未満に制御するものであるが、Nの含有量を0.005%未満にするためには二次精錬が必須であり、製鋼コストが嵩んでしまう。
【0008】
特許文献2には、熱間鍛造後に所定の部品形状に加工し、調質処理を行うことなく、超短時間加熱の高周波焼入れで均質な硬化層組織が得られ、高い曲げ又は捻り疲労強度及び転がり接触疲労強度を有する「高周波輪郭焼入用非調質鋼」が開示されている。この特許文献2で提案された非調質鋼は、C、Mn及びCrの含有量の関係式からなる焼入れ性指数を規定するものであるが、Bを含有しない鋼の場合には安定した焼入れ硬化層深さを確保できず、このため十分な転動疲労特性が得られないことがある。一方、Bを含有する場合には、安定した焼入れ硬化層深さが確保されるものの、BNの生成を抑制するために0.005〜0.050%のTiを同時に含有させてNをTiNとして固定する必要がある。このため、上記した特許文献1に係る鋼の場合と同様、粗大なTiNが生成して転動疲労寿命が短くなることがあり、転動疲労特性がばらついて不安定になる。なお、特許文献2で提案された鋼の場合、不純物としてのN及びO(酸素)の含有量は、実施例でそれぞれ0.030%以下及び0.003%以下と述べられているだけで、転動疲労寿命や疲労強度を高めるためにその含有量を十分低く制御するという配慮がなされているとは言い難く、したがって、転動疲労寿命や疲労強度が不安定になることを避け難い。
【0009】
特許文献3には、転動寿命が良好であって、レース、コロ、ボールなどの軸受素材として利用するのに適したBを0.004〜0.020%含有する「被削性に優れた軸受鋼」が開示されている。しかし、Bは極めて偏析しやすい元素で、Bの含有量が多いとその偏析部の融点低下が顕著になり、熱間加工性が大きく低下してしまう。又、この偏析が原因となって、機械的性質のバラツキも大きくなる。
【0010】
上述のように、特許文献1〜3で提案された鋼は、優れた特性を安定して得ることが難しかったり、コストが嵩んだり、熱間加工性が低下するという問題を有するものであった。
【0011】
【特許文献1】
特開平9−287054号公報
【特許文献2】
特開平10−317095号公報
【特許文献3】
特開平3−56641号公報
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたもので、その目的は、例えば自動車の部品であるハブユニットや等速ジョイントなどのように、その表面全体又は一部を高周波焼入れ処理する部品、又は、必要に応じて上記高周波焼入れの後に更に焼戻し処理を施す部品の素材として好適な、高周波焼入れ処理した部分や高周波焼入れ処理後更に焼戻し処理を施した部分の転動疲労寿命が工業的規模で大量生産する場合にも安定して極めて優れている高周波焼入れ用非調質鋼を提供することである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明の要旨は、下記(1)及び(2)に記載の高周波焼入れ用非調質鋼にある。
【0014】
(1)質量%で、C:0.5〜0.7%、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.2〜1.5%、S:0.002〜0.05%、Al:0.01〜0.04%、B:0.0005〜0.0035%、N:0.005〜0.012%、Cr:0〜1.5%及びV:0〜0.10%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、不純物中のTiが0.003%以下、O(酸素)が0.0015%以下及びPが0.02%以下で、更に、下記▲1▼式で表されるfn1の値が−0.005未満であることを特徴とする高周波焼入れ用非調質鋼。
【0015】
fn1=N(%)−(14/48)Ti(%)−(14/27)Al(%)−(14/51)V(%)・・・▲1▼。
【0016】
(2)質量%で、C:0.5〜0.7%、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.2〜1.5%、S:0.002〜0.05%、Al:0.01〜0.04%、B:0.0005〜0.0035%、N:0.005〜0.012%、Cr:0〜1.5%及びV:0〜0.10%、並びに、Ca:0.0003〜0.0020%及びMg:0.0003〜0.0020%の1種以上を含有し、残部はFe及び不純物からなり、不純物中のTiが0.003%以下、O(酸素)が0.0015%以下及びPが0.02%以下で、更に、下記▲1▼式で表されるfn1の値が−0.005未満であることを特徴とする高周波焼入れ用非調質鋼。
【0017】
fn1=N(%)−(14/48)Ti(%)−(14/27)Al(%)−(14/51)V(%)・・・▲1▼。
【0018】
以下、上記(1)及び(2)の高周波焼入れ用非調質鋼に係る発明をそれぞれ(1)及び(2)の発明という。
【0019】
【発明の実施の形態】
本発明者らは、前記した課題を達成するために、非調質鋼を前提とした熱処理条件、つまり鋼を熱間鍛造して放冷した後、高周波焼入れ処理及び高周波焼入れ−焼戻し処理を施し、鋼の化学成分が転動疲労寿命に与える影響について調査・研究を重ねた。その結果、下記の知見を得た。
【0020】
(a)鋼にTiを添加すると、TiNを形成して転動疲労寿命が大幅に低下するため、Tiの含有量は不純物レベルまで下げて低く抑える必要がある。
【0021】
(b)Bが鋼中でフリーな状態(いわゆる「フリーB」)で存在すると焼入れ性や捻り強度が向上することはよく知られているとおりであるが、鋼にTiを添加することなしにフリーBを存在させると、転動疲労寿命が著しく向上する。
【0022】
(c)鋼にTiを添加せず、且つ、鋼を熱間鍛造して放冷した状態でフリーBを残すためには、Nの鋼中含有量を例えば0.0020%以下にまで低減し、Bを0.0016%以上含有させればよいものの、Nの含有量を0.005%未満にするには製鋼コストが嵩む。
【0023】
(d)窒化物にはTiN、BN、AlNやVNなどがある。例えば非特許文献1には、鋼のオーステナイト中における窒化物の溶解度積が示されており、例えば、1100℃における溶解度積はTiNが最も小さく、次にBN、そしてAlN、VNの順になっている。つまり、一般的な化学組成の鋼がオーステナイト域に加熱後、冷却された場合、上記4種の窒化物のうちではTiNが最も生成しやすく、次にBN、そしてAlN、VNの順になることが知られているが、Nの含有量に対して、Al、V及び不純物としてのTiの含有量がある量以上であれば、Tiを添加することなく、フリーBを残すことが可能である。
【0024】
(e)転動疲労寿命に大きく影響する不純物元素はTiとO(酸素)であるため、これらの含有量を低く抑えることで転動疲労寿命を大きく改善することができる。
【0025】
本発明は、上記(a)〜(e)の知見に基づいて完成されたものである。
【0026】
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
【0027】
C:0.5〜0.7%
Cは、強度確保及び高周波焼入れ後の表面硬さ確保のために必須の元素である。しかし、その含有量が0.5%未満では、高周波焼入れを施す部分(以後、「焼入れ部」という)の表面硬さが不十分で、他の要件を満たしていても所望の転動疲労寿命(後述の実施例における転動疲労試験で、2.0×107 以上の転動疲労寿命)が得られないし、引張強さや回転曲げ疲労強度も目標とする値(後述の実施例における引張試験での850MPa以上の引張強さと小野式回転曲げ疲労試験での350MPa以上の回転曲げ疲労強度)に達しない。一方、Cの含有量が0.7%を超えると、高周波焼入れを施さない部分(以後、「母材」という)の靱性が著しく低下して目標とする靱性(後述の実施例における常温での衝撃試験で、30J/cm2 以上の衝撃値)が得られない。したがって、Cの含有量を0.5〜0.7%とした。
【0028】
Si:0.1〜1.5%
Siは、母材の引張強さ及び回転曲げ疲労強度、並びに焼入れ部の転動疲労寿命を高めるのに有効な元素である。Siには脱酸作用や鋼の切削性を向上させる作用もある。しかし、その含有量が0.1%未満では前記の効果が得難い。一方、Siの含有量が1.5%を超えると、前記の効果が飽和するし、母材の靱性も低下する。したがって、Siの含有量を0.1〜1.5%とした。
【0029】
Mn:0.2〜1.5%
Mnは、母材の引張強さ及び焼入れ性を向上させる作用を有すると同時に、Sによる熱間脆性の防止に必要な元素である。これらの効果を発揮させるためにはMnを0.2%以上含有させる必要があるが、含有量が1.5%を超えると、Mnの偏析が顕著になり、転動疲労寿命の低下が著しくなって他の要件を満たしていても所望の転動疲労寿命が得られなくなる。したがって、Mnの含有量を0.2〜1.5%とした。
【0030】
S:0.002〜0.05%
SはMnと結合してMnSを形成し、切削性を高める作用を有する。しかし、その含有量が0.002%未満では、前記の効果が得難い。一方、粗大なMnSは焼入れ部の転動疲労寿命を低下させる傾向があり、特にSの含有量が0.05%を超えると、粗大なMnSを形成しやすくなり転動疲労寿命の低下が著しくなって所望の転動疲労寿命が得られない。したがって、Sの含有量を0.002〜0.05%とした。なお、切削性をより向上させるためにはSは0.02%を超える含有量とすることが好ましい。このため、切削性を重視する場合には、Sの含有量は0.02%を超えて0.05%までとするのがよい。一方、後述の転動疲労試験で、3.0×107 以上のより長い転動疲労寿命を得るためには、Sの含有量は0.015%以下にすることが好ましい。このため、転動疲労寿命を重視する場合には、Sの含有量は0.002〜0.015%とするのがよい。
【0031】
Al:0.01〜0.04%
Alは、脱酸作用を有する。AlにはNと結合してAlNを形成し、焼入れ部の結晶粒を微細化する作用もある。しかし、Alの含有量が0.01%未満ではこうした効果は得難い。一方、Alは硬質な酸化物系介在物を形成して転動疲労寿命を低下させてしまう。特に、その含有量が0.04%を超えると、粗大な酸化物系介在物を形成しやすくなるので、転動疲労寿命の低下が著しくなって所望の転動疲労寿命が得られなくなる。したがって、Alの含有量を0.01〜0.04%とした。
【0032】
B:0.0005〜0.0035%
Bは、フリーBの状態でTi非添加鋼における転動疲労寿命を高める作用を有する。すなわち、鋼にTiを添加することなしにフリーBを存在させると、転動疲労寿命が著しく向上する。BをフリーBとして残すためには、既に述べた▲1▼式の値が−0.005未満である必要があり、更に、前記の効果を得るためにはBの含有量を0.0005%以上とする必要がある。一方、Bは偏析しやすい元素であり、Bの含有量が0.0035%を超えると、鋼の熱間加工性が著しく低下するため、熱間での圧延や鍛造で割れや疵が発生しやすくなる。したがって、Bの含有量を0.0005〜0.0035%とした。
【0033】
N:0.005〜0.012%
Nは、Alと結合してAlNを形成し、焼入れ部の結晶粒を微細化する作用がある。一方、Nは、Ti非添加のB鋼においてはBと結合してBNを形成しやすいので、本発明に係るTi非添加の高周波焼入れ用鋼においてフリーBを残し転動疲労寿命を高めるためには、Nの含有量はできるだけ低くするのがよい。しかし、Nの含有量を0.005%未満にするには、製鋼コストが嵩む。なお、Nの含有量が0.012%を超えると、不純物元素としてのTiの含有量を0.003%以下に制限しても粗大なTiNが形成されやすくなり、転動疲労寿命の低下が著しくなって、所望の転動疲労寿命が得られなくなる。したがって、Nの含有量を0.005〜0.012%とした。
【0034】
Cr:0〜1.5%
Crは添加しなくてもよい。添加すれば、鋼の焼入れ性を高める作用及び転動疲労寿命を向上させる作用を有する。この効果を確実に得るには、Crは0.3%以上の含有量とすることが望ましい。一方、Crは炭化物に濃化しやすい元素で炭化物を安定化し、特に、その含有量が1.5%を超えると、焼入れ部に炭化物が多量に残存するために硬度が低下して、所望の転動疲労寿命が得られなくなる。したがって、Crの含有量を0〜1.5%とした。
【0035】
V:0〜0.10%
Vは添加しなくてもよい。添加すれば、N及びCと結合して窒化物、炭化物或いは炭窒化物として析出し、母材の引張強さ、回転曲げ疲労寿命を向上させる作用を有する。この効果を確実に得るためには、Vの含有量は0.02%以上とすることが望ましい。一方、Vの含有量が0.10%を超えると、粗大な窒化物、炭化物或いは炭窒化物鋼が残存し、焼入れ部で所望の転動疲労寿命が得られなくなる。したがって、Vの含有量を0〜0.10%とした。
【0036】
本発明においては、不純物元素としてのTi、P及びO(酸素)の含有量を下記のとおりに制限する。
【0037】
Ti:0.003%以下
Tiは、Nと結合してTiNを形成し、転動疲労寿命を低下させてしまう。特に、その含有量が0.003%を超えると、転動疲労寿命の低下が著しくなり、所望の転動疲労寿命が得られない。したがって、Tiの含有量を0.003%以下とした。なお、不純物元素としてのTiの含有量はできるだけ少なくすることが望ましい。
【0038】
O(酸素):0.0015%以下
Oは、酸化物系介在物を形成し、転動疲労寿命を低下させてしまう。特に、その含有量が0.0015%を超えると転動疲労寿命の低下が著しくなり、所望の転動疲労寿命が得られない。したがって、Oの含有量を0.0015%以下とした。なお、不純物元素としてのOの含有量はできる限り少なくすることが望ましい。
【0039】
P:0.02%以下
Pは、粒界に偏析して粒界を脆化し、靱性を低下させてしまう。特に、その含有量が0.02%を超えると靱性の低下が著しくなり、所望の靱性が得られなくなる。したがって、Pの含有量を0.02%以下とした。なお、不純物元素としてのPの含有量はできる限り少なくすることが望ましい。
【0040】
fn1の値:−0.005未満
本発明においては、前記▲1▼式で表されるfn1の値を−0.005未満に制限する。以下、その理由について詳述する。
【0041】
Tiの含有量を不純物レベルまで下げて低く抑えたTi非添加鋼においてフリーBを存在させると、転動疲労寿命が著しく向上するが、Bを鋼中でフリーBの状態で存在させるためには、Bと結合しやすいNを他の元素と結合させておく必要がある。
【0042】
本発明に係る高周波焼入れ用非調質鋼において、特にNと結合しやすい元素はBの他にはAl、V及び不純物元素としてのTiである。そこで、表1に示すように、主にAl、V、Ti、N及びBの含有量が異なる鋼a〜jを真空誘導加熱炉で溶製し、180kgのインゴットにした。なお、鋼a〜hは、CからPまでの含有量が前記した本発明の規定を満たす鋼である。一方、鋼iと鋼jは、本発明のCからAl及びNからPまでの成分規定を満たすもののBを含まない鋼である。
【0043】
【表1】
【0044】
次いで、各インゴットを通常の方法で1250℃に加熱した後、鍛造温度を1250〜1100℃として熱間鍛造し、直径60mmの丸棒にした。
【0045】
このようにして得た直径60mmの丸棒から、機械加工によって直径が58mmで厚さが7.0mmの試験片を切り出し、高周波加熱により急速加熱した後、油冷し、次いで、試験片全体を160℃で1時間焼戻し処理した。なお、上記の高周波焼入れの最高加熱温度は950〜1000℃で有効焼入れ深さ(有効硬化層深さ)は2〜2.5mmである。
【0046】
上記の熱処理を施した直径が58mmで厚さが7.0mmの試験片を鏡面研磨した後、次の条件で転動疲労試験を行った。
【0047】
試験機:森式スラスト型転動疲労試験機、
最大面圧:5500MPa、
試験片回転数:1800回/分、
潤滑油:#68タービン油、
試験片数:各12個。
【0048】
12個の各試験片の転動疲労試験結果を縦軸に累積破損確率、横軸に転動疲労寿命をとったワイブル確率紙にプロットし、それに対する線形近似直線を引いて、累積頻度破損確率が10%になる応力繰返し数を転動疲労寿命(以下、L10寿命という)とした。なお、表1に鋼a〜jのL10寿命を併せて示した。
【0049】
Nと結合しやすい元素で、その含有量を変化させた前記のAl、V、Ti及びBのうち、B以外の各元素の原子量はAlが27、Vが51、Tiが48であり、又、Nの原子量は14である。
【0050】
上記のTi、Al及びVがNと結合して形成する窒化物はTiN、AlN及びVNと考えられ、したがって、これらの窒化物がすべて生成した場合に残存するN量は下記▲1▼式で求めることができる。
【0051】
fn1=N(%)−(14/48)Ti(%)−(14/27)Al(%)−(14/51)V(%)・・・▲1▼。
【0052】
図1に、上記▲1▼式で求めたfn1の値と前記の転動疲労寿命(L10寿命)の関係を整理して示す。
【0053】
図1から、▲1▼式で表されるfn1の値が−0.005を下回り、且つBを含有している場合に、転動疲労寿命が格段に向上していることが明らかである。したがって、Ti非添加のB添加鋼である本発明に係る高周波焼入れ用非調質鋼においては、前記▲1▼式で表されるfn1の値を−0.005未満に制限した。
【0054】
前記(1)の発明に係る高周波焼入れ用非調質鋼は、上記のCからVまでの化学成分を含有し、残部がFe及び不純物からなり、不純物中のTi、O(酸素)及びPの含有量が上記した範囲にあり、更に、前記▲1▼式で表されるfn1の値が−0.005未満の鋼である。
【0055】
前記(2)の発明に係る高周波焼入れ用非調質鋼は、転動疲労寿命を一層向上させることを目的として、上記(1)の発明の鋼のFeの一部に代えて、Ca:0.0003〜0.0020%及びMg:0.0003〜0.0020%の1種以上を含有させた鋼である。以下、CaとMgについて説明する。
【0056】
Ca:0.0003〜0.0020%
Caは、添加すれば、MnS中に固溶して、アスペクト比を小さくし、転動疲労寿命を一層高める作用を有する。この効果を得るには、Caは0.003%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.0020%を超えると粗大なCa系酸化物を形成して、却って転動疲労寿命の低下をきたし、所望の転動疲労寿命が得られない。したがって、Caを添加する場合には、その含有量を0.0003〜0.0020%とするのがよい。
【0057】
Mg:0.0003〜0.0020%
Mgは、添加すれば、MnS中に固溶して、アスペクト比を小さくし、転動疲労寿命を一層高める作用を有する。この効果を得るには、Mgは0.003%以上の含有量とすることが好ましい。しかし、その含有量が0.0020%を超えると粗大なMg系酸化物を形成して、却って転動疲労寿命の低下をきたし、所望の転動疲労寿命が得られない。したがって、Mgを添加する場合には、その含有量を0.0003〜0.0020%とするのがよい。
【0058】
【非特許文献1】
今井勇之進編著「鋼の物性と窒素」株式会社アグネ技術センター、1994年11月30日、p.35
【0059】
【実施例】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明する。
【0060】
表2に示す化学組成を有する鋼A〜Xを真空誘導加熱炉で溶製し、180kgのインゴットにした。表2における鋼C、鋼E〜G、鋼I及び鋼V〜Xは、化学組成が本発明で規定する範囲内にある本発明例の鋼である。一方、表2における鋼A、鋼B、鋼D、鋼H及び鋼J〜Uは、成分のいずれかが本発明で規定する範囲から外れた比較例の鋼である。
【0061】
【表2】
【0062】
次いで、上記の鋼A〜Xの各インゴットを通常の方法で1250℃に加熱した後、鍛造温度を1250〜1100℃として熱間鍛造し、直径が60mmと30mmの丸棒を得た。
【0063】
このようにして得た各丸棒のうちで鋼Oの直径30mmの丸棒には割れが生じていた。このため、鋼Oについては熱間加工性が不十分と判断し、以後の各試験を中止した。
【0064】
直径60mmの丸棒から、機械加工によって直径が58mmで厚さが7.0mmの試験片を切り出し、高周波加熱により急速加熱した後、油冷し、次いで、試験片全体を160℃で1時間焼戻し処理した。なお、上記の高周波焼入れの最高加熱温度は950〜1000℃で有効焼入れ深さは2〜2.5mmである。
【0065】
上記の熱処理を施した直径が58mmで厚さが7.0mmの試験片を鏡面研磨した後、次の条件で転動疲労試験を行った。
【0066】
試験機:森式スラスト型転動疲労試験機、
最大面圧:5500MPa、
試験片回転数:1800回/分、
潤滑油:#68タービン油、
試験片数:各12個。
【0067】
12個の各試験片の転動疲労試験結果を縦軸に累積破損確率、横軸に転動疲労寿命をとったワイブル確率紙にプロットし、それに対する線形近似直線を引いて、累積頻度破損確率が10%になる転動疲労寿命(L10寿命)を求めた。
【0068】
一方、直径30mmの丸棒から、引張試験片、衝撃試験片及び平滑回転曲げ疲労試験片を作製し、室温での引張特性、衝撃特性及び回転曲げ疲労特性を調査した。
【0069】
引張特性は、JIS4号の引張試験片を用いて調査した。すなわち、通常の方法により室温で引張試験を行い、各2回の引張強さの平均値を母材の引張強さとした。なお、引張強さが850MPa以上であれば、JISのS55Cの熱間鍛造材における通常の引張強さを上回っているため、850MPa以上の引張強さを有することを目標とした。
【0070】
衝撃特性は、JIS Z 2202(1998)に記載の幅10mmのUノッチ試験片を用いて調査した。すなわち、通常の方法により室温でシャルピー衝撃試験を行い、各2回の衝撃値の平均値を母材の衝撃値とした。なお、衝撃値が30J/cm2 以上であれば、JISのS55Cの熱間鍛造材における通常の衝撃値を上回っているため、30J/cm2 以上の衝撃値を有することを目標とした。
【0071】
回転曲げ疲労特性は、平行部の直径が8mmで長さが25mm、コーナー部のRが25mmのJIS1号(1−8)回転曲げ疲労試験片を用いて調査した。すなわち、通常の方法により室温で小野式回転曲げ疲労試験を行い、繰り返し数1.0×107 回における応力を母材の回転曲げ疲労強度とした。なお、回転曲げ疲労強度が350MPa以上であれば、JISのS55Cの熱間鍛造材における通常の回転曲げ疲労強度を上回っているため、350MPa以上の回転曲げ疲労強度を有することを目標とした。
【0072】
表3に、上記の各試験結果を整理して示す。
【0073】
【表3】
【0074】
表3から、本発明で規定する条件から外れた試験番号の場合には、焼入れ部における転動疲労寿命、母材における引張強さ、回転曲げ疲労強度及び衝撃値、のいずれかが目標値に達していないことが明らかである。
【0075】
上記の比較例に対し、本発明で規定する条件を満たす試験番号の場合には、焼入れ部の転動疲労寿命は2.0×107 回以上で、且つ、母材部の引張強さ、回転曲げ疲労強度及び衝撃値もそれぞれ目標を満足する良好なものであることが明らかである。
【0076】
【発明の効果】
本発明の鋼材は、その表面全体又は一部に高周波焼入れ処理を施すか、必要に応じて上記高周波焼入れの後に更に焼戻し処理を施せば、焼入れ部の転動疲労寿命が優れるとともに、母材部の引張強さ、回転曲げ疲労強度及び衝撃値にも優れるので、例えば自動車の部品であるハブユニットや等速ジョイントなどの素材として用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Al、V、Ti、N及びBの含有量が異なる10種の鋼のfn1の値と転動疲労寿命(L10寿命)の関係を示す図である。
Claims (2)
- 質量%で、C:0.5〜0.7%、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.2〜1.5%、S:0.002〜0.05%、Al:0.01〜0.04%、B:0.0005〜0.0035%、N:0.005〜0.012%、Cr:0〜1.5%及びV:0〜0.10%を含有し、残部はFe及び不純物からなり、不純物中のTiが0.003%以下、O(酸素)が0.0015%以下及びPが0.02%以下で、更に、下記▲1▼式で表されるfn1の値が−0.005未満であることを特徴とする高周波焼入れ用非調質鋼。
fn1=N(%)−(14/48)Ti(%)−(14/27)Al(%)−(14/51)V(%)・・・▲1▼ - 質量%で、C:0.5〜0.7%、Si:0.1〜1.5%、Mn:0.2〜1.5%、S:0.002〜0.05%、Al:0.01〜0.04%、B:0.0005〜0.0035%、N:0.005〜0.012%、Cr:0〜1.5%及びV:0〜0.10%、並びに、Ca:0.0003〜0.0020%及びMg:0.0003〜0.0020%の1種以上を含有し、残部はFe及び不純物からなり、不純物中のTiが0.003%以下、O(酸素)が0.0015%以下及びPが0.02%以下で、更に、下記▲1▼式で表されるfn1の値が−0.005未満であることを特徴とする高周波焼入れ用非調質鋼。
fn1=N(%)−(14/48)Ti(%)−(14/27)Al(%)−(14/51)V(%)・・・▲1▼
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