JP3851146B2 - 非調質高強度・高靭性鍛造用鋼およびその製造方法並びに鍛造品の製造方法 - Google Patents

非調質高強度・高靭性鍛造用鋼およびその製造方法並びに鍛造品の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は鍛造用鋼及びその製造方法並びに鍛造品の鍛造方法に関し、さらに詳しくは、自動車、建設機械および各種産業機械等の部品として使用される材料として、熱間鍛造後に調質処理を行わずに優れた強度と靭性を有する鍛造用鋼及びその製造方法並びに鍛造品の鍛造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、機械構造用熱間鍛造品は、一般に、中炭素鋼または低合金鋼素材を熱間鍛造した後、再加熱し、焼入れ・焼戻し、すなわち調質処理を施し、目的、用途に応じた強度および靭性を付与して、使用に供されていた。しかし、上記調質処理には多大の熱エネルギー費用を要すると共に、処理工程の増加、仕掛品の増大等のために製造費用が高くならざるを得ない。そこで近年、機械構造用熱間鍛造品の製造において、製造工程を簡略化、特に、熱間鍛造後の調質処理を省略するために、種々の非調質型熱間鍛造用鋼や、非調質熱間鍛造品の製造方法が提案されている。このような従来の非調質型熱間鍛造用鋼の多くは、中炭素鋼に微量のV、Nb、Ti、Zr等のいわゆる析出硬化型合金元素を添加した析出硬化型非調質鋼であって、熱間鍛造後の冷却工程においてこれらを析出させ、その析出硬化によって高強度を得ようとするものである。
【0003】
例えば、特公昭58−2243号公報には、中炭素鋼に微量のVを添加し、これを1100℃以上の温度に加熱して型打鍛造し、この後、500℃まで10〜100℃/分の冷却速度で空冷することにより、フェライト中に微細なV炭窒化物を析出させたフェライト・パーライト組織からなる非調質鍛造品の製造方法が記載されている。しかし、このような析出硬化型非調質鋼を用いる場合には、上記のように1000〜1100℃またはそれ以上の高温に加熱することが必要であり、そのまま通常の鍛造を行った場合、鍛造品においても結晶粒が著しく粗大化するので、充分な靭性を得ることができない。
【0004】
このような問題を解決するために、素材鋼や鍛造方法に関して、析出硬化型元素の添加量を極力少なくする(例えば、特開昭55−82750号公報)、低C高Mn化する、(例えば特開昭54−121225号公報)、析出物の種類を制御する、(例えば、特開昭56−38448号公報)、制御冷却によって結晶粒を微細化する、(例えば特開昭56−169723号公報)等の方法が従来より提案されているが、いずれによっても、強度・靭性共に優れる非調質熱間鍛造品を得ることは、容易ではない。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は強度・靭性共に優れる非調質熱間鍛造用鋼及びその製造方法並びに鍛造品の鍛造方法を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は上記の課題を解決するため、その要旨とするところは、下記の通りである。
(1) フェライトとパーライトからなる組織を有する非調質高強度・高靭性鍛造品の鍛造用素材である非調質高強度・高靭性鍛造用鋼であって、質量%で、C:0.1〜0.8%、Si:0.05〜2.5%、Mn:0.2〜3%、Al:0.005〜0.1%、N:0.001〜0.02%を含有し、更に、V:0.05〜0.5%、Nb:0.005〜0.1%の1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、マルテンサイトを面積率で95〜100%含有することを特徴とする非調質高強度・高靭性鍛造用鋼。
(2) (1)の成分に、質量%で、Mg:0.0001〜0.005%、Zr:0.0001〜0.005%の1種または2種を添加することを特徴とする非調質高強度・高靭性鍛造用鋼。
(3) (1)又は(2)の成分に、質量%で、Cr:0.05〜3%、Ni:0.05〜3%、Mo:0.05〜3%、Cu:0.01〜2%、Ti:0.003〜0.05%、B:0.0005〜0.005%の1種または2種以上を添加することを特徴とする非調質高強度・高靭性鍛造用鋼。
(4) (1)〜(3)の何れか1項に記載の成分に、質量%で、S:0.01〜0.3%、Pb:0.03〜0.3%、Ca:0.001〜0.05%、Bi:0.03〜0.3%の1種または2種以上を添加することを特徴とする非調質高強度・高靭性鍛造用鋼。
(5) 前記(1)〜(4)の何れか1項に記載の成分からなる鋼片を、棒鋼圧延後、直ちに又は900〜1350℃に再加熱して、900〜1350℃から室温〜300℃まで15〜60℃/secで冷却し、マルテンサイトを面積率で95〜100%含有する鋼を得ることを特徴とする非調質高強度・高靭性鍛造用鋼の製造方法。
(6) (1)〜(4)の何れか1項に記載の鋼を熱間鍛造する際に、Ac点以上950℃以下に加熱し、対数歪みで0.3〜3の加工を与える熱間鍛造を未再結晶上限温度以下700℃以上で少なくとも1回以上行い、平均結晶粒径が10μm以下のフェライトとパーライトからなる組織を得ることを特徴とする非調質高強度・高靭性鍛造品の製造方法。
(7) 鍛造後、Ar点以下500℃以上の温度域を下記(1)式で示した冷速(CR)で冷却することを特徴とする(6)記載の非調質高強度・高靭性鍛造品の製造方法。
【0007】
0.1℃/sec≦CR≦(2.5ε+1)℃/sec …(1)
(ε:未再結晶温度域で与えた対数歪み)
(8)引張強さが800〜1300MPaであることを特徴とする(6)又は(7)記載の非調質高強度・高靭性鍛造品の製造方法。
(9)降伏比が0.7〜0.95であることを特徴とする(6)〜(8)の何れか1項に記載の非調質高強度・高靭性鍛造品の製造方法。
(10)(6)に記載の対数歪みが、鍛造前素材の鍛造方向の高さの平均値である元厚高さ平均と、鍛造後の高さの平均値である仕上げ厚高さ平均により下記式(4)で示した対数歪みであることを特徴とする(6)〜(9)の何れか1項に記載の非調質高強度・高靭性鍛造品の製造方法。
対数歪み=ln(元厚高さ平均/仕上げ厚高さ平均) …(4)
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の根幹をなす技術思想は以下の通りである。
強度・靭性共に優れる鍛造品を得るためには、その鍛造品の金属組織を微細にすれば良いことは知られてきた。最終組織を微細化するには、その前組織であるγ(オーステナイト)に熱間鍛造により歪みを与えて再結晶により微細化する方法、および、より鍛造温度を低めて未再結晶温度で鍛造することにより通常再結晶により減少してしまう転位を変態時まで残留させ核生成速度を増加させる方法がある。従来は、再結晶温度域での鍛造、すなわち高温での鍛造の方が反力が少ないこと、および反力が少ない方が鍛造精度を上げやすい等の理由で、再結晶温度域の鍛造により組織を微細化することが前提であった。本発明者等は、従来鍛造で用いられなかった未再結晶温度域での鍛造を行うことにより、飛躍的に組織が微細化し、材質も向上することを見いだした。
【0009】
一方、鍛造時の加熱は組織微細化の観点からは低温加熱の方がγ粒径が小さいため有利である。しかし、通常の粗大なフェライト+パーライトの組織を持つ鍛造用鋼を低温加熱にすると、前組織の影響により、まずパーライト部がγ化しフェライト部は遅れてγ化するために粒径ばらつきが大きく、拡散が充分に行われないため濃度偏差も残留したままである。結果として鍛造後の組織ばらつきが大きく材質もそれほど向上しない。さらに低温加熱では炭窒化物を形成する元素があまり固溶せず、本発明のように固溶V,Nbを用いた未再結晶温度の拡大効果は期待できない。また同様に加工誘起析出による強化も期待できない。これを打破する手段として本発明者等は、鍛造前組織をマルテンサイト主体に調整することにより、低温加熱でも均一かつ微細な組織がえられることを見いだした。鍛造前組織を濃度偏差の無い均一組織であるマルテンサイトを主体とする組織にすることにより低温加熱でも均一なγが得られ、鍛造後の最終組織の微細化に有効である。またマルテンサイトでは、炭窒化物を形成する元素が固溶ままの状態で残留しているため、これを低温加熱した場合、γ中の固溶量は従来のフェライト−パーライト組織の鍛造用鋼を低温加熱した場合に比べ格段に多い。このため、固溶V,Nbを用いた未再結晶温度の拡大効果および加工誘起析出による強化が可能である。これらの効果は、鍛造後の組織によらず、鍛造後の組織がフェライト−パーライト、ベイナイトないしはマルテンサイトでも有効である。
【0010】
以下に本発明の限定理由を述べる。
【0011】
Cは、鋼を強化するのに有効な元素であるが、0.1%未満では充分な強度が得られない。一方、過多に添加すると靭性が低下するため、添加量の上限を0.8%とする。
【0012】
Siは、鋼の強化元素として有効であるが、0.05%未満ではその効果がない。一方、過多に添加すると靭性および被削性が低下するため、添加量の上限を2.5%とする。
【0013】
Mnは、鋼の強化に有効な元素であるが、0.2%未満では充分な効果が得られない。一方、過多に添加すると靭性および被削性が低下するため、添加量の上限を3%とする。
【0014】
Alは、鋼の脱酸および結晶粒の微細化のために有効な元素であるが、0.005%未満ではその効果がない。一方、過多に添加すると被削性が低下するため、添加量の上限を0.1%とする。
【0015】
Nは、V炭窒化物やNb炭窒化物を生成し析出強化のために必要な元素であるが、0.001%未満では充分な効果が得られない。一方、過多に添加すると靭性が劣化するため、添加量の上限を0.02%とする。
【0016】
Vは、固溶原子が転位の回復および再結晶を遅らせる効果がある。すなわち未再結晶温度域を高温側に広げ、未再結晶域鍛造を容易にする元素である。また、未再結晶圧延後、転位のもつれた部分にVの炭窒化物が微細に析出し、いわゆる加工誘起析出により、強度が上昇するため有効な元素である。これらの効果を享受するためには0.05%以上の添加が必要である。一方、過多に添加すると靭性が劣化するため、添加量の上限を0.5%とする。
【0017】
NbもVと同様、未再結晶を容易にし、析出強化のために必要な元素であるが、0.005%未満では充分な効果が得られない。一方、過多に添加すると靭性が劣化するため、添加量の上限を0.1%とする。
【0018】
MgおよびZrはともに酸化物や硫化物、あるいはこれらの複合物を形成し、加熱時のオーステナイトの粗大化を抑制する効果を持つ元素であり、またフェライト変態時の成長も抑制するので組織微細化に有効である。またこれらの酸化物はMnSの析出核になるため被削性も向上する。いずれも、0.0001%未満ではその効果はなく、0.005%を越えると、靱性が劣化するため、添加量の上限を0.005%とする。
【0019】
Cr,Ni,Mo,Cuはいずれも適量の添加においては靱性を損なうことなく強度を増大する元素である。Cr,Ni,Moは、いずれも0.05%未満ではその効果はなく、3%を越えると靱性が大きく劣化するため、その添加量の下限をそれぞれ0.05%、上限を3%とする。Cuは0.01%未満ではその効果はなく、2%を越えると靱性が大きく劣化するため、その添加量の下限をそれぞれ0.01%、上限を2%とする。
【0020】
Tiは,窒化物・炭化物を生成する。窒化物は高温まで固溶せずに残るため、加熱時のオーステナイト粗大化を防止するのに有効である。また炭化物は微細に分散して析出強化に有効である。0.003%未満ではこれらの効果は現れず、0.05%を越えると靱性が劣化するため、その添加量の下限を0.003%、上限を0.05%とする。
【0021】
Bは焼き入れ性を増加する元素である。焼き入れ性を増加することにより強度を増し、さらに粗大な初析フェライトの生成を防止して組織の微細化を促進するのに有効な元素である。0.0005%未満ではこれらの効果は現れず、0.005%を越えると靱性が劣化するため、その添加量の下限を0.0005%、上限を0.005%とする。
【0022】
S,Pb,Ca,Biは、いずれも被削性を向上する元素である。いずれも過小の添加はその効果がなく、過大の添加は靱性を劣化させるため、Sは0.01%以上0.3%以下に、Pbは0.03%以上0.3%以下に、Caは0.001%以上0.05%以下に、Biは0.03%以上0.3%以下に添加量を限定する。
【0023】
マルテンサイトが面積率で95%より少ないと、再加熱時の組織均一性および濃度均一性が充分でなく強度・靭性が低下する。また、再加熱時のNb,Vの固溶量が減るため本発明の効果を充分享受できない。以上の理由により、本発明の鍛造用鋼はマルテンサイトを面積率で95%以上含有するものとする。その他の組織として、フェライト、パーライト、ベイナイトの1種又は2種以上を面積率で5%以下含有しても本発明の効果を得ることができる。一方、マルテンサイトを面積率で100%含有するものは再加熱時の組織および濃度が均一であり、Nb,Vの固溶量も充分確保できるため、最も好ましい。
【0024】
次に、本発明の鍛造用鋼の製造方法について述べる。
【0025】
鍛造用素材をマルテンサイト主体の組織とするためには、高温からの焼入が必要である。焼入開始前の加熱温度を900℃以上としたのは900℃以上に焼入開始温度を確保するためであり、一方、加熱温度を1350℃以下としたのはそれ以上の加熱が困難だからである。
【0026】
また、焼入開始温度を1350℃以下としたのは、それより高い温度からの焼入が困難だからである。一方、900℃以上としたのは、それより低い温度であると充分に焼きが入らず部分的にフェライト、パーライト、ベイナイト等が面積率で5%以上生成するからである。一方、焼入時の冷速下限値を15℃/secとしたのはそれより遅い冷速であると、部分的にフェライト、パーライト、ベイナイト等が面積率で5%以上生成するからである。冷速上限値を60℃/secとしたのは、それより速い冷速で冷却することが困難だからである。冷却方法は水冷、油冷等考えられるが、限定しない。
【0027】
冷却停止温度は操業上室温以下とすることが困難なために室温以上とし、300℃以下ではマルテンサイト変態が終了しているため300℃以下とする。
【0028】
次に、本発明鍛造品の組織の形態について述べる。
【0029】
通常、再結晶γでは再結晶により粒内の転位は整理され転位密度は低い。このため、ほとんどの変態はγ粒界を基点として始まり、粒内に向かって成長していく。また再結晶γである限り、粒界単位面積当たりの変態核生成数はほぼ一定の値をとる。このため変態後の組織の粒数は単位体積当たりのγ粒界の面積にほぼ比例し、再結晶後のγ粒径が小さいほど、変態後の組織は細かくなる。一方、未再結晶γでは再結晶による転位の整理が未だ行われていない状態であるので、粒内の転位密度は高い。これにより、粒界のみならず粒内からも変態が開始する。さらに粒界にも加工の影響が残っており、粒界単位面積当たりの変態核生成数も再結晶γと比べ大きい値をとる。このため粗大なγからでも、微細な変態組織が得られる。未再結晶γからの変態によって得られる変態組織は、加工後の冷速によってフェライト+パーライト、ベイナイト、マルテンサイトに大別できるが、いずれも平均結晶粒径が10μm以下となる。ただし、冷速によっては、これらの組織の混合組織となり、靭性が著しく劣化するため、後述の冷速制御によりフェライト+パーライト鋼とする。尚、ここで述べる平均結晶粒径とは、破壊の単位となる結晶粒径であり、フェライト+パーライトの場合はフェライトの平均粒径、ベイナイトおよびマルテンサイトの場合は平均パケット・サイズを指す。一方、粒径が微細になると強度、靭性、降伏比、伸びが向上することは知られているが、平均粒径が10μm以下であると、これらの効果が顕著に現れてくる。さらに効果を求めるのであれば、平均粒径が5μm 以下であることが望ましい。一方、平均粒径の下限は特に定めないが、鍛造コストの面から、2μm 以上とすることが好ましい。
【0030】
尚、本発明において、平均粒径は光顕微鏡により断面厚1/4t位置を200〜1000倍で3〜5視野観察し、切断法により求めた値と定義する。
【0031】
引張強さは、鍛造品の軽量化の点で下限を800MPa に限定した。一方、1300MPa を越えると、靭性が著しく低下し、切削寿命および金型寿命も著しく低下するため、上限を1300MPa 以下にした。
【0032】
また、降伏比は疲労強度向上のため、0.7に下限を限定した。一方、0.95以上に降伏比を上げても疲労強度の向上は飽和するので、上限は0.95に限定した。
【0033】
次に、鍛造品の製造方法について述べる。
【0034】
加熱温度は、鍛造時にγ単相である必要性からAc3 点以上とする。また、過度の加熱はγ粒の粗大化を促し、VないしはNbの加熱中の析出を促すため、その上限を950℃とした。尚、Ac3 点は(2)式により求めた値と定義する。
【0035】
Figure 0003851146
未再結晶上限温度は、(3)式により求めた値と定義する。(3)式は、加工フォーマスターを用い、V、Nb含有成分の鋼について加工焼入試験を行い、組織観察を行った結果得られた回帰式である。尚、(3)式は加工度の影響を表す項を除いた簡易式である。
【0036】
未再結晶上限温度(℃)=819+61((V)+10(Nb))0.2 …(3)
未再結晶γからの変態による組織微細化の効果は、未再結晶温度域で与える歪みに依存する。対数歪みで0.3未満の歪みでは、充分な組織微細化ができないため、その下限を対数歪み0.3とする。でき得れば、0.8以上の歪みが望ましい。一方、歪みを増加すれば組織は微細化するが、その効果は飽和する傾向にある。歪みの増加は鍛造反力の増加および金型寿命の低下によりコスト上昇を招くため対数歪みは3以下とする。複数回の鍛造で成形する場合には、再結晶温度域での鍛造と組み合わせてもよい。また、700℃以下の鍛造温度では鍛造前にフェライトが生成し、鍛造時に加工フェライトとなり靭性を劣化させるため、鍛造下限温度を700℃とする。
【0037】
尚、ここで述べた対数歪みとは、(4)式で定義した歪みである。元厚高さ平均とは、鍛造前素材の鍛造方向を高さとしたときの平均値であり、仕上げ厚高さ平均とは、鍛造後の高さの平均値である。ただし、押し出し等の加工の場合は、(5)式に従うものとする。元断面積平均とは鍛造前素材の鍛造方向に垂直な面の平均断面積であり、仕上げ断面積平均とは、鍛造後の断面積平均である。
【0038】
対数歪み=ln(元厚高さ平均/仕上げ厚高さ平均) …(4)
対数歪み=ln(元断面積平均/仕上げ断面積平均) …(5)
鍛造後の冷速によって組織形態が異なることは前述したが、以下冷速について述べる。
未再結晶γからの変態は、核生成速度が増大しているため、T−T−Tノーズが短時間側にシフトし、フェライトが生成しやすくなっている。このため、フェライト+パーライトを生成するためには、Ar3 点以下500℃以上の温度域を(1)式に示した冷速で冷却すればよい。(1)式は図1の直線から求めた式である。冷却速度の下限を0.1℃/secとしたのは、それより遅い冷速であると、充分な核生成速度が得られず、フェライトが粗大化してしまうからである。一方、上限を(2.5ε+1)℃/secとしたのは、それより速い冷速ではフェライト+パーライトが生成せず、ベイナイトないしはマルテンサイトとの混合組織となり,靱性が劣化してしまうからである。また、冷却制御温度域をAr3点以下としたのは、変態が始まる温度だからである。一方、その下限を500℃としたのは、この温度ではすでにフェライト+パーライト変態が終了しているからである。
【0039】
0.1℃/sec≦CR≦(2.5ε+1)℃/sec …(1)
(ε:未再結晶温度域で与えた対数歪み)
尚、Ar3 点は(6)式により求めた値と定義する。
【0040】
Figure 0003851146
【0041】
【実施例】
第1表に示す成分の鋼から、φ50×h60の鍛造用試験片を切り出し、高周波で加熱して、第2表に示す本発明方法および比較方法を適用して高さ方向の平板圧縮鍛造を行った。第2表中の歪みは(4)式を適用して求めた。さらに本発明方法を適用して冷却した場合、第2表中に示したような粒径、強度、降伏比、靭性となった。尚、冷却時の温度制御は保熱台車、衝風ないしは水スプレー冷却で行った。組織は鍛造品の中央から30mm離れた場所の1/4t位置を光顕撮影し、切断法により平均粒径(平均パケット・サイズ)を求めた。中央から30mm離したのはデッドメタル部を避けるためである。機械特性はJISA3号引張試験片およびJIS3号シャルピー試験片(幅5mm)を用いて測定した。第2表中、比較鋼1,2,14は本発明必須元素のNb,Vを必要量含んでいないため再結晶が生じ、粗大な組織となっている。このため強度・降伏比・靭性が低値である。比較鋼13,15は、Nb,Vを必要以上含んでいるため、靭性が低値である。比較鋼3,4,5は、鍛造前組織がマルテンサイトを含有しないか、その面積率が低いため、鍛造後の組織が粗大となり、強度・降伏比・靭性が低値である。比較鋼6は、鍛造時の加熱温度が高すぎたため、前組織をマルテンサイトにした効果が薄れ、組織が粗大となったため、強度・降伏比・靭性が低値である。比較鋼7は、加熱温度が低すぎたため加熱時にγ単相とならず、γ+α二相状態で鍛造したため、αが加工されて降伏比・靭性が低値である。比較鋼8は加工温度が高く再結晶が生じたため、粗大な組織となり強度・降伏比・靭性が低値である。比較鋼9は加工度が少ないため、充分な核生成速度が得られず、粗大な組織となり強度・降伏比・靭性が低値である。比較鋼10は加工後の冷速が遅すぎたため、充分な核生成速度が得られず、粗大な組織となり強度・降伏比・靭性が低値である。比較鋼11は、加工後の冷速が早すぎたため一部ベイナイトが生成し、降伏比・靭性が低値である。比較鋼12は加工温度が低すぎ、加工時に一部αが生成した状態で加工したため、αが加工されて降伏比・靭性が低値である。
【0042】
【表1】
Figure 0003851146
【0043】
【表2】
Figure 0003851146
【0044】
【表3】
Figure 0003851146
【0045】
【発明の効果】
本発明により、明らかに強度、降伏比、靭性が向上しており、本発明は有効である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 組織生成に及ぼす未再結晶域で付与する対数歪みと500℃〜Ar3 の温度域の冷速の影響を示す図である。

Claims (10)

  1. フェライトとパーライトからなる組織を有する非調質高強度・高靭性鍛造品の鍛造用素材である非調質高強度・高靭性鍛造用鋼であって、質量%で
    C 0.1〜0.8%
    Si 0.05〜2.5%
    Mn 0.2〜3%
    Al 0.005〜0.1%
    N 0.001〜0.02%
    を含有し、更に
    V 0.05〜0.5%
    Nb 0.005〜0.1%
    の1種または2種を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、マルテンサイトを面積率で95〜100%含有することを特徴とする非調質高強度・高靭性鍛造用鋼。
  2. 質量%で
    Mg 0.0001〜0.005%
    Zr 0.0001〜0.005%
    の1種または2種を含有することを特徴とする請求項1記載の非調質高強度・高靭性鍛造用鋼。
  3. 質量%で
    Cr 0.05〜3%
    Ni 0.05〜3%
    Mo 0.05〜3%
    Cu 0.01〜2%
    Ti 0.003〜0.05%
    B 0.0005〜0.005%
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1又は2記載の非調質高強度・高靭性鍛造用鋼。
  4. 質量%で
    S 0.01〜0.3%
    Pb 0.03〜0.3%
    Ca 0.001〜0.05%
    Bi 0.03〜0.3%
    の1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の非調質高強度・高靭性鍛造用鋼。
  5. 請求項1〜4の何れか1項に記載の成分からなる鋼片を、熱間圧延後、直ちに又は900〜1350℃に再加熱して、900〜1350℃から室温〜300℃まで15〜60℃/secで冷却し、マルテンサイトを面積率で95〜100%含有する鋼を得ることを特徴とする非調質高強度・高靭性鍛造用鋼の製造方法。
  6. 請求項1〜4の何れか1項に記載の鍛造用鋼を熱間鍛造する際に、Ac点以上950℃以下に加熱し、対数歪みで0.3〜3の加工を与える熱間鍛造を未再結晶上限温度以下700℃以上で少なくとも1回以上行い、平均結晶粒径が10μm以下のフェライトとパーライトからなる組織を得ることを特徴とする非調質高強度・高靭性鍛造品の製造方法。
  7. 鍛造後、Ar点以下500℃以上の温度域を下記(1)式で示した冷速(CR)で冷却することを特徴とする請求項6記載の非調質高強度・高靭性鍛造品の製造方法。
    0.1℃/sec≦CR≦(2.5ε+1)℃/sec …(1)
    (ε:未再結晶温度域で与えた対数歪み)
  8. 引張強さが800〜1300MPa であることを特徴とする請求項6又は7に記載の非調質高強度・高靭性鍛造品の製造方法。
  9. 降伏比が0.7〜0.95であることを特徴とする請求項6〜8の何れか1項に記載の非調質高強度・高靭性鍛造品の製造方法。
  10. 請求項6に記載の対数歪みが、鍛造前素材の鍛造方向の高さの平均値である元厚高さ平均と、鍛造後の高さの平均値である仕上げ厚高さ平均により下記式(4)で示した対数歪みであることを特徴とする請求項6〜9の何れか1項に記載の非調質高強度・高靭性鍛造品の製造方法。
    対数歪み=ln(元厚高さ平均/仕上げ厚高さ平均) …(4)
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