JP3850327B2 - ハードコート組成物 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、眼鏡、カメラの光学用レンズなどの光学要素、及びそれらを形成する際に使用するハードコート組成物及びプライマー組成物に関する。以下、光学要素として特に眼鏡レンズを例に採り説明するが、本発明はこれに限られるものではない。ここで、光学要素には、計器カバー板、電磁波遮蔽板等の、屈折作用(レンズ作用)のない、又は小さい透明板等も含むものとする。
【0002】
なお、本明細書において「TPE」は、「熱可塑性エラストマー(ThermoPlastic Elastomer」の略語である。また、配合等を示す「比」、「部」、「%」等は、特に断らない限り質量基準である。
【0003】
【従来の技術】
近年、光学用レンズの材料としては、無機ガラスに比して、軽くかつ割れにくい有機ガラスが普及してきている。しかし、一般的に有機ガラスは、無機ガラスに比して耐擦傷性が格段に劣る。そこで、通常、有機ガラス製の光学用レンズ表面には、シリコーン系硬化塗膜やその中に粒径約1〜100nmのシリカ微粒子を含有させた硬化塗膜等によりハードコート層が形成されている。更に眼鏡レンズの場合、美観上等の理由から、ハードコート層上に無機物質の蒸着等の乾式メッキによる無機反射防止膜が形成されることが多い。
【0004】
しかし、上記のように有機ガラス基材上に、ハードコート層と無機反射防止膜の双方を設けたレンズは、耐衝撃性に劣るという不具合があった。そこで、耐衝撃性を向上させるために有機ガラス基材とハードコート層との間にポリウレタン系塗料(特開昭63−87223号公報、特開平3−109502号公報等参照)や、ポリエステル系塗料(特開2000−144048公報等参照)からなるプライマーコート層(プライマー層)を介在させる技術的思想が種々提案されている。
【0005】
他方、近年有機ガラス基材の材料が、脂肪族ポリアリルカーボネート系(CR−39、屈折率1.50)に代わって、より高屈折の、ポリチオウレタン系(屈折率1.60,1.67)、ポリチオエポキシ系(屈折率1.71,1.74)等になりつつある。
【0006】
この場合、プライマー層及びハードコート層の屈折率も、光による干渉(干渉縞)を防ぐため上記有機ガラス基材の屈折率に近づける必要がある。このため、シリカとともに、さらに酸化チタンを含有する複合微粒子を塗膜(プライマー層及びハードコート層)に含有させるようになった(特開平5−1258号公報参照)。
【0007】
しかし、この複合微粒子を含有した塗膜を施した有機ガラスレンズは、干渉縞の問題は解消されるが、耐候性に劣ることが分かった。
【0008】
現在では干渉縞及び耐候性の問題を改善する目的で、酸化チタン、酸化ジルコニウム、シリカからなる複合微粒子が使用されている(特開平8−239627号公報参照)。
【0009】
更に近年では、前述のポリチオエポキシ系基材が難染色であることや、米国でのレンズ染色工程が主にハードコート層形成後に行なわれていることなどから、耐候性良好な可染性ハードコートが要求されるようになってきた。
【0010】
しかし、前述の酸化チタン、酸化ジルコニウム、シリカの複合微粒子を含有させたハードコート塗膜では、耐候密着性が未だ不十分であり、また、上層に反射防止膜を施したレンズは、紫外線により青みを帯び易かった。さらには、塗膜形成後に染色した光学要素は、紫外線により退色し易かった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記にかんがみて、屈折率を調節でき、耐候性、染色性、耐擦傷性、耐衝撃性、密着性等が良好な光学要素を提供することを目的とする。特に、従来に比して、耐候密着性・耐退色性に優れた光学要素を提供することを目的とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究・開発に努力する過程で、上記耐候密着性や紫外線による青み帯び及び退色は、複合微粒子に含まれる酸化チタンの触媒作用で塗膜ポリマーさらには染料が分解され、酸化チタンが還元されるためと推定できることに着目し、下記構成の複合微粒子の構成を変更するハードコート組成物、プライマー組成物及び光学要素に想到した。
【0013】
(1) 本発明のハードコート組成物は、
(A)シラン化合物の加水分解物、及び(B)酸化金属微粒子成分とを必須成分として含有するものにおいて、酸化金属微粒子成分として、酸化チタンに酸化ジルコニウム及び酸化けい素が一体的に結合されてなり、最表面がアンチモン酸化物で被覆されている特定複合微粒子を、酸化金属微粒子成分中に必須成分として含有することを特徴とする。上記複合微粒子を使用することで、光学要素の退色性・耐候性を改善することができる。
【0014】
上記構成において、複合微粒子の平均粒径約1〜100nmであって、その質量構成比が、
酸化ジルコニウム(ZrO2 )/酸化チタン(TiO2 )=約0.005〜0.500、
酸化けい素(SiO2 )/酸化チタン(TiO2 )=約0.100〜0.900、
アンチモン酸化物/酸化チタン(TiO2 )=約0.050〜1.500、のものを使用することがより好適である。
【0015】
さらに、上記において、複合微粒子がコアーシェル構造であって、コアが酸化チタン及び酸化けい素で、シェルが酸化ジルコニウム及び酸化けい素で構成され、最表面がアンチモン酸化物により被覆されてなるものを使用することができる。
【0016】
そして、シラン化合物:1質量部に対して、酸化金属微粒子成分を約0.2〜5.0質量部含有するとともに、酸化金属微粒子成分中に特定複合微粒子を約5質量%以上含有することが望ましい。
【0017】
(2) 本発明のプライマー組成物は、
ウレタン系TPE又はエステル系TPEを塗膜形成ポリマーとし、該塗膜形成ポリマーが、酸化チタンに酸化ジルコニウム及び酸化けい素が一体的に結合されてなり、最表面がアンチモン酸化物で被覆されている特定複合微粒子を必須成分として含有することを特徴とする。
【0018】
そして、上記構成においても、ハードコート組成物に使用した複合微粒子を好適に使用することができる。
【0019】
本構成においては、塗膜形成ポリマー:1質量部に対して、複合微粒子が約0.1〜3.0質量部含有されてなることが望ましい。
【0020】
(3) 本発明の光学要素は、光学基材上に、ハードコート層が形成されてなる、又は、光学基材上にハードコート層が形成され、該光学基材とハードコート層との間にプライマーコート層が形成されてなるものであって、
該ハードコート層及び/又はプライマーコート層が、上記で述べた本発明のハードコート組成物、プライマー組成物で形成されてなることを特徴とする。
【0021】
上記構成において、ハードコート層の表面側に反射防止膜が施されていることが望ましい。
【0022】
さらに、前記光学基材が有機ガラス基材であることが望ましく、該光学要素は、非水性染料にて着色が施されていることが望ましい。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を説明する。本発明の光学要素は、光学基材、ハードコート層、プライマー層、反射防止膜等により構成されるものである(図1参照)。図1の如く、通常は、基材の両面側にハードコート層等を設ける構成とするが、片面側のみに設ける構成としてもよい。以下、各構成について詳述する。
【0024】
▲1▼光学基材
光学基材としては、有機ガラス基材を使用する。有機ガラス基材は、透明で、屈折率が約1.55〜1.78のものであれば、特に限定はされない。具体的には、脂肪族アリルカーボネート、芳香族アリルカーボネート、ポリスルフォン、ポリチオウレタン、ポリチオエポキシ等を挙げることができる。すなわち、高屈折率レンズ、低屈折率レンズを問わず適用可能である。
【0025】
▲2▼ハードコート層
ハードコート層は、下記必須成分(A)シラン化合物の加水分解物、及び(B)酸化金属微粒子成分を必須成分として含有したハードコート組成物(塗料)により形成されてなる。
【0026】
(A)下記一般式▲1▼で示されるシラン化合物の加水分解物:
(ただしシラン化合物の加水分解物には、少量の未反応シラン化合物が含まれている場合もある。)
1 a2 bSi(OR34-(a+b) …▲1▼
(ここで、R1 は炭素数2〜8のエポキシ基を含む有機基、R2 は炭化水素基、ハロゲン炭化水素基、アリール基のいずれかであって炭素数1〜3のもの、R3 はアルキル基、アルコキシアルキル基、アシル基のいずれかであって炭素数1〜4のもの、また、a=1,0≦b≦2の整数である。)
上記シラン化合物の具体例としては、
グリシドキシメチルトリメトキシシラン、グリシドキシメチルトリエトキシシラン、グリシドキシメチルトリプロポキシシラン、グリシドキシメチルトリブトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシエチルトリプロポキシシラン、α−グリシドキシエチルトリブトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシエチルトリプロポキシシラン、β−グリシドキシエチルトリブトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、α−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリプロポキシシラン、β−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリブトキシシラン、α−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、α−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、α−グリシドキシブチルトリプロポキシシラン、α−グリシドキシブチルトリブトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、β−グリシドキシブチルトリプロポキシシラン、β−グリシドキシブチルトリブトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリプロポキシシラン、γ−グリシドキシブチルトリブトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジメトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジエトキシシラン、グリシドキシメチルメチルジプロポキシシラン、グリシドキシメチルメチルジブトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジプロポキシシラン、α−グリシドキシエチルメチルジブトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジメトキシシラン、β−グリシドキシエチルメチルジエトキシシラン、α−グリシドキシプロピルエチルジメトキシシラン、α−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、β−グリシドキシプロピルエチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジプロポキシシラン、γ−グリシドキシプロピルエチルジブトキシシラン、等が例示できる。
【0027】
上記一般式▲1▼で示されるエポキシ基含有シラン化合物は、耐磨耗性、可染性、耐衝撃性、透明性、耐熱水生、可塑性などを塗膜(ハードコート)に付与する役割を担う。
【0028】
一方、上記以外のシラン化合物として、下記一般式▲2▼で示されるテトラアルコキシシランを併用することもできる。
【0029】
Si(OR14 …▲2▼
(式中、R1 は、アルキル基又はアルコキシアルキル基である。)
上記テトラアルコキシシランの具体例としては、
テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、テトラブトキシシラン、テトラメトキシメチルシラン、テトラメトキシエチルシラン、テトラプロポキシプロピルシラン、テトラブトキシブチルシラン、等が例示できる。
【0030】
上記一般式▲2▼で示されるテトラアルコキシシランは耐磨耗性を塗膜に付与する。テトラアルコキシシランで示されるシラン化合物は、エポキシ基含有シラン化合物に比べて耐熱水性、可塑性を塗膜に付与し難い。このため、本発明においては、シラン化合物として、上記エポキシ基含有シラン化合物の単独使用、又はエポキシ基含有シラン化合物とテトラアルコキシシランとの併用のいずれかとするとよい。この場合、両シラン化合物の組成比は、前者1部に対して後者は約0.1〜2部が望ましい。
【0031】
シラン化合物の加水分解は、アルコキシ基との純水又は希塩酸水溶液などの酸性水溶液により行う。また、シラン化合物と希釈用溶媒を混合した後、加水分解を行うことも可能である。
【0032】
上記溶媒としては、低級アルコール類、ケトン類、エーテル類、およびトルエン、キシレンおよび単官能性のエポキシ類等が挙げられる。
【0033】
(B)下記特定複合微粒子を必須成分として含有する酸化金属微粒子成分:
特定複合微粒子は、酸化チタン(チタニア)に酸化ジルコニウム(ジルコニア)及び酸化けい素が一体的に結合されてなり、最表面がアンチモン酸化物で被覆されているものである。
【0034】
特定複合微粒子の平均粒径は、通常、約1〜100nm、望ましくは約3〜50nm、さらに望ましくは約5〜15nm、最も望ましくは約7〜10nmとする。
【0035】
複合微粒子の平均粒径が小さすぎると、耐擦傷性及び屈折率の向上を期待できず、また、凝集しやすい。逆に、大きすぎると、塗膜で光が散乱し、曇って見える。
【0036】
特定複合微粒子の質量構成比は以下の通りである。
【0037】
・酸化ジルコニウム(ZrO2 )/酸化チタン(TiO2 ):通常、約0.005〜0.500、好ましくは約0.010〜0.400、より好ましくは約0.020〜0.300
・酸化けい素(SiO2 )/酸化チタン(TiO2 ):通常、約0.100〜0.900、好ましくは約0.150〜0.800、より好ましくは約0.200〜0.700
・アンチモン酸化物/酸化チタン(TiO2 ):通常、約0.050〜1.500 好ましくは約0.100〜1.200、より好ましくは0.200〜1.000
ZrO2 がTiO2 に対して過少では、TiO2 の光学活性(光触媒作用)をほとんど制御できず、塗膜(プライマーやハードコート)の黄変や密着不良など耐候性に問題を生じる。逆に、TiO2 に対して過多では、塗膜の屈折率が下がり、高屈折の対応ができなくなる。
【0038】
SiO2 がTiO2 に対して過少では、シラン化合物との混和性増大効果が期待できず、このため、塗膜の均一性を欠くとともに、塗料の可使時間の延長が期待できない。逆に、TiO2 に対して過多では、TiO2 の塗膜の屈折率向上作用が阻害され、高屈折率対応が難しくなる。
【0039】
アンチモン酸化物がTiO2 に対して過少では、ハードコート後に染色を行った染料の紫外線退色防止効果が期待できず、TiO2 に対して過多では、TiO2 の塗膜の屈折率向上作用が阻害され、高屈折率対応が難しくなる。なお、アンチモン酸化物の構成は、得られた結果物(組成物)中に含まれる形態がSb23 、Sb24 、Sb25 いずれかの単独物、若しくは上記の中から2種以上選択された混合物からなればよい。
【0040】
上記の如く、基本的には酸化ジルコニウムも、アンチモン酸化物も酸化チタンの光学活性を制御するために含有される。酸化ジルコニウムのみでは光学活性制御作用の効果は少ないが、アンチモン酸化物と併用することで、両者の相乗効果も期待できる。
【0041】
上記特定複合微粒子は、コアシェル構造である。図2にモデル図を示すが、コアは酸化チタンと酸化けい素により、シェルは酸化ジルコニウムと酸化けい素により構成され、最表層をアンチモン酸化物により被覆していることが望ましい。ここで「被覆」とは、完全に覆う状態ばかりでなく、点在(散在)状態も含む概念とする。
【0042】
なお、参考までに、コアの酸化けい素とシェルの酸化けい素比率は、実施品での数値でコア/シェル=約0.2〜3.0である。
【0043】
各酸化物の結合態様は、▲1▼化学的に結合された複合酸化物タイプ、▲2▼各酸化物が均一に溶解されてなる固溶体タイプ、等がある。
【0044】
上記複合微粒子は、シランカップリング剤で表面処理をして用いることが望ましい。複合微粒子を表面処理して表面改質することにより、塗膜(シラン化合物)との混和性がさらに向上し、塗膜物性に耐擦傷性向上等の好影響を与える。
【0045】
ここで、表面改質とは、複合微粒子に残存している水酸基を、シランカップリング剤でブロックすることにより、複合微粒子の分散性を良好にする処理をいう。
【0046】
上記シランカップリング剤(表面改質剤)としては、
テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、等を例示できる。
【0047】
上記表面改質方法としては、慣用の方法で行うことができる。例えば、上記シランカップリング剤を溶かしたアルコール溶液に複合微粒子を浸漬して行う方法がある。
【0048】
そして、上記必須成分の組成比は、シラン化合物(A):1質量部(加水分解前のシラン化合物合計)に対して、酸化金属微粒子成分(B):約0.2〜5質量部、望ましくは約0.3〜2質量部、更に望ましくは0.4〜1.5質量部(ハードコート1・2ではそれぞれ0.92部、0.44部)とする。複合微粒子がシラン化合物に対して過少では、屈折率の向上が期待できず、また逆に過多では、塗膜白化、耐擦傷性の低下等の問題点が発生しやすい。
【0049】
そして、酸化金属微粒子成分は、全部を特定複合微粒子で構成してもよいが、複合微粒子単独の場合より若干効果が劣るものの、上記特定複合微粒子以外の金属微粒子(従来のハードコート組成物に使用されているもの:前記公報に記載の複合微粒子を含む。)と併用することも可能である。
【0050】
併用可能な酸化金属微粒子としては、平均粒径5〜50nmのコロイダルシリカ、コロイダルチタニア、コロイダルジルコニア、コロイダル酸化アンチモン(III)、コロイダル酸化タンタル(V)、コロイダル酸化鉄(III)及びそれらの複合微粒子等を挙げることができる。
【0051】
そして、その酸化金属微粒子成分中の特定複合微粒子の含有率(固形分)は、通常、5(質量)%以上、望ましくは20%以上、さらに望ましくは50%以上とする。例えば、コロイダルチタニアと本複合微粒子との併用系では、複合微粒子が過小では、チタニアの光触媒作用の抑制効果を得難い。また、コロイダルシリカ、コロイダルアンチモン又はコロイダルジルコニア等と本複合微粒子との併用系では、本複合微粒子に起因するさらなる屈折率の向上をほとんど期待できない。
【0052】
ハードコート層は、上記ハードコート組成物を被塗布物(基材等)に対して塗布し、その後、硬化させて形成するが、その塗布方法としては、はけ塗り、ロール塗り、スプレー法、スピン法、浸漬法等が通常使用されており、いずれを用いることもできる。
【0053】
そして、硬化は、加熱処理により行う。加熱条件は被塗布物の特性にもよるが、例えば、約60〜150℃、望ましくは約80〜110℃、加熱時間: 約0.5〜3h以上とする。
【0054】
上記シラン化合物は、触媒がなくても硬化は可能であるが、硬化反応を促進するために、各種の硬化触媒を含有することができる。具体的には、
マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、無水フマル酸、イタコン酸、無水イタコン酸、ピロメリト酸、無水ピロメリト酸、トリメリト酸、無水トリメリト酸等の有機カルボン酸、
メチルイミダゾール、ジシアンジアミド等の窒素含有有機化合物、
チタンアルコキシド、ジルコアルコキシド等の金属アルコキシド、
アセチルアセトンアルミニウム、アセチルアセトン酸、アセチルアセトン鉄等の金属錯体、
酢酸カリウム、酢酸ナトリウム等のアルカリ金属有機カルボン酸塩、等を例示できる。
【0055】
これらの中から単独又は2種以上を併用して任意に使用可能であるが、特に、無水トリメリト酸、イタコン酸、アセチルアセトンアルミニウムを使用することが、塗膜強度、ポットライフ等の観点から望ましい。
【0056】
また、上記ハードコート組成物には、塗膜の各性能をより改善するために、種々の添加剤を配合することが望ましい。
【0057】
例えば、被塗布物(光学基材等)との密着性、染色性を向上させるための添加剤としては、ポリオレフィン系エポキシ樹脂、ポリグリシジルエステル樹脂、エピクロロヒドリンとビスフェノールAの縮重合物、グリシジルメタクリレート、アクリル共重合物、等が使用できる。
【0058】
また、被塗布物に紫外線が到達するのを阻止するための紫外線吸収剤として、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、フェノール系等の紫外線吸収剤を使用できる。
【0059】
さらに、塗膜の平滑性を向上させるためのレベリング剤として、シリコーン系界面活性剤、ふっ素系界面活性剤等を使用できる。
【0060】
なお、被塗布物は、通常、ハードコート組成物塗布前に前処理を施す。該前処理方法としては、酸アルカリによる脱脂洗浄、プラズマ処理、超音波洗浄などが挙げられる。前処理を施すことで、密着性等の改善を図ることができる。
【0061】
上記方法で形成されるハードコート層の膜厚は、通常、約0.5〜10.0μmとする。膜厚が薄すぎると、実用的な耐擦傷性を得難く、また、厚すぎると面精度の低下やクラック等の外観的な問題が生じやすくなる。
【0062】
▲3▼プライマー層
プライマー層は、例えば、下記エラストマー(A)及び複合微粒子(B)を必須成分として含有したプライマー組成物(塗料)により形成する。
【0063】
(A)ウレタン系TPE又はエステル系TPE
(A−1)ウレタン系TPE
上記ウレタン系TPEは、溶液タイプの形態で添加されていてもよいが、加工性及び環境保護の観点より、水性エマルションの形態で添加されていることが望ましい)。
【0064】
上記ウレタン系TPEは、通常、長鎖ポリオールとポリイソシアネートからなる軟質相(ソフトセグメント)と、短鎖ポリオールとポリイソシアネートからなる硬質相(ハードセグメント)とで構成されるものである。さらには、光学基材等に塗布・硬化後、部分架橋可能なようにポリアミン等の反応性成分を添加したものが望ましい。
【0065】
そして、上記軟質相を形成する長鎖ポリオールとしては、ポリアルキレングリコール(PTMG等)のポリエーテル系、ポリアルキレンアジペート、ポリカプロラクトン、ポリカーボネート等のポリエステル系や、両者が混在するポリエーテルポリエステル系など任意である。これらのうちで、ポリエステル系・ポリエーテルポリエステル系が、耐衝撃性の見地から望ましい。
【0066】
また、上記短鎖ポリオールとしては、エチレングリコール、1,2- プロピレングリコール、1,3- ブタンジオール、1,4- ブタンジオール、1,6- ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール等が例示できる。
【0067】
また、上記ポリイソシアネートとしては、トリレンジイソシアネート、4,4' −ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5- ナフタレンジイソシアネート等の芳香族系、1,6- ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、水素添加MDI等の脂肪族・脂環式系のものを挙げることができる。耐光性等の見地から、非黄変性タイプの脂肪族・脂環式系のものが望ましい。
【0068】
なお、上記において、溶液タイプを使用する場合の溶媒としては、炭化水素類、ハロゲン化物、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、等を挙げることができる。
【0069】
(A−2)エステル系TPE
エステル系TPE(TPEE)としては、ポリエステル・ポリエーテル型及びポリエステル・ポリエステル型の双方を使用可能である。
【0070】
上記TPEEは、ハードセグメントにポリエステル、ソフトセグメントにポリエーテル又はポリエステルを使用したマルチブロック共重合体である。
【0071】
そして、上記TPEEのハードセグメントとソフトセグメントのモル比率は、前者/後者=約30/70〜90/10、望ましくは、約40/60〜80/20とする。ハードセグメントの割合が過少では、硬さ、モジュラス、機械的強度及び耐熱性が低下し、過多ではゴム弾性及び低温特性が低下する。
【0072】
眼鏡レンズに使用する場合には、TPEEの表面硬度(ショアD)は、約35〜75、曲げ弾性率は、約4〜800MPaを示すことが望ましい。
【0073】
以下に、TPEEのハードセグメント構成成分とソフトセグメント構成成分の具体例を挙げる。
【0074】
・ハードセグメント構成成分としてのポリエステル:
具体的には、ジカルボン酸と低分子グリコールよりなる。
【0075】
上記ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、
コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、デカメチレンジカルボン酸,オクタデカンジカルボン酸等の炭素数4〜20の直鎖飽和脂肪族ジカルボン酸、
ε−オキシカプロン酸等の脂肪族オキソカルボン酸(下記一般式参照)、
ダイマー酸(二重結合を有する脂肪族モノカルボン酸を二量重合させた二塩基酸)等、
及びこれらのエステル形成性誘導体が挙げられる。これらの中でもテレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸が使用に際して望ましい。
【0076】
一般式:R1 CO(CH2n COOH
注)R1 :アルキル基又はH、n=0〜19。
【0077】
上記低分子グリコールとしては、エチレングリコール、トリメチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール、1,6−シクロヘキサンジメタノール等の脂肪族グリコール等、及びそれらのエステル形成誘導体が挙げられる。これらの中でもエチレングリコール、1,4−ブタンジオールが使用に際して望ましい。
【0078】
・ソフトセグメント構成成分としてのポリエステル:
ジカルボン酸類と長鎖グリコールよりなり、ジカルボン酸類としては、前記のものが挙げられる。
【0079】
長鎖グリコールとしては、ポリ(1,2−ブタジエングリコール)、ポリ(1,4−ブタジエングリコール)及びそれらの水素添加物等が挙げられる。
【0080】
また、ε−カプロラクトン(C6)、エナントラクトン(C7)、及びカプリロラクトン(C8)もポリエステル成分として有用である。
【0081】
これらの中で、ε−カプロラクトンが使用に際して望ましい。
【0082】
・ソフトセグメント成分としてのポリエーテル:
ポリ(エチレンオキシド)グリコール、ポリ(1,2−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(1,3−プロピレンオキシド)グリコール、ポリ(テトラメチレンオキシド)グリコール等のポリ(アルキレンオキシド)グリコール類が挙げられ、これらの中でポリ(テトラメチレンオキシド)グリコールが使用に際して望ましい。
【0083】
上記TPEEは、慣用の方法で製造が可能である。具体的には、ジカルボン酸の低級アルキルエステルを脂肪族長鎖グリコール及び過剰の低分子グリコールをテトラブチルチタネート等の触媒の存在下で約150〜200℃の温度で加熱し、エステル交換反応を行い、まず低重合体を形成し、さらにこの低重合体を高真空下約220〜280℃で過熱攪拌し、重縮合を行い、TPEEとする。前記低重合体はジカルボン酸と長鎖グリコール及び低分子グリコールとの直接エステル化反応によっても得ることができる。
【0084】
上記において、TPEEを塗膜形成ポリマーの全部とせず、主体とする場合に組み合わせ可能なポリマーとしては、TPEEと混和可能なポリマーであれば特に限定されず、通常のエステル系樹脂(PBT、PET等)、アミド系樹脂、さらには、アミド系TPE等任意であり、通常、ポリマー全体に占める割合は、約50%未満、望ましくは約30%未満とする。
【0085】
このようなTPEEには、溶液タイプの形態で添加してもよいが、加工性及び環境保護の観点より水性エマルションの形態で添加することが望ましい。
【0086】
この水性エマルション化は、慣用の方法により行うことができるが、具体的には、ポリマーを界面活性剤(外部乳化剤)の存在下、高い機械的剪断を行って強制的に乳化させる強制乳化法が望ましい。
【0087】
通常使用される界面活性剤としては、
アニオン系界面活性剤…ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸ソーダ類、ナトリウムジオクチルスルホサクシネート、
カチオン系界面活性剤…第4級アンモニウム塩、
ノニオン系界面活性剤…ポリエチレングリコール、長鎖アルコールのエチレンオキサイド付加物、アルキルフェノールのエチレンオキサイド付加物、
等が挙げられる。これらの中で、ラウリルベンゼンスルホン酸ナトリウムが使用に際して望ましい。
【0088】
また、ポリマーにイオン性の親水基を導入し、乳化剤の助力無しに水中に分散安定させる自己乳化法で行う、又は併用してもよい。
【0089】
(B)酸化チタンに酸化ジルコニウム及び酸化けい素が一体的に結合されてなり、最表面がアンチモン酸化物で被覆されている特定複合微粒子。
【0090】
複合微粒子は、上記ハードコート層で使用したものと同一のものが使用できる。
【0091】
そして、上記必須成分の組成比は、TPE(A):1質量部に対して、特定複合微粒子(B):約0.1〜3.0質量部、望ましくは約0.3〜1.0質量部とする。複合微粒子が過少では屈折率の向上が期待できず、過多では耐衝撃性の低下を招く。
【0092】
そしてこれらの各成分からなるプライマー組成物は、通常、前記ハードコート用組成物に使用したのと同様の極性溶剤、すなわち、アルコール類、ケトン類、エステル類、エーテル類、及びセロソルブ類(エチレングリコールノモノアルキルエーテル)等の1種又は2種以上を併用して希釈して使用する。
【0093】
また、プライマー組成物には、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、及びフェノール系の紫外線吸収剤の配合や、塗膜の平滑性を向上させるために、シリコーン系界面活性剤、ふっ素系界面活性剤等を含むレベリング剤、その他の改質剤の配合も可能である。
【0094】
その他の改質剤として、ポリビニルブチラールが、耐衝撃性を低下させることなく膜厚を向上させる増粘剤として使用できる。添加量としては、約0〜5%(固形分換算)で、過多では面精度に問題が生じたり、プライマー膜の耐水性が低下する。
【0095】
また、メラミン樹脂等の熱硬化性樹脂を、塗膜硬度を調節するのに使用できる。添加量としては、約0〜5%(固形分換算)で、過多では耐衝撃性に支障をきたす。
【0096】
上記プライマー組成物の被塗布物(基材等)へのコーティング(塗布)方法としては、ディッピング法、スピンコート法等、汎用の方法を使用することができるが、例えば、ディッピング法でコーティングする場合は、目的の膜厚にするために、引き上げ速度は、約50〜2,000mm/min とする。
【0097】
そして、プライマー組成物の硬化は、予備硬化と本硬化とからなる。予備硬化の条件は、室温〜約150℃×約3min 〜2h、望ましくは、約80〜110℃×5min 〜1hとする。本硬化はシリコーン系ハードコート組成物の硬化と同時に行うため、条件は前述のハードコート組成物の硬化条件(約60〜150℃×0.5〜3h)となる。高温・長時間にて予備硬化を進めすぎると、上層のシリコーン系ハードコート層との密着性が低下し、また予備硬化が不十分であると、塗膜(プライマー層)の白化を招く恐れがある。
【0098】
上記方法により形成されたプライマー層の膜厚は、約0.2〜5.0μm、望ましくは約0.3〜3μmとする。膜厚が薄すぎると、プラスチックレンズに形成した場合の耐衝撃性が向上せず、厚すぎると耐擦傷性や耐熱性の低下原因となる。
【0099】
▲4▼反射防止膜
反射防止膜の形成は、通常、金属、金属酸化物、金属ふっ化物等の無機微粒子を真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング等の乾式メッキ法により形成することにより行う。
【0100】
反射防止膜を形成する無機物の具体例としては、シリカ、チタニア(IV) 、酸化タンタル(V)、酸化アンチモン(III)、ジルコニア、アルミナ等の金属酸化物や、ふっ化マグネシウム等の金属ふっ化物を挙げることができる。
【0101】
なお、反射防止膜の膜厚は、通常光学要素に使用される反射防止膜の膜厚と同様、適宜設定可能である。
【0102】
▲5▼その他(染色等)
本発明の光学要素は、光学基材上にハードコート層又はプライマー層とハードコート層を施した後、汎用の非水性染料にて着色させることが可能である。非水性染料としては、汎用の分散染料(Disperse Dyes)、又は、油溶性染料(Solvent Dyes) を好適に使用できる。
【0103】
着色方法としては、湯中に分散染料を分散させ、光学基材及び/又は塗膜に吸着させる浸漬染色法、分散染料や油溶性染料を熱により昇華させ、光学基材及び/又は塗膜に吸着させる転写染色法など任意である。
【0104】
非水性染料の一例としては、
分散染料としては「スミカロン(Sumikaron) 」住友化学社製、;「ダイアセリトン(Diaoelliton) 」、「ダイアニックス(Dianix)」、「サマロン(Samaron) 」ダイスタージャパン社製、;「カヤロン ポリエステル(Kayalon Polyester) 」日本化薬社製;「ミケトン ポリエステル」(Miketon Polyester) 三井BASF染料社製、等の各商品名で製造販売されているものを使用できる。
【0105】
油溶性染料としては、「スピリット(Spilit)」住友化学社製、;「オリエントオイル(Orient Oil)」オリエント化学社製;「ミツイSP」三井化学社製、等の各商品名で製造販売されているものを使用できる。
【0106】
なお、これまでハードコート組成物、及びプライマー組成物について、説明を行ったが、本明細書において記載した複合微粒子は、ハードコート組成物、プライマー組成物以外に含有させて下記構成の一般的な塗料組成物とした場合においても同様の効果を奏すると期待できる。
【0107】
酸化チタン系複合微粒子を含有する光学要素用塗料組成物において、酸化チタン系複合微粒子が、アンチモン酸化物を含有してなる複合微粒子、望ましくは際表面がアンチモン化合物で被覆されてなる複合微粒子であることを特徴とする光学要素用塗料組成物。
【0108】
【発明の効果】
本発明は、ハードコート組成物及び/又はプライマー組成物に含有させる複合微粒子として、酸化チタンに酸化ジルコニウム及び酸化けい素が一体的に結合されてなり、最表面がアンチモン酸化物で被覆されている、特定複合微粒子を酸化金属微粒子成分として必須使用したことにより、屈折率を調節でき、耐候性、染色性、耐擦傷性、耐衝撃性、密着性等が良好な光学要素を提供することが可能となった。
【0109】
【実験例】
以下、本発明の効果を確認するために行った実験例である、実施例及び比較例について説明する。各実験例に使用した薬剤及び代表的な物性を、下記に示す。
【0110】
TPEE(プライマ−成分)…「ペスレジンA−160P」(高松油脂株式会社、水分散エマルション(水性)、固形分濃度27%)、粘度(25℃): 0.05Pa・S)塗膜表面硬度: 40(ショアーD)、タイプ: ポリエステル・ポリエーテル型
ウレタン系TPE(プライマ−成分)…「スーパーフレックス150」 (第一工業製薬製、固形分濃度30%水性エマルションプ:エステル・ エーテル系)
酸化チタン系複合微粒子(a)…「ハイネックス DC−20」(触媒化成工業株式会社製、ZrO2 /TiO2 =0.02、SiO2 /TiO2 =0.20、アンチモン酸化物/TiO2 =0.20、固形分濃度25%、分散溶媒メチルアルコール、粒径10nm、表面改質剤:テトラエトキシシラン)
酸化チタン系複合微粒子(b)…「オプトレイク1120Z(S−7,G)」(触媒化成工業株式会社製、ZrO2 /TiO2 =0.02、SiO2 /TiO2 =0.20、固形分濃度20%、分散溶媒メチルアルコール、粒径10nm、表面処理:γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン)
酸化チタン系複合微粒子(c)…「オプトレイク1130F−2(A−8)」(触媒化成工業株式会社製、酸化鉄/TiO2 =0.02、SiO2 /TiO2=0.11、固形分濃度30%、分散溶媒メチルアルコール、粒径10nm、表面改質剤:テトラエトキシシラン)
1)ハードコート組成物の調製
(ハードコート1,2,5は実施例に使用。ハードコート3,4は比較例に使用。)
<ハードコート1>
γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン120部、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン60部に、メチルアルコール50部加え、攪拌しながら0.01N塩酸45部を滴下して一昼夜加水分解を行った。
【0111】
該シラン化合物合計180部の加水分解物に、前述の酸化チタン系複合微粒子(a)「ハイネックス DC−20」660部(固形分165部)、硬化触媒としてアセチルアセトンアンモニウム1.5部、レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー製「SILWETLー7001」 )1部を混合し、一昼夜攪拌し、ハードコート組成物を調製した。
【0112】
<ハードコート2>
酸化チタン系複合微粒子として同じものを使用し、その配合量を400部(固形分100部)に変更する以外はハードコート1と同様にして行った。
【0113】
<ハードコート3>
酸化チタン系複合微粒子の種類・配合量を変更する以外はハードコート1と同様にして行った。酸化チタン複合微粒子は、(b)「オプトレイク1120Z(S−7,G)」660部(固形分132部)に変更した。
【0114】
<ハードコート4>
メチルアルコールの添加量と酸化チタン系複合微粒子の種類・配合量を変更する以外はハードコート1と同様にして行った。メチルアルコールは、加水分解物にさらに80部添加し、酸化チタン系複合微粒子は、(c)「オプトレイク1130F−2(A−8)」180部(固形分54部)に変更した。
【0115】
<ハードコート5>
本複合微粒子と他の金属酸化物微粒子との併用系に変更する以外はハードコート1と同様にして行った。併用系における金属酸化物微粒子の構成は、本酸化チタン系複合微粒子(a)「ハイネックス DC−20」200部(固形分50部)と汎用酸化チタン系複合微粒子(c)「オプトレイク1130F−2(A−8)」100部(固形分30部)とした。
【0116】
▲2▼プライマー組成物の調製
(プライマー1,2は実施例に使用。プライマー3,4は比較例に使用。)
<プライマー1>
市販の水性エマルションTPEE「ペスレジンA−160」150部に、酸化チタン系複合微粒子(a)「ハイネックス DC−20」200部(固形分50部)、希釈剤として純水250部及びメチルアルコール250部、レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー製「 SILWETLー7001」 )1部を混合し、均一な状態まで攪拌し、プライマ−組成物とした。
【0117】
<プライマー2>
市販の水性エマルションポリウレタン「スーパーフレックス150」135部に、酸化チタン系複合微粒子(a)「ハイネックス DC−20」120部(固形分30部)、希釈剤として純水250部及びメチルアルコール250部、レベリング剤としてシリコーン系界面活性剤(日本ユニカー製「 SILWETLー7001」 )1部を混合し、均一な状態まで攪拌し、プライマ−塗料とした。
【0118】
<プライマー3>
酸化チタン系複合微粒子の種類を変更する以外はプライマー1と同様にして行った。酸化チタン複合微粒子は、(b)「オプトレイク1120Z(S−7,G)」に変更した。
【0119】
<プライマー4>
メチルアルコールの添加量と酸化チタン系複合微粒子の種類・配合量を変更する以外はプライマー2と同様にして行った。メチルアルコールは、300部に変更し、酸化チタン系複合微粒子は、(c)「オプトレイク1130F−2(A−8)」60部(固形分18部)に変更した。
【0120】
▲3▼試験片の作成
(1)プライマー層の形成
表1・2・3に示す各屈折率の基材(プラスチックレンズ)を、40℃のNaOH水溶液(10wt%)に2分間浸漬してエッチングを行なった。該エッチング処理後、水洗、乾燥させた各有機レンズ基材に、上記各プライマー組成物をディッピング法(引き上げ速度160mm/min )により塗布し、100℃×20分の条件で硬化させた。
【0121】
また、プライマー層を形成しない試験片は、上記NaOHエッチング処理を行った後、さらにプラズマ処理を行った。処理条件としては、酸素ガス使用流量40cc/min 100W×40sec (ヤマト化学株式会社製プラズマリアクターPR510A)にて行った。
【0122】
(2)ハードコート層の形成
表1・2・3に示す組み合わせにて、前記前処理(プライマー処理含む)された基材にハードコート組成物をディッピング法(引き上げ速度130mm/min )により塗布し、100℃×2時間の条件にて硬化させた。
【0123】
(3)染色処理
上記ハードコート層を形成させた基材を、93℃よりなる染色浴に浸漬させ、視感度透過率が60〜75%になるように染色処理をおこなった後、100℃×1時間の条件で脱水乾燥させた。
【0124】
<染色浴の作成>
純水1000部、「スミカロンブルーE−RPD」2部、「スミカロンレッドE−RPD」2部、「スミカロンイエローE−RPD」1部(いずれも住友化学社製分散染料商品名)、界面活性剤として「レベノールV−700」3部を加え、均一になるまで攪拌し、染色浴とした。
【0125】
(4)反射防止膜の形成
上記処理した基材の上に、無機物質を以下に示す構成で真空蒸着法によって蒸着膜を形成した。
【0126】
SiO2 /TiO2 :1/4λ、TiO2 :1/2λ、SiO2 :1/4λ
なお、各屈折率の基材は以下のものを使用した。
【0127】
屈折率1.60 「MR−20」 三井化学株式会社製
屈折率1.67 「MR−7」 三井化学株式会社製
屈折率1.74 「HIE−1」 三井化学株式会社製
▲4▼物性及び評価基準
(1) 外観
背景を黒くした蛍光灯「メロウ5N」(東芝ライテック株式会社製、三波長型昼白色蛍光灯)を置き、蛍光灯の光を試験片表面で反射させ、対象物表面にできる光干渉色(虹模様)の有無により判定した。また、試験片を蛍光灯下にかざし、曇りの判定を行った。
【0128】
(2)耐擦傷性試験
スチールウール(#0000)に600gの荷重を加え、各試験片の表面を30回/15sにて擦り、傷の入り具合にて判定した。
【0129】
○:傷の入った面積が10%以内
△:傷の入った面積が10%を超えて30%以内
×:傷の入った面積が30%を超える
(3)密着性試験
試験片に1cm四方に1mm間隔で100個のマス目を形成し、セロハン製粘着テープを強く押し付けた後、90°方向に急激に剥がし、剥離しないマス目の数を数えた。
【0130】
(4)耐衝撃性試験
剛球(16g)を127cmの高さから試験片の中心部に落下させ、割れるか否かで判定した。
【0131】
(5)耐候性試験
カーボンアーク式ロングライフウエザーメータ−(スガ試験機(株)製)にて100時間照射を行い、照射後の外観及び密着性を評価した。
【0132】
外観:蛍光灯下にてクラックの有無を目視確認した。
【0133】
密着性:前記密着性試験と同様に行い、剥離しないマス目が80以上のものを合格とした。
【0134】
(6)退色試験
退色試験用水銀ランプ(東芝製H400−E)にて20時間照射を行い、試験前後の色差(村上色彩研究所製DOT−3Sにて測定)および視感度透過率(富士光電製STS−2にて測定)の変化にて測定した。(試験片との照射距離70mm、試験片の表面温度45±5℃となるように送風にて調節した。)
ΔE:色差(L* a* b* )
ΔT%:初期視感度透過率−退色試験後視感度透過率
【0135】
【表1】
Figure 0003850327
【0136】
【表2】
Figure 0003850327
【0137】
【表3】
Figure 0003850327
【0138】
ハードコートにおける酸化金属微粒子成分を特定複合微粒子単独とした実施例および公知酸化チタン系複合微粒子単独とした比較例の各結果をそれぞれ示す表1・2から下記のことが分かる。
【0139】
本発明のハードコート組成物又はプライマ−組成物とハードコート組成物を用いた実施例1,2,4,5,8,9,11,12は、それに対応する比較例1,2,4,5,8,9,11,12と比較し、耐候密着性が良好で、染色品は退色が少ないことが分かる。また、それらに反射防止膜を施した試験片は、耐候密着性での性能差はなくなるものの退色試験での差がさらに顕著となる(実施例3,6,7,10,13、対応する比較例3,6,7,10,13参照)。
【0140】
また、ハードコートにおける酸化金属微粒子成分を特定複合微粒子と公知酸化チタン系複合微粒子との併用系とした実施例の試験結果を示す表3から下記のことが分かる。
【0141】
ハードコート組成物の酸化金属微粒子として併用系とした実施例14〜19は、それらに対応する実施例8〜13ほどの効果はないものの、同じく対応する比較例8〜13に比して、反射防止膜のないものは耐光密着性と退色試験において、また、反射防止膜のあるものは退色試験において優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の光学要素の構成の一例を示すモデル図である。
【図2】本発明に使用する複合微粒子の構成を示すモデル図である。

Claims (10)

  1. 光学要素を構成するハードコート層を形成するために使用するハードコート組成物であって、(A)シラン化合物の加水分解物、及び(B)酸化金属微粒子成分とを必須成分として含有するものにおいて、
    前記酸化金属微粒子成分として、酸化チタンに酸化ジルコニウム及び酸化けい素が一体的に結合されてなり、最表面がアンチモン酸化物で被覆されている特定複合微粒子を、前記酸化金属微粒子成分中に必須成分として含有し、
    前記特定複合微粒子の質量構成比が、酸化ジルコニウム(ZrO 2 )/酸化チタン(TiO 2 )=0.010〜0.400、酸化けい素(SiO 2 )/酸化チタン(TiO 2 )=0.150〜0.800、アンチモン酸化物/酸化チタン(TiO 2 )=0.100〜1.200、であるとともに、
    前記特定複合微粒子がコアシェル構造であって、コアが酸化チタン及び酸化けい素で、シェルが酸化ジルコニウム及び酸化けい素で構成され、最表面がアンチモン酸化物により被覆されていることを特徴とするハードコート組成物。
  2. 前記シラン化合物:1質量部に対して、前記酸化金属微粒子成分を約0.2〜5.0質量部含有してなり、前記酸化金属微粒子成分中に前記特定複合微粒子を約5質量%以上含有することを特徴とする請求項1記載のハードコート組成物。
  3. 光学基材上に、ハードコート層が形成されてなる光学要素であって、前記ハードコ−ト層が、請求項1又は2記載のハードコート組成物で形成されてなることを特徴とする光学要素。
  4. 光学要素を構成するプライマーコート層を形成するために使用するプライマー組成物であって、ウレタン系TPE又はエステル系TPEを塗膜形成ポリマーとし、該塗膜形成ポリマーが、酸化チタンに酸化ジルコニウム及び酸化けい素が一体的に結合されてなり、最表面がアンチモン酸化物で被覆されてなる特定複合微粒子を必須成分として含有し、
    前記特定複合微粒子の質量構成比が、酸化ジルコニウム(ZrO 2 )/酸化チタン(TiO 2 )=0.010〜0.400、酸化けい素(SiO 2 )/酸化チタン(TiO 2 )=0.150〜0.800、アンチモン酸化物/酸化チタン(TiO 2 )=0.100〜1.200、であるとともに、
    前記特定複合微粒子がコアシェル構造であって、コアが酸化チタン及び酸化けい素で、シェルが酸化ジルコニウム及び酸化けい素で構成され、最表面がアンチモン酸化物により被覆されていることを特徴とするプライマー組成物。
  5. 前記塗膜形成ポリマー:1質量部に対して、前記特定複合微粒子を約0.1〜3.0質量部含有してなることを特徴とする請求項4記載のプライマー組成物。
  6. 光学基材上にハードコート層が形成され、該光学基材とハードコート層との間にプライマーコート層が形成されてなる光学要素であって、前記プライマーコート層が、請求項4又は5記載のプライマー組成物で形成されてなることを特徴とする光学要素。
  7. 光学基材上に前記ハードコート層が形成され、該光学基材とハードコート層との間にプライマーコート層が形成されてなる光学要素であって、前記ハードコ−ト層が、請求項1又は2記載のハードコート組成物で形成されてなり、かつ、前記プライマーコート層が、請求項4又は5記載のプライマー組成物で形成されてなることを特徴とする光学要素。
  8. さらに前記ハードコート層の表面側に反射防止膜が施されていることを特徴とする請求項3、6又は7記載の光学要素。
  9. 前記光学基材が有機ガラス基材であることを特徴とする請求項3、6、7又は8記載の光学要素。
  10. さらに、非水性染料にて着色が施されていることを特徴とする請求項3、6、7、8又は9記載の光学要素。
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